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「く、来るな! 来るんじゃない、いや来ないでくれ!」


 一寸先も見えない暗闇の中、一人の男が闇の向こうにいる何かに向かって叫ぶ。その声には何かに脅えるかのように震え、最後には完全に切羽詰ったのか懇願するらしている。
 この男は何故そんなにも脅えているのだろうか。脅えている対象がいるであろう男の視線の先にはいくら目を凝らそうと、ただ無限の闇があるのみで何も見えない。
 しかしその時、目の前の闇の一部がいっそう濃くなると、まるで人型をかたどり始めた。
 その人型はやや不定形ながら、人間で言えば10歳ぐらいの子供の影になると目に当たる部分が不気味に光りだし、男を嘲笑うかのように口元を醜くゆがめる。
 脅える男の前で無言のまま口元を歪める黒い影、その影はいつの間に手にしたのだろうか、両手になにやら丸い物を持ち、男に突きつけるかのように目の前に掲げてみせる。


「やめろ……やめてくれ……」


 男は影がこれから何をしようとしているのか分かっているのか、視線を逸らしながら影に向かって必死に懇願する。
 しかし、影はただ無言で男を見詰め、もう一度ニヤリと口元を歪めると、男の目の前で両手に握り締めた金色に輝くタマネギを――


 グシャリ


 ――何の躊躇も無く握りつぶしたのだった。





「うわああああああー!」


 心地よい朝陽が麻帆良学園の敷地を照らすころ、学園内のとある場所にあるマンションの一室からまるで断末魔の悲鳴のようなものが響き渡った。
 普通なら、これだけ大きい声が上がれば近所迷惑極まりないのだが、幸いな事にこのマンションは一応高級マンションに分類されているために防音がしっかりとしており、近隣住民の眠りを覚ます鐘となる事は無い。
 そして悲鳴を上げた本人は自分の悲鳴で目覚めたのかベッドから跳ね起きると、呆然と虚空を見つめる。
 そして、しばしの時間の後、ようやく自分が見た物が夢だと気づいたのか、どことなくほっとしたような表情を浮かべると大きく息をつく。


「ゆ、夢だったのか……」


 男は安堵のため息をつくと、まるで何かを確かめるかのように布団をめくりながら体のとある場所を確認し、それが無事である事を確認すると再び大きく息をついた。
 そして、カーテン越しに部屋に差し込んでくる朝日を見つめながら、額に浮かんだ嫌な汗をぬぐう。
 そんな彼の背後の壁には、まだ一枚もめくられていない日めくりカレンダーが掲げられており、その表紙にはまるで夢の中の何かを暗示するかのように真っ赤な丸が描かれている。
 そしてそれがこの男、高畑・T・タカミチの200X年元旦の幕開けとなる初夢であった。




 二人?の異邦人IN麻帆良 外伝 2009年謹賀新年記念SS
『年の初めの大混乱』






 

「あけましておめでとうございます」

「あけおめ! ことよろー!」

「もぐもぐ、はぐ! がるるるる!」

「まあ、小太郎君ったらお行儀が悪いですわよ」

「あー……なんか新年早々凄まじい絵面だな……まあ、とりあえずあけましておめでとう。あとタマモ、せっかく振袖で決めてるんだ、挨拶くらいまともにやれ。それと小太郎、いくら美味いからって野生に帰るな、野生に……いや、この場合飼犬か?」


 高畑がなにか酷い悪夢から目覚めたころ、ここ横島事務所では元旦の朝も早くから刹那、あやかも含めた事務所メンバーが勢ぞろいし、あやかの手の者によって横島と小太郎は紋付袴姿に着替えさせられ、タマモ達はきらびやかな振袖姿となっていた。
 そして今、リビングに集まったタマモ達は死神が用意したおせちとお屠蘇を前に、一応この事務所の主である横島に新年の挨拶をしていた。もっとも、お預けに耐えられなかった小太郎は横島が許可を出したとたん、まるでエサを貪る犬の様に一心不乱におせち料理をかき込んでいる。
 横島はとりあえず犬と化した小太郎を見なかった事にし、改めて目の保養でもするかのように振袖姿のタマモ達へと視線を移す。と、同時に昨夜除夜の鐘で振り払ったはずの煩悩が復活し、横島の脳内では着物を色っぽく着崩しながら酌をするタマモと刹那の姿が浮かんだ。
 ちなみに、横島の同一存在であるあやかの脳内では、周囲を埋め尽くした料理を貪る小太郎にかいがいしくかいがいしく料理を差し出すという映像が浮かんでいるのだが、正直現実とそう変わりは無い。横島の妄想と比べると実にささやかである。やはり根源を同じとする煩悩魔神とは言え、育ちの差と男と女の違いであろう。


「おふぁわり!」


 と、ここで横島とあやかの妄想は小太郎の声で打ち切られることとなる。
 どうやら小太郎は早くもお重を一つ食べつくしてしまったようだ。
 ふと見れば、死神が空のお重に向かってわんこそばのように新たな料理を放り投げ、何故かこぼれることなく――あまつさえ形も崩れなかった――芸術的なまでの彩を整えたお節料理が再び小太郎の目に飛び込んでくる。
 すると、小太郎は再びそのお重に顔をうずめ、貪り食い出だした。もはや彼の目にはお重しか映っていないようである。


「あらあら、これでは皆さんの分が無くなりますわね。今新しいお節をもって来ますわ」

「ああ、頼む……」

「あ、私も手伝いますね」

「じゃあ、その間私は横島とここで待ってるわね。というわけで横島、私に心を込めて酌をしなさい。出来れば愛していますタマモ様と言いながら」

「ってオレが酌をするのかよ! というか、そんなこっ恥かしいこと言えるかー!」

「なによ、学園祭の時はあんなに激しく私の唇を奪った上に、みんなの前で愛を誓ってくれたじゃないのよ!」

「いやあぁぁぁ! それを思い出させるなー!」


 横島は学園祭の最終日の事を思い出したのか、突如として頭を抱え、奇声を発しながらゴロゴロと転がりだす。
 タマモは床を転がりまくる横島を踏みつけ、その回転を止めるとそのまま横島の背中に飛び乗る形で正座をし、まるで猫のように背中の上で丸くなるのであった。


「うにゃー、横島ー」

「もぐもぐ、がう! がるるるる!」

「違う、いや違わないけど違うんだー!」
 

 刹那とあやか、そして死神が大量のお重を手に部屋に戻った時、その目に映ったのはなんともカオスな光景であった。
 彼女たちの目の前には犬のごとくお重を貪り食う小太郎と、床にうつぶせの状態で這い蹲った横島の背中に乗り、猫のように嬉しそうに頬を摺り寄せるタマモ姿が繰り広げられている。
 小太郎はともかくとしても、タマモの行動は明らかにおかしい。よく見ればタマモの周りには既に空になったお銚子が散乱し、彼女の頬もどことなく紅潮していた。


「……タマモさん、完全に酔ってますね」

「みたいですわね。で、刹那さんはアレに混ざらないのですか?」


 二人はしばしの間呆然としつつ、事態を把握すると盛大にため息をつく。
 そして、いち早く復活したあやかは楽しそうに微笑むと刹那に水を向けた。


「い、いえ……さすがにアレに混ざるのはどうかと」

「でも、よろしいので? おちびさん達も参加してますわよ」

「え!?」

 
 刹那があやかに促されて再び横島の方を向くと、そこではちび刹那とちびタマモが主である二人と同じ柄の振袖姿で横島の頭に乗っかって笑っていた。
 そんな光景を刹那はしばしの間羨ましそうに見つめると、改めてあやかに振り向く。すると、そんな刹那の目の前であやかはどこから取り出したのか、一本のビンを差し出しながら全てを理解している慈母のような微笑を浮かべていた。
 あやかが差し出したビン、それには『водка』と書かれており、その横に小さく71と書かれている。
 刹那はその数字に一瞬ピクリと反応したが、それに関係する数字は一年前のデータであると自分に言い聞かせ、心の平静を保つ。
 そして、楽しそうな横島達と慈母の笑みを浮かべるあやかを見比べ、何かを決心したかのように目を鋭くさせると、おもむろにビンを引っつかみ、その中身をいっきに飲み干すのであった。


 そして1分後。


「うにゃー!」

「ごろごろですー」

「あはははたっのしー!」

「よ、横島さん私も失礼します!」

「ちょ、刹那ちゃん二人はさすがに重……ぐえええー!」


 あやかによって手渡された魔法の水によって吹っ切れた刹那は、羞恥以外の何かで顔を真っ赤に染めつつ勢いよく横島の背中に飛び乗るとその上で丸くなる。
 その一方で、ちび達は刹那が飛び乗った拍子に揺れる横島の体をトランポリンのように跳ねて遊んでおり、タマモは刹那に場所を明け渡すと同時に、今度はお尻の上で飛び跳ねていた。
 皆が楽しそうに歓声をあげる中、ただ一人男性の声で苦しげなうめき声が上がったような気もするが、美少女二人+マスコット2体を背負った幸せな男の声など気にする必要など無いだろう。
 そして、この輪の中に入っていないあやかはと言えば、横島達の影響がかからない場所で小太郎に餌付けをし、しっかりと先ほどの妄想を実現させていたりする。
 タマモと刹那、そしてちび達の楽しそうな笑い声が響き、小太郎は目を輝かせて食事を続けている。そんな彼女達を見つめつつ、横島とあやかはどこか満ち足りた表情でこの新年の楽しい時間を満喫するのであった。






 横島事務所に華やかな喧騒が訪れているころ、麻帆良学園内にありながら麻帆良学園では無い場所、とある電脳空間にて一人の少女と一体のガイノイド、そして一体のキリングドールが新年早々の初会合を開いていた。


「茶々丸、例の物は用意できたか?」

「ハイ、ちびじゃりから大人まで、全てのパターンに応じたマスターの振袖姿はいつでも再現可能です」

「ツイデニ寝テイル間ノ寝相ノ悪サモ撮影シトイタゼ」

「ナイスだチャチャゼロ、あの人形のような美少女のあられもない寝姿、そのギャップはファンの心を捕らえて離さないだろう」

「そこに千雨さんの綺麗な寝を合成すれば、その好対照でさらなるファンを得られるでしょう」

「今年モユニットの人気ハ浮動、二位以下ハスデニ問題ニナラネーナ」

「しかし油断は禁物だ。今年も玉座を守り抜くためにも、この新年の更新は外すわけには行かないぜ」

「映像データの加工、合成終了。それでは、今年最初の更新分アップロードを開始します」


 主のあずかり知らぬところで深く静かに進む悪巧み、そんな彼女たちの陰謀に晒されている対象の少女は今――


「ううーん、来るな! 白粉が……付け耳が……だからパピヨンが違うとあれほど……マテ、その改造巫女服はいったい……」


 ――本能でなにかを察知したのか、初夢の中でうなされているのだった。
 







 あれから時は移り、一通り正月の朝を楽しんだ横島達はここ龍宮神社へと初詣に来ていた。
 横島達の周囲には初詣の参拝客で埋めつくされ、まさに神社にとっては書き入れ時の到来だ。
 横島は周囲を埋め尽くす参拝客に辟易しながらも、誰かを探しているのか小太郎を肩車して見張りにつけさせている。
 すると、その小太郎を見つけたのか、前方の鳥居から少女の声が響き渡った。


「あ、せっちゃーん! こっちやこっちー!」


 前方の鳥居から自分達を呼ぶ少女、それはタマモ達と同じような振袖姿の近衛木乃香であった。見れば彼女の隣にアスナ、それにネギがやはりめかしこんだ状態でこちらを見ている。
 実は、横島達は昨夜のうちに刹那経由で一緒に初詣に行こうと約束していたのだ。
 タマモ達は夜のうちに二年参りをすることも出来たのだが、木乃香と同室のアスナが新聞配達のために夜更かしが出来ないので、このような時間に初詣となったのである。


「お嬢様、あけましておめでとうございます」

「うん、あけましておめでとうな」


 横島達が手を振り続ける木乃香の下に来ると、まず刹那が木乃香に駆け寄り、深々と挨拶をする。
 すると木乃香もどこかも普段のぽやーっとした表情を改め、少しだけ佇まいを正すと挨拶を返した。
 その一方で、あやかと小太郎はネギとアスナの下へと向かう。


「あ、いいんちょ。あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます、ネギ先生。よく似合っていますよ」

「ありがとうございますいいんちょさん。でも、突然こんな衣装を送ってもらってビックリしましたよ」

「いえ、お気になさらずに……それにしても、普段のスーツ姿もよろしいですが、紋付袴姿もまたなんとも……ジュルリ」


 あやかはネギの下に来ると、アスナをあっさりとスルーしつつネギの姿に思わず荒い息をつきながら思わずこぼれた涎をぬぐう。
 その姿は美女を前にした横島に通じるものがあり、この辺はやはり同一存在と言うだけの事はある。
 ともあれ、当然ながらそんな煩悩解放状態となったあやかに対し、突っ込みキャラであるアスナは無言であやかの背後に回るとアーティファクトのハリセンであやかの後頭部を叩き、小気味良い音が神社に響き渡った。
 

「ちょ! 突然何をなさいますの!?」

「いいんちょこそ今何をする気だったのよ! というか、その手の煩悩は昨日の除夜の鐘で振り払ったんじゃなかったの!?」

「何を言うのです! この雪広あやか、横島さんほどではありませんが、この身に宿る煩悩が108程度で収まるとお思いですか?」

「そこは自慢するところじゃないでしょうがー! というか、あっさりと仏教の教えを超越するんじゃないわよー!」

「アスナ姉ちゃんも似たり寄ったりだと思うんやがな……」

「小太郎君、それを言っちゃダメだよ。一応渋いオジサン以外発動しないんだから……」

「まあ、二人とも兄ちゃんよりはマシなんやろうけどな」

「億の単位超えてるよね、絶対……」


 ああ、やはり類は友を呼ぶのか、なにげに横島の周りは煩悩が一杯だ。それも美少女が。
 お釈迦様はこんな形で仏教の教えを超越され、きっと天で嘆いているであろう。ただし、西洋の神と魔王は腹を抱えて大笑いしているかもしれないが、それは気にしないで置いたほうがいいだろう。

 ともあれ年初め早々、アスナVSあやかの壮絶なるキャットファイトが勃発しかけたが、そこはさすがに曲がりなりにも大人である横島が二人をなだめ、なんとか場を治めることに成功していた。
 そして、そこでようやく横島の存在を思い出したアスナはタマモに何かを耳打ちされると同時に、目を輝かせながら期待に満ちた目で横島を見つめる。


「えっと、あけましておめでとうございます横島さん!」

「……あまり期待されても困るんだけどね。まあ、とりあえずあけましておめでとう。で、ご期待の物はこれかな?」


 横島は目を輝かせて自分を見つめるアスナにやや引きながらも、懐からポチ袋を取り出してアスナに手渡す。


「あははは、なんか催促しちゃったみたいで……」

「まあ、別にいいんだけどね。ほれ、ネギと木乃香ちゃんにもだ」

「あ、横島さんありがとなー」


 横島が苦笑しながらアスナ達渡したもの、それはお正月の定番であるお年玉だ。
 昨今、二十歳を過ぎても親からお年玉をもらう者もいるが、横島は21歳にして一応事務所を経営するしているのだから渡す側に回らざるをえない。
 横島としてはタマモとあやかに握られた自分の小遣いの中、アスナ達だけでなくタマモ達にも渡しているので財布は一気に寒くなるのだが、それでも彼女達の笑顔を見ればそれも報われようというものだ。
 だが、この中でただ一人横島の好意を受けながらも、その顔に笑みを浮かべていない人間がいる。そう、それは我らが魔法先生ネギ・スプリングフィールドその人であった。


「イ、イタリアンマフィアは敵を殺す時にまず贈り物をするって……はっ! まさか横島さんはついに僕を亡きものにする決心を!」

「誰がするかー! というか、その思考経路は三年前に俺が既に通った道じゃー!」


 ネギは横島からお年玉を受け取った瞬間、恐怖に顔をゆがめ、アスナの背後に逃げ込むとガタガタと震えだす。
 横島としては、せっかくの善意を歪んで受け取られたのだからたまったものではない。だが、それと同時にかつて美神が給料を上げてくれた時の自分の仕打ちを思い出し、今更ながら心の中で美神に懺悔する。


「くっ! 正月早々人の善意を曲解しおって……何が悲しゅうて日本の風習にイタリアンマフィアがでこなきゃならんのだ。決めたぞ、オレの初詣の願いはお前に対する神罰を要求しちゃる!」


 今の横島なら分かる、あの時の美神が感じたであろう心からの善意を曲解された時の悲しみと怒りが。まあ、だからと言って一度渡した物を取り上げるような事はしないのだが、後で神様にバチを当ててもらうようにお願いしようと心に決めた。


「ちよっ、何文珠に『神罰』なんて文字いれてんのよ!」

「横島さんの力でそれをやるとシャレになりません! というかその文珠をネギ先生に使ったら、この神社に集まった人々の願いの念が『神罰』という方向性をもってネギ先生に集中します!」


 せっかくの善意を無碍にされ、ちょっぴり頭に来た横島は文珠に『神罰』と入れ、お賽銭代わりに投函しようと思ったのだが、それを実行した場合ネギにとんでもない災厄が降りかかる事が確定する。
 具体的には月とか火星とか、下手をすれば今度はマントルの可能性すらあるくらいだ。
 それを目ざとく見つけたタマモと刹那は即座に横島の後頭部をハンマーと夕凪で軽く小突き、なんとか正気に戻すのであった。
 その一方で、アスナはネギとは違って純粋に感謝の念を持って横島に接していたのだが、ここでふと何かを思い出したのか、眉根を寄せて顔をしかめる。


「ん、どうしたんやアスナ姉ちゃん。 便所やったらあっちやで」

「違うわよ! ちょっと今の会話の流れで今朝のドタバタを思い出しただけ」

「ドタバタって、いったい何があったんだ?」

「それがね、ネギのヤツ私が配達から帰ってきたら……」


 突然顔をしかめたアスナに小太郎と横島はキョトンとした顔をする。その隣ではタマモと刹那、そしてあやかも似たり寄ったりの表情でアスナを見つめていた。
 ただ一人、苦笑しているのはその事情を知る木乃香だけのようである。
 ともあれ、アスナは皆の反応を見渡し、愚痴るように今朝の出来事を語って聞かせるのであった。




「えっと……なにこれ?」


 アスナが今年最初の新聞配達を終え、眠い目をこすりながら寮の自分の部屋にもどると、部屋の前の扉になにやら異様なものが飾られていた。
 もっとも、異様なものといっても別に雄ヤギの頭が飾られているとか、気絶した白いオコジョ妖精がイケニエとなっているというわけではない。
 アスナの目の前にあるもの、それは日本全国、どこのご家庭にもごく普通にあるもである。しかし、その配置の仕方と意図がどうしても見えてこない。
 故に、アスナはバカレンジャーの名にふさわしく考える事をやめ、部屋の扉を開けた。


「ただいまー」

「あ、アスナ。あけましておめでとうなー」

「ん、おめでとう木乃香。ところで、あの玄関の異様なブツはいったいなんなの?」

「ああ、それならさっきネギ君がゴソゴソやってたえ」

「ネギが?」


 アスナは木乃香に言われてネギのいるロフトの方を向く、するとネギはなにやら机に向かって何かを作っているのが見えた。


「ネギ、玄関のアレはあんたの仕業?」

「ん? ああ、おかえりなさいアスナさん。あけましておめでとうございます」

「うん、あけましておめでとう……じゃなくて、アレはいったいなんなの?」

「何って、玄関の飾りでしたらテレビを参考にして僕なりにアレンジした門松としめ飾りですけど……」


 ネギはそんなことも知らないのかといった感じに、ロフトからアスナを見下ろす。
 しかし、アスナとて曲がりなりにも日本で生活している以上、典型的な正月飾りを知らないはずが無い。
 故に彼女はやや顔をしかめながら反論するのであった。


「んなわけあるかー! というか、どこの世界に門松にネギを使って、おまけにしめ飾りのみかんの代わりにタマネギを使うヤツがいるのよー!」

「ここにおるなー」

「そうですよアスナさん。それにネギはかつて邪悪を成敗し、僕の神が認めた聖なる野菜です。また、タマネギは日本の魔法である陰陽術の根幹である言霊に通じます。これ以上の縁起物はありませんよ!」

「いいからとっとと片付けろー! というか、今アンタが作ってるその変な箱もそっちがらみかー!」

「あ、これはこの後行く初詣の時に、神社の隣で僕の神様の広報のついでにお賽銭箱とご神体を……龍宮さんにも許可をもらいましたし。いやー、それにしても日本の神様って寛大ですねー」

「そんなもん作るなー! それに寛大でも限度があるわー!」


 アスナは年始早々から襲ってくる頭痛に必死に耐えながら、ネギの作成した賽銭箱を踏み潰し、ご神体とか言う馬の写真を没収する。
 なにしろネギがご神体とした馬の写真は朝倉によれば結構有名な馬らしく、事情を知らないコアな競馬ファンが本当にお賽銭を投げかねない。そうなれば、それを受けて調子に乗ったネギが確実にやっかいな騒動を巻き起こすだろう。
 そしてこの後すぐ、アスナは妙に確信のある未来予想図に顔をしかめながら、新年最初のアーティファクト召喚を行い、新年最初のハリセンアタックをネギに叩き込むのであった。
 



「まあ、そのドタバタも結局高畑先生が来てくれてうやむやになったんやけどなー」

「そういえば、タカミチはなんか玄関でしばらく固まってたけど何があったのかな?」

「あんな変な物を見れば誰だって固まるわよ。まったく……」


 アスナは一通り今朝の騒動について語ると、盛大に肩を落す。現在、ネギの信奉する神の世界征服を防ぐ急先鋒はアスナただ一人なので、その心労は増すばかりだ。
 かといって、木乃香に助力を頼むわけには行かない。なにせ下手に刺激しようものなら、別系統の神が目覚めかねないのだから。
 タマモはそんな気苦労の多いアスナをいたわるように、彼女の肩をポンと叩く。しかし、彼女とてその役割を変わってやるほど善人ではないので、あくまでも同情を示すだけだ。
 そして、とりあえず話題を転換することに決める。


「で、高畑先生はいったい何の用だったの?」

「タカミチはなんか京都で用が有るらしくて、今朝のうちにさっきの……えっと玉お年? を渡しに来たんですよ」

「それを言うならお年玉やなー」

「ああ、そうでした」


 ネギは間違えて覚えた日本語を木乃香に注意され、恥ずかしそうに頭を書く。
 そしてちょうどそのタイミング見計らったのか、今まで特に会話に参加していなかったあやかが皆に声をかけた。


「はい皆さん、立ち話もこれぐらいにして、いいかげんお参りしませんと益々人が多くなりますわよ」

「ん、それもそうね。じゃあ、みんな早く行きましょ!」


 横島達はあやかに促されると、ここでようやく自分達の目的を思い出し、改めて拝殿へと向かっていく。
 この後、横島達一行は巫女さん達にとびかかり、ハンマーによって天に舞う横島や、ネギが例の写真をご神体として奉納しようとアスナにどつかれるといった些細なイベントが勃発したが、それは大したことではない。
 実はこの日、最大の混乱を巻き起こす実行犯が今まさにネギ達のすぐそばで言葉を失っていたのだ。


「ガ、ガンドルフィーニ先生……今の話聞きましたか?」

「う、うむ。所々喧騒で聞こえなかったが、確かに高畑先生が京都で玉を落すと……」

「京都で玉……京都には有名なお寺がたくさん……まさか!」


 ネギ達の近くで言葉を失っている者、それは生徒達が問題を起こさないよう、年始の見回りをしていたガンドルフィーニ、明石、瀬流彦の三人であった。
 彼は喧噪の中に横島達の姿を認め、挨拶でもしようと近寄ったのだが、その直後にネギのおかしな発言が聞こえてきたので彼らはその場に硬直する。
 そして今、喧噪の中でようやく聞き取れた情報を整理し、彼らはある一つの答えを導き出す。


「い、いかん! 早く高畑先生を連れ戻すんだ、彼は再び入道するつもりだぞ!」


 高畑が京都に向かったのは、ただ単に東と西の融和も兼ねた年賀の挨拶なのだが、その事情を知らぬガンドルフィーニは見当違いの答えに行きついてしまう。
 そして一度それた方向性はめったなことで戻るものではない。故に、彼らのはじき出す答えはドンドン正解から遠ざかっていく。


「そんな! 高畑先生は復活してたんじゃなかったんですか?」

「一つではダメだったと言うのか……」

「いや、むしろこの前の忘年会で酔っぱらった学園長から『一球』という戒名をもらったのがトドメだったんだろう」

「が、学園長……あの人は本当に碌な事をしませんね」

「とにかく、学園長への責任追及は後だ! 今は高畑先生を追う事が先決だろう。明石教授、他の魔法先生達にも連絡してすぐに追手を差し向けるんだ!」

「わかりました、すぐに連絡をとります。瀬流彦君、君は移動手段を確保してくれ」

「了解です!」


 かくして彼らは自らの誤解に気づかぬまま、その誤解の連鎖を麻帆良全土に広げていくことになる。
 そして、シスターシャークティと葛葉刀子に学園長への制裁をまかせ、麻帆良学園が誇る魔法先生達は盛大に誤解したまま大挙して京都へと旅立っていく。
 その結果、事前通告なしの魔法先生の大移動を察知した西との間で再び緊張状態が作り出されることとなり、あわや戦争一歩手前に発展してしまう。
 そして、当の高畑は追いついてきたガンドルフィーニから事情を聴き、弁明のために西と東の大勢の術者の真ん中で、自らに引き起こされた悲劇を暴露するはめになるのであった。


「ネギ君……色々と思うところはあるけど、本気で君の事を恨んでいいかい? というか、あの初夢はこれを暗示していたのか……」


 日本の地理的中心で哀を叫ぶオジサマが一人。
 彼の目には決して余人に見せることの無い涙が浮かんでいる。せめてこの出来事で今年の厄払いとなり、今年の幸運を願うとしよう。


 ――合掌。


 二人?の異邦人IN麻帆良 外伝 2009年謹賀新年記念SS
『年の初めの大混乱』 END



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