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 それは無限に広がる大宇宙のどこかにある空間の、そのまたどこかにある巨大な建物の中にある戦艦の艦橋っぽい部屋での出来事であった。


「緊急連絡アルファ3.4、ベータ2.7にて時空振動確認! これは……」


 突如手元のモニターを見ていた軍人っぽい服装をしたオペレーターが立ち上がり、モニターに標示された情報を報告する。
 オペレーターの声が響き渡ると、部屋にいた幾人ものオペレーター全員が一気に緊張し、その面持ちを変える。しかし、この場にいる最高指揮官は動揺を見せることなく、静かにオペレーターにその情報をメインスクリーンに表示させるように命令すると、オペレーターは即座に映像をメインスクリーンに切り替えた。
 

「六ヶ月ぶりだな……」


 メインスクリーンに表示された映像を見て、司令官の脇に控えていた副官らしき人物が静かに呟く。司令官はその声に振り返ることなく頷くと、肘を机の上に乗せ、両手を組んで口元を隠しながら副官と同じように静かに、しかしはっきりとした声で呟くのだった。


「ああ、間違いない。開演だ……」


 彼らが見つめるメインスクリーンには、ここ最近神魔の間で話題となっている謎の劇場が虚空から姿を現す瞬間が映し出されている。
 司令官はその映像を静かに見つめながら手で隠した口元を愉悦で歪ませると、無言のまま手元のボタンを押す。それは劇場出現第一報を届けた功績により、この監視所の職員全員のボーナス30%アップが確定した瞬間でもあった。

 これより1時間後、神魔族による壮絶な、それこそハルマゲドンを髣髴とさせる壮絶な戦いが勃発することになる。
 己の身命を賭して戦う神魔達。
 彼らが行なうは実弾、魔法、神通力なんでもありの壮絶な椅子取り合戦。わずか1000席をめぐるその戦いの火蓋は、今ここに切って落とされたのだった。





<ふう、今回はずいぶんと急な話でしたねー>

<まったくやな、ワイの予想やと出番はもう少し後やと思うとったんやが……>

<まあ、確かに本編では武道会も終了し、ある意味一区切りと言えなくはないんですが……どちらかと言うと、いい加減どっかのストーリーテラーが気分転換したくなっただけと言うのが正解かもしれませんね>

<まあ、なんのかんの言いつつ2年近く続いとるからなー>


 満員御礼の札が上がる劇場の中、いつもの指定席についた語部達は席に座りながらため息と共に謎の言葉をつむぎだす。ともあれ、こうして劇場が出現した以上、語部達の役目は粛々と劇の司会進行を行うだけだ。
 それゆえ神っぽい姿をした語部は懐から台本を取り出すと、それを傍らにいる魔王っぽいものに手渡した。


<まあその辺の事情はともかくとして、これが今回の台本です>

<お、サンキュー。で、今回のネタは……『一休さん』? またえらく微妙なもんを。つーか、それ以前にえらく日本の昔話やそのへんにかたよっとらせんか?>

<今回は二つ候補がありましてね、一つはその台本と、もう一つは『フランダースの犬』でしたが、厳正なる鉛筆ころがしによる抽選の結果『一休さん』に決まったんです>

<鉛筆ころがしって……まあええわい、ともかく始めるとしよか>

<ですね、それではこれより『一休さん』の開演です>

<あ、毎度のことやけど、ここでの話は一切本編とかかわりのない話やから注意してやー>


 いつものごとく語部達の前口上が終わると、劇場から全ての明かりが消え、開演のブザーが鳴り響く。しかし、いつもなら拍手喝采で迎えられるそのブザーが鳴り響いても会場はしんと静まり返り、会場を埋め尽くす観客達はぴくりとも動く事はなかった。
 そんな会場の反応にいぶかしんだ語部達は首をかしげながら周囲を改めて見渡すと、壮絶なる椅子取りゲームに勝利した猛者たちが精も根もつきはたした感じで椅子にへたり込んでいる姿が目に飛び込んできた。どうやら今回の椅子取りゲームはかなり壮絶であったようだ。
 ともあれ、それを見た語部達は額にピキリと青筋を浮かべると、寝静まった観客を起こすことを決意する。そして――


<ティルト……>

<アルテ……>


 ――次の瞬間、日本とお米の国を代表するRPGを原典とする、核攻撃をはるかに凌駕した無属性のエネルギーが会場中を包み込む事になるのだった。




二人?の異邦人IN麻帆良 番外編 「世界迷作劇場5」







<と、いうわけで今回の舞台は日本、時代は室町時代。西暦で言えば14世紀初頭のころのお話です>

<主役の一休っちゅーたら、たしか実在の人物やったな>

<そうです。正式には一休宗純と言いまして、臨済宗のお坊さんです。幼少のころに安国寺と言う寺に預けられ、かなりの詩才があったと言われています。出生に関しては後小松天皇の落胤という話もありますね>

<そらまた凄い血筋やな……しかし、そんなんがなんでまた坊さんに……いや、定番の権力争いか>

<血筋に関しては確定情報ではないんですけどね。ま、時代を考えれば十分ありえる話ということで>

<話の中ではただのとんち坊主っちゅー感じなのに、実際はかなりドロドロとしてそうやな>

<まあ子供用の話ですしね。そこまでリアルに書いてしまったら夢も希望もありませんからしょうがないでしょう。ま、そんなことよりさっさと始めるとしますか>

<せやな、っちゅーわけで一休さんカモーン>


 語部達が一通り時代背景を語り終えると、それにあわせて幕がスルスルと上がっていく。その幕が上がりきると、そこには寺の本堂の風景が広がっていた。
 ただし、その寺の本尊は何故か仏教系の神ではなく、ゲスト出演としてかつて美神令子をエンドレスダイエットという名の絶望に突き落とした悪魔、グラビトンの彫像が鎮座していたりする。
 当然それを見た仏教系の観客からブーイングの声が上がるが、次の瞬間にはブーイングをしていた観客は例外なく自重を増加され、椅子ごと劇場の地下深くへとめり込む事になった。そしてそれを見た観客達――特に女性達――は息を呑み、一気に会場は沈黙に包まれる。
 そんな微妙な空気の中、舞台の袖から本編では主人公――にしては扱いが悪いが――のネギが小坊主の格好をして姿を現した。


<おや、今回の主役はネギ坊主か。こらまたえらく無難なとこでおさまたっちゅー感じやな>

<一休さんはとんちがメインですし、その点を考えれば年齢的にも彼しかいないでしょう。もっとも、他にも候補はいましたが>

<候補っちゅーとやっぱ小太郎か? それとも天才つながりで超の嬢ちゃんとか?>

<いえ、高畑先生ですね……>

<高畑のオッサン? そらまたなんでや? 頭は悪くないやろうけど、さすがに年食いすぎやろ>

<確かに年は行ってましたが、ある意味彼こそがこの役にふさわしいという気もしましてね……なにせ彼は今現在リアルで『一球さん』ですし>


 キーやんがそう言った瞬間、サっちゃんも含めて全ての観客が沈黙する。特に男性の神魔は顔を青ざめさせ、心もち下腹部をかばうしぐさもしている。


<あー……ちょっと確認するが、マジか?>

<マジですね……>

<も、文珠でも一つしか復活できんかったんか?>

<いかな文珠でも限界があったとしか……>

<そ、そら気の毒で出演依頼はだせへんな。同じ男として魔王のワイでもさすがにそれはでけへんで>

 
 二人の語部は高畑を襲った悲劇に沈痛な表情を浮かべると、そっと目を伏せ、失われし宝玉の片翼に対して静かに黙祷を捧げた。
 ちなみに、なにが一つしか復活できなかったのか、失われし宝玉の片翼とはなんなのかについては言及を避けよう。願わくは高畑の心境を察し、生暖かき視線で彼を慰めるのが人として出来るせめてもの事ではないだろうか。もっとも、それを実行した場合、三国志に出てくる美周郎のごとく憤死してしまうかもしれないが、当方はそれについて一切関わりは無い。
 ともあれ、語部たる魔王ことサっちゃんは同じ男として涙無しでは語れぬ高畑の身の上にそっと涙する。そしてもう一人の語部である神ことキーやんは、そんな彼に対して全てを慈しむ慈愛の微笑をうかべながら――


<いえ、出しましたよ出演依頼。思いついた瞬間に速攻で……返事に『神は死んだ』と血文字が帰ってきましたが>


 ――実に晴れ晴れとした顔でそうのたまうのだった。
 高畑・T・タカミチ、号して無玉。彼が最後に残した辞世の句は『露と落ち露に消えにしわが身かな破玉のことも夢のまた夢』であったそうな。




<キーやん貴様鬼か!?>

<神ですがナニカ?>

<ナニカ? じゃあらへんわ! つーか貴様には血も涙もないんかい! 魔王のワイですら躊躇することを、曲がりなりにも神が率先してやるっちゅーのはいったいどういう了見や!?>

<シビレて憧れてもいいですよ>

<断固として断るわ!>

<ま、それはともかく、いい加減話を進めましょう。と言うわけで舞台は安国寺の本堂から始まります>

<さらっとスルーしおってからに。まあええわい、ちゃっちゃと始めようや>


 なにやら語部達はもめていたようであったが、一人が疲れ果てたかのように肩を落として何かを諦めると、もう一人の語部は嬉々として劇を進めていく。
 ちなみにこの時、観客達、特に男性の神魔達はどこか恐れを含んだ表情を浮かべながらネギを見つめていた。それは、ある意味神の奇跡と比肩しうる文珠をしても、一つしか復活できなかったという事実が彼らをしてネギを恐れおののかせていたのだ。
 そしてこれ以後、彼らの間でネギは『破金の者』『宝珠の破壊者(オーブクラッシャー)』と呼ばれ、男性神魔から恐れられる事となる。
 さらに余談ではあるが、この時の神々の恐怖が言霊となったのか、神社や教会、モスク、果ては悪魔との契約の時に玉ネギを供え、無言のままそれを握りつぶすと無条件で願いがかなうと言う都市伝説が世界各地で同時発生したという。

 ともあれ、観客達が呆然としているうちに舞台では役者が既に出揃い、ふと気がつくとネギの左隣には小坊主の格好をした明石、瀬流彦、ガンドルフィーニの三人が並んで正座し、その前には和尚さんに扮した学園長がお経を唱えていた。
 その姿はぱっと見る限り、80年代に日本のお茶の間を独占したどこかのコント番組を彷彿とさせている。観客席の誰もがそんな感想を頭に浮かべ、遥かなるノスタルジーに思いをよせる中、学園長の読経は終わり、それに続いて唱和していたネギ達も読経を終えた。


「フォッフォッフォ、今日の読経はこれで終わりじゃ。後は本堂の掃除じゃが、皆で手分けしてやるようにの」


 学園長はネギ達に本堂の掃除を言いつけると、おもむろに立ち上がり、本堂を後にしていく。ネギ達は学園長が舞台から消えるまで深々と頭を下げて学園長を見送っていたが、その姿が視界から消えるとネギは即座に足を崩し、その顔をゆがめた。


「あ、足がシビレたー。修学旅行の時も思ったけど、なんで日本人ってこんな座り方をするんだろう」

「ははは、正座は慣れないと日本人でも大変だからね。僕もあと十分続けば危なかったかな。瀬流彦君はどうだい?」

「僕だったら十分どころか、五分でアウトですよ。学園長もなにも本当にお経を最初から唱えなくてもいいのに……あ、そういえばガンドルフィーニ先生は大丈夫ですか?」

「私ならあと一時間でも平気だよ。なにせ本国の友人から日本の事を学んだ時に、日本人は幼い時に石を抱いて正座の特訓をすると教えられたのでね」


 正座特有の足のシビレに襲われ、ろくに立てない状態に陥ったネギに、隣で座っていた明石が苦笑を浮かべながらネギを助け起こし、その脇では瀬流彦が眉の上に唾を塗っている。
 そして、一番端に座っている浅黒い肌をしたガッシリとした男、ガンドルフィーニは平然とした表情で座ったまま、なにやらとんでもない過去を暴露する。
 

「あの、まさかそれを真に受けて……」

「いや、あの頃は若かったよ。恥ずかしながらそれをすっかり信じ込んでしまい、麻帆良へ赴任が決まった時はずっと石を抱いて正座の特訓をしたものだ。もっとも、それが冗談だったと知った時に迷わず復讐をしたがね……」

「ふ、復讐って……」

「なに、たいしたことはしていない。ただ古式にのっとって、大型ソロバンの上に正座させてその上に曙相当の重りを乗せただけだよ。くくくくく」

「「……」」


 ガンドルフィーニは当時を思い出したのか、顔をうつむかせるとメガネを光らせながら暗く笑う。明石と瀬流彦は同僚の暗黒面のような物を目撃し、以後彼を怒らせたりはしないようにしようと心に誓った。
 ちなみにこの時、ネギは震える明石と瀬流彦を見つめながら、今の話のどこが怖かったのかと首をかしげていた。どうやら横島ファミリー、特にタマモによって不本意ながら鍛え上げられた胆力のおかげで通常の恐怖では意にも介さなくなるほど精神を鍛え上げられたようである。もっとも、裏を返せばネギの日常はガンドルフィーニの暗黒面など及びもつかないような、凄まじい死と恐怖に彩られていると言う事でもあった。
 この場合、どちらがより幸福なのだろうか、難しいところである。


<ネギ坊主以外の小坊主役は明石、瀬流彦、ガンドルフィーニの魔法オヤジ3人衆か。なんちゅーかミスマッチな配役やな……>

<そうでもないですよ、なにせ彼等もすでに戒名を持っていますし。というわけでそこの玉壊、玉砕、玉滅のお三方、早く劇を進めてください>

<やっぱりそっちつながりか……ほんまにえげつない配役やなー>
  

 語部達はネギ達のやりとりを特に何をするでもなく見ていたが、ここでふとキーやんがサっちゃん曰く魔法オヤジ3人衆に向かって言ってはいけない真の名を解放する。
 ちなみに、魔法オヤジ達はそれぞれ――


『明石玉壊』

『瀬流彦玉砕』

『玉滅・ガンドルフィーニ』


 ――というありがたい戒名を持っており、釈迦如来、大日如来、阿弥陀如来、薬師如来といった仏教系の神の最高責任者の連名によって正式に認可も受けていた。
 もっとも四如来が認可した名誉ある名前も、彼らにとってはありがた迷惑どころか不名誉極まる名でしかない。それゆえ、彼らは即座に神に向かって反旗を翻した。


「ちょ、待ってください! 僕達ってひょっとしてまだ直ってないんですか!? ていうかこの時空でも僕達ってそんな設定!?」

<どうやらそうみたいやな……気の毒やけど>

<一応本編46話終了時点での設定を基本としてますからねー。ま、諦めてください>

「そ、そんな……横島君は僕達を見捨てたとでも言うのか!?」

「そんなばかな! 横島君が、立派な魔法使いにもっとも近い彼がそんなことをするはずが無い!」


 この時、真っ先に反応したのは3人の中でもっとも若い瀬流彦であった。しかし、そんな彼の絶叫に対して語部達はなんとも気の毒そうに事実を告げる。
 それを聞いた明石は膝を付き、己の未来に絶望する。しかし、ガンドルフィーニだけは横島を信じ、明石の想像する未来を否定した。


<そう言われましてもねー、実際本編であなた方はまだ医務室でダウンしていますし。横島さんもエヴァンジェリンさんにかなり酷いトラウマを植え付けられて、復活したと思ったら即座に超さんに拉致されてしまいましたからねー>

<さすがに気の毒やからな、次ぐらいには復活しているとは思うんやが……保障はでけへんで。特にイケメン風の瀬流彦の兄ちゃんは>

<いっそのこと潔く諦めて、首都圏にあるどこぞの二丁目に行ってはどうですか? チーム玉の皆さん>

「「「い、いやだー!!」」」
 

 こうして、魔王はわずかな希望にすがる男達を不安と疑心の海に投げ込み、神はその名に恥じることなく迷える子羊に慈愛に満ちた新たなる道を指し示す。
 この場合、神が指し示した道はむしろトドメとなっているような気がしないでもないが、それはきっと気のせいであろう。


「えっと……劇の続きは?」


 この時、神曰くチーム玉の面々によって完全に出番を食われてしまった形のネギは、一人寂しくすみっこに座りながら劇の再開を待つのであった。






<えー、少々脱線してしまい、大変失礼致しました。では改めまして……本堂の掃除を言いつけられた一休達は黙々と掃除をしていましたが、ここでふと玉砕が世間話とばかりにとある話題を振りました>

<その話題が和尚さんの秘密の宝物の事っちゅーわけやったんや>

「あの、その名前は……いえ、もういいです」


 あれからしばらくの後、ようやく事態を収拾した彼らは改めて劇を再開する。もっとも、名前に関してはチーム玉の面々が泣きを見ることになったのだが、その辺は触れないでおくほうが優しさと言うものであろう。
 ともあれ、色々と不満はあるが本編どころか、原作でもほとんど出番のない彼らにとってこの場は数少ない晴れ舞台。ならば耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶのが男の道と言う物である。
 南無八幡大菩薩よ照覧あれ、今ここに背中に『玉』の字を背負いし真の男達が茨の道を進みだす。願わくはこの舞台が終わった暁には、彼らのそのささやかな望みがかなわんことを願うとしよう。
 こうして、涙なくして語れぬ思いをもって腹をくくった彼らは、この劇を成功させるべく心の中で血涙を流しながらその一歩を踏み出すのであった。


「そういえばみんな知ってるかな? 学園長が僕らに内緒で何かをしているらしいって」

「おお、そういえば最近なにかコソコソしているね」

「ひょっとしてこの前学園長の部屋を掃除した時に来ていた小包のことかな?」


 瀬流彦、明石、ガンドルフィーニは掃除の手を止め、なにやらヒソヒソと話し出す。するとそれを聞いていた一休ことネギは、何か心当たりがあるのかポンと手を打った。


「それってアレのことかな?」

「おや、ネギ君は何か知っているのかい?」

「ええ。この前学園長に用があって部屋に行ったら……」

「行ったら?」

「何か部屋の隅で壷に入った飴玉を舐めてましたよ。あ、でも子供が食べると毒だから食べちゃダメだって言ってましたけど」


 ネギは頭に手をやりながら小首をかしげる。どうやら彼は学園長の言葉をすんなりと信じたようであった。彼は命がかかってない限り、実に素直な子供なのである。


「飴玉!? 学園長はもしかして独り占めするつもりなのかな」

「子供には毒と言うのは嘘だな。おそらく瀬流彦君の言うとおり学園長は独り占めするつもりのようだ」

「それはずるいですね。かといって隠れて食べてもすぐにバレて怒られますし……ネギ君、何かいい手はないかい?」


 室町時代において飴玉等の甘味類は貴族等を除いておいそれと手に入るものではない。それゆえに彼らの怒りは深くなる。いつの世も食い物の恨みは恐ろしいのだ。
 瀬流彦とガンドルフィーニは飴玉を独占すると言う大人気ない行動に怒り、その一方で明石は学園長を出し抜くべく思案していたようであったが、あいにくといい考えが浮かばなかったようである。
 そのため、彼らの期待はとんちの天才である一休、つまりネギへと集まる事になるのは実に自然な事であった。


「わかりました、それでは……」


 ネギは皆の期待に満ちた視線を受け、襟元をただすとおもむろに床で座禅を組み、その手を頭上に挙げ――


「偉大なるファラ……」

 ザクッ!


 ――祈ってはいけない異界の神の名を口にしようとしたその瞬間、彼の頬をかすめて何かが光速で通り過ぎ、背後から鋭利な物が突き刺さった音が響き渡る。
 ネギは頬に一筋の血を流しながら、ゆっくりと後ろを振り返る。するとそこには、アスナのアーティファクトである巨大な剣が根元近くまでしっかりと壁に突き刺さっていた。
 それを見たネギが反射的に正面に向き直ると、観客からは見えない位置にある舞台の袖から一本の白い腕が伸び、その親指だけを上に向けて作られた握り拳がゆっくりと下へ向けられるのを目撃する。
 ネギが冷や汗を浮かべながらその手を見ていると、その手より少し上、ちょうど頭の位置で光る二つの目がタマモに匹敵する殺気を吹き出していた。


「し、失礼しました。では改めて……」


 ネギはこの時命の危険を感じ、神への祈りを中断すると改めてとんちを行うべく座禅を組みなおし、人差し指に唾をつけるとその指で何度も頭をなでるのであった。


 ポクポクポク……チーン!



<さて、一休は飴玉を独占する和尚さんを一泡吹かせるべく音に聞こえし万能スキル、とんちを発動させました>

<普通に飴玉盗んでも速攻でばれるさかいな。どないすれば怒られずに飴玉にありつけるんやろうか? すり替えか?>

<すり替えたところで結局はばれますからねー。ともかく、一休がどんな答えを出したのか、先は見てのお楽しみです>


 ネギのとんちスキル発動のシーンの後、舞台は暗闇に包まれ、何も見えなくなる。そんな中、やがて子供特有のかん高い泣き声が会場中を包み込んだ。


「うわぁぁぁぁーん!」


 その泣き声と共に会場を包む闇は次第にはれ、やがて観客達の目にどこかの部屋で泣き濡れるネギの姿が映し出された。
 そして、ネギの泣き声が最高潮に達しようとしたその時、舞台の袖から学園長が血相を変えて走りこんでくる。


「いったい何事じゃ! ってネギ君ではないか、いったいどうした?」

「ううう、さっき掃除をしていた時に瀬流彦先生達が過って学園長の大事な壷を壊してしまったんです。だから死んでお詫びしようと毒を飲んだのですが……」

「な、毒じゃと!」

「はい……この前学園長に教えていただいた毒です。でも、何個飲んでも死ねませんでした」

「この前教えた毒じゃと? そんなものは……まさかアレか! いかん、すぐに吐くのじゃ!」

「ほえ?」


 学園長はネギの言う毒の意味に思い当たったのか、顔をいっきに青ざめさせると慌ててネギへと詰め寄る。


「ええい急げというのに、まだるっこしい!」

「が、学園長!? いったいなにをってじゃいあんとおおぉぉぉ!」


 ネギは何故飴玉を食べた程度で学園長がここまで焦るのかわけがわからず、思わずマヌケな顔をして返事をしてしまう。何か酷く焦っている学園長はそれを見ていいかげん痺れを切らしたのか、いまだにわけのわからないという顔をしているネギの足をむんずと掴むと、自らの体を中心としてネギを振り回し始める。
 それは所謂プロレス技のジャイアントスイングと呼ばれる技であった。


「さあ吐け、一刻も早く吐くのじゃー!」

「ち、ちが! 食べてません、僕はあの飴玉食べてませんからー!」


 学園長を中心として遠心分離機のごとく振り回されるネギ。見る見るうちに血が頭に上り、食べた物がその遠心力でどんどん上昇していく中、彼は鬼の形相と化した学園町に向かって自らの無実を必死で訴える。
 すると、ようやく学園長は安心したのか、手に込めた力を少しだけ緩めた。しかし、それこそが次なる喜劇、いや悲劇の呼び水であった。


 ツル!


「あ……」


 学園長が手から力を抜いた瞬間、聞こえてはいけない擬音とともに学園長の間の抜けた声が響き渡る。ネギが聞いた聞こえてはいけない音、それはネギの足をつかんでいた手が滑った音であった。


「が、学園長ー!」


 怨嗟の声とともに、学園長の手から解き放たれたネギは弾丸もかくやというスピードで空を飛んでいく。しかし、悲しいかなネギは自らの意志と動力によらない空中飛行には慣れてしまっている。それゆえ、ごく自然に身についた最もダメージの少ない対ショック、対衝撃体勢をとり、壁への激突の時を覚悟した。
 しかし、この時ばかりは飛んだ方向が悪かった。


<な、いけません! サっちゃんレシーブです!> 

<まかせやとき!>


 ネギが飛んで行った方向、それは世界の頂点に立つ神と魔族の最高指導者、この劇場では語部の役を自任する彼らの方向へと飛んでいったのだ。
 二人の語り部はネギが飛んでくるのを確認すると、ネギを助けるためにすかさずサっちゃんがレシーブ体勢を取り、激突するネギの衝撃を完璧に殺すと見事な放物線を描いてネギをキーやんに託す。


<キーやん行ったでー!>

<任せてください、行きますよ!>


 キーやんはすかさずネギの落下地点へと移動すると、両手を頭上に掲げ、まるで割れかけた卵を扱うかのようにやわらかくネギを受け止め、これまた見事なトスを上げる。
 そして羽のように天高く舞ったネギへ向かってすかさずサっちゃんが走り込み、大きくジャンプすると魔力をまとわせた腕を大きく振り上げ――


<今です、サっちゃん!>

<おおおおー、喰らえやー!>

「って待って、うぎゃぁぁー!」


 ――躊躇なくその腕をネギへ向かって振りぬくのであった。
 サっちゃんの渾身のスパイクを受けたネギは、周囲にソニックブームを巻き起こしながら反対側の壁へと激突し、その周りにいた幾人もの神族や魔族を巻き込んで大爆発を起こしていく。
 爆風が会場中を包み込み、メギドの火の如く燃え上がった炎は天を焦がす。


<あ、しもうた……つい>


 爆風と炎がようやくおさまり、会場中がいやな沈黙に包まれる中、サっちゃんは冷や汗を浮かべながらポツリとつぶやく。
 誰もが「つい、じゃねーよ!」と心の中で突っ込む中、出来上がったクレーターの中心部から小柄な人影がむくりと起き上がり、天に届けとばかりに叫んだ。


「ついじゃありませーん! 受け身を取らなければ即死でしたよ!」


 クレーターの中心部にいた小柄な影とはネギであった。彼は激突時の熱エネルギーでボロボロとなった衣装をまとったまま、顔をススだらけにしながら叫ぶ。
 しかし、誰がどうみても目立った怪我は無く、その意味に気づいた観客達は背筋に戦慄が走るのであった。
 そして、それはもう一人の語り部であるキーやんも同じである。


<いや、受け身程度でどうこうできるはずがないんですけど。というか、本気ではないとは言え、魔王の一撃を喰らってなお無傷ですか……耐久力では既に横島さんを超えていますね>

<この場合、ネギ坊主をここまで鍛えあげたタマモの嬢ちゃん達がすごいっちゅーことかいな>

<今なら生身で核攻撃すら耐えられそうですね>

<既に人類じゃなくのうとるな>

<うーん、このまま育って天寿を迎えたらいろいろな意味で伝説を残しそうですね……サっちゃん、次代の魔王候補として青田買いでもしておきますか?>

「大きなお世話ですー! 僕だってなりたくてこうなったんじゃありませーん!」


 ネギは何やら物騒なことを相談し始める二人に向かって敢然と抗議するが、むしろ彼らは気の毒そうな顔を浮かべて苦笑いをするのみである。
 ネギはその笑いの奥に自分の未来を見たような気がして目まいを起こしそうになるが、かろうじてのところで踏みとどまった。
 そして、そんなネギに対してキーやんはいたわるように劇の続きを促す。


<ま、それは冗談として……無事なら劇の続きをお願いします>

「冗談ですよね? 本当に冗談なんですよね? 僕の神様に仕えるならともかく、魔王のような悪の権化になるなんて絶対に嫌です!」

<……今までの所業を見る限り、十分魔王の資格を満たしていると思うんですがね>

<まま、その辺の話はまだ先や。ともかく先に進めてくれへんか、いい加減脱線しすぎや>


 いまだに不安そうな顔をするネギに対し、サっちゃんはなんとか彼をなだめつつ手を取ると舞台へと上げる。
 すると、あまりの事態に茫然としていた学園長はようやく我に返り、改めて劇を続けるのであった。


「ゴホン、では改めて……ネギ君、君は本当にアレを食べておらんのじゃな?」

「ええ、ガンドルフィーニ先生達と食べようとした時、なぜかアレは食べちゃダメだと僕の内なるゴーストがささやいたもので」

「……どうやらネギ君は野生動物並の危険察知能力を持っているようじゃの。とにかく、ネギ君が食べておらんのなら最悪の事態は免れたということか」

「最悪の事態って……アレは飴玉じゃないんですか? 僕達が食べてしまわないよう、方便としての嘘じゃなかったんですか?」

「いや、残念ながらあの時わしが言ったのは嘘でも何でもない、まぎれもない事実なんじゃ」

「え!? ということはあれって本当に毒……ってガンドルフィーニ先生達がー!」
 

 ネギは学園長から突きつけられた事実に驚愕の表情を浮かべ、ガンドルフィーニを助けるべく彼らのもとへと走り出す。
 一方、同僚教師達の命の危機に焦りまくるネギとは対照的に、学園長は悲痛な表情をしながらもどこかのんびりとした足取りでネギを追いながら、ぽつりと呟いた。


「はかない夢じゃったのう……」


 学園長はこの劇をカムフラージュにして、マホネットにて取り寄せた禁断の飴玉に思いをはせる。ネギが食べなかったのは僥倖ではあったが、あいにくと今のガンドルフィーニ達にそれが見つかった以上、彼らはその飴玉の秘密を看破し、今頃一粒とて残っていないであろう事は確実だ。
 本来ならばこの事実を持って、夏のボーナスカットを言い渡してもいいくらい、その飴玉は貴重であり、学園長にとって痛い損失ではあった。だが、ガンドフィーニ達の思いを知るが故にそこまで鬼にはなれない。
 ともあれ、学園長はこの後に起こる混乱を正確に予想しつつ、ネギに続いてガンドルフィーニ達がいるはずの本堂の扉を開ける。するとそこには――


「……これでも……これでもダメなのか」

「もはや万策尽きたか……」

「ガンドルフィーニ先生、明石教授……なぜでしょうか、今の僕なら純粋な闇魔法を会得できるかもしれません。この胸の内からあふれでる負の感情がじつにいい感じで……」

「ちょ、皆さんしっかりしてくださーい! あ、瀬流彦先生、闇魔法でしたらいっそのこと僕の暗黒魔法を……ぶぎゃ!」


 ――いろいろな意味でカオスな空間が広がっていた。
 学園長はこの時、ネギが懐からパンフレットを取り出して瀬流彦に暗黒神への入信を進めようとしていたところを、ツインテールをした赤毛の少女の影と共に舞台の袖に消え行くのをしっかりと目撃する。
 そして舞台の袖からネギの悲鳴と共に斬撃の音と、アスナっぽい少女の怒鳴り声、それを必死に止めようとする刹那、横島、タマモの声が鳴り響いた。
 色々な意味で気苦労の多い少女アスナ。ほぼ全ての登場人物が壊されていく中、彼女は唯一の良心として、ただ一人侵食されるネギまの世界を維持しようと涙ぐましい努力をしている。きっと彼女こそが真の意味で女神と呼べる存在なのではないだろうか。
 キーやんは絶望に包まれ、男泣きに泣いているチーム玉の面々を見ながら、ふとそんな考えに至っていた。
 ともあれ、いつまでもこうしていても劇は続かない。何故チーム玉の面々が泣いているのか、その理由を聞くべく口を開こうとしたその時、今まで黙っていた学園長がそっと彼らに近付き、その肩をやさしく叩いた。


「やはりこうなったか……」

「学園長……僕達はこれを見つけたとき、心の中に希望が生まれました。そして同時に、何故これを僕達から隠すのか疑問に思ったんです」


 学園長は瀬流彦が持つ壷の中身が綺麗さっぱりなくなっているのを確認すると、なんとも気の毒そうな顔をしながら瀬流彦の肩を叩いた。
 

「このことを知れば君達がどう動くかはわかりきっておったからの。そしてその結果もじゃ」

「し、しかし。横島君がこの舞台にいない今、僕達はそれでも……それでもこれに賭けるしかなかったんです」

「君達の気持ちはよく分かる。しかし……いかに魔法界が生んだ夢のアイテムでも、失った物はもう戻らんのじゃ」 

「が、学園長ー!」

 
 学園長のその言葉は、ガンドルフィーニ達をさらなる絶望の海に叩き込む。しかし、その発言をした当の本人である学園長もまた涙を流しながら彼らの中に混じって絶望の声を上げるのであった。


<あのー……ちょっとよろしいですか?>


 そんな時であった。完全に置いていかれた語部達が口を挟んだのは。


<なんや変な方向で友情を深めおうとる所に悪いんやが……あの飴玉はいったいなんやったんや?>

<シナリオの方でも普通に飴玉としか指定していませんし。っていうか魔法界のアイテムって……>


 語部達は頭にハテナマークを浮かべつつ、肩を抱き合って泣いている学園長を問い詰める。
 本来ならばこの話は、和尚さんの言った飴玉が毒だと言う嘘を利用し、自殺目的で食べたという名目を立てて和尚さんが独り占めした飴玉を一休達が食べてしまうと言う話であったはずだ。
 しかし、現実では和尚さん役の学園長を初め、小坊主役のガンドルフィーニ達はその飴玉を食べた末に泣き出し、あまつさえ一休であるネギに至っては未だにアスナから折檻を喰らっている始末である。
 それだけに語部達が事態を収拾できないと感じ、学園長達を問い詰めようとするのも当然のことなのだが、当の学園長はその質問をうけるとゆらりと幽鬼のごとく立ち上がると、天を見上げながらそっと呟いた。


「……ワシもガンドルフィーニ先生達と同じように、すでに戒名を持っておってな……」

<戒名ですか? まあ確かにお迎えも近いでしょうから持っていても不思議はありませんが>

<それが今回のことと関係があるっちゅーんか?>


 語部達は学園長の発言の意味を図りかね、小首をかしげる。
 学園長はそんな彼らにかまうことなく、ただひっそりと、しかしどこか透き通るような声で話を続ける。


「ワシの戒名はの……『赤玉』と言うんじゃ」


 ガンドルフィーニ達を初めとして、語部達も沈黙して見守る中、学園長が最後の最後で搾り出すように放った言葉は、小さいながらも何故か会場中に響き渡るほどはっきりとした声で観客達の耳朶を打つ。
 沈黙の天使が舞い降りてより30秒。
 すべてが沈黙し、時が止まった中、学園長の言葉の意味を察したガンドルフィーニは目頭を押さえてすすり泣く。するとその慟哭はやがて会場中に――特に男性神魔族に――伝わっていき、誰もが学園長を襲った悲劇に涙した。


「ワシはこの劇の内容を聞いた時、ふと閃いたのじゃ。この空間でなら……本編と関係ないこの空間でなら夢よもう一度と魔法界の秘薬、こちらで言うところのバイ○○ラを」

<爺さん、わかった。もうわかったから何も言うんやない>

<あなたが今ここで泣いているということは、その秘薬ですらも……>


 語部達はどこからともなくハンカチを取り出し、あふれ出る涙を拭う。
 そして劇場を運営する裏方たちもその涙に共感したのか、肩を抱きあっって泣き崩れる学園長達にスポットライトを当て、物悲しいBGMとともにゆっくりと幕を下ろしていく。
 観客達は幕に覆われていく舞台へ向かっていつまでも、いつまでも満場の拍手を送り続けるのだった。



 ちなみにそのころ、楽屋では――


「あはははは。なじむ、なじむぞー!」

「素の状態で闇魔法使うなー! ていうかいつの間にそんなもん会得したのよー!」


 ――アスナの折檻から逃れるため、神の奇跡である暗黒魔法に加えて何故か会得できた闇魔法によって肌をどす黒く変色させ、耳すらも長くなってしまったネギがいたという。
 どうやらネギは闇魔法に対して尋常ならざる親和性を持っているようであった。はたしてそれは天性の才能なのか、はたまた後天的に得た血と涙とトラウマの結晶なのか、それは誰にもわからない事であろう。





<……えっとかなり脱線しましたが、一休はこのようにとんちを披露しながら日々和尚さんのもとで修業を続けていたのです>

<なんとも壮絶なっちゅーか物悲しいというか……あ、そういえばネギ坊主がなんか楽屋のほうでもえらい騒ぎ起こしてたみたいやな。タマモの嬢ちゃんがハンマー振り回してたり、横っちは『戻』の文珠を用意してたりと>

<なんでも闇魔法に目覚めたネギ君は文珠の拘束を力技でぶち破り、ハンマーを真っ向から受け止めたりしてたらしいですよ。まあ、結局は『戻』の文珠で闇魔法を強制的にキャンセルされた上にハンマーぶちかまされてその時の記憶は失ったようですが>

<も、文殊の拘束をぶち破った!? ちゅーことは敗れたとはいえ、覚醒状態のネギ坊主は少なくともメドーサに匹敵する力をもっとるっちゅーことか>

<そうなりますね。もし文珠が無ければ、そしてもしタマモさんへのトラウマが無ければ、間違いなく横島君達では手も足も出なかったでしょう>

<これでまだ10歳か、ほんまに末恐ろしい小坊主やな……この後ウチとこの編成部長に話を通してみよか>

<ま、その辺は劇の後にでもお願いしますよ、今は劇を続けます>

<せやな。っちゅーわけで、一休は毎日辛い修行に耐えつつ、日々を逞しく生きとったんや>

<そんなある日のこと、とんち小僧として有名になった一休に対して興味を覚えた時の将軍、足利義満から出頭要請が来たのです>

<ほほう、それは名誉……なことか?>

<一応は名誉な事でしょうね。ともあれ、この要請に従い一休は正装をし、将軍に会う為に京の町を歩いたのですが、そこで事件はおきてしまったのです>


 語部達はネギの行く末に関して闇取引をしつつ、劇の舞台を整えていく。そして裏方からタマモのハンマーによって気絶していたネギが復活したとの報せ受けると、すぐに話を本筋に戻し場面の説明を始めた。
 そしてそのタイミングに合わせ、裏方達は幕をするすると上げていく。これでようやく脱線しまくったこの話の第二幕が始まったのであった。


「えっと……僕の記憶が学園長と何かを話していた時から無くなってるのはいいとして……」

<ええんかい!>

「どうやら命に別状はないみたいですから些細な事ですよ。そんなことより、これはいったいなんでしょうか」


 壇上に上がったネギはどこかぼんやりとした表情のまま、舞台の中央に立っている。どうやら闇魔法に目覚めた後に受けたタマモのハンマーの後遺症から抜けきっていないようだ。
 記憶喪失ちっくなネギはしばしの間ぼうっとして記憶のつじつまを合わせようとしていたようであったが、とりあえず生命活動に問題がないことがわかったので些細な事と切り捨てる。なんというか、清々しいまでに命第一主義に染まっているネギであった。
 ともあれ、あやふやな過去を綺麗さっぱりと押し流したネギは、とある場所を指差しながら語部達に向かって問う。


<これとは?>

「いえ、この橋を渡らないとその将軍とやらの所に行けないんですけど、でもそのまん前にこんな立て札が……」


 ネギが指し示す先には川に一本の橋が架かっており、その前には立て札がかかっていた。


<あ、それは一休さんの定番の話やな。確か『このはしを渡ることは禁ず』って書いてあったはずやろ>

「確かにそう書いてあるんですが……」

<それが何か? 一応シナリオどおりですけど>

「それが、どうにも記憶があやふやなせいか、この時に使うとんちの内容をド忘れしてしまったみたいで……」


 どうやらネギは記憶喪失ついでに、この段階でのシナリオ進行を完璧にド忘れしたようである。それゆえ、語部達は互いに顔を見合わせると深く、それはもう深いため息をついた。


<……えっと、マジですか?>

「マジです」

<あー、ネギ坊主。きさんはまがりなりにも天才やろ。せやったらそのまま自力でこの謎を解く事はでけへんか?>

「それはまあ出来なくは無いですけど。というか、僕の考えた方法でいいのかな?」

<と言う事はもう答えは出ているんですね。念のためその内容を教えてもらえますか?>

「あ、はい。この立て札の中で『はし』の部分が漢字ではないことから考えると、この『はし』の部分には色々な漢字を当てはめることが出来るんです。となると、答えとしては『橋』を使わずに別の文章として意味が通る漢字になおせばいいわけで、それも踏まえてこの立て札を読むと『この端を渡る事を禁ず』と読めばいいわけです。つまり、この橋の端ではなく、真ん中を通ればこの立て札に逆らうことなくこの橋を渡る事が出来るんですが……こんな答えでいいんですか?」

<おお、正解です! いやー、さすがに天才と言われるだけはありますね。と、いうわけで堂々と橋の真ん中を通って向こう岸へ行ってください>


 ネギは日本人にとってはごく当たり前と言っていい答えを披露していく。しかし、ネギが一般的日本人と違うのは、日本人は普段から漢字と接し、なおかつこの答えをほぼ知っているのに対し、ネギはイギリス人であること、そして記憶喪失によって答えをド忘れしている事を考えると、まったくゼロの状態からこの答えに行き着いた事となる。まさに天才少年の面目躍如とも言える出来事なのだが、そんなネギに対して行われた神(語部)の祝福は新たなる障害の出現であった。


「なんだ、強いやつと戦えると聞いたのにまだガキじゃないか……まあいい、この橋を渡りたければこの俺、武蔵坊弁慶を倒していくがいい!」


 ネギにもたらされた新たなる障害。それは橋のど真ん中に立つ弁慶と称する上半身裸にアーミーパンツ、そしてサングラスをした筋骨隆々とした大男であった。
 

「ちょ! なんで室町時代に弁慶がいるんですかー!」

<あ、ちょっとしたアレンジですから気にしない、気にしない>

<一休みしとったら問答無用で殺られるけどな>

「気にしますー! っていうかそもそもこの人誰ー!」


 ネギは自らに降りかかる危機をひしひしと感じ、涙を見せながら絶叫する。
 一方、弁慶役の男はそんなネギに嗜虐心をそそられたのか、ニヤリと笑うと凄まじい霊力を体全体から垂れ流しながらゆっくりとネギに近付きながら、己の過去を振り返っていく。


「ガキが相手か、しかし俺はかつてGS試験において相手の強さを見誤り、20%の力しか使わずに負けた」

<ああ、そんなこともありましたねー>

<あれはマヌケやったなー>

「だが、その負けの教訓を生かし、俺は翌年の試験で50%の力で戦った」

<いや、教訓生かしとらんやないか!>

<結果も見えていますね。また一回戦で負けたのでしょう>

「確かにその時俺はトラっぽい男に負けた。しかし、俺はそこで理解したのだ。いくら力を残していようと負けては意味が無いと!」

<普通、もっと早く気付くもんやで>

<気がついただけでも神話級の奇跡なのかもしれませんね……>


 弁慶役の男、蛮玄人にはとある夢があった。その夢とは相手を打ち倒し、敗者が悔しさに顔をゆがめて自分を見上げる時、実は自分が半分も実力を出していなかったという事実を告げる事。つまり、シッポのある宇宙人が活躍するどこぞの格闘漫画のような舞台に身を置く事が夢であったのだ。
 しかし、その夢は二度にわたる敗戦で潰えた。ならば今回はまさに三度目の正直、出し惜しみは一切無しの全力戦闘で勝利を掴むのみである。


「あ、あうううう」

「ふははは、いかに脅えようと無駄だ。俺はもう油断はせん、100%、100%の力で貴様の相手をしてやろう!」

「いやぁぁー、手加減ぷりぃぃぃず!」


 ネギは得体の知れない気配に脅え、ゆっくりと後ずさる。
 蛮はそんなネギにゆっくりと近付き、されど兎を駆る獅子のごとく油断なく相手を追い詰めて行く。
 ネギは圧倒的な暴の気配を放つ男を前に、獅子を前にした兎のようにただ目を見開くのみ。もはやネギの運命は風前のともし火であるかのように見えたのだった。


 そして10秒後。


「あれ? 弱い……」


 戸惑うネギの足元には、彼によって一撃のもと葬り去られた蛮が血だるまになって横たわっていた。考えてみればほぼ不死身の耐久力を持つ上に高畑に勝利したネギが、いまだもってGS試験に合格できない蛮ごときに負けるはずがないのである。
 ネギはそのあまりの手ごたえのなさに首をかしげながら、もはや生ゴミと化した男を振り返ることなく目的地へと歩を進めるのだった。


「ちょ、ちょっとまて。あと20%、まだピンチの時に限界を超えて発揮される真の力が……」

<そんなもん都合よく発揮できるわけないやろが>

<発揮できるのにも資格がありますしねー>

<せやな、主役か、少なくとも準主役ぐらいでないとその設定は無理やろうな。つーか、それ以前に100%が120%になったところで結果は変わらんと思うんやが>

<たんなるモブキャラのあなたではまさに夢のまた夢でしょうねー>

「ぐはぁぁぁー!」


 語部達は未だに未練たらしく何かをほざいている蛮に、キッチリと言葉でトドメをさす。そしてネギが橋を渡りきったのを確認すると裏方に合図を送り、ゆっくりと幕を下ろさせるのだった。




<さて、一休は目の前に立ちはだかるいくつもの障害をとんちを使って切り抜け、ついに将軍が待つ金閣寺へと到着しました>

<とんちっちゅーか、力技もいくつかあったけどな……>

<ま、そんな細かい事はどうでもいいとして、将軍との謁見のシーン行きますよー>


 キーやんの合図のもと、降りていた幕が再びスルスルと上がっていく。そして幕が上がりきると、そこには畳敷きの広間のような舞台が整っていた。
 広間の中央の一段上には、古式ゆかしい公家ちっくな服装をした横島が座り、その一段下に控えるのは侍の格好をした小太郎であった。
 どうやら横島が足利義満、小太郎が蜷川新右エ門役のようだ。
 ちなみに、横島の背後には何故か太刀持ちとして男装したタマモと刹那が控えていたりする。


「さてネギ、よく来てくれた。お前の噂はこの小太郎から聞いている」

「えっと、それで僕はいったい何故呼ばれたのでしょうか?」

「ああ、お前のとんちが見たくてな。というわけで、俺が出した問題をとんちで解いて見てくれ」

「あ、そんなことでしたらお安い御用ですよ」


 ネギは横島からなにか無理難題を吹っかけられるのではないかとビクビクしていたが、ただのとんち勝負と聞いてホっとする。
 横島はそんなネギに対して不敵な笑みを浮かべながら、傍らに控える小太郎へ合図を送った。すると、小太郎は立ち上がり、部屋から出て行くとしばらくして大きな屏風のような物をネギの前に置いた。


「えっと、これは?」

「いやな、最近夜中にこの屏風に書かれたトラが屏風から抜け出して……」

「横島さーん! 早くワッシをここから出してくんしゃーい! ドリアン・グレイの絵の具で封じ込められたんじゃー!」


 横島がネギへ向かって謎かけをしようとした瞬間、突然屏風の中に描かれた人型のトラが動き出し、涙を流しながら横島に助けを求め始めた。


「……」

「えっと、出しちゃっていいんですか?」

「……とりあえずしまっとけ」

「そんな! せかく二度目の出演なのにあんまりじゃー!」


 横島は泣き叫ぶトラを見なかったことにし、目線を虚空へと向けながら小太郎に次の屏風を出すように指示した。すると小太郎は泣き叫ぶ屏風を情け容赦なく舞台の袖へ片付け、しばらくすると新たな屏風を持ってくる。ただし、何故かその表情にはハテナマークが浮かんでおり、屏風をネギの前に置くと不思議そうな顔で横島の背後に控えるタマモと刹那を見つめる。
 一方、横島はそんな小太郎の視線に気付くことなくその屏風を開くと、今度こそとばかりにネギに向かって問題を出そうとした瞬間――


「横島ー! 早くここから出してー!」

「横島さーん、なんか気がついたら絵の中にー!」


 ――屏風の中からトラならず九尾の狐と白烏の切羽詰った声が響き渡るのだった。


「小太郎……お前、この屏風になんの絵が描いてあるか見えるか?」

「……タマモ姉ちゃんと刹那姉ちゃんの絵が描いてあるな、やたらとリアルな」

「なら、今俺の後ろでハンマーぶん回してるのと、ズンパラサと今にも夕凪を抜き放ちそうな気配を出している女の子は誰だ?」

「こっちもタマモ姉ちゃんと刹那姉ちゃんやな……っちゅーことはどっちかがニセモンか」

「いや、この場合本物が絵の中に封じ込まれるから、表に出てるのがニセモノなのは間違いない。問題なのは救出方法だな」


 小太郎と横島は顔を見合わせると大きくため息をつく。そして呆然とした表情のネギも加えて今後の対策を練るべく、部屋の隅へと移動すると相談を始めた。


「そもそも、なんでタマモさん達のニセモノいるんですか」

「一応その原因に心当たりは有るんだがな……」

「心当たり? それはなんなんや?」

「いや、以前俺の高校の美術教師の暮井先生ってのが、ドリアン・グレイの絵の具をつかってドッペルゲンガー騒ぎを起こした事があってな」


 横島は高校時代、そのドッペルゲンガー騒動によって絵の中に封じ込まれ、ドッペルゲンガーにとって代わられかけたという経験があった。
 その経験もふまえ、先ほどのトラの事から考えるとまず間違いなく今回も暮井とドリアン・グレイの絵の具が関わっていると見て間違いないだろう。
 ネギは横島がかつて似たような事を経験していると聞くと、なにか解決策があるのかと期待の眼差しを横島に送る。


「以前同じ事があったのなら、今回も前回と同じ方法で解決できませんか?」

「うーん、あのドッペルゲンガーは霊的に処理された修正液でないと退治できんのだが、あん時は絵を描いた暮井先生が内面を描写しないヘタクソだった点をついて改心させて解放してもらったんだ……」

「じゃあ今回はどないなんや?」

「修正液も無い上、暮井先生もこの場にいない以上手も足もでんな。つーかいつの間に二人の絵なんか描きやがった。ヌードデッサンだったら許さんぞ」

「あ、せや! 文珠を使ってなんとかならへんか?」

「たぶん無理だろう……こんな面白そうなハプニング、あの二人が文珠なんてお手軽手段で解決させると思うか? 妨害する気まんまんだぞ」


 横島はネギ達に語部の方を見るように促す。するとそこでは、語部達が立て札に『文珠使用禁止』と書き込み、その札に念を込めている。これによってこの空間での文珠使用は完全に不可能となったのである。


「となると、何か他の方法でタマモさん達を救出しないといけませんね」

「話の流れから行くとネギ、お前がなんかとんちで解決するのがベストやな」

「つーわけでネギ、すまんが頼む。こうなったら俺にはもう手も足もでん」


 横島は役柄である将軍の立場も忘れ、ネギに土下座をしてタマモ達を救出するよう頼み込む。
 するとネギはしばしの躊躇の後、ため息と共に座禅を組むのだった。
 ちなみに、躊躇した理由は本物を解放しないほうが今後の生命安全を確保する事が出来るのではないかという、とっても魅力的な神の囁きであったりする。
 もっとも、それを実行した場合、横島によって4度目の宇宙飛行、それも今度こそ月まで送られる事は間違いないであろう。
 それに気付いたが故、ネギは別の意味で己の生命を確保するために、某名探偵も真っ青な真っ黒い脳細胞をフル回転させるのであった。


 ポクポクポク……チーン!



「ネギ、本当にその方法で元に戻るのか?」

「ええ、間違いないと思いますよ……その後の命は保障しませんが」

「兄ちゃん、最後まで生きる希望を失うんやないで」


 横島は複雑な顔をしながら、今回の作戦の発案者であるネギを見つめる。するとネギはどこまでも笑顔のまま、物騒な事をさらりと言ってのけた。
 横島は己を待ち受ける未来に涙しつつ、されどしっかりとした足取りでドッペルゲンガーの方へ歩を進める。そんな彼の背中にはなんともいえない悲壮感が漂っていた。


「無駄よ、私を倒さなければ本物は解放できないわ。いえ、私こそが本物のタマモ、そして私なら横島の望みを何でもかなえてあげるわ」

「横島さん、あの子達の事なんか忘れて私達と幸せに暮らしましょう」


 タマモと刹那の姿をしたドッペルゲンガーは横島の性格を知り抜いているのか、肩をはだけフトモモを晒すなどギリギリの視覚効果を利用して横島を引き込もうと妖艶な笑みを浮かべている。
 横島はそんな二人に対し、フラフラと誘蛾灯に群がる蛾のように近づくとニセモノのタマモと刹那の手を取り、その体を引き寄せて抱きしめた。


「そ、そんな! 横島、嘘でしょ!?」

「横島さん! やめてください、その二人は……」


 絵に封じ込められたタマモと刹那は信じられないものを見たかのように目を見開き、ニセモノを抱きしめる横島を見つめる。
 すると横島は二人の声を聞きつけたのか、なんともニヤケた顔を上げると小さく、しかしはっきりと呟くのだった。


「あ、本物のタマモと刹那ちゃんよりワンサイズでかい……」


 横島が呟いた一言。それは破滅の呪文であった。


 ブチィ!


 横島がラピ○タ崩壊を促す破滅の呪文に匹敵する言葉を言った瞬間、屏風の中から切れてはいけないナニカが切れた音が響き渡った。
 よく見れば横島は引き寄せたニセモノのタマモと刹那を抱きしめるついでに、しっかりとその胸に手を置いている。
 そして、本物のタマモ達はこの時はっきりと見たのだ。ニセモノの二人が自分達に対して勝ち誇った顔をしていたのを。


 ビシリ……


 どこからともなく、ナニカが割れるような音が劇場に響き渡る。
 観客達はその音の発生源を探るべく、キョロキョロと周囲を見渡すと、ようやくその発生源を発見したのだ。
 音の発生源、それは言わずと知れた屏風であった。


 ビシリ、ビシリ……


 屏風から響く音、その音は次第に大きくなっていく。そして観客が注視する中、その音の発生源である屏風からは凄まじい瘴気があふれ出し、やがてその瘴気は観客席まで漂っていく。

 
 ビシリ、ビシリ……バキ!


 屏風から漏れでる瘴気がゆっくりと劇場を包み込もうとする中、やがてその音は最高潮を向かえ、ついにナニカが折れるような凄まじい音と共に、視界を覆うほどの大量の瘴気が劇場中に吹き出していく。
 その瘴気を浴びた観客達は寒気を覚える者、快感を覚える者などバラエティーに富んでいたが、最前列に陣取っていた天使などはそのあまりの強烈さから完全に気を失ってしまっている。
 しかし、その瘴気も時間と共に薄まり、30秒もすればその視界は完全に回復していく。
 そして彼らは見た。完膚なきまでに破壊された屏風の跡に現われ出でた二柱の新たなる魔神の存在を。


「横島……ちょっと聞くけど、そっちのニセモノのナニガどう私達より大きいのかしら?」

「横島さん、あなたにとってそんなに胸の大きさが重要なんですか……」

「いや、確かに大きいほうが俺の好み……ってまった! 二人ともまだ成長途中だからこれからちゃんと上乗せが! っていうかこれは二人を助けるためにネギの発案で!」


 横島はかつて対峙したアシュタロスを平気で上回る凄まじいプレッシャーを吐き出す二人を前に、涙を流さんばかりの表情を浮かべて必死の弁解を試みる。もっとも、その前にしっかりと本音を暴露して自爆し、なおかついまだにニセモノのタマモと刹那の胸から手を話さないあたり、実に彼らしい。
 ちなみに、確かに横島の取った行動はネギの発案だ。その内容とは横島がニセモノとイチャつくことによってタマモ達の嫉妬心をあおり、世界の法則すら無視する根源の力、嫉妬の力でもって自力で脱出してもらおうというものであった。
 しかし、ネギが指示したのはあくまでもニセモノとイチャつくことだけであり、胸の大きさに関する失言は含まれていない。
 故にタマモ達から邪眼のごとく死のエネルギーを伴った視線を受けたネギは全身全霊をもって首を振り、横島の言った事を否定する。


「ぼ、僕は何も言ってませんよ……」

「う、嘘をつけー! お前がニセモノとイチャつけゆーたろーがー!」

「何を言うんですか! タマモさんの恐ろしさを知る僕がそんな危険な事を言うはずが無いじゃないですか!」

「うっわえげつねえ、兄ちゃんを切り捨ておった」

「う、裏切り者ー! 一緒に弁解してくれるゆーたやないかー!」
 
  
 ネギは横島を待ち受ける未来のとばっちりを受けないよう、しっかりと自分は無関係であるとタマモに主張すると、複雑な表情をする小太郎の手を引っ張り、そそくさと舞台から引き上げる。するとちょうどそれと時を同じくして、あふれ出る瘴気に耐えられなくなったのか、タマモ達のニセモノはその姿が維持できなくなり、元の絵の具へと返っていった。
 これにより、舞台に残るのは小動物のごとく脅える横島と、大魔神のごとく怒れるタマモと刹那のみとなる。
 彼女達は脅える横島に向かって一歩一歩、ゆっくりと近付きながらそれぞれの獲物を構える。もはや横島の運命は風前の灯であった。


<さて、こうしてとんちを使って囚われの美少女二人を救出した一休は、身の安全というこの上ない褒美を怒れる魔神からもらい、新右エ門の見送りのもと寺へと帰っていきました>

<今までの経験上、こういった場合は確実にまきこまれとんのに、今回はうまく逃げたなー>

<彼もちゃんと成長しているということですね。つくづく今後が楽しみな素材です>

<せやな、今の時点でも億単位の契約金を提示するだけの価値はあるで。天寿を全うした時がほんまに楽しみや>

「ってそこの二人! ちょっと助けようって気はないんかー!」

「問答無用、今回ばかりは本気で頭にきたわ。くらえぇぇぇー!」

「うぎゃぁぁぁぁー!」


 二人の語部は追い詰められる横島の姿を見て笑いつつ、ネギの行く末に思いをはせる。
 そして、横島の絶叫と打撃音、さらにはどこぞの決戦奥義の破壊音をBGMとし、満場の拍手と共に終劇を迎えるのであった。

おわっとけ





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