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二人?の異邦人IN麻帆良 NEXT


及び、斬魔交響曲デモンベイン=グローリー


「もしもデモグロの世界に異邦人のキャラが来たら」





―――最終話(前篇) 「隣り合う世界」
   
   より分岐した、

   「交錯する世界」―――

by みみウラン






 横島たちが、似て非なる世界に飛ばされてから一夜が明けた。

 コケッコッコーと朝を知らせる声と共に、埼玉県の農村部の端にある、こじんまりした木造家屋の玄関が開く。

「んー、今日もいい朝だな! いい一日になりそうだ!」

「せやな! 今日もがんばるでー!」

 そこから、首にタオルを巻いたオッドアイの青年と、青年と同じような格好の犬耳の少年がそれぞれ鍬を担いで姿を顕した。

「そんじゃ、俺らは畑仕事行ってるんで、ゆっくりしといてくれ」

「横島兄ちゃん、そんじゃいってくるわ」

「おー」

 元気に声をかけて出かけていく居候農家の大十字九郎と異邦人犬上小太郎を、異世界からの来訪者である横島が気の抜けた返事で送る。

「では、今日も妾も仕事に精を出すか」

「てけり・り」

「今日も元気に働くッス」

 そして、仲の良い兄弟の様な二人の後に続くのは、麦藁帽子を被るアル・アジフと名乗る紫髪の幼女、幼女とおそろいの麦藁帽子を被るダンセイニと名づけられたオレンジのゼリー状の物体、首にタオルを巻いたこの世界のアルベール・カモミール。

「……シュールだな」

 平和な農村での朝、1D6/1D20の正気度喪失をしてしまいそうな程長閑な光景を見送りながら、横島はちゃぶ台に突っ伏して昨日の事を思い返す。
 
 
 
 
 
 
 昨日の麻帆良学園での状況。
 落ち着いて考えてみれば、平行世界に飛んでしまった事にはすぐに気付くであろう状況だった筈なのに、タマモと刹那がいなくなった事や、生半可『自分を知っている』麻帆良の住人の反応などで思考がおいつかなかったわけだ。
 それにしてもこれはあんまりだ。
 この世界の横島忠夫は麻帆良学園ではかなりの嫌われ者らしいが、そもそも世間での風評は“あの”美神令子が守銭奴認定する程のゴーストスイーパーという事らしい。
 しかし、住居は農村部のこじんまりした木造家屋。しかも美神令子除霊事務所や麻帆良学園の住人でさえも後ずさりしそうな奇人変人が同居する環境とか、実に意味不明である。

 具体的には――
 
 昨日の夜、天龍童子に連れられて来たこの世界の横島忠夫の住居周辺を見て、まず思ったのが過疎地とか限界集落といった印象。それほどに家屋が少なく人も少ない上に老人ばかりの地域なのだ。
 そんな農耕地帯の奥にある古臭い木造家屋を指して『あれがこの世界の横島忠夫の住居じゃ」と言われた時には思わず「は?」と目が点になった。
 それから、天界への事務があるのでとそのまま帰ってしまう天龍を尻目に、居間に通される横島の目にまず入ったのは、オッドアイの中性的美形の男。

「俺は大十字九郎。ここで居候やっている農家だ。よろしくな」

 それだけならば条件反射で藁人形片手に五寸釘だが、彼は胡座の上に紫髪の幼女を乗せたペドフィリアであった。

「妾はアル・アジフ。『死霊法典(ネクロノミコン)』の原典にして大十字九郎の伴侶だ」

 幼女はどうやら人外ロリのようだ。しかも何気に知り合いの人外ロリより歳を食っているらしい。

 しかも、この御二方、しっかりと上の位階にいらっしゃるようだ……。

(ガ、ガチで鬼畜ロリペドかよ……)

 流石に変態(ロリコン)で外道(二股掛け)な我が身ではあるものの、ド変態(ペドフィリア)のド外道(経験開発済み)に嫉妬するほど自分は堕ちていないというか、やったら自分もど変態という事になりかねないと視線を逸らした横島の目と、オレンジ色のゼリー状の物体がつぶらな巨大な単眼が合った。

「てけり・り」

 そのゼリー状の身体から、触手状の器官を捻り出す様に伸ばしてその先に手を象る。
 どうやら挨拶らしい。
 横島は茫然自失のままその触手と握手しながら、そのゼリーの頭に乗っている白い物体に気付く。
 なんともまぁ、気持ち良さそうに鼻提灯まで作っているエロオコジョであったが、いつから彼はゼリー姦などというマニアックにも程が有るプレイに目覚めたのだろうか? 

「あ、横島兄ちゃん。そのカモはこの世界のカモだそうや。あと、兄ちゃんが握手しとるのはダンセイニっていう名前や」

 横から声をかけて、横島を正気の世界に引き戻してくれたのは、一足先にここに来ていた犬上小太郎であった。

「そ、そうか。よろしくダンセイニ」

「テケリ・リ」

 ――彼は似非でない紳士だった。
 
 
 
 
 
 
 とりあえず、自分とは関係無い世界だから深く考えるだけ無駄なのだろうと首を振る。

「まぁ、それはそうと、あの大十字九郎って奴の話によれば、今日死神以外はここに集まるって話だったけど――」

 天龍曰く、この横島宅の家主及び同居人は外宇宙の知識に精通しており、今回の件においてはこの世界の神族魔族以上の適任との事らしい。
 一対この世界の自分は何をやっているんだと聞くものの、“マギウス”だの、“デウスマキナ”だのといった、要領を得難い話になってしまい、とりあえず自分の理解の及ばない凄いヤツになっているものと納得する事にしたら天龍は『その程度の認識で止めて置くのが正解じゃ』と意味深な事をのたまう始末。

「まぁ、でも……んな事より」

 大十字九郎が言うには、魔改造カシオペヤによってこの世界――一部は更に別の所――に飛んでしまった人物全員の身元を確認し、死神を除いた全員が今日ここに集められるという事だ。
 ちなみに死神はこの世界の横島宅に近寄る事をこの世界の運命室魂魄管理部採取課から禁じられ、現在は妙神山にて帰還を円滑にする為に元の世界の座標を確認しているとの話だ。
 理由を聞くと、九郎本人を始めとした魔術師の存在が、霊的概念存在である死神の霊的構造に多大な悪影響を及ぼす可能性がある為との事であるが、彼の伴侶であるアル・アジフの更なる説明は全く以って意味不明であった。
 
 
 
 
 
 
 突如、外から響く銃声(ガンブレイズ)、銃声(ガンブレイス)、銃声(ガンブレイズ)!
 
「ななな、なんだぁああ!?」

 何事かと、慌てて家屋から外に出た横島の背後で落下音(フォールアウト)!

「――へ?」

 振り向く間も与えられず、木造家屋(横島宅)を吹き飛ばす爆発(エクスプロージョン)!

「中東かここはーっ!?」

 尻餅をついて、木っ端微塵に吹き飛んだ木造家屋の成れの果てに思わず突っ込みを入れてしまう横島。
 その声に反応するように、クレーターの真ん中の土がボコリと盛り上がり、そこから小さな人影が緩慢な動きで上半身を這い出す。

「ひ、酷いですよクローさん……なんとか宇宙空間で乾燥冷凍死する前に、月に到着して月神族の方々から月着陸失敗船(お亡くなりになった宇宙飛行士つき)を拝借して地球に戻ってきたってのに、大気圏突入した際にこのままじゃ畑に墜落してしまうからって、そこで着陸船をクトゥグアでバラバラにしてイタクァで細かい破片も破壊して、おまけに辛うじて脱出した僕を他の方向からもクトゥグアで追撃するとか……あれは多分クザクさんだ……普通ならとっくに消し炭だよ……」

 口から黒煙を吐いて愚痴を零すのは、先日横島の手によって生身で月面旅行を敢行してきたネギ=スプリングフィールド。
 この世界の魔術師(マギウス)ネギである。

「あ、異世界のタダオさんこと通称“バンダナ無しの横島さん”も生きていましたか。先日は知らなかった事とはいえ、失礼しました」

 呆然とする横島の目の前で、よっこらせと全身を地面から抜いたネギは、横島の姿に気付くと、煤だらけの身体で見事な土下座をするのであった。

「わけのわからん通称つける割には潔い程の土下座っぷりだな……それはともかく、命請いまでしなくていいって……」

 呼び方が自然に『タダオさん』である事、そして自分を恐れるそぶりが全く見られない事、何より霊的感覚において自分の知るネギの持つ“邪悪”な魔力とはベクトルが微妙に似ていながら致命的に違った“異質”を纏った、目の前のネギは、自分の置かれた現状を理解した上で見てみれば確かに別人だと納得出来る。

 何より、自分の知るネギより微妙に耐久力が低い。
 ――自分の知るネギならば、あの程度じゃ傷一つつかない筈だし。

「命請いですか?」

 横島の台詞に、ネギはキョトンと首を傾げる。

「そんな無駄な事する暇あるなら、魂砕け散って完全に消滅するまで戦い抗いますよ。ガチで」

 敵が敵だけにそのあたりの行為は全く無意味な為、魔術師ネギの生存アビリティにそんなモノは無い。

「……いや、それ死ぬよか酷くねぇか?」

「いえ、こちらではこれが標準ですので」

「……そ、そうか」

 こちらのネギも色々苦労しているらしい。
 相手が相手だけに、絡め手があまり意味を成さないどころか、普通に死ねればまだマシという程度には。



 ここの住人の非常識のベクトルが自分達のいる世界とは別の方向を、それこそ常人には認識そのものが不可能な所を向いている事に頭痛を覚えた横島は、その頭痛の原因である魔術師ネギから思わず視線を逸らす。



 逸らした視線の先は――

「我等が時空異常を監視している間、こんな所でのうのうと母上と仲睦まじく畑仕事をしているのか貴様っ!」

「いや、しょうがねぇだろ。仕事しないと家賃払えないしっ!」

「真逆、親父殿が至極真っ当な仕事をしているなんてっ!」

「突っ込むところそこかよっ!」

「そして仕事が終わった後は別の意味で母上といい汗かいているのだろう! この変態親父っ!」

「自分の事を棚に上げて変態呼ばわりたぁ、いい度胸じゃねぇか糞息子!」

 ――更に輪をかけて聞くにも見るにも堪えない暴力言語(コミニケーション)。

 紫色の髪をしたこれまた中性的な顔をした少年が、大十字九郎に食って掛り、互いに両手に持った装飾拳銃を格闘戦で捌き合いながら時折に超至近距離から放たれる銃弾を避ける様は、以前見た近未来を舞台にした映画のガン=カタとか言う拳銃戦闘技を彷彿とさせる。
 会話から察するに、あの二人は親子の間柄らしいが、だとするとなんとも殺伐とした家庭事情である。

 その傍で黙々と鍬を畑に振るう小太郎の姿が何故だか切なかった。
 
 
 
 
 
 
 この世界において、最強の一角になっているという、この世界の“魔術師”横島忠夫に興味が無いといったら嘘になる。
 だが、現状でこれだけの疲労感を体験した横島は、もう一人の自分に出会ったとき、どれだけの事になるのか、微かに嫌な予感がしてきた。
 これはさっさとタマモと刹那ちゃん達と合流して帰ったほうがいいなと呆然と考えていたその時であった。

「横島っ!」

「横島さんっ!!」

 唐突に、聞きなれた二人の少女の声に振り返るなり、横島は金髪のナインテールの少女の体当たりを受けた。
 何か二人の声に隠れる形で、カエルが潰れる悲鳴のようなものが聞こえた気もしたが、横島にとっては気にする程の事でもないので無視される。
 
「た、タマモっ!?」
 
 胸に顔を埋めているので表情は全くわからないが、間違いなくタマモだ。 

「じー」

 そして、一歩は離れて、横島と、彼に抱きつくタマモを凝視しているのは、黒髪の少女。

「えっと、刹那ちゃん?」

 何か不安そうにこちらを見たまま立ち止まる刹那の姿に、横島は先日の電話であった遣り取りを思い出す。
 いくら、あれがこの世界での桜咲刹那であり、その彼女はこの世界の横島忠夫をあまり好ましく思っていない事を知らされていても、やはり“横島忠夫は桜咲刹那に嫌われている”のではないかという不安がよぎってしまう。

「くんくん」

 そんな横島の不安を他所に、胸元で顔を埋めていたタマモが、鼻を鳴らしながら横島の匂いを嗅いでいた。

「え、えと?」

 一体、何をしているのかと、なんとなく恥ずかしいタマモの行為に躊躇いがちに声をかけようとする横島。

「大丈夫、間違いない! 私達の横島よ!」

 だが、タマモはそれすら遮ってしまう歓喜に満ちた大声で刹那に向かって叫んだ。

「え、それで判るんですか!?」

「当然よっ! ほら、刹那も嗅いでみなさい!」

 声をかけられた刹那は目を丸くして驚くが、タマモはさも当然のようにしがみついていた横島の胸元半分のスペースを開けて刹那を招く。

「そ、それでは失礼しまして……」

 おずおすと横島の胸元に張り付いて、先程のタマモと同じようにくんくんと鼻を鳴らす刹那。

「あ……本当だ、横島さんの匂いだ」

 と、安心しきった表情で嬉しそうな声を上げ、そのまま刹那もタマモと同じように顔を横島の胸に埋める。

(ど、どんな匂いなんだ……)

 先程の不安など単なる杞憂だったのだと理解して、そして大切な少女二人が、本当に自分を慕ってくれているのだと、胸元にある二つの暖かさを感じ取しながらも、自分の今の匂いってどんなのだろうと、別の意味で少し不安になってしまう横島である。





「……愛されてますねー」

 二人の少女に踏まれてそのまま地面に張り付いているネギが、これまた顔を張り付かせたまま呟いた。
 地味に怨嗟が入っている声色であったが、誰もそれを聞く者はいない。






「でも、良かった……タマモはちゃんといるんだな」
 
 胸にかかるタマモの重みを改めて感じながら、横島は無意識にタマモの腰に腕を回す。
 それは、彼女を失うまいとする想いの表れであった。

「? よくわかんないけど、私はいつだって横島の傍にいるわよ?」

 突然、腰に腕を回されたことに少し驚くタマモであったが、横島が態度から、彼が抱く微かな不安と自分への愛情を感じ取り、優しい笑顔で横島を見つめ返す。



「刹那ちゃん。俺は刹那ちゃんにとって、只の不埒な変態なんかじゃないよな?」

 対して、刹那へ腕を廻すのはやはり躊躇いが残っていた。
 胸元にしなだれかかる刹那の姿が、それこそ先程の不安など単なる杞憂だと証明している筈なのだが、それでも先日の事は横島にとってのトラウマだった。
 だからこそ、本当の意味で不安を払い除けるべく、曖昧に忘れるのではなく、しっかりと確かめるのだ。

「……」

 真剣な目で質問をされた刹那は、その質問の意図が理解できないのか、首を傾げるしぐさを見せて暫し黙ったままである。

「せ、刹那ちゃん?」

 返事の無い刹那に、微かだった筈の不安が次第に大きくなるのが自分でも判る。

「確かに横島さんスケベで変態です」

 綺麗な女性を見たらすぐナンパをするわ、際限無くスケベだわ、変態である事もまるで否定出来ない。
 だからキッパリと答えてやった。

「……あ」

 その言葉に強いショックを受け、一瞬目の前が暗くなるような錯覚を覚えた横島。
 だが、それはチクリと少し強く抓られた胸の痛みで吹き飛んでしまう。

「ですけど、私はそんな横島さんを愛しています」

 横島の胸を少し強めに、しかし何処か愛しげに抓ながら、刹那は間髪を要れずにはっきりと答える。
 ――横島が半妖である彼女を当たり前のように愛しているのと同じように、刹那もそんな彼をありのまま愛していると。
 
「だから、その、ちゃんと私達を見てくださいね?」

 言い終えてから、自分がとても恥ずかしい事を口にした事に気付いた刹那は、耳まで真っ赤にしながら、火照った顔を隠すように再び横島の胸に顔を埋める刹那。

「……ああ、わかっているよ」

 そんないじらしい彼女の告白に感極まって、横島は今度こそ刹那の腰に腕を回した。





 ――と、其処までは良かった。
 ふと、二人の絆を再確認して安心しきったところで、今この状況がとても自分の理性的な意味で不味い事に気付いてしまう横島。

 いくら感極まってとはいえ、自分にしがみつくタマモと刹那を自分からも抱きしめることで、自分から彼女達の体温と柔らかさと重みを胸いっぱいに満喫する事になっており、このままじゃ今までなんとか保っていた本当の意味での最後の理性が何かのはずみで瓦解しかねないと戦慄を覚える。
 だが、視線を逸らそうにも、実に幸せそうに自分の胸に甘えながら縋りつくタマモと刹那の幸せそうに蕩けた顔から目を離すことなど、横島に出来るわけもない。
 そこで、タマモと刹那に向けている全神経の一部でもどうにかならないかと躍起になることで無意識に遮断していた聴覚が辛うじて開放された。





 だが、耳が拾うのは――

「九朔は妬いておるのか?」

「そうよ? 妬いているのよ。何だかんだいって、やっぱり捨て子にされたのは寂しいのぉ。判る? お母様」

「……そのなんだ、本当に済まない」

「そう思うのならぁ、少しは親子のスキンシップを楽しみましょう――」

「あっ、こらやめんか九朔っ!」

「おいこら紅薔薇! というか我が半身! 人が糞親父と因縁の決着をつけようとしている時に、なんとうらやま……もとい破廉恥な事をっ!」

「そこ、何気に本音が洩れていやがるな変態息子」

 ――家族のスキンシップにしてはヤケに艶かしく、子供の発言にしては些か変態嗜好的な会話の応酬であった。



(……ウチの両親はまだ真っ当だったんだな)

 自分の父親と母親の事を思い出した横島は、ああいう人類の慎みとか良識が崩壊しつくした家庭は流石に勘弁したいとげんなりした所、耳元で囁かれるのは少女の誘惑。

「ねぇ、横島……」

「横島さん……」

 何やら言い淀むタマモと刹那に首を傾げる横島だったが、何か大切な事のだろうとは薄々気付いて二人の言葉を待つ。
 暫く、お互い何か言おうとして、なかなか横島に対して口には出せず、二人だけに聞こえるよう小声で――

「やっぱり恥ずかしいですね」
「でも、こんな状況なかなかないわよ?」
「でも、その、これ言ってしまうとやっぱり行くところまで……」
「私達も覚悟を決めないといけないわよ! このまま美神やシロに負けたままなんて、傾国の美女の面子に関わるわ」
「思いっきり私怨入ってますね」

 ――といった会話が交わされる。

 そして、何かを決心したのだろうお互い目配せして頷いたかと想うと、真剣な目で横島を見つめた。

「「子供作ろう?」」

「こ、子作りっ!?」

 とんでもない爆弾発言に、素っ頓狂な声が裏返って目をぱちくりさせる横島の耳元に、刹那とタマモの心の囁きが聞こえてくる。

「私は元気な男の子」

「私は男の子と女の子が三人づつがいいなー」

 というか、肩の左右にそれぞれチビ刹那とチビタマモが乗って要望を出している。

「いや、出来てみないとわからんだろそれ!」

 自分でも言ってみてから気付くが、このツッコミは色々な意味でどうかと思ってしまうがそれでもツッコまずにはいられなかったのは仕方の無い事。
 
「子供、いやですか?」

「赤ちゃんダメ?」

 胸にしがみ付いたまま、上目遣いのちょっぴり涙目で横島を不安そうに見つめる刹那とタマモ。
 将来の誓いを拒まれたみたいで心が張り裂けそうになる程の不安を抱いている二人の内心は、横島には手に取るように判る。

「いやいやいやいやいやいや、ゆくゆくは刹那ちゃんとタマモの子供をこの腕に抱くぞ。これは決定事項だからな!」

 だからこそ、恥ずかしくはあるが、ハッキリと宣言してやった。
 そうなれば当然泥沼になるというか状況は更に甘々で後戻り出来ないナニがどうなる展開になるかもしれなくても、男としてハッキリとこれは言わないといけない横島であった。

「横島さん……好きです」

「横島ぁ……好きー」

 実際、タマモと刹那が更に強く身体を摺り寄せてくる。
 それはまさに、地獄の様な天国、悪夢の様な浪漫。
 なけなしの理性と彼女達を真に想う気持ちで横島は耐える。
 
 
 
 
 
 
「仕込みは上々や! あとは邪魔しちゃあかんえー」

「オレンジのゼリーでベトベトですぅ!」

「なんかウネウネしてるぅ!?」

「テケリ・リ」

「大丈夫ッスよ。慣れれば心地いいッスから」

 背後で、ヌチャリと粘り気のの有る音と共に微妙に危険な台詞が聞こえるが、その惨状を確かめる勇気は全く涌かない。
 なぜなら、背後からドス黒い邪悪な気配が“振り向いたらあかんえー”と威圧しているからだ。
 おまけに、その邪悪なプレッシャーはそのままに、耳元で「本当はせっちゃんに痛い思いをさせたら横島さんでも容赦せえへんけど、“幸せな痛み”なら大目に見てあげるえー」などと、何気に甘くも重たい言葉を囁くのである。
 どうも木乃香は先日知り合った紅の少女に色々と余計な知識を吹き込まれたっぽい。

(とは言われたものの……)

 そりゃ、横島はこの二人を心から愛している。それは断言する。
 ゆくゆくは結婚して、初夜を迎えて、新婚生活から、出産、育児、そしてその先、この身が尽きるその時まで、この二人と共に過ごす覚悟は出来ている。
 しかし、いや、なればこそだ。
 流石に今はまずい。
 中学生で妊娠などと、いくら10歳が教師をやったり中学生が料理店持ったり、しかも二股掛けを公言しても罷り通る程の非常識自治都市麻帆良でもヤバい。
 ――主に社会的視線が。

(とはいえ、そろそろマジで理性が……)

 それはそうだ。文字通りの両手に華、それこそ傾世の美少女と人外の美少女である。
 成長途中とはいえ、いや、だからこその青い果実たる彼女達が自分からおねだりしてきているというのに、そこで背徳的な興奮と欲望を抱かないとしたら、それこそ雄として終わっている。
 増してや今の横島はロリコンとしてカミングアウトした身である。つまり魂の鼓動にストライクして、心はフリーダムなのである。
 血の涙を流しながら未だに我慢しているのは、彼が真に彼女達を愛しているからに他ならない。







 ゾクリ――







 突如、甘い誘惑が吹き飛ぶ程、の威圧感(プレッシャー)
 普通ならば、フルボッコになるまで若しくはなった先でも煩悩ばかりが先行する横島が感じる悪寒は、横島だからこそ、横島のみが感じ取れた、何よりも馴染み深くありながらも今まで体験した事の無い致命的な矛盾を孕む怪異。

「――俺?」

 目の前には、蒼のジーンズジャケットを着て、赤いバンダナを頭に巻いた青年がいた。
 その、何者よりも馴染み深い容姿をしている青年の口許は恐怖を誘う歪な容をしており、その飢えた野獣でさえしないであろう、人間の醜悪な怒りと憎しみを象徴するような血走った眼でこちらを凝視していた。

(ああ、確かにこんな姿見れば以前の俺ならああ反応するわな、そしてワラ人形を持ち出したりして五寸釘打ち込んで……)

 ならば、目の前の光景に納得するしかない。
 彼の嫉妬から生じるタールの様に黒い情念が、そのまま霊的エネルギーとなって身体を通して外に滲み出る。滲み出た霊気というよりは既に瘴気であるそれは、周囲の空気を泥の様に濁らせ、彼がゆっくりと進む一帯の総ての生命――草木は灰色に枯れ、虫や鳥は枯れた地面に堕ち、地面にめり込んでいた魔術師ネギはさっきから動く気配は無い――が等しく侵される。

「って、こんな怪現象納得できるかーーーーーーーっ!」

 一歩、また一歩、死を撒き散らす己の影が近づくのを、一歩、また一歩あとずさりする横島。
 タマモと刹那は絶賛横島の匂いをクンクン嗅いで幸せに浸るので忙しい為、まるで気付く気配さえもない。
 突如、目の前の蒼い影の周囲のみならず、周囲一帯が闇に、それも突然夜が来たと思える程の漆黒に覆われる。
 事実、太陽が遮られたのだ。

 ――あまりに巨大な緑色の鋼鉄の物体によって。

「――やっべ!?」
 
 何事かと上空を見た横島は、その物体を目に入れるなり、抱き付いたままのタマモと刹那を抱えながら必死に距離を取る。
 ……腕の中で、可愛らしい声が二つ上るのが悩ましい。

 ゴオォォォォオン!

 ――ぐちょ

 視界を埋め尽くす程の緑色の金属の物体は、そのまま距離を取った横島の目前に落下し、激しい地響きを生み、その中にありながら、何やらナマモノが潰れ砕ける凄まじく嫌な気分になれる音がハッキリと横島の耳に届いた。

「で、でもこれで助か……………………って、何事?」

 先程の嫉妬の化身がいた場所で、落下した角度のせいか、それともこの世界の物理法則がありえない歪み方をしているのか、あろうことかドラム缶は横倒しの状態で回転しているというのに、まるで泥濘に嵌った軽自動車の車輪の如く、その場から移動する事無く地面を抉っていく。
 ついでに、緑の金属表面に、微かな赤黒いペイントがついているのが確認できた。
 そして更には、その場で回転する巨大ドラム缶の上に必死に回転に巻き込まれないように全力疾走を続ける涙目の明日菜がいた。

「ネギっ! あんたのせいでこんなワケの判らない事になっているのよぉおおお! これ終わったらオシオキだからねっ!」

「いえ、僕に言われても困ります。僕の仕業じゃありませんから、今はハヅキにセラエノに連れて逝かれているもう一人の僕に言ってください」

「そんなワケ判らない言い訳しておバカの私をごまかそうたってそうは行かないわよっ! 覚悟しなさい!」

 しかも、何故か明日菜の隣で並んで走りながら口論をしているのは、先程の衝撃で地面から跳ね飛ばされ、そのままドラム缶に張り付いてしまった魔術師ネギ。
 
「あ、こっちの世界のネギがアスナちゃんのハリセン受けた拍子にこけて回転に巻き込まれた……」

 先程と同じような軟質と硬質の混じった破砕音が回転するドラムの下から聞こえ、ドラムの表面にちょっぴり赤黒いシミを作る。

 このままでは、ドラム缶の上の明日菜がこっちの世界のネギと同じ運命を辿ってしまう。
 流石にあの程度ならば死にはすまいが、助けてあげたほうがいいかなと、横島は漠然と思った。


 その時だ!


「アスナーーーーーーーッ!」

 遥か上空より音速を超えたスピードで巨大ドラム缶に接近するのは、自動車大のエイの様な奇妙な形状の漆黒の飛行物体。
 セラエノ断章が一形態、“魔翼機バイアクヘー”だ。

「術式強制執行っ! 機神部分招喚!」

 叫びと共に空間を歪ませ、バイアクヘーの腹下に出現したのは、全長50メートルを越す巨大な黒光りする鋼の杖。
 否、
 これこそ魔導書セラエノ断章と魔術師ネギ・スプリングフィールドの駆る鬼械神の遠距離殲滅兵装。

「呪法兵装:超長距離術式魔杖砲“ハスターランチャー” 人柱魔弾“ネギ・スプリングフフィールド”装填っ!」

 ガシャコ! と、“ナニか”が砲身に装填される音は、恐らく聞く者に理由の判らない悪寒が背中を走らせるであろう。
 そして、その杖の先、もとい大砲の砲口から、もしも常人の耳に届いたならば魂を押しつぶされかねない禍々しい呪詛が漏れ出す。

「術式発動:人柱魔弾・発射(サクリファイスキャノン・ファイヤ)!!」

 超音速×超音速の相乗加速によって撃ち出された弾丸が、空を引き裂きドラム缶を貫いた。
 その弾丸の威力たるや、巨大なドラム缶を完全に貫通し、退避した横島の目前で小さなクレーターを作っていた。

「うーきゃきゃきゃきゃきゃきゃーーーーーー!!」

 それに遥かに遅れた音の速度で、馴染み有る少年の気を違えた甲高い狂笑があたりに響いた。   

「………………見事な人間砲弾っぷりだな」

 目前で犬神家の一族の如く頭を地面にめり込ませ逆立ちになっている、黄色い布で簀巻きにされているネギの姿に、横島は畏怖にも敬意にも似た感慨を洩らす。
 それと同時に、貫通されたドラム缶の中心部がナニやら危険な化学反応を起こし大爆発を起こした。

「イヤァーーーーーーーーーッ って、あれ?」

「アスナ、大丈夫?」

「う、うん……誰だか知らないけど、ありがと」

 爆発に巻き込まれ、またもや空中飛行を体験する明日菜であったが、それを空中でキャッチしたのは深紫の道化服を纏った薄紫の髪の少女。

「ネギ、君の尊い犠牲によって、一人の少女の命は救われた。誇りを胸に逝くがいい」

 アスナをお姫様ダッコして軽やかに地に降りるのは、魔術師ネギの従者にして魔導書、義姉にして師であるセラエノ断章の精霊のハヅキである。

「……」

 地面に突き刺さったままの闇司祭ネギからは返事は無かった。 
 というか、頭が土に埋まっている以上、返事とかできるわけ無いし。
 
 
 
 
 
 

「だぁああっ! ウェスト! テメェわざわ粗大ゴミとか射出した挙句に爆破すんじゃねぇ! 始末する身にもなりやがれっ!」

「明らかに冤罪である! 我輩つい先程まで麻帆良学園で教え子とちょっとばっかり気の早いドキドキ試験勉強監督をしていたのである!
 どれだけドキドキかと言うと、途中で居眠りをしたら電磁目覚ましハロルド君が火を噴き、トイレ休憩が10分を過ぎれば強制排除機ハリントン君で水圧射出され、食事は5分以内に終えなければ片手でペンを持って片手で箸を持つ事を強要される、死と女の子の慎みの危機が隣り合わせな勉強天獄っ!
 ちなみに可能睡眠時間は一日6時間とする。
 ついでに我輩、更にそれらの採点やら問題改善やらしなきゃいけないので実質一日3時間寝ているかどうかの有様なのであるぞ!」

「ドクター、何気に勤労だな。というか、ドクターだけでなく親父殿まで真面目に働いているなどとは、実に面妖な世界だな此処は」

「九朔、テメー失礼にも程があるぞ!?」

「ダーリン久しぶりロボー」

「汝は帰れ!」

 会話から察するに、巨大ドラム缶の持ち主らしい緑髪の男と九郎が騎士の少年を含めて言い争っている横で、何処から現れたのか緑色の髪の女が九郎に抱きつこうとするのを、アルが紅い蜘蛛糸で亀甲縛りで束縛している。

「私は構わないのにぃ……」

「何がっ!?」

「このままお父様だけでなく、ちゃんと仲良く騎士殿を含めて家族で4P、そしてエルザを加えて5Pでもぉ」

 紅の少女は親近相姦妻妾乱交などという、背徳2セット分、実際は幼女、自慰、同性などのオプションも含めた、実に規格外的な提案をするわけだが、流石に他の面々は――それこそキ○ガイの代名詞である緑髪の白衣の男とその娘でさえも――全員ドン引きだ。

「お父さん(パーパ)は、お前をそんなはしたない子どもに育てた憶えはありませんっ!」

 娘のあまりもの変態的思考(嗜好)に、父親の九郎は嘆きの絶叫を紅の少女にぶつける。

「「だから、育てられた覚えなんか最初から無いわ!」」

 が、その言葉には、紅の少女だけでなく騎士の少年まで同時に律儀に突っ込みを入れる。

「永劫の戦いの為、愛する子供を育児放棄をしてしまった結果がこれであるか……仕方ない部分があるとはいえ、嘆かわしいものであるな」

「崩壊した家庭は悲惨ロボ」

 どうやら、九郎とアルは人類の理解を逸脱した理由で、子供を何処かに預けるような形で育児放棄した前科があるらしい。

 ――そりゃ、親面されたら誰だって怒るわな。





「なぁ、子供作ったら一杯愛情注ごうな?」

 向うで家庭崩壊をしている一家の姿をみながら、自分達は絶対にああなってはならいと心に決め、呟く横島。

「はい……」

「うん……」






「流石はネギ。砲弾にされても生きている。そこに痺れる憧れる」

「棒読みで心にも思っていない事言うなっ! というか、あの頑丈さはとっくに人類の範疇じゃないよ!」

 巨大ドラム缶の爆発跡を踏ん反り返って眺めるハヅキに、いろんなものに踏まれたり磨り潰されたりしたまま地面にめり込んだままの魔術師ネギが顔だけ上げて素で文句をぶつける。
 生きているだけ驚異的であるにはあるが、流石に見ているこっちが痛々しくなる位にはボロ雑巾の様な有様である。

「いや、実際あれだけ頑丈だと便利だと思っている。だから、今度やってみようか生身大気圏突入」

「只でさえ精神面で人外魔境転がり落ちはじめているのに、奇人変人方面でもタダオさんのようなのがいる位階に転がり登るのは勘弁!」

 そのすぐ背後で、明日菜によって掘り出された闇司祭ネギは、あれだけの事があったにも関わらず自身には掠り傷一つもついてはいなかった。
 人外魔境に奇人変人と呼ばれる程には頑丈な闇司祭ネギである。

「……アスナさん、お願いです。今すぐこの布を外してください」

「う、うん」

「ダメだよアスナ! 今外してしまうとっ!」

 生気の無い声で懇願するネギに頷き、ドン引きになりながらも黄色い布を剥がそうとする明日菜であったが、それを慌てて駆け寄ったハヅキに羽交い絞めにされて阻止される。

「ちょっとアンタ! 何するのよっ!」

 突然の事に抗議をして、ハヅキを振り解こうとする明日菜であったが、ハヅキも必死にしがみついたまま離れようとしない。
 そんな二人の耳に、ネギの腹の底から洩れるような怨嗟の如き呻きが届く。

「この手が自由にならないと……僕の目玉を抉り取れない……これ以上耐え難いアレを見ない為にも……目を、目玉をぉおおおお……」

 どうやら、闇司祭ネギはカルコサかセラエノ図書館、もしくはその道中で文字通り見るに耐えないナニかを目撃してしまったらしい。

「判ってくれた?」

「……うん」






「変な育て方はしないようにしような。特に大気圏突入は流石にナシだ」

 ナニやら致命的なモノを見て精神を侵されてしまったらしい闇司祭ネギを見て、自分の子はああはしてはいけないと心に誓う横島。

「そ、そうですね……」

「え? ダメなの?」

 比較的常識派の刹那は口許をヒクつかせながら同意するが、いささか基本常識が欠けているタマモは横島の言葉に首を傾げる。

「いかんわい!」

「はーい」 

 とはいっても、横島の注意を素直に聞いた返事をするタマモであった。





 周囲の状況そっちのけどころか、しまいには状況をダシにしながら自分達の世界に没頭していく横島、タマモ、刹那の三人。
 ダシにされているほうはされているほうで、見ての通り自分達の事でいっぱいいっぱいなので横島達の事など全く気づきもしない。



 ――いや、


 そんな正三角形バッカプルな三人に嫉妬とも憤慨とも羨望ともつかぬ感情をごちゃまぜにしつつ制裁を加えようと果敢に立ち向かおうとした人物が、いたことはいた。

 いつからそこにいたのか、白い髪と白い翼を持った紅い瞳の少女が、上空から横島宅の惨状を見下ろし、その中で二人の女の子とイチャついている横島達を発見。
 しかも、その片方が髪を黒く染めていた頃の自分と瓜二つ。横島の胸元で幸せそうに擦り寄っているのを見て、そのあまりにも意外な光景に空いた口がふさがらなくなり硬直することしばし。

「お放しくださいっ! お嬢様を護る使命をどっかに置いたかのように男と、それも何故か“あの”横島忠夫などに抱きついて甘えている私に一太刀、せめて一太刀をっ!」

「あかんえー、いくらせっちゃんでも、あんなに幸せそうなせっちゃんの邪魔したらあかんー」

 と、再起動を果たして、いざ横島と自分のそっくりさんとの間に割って入ろうとしたら、いつの間にやら木乃香が何故か背中から自分を捕まえて、白い翼を愛しそうに頬擦りしていた。

「お、お嬢様っ! い、いえ、いくら異世界のお嬢様といってもやっぱりお嬢様! 何やら真っ黒でスリットがちょっとエロい衣装に身を包む腹黒そうなお嬢様でもやっぱりお嬢様! 止めないでくださいっ!」

「白い羽根と白い髪のせっちゃんもかわえーなー! 白い羽根が毛布みたいで気持ちええわーぁ」

「じゃなくて止めてくださいっ! ああっ、でもやっぱり止めないでっ! ああっ! そんなに強くしないでくださいぃぃいい!?」

「うりんうりんうりんうりん」

「このちゃん、そこだめぇーーーーーっ!」

 ただし、この通り、刹那の幸せを影から見守る闇巫女によってあえなく背徳的な幸福の世界に逝ってしまっていた。




 

「むむっ、木乃香ったら大胆ね……これは私も負けてられないわ」

「ちょっ!? 九朔、やめんかっ!」

「うりんうりんうりんうりん」

「うにゃ、しょ、しょこあ、まっふぇ!?」

 紅薔薇九朔が感極まってアルに抱きついて胸に顔を摺り寄せる。
 何だかんだいって、九朔も親に甘えたい気持ちに嘘は無いし、アルとしても親として彼女の気持ちを跳ね除けるのは気が引けるのだろう、嫌々言いつつも為すがままになっているうちに、呂律まで廻らなくなってしまった。

「貴様の教育が悪いから、紅薔薇が母娘で百合な世界に突入しだしたではないかっ!」

「さっきは育てられた覚えが無いと言っていたのに、こういうときだけ責任転嫁かよっ! つーか母娘どんぶりっ!?」

「くぅうううう! 我だって母上に思いっきり……」

「本音洩れやがっているなマザコン息子!?」

 このあたりになった父息子のコミニケーションは何処までいっても暴力言語。
 ただし、加減を完全に置き去りにした至近銃撃格闘の流れ弾が、地面を焼いたり凍らせたり、無関係なウェストとエルザを吹き飛ばしたり、埋まったままの魔術師ネギと闇司祭ネギを凍えさせたりする程に傍迷惑さが拡大していき――

「ぐはぁ!?」

「へぼぉ!?」

 ――最後にはお互いのオートマチックから放たれた凶弾が相手の脳天で爆破して、あえなくダブルKOとなった。






「ああっ、向う岸に逝ってないアスナが、こんなに可愛いなんてっ!」

「私はノーマルよぉおおおお!?」

「アスナーっ! ウリンウリンウリンウリン」

「イヤーーーーーーッ!」

 何か感極まったのか、突如ハヅキは羽交い絞めにしていた異邦人の明日菜に背後から胸を覆うように抱きしめたかと思うと、背中に頭を思い切って摺り寄せ始めた。

「誰か、僕の目を抉って……」

 すぐ傍で、簀巻きにされたままで物騒な事をのたまう闇司祭ネギがシュールだった。






「このぷよんぷよんした感触がクセになるーうりんうりんうりんー」

「ちょっとひんやりしているとこがまた心地いいですーうりんうりんうりんー」

「てけり・り!? てけり・りー!」

 ダンセイニのボディベッドになれたチビタマモとチビ刹那は、すっかりこの感触がお気に入りらしい。
 大人しくしているぶんには別にかまわないのだが、流石に二人がかりで激しく擦り寄られるのにはダンセイニも涙目になる程に困っていた。






 あまりのカオスっぷりに呆然としてしまう横島の様子に気付いた刹那とタマモが横島の視線の先に気付いて、口には出さずとも自分達も同じ事をしようと横島の胸元に頭を擦り付ける。
 だが、ここで思わぬ障害が起こる。
 いくらタマモと刹那が小柄とはいえ、二人で一人の男の胸元で激しく頭を擦り付けるには不自由が過ぎるのだ。
 お互いに涙目になりつつ顔を見合わせる刹那とタマモ。勿論二人としては片方を押しのけて独り占めするつもりなど毛頭無い。だが、やるならばおもいっきりしたいのいも本心だ。
 
 ふと、天啓が下った。
 
(そこは逆転の発想だ! 出来ないならやってもらえ!)

 やけに爽やかな中性的美形(ただし何故か現在頭がこんがりとヴェルタンに焼けてアフロ)の男性神が、赤と緑の瞳を向けてサムズアップしながら答える。

(女たるもの、男に抱擁されるだけでなく、男を心身共に抱擁出来てこその伴侶なるぞ!)

 かなり不遜態度の誰がどう見ても幼女な紫髪の女神が、タマモと刹那よりも遥かにペッタンコな胸を張って(しかし何故か衣服が乱れ肌を上気させて)答える。 

 何やら、二人の背後で世の一般家庭に対して非常にモラル的に冒涜的な夫婦に姿がよく似た二柱が二人の脳裏に語りかけている。

 タマモと刹那は意を決して互いを見詰め合い、無言で意思を確認し合うって頷く。
 そして、やや躊躇いがちになりがらも勇気を奮い立たせ横島に向かって上目使いで見つめる二人は、羞恥と期待の表情ではにかみながら囁いた。

「私達で……うりんうりん、……する?」

「わ、私達の胸元で、その、うりんうりん、し、し、しませんか?」

 美少女二人による、あまりに、あまりにも魅惑的な提案に、先程の騒動で少しだけ冷えた筈の横島の頭は一気に沸点を超え、ともすればそのまま上がりに上がったテンションと血圧で頭のあらゆる穴から血を噴出しかねない危険な状況へとシフトする。

 だが、そのような天国を目前として不本意に力尽きようする横島に、文字通りの神の奇跡がおこった。

(こんなチャンス滅多にありませんよ。ここは遠慮なくGOです!)

(せや! 周りを見てみぃ! ここでやらなきゃ男がすたるでぇ!)

 横島の表層意識に顕現した偉大なる二柱の姿は、世間的にはとても有難く畏怖を与えるその御姿であるが、横島にとっては全く有難くもなく畏怖を感じることも無い色気なんぞない姿でしかない。
 だが、今回ばかりはその姿が脳裏に浮かぶことにより、一気に血圧は下がりに下がり、一歩間違えればそのまま血の気が引きすぎて倒れる所であった。
 そして、そのような瞬間的に色香に飢えた状態が作り出される事により、より一層タマモと刹那を求める感情が強くなっていく。

「18番横島忠夫! タマモと刹那ちゃんの胸元でうりんうりん! やらせて頂きますっ!!」

 ついに、理性の壁を欲情とか愛情とかで押し倒してしまった横島は、感涙にむせびながら勢い良く、タマモと刹那の胸元に顔を埋めるのであった。

((((うっしゃ!))))

 横島の脳裏で、馴染みが無いが何処かで見たことのある変態的夫婦2柱と、馴染み深い某二大指導者な2柱の計4柱が、勝利の円陣を組んで右手をハイタッチした。








「あ、はじめまして。犬上小太郎です」

「エルザロボ。よろしくロボ」

「おお、なんと礼儀正しい犬耳少年であるか! 昔の純真であった赤毛少年を思い出すのである。最近では変態ペドフィリア農家と業突張り痴漢バンダナと同居しているせいか、日に日に素行が粗暴になって、この前会ったら呑んだ暮れのダメ人間に転がり落ちていたのである。我輩、この哀しみを一体誰に訴えればいいのであろうかと思っていたらセラエノ断章と気持ちを共感してしまうレアケースになってしまったのである。我輩ペドフィリアではないのでフラグはいらないのであるからして、犬上小太郎君に譲ってしまおうと思うのだがいかがであろうか?」

「博士! ちゃんと自己紹介するロボ」

「この鈍器な愛情表現がちょっぴり脳天にショックなのである……というわけで、世紀の大天才、ドクターウェストというのは我輩の事である。この顔、よく頭に焼き付けておくのである」

「は、はぁ……よろしくおねがいします」

 蚊帳の外だった小太郎は、同じく大十字一家の背徳暴虐スキンシップの蚊帳の外にされたウェストとエルザと実に貴重な平和的な挨拶を交わしていた。











「やーらかいなーあったかいなー」

 控えめな自己主張をしているタマモと刹那の胸の感触を思いっきり顔一杯で摺り寄せながら満喫する横島。
 それこそ、もう俺このまま死んでも後悔無いやというほどに満ち足りた表情で、疲れなど知らないかのように二人の胸元で顔を摺り寄せ続ける。

「横島さん、そこはっ、やんっ」

「横島っ ちょっと激しすぎ、はうん」

 横島の執拗なスキンシップにだんだんと子持ちが高ぶってしまい、思わず声にまで艶やかさが滲んでくる刹那とタマモ。
 今更ながら、とても恥かしい行為だと気付くも、自分達から誘った手前、無碍に横島を止めるわけにもいかず、成すがままになっている二人であるが、内心これはこれでいいかもと現在の状況もまんざらではないようだ。



(胸の控えめなおなごって感度が良いってよく言うわな。流石に幼女はあかんと思うが)

(実際とてもいいぞ。胸をいじられた時のアルの可愛らしさといったら、もう! 幼女最高!)

(おお、お二柱もあれの良さが判りますか。持つべきものは志を同じくする友ですね。そこ、自重してくださいペドフィリア)

 と、横島の脳裏でがっちりと手を重ねあう三柱。

(汝ら……全年齢SSだからエロトークは自重しろ)

 胸の小さいというより既に幼女にしか見えない一柱が、色情狂の三柱に向かって攻撃魔術をぶちかましたい衝動を抑えて苦言だけを呈する。
 なんだかんだで、彼らは横島とタマモと刹那の触れ合いを祝福し見守る為に此処に居るのだから。

 人はそれを出歯亀と云う。









 埼玉県農村部の一角で、うら若き少女達と二股掛け男のうりんうりんスキンシップ祭りが一部の部外者を蚊帳の外にしながら繰り広げられていた。












「平和っすねー、兄貴」

「そうだねー、カモ君」

 それらからすらも蚊帳の外となったことで、土の中と騒動から抜け出す事に成功した魔術師ネギは、久々にカモと並んでのほほんと紅茶を啜っていた。




 突如、魔術師ネギとカモの背後で先程巨大ドラム缶が吹き飛んだあたりの荒地の一角がボコリと音を立てて盛り上がった。

 盛り上った土から、突き出てきたのは、人間の腕であり、空を掴もうと広げられた手からは、この世のものとは思えない程禍々しく強大な魔力が漂っている。
 そして、掲げられた掌の上で、想像を絶する熱量が集まり、際限無く集まり続ける熱量が凝縮に凝縮を繰り返してついには高々密度の紅の宝玉の容を持って顕現化する。




「おどれらっ 揃いも揃っていい加減にしやがれぇええええええ!」




 
 先程ドラム缶の直撃で無残な最期を遂げたと思われたこの世界の横島忠夫、つまり魔導書ヴォイニッチ写本を使役する恐怖の魔術師が嫉妬とか蚊帳の外とか住宅及び敷地の破壊とか睡眠不足とかとにかく色々な怒りに任せて、お得意の焼滅呪法を発動した。









 ――只今、フォマルハウトから恒星クラスの熱量による徹底的に汚物は消毒だヒャッハーな展開が埼玉県の農村部の隅で展開しております。
 激しい光による失明の危険がありますので、サングラスをおかけになり、決して直視しないようにして暫くお待ちください。









「てめーら、人の住処でハメ外して騒ぎ立てて人様に迷惑かけちゃいけないって親から教わってねーのか?」

 『ああん?』と正座する面々に、憤怒の形相で睨みを効かせるのはこの世界の魔術師(マギウス)横島忠夫。

 通称、マギ島さん(23歳)。

 具体的には、人の家を吹き飛ばし、敷地内でガン=カタごっこやりながら所々に風穴を開け、巨大なドラム缶で土地を荒らした挙句に爆発させて穴を増やし、レズに親近相姦二股掛けのトリプルコンボを見せびらかすといった罪状。

 それらの事態に多少なりとも関わっている面々は、横島の目の前で、こんがり香ばしく焼かれた挙句に横一列に正座して―― 

「追い討ちのつもりでお父様謹製の媚薬を更に改良したアロマを使ったのが敗因だったのかしら」

「おいおい、アレってアムリタ(文献ではインド神話における不老不死の霊薬と云われる代物)の記述を利用して創ったヤツだったんだが……」

「未経験の妾があっと言う間に呂律が廻らなくなるほど強烈な媚薬だぞあれは……」

「……不老不死の霊薬を何に利用しているんだ糞親父」

「ちなみに成分を分析した結果、お肌にとってもフレンドリーな薬品なのである。ほら、疲れてカサカサだったアナタの肌もこんなにしっとりスベスベに!」

「エルザは変化無いロボ……」

「いや、エルザ、アンタロボだから、流石にコラーゲン効果でないから」

「ねぇ、杖ナシネギ……アンタの従者って何気に変態なんじゃないの?」

「おかしいですね、ハヅキは確かファザコンでオヤジ趣味の筈なんですが」

「――誰か僕の目を抉って……」

「こ、この私がまさか媚薬に抵抗出来ずに、あんな痴態を……あ、でも、ちょっと気持ち良かったかな……」

「んー、タマモちゃんは媚薬以前に、横島さんの匂いを嗅ぎ過ぎて蕩けてしまってたやろ?」

「確かに横島さんは変態だ! だけど、それでもあの人は私にとって大切な人なんだ! だからこれ以上あの人の事を悪く言うなら私でも容赦はしないぞ!」

「だから、なんで私が“あの”横島忠夫にメロメロにならなければならんのだ! というか、お嬢様の護衛の使命はどうしたんだっ! なんか黒くなっているではないかっ!」

「……えがった、ほんとーにえがった……いろんな意味で」

(はぁ……いいところだったというのに)

(せやけど、なかなか楽しいもの見れたやな)

 ――誰一人として反省を態度で示す者どころか魔術師横島の顔を見ようとする者さえもはいない。
 いや、実のとこ全員仲良く現実逃避しているだけである。
 なぜならば、目の前の、この土地の持ち主が怖いからだ。

 ……それはもう、直視なんか絶対ムリだし意識するだけでもトラウマになりそうな程だ。


「……女の方の九朔、九郎、アル、男の方の九朔、ウェスト、エルザ、ハヅキ、向うの神楽坂明日菜ちゃん、こっちのネギ、向うのネギ、向うのタマモ、向うの近衛木乃香ちゃん、こっちの桜咲刹那ちゃん、向うの桜咲刹那ちゃん、あと向こうの俺とその表層意識介してツラ出している名前を伏せなきゃいけない某指導者二名」

 その恐怖の化身が、人の話を聞いちゃいねぇと、深い溜息一つ。

『は、はい!?』

「残すにはなんとも情けない辞世の句だったな?」

 神族も魔族もガチで逃げ出す、げに恐ろしき形相の魔術師横島が、ご丁寧に魔導書ヴォイニッチ写本を儀式呪法執行形態に展開させ、右手にフォマルハウトからの神性を宿した紅の宝珠“焔神珠クトゥグア”を生み出す。
 しかも、この場所では無い空間の向うにあるエーテルドライブエンジンの駆動音が、魔術師横島の背後の次元断層から洩れていることから、構築される術式は世界を満たす魔力で構築される超々火力。
 これぞ、長野にて復活した死津喪を、京都にて地脈に張り巡らされたリョウメンスクナの存在基盤そのものを、完全に焼滅し尽くした必滅奥義フォマルハウト・インフェルノである。
 これならば宣言どおり、問答無用で跡形も無く全員“焼滅”出来るであろう。

『ごめんなさい』

 流石に深々と土下座するしかない一同であった。




「こ、この世界の横島兄ちゃんって、ワイらの世界の兄ちゃんとは別の方向でおっかないな……」

「常時睡眠不足だからなー。今だって時間を割いてこっちに来たって感じだし……」

「てけり・り」

 犬耳の少年とオコジョとショゴスは、危うく埼玉に第二の太陽が再度誕生するかしないかの瀬戸際を、遠巻きに見守るしかなかった。











 と、お日様が真上を通り過ぎた頃。

「いろいろ非常識なものを見てきたつもりだけど、ここの非常識さには敵わんわ……」

 農村家屋の縁側で、ティーカップを片手にダンセイニが淹れた紅茶で渇いた咽を潤しながら、バンダナが無いほうの横島が呟く。

「いや、俺から言わせてもらうと、そっちのほうが非常識極まりないんだが……」

 その隣では、片手はティーカップ、もう一方の手には書類を持った横島が溜息を吐く。

「あのなぁ、それじゃあ、これはなんだこれは。
 あの大十字九郎ってヤツ、徹底的に破壊された一帯をあっと言う間に綺麗に元通りにしているじゃないか。流石に文珠でもこうはいかねーぞ?」

 そう、現在二人が座っている縁側、つまり先程の騒動でこれでもかと荒れに荒れた家屋を含む横島の私有地一帯は、大十字九郎の魔術“ド・マリニーの時計”によって全員の目の前でビデオの巻き戻しの如く再生修復されたのだ。

「ああ、時間操作魔術に分類される時間の巻き戻しだな。ちなみにそっちのカシオペヤが可能なのは時間跳躍。つまり時間を“操作”するんじゃなくて“移動”するという違いがあるんだが、このあたり理解出来るか?」

 片手に持った資料に目を通しながら、
 横島が目を通しているのは、今朝、自宅に戻る前に魔界正規軍“外なる神々対策課”から手渡された異邦人一行の資料である。

「いや、さっぱり」

「んじゃ、あれは別格と認識しとけ。あれでも一応“旧き神”なんだから。ガチペドだけど」

 実際の所、そのあたりの概念は横島忠夫であるならばいずれは理解しておいたほうがいいのではないかと思う魔術師横島であったが、説明するのも魔術で記憶を掘り起こすのも面倒なので単純な返事で済ませる。

「神族なのか!?」

「あー、だけどこの世界の神族に属しちゃない。別次元の高位神と思っておけばいい。ガチペドだけど」

 横島の驚きの声に、割とどうでもよさげな解説で返すが、このあたりの誤認はあまりよろしくないという法則がセカイにあるらしい。
 そりゃ、ガチペドで幼女を妊娠させた神など神族の連中だって、属しているものと思いたくなだろう。

「……でだ、邪神との戦いでネギを一緒に戦わせている俺らが言っていいセリフかどうか迷ったんだが」

 ふと、魔術師横島が手元の資料から縁側の向うに目を向ける。

「お前んとこのネギだが、既に児童虐待だろ、あれ」

 視線の先には巨大なハンマーによって地面にめり込む闇司祭ネギの姿。
 あれだけの巨大なハンマーの攻撃にも関わらず、ケガ一つ無い闇司祭ネギの頑丈さに“少々”感心しているようでもあるが、それより先に子供に向かってハンマーで攻撃する少女という構図のほうが、魔術師横島にとってはインパクトがでかかったらしい。

「……」

 すでに日常での出来事でなおかつ自分も日常茶飯事でアレを受けているので、魔術師横島に言われるまで全く考えもしなかった事を指摘されて言葉を失う横島。

「というか、タマモの奴、いささか発言が非常識なのはまぁ麻帆良だから仕方ないとはいえ、いつからあんなにアグレッシブになったんだ?」

 ムンと胸をはって、恐らく良い感じで記憶が吹き飛んだであろう闇司祭ネギを見下ろすタマモの姿に冷や汗一つ流す魔術師横島。

「……あれは、やっぱ俺のせいなんだろうな」

 魔術師横島の更なる地味に痛いメタ発言による突っ込みに、ついには頭痛を覚えて頭を抱える。
 どうもこの世界の面々は横島の精神にいろいろと手厳しい精神構造をしているらしい。 
 それにしても、魔術師横島は麻帆良学園に何か恨みでもあるのだろうか? 確かに否定できる要素は無いにしても、さも当然に非常識である事を強調するあたり気分がいいものではない。

「でもよ、お前んとこも何なんだよ。特に麻帆良学園での嫌われ方が普通じゃねぇだろ……」

 というか、麻帆良学園側にも嫌われている事を不本意ながら昨日のうちに体験してきた横島は、思わず顔を顰めて魔術師横島に文句をぶつける。

「あー、まぁそりゃなぁ……基本的に部外者で痴漢だからな。それに魔法使いとゴーストスイーパーは基本的に相容れない上に、俺が矢面立って麻帆良学園側に色々と無理を通している事もあるから、魔法先生や魔法生徒からも嫌われるのも仕方ないんじゃね?」

 魔法使いのテリトリーにてゴーストスイーパーが我が物顔で様々な事案に首を突っ込んだり、邪神勢力の潜伏の可能性が示唆されているにも関わらず広大な土地と隠匿されている箇所ないし認識阻害を始めとする学園結界の作用によりまるで進まない周辺調査、防衛費に廻される予算がゴーストスイーパー横島忠夫への報酬に流れてしまったり、神族と魔族の対邪神勢力からは覚えがよくなかったり、お隣の関西呪術協会は和平どころか独立組織としては完全に壊滅してゴーストスイーパー協会の下に置かれたり、何気に魔法界なんぞ大十字九郎の所業で各国の政治基盤は目も当てられないほどガタガタで建て直しが未だに難航していたりと、この世界の麻帆良はかなり大変な事になっている。

「理屈はわからんこともないが……」

 そういえば六道女学院じゃゴキブリ以下だったもんな俺の評価。と、再び頭を抱える横島。
 しかしだ、

「それでもやっぱ、ここの面子ほど酷くは無いと言いたいぞ俺は」

 やけに肝の据わっているものの常に酒浸りっぽいネギ。
 京都で事件に巻き込まれたせいで夕凪を失った挙句、妙神山で色々見てもらったら竹刀を片手にした白髪赤瞳になった刹那。
 直接見ては居ないというか見たくもないが思考が紙一重を踏み外し、向こう岸に転がりはじめたアスナ。
 自分のかつていた世界とも今生活している麻帆良にもいない人物達。
 そのどれもにすら変態呼ばわりなどされたくはない。

 横島の、うんざりしたように他の面々向いた視線に気付いた魔術師横島が同じように現在此処にいる面子に視線を向ける。

「まぁ、確かにこちらも奇人変人ばかりだわな。何気に同居人の中で一番常識人なのは俺って自信はある」

 横島二人の目の前では、
 九郎と小太郎は再び畑仕事に戻って、
 チビタマモとチビ刹那がダンセイニの上でスヤスヤと寝息をたて、
 ハヅキと魔術師ネギから現状の説明を受けた明日菜は脳が沸騰して蒸発手前になり、
 ドクターウェストがエルザを助手にして忘れ去られて空中分解していた茶々丸を綺麗に修理して、
 口喧嘩から刀傷沙汰に発展しそうな二人の刹那をアル・アジフが喧嘩両成敗と問答無用で魔術で吹き飛ばし、
 そのアルを闇巫女の格好の木乃香が時空の狭間ですっかり仲良くなった九朔(女)と一緒に亀甲縛りに吊るし上げ、
 九朔(男)は母親の胸で勢いで甘えられる絶好の機会を完全に逃した事に涙しながら逃げるようにして異邦人達が無事に帰れるようにと時空間への調査に旅立っていった。

「いや、横島の旦那も非常識だから、常識人はダンセイニだから」

 そして、蚊帳の外のカモに突っ込まれた。

「……」

 魔術師横島が無言になるのは当然だ。否定できる要素がまるで無い。
 何だかんだでダンセイニほど人畜無害なヤツが自分の周囲にいない事実に改めて戦慄を覚えてしまったのだ。

「……お前らはゼリーの親玉未満かよ」



 溜息。



 暫く無言のまま紅茶を啜る横島二人。
 二人ともほぼ同じタイミングで、カップの中の紅茶が空になり、ティーカップを置いた魔術師横島が思い出したかのように口を開く。

「まぁ、しかしお前って、たいしたもんだな」

 その声には、皮肉ではなく、素直な賞賛と微かな羨望が込められていた。

「いきなり何だよ?」

「いや、堂々と二股掛けやって妻妾同棲つーのか? タマモと桜咲刹那ちゃんの二人同時に付き合って丸く治めているのとか」

 羨ましいなコラと、多少なりとも嫉妬に歪んだ笑顔が結構怖い。

「……ああ、それはタマモと刹那ちゃんがそうであってくれたからだよ」

 だが、それに関しては、横島自身感謝してもしきれない所であり、何よりそれに対して応えなければいけないという自念もある。

「まぁ、そうさせるだけのものがお前にあるんだろ? 少しは自信持ってもいいと思うぞ? そもそも……」

「そもそも?」

「未だに手出していない所がな。俺なら無理だと思うわ」

 大十字九郎のようなガチペドではないとは自弁であるが、魔術師横島のアンダーラインは何気に横島と大差ない。
 そして、何気に魔術師という外道まっしぐらな魔術師横島は、世間の目と迫ってくる美少女二人とを天秤にかけ、理性を保てるとは全く思えないと言うのだ。
 それこそ、後ろ指を差したり迫害しようものならガチで滅しかねないという位に。

「い、いや、キスはしたぞ? 仮契約ではなしに」

 手を出していないというには多少語弊があると、学園祭最終日の刹那とタマモの唇の感触をおもいだして思わず顔を紅くする横島。
 煩悩づけの思考回路ではあるものの、いざ実践入ると結構純情な横島。
 というか、実際のところ、女性の方から積極的に、それこそ手足を縛って逆レイプでもしない限り進展とかしないんじゃないかと思えるほどに何気に身持ちが硬い横島忠夫20歳。

「……いや、お前、さっき散々子作り子作りと騒いでいて、それ?」

「うっせーな! 俺は二人に周りから後ろ指さされるようなマネさせるわけにはいかねーんだよ!!」

 そのあたり、横島なりにちゃんと二人の将来を考えている。
 横島としては、せめて高校までは無事に卒業させたいと考えている。
 逆説的に言えば、法規的にも社会的にも問題ないならとっくに結婚式あげて、とっくに子供だって作っている事だろう。
 何気に社会的な常識は彼なりにも一応あるのだ。

「だから、それがたいしたもんだって言っているんだよ。ま、二股掛けってだけでも麻帆良でもなきゃ難しかっただろうな」

 と苦笑いをする魔術師横島。
 そう、麻帆良において横島達三人は、男達の嫉妬は買っているが、周囲からは基本的に祝福されている有名すぎる正三角形カップルである。

「ま、あの二人も多少暴走気味というか、世間体とかに意外と疎そう……良くも悪くも麻帆良の特性が大きく影響していそうだが……だが、それなりには先は考えているだろうしな」

「お前が思っているよりは二人ともしっかりしているぞ?」

 どうも、自分の住んでいる場所に、タマモと刹那への苦言を含んでいるような魔術師横島に、顔を顰めて横島が反論する。

「そうか。それでも多分お前の方が先は見えているだろ? 男の甲斐性は見せておかないとな」

「……」

「何だよ?」

 そんな横島の反撃にも苦笑しながら肩を竦める魔術師横島であったが、ふと、横島が何かを考えるようにして自分の顔を訝しげに見だした事に首を傾げる。

「いや、まさか“俺”にこんなふうに言われるとは思ってもみなかったもので」

「まぁ、確かにな、だけど」

 ああ、為る程なと納得する魔術師横島。
 確かに、以前なら血の涙流して詰め寄っていたかもしれない。

「だけど?」

 既視感。

「あれだ。あのタマモ見ていたら“ま、いっか”って気にもなるもんさ」

 横島の目には、魔術師横島の微笑が誰かの微笑みとが重なって見えた。 







「それじゃお邪魔したロボ。小太郎も達者でロボー」

「それでは失礼します」

 背中に頭が面白い方向に曲がったウエストを担ぎ、両手にそれぞれ袋一杯の野菜を持って徒歩で帰っていくエルザと、麻帆良学園からの依頼で強引に“自称”関係者として横島宅に事情聴取名目でおしかけた刹那が横島のサインが入った報告書を持って飛んで帰っていくのを、一同が見送りながら埼玉県農村部の横島宅の夜は過ぎていった。











 翌朝。


 死神は既に一足速く元の世界に戻っている。
 横島達が迷わず帰還出来る為の基点となっているそうだ。
 なお、この世界の時空間は他の世界と比べ不安定に出来ており、最近では規模こそ未遂や個人意識下といった程度とはいえ、立て続けでの異世界からの侵略がある程であり、魔改造カシオペヤでは複雑に入り組んだ時空間干渉に再度巻き込まれ、最悪の場合はそのまま全員字祷子の濁流に飲み込まれ消滅するかもしれないという事だ。
 その為、今回は世界移動に手馴れている大十字九朔が引率して元の世界に戻る事と相成った。

「しかし、折角だから、ゆっくりしていってもよかったんじゃないか?」

 そんな事を言い出すのはペドフィリア農家の大十字九郎。
 基本的に彼はお人好しの、お気楽人間である。

「いや、でも俺達、この世界じゃ異分子だろ?」

 そう、世界に働く宇宙意志と呼ばれる見えない力は、己の世界に入り込んだ異分子を何らかの形で排除しようと運命に働きかけるのだ。

「ん? 当然そうなるわな」

「それって基本的に宇宙意思とかあたりが、はじき出したりしないか?」

 なんと無責任な発言だなこのやろーと九郎にジト目を向ける横島。

「……ああ、そのことか。そこの問題も踏まえて俺のとこに集めてもらったわけなんだがな」

 だが、そのあたりはこの世界の横島宅の面々は最初から織り込み済みであったらしく、何気に魔術師横島も、九郎と同じように昨日のようにバカやらなければ別にいてもかまわないという見解であった。

「どういうことだ?」

「説明するとややこしくなるだけでなく意味が理解出来てしまったら発狂の恐れがあるが、それでも聞くか?」

 素でエヴァンジェリンの倍近くの年齢のロリ人外が、少々物騒な前置きで問いかける。

「いや、いい……」

 魔術師とは、セカイの摂理を読み解き、それを己のセカイへと書き換える業を持つ存在である。
 だが、勘違いしてはならない。
 それは基本的に宇宙意思を“越える”のではなく“挑む”所業であり、むしろガチでアシュタロスが敗退した程の絶望的な戦いに挑んでいるわけである。

「まぁ、そういうわけで当分は問題ないだろ。死んだら死んだで気にしなくてもいいぞ。自己責任っていうヤツだ」

 と、魔術師横島が、とある方を見てそんな事を呟く。

 
 

 その視線の先は嬉々として別れる二人のネギの姿があった。

「それじゃあ、向うでも元気でね」

「そちらこそ、頑張って」

 昨日の罵り合いが嘘のように、実に清々しい顔で別れの言葉を交わす二人ではるが、何やら胡散臭いものがその間に漂っていた。





「そ、そうか……」

 その言葉の意味を理解し、この世界の魔術師達も負けじとスパルタなんだなと、冷や汗を流しつつ二人のネギを見る横島。

「ああ、流石に邪神の脅威を甘く見て、首突っ込むならそれ相応は体験してもらうぞ?」

 言外に、それが原因で発狂死しても責任は取らないと言っているあたり、魔術師横島の所業はある意味、虐待なんて生易しいものですらない。

「ま、手遅れになる前には俺がそっちに返してやるよ」

 と気楽に言う魔術師横島である。

「……で、試してみたらあっさり文珠14個成功とかどんだけだよ、お前は」

 魔術師横島の『俺がそっちに返す』という意味には、自力で世界移動を往復でやれるという意味が含まれているあたり、何コノチートと顔をしかめる横島。

「なに、エーテルドライブエンジンをフルドライブさせて使う焼滅呪法よりは気楽っちゃ気楽だぞ」
 
 魔術師横島に対し俺SUGEEEEE!!は他でやってくれと、心底思った横島であった。










「それでは母上お元気で」

「お父様、またお会いしましょう」

「おー、二人とも元気でなー」

「二人とも、次会う時は少しはその性癖をどうにかしておけ」


「ハヅキちゃん、この世界のせっちゃんにもよろしくなー」

「ハヅキちゃん、そっちのネギの面倒よろしくね」

「ん。了解」


「ああっ、この世界のマスターがナギ・スプリングフィールドの家におしかけ女房になって、その果てについに妊娠まで果たすなんてっ! 妊娠したてだからこれからつきっきりで出産までライヴ録画できるまたとない機会が目の前にあると言うのにっ!」

「誰だよ、ウェールズの近況をアレに教えたの」

「あ、それ俺っち」

 と、それぞれが別れの挨拶を惜しんで――はいない――言葉を交わしているのを横目に、魔術師横島は横島に声をかける。

「まぁ、俺のほうはいいとして、これからのお前も大変だろ」

 魔術師横島が言っているのは、これからのタマモと刹那との将来の事だ。
 自分より少し年上の自分は、もしかしたら自分よりも社会的な感覚がしっかりしているのかもしれない。
 だが。 

「まぁな。だけど大丈夫だ」

 そんなものは杞憂であり、余計なお世話だ。
 そう言わんばかりの横島の自信に満ちた笑みは、最愛の少女二人を信じられる強さから来る力強い笑みだ。

「そうか」

 その笑みに眩しいものを感じた魔術師横島は、その瞬間何を思ったのだろうか、微かな笑みを口に浮かべた。

「やっぱ今すぐカエレ、これ以上のろけられるとたまったもんじゃねーよ!」

 だが、それも一瞬。

「そうさせてもらうわい! こんな人外魔境がガチで滅ぼし合うような所にこれ以上いられるかっ!」
 
 すぐに二人はいつもの調子で憎まれ口を叩き合うのであった。







「それじゃ木乃香ぁーそろそろ送るわよー」

 九朔(女)の言葉を合図に、異世界から来訪した横島達の周囲に壮大な魔方陣が出現し、彼らが光に包まれる。


「別の世界の横島かぁ。ほんと、あれは完全に別人だったわね」

 タマモは魔術師横島の匂いの異質さを思い出して思わず顔を顰める。
 別に人間的にどうこう言うつもりは無いのだが、それでも霊質本能的に避けたくなる異質すぎる闇の匂いばかりは如何ともしがたい。
 霊的六感が優れているタマモには、横島宅とその面々の外宇宙にも精通する“本来あってはならない”性質はかなり堪えていたのだ。

「ですが、あちらの私は何かと毛嫌いしていましたけど、あの人、そこまで酷くは無いと思うんですけど」

 あの後、異世界の白髪刹那に色々と魔術師横島の所業を吹き込まれた刹那であった。
 が、確かに痴漢変態でなおかつショバ荒しな魔術師横島の所業だけ見れば、好印象を抱くのは難しいのは判らなくないが、それでもなんとなくではあるが、もし彼らに縁があったのなら、異世界の刹那も自分のように好意を抱くとまでいかなくとも、魔術師横島の良い所は理解出来ていたのではないだろうかと思わずにはいられなかった。

「判っているわよ。多分異世界といっても、横島は横島なんだとは思うわ」

 と言いながらも、全くといっていいほど魔術師横島に近づかなかったのは、彼女達の誠意と言っていい。
 現に今、この瞬間も二人は背中を横島に預けているのだから。

 そんな二人の姿に、己の幸福を感じ取りながら横島は、向うの世界の魔術師(マギウス)という未知の力を手にした横島忠夫の事を想う。
 確かに、魔術師横島の周りには、共に戦う頼もしい仲間はいるが、彼には自分のように隣にいる伴侶はいない。
 むしろ、なんとなくだが、他人との距離を置く事を良しとしているふしさえ感じられる。
 女好きの横島忠夫にとって、それはあまりに不可解な事で、それはかなりあの横島忠夫にとってよくない事ではないのかと思ったりもする。
 そもそも、自分は間違いなく悲壮感なんぞで戦える人種では無いからだ。
 
 当然、異世界の違う横島忠夫の問題であり、自分に関係ないといえばそこまでの話だが、気にならないといえば嘘になる。


 ――そんな横島の考えをよそに、彼らを包んだ光が強くなり、世界を飛び出すその瞬間。




「じゃあな」

 別れる間際に酷く穏やかな笑みを見せた魔術師横島の隣に、同じように微笑む誰かの影が重なった。





「……そういうことか」

 横島の無意識の呟きに込められた感情は、多分横島自身にも判らない。
 だが、多分、向うの横島は悲劇の英雄気取りなんかじゃない事だけはなんとなく判った気がした。

「どうしたの?」

 何事かと振り返って声をかけるタマモと、声こそ出さないが、同じように自分を見ている刹那。
 どうやら、あれに気付いたのは自分だけのようだ。

「ん、これからもよろしくな、タマモ、刹那ちゃん」

 横島は、既に見える事の無いもう一人の自分に見せつけるように、何より大切な二人の首元に腕を廻して優しく引き寄せた。




(じゃあな)




 そして、心の中で、交錯する世界で戦い続ける横島達に別れを告げるのであった。











end













「で、今朝起きたらこんな置手紙が」

 元の世界の麻帆良学園に帰還した翌日、横島の事務所に集まった面々は、明日菜が見せるネギが残した置手紙を見て戦慄を覚える。



『旅に出ます。探さないでください。

 追伸。

 向うの僕が折れて返却されたら、そのまま向うに自力で帰ります』

 置手紙には、簡潔にこれだけ書かれていた。



「……速攻で逃げたのかよ」

「逃げたわね」

「潔すぎて却って恐ろしいですね」

 自分がいなくなることで周囲にどれだけの迷惑がおこるのか解らないほど彼は愚か者では無い。
 最悪、ネギが目指すものへの未知が危ういものになる可能性だって有る行為である。
 しかし、この先、麻帆良に居る事で自分に降りかかる恐れのある災厄と、自分の目的と、夏休み期間という事、あと向こうにいるネギがどれだけ保つのかを考えれば、それらが些細な事であると結論が出たのだろう。

「これが魔術師か……」

 つまり、マギステル・マギになるという闇司祭ネギでさえ守っている最後の一線さえも躊躇無く踏み越えた外道の姿に、横島は背中に寒いものを覚えるのであった。






 とある海岸にて、

「やっぱり、いないんじゃなくて気付かれてなかっただけだったぁああああああ!?」

 この世界の横島達が邪神眷属と遭遇したことがないという話だったので、何らかの理由で存在しないんだろうなと甘い事を考えていた魔術師ネギは、あちらでは一度として楽しめなかった海での休暇を過ごそうと人気の無い海岸に着ていた。
 だが、魔術師ネギの持つ(正確にはセラエノ断章の更なる写本の持つ)“名状し難きもの”ハスターの気配に、敵対属性たる邪神眷属が海底から引き寄せられ(注釈:外なる神、旧支配者における対抗属性は水に対する風、土に対する火であり、基本的に両陣営は存在を全否定する程には仲が悪い)、魔術師ネギはいつも通りの滅ぼすか滅ぼされるかの闘争を異世界でも繰り広げるのであった。











 一方。
 邪神勢力と対抗勢力が存亡をかけて日夜ガチで滅ぼし合う交錯世界。

「いやぁああああああああああっ!!!!!!! 浅黒い裸の筋肉男が脳裏にこびりついて離れない声で囁きかけてくるぅうううううう!!!!」

 翌日、北アフリカのとある場所にて、姿を見せた邪神勢力と交戦する事となった闇司祭ネギは、何かのトラウマを引き起こされ、聞く者の耳が破裂しそうな程の奇声を張り上げていた。

「うるせーぞ、その程度でSAN値削られてんじゃねー!」

「ふぅ、精神面の強化は今後の課題だね」

 全長50メートルの巨大ロボット、デモンベイン=グローリーに乗り込み、言葉での表現が難儀な巨大な物体を、時空間が歪むほどの威力の巨大な拳でタコ殴りにしている横島と、主(?)がとても戦える状態ではないせいで傍観に徹しているハヅキの非情な言葉が宙に解けた。




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