―それは大学へ行く途中だった。

―講義に遅刻するかしないか、ギリギリの時間だった。

―信号無視で突っ込んできたトラックは、自転車ごと俺を吹き飛ばす。

―親より先に死ぬことを嫌だと考えながら、俺の意識は暗闇へと堕ちていく。

―瞬きするその刹那に、どこかに堕ちる寸前に聞こえた声は誰の声だったろうか。

―『汝が死ぬのは我が落ち度、故に汝に新たなる生を』

―これが俺、■■■■の死ぬ直前の話だ。

―俺って不幸なのか幸運なのか、いまいち分からないな。

―『ただ少々都合が悪くてな、別な世界のとある少年の体に入れることになった。すまんな』

―まるでなんでもないように、豪快な笑い声を上げる年寄り声に対する思いは一つ。

―訂正しよう、思いっきり不幸だったらしい。今度会ったらどつく、どついて擂り潰してやる。










      Doppelt 〜The Another ネギま!〜          神鳴神薙

零話「もう一人の僕は最速を掲げて」














あの雪の日、僕の住んでいた村が悪魔に襲われた日、僕のお姉ちゃんの足が石になってしまった日。

僕が、もう会えないと教えられ続けていたお父さんに遭えた日。

僕の中では大事な記憶になって、でも、思い出したくない記憶になったそれを思い出す。

今日は、移り住んだウェールズにある村の魔法学校で卒業試験が始まる日。

僕が魔法学校を卒業出来るかどうか、それが今日決まる。

「ではネギ・スプリングフィールド君」

「はいっ!」

「君への課題はこれじゃ、頑張るんじゃぞ」

「分かりました」と返事した僕は、その紙を広げる。

周りには僕と同じように紙を広げている人たちが他に10人ぐらい。

「ネギ、どんな内容なの?」

その中の一人、僕の幼馴染で一つ上のアーニャが話し掛けてきた。

「私は森の奥から石を取ってくることだって」

「僕も同じみたいだ」

僕とアーニャは同じ課題『森の奥から印のついた石を取ってくること』だった。

この課題は同じ課題の人と協力して達成してもいいらしい、だから僕とアーニャは協力した。

「あんたと協力するのは手っ取り早く終わらせるためだからね!」とはアーニャの言葉だ。

そんな風に言いながらそっぽを向いた耳は、ちょっとだけど赤くなっていた。(何でだろう?)

アーニャにお礼を言って、準備を整えるために家に向かう。

森は危険、大人の人たちは口々にそう言う。

その意味は一応だけど知っている、森にはモンスターやゴーレムが居るのだから。

暫らく前に村の近くで大型のモンスターが出た、大きくて狼みたいなモンスターが。

その頃から暫らく経つけど、村の外には大人の人が一緒じゃないと出て行けなくなった。

だから、僕とアーニャの課題を見たお姉ちゃんはすごく心配してた。

それでもお姉ちゃんは準備を手伝ってくれた、困った顔をしながらだけど。

「ネギ、無事で帰ってきて。貴方が卒業できなくても、帰ってきてくれればそれでいいから」

そのお姉ちゃんの言葉に僕は頷く、ちゃんと帰ってくるよと。(お姉ちゃんの目が光って見えたのは気のせいだよね)

アーニャも僕も出来る限りの準備を整えて、課題を貰った次の日に森に入った。

他にも同じように森に入る人たちが居たけど、皆僕よりもずっと大きな人たち。

僕は数えで十歳、その人たちは数えで十五歳。(でも魔法学校を卒業していない人たちらしいよ?)

僕よりも五歳年上で、僕よりも魔法がうまい人も居た。

でも、僕もアーニャもちゃんと準備してきたからきっと大丈夫。

そう思って僕らは森に入っていく、その先に何が待っているか知らないで。

「行くわよ、ネギ」

「うん、頑張ろうアーニャ」

僕らの卒業試験が始まった。









※・※・※・※









―雪の降る村を悪魔が襲う、深々と降り注ぐ雪を振り払うように。

―俺は何も出来ない、ただ見て聞いて感じるだけしか出来ない。

―俺は『誰か』の目を通して外を見る。

―俺は『誰か』の身体を通して外を感じる。

―『誰か』に優しい大人が、厳しい大人が、石として其処にある。

―姉を探して走り出し、悪魔に出会い、父に出会う。

―恐怖し、逃げ出し、悪魔は大切な姉の足を奪う。

―いままで育ててくれた翁は悪魔を封じ、石と変わる。

―俺はそれを見るだけ、聞くだけ、そして感じるだけ・・・・・

―『誰か』は丘に、大切な姉を守るために立つ。

―『誰か』の父は杖を渡し、雪の降る空に消えていく。

―『誰か』は泣きながら父を求め、消える空に心が誓う。

―「必ず探し出す」と、「その背中を追いかける」と。

―移り住んだ村で学校へ行く、幼馴染の居る学校『メルディアナ魔法学校』へ。

―幼馴染が呆れるほど学び、記し、綴り、覚え、戦う術を求めた。

―始まるのはその学校を卒業するための試験であり、『誰か』の力の試しとなる時。

―ここ数年で俺が『誰か』について理解したのは、ほんの僅かな事柄でしかない。

―俺は『誰か』が意識をなくしたときだけ表へ、その間嘗ての自分のように身体は動く。

―俺は逃げる事、避ける事、捌く事、躱す事。須らく逃避することにのみ長ける。

―俺は俺で在るが故に、この『誰か』の真逆に在ってみせよう。

―ただ只管に、愚直なまでに真っ直ぐ進むことしか出来ない『誰か』の対極に。

―全進しか出来ずに傷ついていく、逃げることを忘れた『誰か』の対極へ。

―その『誰か』の名は、ネギ・スプリングフィールドという。

―その対極足ろうとする俺は■■■■といい、嘗て最速と呼ばれたもの。

―逃げる時が必要ならば、俺がお前の代わりに逃げて見せよう。

―駆けるときが必要なら、時間が惜しいなら、仲間の為なら俺が駆け、翔けていこう。

―避け、捌き、躱し、逃げる。ただそれだけが、俺にとっての唯一足る牙なのだから。









※・※・※・※









森に入って気づいたことは一つ、思っていたよりもずっと危険だったということ。

僕らより早く森に入った人が、荒い息で目の前を走り森の外へ向かう。

出会ったモンスターを倒し、何とか奥に進んでいく。(たまにアーニャが服を裂かれるけど)

出会ったのが小さなモンスターで、僕とアーニャで何とか倒せるぐらいなのが救いかもしれない。

もし僕が攻撃魔法を覚えていなかったら、魔法の矢を覚えていなかったら。

きっとすぐに森から逃げ出してしまうだろう、そのぐらい森は危険なところだった。

何度目かの休憩を取って、地図を眺める。なるべくアーニャに目を向けないようにして。

こうして所々にある休憩する場所は結界が張ってあって、モンスターが入ってこない。

「大体半分ぐらいかしら、いままでの休憩所は全部入ったのよね?」

「うん、休憩所は見つけたら必ず入ってきたよ。ここで・・・・・五箇所目のはず」

倒したモンスターは10匹ぐらいで、大体半分ぐらい来たみたいだ。

魔力は準備してきた薬で回復できるけど、もう三分の一ぐらいしか残っていない。

「ネギ、もうすこし休んだら行くわよ。次は結構遠いから気をつけなさい」

「分かった、アーニャも気を付けてね」

目的地は森の奥、そこまでは子どもでも半日で辿り着くぐらい近い。

問題なのはそこまで行くのにモンスターが邪魔をしてくることだ。

モンスターが出るだけで、卒業試験の課題になるぐらい難しくなっている。

「行くわよネギ」

「分かったよアーニャ」

十分休んだ僕らは走り出す。

目指すのは次の休憩所、そこで少し休んで次の休憩所へ。

それを繰り返して、目的地に近づいていく。

印のついた石は森の奥、昔は祭壇として使われていた場所にあるらしい。

お姉ちゃんの卒業試験のときも同じ課題が出て、その時も同じ場所だったらしいから。







漸くついたそこは、広場みたいに開けた場所だった。

中央にはステージみたいに石が積み上げられていて、お姉ちゃんの言っていた祭壇がそこなんだろう。

その上に石が十個ぐらい置いてあった、印付きだ。

「結構簡単なのね」

アーニャはそう言うけど、お姉ちゃんと準備した道具を半分ぐらい使ってしまった。

来る時だけで半分、返るときに半分、お姉ちゃんはそう言っていた。

アーニャと一緒に石を取って一息ついたとき、地鳴りが始まった。

「ちょっ、なんなのよこの音!!」

「アーニャ、あれっ!」

僕が指を刺した方向から、見上げるぐらい大きなゴーレムが出てきた。

その無機質な目が僕とアーニャを見たように感じて、ぶるりと震える。

「ネギ、逃げるわよ。あんなの、倒せるわけないじゃないの!」

アーニャが叫ぶ、僕も同じ思いだった。

きっと僕らはここで死ぬ、そんな風に思ってしまうぐらい怖かったから。

アーニャと一緒に走り出す、来た道を戻り休憩所に入れば何とかなるかもしれない。

その考えをアーニャに言って、全力で走る。

もっと早く、もっと速く。あの・・日の・・・ことに・・・・・うに、・わない・・、違う、考えるなネギ・スプリングフィールド。

一番近くの休憩所の結界に入って振り返ると、ゴーレムがこっちに向かって歩いてくる途中だった。

「だ、大丈夫よね?」

「わ、分かんないよ。でも、校長先生が作った結界のはずだし・・・・」

この休憩所は魔法学校の校長先生が作った結界の筈だ、そう簡単に壊れるはずがない。

それなのにゴーレムはゆっくりとこっちに近づいてきて、何を思ったのか立ち止まった。

そしてその腕を大きく振り上げて、振り下ろそうとしている。鳴り響く警鐘に気付けない。

振り下ろされる場所はどこだろう、警鐘を理解せずそう思った瞬間に頭に声が響いた。

『走れ! 其処に居ると潰されるぞ!』

僕はその声に背中を押されるようにしてアーニャの手を掴み、休憩所の結界から飛び出し走り出す。

「ちょっと、ネギ? どうしたのよ、いきなり走り出したりして」

アーニャがそう言った次の瞬間、さっきまで居た休憩所が大きな音と一緒に潰された。

アーニャが信じられないという顔をして止まりそうなのを、手を引きながら離れる。

校長先生の結界が簡単に壊された、しかも休憩所ごと。

幾ら気配を周囲にどうかさせる術式が編みこまれて強度が落ちていても、僕が見たことのないほど強固だったのに。

まるであの雪の日の悪魔のようで、あの時の炎と石になった人たちを思い出して、体が硬くなる。

それを振り払って何とか走り続けようとしてふと後ろを見たら、またあのゴーレムと目が合った気がした。

その目は僕を見ているのに、何か別なものを見ているようにも見えて、ただ怖かった。

《ナ、ギ・・・・・・・スプ、リン、グフィ、イルド》

そのゴーレムはくぐもった声で名前を呼んだ。

僕を見て、お父さんの名前を。

《ナァァァァギィィィィィィィ、スゥゥゥゥゥプリィィィィィングフィィィィィィィルドォォォォォォォッ!!!!!!》

まるで土砂崩れのような声は僕の記憶を掘り起こし、雪の日の幻影を思い出させる。

「・・・・・・・・・・・・あ」

「ネギ?」

小さく声が出たけれど、それ以上喋ることが出来ずに目の前が暗くなる。

頭を振るって悪夢を追い出す、今は元の自分を保つのが先決だ。

此処に居たら危ない、その漠然とした予感にしたがって反射的に駆け出す。

勿論アーニャの手は握ったまま、出来る限りの速度で。

ゴーレムはいきなり飛び上がって、その瞬間に僕はすぐさま方向を変えた。

行く先は村の正反対である森の奥へ、でないと・・・・・・踏み潰されるっっっ!!

そう思って森の奥に走り出し、木々の中に入ると同時。

あのゴーレムが轟音を立てて、僕らがさっきまで向かっていた予想到着地に着地した。

そしてすぐさま僕らが居ないことに気付いたらしく、ぐるりと見渡して一歩一歩近づいてくる。

まるで追い詰めるかのように、追い込むかのように、遊んでいるかのように。

それを実感している僕は、頭の中でさっき聞こえた声のことを考えていた。

途中で聞いたけどアーニャは聞こえていない、つまり僕だけに聞こえた声。

たった一度、警告をくれた二言程度の声。

それを考えながら身に付けていた道具から身体強化の薬を取り外して飲む。

アーニャも同じように飲んでいるけど、この薬って高いんだよね。

お姉ちゃんは何か有った時の為にってくれたけど、正直使わないと思っていた。

奥に向かって走りながらアーニャと話をする、どうやってゴーレムから逃げるかを。

結果、夜の暗さに紛れて村に戻ることになった。

丁度いい穴を見つけて其処に隠れる僕ら、あと少しで薬が切れる所だった。

其処に篭って夜を待つ、後どのくらいか分からないけどそんなに時間は掛からない。

太陽が山に半分隠れているから、何とかなる。そう思わないとどうにもならない。






太陽が山に隠れて、空には星が数多く煌く時間。篭っていた穴を出て村を目指す。

体力は回復したけど、道具や薬が足りない。アーニャだけでも村へ帰したい。

そう思って穴の周囲を見回し、一目散に村に向かって走り出す。

けれどもゴーレムは僕らを見つけていて、走る僕らをあざ笑うように追いかけてくる。

《ナギィィィィィィ、スプリング、フィィィィィィィィィィルドォォォォォォォォォ》

その声になぜかあの雪の日の悪魔を思い出し、足が縺れる。まずい、そう思いながら僕が倒れる。

アーニャが僕を揺さぶっているみたいだけれど、その声は僕に届かない、聞こえない、分からない。

目の前が黒に染まるギリギリに見えたのは、両手を振り上げてこっちを睨む巨大なゴーレムの姿。

そして、僕を庇うように立ってゴーレムを睨みつけるアーニャの姿は、雪の日のお姉ちゃんを思い出す。

・・・・・・・・・・お・とう・・・さん・・・・・・おねえ・・・・・ちゃん・・・・・・・・・・・









※・※・※・※









―魔法学校の卒業試験、その課題となっているアイテム(石ころ)を手に入れるネギと少女(名前知らん)の二人。

―これで何とかなると安著した瞬間を狙い、巨躯の石人形が稼動し始めた。

―どうにもならないという思いを抱いたネギが、それでも何とかしようと足掻くために走り出す。

―そうだもっと足掻け、みっともなく足掻いて、足掻いて、そうやって生き残った先に力は手に入る。

―だからこそかもしれない、俺がネギに助言をしたのは。

―ネギが結界へと入り安心したその先に、ゴーレムがその腕を振り上げる。

―拙い、あれは此処を狙っている。

―逃げる、避ける、捌き、躱す、それに特化するが故に理解した着弾点。

―ネギがどこまで行くのか、どんな道を行くのか、それを見たいが為に警告を発した。

―『走れ! 其処に居ると潰されるぞ!』と。

―ネギが俺の言葉を受け入れ、本能でのみとは言え従った。

―もし話すことが出来るようになるなら、それはネギが俺を認識しなければならない。

―この先で必要となるなら俺がどうにかしよう、避け、捌き、躱し、逃げ、行き着く先の村へ。

―だからこそ、ネギが嘗ての傷を思い出して気絶した瞬間に。

―だからこそ、石人形の拳が到達するほんの僅かな間に。

―俺が俺としてネギ・スプリングフィールドの表面に出る、もっともほんの僅かな時間だけだが。

―石人形、俺に『触れる』ことが出来ると思うなよ?

―俺は遍く全ての中で―――――――純然と『最速』を名乗るモノだっ!!









※・※・※・※









「ネギッ!」

倒れる『ネギ』にアーニャが声をかける、気にするな『ネギ』は寝てるだけだ。

振り下ろされた石人形の拳が到達するよりも僅かに早く、アーニャを抱き上げ踏み切る。

瞬間、アーニャに掛かるGを魔力で相殺、100m先の木の上に着地する。

アーニャは目をきつく閉じて衝撃に備えているが、今はそれを指摘する時間すら惜しい。

そのため石人形がこちらを認識したその瞬間に更に踏み切る、目指すは村。

村への最短距離を木の上を走ることで可能にし、一般に虚空瞬動と呼ばれる移動術を惜しげもなく使用。

漸く攻撃がこないことを理解したアーニャが目を開けるが放置、後ろの石人形が予想よりも速い。

抱えたアーニャが『俺』に何かを尋ねようとした瞬間、虚空瞬動により最短ルートから真横に数mズレる。

ズラした一瞬後、さっきまで『俺』の居た場所を光が通り過ぎる。石人形の目から放たれた光線か?

そう考えた瞬間、全身を悪寒が駆け巡った。正しく、背筋を蛇が這いまわったような感覚。

とっさに後ろを振り返ると石人形が形を変え始めていて、その目が爛々と輝いている、捕食者の様に。

正直な所「見なけりゃよかった」な状態だ、好き好んであれの相手がしたい奴はジャンキーだけで十分だろう。

そう思いつつ両足に力を入れ木の頂点を蹴る、石人形の変形が終わるのはそれと同時と言ってよかった。

瞬間、石人形の動き始めを狙ったスタートは成功、出鼻を挫いてタイミングを崩すことに成功。

それでもまだ危険域、それを知ってか知らずかアーニャが話し掛けてくる。

曰く、「何でこんなに動けるのか」とか、「さっさと降ろせ」とか、「何でそんなにかっこいいんだ」とか。

そんな質問に答える暇はない。それに降ろした瞬間こちらが蒸発しかねない、寧ろ確実に追いつかれる。

面倒なので「気にするな」と耳元で囁く、一瞬でおとなしくなった。便利だが使うなと本能が警告してきている、無視。

石人形はその形を人型から蛇型へと変えている、しかもその目からはビームを連発してきている。

森の中を這いずっているからか、さっきよりも追って来るスピードは上でもビームの命中率は悪い。

ただ時々冷ッとする一発が来るのは頂けない、思いっきり乱射しているのはもっと頂けない。

危なげなくビームを避けながら逃げ続け、村の建物が見えてきた。

瞬間、俺は俺だけの機構を解放する。逃げ切る為に、鍵を差込み点火。

『Key ignition.Shift in Low−Gear』

俺の中で車のシフトレバーが一速(ローギア)には居るイメージが完成、身体の制限が一つ外れる。

その次の瞬間には音速に近い速度を出して木々の上を駆け抜け、村の入り口に降り立つ。

入り口に集まっていた大人は驚いているが無視、わたわたと腕の中で混乱しているアーニャを地面に降ろす。

この時点で残った俺の魔力のうち三割をネギへと譲渡、ついでとばかりにネギを叩き起こし交代。

俺がやるべきことは此処までだろう、あとはネギが何とかしなければいけない。

現段階でネギが扱える最高位の攻撃魔法は『雷の暴風』、それを使えるだけの魔力は渡したしな。

そうしてネギの中から見ていると、鎌首をもたげた蛇の頭に『雷の暴風』が直撃したようだ。

その一撃で頭は粉砕、体のほうも崩壊が始まったことからそこが中枢だったらしい。

あからさまにホッとしているネギとネギを問い詰めるアーニャ、俺が表に出たときの姿って見たことないし答えられない。

周りの大人たちは呆けたままだというのが気になる、そんなんで大丈夫なのかここは。

そう思っていたら再起動したらしい校長だかがネギに近寄ってきた、なにをする気だこの爺。

話を聞くと、さっきのゴーレムは卒業課題を終了して更に修業を積んだ魔法使い用のゴーレム、らしい。

つまり、ネギとアーニャが取る石を間違えたのが発端だということか。

紛らわしいもの置いてるこいつ等も悪いが、ネギの経験としてはいい方だろう。

そうしてそれぞれが自宅へと帰る中、アーニャだけが未だにネギを問い詰めていた。

流石にお姫様抱っこが拙かったのか、途中の耳元で喋った行為が拙かったのか。

どちらかは知らないがネギ、その追及を躱すのは頑張ってくれ。

ただ今一分からんのは、あの石人形が何でネギの親父の名前を叫んでいたのかだ。









※・※・※・※









僕は家のベッドに寝ながら天井を見ている、さっきまでのことを思い出しながら。

雪の日を思い出して目の前が真っ暗になって、次に気付いたら村の入り口に居た。

魔力も『雷の暴風』一発分だけ回復していて驚いたけど、ゴーレムが蛇みたいになってたのはもっと驚いた。

それでも魔力を総動員して『雷の暴風』を使い、何とかゴーレムを破壊。

その場にへたり込みながらホッとしたのに、アーニャは色々と聞いてくる。

「さっきのはなんだ」とか、「今の魔法をもっと早く使え」とか、「さっきのあんたはなんだったのか」とか、「私のこと好きか」とか。

最後の言葉は小さくて聞き取り辛かったからそのまま聞き流した、首を絞められながら振り回されたけど。

その後に校長先生が近寄ってきてゴーレムについて説明してくれた、他の人たちは目が点になってる。

話を聞くと僕とアーニャが取った石はもっと修業した魔法使いが取ってくる石なんだとか、紛らわしいなぁ。

僕らが間違えたからこんなことになったけど、卒業課題は合格だって。

それはすごく嬉しくて、卒業式は一週間後だと言われて今日は休むことになった。

アーニャは家に着くまでさっきの白い髪の僕はなんだって聞いてきたけど、僕も分からないから答えようがない。

そして今、僕はベッドに寝転がってその白い髪の僕について考えている。すると、

『さっきは危なかったな』

なんて聞こえてきて、思わずベッドの上で起き上がり周りを見渡してしまった。

『あー、とりあえずそのまま寝っ転がってていいぞ?』

その言葉を聞いて、課題の中で聞こえた声と同じだと理解する。

そのままシーツを被り、その『声』に小声で話し掛ける。

「誰、なの?」

応えはすぐに帰ってきた、予想外の形で。

『別に念話みたいに心で話してくれていいぞ?』

どうやら声を出す必要はないらしい、ちょっと恥ずかしい。

『で、俺が誰かなんだが・・・・・・・・・・俺はお前さ』

一瞬、僕はその言葉の意味を理解できなかった。

『俺にもちゃんと名前は有る。が、基本的にネギ・スプリングフィールドの裏人格っぽいものらしいぞ?』

なんて、笑いながら言ってくるその人(?)はもう一人の僕らしい。

『色々有ってな、何でかお前の中に入っちまった。何時から居たのかちょっと思い出せないんだよなー。

 あの雪の日にはもう居たんだが、俺はあれを見ることしかできなかったし。ガキにはヘビーにも程があるぞ』

どうやらもう一人の僕はかなり楽観的なようだ、あの雪の日をあっさりと話す。

『で、さっきゴーレムから逃げて村まで移動したのは俺だ。お前がいきなり気を失うから驚いたんだぞ?

 あとお前の意識がないか、お前と俺が意識して交代すれば俺はおまえの身体を使えるらしい。便利っちゃ便利だな』

そんなことを世間話のように簡単に話すもう一人の僕。

お姉ちゃんが偶に見に来た時、僕が居なかったりするのはこれが理由なのかな?

『その通りだな。その時々によりけりだが、月と星が綺麗な晩は散歩に出ることが多いな。

 だからお前の姉――ネカネだっけ?――彼女が見に来た時、部屋に居なかったりするのさ』

くすくすと笑いながら僕に教える彼は、どこまでも楽しそうで、羨ましく思う。

『お前は親父を追いたい、だが引くことを知らない。そう言う奴はそのうち砕けるもんなんだよ。

 だからお前は真っ直ぐ、ただ前を見て親父を追い越して見せろ。逃げること、引くことが必要なら俺がやる。

 お前が死にそうになったら俺が逃げよう。お前の大事な人を助けに行く時、少しでも早く辿り着くように俺が駆けよう。

 俺がお前の引き際になるから、お前はどこまでも気高く真っ直ぐに走って親父を越えてやれ。

 ついでに追いついたときは一発ぶん殴れ。今までほったらかした分だって、全力でな』

彼は言う、お父さんを追いかけるのではなく追い越してみせろ、と。

彼は言う、ただ真っ直ぐに走り抜ければいい、と。

彼が僕の足りない部分を補ってくれるなら、僕は安心してお父さんを追いかけられるんだろう。

今日初めて話したはずなのに、僕は彼を信頼し、信用し、頼ることを決めていた。

だから僕は此処に、もう一人の僕しか聞いてなくても誓いを立てることにしよう。

あのアーサー王も誓いを立てる人だったと聞いたから、少しでもあやかりたい。

「もう一人の僕、僕は何があってもお父さんを追い越すために頑張ることに決めたよ。

 例えどんな試練が有っても、お父さんに追いついて追い越して、お姉ちゃんの分まで殴ってやるんだ!

 だから、僕が間違った道に入ったら何をしてでも正して欲しい。間違わないように気をつけるけど、ね」

たぶん、いま鏡を覗いたら少し照れていながら頼りなさげな顔が映っていることだろう。

それでも僕はこの誓いを忘れない、あの雪の日を乗り越えるために。

『いいだろう、何があってもお前がネギ・スプリングフィールドである限り、俺がお前の半身だ。

 契約は交わせないし仮契約も出来ないが、この言葉の交換を持って契約としようか』

言うべき言葉はすぐにわかる、僕と彼は表と裏だから当然のこと。

「『我等が父を超え行くその時まで、我等は比翼の鳥となりて歩みゆこう』」

こうして僕は二人で一人の、ちょっと変わった魔法使いになった。

いつか別れるその時まで、僕と彼は共にお父さんを越える道を歩む。

そうだ、僕はまだ彼の名前を聞いてない。

本来はただ心で受け答えできるのに、僕は声に出して聞いていた。

「そう言えば、名前聞いてませんでしたね」

『ああ、そうだったな。俺の名前は――――――』

これは僕が歩く道を得た日の話。

これは僕の大切な家族が一人増えた日の話。

これは僕に決意と信念が宿った日の話。









『――――――捌~弌璃(やがみ いつり)だ』









僕はこの日、最速を掲げるモノと契約した。





To be continued...?







あとがき

無謀にも改訂し続き物となりました、それはもう色々と変な方向に

ですが、前のままだとどうしてもどうにもならないという形になります

さて、九十九さんが受け取ってくださるとのことなので次も一緒に送ってみたり

でも正直色々飛ばしているのでヘッポコです、どうにもなりません

とりあえず構想は修学旅行で終わってます、その先は未知の領域と・・・・

そこまで続くかしら、続いて欲しいどすなぁー、寧ろ続いたら奇跡やないか?

そんな封に思いつつ、私の自信は限りなく低いままで一つ




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