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汝、歩むべき道のりを理解するものならば決して敵対してはいけない

汝、光射す世界を知るのなら決して理解しようとしてはいけない

汝、闇に住まいて往き行くものならば決して関与してはいけない

汝、闇の帳を家とするものならば決して忘れてはいけない

『忌歪』とは、終焉を齎す夜と闇を統べる虚無の揺蕩(たゆた)う混沌の海を塒とする

『忌歪』とは、万物を滅びに導き須らく踏み躙る八王が束ねる眠りの園

『忌歪』とは、敵対する総てを虐殺し殺戮し殲滅し蹂躙せしめし絶対の闇である


―――――アグラナ・N・ウィストリム著『「忌歪」に関する考察』冒頭より抜粋









Doppelt 〜The Another ネギま!〜          神鳴神薙

始まりの夜、天を迎えるものと桜通りの吸血鬼








今日から新学期が始まる。いつもとは違ってゆっくりしながらアスナさんとコノカさんと朝食を取る。

今日のアスナさんはアルバイトがお休みで、いつもとは違ってゆっくりとご飯を食べていた。

コノカさんが作った今日の朝食はご飯、お味噌汁、焼き魚、そしてホウレン草のおひたしという純和風。

食べ終わると食器を流し台に下げて水につけておく、帰ってきてから洗うのだそうだ。

新学期、僕が正式に先生として働くことになる本当の初日。初めて来た時と同じぐらい胸が高鳴っているのが自分でも分かる。

これから僕は生徒と一緒に一年間を過ごしていく、そう思うと僕自身が前よりも大人になったんだと思ってしまうから不思議な感じだ。

通学路で千雨さんに挨拶する、千雨さんとはこの間のパーティでそれなりに仲良くなれたと思うけど、まだぎこちない感じがする。

そんなことを考えながら職員室の机に向かい、HRの準備をしてチャイムを待つ。待っている間も少し浮かれてしまうのは仕方ない。

チャイムと同時に職員室を出てまっすぐに教室へ、廊下の表札を2−Aから3−Aに架け替えてクラスの中へ。

「「「3年、A組、ネギ先生―――!!」」」

大きな声と一緒に風香さんと史香さんが飛び跳ねて、クラスのみんなが唱和してくれた。

ちょっと照れくさいけど、それでも僕の受け持つ生徒だと再認識しながら連絡事項を伝え、クラス名簿を見ながら思う。

(まだまだ話したことのない人がいっぱい居るなぁ)

イツリはゆっくりやっていけばいいというけれど、それでもまだまだ話していない人が居るのはさびしいと思う。

すると刺すような視線を感じて顔を上げると、一番後ろに居た金髪の女の子と目線が合った。

クラス名簿を見ると名前を発見、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルというらしい。困ったときに相談しろって、どういうことなのさタカミチ。

少しだけ不安がよぎるけど無視してHRを進めていく、変に気にしても仕方がないと思うし。

すると行き成りエヴァンジェリンさんがすごい勢いで机に突っ伏してしまった、原因不明だけど大丈夫かな?

少し時間が残っているのと、和泉さんと佐々木さんが居ないのが気になるけれど、HRを終わらせようと思ったときだった。

クラスのドアが開いてしずな先生が入ってくる、どうしたのかと首を傾げて見せると苦笑された。

「ネギ先生、今日はこれから身体測定がありますよ?」

「あ、そうでした。皆さん、今すぐ準備に入ってくださーい」

そういった瞬間、クラスの大半の人がにやりと笑った気がする。間違ったことを言ったのかな?

「ネギ先生、あたしたちのあられもない姿、見たいんだ」

生徒を代表するようにしてそういってきたのは朝倉さん、って落ち着いてる場合じゃない!

「ご、ごめんなさーい!!」

「「「ネギ先生のエッチー」」」

クラスの皆が面白そうにそんな声を挙げているけれど無視、すぐさま教室を飛び出した。それを見ながら笑っているしずな先生が印象的でした。

結局僕は職員室に戻って書類を処理していくことにした、というかあの場面であの中に入っていく勇気はないです。お医者さん、尊敬します!

すると職員室の扉が勢いよく開けられて、息を切らせながら和泉さんが僕のところへと駆け寄ってきた。

「ネギ先生、まき絵が、まき絵が!」

どうやら佐々木さんに何かあったらしい、すぐさま和泉さんに案内されて保健室へと入っていく。

保険の先生である香椎先生はクラスを回っているので保健室には居なかった、聞いた話では優秀だけど性格に難があるらしい。

保健室のベッドの上で佐々木さんはいつもと変わらないようにして眠っている、でも僅かに違和感を感じているのはなぜだろう。

「香椎ちゃんの話だとただの貧血らしいんやけど・・・・」

「そうですね。もう少し寝ていれば起き出せると思いますが?」

「まき絵、桜通りで寝ていたところを通行人に見つけられたらしいんや」

桜通りといえば、麻帆良のうわさに桜通りの吸血鬼というものがあるんだっけ。もしかして関係があるのかもしれない。

「そうですか。変な心配は要らないと思いますけど、とりあえず今はこのまま寝かせといて大丈夫です」

少し強めに断言するようにして和泉さんに話す、けれど僕は佐々木さんの違和感の正体にようやく気づいた。

「クラスで身体測定してるみたいなので、早く行ったほうがいいと思いますけど・・・・大丈夫ですか?」

「うち保険委員やのに!」

すると和泉さんが慌てながら保健室を飛び出していってしまった、保健室は静かに、廊下は走らないようにしましょう。

そして僕は一人になって、佐々木さんに向き直りながらイツリに心の中で話しかける。

(イツリ、佐々木さんの首筋に小さな傷があるよ。たぶん、吸血鬼の噛み跡だと思うんだけど)

『んー、たぶん正解。魔力の残照はあるのか?』

(あるよ。十中八九魔法使いとしてかなりの力量があると思う、残照だけでも結構強いし)

『どのぐらい強いのかは分からんが、この後どうするつもりだ?』

(夕方、パトロールをしようと思う。僕の生徒に手を出したんだから、ちょっと会ってお説教しないと)

『ああ、その辺は任せる。今日はパトロールするってことでいいんだな?』

(うん。これ以上僕の生徒に手を出させるつもりはないから、見回らないと)

こうして放課後のパトロールが決定した、イツリが何か言いたそうだったけど結局は何も言わなかった。

そして僕はこの日、今後に関わる人『たち』にであうことになる。

真祖の吸血鬼と麻帆良の破壊者。悪と正義の戦いまでもう少し、そしてそれを僕が目にするまであと少し。









放課後、空には夜の帳が落ちて星が瞬く時間。僕は一人で桜通りを歩いている、勿論ゆっくりと警戒しながら。

「きゃぁぁぁーーーっ!!」

大きな悲鳴を聞いた僕の体は、僕が思うよりも早く走り出していた。

魔法による身体強化、それによって普段よりもさらに早く悲鳴の上がった場所にたどり着いたとき、宮崎さんに近づいていく人影を見つけた。

「僕の生徒に、何をしてるんですかっ!!」

言いながら地面を強く踏みしめて低く跳ぶようにして距離をつめ、踏み込んだ力をそのまま右手に伝えながら人影を殴り飛ばす。

「魔法の射手・戒めの風矢!」

追撃として魔法を放ったけれど、

「氷楯」

相手の生み出した魔法の盾で全部受け止められてしまった、それでも押し返すことはできたようだ。

「いったいあなたは・・・・・!?」

誰なのかと確認しようとして、今日のHRで視線を向けてきた人であることを認識した。

「エヴァンジェリン、さん?」

「さすがあの男の息子なだけある、なかなかの威力だ」

ぼろぼろの黒いマントを羽織り、距離をおいて僕と向かい合っていたのは僕の受け持つ生徒の一人、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人だった。

しかも魔法使い、『正義の味方』であるはずの魔法使いがこんなことをしている?!

「エヴァンジェリンさん! 何でこんなことをしているんですか、僕と同じ魔法使いのあなたが!」

思わず、宮崎さんを抱えていることを忘れて叫んでしまった。

「なにを言うかと思えば、魔法使いには坊やのようないい魔法使いと、私のような悪い魔法使いが居るということさ」

覚えておくんだね、という言葉とともに魔法薬を取り出すエヴァンジェリンさん、僕は反射的に杖を向けることしかできない。

「本屋ちゃーん」

遠くから人影が二つ、声からして片方はアスナさん。だとすると、もう片方はコノカさんだろう。

「ちっ。坊や、サウザンド・マスターについて知りたいならついてこい」

エヴァンジェリンさんは、サウザンド・マスターについて知っている?

思わず固まった僕をおいて、桜通りをかけていくエヴァンジェリンさん。罠かもしれない、けれど僕は父さんについて知りたい。

「ネギ?! あんたが桜通りの吸血鬼だったの!?」

考えているうちに追いついてきたらしいアスナさんとコノカさん、僕はアスナさんに宮崎さんを預けることにした。

「違います! アスナさん、宮崎さんを頼みます。僕は犯人を追いますから!」

そういってアスナさんとコノカさんの言葉を待たずに身体強化を発動、二人から見えなくなったあたりで杖にまたがって飛び上がる。

程なく、同じように飛んでいたエヴァンジェリンさんを見つけて、叫んでいた。

「エヴァンジェリンさん、止まらないと『たらい』を投げますよ!」

すると集中力が切れたのか、一瞬かくんと垂直に落ちかけて何とか体勢を立て直すエヴァンジェリンさん。

「坊や! 何で『たらい』なんてものを持ってるんだい、というか魔法使いがそんなものを投げるな!」

体勢を立て直しても飛ぶ気力を失ったのか近くの建物に降り立ち、そう叫んだエヴァンジェリンさんに僕はこう返す。

「だって、手近にあったのが『たらい』と『たわし』だったんですよ? 投げるとしたら当たりやすい『たらい』がいいじゃないですか」

勿論、今この瞬間に右手には杖と『たわし』を、左手には『たらい』を持って話している。

それを聞いたエヴァンジェリンさんが呆然として言葉を返してくる、何でそこで呆然とするんだろう。

「その選択肢が普通じゃないが、普通はその二つならたわし選ぶだろ、投げやすいし!」

「えっ? エヴァンジェリンさんの肌に直接当たるなら『たわし』、それ以外なら『たらい』を選択しません?」

「するか! あの場面だったら普通は『たわし』を投げるに決まってる、というか、その二択は『たわし』以外を選ぶ必要性がないわ!」

「えー」

「えー、じゃないわ! というか坊や、なんで『たらい』と『たわし』を持っている」

「とりあえず、投げるために?」

「疑問形で返すな! ・・・・・・もしかして、常に持ち歩いているのか?」

「はい? 何でそんな当然のことを聞く必要があるんですか?」

「そんなものを持ち歩くのは断じて当然のことでも普通のことでもないわ!」

なにやらエヴァンジェリンさんは僕が『たらい』と『たわし』を持ち歩いていることがお気に召さないらしい、心の狭い人だ」

「誰の、心が、狭いって?」

「エヴァンジェリンさん、人の心を無断で読んだら駄目ですよ」

「口に出していっていたわ!」

さっきから怒ったようにして叫びに叫んでいるけれど、のどの調子は大丈夫かな?

息を荒げるエヴァンジェリンさんを前にして、余裕を持っているかのように振る舞い相対する。

僕自身、まったくといっていいほど余裕なんてものを持っていない、僅かでも相手が力を出せないようにしないと・・・・・

「はぁ、はぁ。とりあえず、ここまで付いて来れたことは評価しよう。だが、一人で来るとはずいぶんと自信家だな、先生」

「確かに一人です。でも、エヴァンジェリンさんも一人でしょう? だったら遣り方しだいでどうにでもなりますよ」

疲れたように調子を合わせ、僅かに挑発を含ませて言葉を返す。

エヴァンジェリンさんの額には青筋ができていて、挑発がそれ何の効果を出していることを示していた。

「ほう、だったらこれで二対一だな、坊や」

その言葉とともに、僕の体が羽交い絞めにされて持ち上げられた。伏兵?!

「私のパートナーを紹介しよう。3−A出席番号10番、“魔法使いの従者”絡繰茶々丸だ」

「申し訳ありません、ネギ先生」

そういってエヴァンジェリンさんが紹介したのは、いつもエヴァンジェリンさんの前の席に座っていた人。

しかも魔法使いの従者、ミニステル・マギとして契約しているといっている。まずい、いまの僕じゃ勝てない。

従者が居なくてもいいほど強いわけでもないし、従者が居るわけでもない。これは完全にチェックメイトじゃないか!

とりあえず最後の足掻きのようにじたばたしてみる、絡繰さんの腕はまったく動かない。

うわー、もしかしなくても僕大ピンチー?

「たすけてー、おーかーさーれーるー」

「その叫びもどうかと思うが、思いっきり棒読みな台詞だな坊や?!」

「これでも真剣なんですよ? というか放してくれると僕はうれしいんですけど・・・・どうでしょうか絡繰さん」

「申し訳ありません、逃がさないように、放さないようにとのマスターからのご命令ですので」

本当に申し訳なさそうに話す絡繰さんをみて、なんだか僕が悪いような気がしてきてしまうから不思議だ。

「大変ですね、こんなに我儘なご主人様で」

「いえ、意外とかわいい面も持っておられるのでそれはそれで」

どうやら絡繰さんもそれなりにいい性格をしているらしい、腕の力は緩まないけれどもエヴァンジェリンさんに頭の後ろのぜんまいを巻かれている。

その巻かれている姿はちょっと恥ずかしそうで、それ以上にうれしそうに見えるから傍から見れば中のいい姉妹に見えなくもないんだけど・・・」

「坊や、予定では死なない程度に血を吸うはずだったが、訂正して死ぬまで血を吸わせて貰っていいか?」

「駄目です。一応まだ死ぬわけにはいかないんですから、お父さんを殴ってませんし、エヴァンジェリンさんに猫耳スク水セーラー服のコスプレしてもらってませんから」

「殺す。今すぐ殺す、むしろ殺させろ!」

「だから駄目ですってば。エヴァンジェリンさんの猫耳猫尻尾女教師メガネスク水セーラー服のコスプレを写真に収めてないんですから、駄目です」

「増えてる?! というかいい加減にそこから離れんかばか者が!」

「えー」

「えー、じゃない! とにかく、そんなコスプレはしないし、死ぬまで坊やの血は吸わせてもらうからな」

どうやら弄りすぎたらしい、さすがに血を吸われるのはいい体験ではないし、下手をすると僕まで吸血鬼になってしまう。

そうしたら学校の教師なんて夢のまた夢、いや、夜間学校の教師ならなれる!

『はぁ、変な方向に成長してしまった。俺の影響か?』

イツリが何か言っているけれど無視する、こうやって思考を別な方向に、なるべく関係ない方向に持っていかないと怖くて仕方ないんだから。

そして、そのイツリの言葉のせいで目の前に来て首筋に牙をつきたてる寸前のエヴァンジェリンさんと目が合って、にやりと笑われた。

とたん、押し込んでいた恐怖心が戻ってくる。目の前が黒く染まりそうになって持ち直し、正反対に白く染まりかけたその時。

「はぁっ!」

大きな声が聞こえた瞬間、僕を放り出してエヴァンジェリンさんと絡繰さんが離れていく。

目の前には日本刀を持った一人の男性が居て、振り下ろされた日本刀は僕の足元を切りつけていた。

そこは、飛び退いていったエヴァンジェリンさんが居た場所で、薄っすらと光る日本刀は殺すつもりで振り下ろされたものなのだと分かる。

「よくも一番いいところで邪魔してくれたな、天迎狼貴!」

目の前に居る男性が日本刀を肩に担ぎ、エヴァンジェリンさんの方へとその視線を向ける。

その視線は酷く尖っていて、まるでその人が持っている刀のようだと感じてしまうほど、敵意に満ちていた。

「当然、邪魔しないわけには行かないだろう吸血鬼。そして俺の名前を気安く呼ぶな、虫唾が走る!」

目の前に居る人、テンゲイロウキと呼ばれた人が叫ぶようにしてエヴァンジェリンさんに言葉を返す、なぜこんなに怒っているのだろうか。

『この男、もしかしなくてもそうなのか?』

(イツリ、このテンゲイロウキっていう人のことを知ってるの?)

『知らん。が、たぶんとはいえそれなりの予想はつく。後で話すからいまは聞くな』

それっきりどんなに話しかけてもイツリは答えてくれなくて、目の前ではさらに話し合いがヒートアップしていた。

「せっかく私の面倒な呪いが解けるところだったのだ、邪魔するな!」

「うるさい。呪いがどうの言う前に人を襲ってる時点でお前は悪だ、悪は俺が許さない!」

「ふざけるな! 私が悪なのはずっと昔からであって、いまさら一人や二人襲ったぐらいで覆るような正義に見られていたことが気に入らん!」

「お前は悪じゃなくて正義だ、光の下で生きる権利があるんだ! こんな風に人を襲うんじゃない、立場が悪くなるのが目に見えているだろうが。

お前だってこの麻帆良の警備員をやっているんだ、ちゃんと正義を持っているはずだ。なのに、何でこんな子供を襲っているんだ、エヴァ!」

「気安く私の名前を略すな、呼ぶなっ! 私は闇に生きる真祖の吸血鬼であり、闇の福音だ! 私は悪なんだから人を襲うことは当然だろうが!」

最初のせりふと今のせりふとではかなり矛盾していることに気が付いているのだろうか、この様子だと無理っぽいけど。

どうやら痴話喧嘩で夫婦喧嘩らしい、お似合いとはいえなくもないんだけど・・・・・うん、やっぱり仲がいいみたいだ」

「「どこが仲良しだ! きさま(てめぇ)、声を揃えるな気持ち悪い!」」

否定されたけど、同時に喋っている時点でかなり相性はいいらしい。なんともお似合いな二人だこと。

そのまま言い合いしているところ、テンゲイさんの後ろのほうに人影が見えたきがする。

「あんたら、子供の前でなにやってんのよ!」

気のせいではなかったらしい。言い合いをしていたテンゲイさんが、乱入してきたアスナさんの跳び蹴りで吹き飛んでしまった。

大丈夫なのかと思いながら吹き飛んだほうを見ていると、壁が砕けてテンゲイさんが飛び出してきた。

「何で蹴りやがるんだ、明日菜!」

「子供の目の前で痴話喧嘩なんてしてるからよ、このスカタン! というかなんで刀なんて振り回してるのよ、十当地方違反よ!」

「アスナさん、それを言うなら銃刀法違反ですよ、銃刀法違反」

「そうそれ! じゃなくて、あんたもこんなのほっといて逃げなさい!」

どうやらアスナさんの怒りの矛先というものが僕に移ったらしい、テンゲイさんを指差しながら言われてしまった。

というかアスナさん、テンゲイさんと知り合いだったんですか?

じっと、指差しているアスナさんとその先に居る僕を見るテンゲイさんを交互に見て、一言。

「エヴァンジェリンさんとテンゲイさんもお似合いですけど、アスナさんとテンゲイさんもお似合いですよ?」

とりあえず無難であろう答え、そして見ていて思った感想を答えてみた。

「「ふざけるな!」」

見事に二人そろった声で怒られた、何か間違ったことを言ったのだろう。声がそろった二人は顔を見合わせてにらみ合い、そのまま口論を始めてしまった。

それを横目にエヴァンジェリンさんは疲れたような足取りで絡繰さんの肩に座り、絡繰さんは一礼してそのまま飛び去ってしまった。

そして無意識のうちに握り締めていた手を開き、その手が汗で濡れていたことに気づいて苦笑する。

やっぱり僕はエヴァンジェリンさんが怖かったようだ、その証拠がこの手に握られた汗なのだと思う。

体が震える、視界が歪む、世界が滲む、心が揺れる。

ああ、駄目だ。どうしても、どうしても考えてしまう・・・・・僕は、エヴァンジェリンさんに勝つことができない、と。








※・※・※・※









テンゲイロウキ、どういう字を書くのか分からないがネギの目の前でキティと痴話喧嘩をしていた。

その後に神楽坂に蹴り飛ばされて言い合いをはじめ、そのおかげでキティが帰っていったのは行幸だと思うことにする。

今のネギでは勝てないし、その体に刻まれた「血を吸われる恐怖」は意外と根深いものであるらしいから。

あの時、ネギが血を吸われる前にキティと眼を合わせてしまったらしく、かなり奥のほうに恐怖を刻み込まれてしまった。

駄菓子菓子、だがしかし、俺にとってキティは問題でもなんでもなくて、天迎狼貴(漢字はつい先程、神楽坂にネギが教わった)が問題である。

(イツリ、あのテンゲイさんのことなんだけど・・・・・)

ネギが気になって仕方ないらしい、その気持ちは分からないでもない。ただし、俺自身も半信半疑なのだ。

『ネギ、これから言うことはある意味絵空事であるし、ある意味結構大事なことだ。その辺を理解して聞けよ?』

ネギが考え込む。天迎と神楽坂に助けられて女子寮に戻ってきた後、夕食と入浴を済ませて布団に入っている。

その状態でネギは話しかけてきたのだが、布団の中なのだから眠くなるに違いない。

実際、今現在でもかなり眠いらしくネギは睡魔と戦っている状態だ。俺には関係ないというか、寝てもらったほうが楽なのだが。

(分かった。誰にも話さないようにするから、教えて)

溜息を一つ、ネギの好奇心というよりも単純に気になったというのが本音なのだろう。

『まず、天迎狼貴はこの世界における俺という存在だろうな。あの時使っていた気の波長が昔の俺とまったく同じだったし』

それだけを聞いてすでに混乱しているネギ、そこに俺はさらにいろいろと話していく。

『今の俺は気の波長がかなり違っている特殊なものだが、昔はあいつと同じ様な波長を持っていた。だから同一存在だけど別個の存在だ。

ただ気になるのは悪を許さないといった言葉、あいつ自身が正義の味方気取りなんだと思うが・・・・正直その考え方はあまり好きじゃない。

一度だけ正義の味方を目指していると言っていた奴に会って、真正面から言葉で叩きのめした覚えがある。その後は知らんが、立ち直ったんじゃないか?

そいつに近いけれど遠い思考回路を持っているように感じたが、まだまだ会ったばかりだから早計なんだろうと思いたい、思っていられればいいんだが。

なんにしろ、すでに違う魂魄を持っているとはいえ根っこは同じはずなんだよ。あの正義は一つだといいそうなところが気に入らない』

そこまで言って、ネギの精神体が白目をむいていたことに気づいた。どうやらオーバーヒートしたらしい。

小さく溜息を吐きながら考えるのは、天迎狼貴という俺の対極が居るこの世界について。

なぜ俺がここに居るのかではない、なぜ俺がここに来ているのか、である。

やるべきことがあるというのなら、俺に課せられるのは単純にこれから辿る筈の正史を変革するということだろう。

もしもやるべきことがないというのなら、この場合はおそらく今日であった天迎狼貴のカウンターというべき立場ではないだろうか。

俺の対極、たとえそれが昔の俺の魂魄の対極であるといえど、『俺』の対極であることに変わりはない。

だとしたら、この先何らかの要因が重なったとき、天迎狼貴はこの世界において何らかの意味を持つ脅威になるということだろう。

駄目だ。全ては推測、全ては俺の独立した考え、これ以上はもう少し時間と情報がないといけない。

そんなことを考えながらネギの体を拝借、窓辺で空を見上げれば僅かに欠けて満月から変化した月がこちらを見ていた。

月明かりを背にして影から本を一冊取り出す、表記されている題名は『ヴォイニッヒ文書』と解読不明の字で書かれている。

勿論原書、俺の影は全てが繋がっているためどこかで手に入れて影に沈めればこうやって取り出すことができる。

このグリモワール、古書籍商ウィルフレッド・M・ヴォイニッヒが1912年に入手した解読不能の文書である。

一見するところは植物誌のように見える、イタリアのフラスカッティにあるモンドラゴーネのイエスズ会修道院にて発見されたものらしい。

一緒に見つかった書状には、以前はプラハに存在し、アタナシウス・キルヒャーの手に解読が委ねられたことが書かれていたという。

前の所有者はエール大学、そこの依頼を受けた際に暇つぶしに読み始め、解読できることから譲られた一品だ。

内容はまぁ、ここで触れるべきものではない。寧ろ触れたら夢に出てくること受けあいだ、それも半年前後の長期間。

ほかにもいろいろ影には沈んでいる、とある事情で手に入れた最高位の魔導書、リオ・グリモワールというべきそれも沈んでいる。

今日は月が綺麗だが月見に行く気にはなれない、そのためこうして魔導書を読むことにした。

どこかの誰かのようにこれを使って神の模造品を召喚するなんて真似はできない、『これ』はそこまで力のある書ではないのだから。

はてさて、天を迎える高貴なる狼、その意を名前としたあの男はどう動くというのだろうか。

忌諱されるままに歪み、歪な虚無を心身と成す逸脱した理を威と構えた俺。あいつが光で俺が闇、随分とはっきりした対極だこと。

もっとも、俺は自ら闇を選んで進んできたのだから後悔なんてものは砂漠の砂の一粒ほどもない。

もしも、天迎狼貴が敵対したのなら? 当然、俺がその全てを蹂躙し、否定し、叩き伏せてやろう。

なぜならあいつは昔の俺の一つの可能性であり、今の俺にとって何の意味もなさない対極なのだから。

そしてなにより、俺の身体が見つかりかけているのだ。どうやらあの事故にあう寸前で、世界が無理矢理落としたのだろう。

その後遺症がこのネギと同じ身体を使うという制約で、俺の身体はどこかに凍結されているのだろうと思う。

調べても意味ないし、研究材料としては無価値だと○○○○とも言われるドクターが言っていたことだから平気だと思っておく。

ヴォイニッヒ文書を読み進めていき、そろそろ時間だというところでネギの布団へ潜り込む。

やるべきことは決まった、後はそのときが来るかどうかという問題だけなのだが・・・・このままいけばネギが巻き込まれるだろうし。

どういったことになるのか分かったものじゃないが、目下の問題はネギの明日だよなー。

今日感じた吸血に対する恐怖心、一朝一夕になくなるものでもなければ克服できるものでもない。

ネギにとってある意味でいい壁になりそうなんだが・・・・・どうしても気になるのは、ネギの持つネガティブ方面の心だな。

なんだかんだといって俺が居るせいでそれなりに強くはなっているが、まだまだ脆いのだ。

眠るネギを表に出して引っ込んでいく俺は考える、この後どうやってネギが壁を越えていくのかと。

ひとまず明日から暫くは面倒でしんどい一日になりそうだ、そう思いながら俺も休むことにした。








『恐れた心は震えるままに 正義と悪は今宵も踊る』







あとがき

卒論は無事終了、ちゃんと卒業できるのかと小一時間問い詰めたいのはいつもの心境

お久しぶりです、きちんとかけているかちょっと不安な形を感じる神鳴神薙です

ネギの心は今までのそれを見てきた人にとって強くなったと思われているでしょう

ですが、まだまだその心は『脆い』状態です、だからこそ虚勢を張ることができるのですが

新たなオリキャラが出てきましたが、これは一応考えていたキャラです

簡易的なものしか決まっていませんが、これもある種のDopperlt(二重存在)ですね

今後の展開は原作に近いかもしれません、忍者なあの人が出てくるかちょっと不明ですがそれはそれ

ネギがどうやって立ち向かうことを決定するのか、そこに焦点を当てたいと思います

そしてここで注意点が一つ、この作品の白い獣は某作品と同レベルかそれ以下の扱いです

よって活躍場面はほとんどありません、おそらく仮契約の魔方陣を書くぐらいでしょう

決してアンチではないのですが、どうやっても私ではあの小動物をまともに書くことができそうにありません

なので、まず最初に謝らせていただきます、ごめんなさい


桜の路に陰が踊り 星の下では白き光が踊る
月が願う思いを知らず ただ悪を討つは過剰なる白の心

思いを胸に掲げた少年が見るのはどんなものなのか、一興なればと思いまして一つ




役に立ちそうで立たない設定

天迎 狼貴(テンゲイ ロウキ)

16歳、麻帆良学園高等部共学科2年D組所属の男子生徒。強さは上の下あたり。
裏の事情を一握り程度把握して知った気でいる正義至上主義、黒髪黒目で服は白を好む。
桜咲刹那に対して恋心を持つが気持ちをうまく表現できないでいる、ある意味思春期な男。
最近刹那が連れて来る九幻に敵意を向け、その九幻と一緒に抜け出すことがある刹那を複雑に見ている。
この世界におけるイツリ、平行世界のイツリとでもいうべきか。魂魄がかつてのイツリと同じ波長であるだけ。
実質的にはイツリと似ても似つかない力を持つ、イツリの対極的存在。
麻帆良においては『麻帆良の破壊者』というありがたくもない二つ名を持つ、備品クラッシャー兼任。
刹那よりも強さは上で技量は下、使うのは90cmほどの日本刀。業物でもなんでもない。
短時間ではあるが咸卦法を扱えるため、麻帆良では上位に見られている。
素の状態では刹那に勝つことはできない、技術は簡単に言えば『剣道三段』ぐらい。
刹那の秘密は現在知らないが、そのうち知ることになる予定。

あと、愛刀に勝手に銘をつけている。『狼王鬼切』で『ろうおうきせつ』というらしい、知らなくてもいい情報です。
ちなみに意味は『高貴なる狼の王が振るう鬼を切る刃』らしいが、そこまでたいそうな業物ではない。
どこかの海賊たちがいる世界での基準で言えば良業物に届けばまぁよし、程度。



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