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 横に飛び、地面を転がる。
 刹那、今まで私がいた場所に赤いペイントがぶちまけられた。
 敵を確認しようと顔を上げた瞬間、額に激痛がはしる。同時に、視界が赤く染まった。
 意識が飛びそうになり、ふらついてうまく立ち上がることができない。ライフルは地面に落していた。
 次の瞬間には、全身を痛みが襲った。視界が、傾いていく。
 意識を失う直前に聞いたのは、私の名を叫ぶ仲間の声だった。
 





第弐話「三つ巴」








 額の冷たさに、目が覚めた。それは濡れタオルだった。
 私は木の幹にもたれかかるようにして寝かされ、装備や銃は傍らに並置かれていた。血のようにべったりと飛び散ったペイントが、ベストや銃を彩っている。
それを見て、思い出した。
 いつもどおりの訓練だった。
 日曜日には珍しくメンバーのほとんどに所用があり、昼からの訓練に来られたのは神楽坂と雪広の二人。彼女たちと一対二で、使用許可を取っていた森林公園で模擬戦を行った。
そして、私は神楽坂に撃たれたのだ。
 ふと、ある音が聞こえてきた。それは風で木の枝が揺れる音に混じって耳に入ってくる。固いプラスチックの、そう、パソコンのキーボードを叩くような、規則的なものだ。
 音のする方へ顔を向けると、私と同じように木に背を預けて座っている、一人の少女がいた。小麦色の長い髪を後ろで二つにまとめ、丸い眼鏡をかけた彼女を私は知っている。あまり話をしたことはないが、クラスメイトだし特徴的な名前だから忘れるはずがない。
 私に気付いた彼女――長谷川千雨は、笑みを浮かべていた。

「よっ、おはよ」
「……おはよう。こうして話すのは、初めてだな」

 なぜそう付け加えたのか、自分でもわからなかった。

「意外とそうでもないんだけどな。まっ、短い会話がほとんどだし、覚えてないか」

 思わず口から出た言葉に、長谷川は微笑を浮かべて返した。膝の上に置いた携帯端末の操作を一旦止め、それを本のように二つ折りに閉じる。
 そして、眼鏡のずれを指先で少し突き上げるようにして直した。

「アタシは近くを散歩してただけなんだけど、なんか大変だって呼ばれてさ」

 物事を一つ一つ思い出すように、ゆっくりとした口調で話していた。

「あとで委員長と神楽坂に感謝しとけよ。かなり心配してたぞ」
「そうか……すまない、迷惑をかけたな」
「いいよ、別に。いつも私は暇だし、特に今日は散歩に出るぐらい暇だったから」
「本当にすまない。それで、二人はどこに」
「あっち」

 長谷川の腕がのそっと上がる。突き出された指先を見れば、離れた場所で神楽坂が地面に伏せて機関銃を撃っていた。的を相手に射撃訓練をしているらしい。
 その隣では、雪広が立膝で射撃を行っている。安定しているようで、的のほぼ中心に着弾が多い。

「神楽坂の銃、すごいな。あんなので撃たれたら、そりゃあ蜂の巣にもなるよ」

 彼女はけらけらと笑いながら目を細め、私の全身を舐め回すように視線を巡らせる。
つられて自分の身体を見て、その意味が分かった。装備を外したとはいえ、服にはまだペイントがべっとりと飛び散っていて、まるで本当に蜂の巣にされて血を流しているかのようだった。

「エグい色。本物の血みたいだ」
「軍事研が、大学の研究室に作らせたそうだ。超と葉加瀬も関わっているらしい」
「どうりでリアルなわけだ」

 長谷川は、うえっ、とわざとらしく舌を出した。

「大変だねえ。そんなのにまみれて撃ち合いしてさ」
「ふ、当たらなければ問題はない」
「しっかり当たってる癖に、何言ってんだよ」
「ふふっ、そうだな」

 苦笑交じりに呟く彼女につられて、私も自然と笑みをこぼしていた。今の状態をうまく表現できないが、居心地がいい、というのはこういう感情を言うのだろう。
 長谷川とは初めて――に近い――会話をしたが、彼女は普段の物静かな印象とは少し違って、取っ付きやすい雰囲気をまとっていた。
 だが、次の瞬間には嘘のようにかき消えた。私を見つめる長谷川の顔が、鋭いものに変わったからだ。

「そこまでする理由って、なんだ。そんなにいいのか、あのクラスが」

 私の心を探ろうとしている。そんな気がした。

「アンタさ、今までクラスじゃ我関せずみたいなキャラだったよな。それが急にどうしたよ」

 長谷川は顔を覗き込んできた。
 何も映さない黒い瞳が、吸い込まれそうなほどに深みを増している。
 私の心を、探ろうとしているかのように。

「何がアンタをそこまでさせる。何がそうまで駆り立てる……」

 押しつぶされそうなプレッシャーに戸惑いながらも、私は何とか口を開くことができた。

「決別、なんだ。今までの私自身と」
「……は?」

 長谷川は首をかしげた。

「私は、本当につい最近までだが、一人で何でもできると思っていた。運動も勉強も家事も料理も、他にもいろんなことができる。だから、一人で生きていく自信があった」

 今思えば、その考えはとんでもない自惚れだ。

「友達なんて必要ない。だからクラスメイトともあまり接点を持たずに過ごしてきた。でも、それが間違いだと気付いたんだ。やっと、わかったんだ」

 きっかけをくれたのは、雪広だった。
 気付かせてくれたのは、チームの皆だった。

「仲間と共になにかを成し遂げたい。そうすれば、新しい自分が見つけられる。私を駆り立てるのは、その想いだ」

 自分の胸に手を当てる。奥に、熱く煮えたぎるものがあるのを感じる。この熱さをくれたのは、紛れもなく皆だ。チームの皆が、私を変えた。変えさせてくれた。
 この気持ちが、今の私を突き動かしているのだ。

「……くっ、くくくくく」

 肩からすっと手が離れる。長谷川は急に、体を震わせて笑い出した。

「いや、意地悪な質問して悪かった。普通の聞き方じゃあ話してくれないだろうから、芝居をうってみたんだけど。それにしても、くくっ……!」

 目尻に涙を浮かべながら、長谷川はかみ殺した笑いを漏らしていた。

「な、何がそんなに可笑しいんだ!」
「くくくっ、いや、なに。クラスメイトの意外な本心を聞いて、つい、な。ふふっ」
「まったく……私は真剣に話したんだぞ」
「くく、すまんすまん。気を落とさないでくれよ」

 涙をぬぐうと、彼女はまた木にもたれかかった。
 最初は何かと思ったが、どうやら彼女なりのジョークだったようだ。
 空気に圧されてつい本心を漏らしてしまったが、まあ、いいだろう。
 別に、話して損になることじゃない。むしろ、もう一度自分の本心を確かめられた。

「チサメ……」

 背後で、微かな声がした。長谷川の見上げるような視線につられて振り向く。
木の幹に半分隠れるようにして、クラスメイトのザジ・レイニーデイが顔をのぞかせていた。その目つきから、妙な冷たさを感じた。

「チサメ、おそい。ずっと探してた……」

 頬を見てわかるほどにむくれさせ、機嫌悪そうに呟く。長谷川が、すまん、と言って立ち上がった。

「暇じゃなかったのか?」

 聞くと、ああ、ととぼけた表情になる。

「変に気を遣わせたくなかったからな。ちょっと嘘ついた。ほんとはコイツとデート中」
「ちがう。買い物の、つきそい」

 ザジの両手には、大きな紙袋が下げられていた。重たいようで、持っているザジの腕はぴんと伸び、小刻みに震えている。
 長谷川が一つ紙袋を持ち、ごめん、と今度は真面目に謝った。ザジはこくりと頷いた。まだむくれていた。

「そんじゃ、アタシ行くわ」

 携帯端末を紙袋に放り込み、ザジの後ろを長谷川は歩いていく。私はその背中に、声をかけた。

「ああ、じゃあまたな」

 彼女は何も言わず、代わりに片手をあげて去っていく。
 二人の姿が見えなくなるころには、身体の倦怠感は消え失せていた。







 街がオレンジに染まり、カラスが耳障りな鳴き声が聞こえる。
 青々とした葉をつける桜通りの並木の下を、寮に向かって三人で歩く。人通りは無く、木の上のカラス達が妙に不気味に感じる。

「みんな、忙しそうね。結局誰も来なかったし」

 夕焼けの空を見上げながら、神楽坂が呟いた。肩から下げたスポーツバッグがずり落ちそうになり、中の装備が音をたてる。
 雪広が手を差し出してそのバッグを支えた。

「しょうがないでしょう。麻帆良祭まであと一週間とちょっと。忙しくない方が珍しいですわ」
「うーん、じゃあ私は珍しい方なのかな」
「神楽坂は、準備とか無いのか。美術部は忙しいんじゃないか?」
「今年の展示会。先生の都合とかで新しく描いた絵じゃなくて過去の作品を飾るらしいから、仕事が少ないのよ」

 私は二人の後ろをついて行きながら、会話に耳を傾ける。結局、今日の訓練に他のメンバーは来なかった。
 皆、用事が長引いてしまったと連絡があった。
 神楽坂のように、今の時期にこうして時間を自由に使えるのは、本当に珍しい。まあ、私もその一人なのだが。

「あれっ?」

 急に、二人が立ち止った。

「どうした」
「いや、ほら、あそこ」

 神楽坂が指をさす先、桜通りが終わろうとする地点に立つ人影。大小二つのその影は、私たちを通させないかのように立っていた。
 最初は木の陰でよく見えなかったが、沈んでいく夕陽がゆっくりと照らしだした。

「エヴァちゃん。それに、茶々丸さんも……」

 小さな影は、クラスメイトであり私とは裏の仕事仲間でもある、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだった。
 その傍に控えるのは、エヴァのパートナーである女性型ロボット、絡繰茶々丸だ。

「お二人ともどうしたんですの、こんなところで。それに、その格好は……?」

 エヴァは、普段仕事で使う――雪広と神楽坂はもちろん知らない――黒マントを羽織って、その華奢な体を覆い隠していた。
 茶々丸は普段通り、学校の制服を着ている。

「こんな場所で何をなさっているのです? 誰か待ち人でも……」
「流石委員長、鋭いな。確かに、私はここで人を待っていた」
「待って、いた……?」
「お前達のことだよ」

 エヴァが、にやり、と歪な笑みを浮かべた。
 雪広の表情がこわばり、数歩後退る。神楽坂も重い空気を感じ取ってか、微かに身震いした。
 私は二人の前に出て、彼女と向き合う。

「お前たち、ファイナルウォーズの本戦に進めたんだって?」

 芝居がかった台詞を言いながら、エヴァは一歩ずつ近づいてくる。豪奢な金髪を風になびかせ、漆黒のマントをわざとらしく揺らす。
 まるでここが、開演中の舞台であるかのような達振る舞いだった。

「そうですが、なにか」
「いや、なに、確認だよ。そう、これは確認だ」

 視線を交わらせない。彼女は真横に来ると歩みをとめ、横目でこちらをちらりと見た。
 白く鋭い犬歯が、歪な笑みをする口から覗く。
 そして、エヴァはその赤くぎらぎらとした目を大きく見開いた。

「本戦で戦うかもしれない相手のなぁっ!」

 彼女のマントの中で、固いものが鳴った。
 安全装置を外す音。
 電撃的な直感が、私の体をすぐに反応させた。

「龍宮さんっ!」

 雪広の叫びと同時に身をよじり、マントの下から現れた物体をエヴァの腕ごと蹴りあげる。
 それらはフルオートで弾を吐き出しながら円を描いた。赤い弾丸がそこらじゅうで破裂する。
 桜通りはあっという間に、ペンキをぶちまけられた絵画のような状態になった。

「チィッ!」

 後ろへと飛び、距離をとった。
はっきりと、彼女が握るモノの正体を視認した。
 木製のグリップと銃底、黒光りするフレームが怪しく光るアサルトライフル。

「カラシニコフかっ!」

 AK-47カラシニコフ。設計から半世紀以上が経つベストセラーアサルトライフル。
 エヴァの両脇に抱えられた二丁のAKは、ゲーム用の模造品とは思えないほどの重苦しい威圧感を放っていた。

「ちょっとエヴァちゃん、なにすんのよ!」
「そうですわ、いきなり撃ってくるなんて!」

 抗議する二人を、エヴァはAKの銃口を向けて無理やり黙らせた。
 二人の前に出てると、エヴァはやっと銃口を下ろした。

「まったく、こういう喧しいメンバーだと、さぞ大変だろう龍宮。なあ?」

 同意を求めるように、こちらを向くエヴァ。馬鹿にしている仕草に、思わず睨み返す。

「そう怖い顔をするな。今日はただの挨拶だよ」
「挨拶にしては度が過ぎると思うがな」

 怒気を含んだ声が、自然に出た。
 私を、仲間を馬鹿にした彼女を見ていると、心の奥底から黒いものが湧き出てくる。
 こんな感情を抱いたのは、久しぶりだ。

「ふっ、お前たちのような奴が相手なら、優勝はこの私が頂いたも同然だな」
「エヴァンジェリンさん、貴女も……」
「そう、目的はお前たちと同じさ。商品狙いだよ」

 私よりも背が小さいはずの彼女が、見下すような視線を向けてくる。

「まあ、お前たちのようなのが相手なら、優勝はいただきだな」

 まただ。またエヴァは仲間を馬鹿にした。格下だと見下した。
 今すぐにでもその顔をペイントだらけにしてやりたいが、手元に武器が無い。言い返そうにも言葉が見つからない。
 このままやられるがままなのか、私は……。



「始める前から決めつけるのは、ちょっと違うんじゃないか?」



 背後からの声に振り返ろうとした刹那、耳元で何かが風を切る。
 エヴァと茶々丸が飛び退ったその場所に、ペイントが弾けて赤い色がぶちまけられた。
 エヴァから笑顔が消えた。
 彼女の睨むような視線をたどって、振り返る。

「よっ、さっきぶり」
「こんにちは……」

 本当に、先程ぶりな二人がそこにいた。長谷川千雨とザジ・レイニーデイだ。
 エヴァを撃ったであろう銃、MP5Kサブマシンガンが長谷川の手にしっかりと握られていた。
 ザジは自動拳銃のP30を構え、警戒しているのか茶々丸にその銃口を向けている。
 二人の足元には紙袋が置かれていた。おそらく、銃はあの中にあったのだろう。私と会った時にはもう、二人は武器を持っていたのだ。
 そんな彼女たちの異様な出で立ちに、雪広と神楽坂は激しく動揺していた。

「長谷川さんにザジさんっ!? そ、その格好は一体……」
「まさか、あんた達も参加者だっていうの!」

 ザジが大きくうなずいた。

「ふん、貴様のような奴が参加したところで、脅威になるとは思えないな」

 腕組みしながらエヴァが息巻く。突然現れた二人に対しても、余裕を見せていた。
 だが、長谷川は笑みを崩さない。

「窮鼠猫を噛む、ってな。相手が強ければ強いほど、跳ねっ返りは大きいんだぜ?」

 そう言って、銃口をエヴァに向けた。
 自分が思うような反応ではなかったのか、エヴァは忌々しく舌打ちする。
 彼女が長谷川に向ける視線は、狩りを邪魔された狼のようにぎらつきいていた。
 面白くないとでもいう風に顔をしかめ、茶々丸を連れて速足に去っていく。

「ふん。せいぜい本戦まで力を養っておくんだな。だが勝つのは私だ、覚えておけ」

 それだけ言うと、エヴァと茶々丸は街並みに紛れるようにして消えていった。
 緊張がほどけ、肩から力が抜けた。長谷川とザジが私達に歩み寄ってくる。

「ふぅ、大丈夫か? 三人とも大変な奴に目を付けられたな」

 長谷川も無理をしていたのか、今になって玉のような汗をかき始めた。

「うん、びっくりした。けど、でも千雨ちゃんまで参加してるなんて、もっとびっくりしたわよ」
「ザジさんもですわ。二人とも、こういうゲームはなさらないかと思っていましたのに」
「そりゃこっちの台詞だ。委員長も神楽坂も、サバゲーなんて似合わねえよ」

 長谷川は笑みを浮かべていた。
 最初こそしかめっ面だった雪広と神楽坂も、つられて表情を明るくする。
 一見無表情に見えるザジにも、心なしか笑っているような印象を受けた。

「千雨ちゃんは、どうしてゲームに参加しようと思ったの?」
「んー、賞品狙い。っていうのはついでで、内容に魅かれたっていうのが本音だ」

 質問を投げかけた神楽坂は、頭に疑問符を浮かべていた。
 長谷川は、一度視線を私に向けてから、昔話を語るような口調で話を始めた。

「アタシさ、最初は刺激が欲しかったんだ。ウチのクラスって皆騒がしくて、正直輪に入りづらい空気があって。ザジとか本屋とか、それに綾瀬なんかとはよく話したりするんだけど」

 こくり、とザジが頷く。

「本屋や綾瀬はさ、普段物静かだけど実際はちゃんと自分を持ってて、主張とかきっちり言えるタイプだ。でも、アタシはこのままじゃ絶対に変わらない。人との接触を避けて、どんどん寂しい方へ行っちまう」

 笑っている彼女の顔が、徐々にうつむいていく。

「だから、このままじゃいけないって思ったんだよ」

 勢いよく顔が上がった。その目に、確かな輝きを宿して。

「このままじゃ、高校でも大学でも、社会に出てもこんな寂しいままで終わっちまう。そんな時に聞いたのが、このゲームの話だった」

 何かを堅く決意している、そんな顔だった。

「だから、アタシはこのゲームで自分を変えようと思ったんだよ」

 普段の長谷川からは想像もつかない、熱い炎のような感じられる気迫。
 雰囲気に圧倒されてか、雪広も神楽坂も、顔を強張らせていた。
 長谷川はザジの肩に腕を回した。

「コイツもさ、同じようにもっと積極的になりたいって参加したんだ。アタシと同じチーム、っていうかチーム自体はザジの身内みたいなもんなんだけどな」
「そう、サーカスの人たちが、結成したの。みんなは、賞品狙い。でも、ワタシは違う。チサメと一緒に、自分探し……」

 ザジもまた、自分の中に強い意思があるようだ。
 それを表すように、彼女には珍しく声をはっきりと出し、拳を握りしめている。

「そうでしたの……。二人とも、素晴らしいと思いますわ」

 雪広に呼応するように、神楽坂が頷く。

「うん、うん! カッコイイじゃん、そういうの。千雨ちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「頑張ろうって。おいおい、アタシら敵同士なんだぞ?」
「お互い、後悔のないように戦いましょう。そういうことですわよ」
「そういうことなら、受けて立つさ」
「うん。みんな、がんばろう」

 顔を見合わせ、ほほ笑む四人。
 まだ本戦も始まっていないというのに、クラスメイトの新たなつながり≠ェ出来ようとしている。
 絆という、強いつながりが。

「暗くなり始めたな。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「そうですわね。いろいろあって、なんだか疲れましたわ……」
「ねぇねぇ、せっかくだからこの後みんなで大浴場行かない? 聞きたいことあるしさ」
「賛成……。龍宮さんも一緒に、いいでしょ……?」
「ああ、皆で入れば楽しいからな」
「騒がしい、の間違いじゃねえのか?」
「よーし、じゃあ寮まで競争よー!」

 神楽坂が走り出す。
 雪広が、長谷川が、ザジが、そして私がつられて走り出した。
 皆、笑顔だった。疲れも何もかも吹っ飛ばす、満面の笑み。
 きっと私も今はこんな顔をしているのだろう。


 そんなことを思いながら、寮までの道のりを全員で走った。








 二〇〇二年、六月八日。
 麻帆良ファイナルウォーズ本戦まで、あと十日。


 出席番号一〇番、絡繰茶々丸。
 出席番号二五番、長谷川千雨。
 出席番号二六番、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 出席番号三一番、ザジ・レイニーデイ。

 以上四名、参戦確認。



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