遠い、遠い昔の事――宇宙の彼方にある惑星“セイバートロン”は不思議な生き物が住んでいた。

その生き物とは――知性と感情を兼ね備えた巨大なロボット“トランスフォーマー”達である。

彼等は善の“サイバトロン”と悪の“デストロン”と言う2つの班に分かれていた。

だが残忍で暴力的な悪の軍団デストロンが惑星の掌握を企み、平和を愛するサイバトロンへ一方的に攻撃を仕掛けた。

その為、セイバートロン星は一面火の海と化し、豊かなエネルギー資源と高度な文明は壊滅に追い込まれたのだった。

かくしてサイバトロン戦士達は正義と平和の為に敢然と立ち上がったのである。






プロローグ【運命を握る蒼き星へ】








現サイバトロン基地・アイアクローンにて、1隻の戦艦が広大な宇宙へと飛び立とうとしていた。
この戦艦の名は“アーク”と言い、今のサイバトロンが持ち得る最高の宇宙戦艦なのである。

アークの中には多数のサイバトロン戦士達が乗り込み、各々が任された操作席に座り、出発準備を整えていた。
何故彼等が宇宙へ飛び立とうとしているのか――それは長きに渡る戦いのせいでサイバトロン戦士達のエネルギーが底を尽き掛けていたからである。
苦悩の末、サイバトロン総司令官であるコンボイは惑星探索に出る事を決断、戦士達を引き連れてエネルギー獲得を目指すのだった。

「スタンバイ完了です」

手元にあるコンソールパネル操作し、出発の準備を着々と済ませるマイスター。
副官の地位を任されているだけあり、彼の手際の良さは素直に関心する物がある。
コンボイにとってそんな彼の存在は貴重だった。

中央の艦長席に座るコンボイは他のサイバトロン達が出発準備を整えた事を確認し、手元のスイッチを1個ずつ押していく。
そして最後の大型ブースター点火スイッチを残し、コンボイは再び他のサイバトロン達の姿を見回した。

「よし……発進する」

コンボイがゆっくりとスイッチを押した。
その瞬間、けたたましい音と振動が戦艦を襲った。
ブースターが正常に動作している証拠である。

――自分達が向かおうとしている宇宙には一体何が待ち受けているのか。
この思いはコンボイだけではない。他の者達も彼と同じ思いだった。
この惑星探索任務の成果次第では、この先の自分達の運命が決まるのだから。



戦艦アークが希望と共に飛び立った頃、離れた場所でその光景を見ていた者達が居た。
正確に言えば直接にでは無く、戦艦内のモニターから見ていたのだ。
見るからに刺々しいデザインをした戦艦――それを所有している者達は“ネメシス”と呼んだ。

ネメシスの中ではサイバトロン達と同じく、多数の戦士達が出発準備を整えていた。
全員に悪の軍団を象徴するエンブレムが輝いている。デストロン戦士だ。
艦長席にドッシリと構えるデストロン軍団リーダー・破壊大帝メガトロンは出発の時を今か今かと待ち続けていた。
サイバトロンのエネルギー獲得を阻止するのが目的なのに、このままでは彼等の戦艦を見失ってしまう。

『もっと準備を急がんか! 奴等を見失ってしまうぞ!』

メガトロンの怒声が艦内に響く。乗組員のデストロン全員が動作を速めた。
その様子を苛々と見守っていると、手元のコンソールパネルが突然光り始めた。
どうやら通信らしい。メガトロンはパネルを操作し、モニター画面に通信者の姿を映した。

『メガトロン様、御武運を祈っています。お気をつけて』

通信をしてきたのはセイバートロン星の管理をしているレーザーウェーブだった。
現在セイバートロン星の殆どはデストロンの支配下に置かれている。
宇宙へ飛び立つと決めた際、メガトロンが彼にセイバートロン星の留守を頼んだのである。
勇敢・忠実・優秀と3拍子揃っている彼は確かに留守を任せるには適任だと言えた。

そしてこんな時でも通信を送ってくる姿勢は、彼の忠誠心の深さを物語っている。

『うむ。お前こそ、セイバートロン星の留守は任せたぞ』

『承知致しております。では』

レーザーウェーブの特徴的なモノアイが2、3回光った後、通信はプツリと切れた。
時折真面目過ぎるところがあるが、メガトロンは彼の事を高く買っている。
荒くれ者揃いのデストロン軍団を力で纏めているメガトロンにとって、レーザーウェーブのような戦士は頼もしく思えた。

『ネメシス発進……準備完了』

操縦席に座るサウンドウェーブがメガトロンへ報告する。
聞き慣れたとは言え、彼のエフェクトボイスは少々耳触りな感じがした。
メガトロンはゆっくりと宇宙を見据え、発進の号令を掛ける。

今――サイバトロンの後を最悪の追跡者が追おうとしていた。













セイバートロン星を飛び立ってから早数時間――特に問題も無く、アークは順調に運航を続けていた。
適当な惑星を見つけるまではまだまだ時間が掛かる。その間に休息を取ろうかと言う者達も現れ始めた。
しかしそんな平和な空気も、突如として響いた警告音によってかき消されてしまうのである。

「何事だ!」

コンボイが操縦席に座るプロールへ怒鳴るように言った。
プロールは少し狼狽しながらも、手元のパネルを操作し、画面に映して異常を確認する。
映ったのはアークに近づく巨大な影――宇宙に何万個かはあろうかと言う小惑星だった。
それはアークの正面に向けて確実に近づいており、プロールが報告する頃には眼で確認出来る程に接近されていた。

「衝突するぅぅぅ!?」

誰が叫んだのかは分からない。そんな事を確認する暇は無かった。
その言葉通り、接近していた小惑星が容赦無くアークへ衝突し、粉々に砕け散った。
とてつもない衝撃がアークと乗組員を襲う。数々の悲鳴が戦艦内に響いた。

「落ち着け! 皆、何かにしっかり掴まっていろ!!」

コンボイの号令が飛ぶ。冷静沈着な判断だった。
砕け散った小惑星の破片がしつこくアークを襲ってくる。
しかしその被害を受けていたのはアークだけではなかった。



『流星群接近、流星群接近。各自衝撃ニ備エヨ』

アークを追跡するネメシスも破片の被害を受けていた。
サウンドウェーブが冷静に警告を促し、報告する。
しかしメガトロンにとってそんな物は恐るるに足らなかった。

『多少の被害は構わん。奴等を見失うんじゃないぞ!』

その命を受け、サウンドウェーブは操縦管を力強く握り締めた。
リーダーの命令は絶対である。何があっても必ず従わなくてはならない。
サウンドウェーブもまた、メガトロンに忠誠を誓う者の1人だった。



眼の前にはまだ何十万個と言う小惑星の破片が広がっている。
破片の衝突は小さい被害とは言え、積もれば大きな被害へと変わっていくのだ。
特に小惑星に衝突された部分へはこれ以上負担を掛ける訳にはいかなかった。

「止むをえん。アイアンハイド、レーザー砲の準備だ!」

コンボイが砲撃担当の若き戦士、アイアンハイドへと命令する。
彼は素直に命令を聞き、アークが搭載する大型レーザー砲の砲門を開いた。
瞬時にエネルギーが蓄積され、発射準備完了のアラートが鳴り響く。

「コンボイ司令! レーザー砲、発射準備完了です!」

「よし……撃て!!」

蓄積されたエネルギーが砲門から一気に巨大な波となって放出され、眼の前の破片を飲み込んでいく。
塞がれていた道が開け、アークは勢いに任せて突破した。無論その後ろにはネメシスの姿もある。
漁夫の利を得るが如く、サイバトロンが作った道をメガトロンは遠慮無く利用させてもらったのだ。

サイバトロン戦士達が危機を退けたのも束の間――新たに警告音が艦内に響いた。
プロールが状況を確認すると小惑星とは違う、明らかに自分達を追って来ている機影を確認する事が出来た。
アークよりも少々大きく、速度も上げて来ている。プロールはすぐさまコンボイへ報告した。

「司令官! 私達を追って来ている宇宙船がすぐ後ろに居ます」

プロールからそう報告を受け、コンボイは直感した。

「デストロンの奴等に違いない……! プロール、何としても振り切れ!」

「分かりました。何とかやってみます……!」

プロールが操縦管を握る手に力を込めた。そして思い切り捻った。
アークが上へ反るように動き、ネメシスを撒こうと速度を上げる。
艦内に衝撃が走るが、そんな事には構っていられなかった。



『敵……感ヅイタ』

『構わん。追うのだ』

敵戦艦アークが速度を上げた事に気付き、ネメシスも負けじと速度を上げた。
メガトロンにとって追跡が途中で気付かれるのは想定内の事であり、慌てる理由が無かった。
そんな時、火器管制システムを管理する席から勝手に離れ、メガトロンに近づく者が居た。
デストロン軍団No.2――航空参謀スタースクリームである。

『気付かれた以上攻撃あるのみです。メガトロン様』

スタースクリームの言う事は最もである。
だがメガトロンは不快そうに顔を歪めた。

『出しゃばるなスタースクリーム。牽引ビーム用意、奴等を生け捕りにする』

ネメシスが更に速度を上げたかと思うと、すぐにアークの左隣へ並んだ。
そしてネメシスの右翼から戦艦を捕獲、または留めておく牽引ビームが2本発射され、アークを繋ぎ止めた。
まんまと敵戦艦の捕獲に成功したメガトロンは冷たい笑みを密かに浮かべた。



牽引ビームによって繋ぎ止められたアークは自由な運航が不可能となっていた。
コンボイがすぐさま剥離レーザー発射の準備を命令するが、先の小惑星との衝突によって発射管が潰されてしまった為、不可能だった。
このままでは上陸用ルートを繋がれ、敵がこちらへ一斉に流れ込んでくる。その最悪の事態だけは何としても避けなければならない。

「マイスター! 小型レーザー砲は生きているか?」

「ちょっと待って下さい…………大丈夫です司令官。何とか生きてます」

マイスターの報告に勝機を見い出したコンボイはアイアンハイドに命じ、小型レーザー砲の準備を始めさせた。
砲身がゆっくりと敵戦艦ネメシスの方を向き、アイアンハイドが照準を合わせる。
それが完了した時、アイアンハイドは自然と大声でコンボイにその事を報告していた。

「よし撃て! アイアンハイド!!」

「了解ッ!!」

アイアンハイドは発射装置となっているトリガーを引き、レーザーをネメシスに向けて放った。
砲門から放たれた小さな光弾がネメシスの分厚い装甲を焼き、引き裂いた。
ネメシスが大きく揺れ、それに釣られて牽引ビームも消え掛かる。コンボイは消える事を祈った。



『敵ノレーザーガ直撃。第1エンジン、第2エンジンルームニ火災発生。牽引ビーム消失ノ可能性大』

『くっ……おのれコンボイめ!』

どんな状況でも冷静を保ち、メガトロンに随一事態を報告していくサウンドウェーブ。
思わぬサイバトロンからの反撃にメガトロンは艦長席のコンソールパネルを叩き壊していた。
更なるサウンドウェーブからの報告によるとネメシスは引力に引っ張られているらしく、このままでは前方にある星に墜落するらしい。

『何とか無事に着陸出来ねえのかよサウンドウェーブ! 墜落して御陀仏は御免だぜ!』

スタースクリームが悲願するような声で言った。
しかしサウンドウェーブの態度は変わらず、冷静なままだ。

『無理ダ。先程カラ操縦管ガ操作ヲ受ケ付ケナイ。少シデモダメージヲ軽減出来ルヨウ、衝撃ニ備エタ方ガ良イ』

期待した答えも容赦無く撥ね退けられ、混乱するスタースクリーム。
普段の彼は冷静なのだが、少々臆病な気質なのが玉に瑕と言えた。
他のデストロン戦士達はサウンドウェーブの言葉通り、衝撃に備える準備をしている。
そんな時、混乱していたスタースクリームがふらつきながら砲撃席に近づいた。

『どうせ死ぬんなら、奴等も道連れにしてやる……!』

砲撃担当の――自分と色違いの同系である――サンダークラッカーを無理矢理退かし、スタースクリームはコンソールパネルを操作した。
後ろからメガトロンの怒声が聞こえるが、今の彼にとっては知った事ではなかった。このままやられっぱなしと言う訳にはいかないのだ。
一矢報いなければ死んでも死に切れなかった。

2本ある牽引ビームの1本が消え、代わりに5門のレーザー砲が姿を現した。
照準を敵戦艦アークへ合わせ、スタースクリームは微笑を浮かべる。

『くたばれサイバトロン共ぉぉぉ!!』

発射スイッチが勢いよく押された。刹那、5門のレーザー砲の砲門が光り輝く。
そして砲門から光弾が次々に乱射され、アークの装甲を焼き尽くした。
――スタースクリームの狂ったような笑い声がネメシス内部に響いた。



アークにけたたましい警告音が鳴り響く。機体が思わず立っていられない程に揺れている。
サイバトロン戦士達は何とか崩れた体勢を立て直そうとするが、画面に出るのはエラーの文字ばかり。
操縦席のプロールも必死に操縦管を動かしているが、まるで言う事を聞いてはくれなかった。

「駄目です司令官! コントロール不能、引力に引っ張られています!!」

「牽引ビームが切れます。デストロンの戦艦は遠ざかっていきますが、我々も……」

アイアンハイドが言葉に詰まったように俯いた。
その先は言わずとも、誰もが思った事だったからだ。
前方に見える蒼い星――その引力に自分等とデストロンの戦艦は引っ張られているのだ。

――再び強い衝撃が襲った。その瞬間、アークとネメシスはまるで分かれた道に入ったかのように左右へ離れた。
牽引ビームは切れてくれたが、それは最早根本的な解決にはならない。墜落の危機なのだから。

(私達は終わるのか? こんなところで……)

コンボイに強い絶望感が襲い掛かる。刹那、アークの機体熱が上昇し始めた。
既に大気圏へ突入したのだ。覚悟を決め、衝撃に備えなくてはならない。

「サイバトロン戦士! 衝撃に備えろぉぉぉぉぉ!!!」

それがコンボイの最後の命令となった。大気圏を抜けたアークは勢いを増し、地上へと落下していく。
艦内を転がり、身体を色々とぶつけたかと思うと、今まで味わった事の無い強い衝撃が彼等を襲った。
その衝撃により、彼等の頭脳回路(ブレインサーキット)の電源が落ち、眼の前が闇に包まれた――













トランスフォーマー達が引力に引っ張られ、墜落した蒼き星――地球。
アークが墜落した場所には巨大なクレーターが作り上げられていた。
しかし時が経ってしまえば、そんな物はすぐに消えてなくなってしまうもの。

それから400万年以上が経過した地球――西暦2003年。
サイバトロン戦士達が眠るアークは時が経過するに連れ、地中へと埋まっていった。
そしてその上にはとある巨大な学園都市が建設した建物があった。

その建物の名は――図書館島と言った。



Top
小説のメニューへ戻る