麻帆良学園――明治中期に創設され、幼等部から大学部までのあらゆる学術機関が集まって出来た学園都市。
一帯には各学校が複数存在し、下記の都市機能を含め、大学部の研究所なども同じ敷地内に存在している。
その為に敷地面積はとてつもなく広大であるが、年度初めには迷子の生徒が数人ぐらい出ているらしい。
多くの生徒が在籍している事もあり、沢山の生徒達が登校する毎朝の通学ラッシュは朝の名物と言っても良い。
毎日が平和と言っても良い麻帆良学園であるが、脅威は確実に迫っているのだった――
第1話【目覚めの時、来たる!】
麻帆良学園・食堂棟を談笑しながら歩く3人の男女が居た。
左から――英国人だろうか――栗色の髪に小さい眼鏡を掛けている10歳程の少年。
その隣には薄めの赤色の髪を鈴が付いたリボンで纏め、ツインテールにしている少女。
そして彼女の隣に居るのが長い黒髪に優しい雰囲気を醸し出している少女である。
少年の名はネギ・スプリングフィールド。イギリス生まれの魔法使いである。
彼の年齢は10歳であるが、大学を卒業する程の頭脳明晰ぶりを誇っている。
そしてこの麻帆良学園に来てからは2年A組担当の英語教師をやっているのだ。
全てはマギステル・マギ(立派な魔法使い)になる為、教師の仕事をしながら修行を続ける日々を送っていた。
そんな彼の右隣を歩くのは神楽坂明日菜。ネギの担当するクラスの生徒である。
教師と生徒と言う間柄であるが、とある事情でネギを自分の部屋に居候させてやっている。
彼が住み始めた当初はお互いのすれ違いもあったりしたが、今はかなり打ち解けていた。
そして彼女の左隣を歩いているのは近衛木乃香。彼女もネギの担当するクラスの生徒だ。
彼女は明日菜の良き友人であり、共に女子寮の一室に住んでいる女の子である。
ちなみに彼女はネギと早く打ち解け、彼を弟のように可愛がっていたりする。
「何処でお昼食べる? せっかくネギ君を誘ったんやから、珍しいとこにしよか?」
「うえ……! このか、前にあたしを連れてったゲテモノばかりのところは嫌よ」
前日友人に連れて行かされたカフェを思い出し、あからさまに嫌そうな顔を浮かべる明日菜。
彼女の言葉に提案した木乃香は不満そうに頬を膨らます。どうやら向かうつもりだったらしい。
ネギがどんなところだったのかと、詳細を明日菜に訊くが、口を押さえるばかりで答えてはくれない。
木乃香にも一応訊いてはみたが「行ってからのお楽しみや」と笑顔で返されてしまった。
そんな事を言われても、明日菜が物凄い勢いで拒否しているので向かえないのだが。
微妙になった場の空気を戻そうと、木乃香が再び話を振ろうとした時だった――
彼等が立つ地面が微かに揺れる。3人は思わず立ち止まり、振動をやり過ごした。
「また地震だわ。ここ最近ずっとこの調子じゃない?」
「そうですね。昨日も職員会議で話題になってました」
明日菜が不安そうな面持ちで言うのも無理は無い。麻帆良学園に限った事ではなく、相次ぐ地震は各地で起こっていた。
地震と言っても建物が崩壊したり、地割れが起こったりする程の地震ではない。精々震度2か3が殆どだった。
しかしそれ等が連日立て続けに起これば話は別である。しかも朝、昼、夜と――万遍無く起こっていたりする。
小さな出来事でも、それが毎日続けば人と言う生き物は精神的に不安になるものなのだ。
「ニュースで報道してるけど、原因不明やしなぁ。ナマズでも暴れとるんかもしれへんな」
ネギや明日菜と違い、ほんわかした態度で言う木乃香。
彼女の眩しいぐらいの笑顔は2人の毒気を全て抜いてしまった。
「いやいやこのか、ナマズはいくら何でも無いでしょ? ナマズは」
(ナマズって地震に関係あるのかな? 今度調べてみよう)
彼等を不安に陥れている、各地で相次いでいる小規模の地震。
この時、彼等はまだ気付いていなかった。いや、気付けなかったのだ。
自分達の想像を遥かに超える者達が原因で起こっていようとは考えもしなかった。
また――その地震が太古の時代に深い眠りに就いた者達を目覚めさせようとは。
◆
とある日本の深海――人類がまだ足を踏み入れた事の無い、未知の領域にそれはあった。
刺々しいデザインは無くなり、超合金性の装甲は無残にもボロボロに引き裂かれている。
しかしその戦艦“ネメシス”を所持する軍団のマークは未だに輝きを保ち続けていた。
――デストロン軍団を象徴するエンブレムである。
ネメシスが揺れた。何とかこのデストロン最強の宇宙戦艦を直そうと、コンピューターが何回も行ってきた操作だ。
普通の者なら飽きて放り出す作業であるが、無駄な感情を持たない制御コンピューターは黙々と作業を続けている。
全体的な機能回復、破損したエンジンルームの修復、焼け焦げて使い物にならない装甲部分の排除――
深海に眠るネメシス内部で行われている大規模な作業が地上にどんな異変をもたらそうと、それはプログラムの知る処ではない。
刹那、ネメシスを地震によって起こった深海の波が襲った。
巨大な衝撃が襲う。コンピューターが作業を一時中断した。
その事態は幸か不幸か、トランスフォーマー達が所持する戦艦には必ず搭載されている機能を呼び起した。
【生命再生機、発進】
電子音が鳴り響いたかと思うと“それ”はネメシスの天井から突然飛び出した。
小さい円盤を思わせる“それ”のデザインは辺りを見回すようにライトを照らす。
照らした先にはネメシスに乗り込んだデストロン戦士の面々が機能停止し、倒れていた。
まるで争いでも起こったかのように、動かない彼等の身体はボロボロの状態だった。
酷い者は手足がもぎ取れ、スクラップ寸前の状態にまで追い込まれてしまっている。
完全な機械は危機感を感じないだろうが、もし感じれるのであれば取り乱していただろう。
すぐさま自身にプログラムされた使命を果たすべく、それ――生命再生機は飛び立った。
◆
深海をかなりの速度で駆け抜け、海面へと上がる生命再生機。
ネメシスが墜落したこの蒼き惑星を探索し、エネルギーを蓄えた機械(マシーン)を探し出さねばならない。
そしてそのデータを戦士達に合体させ、適応させてやらなければ2度と目覚めなくなってしまうのである。
生命再生機は海面から空高く飛び上がり、カメラアイを極限まで伸ばした。
すると微弱なエネルギー反応が多々ある場所を捉え、生命再生機は電子音を鳴らした。
まだこの惑星の言語を学んでいない為、反応がある建物の名はどう呼ぶか分からない。
しかしそんな細かい事に構わず、生命再生機はその建物へ向けて飛び立った。
その建物の名は、この星に住む人類の言語では“博物館”と言った――
◆
任務を終えた生命再生機は再び深海のネメシスへと帰還した。
博物館の中でスキャンした機械の数々はデストロン戦士再生のキッカケと変わるのだ。
生命再生機は天井へと戻り、再生機のマザーコンピューターをすぐさま起動させた。
取ってきたデータを取り込み、すぐ下に倒れている1体のデストロン戦士へダウンロードを開始。
それと同時に取れてしまっている右手と左足も修理し、完全な形へと見事に再生させたのである。
『頭脳回路、正常に起動……破損部分、完全修復……トランスフォーム!』
記念すべき復活の第1号である航空兵・スカイワープは戦闘機F15からトランスフォームした。
ボロボロだった身体は新品同然となり、彼のトレードマークである黒と紫のボディも輝いている。
辺りを見回し、自分の置かれた状況をすぐさま理解したスカイワープは行動を開始した。
自分の近くに仰向けで倒れていたリーダー・メガトロンを引き摺り、生命再生機の方へ持って行く。
すると再生が開始され、メガトロンのボディの傷がみるみる治っていった。
スカイワープはまるで神秘的な物を見つめているような気分に襲われた。
そして再生が完全に完了した時、メガトロンの鋭い眼が赤く光り輝いた。
――破壊大帝の復活である。
『目覚めの時が来ました。メガトロン様』
スカイワープは跪き、立ち上がったメガトロンに敬意を払った。
メガトロンは『うむ』と低く呟いた後、彼へ命じた。
『仲間達を1人残らず再生させるのだ』
メガトロンの命に従い、スカイワープは次々と倒れているデストロン戦士達を運んだ。
サウンドウェーブ、スタースクリーム、サンダークラッカー、リフレクター(スペクトロ、ビューファインダー、スパイグラスの3体を纏めてそう呼ぶ)――
彼等は次々と生命再生機によって再生され、意識を取り戻していく。その作業中にメガトロンはネメシスの中枢にアクセスし、瞬時に情報を集め始めた。
この惑星の名前、住んでいる生物、言語、エネルギー資源――高度な技術を持つ彼等にとって、そんな事を知るのに時間は掛からなかった。
大凡10分も掛からずにネメシスから全ての情報を引き出す事に成功したメガトロンは冷たい笑みを浮かべた。刹那、背後で歓声が上がる。
どうやらデストロン戦士達の再生作業が完了したらしい。己が生きている事に実感が湧かないのか、彼等は喜びながら身体の各部位をまさぐっている。
そんな様子を見つめていたメガトロンは強く地面を踏み付け、音を響かせた。その音に反応した全デストロン戦士達はメガトロンの方へ視線を移した。
彼等全員の視線が集まった事を感じた後、メガトロンは宣言するように言った。
『長い年月が過ぎ去った。母国セイバートロンは遥か彼方だが……この惑星でもワシ等の目的は変わらん』
『セイバートロン星はまだ存在しているでしょうか?』
スカイワープが不安そうに言った。
『存在しておるさ。だがこの“地球”と言う星にも豊かなエネルギー資源がある。それを集めれば無敵の兵器を作る事も可能……そうすればワシは――』
メガトロンが不適な笑みを浮かべながら言い放った。
『余は宇宙の覇者となるのだ!』
メガトロンが高笑いを上げる。彼の笑い声はまるで先ほど宣言した事が決定事項のように聞こえた。
高笑いを押さえ、高ぶる気持ちを押さえたメガトロンは固い姿勢のサウンドウェーブを指差す。
『サウンドウェーブ、この星の情報はだいぶネメシスから引き出せた。だがもう少し情報が欲しい。コンドルとバズソーを偵察に出せ』
命じられたサウンドウェーブは静かに『了解』と呟き、左肩にあるスイッチを押す。
そのスイッチはサウンドウェーブの部隊を呼び出すのに必要な物なのである。
『コンドル、バズソー、イジェークト!』
すると彼の胸が縦にゆっくりと開き、中から赤と黄色のカセットテープが勢いよく飛び出した。
そのカセットテープの大きさは彼等トランスフォーマーからしてみれば掌サイズの物である。
しかしそれを持っている人間達からしてみれば、そのカセットテープは2m以上もの大きさを誇った。
飛び出したカセットテープは地面に着く前にトランスフォームし、鳥型のロボットへと変わっていた。
――これ等はサウンドウェーブが指揮する“カセットロン”部隊である。
赤いカセットテープから変形したのがコンドル、黄色のカセットテープから変形したのがバズソーだ。
『偵察任務ダ。シッカリコナセ。メガトロン様カラノ命令ダ』
サウンドウェーブからそう言われ、コンドルとバズソーは頷いた。
彼等は瞬時にその場から飛び去り、出撃タワーへと向かった。
ネメシスのコンピューターがデストロン戦士の出撃を感じ、ネメシス上部から出撃タワーを海面まで伸ばした。
そうして出現したタワーのハッチが開き、コンドルとバズソーが任務遂行の為に出撃していった――
『残るワシ等はコンドルとバズソーが戻るまで、ネメシスの機能回復に務めるぞ。少しでも使い物になるようにするのだ』
残ったデストロン戦士達に命じ、メガトロンは艦長席へゆっくりと座った。
そして――だいぶ年月が経ったが――自分が叩き壊したコンソールパネルをなぞり、宿敵の顔を思い浮かべる。
『サイバトロン……コンボイ達がそう簡単に死ぬ筈がない。恐らく何処かで生きている……』
メガトロンはパネルをなぞるのを止めた。
『邪魔は許さんぞ……コンボイ』
メガトロン達が行動を開始していた頃――同じように目覚めていた者達が居た。
彼等もメガトロン達と同じく、生命再生機が起動し、再生させられていた。
異変は確実に、地下で起こっていた。
そう――麻帆良学園・図書館島の地下で。
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