時は満ちた。
ウチはここに至るまで幾多の屍を越え、幾人もの思いを踏みにじり、利用してきた。
その中には年端も行かない子供もいる。
ウチはきっと呪われる。確実にまともな死に方はしないだろう。
しかし、それも含めて全ては自らの願いを成就させるためのやむをえない犠牲。すでに割り切った。
だからウチの目の前にいる生贄の少女に対してなんの感情もわかない。
さあ、はじめよう。
ウチを捉え、闇へ突き落とした思い、この憎しみと悲しみを終わらせるために。
それに必要な力を手にするためにウチは今、全ての思いを込めて呪を唱えた。
「オン……」
それと同時刻、とある場所にて。
「ぜえ、ぜえ、さすがに久しぶりだとキツかったな……」
聳え立つ山の頂上にある建物の前では、年のころ17〜18歳程度のバンダナをした少年が大荷物を担いだ状態でダウンしていた。
そんな彼が持つ大荷物の中には数々の最新ゲームソフトと、彼には似合わない少女漫画がこれでもかと詰め込まれ、さらにオマケとして遭難対策として一通りのサバイバルキットが入っている。
ともあれ、その少年はしばしの休息の後に復活するとおもむろに起き上がり、いつものように門の前で待ち構える二人に挨拶をしようとした時、それは起こった。
「へ、なんだこれ?」
少年がなにやら無礼者とわめく門番を無視し、その扉に手をかけた瞬間、少年の視界がぐにゃりと歪む。その歪んだ空間は門全体に及んでおり、うろたえる内にどんどん歪みが広がっていく。
そして次の瞬間、少年はその姿を消したのだった。
しかし、そのことに誰も気づく様子は無かったという。
「今日もヒマですねー」
そこに住む女性はそのことに気づくこともなく、ただ変わらぬ毎日を過ごすために、今日も縁側でお茶をすすっている。
それはいつもと変わらぬ日常。そんな今日も変わらぬ一日が始まった。
「いやぁぁぁー! チカンー!」
今日も今日とて麻帆良の地に悪に苦しむ者の声が響く。
――さあ行こう、助けを求むる者の元へ。
<闇があれば光あり、悪あるところに正義あり!>
「待てー、木乃香さんを帰せー!」
「やろう、木乃香姉さんの魔力を使って手当たり次第に召喚しやがったな!」
「さすがにこれはもうダメかも……」
「大丈夫ですアスナさん、せいぜい街でチンピラ100人に囲まれた程度です」
遠く離れた場所で少女達は始めての危機を迎える。
一人は自らの生徒のため。
一匹は自らの主を助けるため。
一人は友だちのため。
一人は思い通わす幼馴染のため。
その思いは様々だが願う心はただ一つ。
――我が求めるは弱きもの笑顔のみ。それこそが何にも勝る報酬。
<仏道に仇なす悪を倒すため、可憐なる乙女の助けを求める声に誘われ>
「でやあああ!!」
「奥義雷鳴剣!!」
視界を埋め尽くす鬼たちの中、少女達は孤軍奮闘する。
ここにはいない少年が全てを救う事を信じて。
「くああ!」
「アスナさん!」
「神鳴流のお嬢ちゃんの相手はワシらや」
「ネギ、逃がさへんで」
「兄貴、ダメだー!」
しかし、あまりにも戦力の差がありすぎた。
少女達は力の限りをつくして戦う。しかし、その前にたちはだかる障害はわずかな勝ち目をさらに小さくしていく。
それでも少女達は戦うことをやめない。
自らの友を救うため、己を削りながら前に進む。
だが、そんな彼女達を嘲笑うかのように敵は絶望的な戦力をたたきつけていく。
「ななな、なによあれはー!」
「な! あれは……」
「どうやら千草はんの計画が上手くいってるみたいですなー、あのかわいい魔法使い君は間に合わへんかったんやろか」
「で、でけえ! なんだあのデタラメなヤツは!」
「まだだ、アイツが完全に出てくるまでに倒せば!」
少女達の前にたちはだかるのはかつて封印されたはずの飛騨の大鬼神。
その絶望的な力がまさに少女達に振るわれようとしていく。
――我を呼ぶ声がする。助けを求める弱きものの声が、救いを求める思いが我が魂を揺さぶる。
――助けを求める者がある限り、我はいつ何時、どんな場所にも現われよう!
<この仏道の守護者にして正義の使途、光の福音エヴァンゲリオンここに見参!>
幾たびの夜を越え、永遠に封印せし物語の中から一つの物語がつむぎだされる。
それは語られるはずの無かった物語。
ありえたかもしれない幻想の物語の一つ。
いくつもの運命の糸が交差し、今新たな物語が始まる。
『光速の彼方、闇の悪夢 せかんどあたっく』
某所にて近日投稿予定!
なお、内容がこのとおりになるとは限りません。
ちなみに、一年後でも広義の意味では近日といいはれるかもしれませんw
Top