二人?の異邦人IN麻帆良 NEXT
(エイプリルフールお詫び記念、特別企画シリーズ)
「もしも原作のあの場面に異邦人のキャラがいたら」
―――第一話 「ようこそ魔法界へ!」―――
「これもめぐりあわせと言うヤツかな」
ここは魔法界、いわゆる新世界と呼ばれる場所だ。
その中でもここは新世界と旧世界を結ぶ大規模転移ゲート施設にあたる。
その施設の片隅で白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスは中央の魔法陣に浮かんだ魔法光を眩しそうに見つめていた。
彼の視線の先では、旧世界から転移が完了したのであろうか、十数人の転移者の影が見える。
フェイトは物陰に隠れた状態のまま、人影の中のひとつに視線を固定し、その口に小さく笑みを浮かべる。
「結局君はここに来てしまったんだね。あのまま日本で教師として生活すれば何事もなく平和に過ごせたと言うのに……」
フェイトは酷薄な笑みを浮かべたまま、視線を鋭くする。
そして静かに精神を集中し、自らの得意とする石槍の魔法を発動させ、その照準を先ほどから注視している小柄な人影に向けた。
「だから……これは警告だ。命までは奪うつもりはない、だけどこの大切な時期に新世界に来てしまった報いは受けてもらうよ……ネギ・スプリングフィールド」
フェイトが誰にも気づかれぬうちに放った凶刃、それは何よりも静かに、そして何よりも鋭く目標であるネギへと迫る。
ネギは己の背後に危機が迫っているのにまったく気づいていないのか、隣にいるツインテールの少女であるアスナと楽しそうに喋っている。
フェイトが見る限り、ネギは特に防御結界を纏っているようには見えない。そして、たとえ気付いたとしても今から石槍を防ぐだけの強度を持つ魔法結界を張ることも時間的に不可能だ。
フェイトはこの段階でネギへの攻撃が成功することを確信し、本来の目的である転移ゲート破壊の準備を進めようとした。
しかし、いざゲートを破壊しようと呪文の詠唱をしようとしたその瞬間、彼は信じられない物を目撃してしまうのだった。
「へ?」
フェイトの口から彼のキャラクターに合わない間抜けな声が漏れる。
だが、それも無理もないことであろう。何故なら、彼の視線の先ではネギが先ほどと変わらずアスナと談笑しているのだ。しかもその様子を見るに、ネギは自分が襲われたことにすら気づいていない。
「外した……のかな?」
フェイトはあり得ないことだが石槍の魔法が狙いを外してしまったのかと思い、再び石槍を現出させ、今度は確実に当てるためにネギから視線を外すことなく精神を集中させていく。
そして再びネギの肩口へと向けて放った槍は狙い過たずネギの右肩へと吸い込まれ――
――ネギの体へと触れた瞬間、音もなく砕け散った。
「……は?」
フェイトの口から再び彼のキャラに合わない間抜けな声が漏れる。
今フェイトの見間違いでなければ、確かに石槍はネギの背後から命中したはずである。いや、実際確かに命中している。
だが、そうであるにも関わらず、石槍はネギに傷一つ付けることかなわなかった。しかも、ネギ自身先ほどからの攻撃に全く気付いていない。
フェイトはネギが影使いのように完全自動防御系統の魔法を使っているのかと、再びネギの魔力の流れをスキャンしてみるが、相変わらずネギからは何の魔力も感じられなかった。
では、何か特殊アーティファクトを持っているのかとも思ったが、この転移ゲート内では魔力を持ったアーティファクト系統は厳重に封印されて使えないはずである。
フェイトはわけがわからないという風に首を振り、とりあえず先ほど現象について考察を封印し、今度は少々の魔法障壁など紙のように貫けるように無詠唱だった呪文を詠唱タイプに切り替え、戦艦大和の主砲弾並みの威力を内包させてその切っ先をネギへと向けた。
「これだけの威力を内包させた以上、ケガでは済まないし周囲の子達もただでは済まないだろうけど……中途半端な力でここに来た迂闊さを呪うんだね」
フェイトはネギを見据えたまま、今度こそとばかりに必殺の魔法をネギに向けて放つ。
その魔法は三度目の正直とばかりに、凄まじい視覚効果を伴いながらネギの後頭部へと突き進む。
そして、フェイトが確信とともにネギを注視する中、フェイトの放った凶刃は狙い違わずネギの後頭部に炸裂するのだった。
――コツン
「……あれ?」
ネギは一瞬後頭部に感じた刺激に小首をかしげ、次いでポリポリと後頭部を右手でかく。
「ん、どうしたの?」
アスナは会話の途中で急に小首をかしげたネギを不審に思ったのか、いぶかしげな視線を向ける。
するとネギはなんでもないという感じで手を振りながら、どこか懐かしそうにアスナに答えた。
「いえ、どこかから小石が飛んできたという言うか……ちょうど以前アスナさんが僕にぶつけてきた消しゴムのような感触が……」
「消しゴムって、アンタまだあの時のこと覚えてたの? いい加減忘れなさいよー!」
「いえ、アレでも一応思い出深いですからねー」
「まあ、確かにね……あのころのアンタは色んな意味で純粋だったし……つい半年前の話なのに懐かしすぎて涙が出そうだわ」
アスナはあらゆる意味で遠くなった過去のネギの姿に思いをはせたのか、施設の天井を見上げながらそっと涙を流す。
その一方でネギはアスナの状態に気付かぬまま、あくまでも朗らかにアスナの手を取ると施設の出口へと向かう。
「さあ、行きましょうアスナさん! 自由なる神の教えをこの魔法界に広めるために!」
「ここに来たのはアンタのお父さんを探すためでしょうがー!」
「……あ!」
「そんな大事なことを忘れるんじゃなーい!」
この日、麻帆良では日常と化したアスナのハリセンの音が魔法界に初めて鳴り響いたのであった。
「……なにこのチートキャラ」
フェイトはアスナのハリセンを受けて吹き飛ぶネギを呆然と見詰めていた。
ちなみにチートとはゲーム等でキャラデータを直接改変し、ゲーム開始状態で最強LVにしたりするゲーマーとしては禁則事項的な行為のことである。そして、一般に通常ではありえない強さを持ったキャラクターに対する総称でもある。
フェイトの放つ魔法を意にも解さなかったネギを評するにまさにうってつけの言葉であろう。
ともあれ、完全にチートキャラと化した魔改造ネギに心奪われ、呆然とするフェイトであったが、とりあえずネギを見なかったことにして本来の計画を進めようと気を取り直そうとする。
しかし、そんな彼に対して思いもよらない脅威が背後に迫っていることに気づいてはいなかった。
「……で、なんでアンタがこんな所にいるのかしら?」
「ひっ!」
フェイトは突如背後から聞こえてきた声に慄然とし、思わず声を上げる。
本来、フェイトの実力をもってしてなら背後を取られるなどありえないはずなのだが、何故かフェイトは声をかけられるまでその存在に気づくことはなかった。
そして、背後の存在に気付いたと同時に、なんとも言えないまるで生物としての天敵に出会ったかの如く手足が震え、体の自由が利か那かくなる。
今、フェイトの心身に起こっている現象、それを端的に表すなら『恐怖』という二文字が最もふさわしい。
フェイトは自分が恐怖している事実に混乱し、心の中で鳴り響く警鐘を必死に抑えつけようとしている。しかし、背後から感じるプレッシャーは時と共に増大し、手足だけでなく息をすることすらまともにできなくなり始めた。
背後から真綿の如くゆっくりと、そして確実に恐怖で締め上げる謎の人物。フェイトは自由にならない手足を必死で制御しつつ、その存在を確かめようと背後へ視線を向けようと必死の努力を続ける。
そして、ついにフェイトが背後を振りかえった瞬間、彼は心の底から自らの行動を後悔した。
「学園祭の最後に姿が見えなくなったと思っていたら……」
「取り逃がしたと思っていたら……やはり生きていましたか」
フェイトの背後にいた者、それは金髪と黒髪の二人の少女。というか、魔神。
2体の魔神の中でも黒髪の方はフェイトも見覚えはある。しかし、もう片方の金髪の少女については面識はまるで無いはずである。
だが、そうであるにも関わらず金髪の少女は凄まじい殺気に空間を歪めながらゆっくりと自分に迫って来る。
「え? え?」
迫りくる死という名の恐怖。
本来なら自分の姿を察知された時点で逃げるのが正解なのだが、もはやフェイトは人知を超えた恐怖に動くこともできない。いや、フェイトだけではなく、周囲にいるネギ達以外の全ての人々が恐怖で押しつぶされている。
そして二人の魔神、タマモと刹那はゆっくりとフェイトに近づきながら、それぞれの手にどこからともなく巨大なハンマーを取り出した。
「もう、もう逃がさない!」
「未来の横島さんとあやかさんの仇」
「そしてこの世界の私の仇!」
「いや、横島って誰?」
フェイトはまったく身に覚えのない仇と呼ばれ、さらに混乱する。
だが、フェイトとて百戦錬磨の魔法使いだ。彼は恐怖に荒れる心を強引に抑えつけ、何とかこの場を脱しようと煙幕、あわよくば相手を石化させようと『石の息吹』を発動させようとする。
しかし、そんな彼の背後にゆらりと新たなる人影が現れ、何やら光る珠のようなもの珠を背中に押し付けた。
「忘れたか? 俺がその横島だ……そして成り下がれ、この俺に!」
フェイトの背後に現れた人物、それは横島忠夫であった。
横島はフェイトの存在に気づくとタマモ達を囮として近づき、学園祭の時と同じように『模』の文珠を使ったのである。
そして、文珠が発動し、フェイトが横島に成り下がったと同時にフェイトを動けなくするために惜しみなく己を晒すのであった。
「今ネギはアスナちゃんが完全に押さえている以上同じ轍は踏まん、喰らえ! いきなり『極・煩悩全開!&下方年齢封印解除!』」
横島は唯一完全無防備になる煩悩全開時にネギが襲ってこないように確認しつつ、フェイトの動きを封じていく。
そして横島の煩悩が直に脳に流れ込んだがために、今まで横島達と接したことのない綺麗なフェイトは脳の回線が一時的に焼き切れ、その動きを完璧に止めてしまう。
横島の煩悩に晒され、完全に動きを止めたフェイト。
それはもはや肉食獣の前で逃げることを止めた草食獣と同じ。
当然、タマモと刹那はそのチャンスを逃がすことなどしない。
二人は夕凪とアーティファクトのハンマーを没収されていたが故に、通常のハンマー――なぜか武器と認識されずに没収されなかった――をゆっくりと構え、フェイトを前後に挟み込む。
そして、完全に位置についた二人は固まったままのフェイトに対して必殺の一撃をたたきこむのであった。
「さあ、喰らいなさい!」
「今必殺の!」
「「ダブルハンマーアターック!」」
二人の放った必殺の一撃はまず刹那のハンマーがフェイトの後頭部に炸裂し、フェイトは声もなく吹き飛ばされる。
そして、そのまま吹き飛ばされたフェイトは凄まじい速度でタマモへと飛んでいくが、タマモは慌てることなく自らのハンマーを構え、日本が誇るホームラン王の如く軸のぶれることのない見事な一本足打法でフェイトを打ち返した。
刹那とタマモが放つ凄まじい打撃の反発力は余すことなくフェイトに伝わり、彼の魔法障壁など紙のように粉砕する。
そして、タマモによって打ち返されたフェイトは大気圏脱出速度である秒速7.9kmという信じられない速度を叩き出しながら横島へと向かっていく。
秒速7.9km。本来なら目視することすらかなわぬ物体となったフェイトであるが、横島は特に騒ぐことなく文珠を取り出し、それに『反』と込める。
そして、フェイトと横島が接触した瞬間、文珠は発動し、秒速7.9kmを維持したままフェイトは天井をぶち壊しながら空高く、宇宙へと向けて飛び立っていくのであった。
ちなみに、そんな彼らの背後ではネギとアスナによる凄まじい攻防が行われ、その余波を喰らったゲート施設が損傷を受けた。さらにおまけとして大気圏再突入によって帰ってきたフェイトの激突というトドメもあって、只でさえでも脆くなっていたゲートは完膚なきまでに破壊されることになってしまう。
かくして、彼らは魔法界に足を踏み入れた瞬間、めでたく転移ゲート破壊のテロリストとして指名手配されたのであった。
end
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