×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


 目を覚ますとそこは樹海だった。

「あのバカいぬー!」

金髪の長い髪を後ろで九つにまとめた少女の叫び声をBGMに、バンダナをした20歳ぐらいの青年は大きなため息をつき、金髪の少女に背を向けながら生暖かい目で少女を見つめていた。


「おーいタマモ、いいかげんこの状況受け入れたほうが楽だぞー」


さんざん叫びつづけて気が済んだのか、静かになったころを見計らい青年は少女に声をかけると、タマモと呼ばれた少女は背後の青年に反論しようと振り返った。


「うるさいわねー、だいたいあんたも……」


 タマモの動きが止まる。
 タマモの視線は横島の首から上に集中し、驚愕のあまり目見開いているため、その整った顔が微妙に崩れたような状況になっていた。


 そして10秒後。


「よ、横島……あんた首が……」

「首?」

「えっと、本気で気付かないの? 明らかに視界がおかしいと思わない?」


 横島と呼ばれた青年はタマモに言われて初めて視界に違和感を感じ、自分の顔に手をのばした。
 顔のある部分に伸ばされた横島の手は、何故か自分の顔を触ることなく、後頭部を触ったようなごわついた髪の感触があるだけだった。

 そして沈思黙考すること30秒、横島はようやく自分の状況を正確に把握した。
 そう、自分の頭が180度回転していることにようやく気付いたのである。


「うわわわわ、首がー! 死ぬ、死んじまうー! 死ぬならせめて美女に埋め尽くされてー「やかましい、いいから動くな!」……」



ゴキョ!



 何かが終わったような音とともに、タマモはいいかんじに振りぬいた腕を横島の顔面に叩き込んだ。
 突っ込みにしては過大な、まして明らかに人類の可動域を超えて回転している頭部に対して、あまりにも無慈悲な、無慈悲な一撃とともに横島は大地に崩れ落ちた。



「あー……横島、死んだ?」



 返事がない、ただの屍のようだ。



「生きとるわー!」


 しばしの間横島は大地に倒れ伏していたが、やはり人類を超越した回復力を持って身を起こした。
 ちなみに首は完全に元通りの状態になっている。


「あ、生きてたんだ」

「生きてるわい! なんちゅーことをするんだお前は」

「いいじゃない、生きてるんだし。首も治ったみたいだからむしろ感謝してほしいぐらいよ……ってアレ?」


 その時、タマモは文句を言う横島の背後にうごめく影に気付く。
 目を凝らしてよく見ると、その影はぼろ布をまとい、大きな鎌を持っていた。
 それは所謂『死神』のような姿であった。ただし、その死神のフードにつつまれた顔は、コミカルにデフォルメされたドクロであることが普通と異なる。

 死神はタマモと目が会うと、すこし悔しそうに舌打ちをしながらその鎌を収め、その姿を消していくのだった。



「まったく、人をなんだと思ってるんだお前は……ってどうした? 鳩が波動砲喰らったような顔をして」


 どうやら横島は死神に気づいていないようである。


「あ、なんでもないわ。て言うか鳩が波動砲って何よ、豆鉄砲じゃないの?」

「気にするな、ただの言葉のあやだ」

「まあいいわ。で、ここドコ?」

「さあ……?」


 二人してあたりを見渡すが回りは木しか見えない。あたりは薄暗く、夜明けなのか夕暮れなのか判別できない。


「まあ、とりあえず道を探そう。いくぞ、タマモ」

「はーい」


 二人は道を探しに歩き出した。
 二人は知らない、これから始まる物語を。
 非常識な日常から今までと違う別の非常識な日常へとつづく道、そこにはどんな物語がつづられているのだろうか。



第一話  二人?の異邦人




 ここで時間を数時間前に戻そう、横島とタマモが森で夫婦ドツキ漫才を繰り広げる前の時間に。




 ドンドンという極めて近所迷惑な音が、まだ日も昇らぬうちから横島の住むアパートを中心に響き渡る。
 今日も今日とて横島の弟子である少女が、師匠をたたき起こす時間がやってきたのである。


「せんせー朝でござるー、サンポの時間でござるよー!」

「シロ、あんたもうちょっと近所迷惑という言葉の意味を勉強したほうがいいんじゃない?」

「だいじょうぶでござるよ、タマモ」


 シロと呼ばれた白髪に前髪のみ赤いメッシュをかけた中学生ぐらいの少女が、笑顔で答えながらドアをたたき続ける。
 しばらくしてドアが開くと、横島が眠気をこらえた不機嫌そうな顔でシロをにらむ。


「おまえら……昨夜午前2時まで仕事していた俺にこの時間から散歩にいけと?」


 ちなみに今の時間は午前4時30分である。


「せんせーなら大丈夫でござるよ♪」

「やかましい、せめて寝させろ! あと二時間!  つーか今日は行く気は無い!」

「キューン、そんなひどいでござるよー」

「ひどいのはお前だ! つーかタマモも止めろ、常識あるなら!」

「気のせいかしら、あんたに常識ウンヌンと言われるとものすごく貶められた気がするのは」

「いってくれないんでござるか・・・?」


 シロは悲しみにくれた目で横島を見つめる。


「う……やめろ、そんな捨てられた子犬のような目で俺をみるなー!」

「犬じゃないでござるー!」


 今日も繰り広げられる平和な朝の風景、それが明日も続くとこの時は誰も疑うものはいなかった。




 1時間後、朝日を背にリードを手にした横島は、これから始まる一人箱根駅伝往復コース(全区間新記録達成済み)に対し涙を流していた。


「さあ、今日はドコへ……あの大きな山へ登るのもいいでござるなー」


 箱根駅伝から富士登山駅伝にランクアップしそうな感じである。


「たのむシロ、今日だけでいいから町内にしてくれ」


 横島はすでにもう諦めていたのだが、それでも一縷の望みをかけてシロに懇願する。

 そんな悲哀に満ちた横島を面白そうに見ていたタマモが、突然シロの胸にかけてるペンダントをむしり取ると、9本の尻尾をもつ子狐の姿に変化し横島の後頭部にしがみつく。
 するとポン!という音とともに、シロが犬(狼)の姿に変わる。そう、シロは人狼であり、胸のペンダントの力で昼間は人間の姿に変化してるのである。
 また、タマモは九尾の狐の転生体でもあったりする。


「がうがうがう(なにをするでござるか!)」


 シロは抗議するかのようにタマモに向かって吠える。横島も不思議そうにタマモを見る。


「この前テレビで見た犬ゾリってやつ、一度やってみたかったのよね♪」

「おれはソリかー!」

「がうがうがう!(犬じゃないでござる、狼でござるー!!)」

「まあ、いいじゃない子犬の姿ならそう遠くへ行く体力もないでしょ♪」

「う……まあいいか」

「わおーん(よくないでござるー!)」

「さあ、れっつごー!」

「のわあああー!」


 タマモの言葉と共に弾丸のようなスピードで横島が引きずられていく、その姿はまさしく犬ゾリであった。


















4時間後

「とまれー! とまれったらとまれーこのバカ犬ー!!」


 シロは珍しく、ほんとーに珍しく横島の言葉を守り、町内のみを走っていた。
 ただし、いったい何周したのかわからなくなるくらいにという注釈がついている。
 しかも始末の悪い事に、体が犬化したので普段人化してる時とは違い、人間では、少なくとも成人男性では通過不可能な空間を走りぬけていた。
 当然横島はボロボロ状態、タマモは横島の背で楽しそうに笑ってる。


「がうがう(まだまだいくでござるよー!)」

「とまれー!」


 と、交差点に差し掛かった時、突然横から車がクラクションを鳴らしながら迫ってきたため、シロはあわてて急制動をかけた。
 その結果、シロに引きずられていた横島と、その背に乗っていったタマモは慣性という物理法則から逃れられず、車の前に投げ出されていく。

 二人が気付いた時には、ブレーキ音を響かせた巨大なトラックが、もはや回避不可能な距離にまで接近していた。


「うにゃああああああ!」

「も、文珠ー!」


 横島は叫び声とともに手にビー球のようなものを二つ取り出し、発動させようとした。
 しかし、その瞬間に異変は始まった。


「へ?」


 横島の気の抜けた声と共に、横島とタマモの前に魔法陣のようなものが浮かびあがり、それは二人をのみこんで消えていった。

 シロは目をつぶり、衝撃音がするのを待っていたが、いっこうに何の音もしないのでおそるおそる目をあけた。
 しかしあたりには横島の姿もタマモの姿も無く、臭いも道路中央でとぎれて追うことが出来ない。


「わおーん!(せんせー!)」


 シロの遠吠えがむなしく町に響き渡った。

 三日後、いつまでも帰ってこない横島とタマモの捜索のため、横島たちの雇い主である美神令子は妙神山経由で神族の調査官ヒャクメを呼び出し、横島の捜索を行っていた。


「わかったのねー」


 ヒャクメがトランクタイプのパソコンモドキから顔を上げ、調査結果を発表する。


「横島さんたちは、この時間軸の神界、魔界、人間界のどこにもいないのねー」

「ちょっと! それはいったいどういうこと?」


 美神がヒャクメに詰め寄る。


「だから、横島さんたちはこの世界のどこにもいないのねー」

「それはどこかへ時間移動したという意味?」

「違うのねー、平たく言えば平行世界へ迷い込んだみたいなのねー」

「平行世界?」

「そう、ここと違う全く別の世界。本来けして交わることの無い別の世界なのねー」

「原因はなに?」

「まったくの偶然なんだけど、シロちゃんがその日散歩したコースが何らかの転移魔法陣モドキを描いてしまってるのねー」


 ヒャクメがパソコン? の画面を指差し、みんなの前に見せる。
 そこには今まで見たことも無い複雑な魔法陣が描かれていた。


「本来ならこれぐらいで発動することなんか無いんだけど、横島さんを引きずりながら走ってたから、見事に血で出来た魔法陣が形成されたみたいなのよ。しかも、霊能力だけなら一流の横島さんの血でね。さらにその前に横島さんは文珠を発動させようとしたみたいだけど、その時に霊力を集中させたのが引き金になったみたいなのねー」

「追跡はできないの?」

「調査した結果、これの行き先は完全にランダムなのねー」

「じゃあ、追跡は不可能ということ?」

「行き先が特定できない以上、不可能なのねー」

「せんせー!」


 ヒャクメの絶望的な調査結果を聞き、シロは叫んだ。



場面転換


 強制的に転移した横島たちは突然空中に投げ出され、現在、漢の勇気の印であり、アフリカの一部の部族で成人の儀式となっているノーロープバンジーに挑戦していた。
 本人たちの意思をかぎりなく無視したものであったが、それを気にするものはこの場にはいない。


「ぬぎゃあああー!」

「きゃああああ!」

「死ぬ、死ぬー!」

「あ、そうだ変化!」


 高高度からの落下中、タマモは自分の変身能力を思い出し、髪を翼に変化させて滑空しようとする。
 しかし、相方である横島にはそんな上等な能力はなかった。
 そのため、横島は変化したタマモの体をガッチリとホールドして落下を防ごうとした。


「うにゃああドコさわってんのよ! はなせー!!!」


 どうやら落下のパニックのあまり、どこにしがみ付くかは全く考慮しなかったようである。
 ちなみにドコを掴んでいるかというと、タマモの背後から両腕を回し、両手でタマモのささやかな胸を鷲掴みにした状態である。
 もっとも、それは横島の本能のなせる業なのかもしれないが、それを確かめるすべはない。

 タマモは変化した事により、一瞬空中に浮き上がるが、予想外の重量が加わったため、その重量を支えきれず、再び落下速度を増していった。
 そのため、タマモは横島を振り落とそうとするが、横島はよりいっそう強く抱きしめるだけである。
 ちなみにこんな切羽詰った状況であっても、横島の両手は何故かワキワキと蠢いていた。やはり本能なのだろうか?


「誰が離すかー!!」

「文珠を使えばいいでしょうがー! 落ちる、落ちるー!」

「あ、そうか!!」


 横島はここにいたりようやく自分の能力を思い出し、さっき発動させていなかった文珠二つに”飛””翔”とこめて発動させた。
 だが、それは少し遅かった。


バキバキ!!
ズササササ!

ズドン!


「ぶべ!」

「ぐきゃん!!」


ゴキリ



 何とかギリギリで文珠を発動させる事に成功したが、勢いがつきすぎ、落下速度を減少させる程度しか効果がなかったため、二人は死なない程度の速度で地面に落下する事になった。
 この時横島が意図的にタマモをかばったのか、はたまたタダの偶然か、横島を下敷きにするような形で落下したためタマモには怪我は無いようである。
 横島については、なんかイヤな音が森に響きわたり、沈黙した。


 そして物語は冒頭の場面へと続いていく。





 いかにも高そうな調度品が並ぶ部屋に、一人の老人と渋めの男が話している。
 老人は明らかに人類ではありえないひょうたん型の後頭部を持ち、仙人チックな格好で椅子に座り、部下らしい男に指示を与えていた。


「高畑先生、森でなにやら魔力が感知されたようじゃ、調査をお願いできるかの?」

「それはかまいませんが、今あの場所は刹那君が向かっているのではなかったですか?」

「うむ、刹那君は別件であの付近の退魔を依頼しておるでな、万が一敵の増援なら刹那君も大変じゃろう」

「わかりました、では刹那君の支援も兼ねて調査してきます」

「うむ、たのんだぞ」


 横島とタマモ、二人の異邦人はこれからつむぐ物語にどのような影響を与えるのだろう。これから出会う小さな魔法使いとの物語はまだ始まったばかりである。
 そしてひっそりと横島の後に憑いていった黒い影、それが織り成す物語もまた始まるのであった。



Top
小説のメニューへ戻る
次の話