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「見・つ・け・た・の・ねー!」

「ヒャ、ヒャクメー!」


 麻帆良の空にヒャクメの歓喜の声が響き渡り、それと同時に横島の驚きの声も響き渡った。
 横島とタマモがあんぐりと口を開け、驚愕の表情を浮かべる中、空に浮かんだ状態でしばし歓喜に打ち震えていたヒャクメは、やがて横島達を見つけると彼らのもとへと降りてくる。
 そして、ヒャクメは横島の前に降り立つと感極まったかのように涙を流し、横島に抱きついたのだった。


「やっと……やっと横島さんを見つけたのねー!」

「どわっ! ってヒャクメ、お前一体どうやってここに!?」

「うううう、横島さん、横島さん、横島さん、横島さん、横島さん」


 ヒャクメは横島の質問に答えることなく、ただ横島の胸にすがりつきながら泣いている。
 その仕草はまさに離別した恋人と再会した時のようである。そして、横島はなんだかよく分からないが役得とばかりに、しっかりとヒャクメの柔らかい体の感触を堪能していた。
 ヒャクメは横島がそんな邪な事を考えていることも気づかないのか、いまだに彼の胸から離れることはない。
 彼女はただひたすら、感極まったように泣き続けるだけだ。そして、彼女はその思いのたけをぶちまけるかのように声高かに叫ぶのだった。


「ううう、これで……これでもうブルーベリーづくしのご飯から解放されるのねー!」

「ってお前喜んでたのは俺の事じゃなくてそっちかよ!」


 どうやらヒャクメは横島を見つけたことではなく、横島を見つけた事によって改善される食生活のこのとで感極まって泣いていたようだ。
 当然ながらそれを知った横島は抗議するのだが、ヒャクメはそんな横島に対して涙に濡れた顔を上げると今までの食生活を語って聞かせる。


「だって、だって横島さんがいなくなってこのかた、小竜姫が裏に手を回していつのまにか美神さんの事務所の派遣職員にされ、おまけにパピリオからの差し入れで毎日毎日朝昼晩の三食ずーっとブルーベリーだったのよ!」

「いや、けどお前たしかブルーベリーは好物だとか言ってなかったか? 目に良いから……」

「物には限度という物があるのねー! だいたい、ご飯の上にブルーベリージャムとか、味噌汁の具にブルーベリー、はては塩鮭にブルーベリーソースっていったいなんのよー! 夜食でおキヌちゃんがまともな食事を出してくれなかったら絶対に発狂してたわ!」

「そ、壮絶な食生活だったんだな」


 横島はヒャクメの壮絶なる食生活を想像し、なにやら物理的に胸にこみ上げてくる物を必死に押さえる。正直、彼女のような食生活を続けろと言われれば一日ともつまい。
 そして横島はそんな食生活を数ヶ月に渡って耐え続けた彼女に対し深く敬服すると共に、かつてチョコレートをオカズにご飯を食べた自分とどちらがましなのであろうかと考え、ふと心の中で涙を流す。
 ちなみに、おキヌからの差し入れは主に豚肉、カツオやアジ、サンマ等の青魚、わかめの味噌汁にひじき、カボチャの煮物にほうれん草といったものが多かったそうだ。なお、追記しておくが先ほど列記した食品は所謂目に良い食べ物として有名な物ばかりである。
 なにはともあれ、突如として出現し、あまつさえ自分達を差し置いて横島に抱きついたヒャクメを呆然と見ていたタマモと刹那は、ここでようやく現実に復帰する。
 特に刹那は当然ながらヒャクメと面識が無いために、頭の上にしっかりとハテナマークが浮かんでいた。


「あの、タマモさん……あの人はいったい?」

「あー……彼女は一応知り合いよ。名前は『幽鬼ヤクタタズ』通称ヒャクメ、妖怪モクモレンと外道バッグベアードの合体事故で生まれた……」

「ちょ、タマモちゃん通称と名前逆なのねー! というか、合体事故ってどこのメガテンなのよー!」

「幽鬼ヤクタタズの部分は訂正しないんだな、というかメガテンシリーズ知ってるのか……まあ、情報源は猿なんだろうが」

「幽鬼……妖怪の類か何かですか?」

「まあ、ヤクタタズの部分は冗談……冗談でもないのか? ともかく、一応こー見えても神族……神様だ」

「か、神様!?」

「そうなのねー、私はこれでもれっきとした神様なのよ」


 刹那はヒャクメが神と聞き、当然ながらその顔を驚きに染め、改めてヒャクメの顔をまじまじと見つめる。
 するとヒャクメは横島の神というくだりで自信を取り戻したのか、胸を張りながら刹那にむかってそっくり返った。


「とは言え、日本には便所の紙にも神様がいるぐらいだからな……正直、アッチのほうがよほど生活の役に立つような気がしないでもないが」


 だが、その次の瞬間には同じく横島によって奈落の底へと突き落とされていた。一瞬とは言え、持ち上げておいて落す、実に基本を外さぬ男である。
 そして今、彼女は失意にくれて湖を眺めながら膝を抱え、メソメソと泣いていた。


「えぐえぐ、どうせ、どうせ私はいつも肝心な所で役に立たない、便所の神にすら劣るダメ神なのねー」

「い、いえけっしてそんなことは……言われてみれば確かに神々しさがそこはかとなく……微妙に……なんとなく?」

「逆に言うと言われなきゃ気づかんっちゅーことやな」

「あううううううー!」


 艱難辛苦の食生活を越え、ようやく横島達を見つけたヒャクメ。
 しかし、そんな彼女の労力はいまいち報われる事はなかったようだ。
 合掌――




二人?の異邦人IN麻帆良 最終話 『The last selection』







 あれからしばらくの後、すっかりいじけてしまったヒャクメは再び湖の波を見つめながら膝を抱えていた。これで湖の水が赤かったらまるでどこぞの映画のエンディングのような光景なのだが、彼女がそれをやってもちっともドラマ性を感じさせる事などない。
 ちなみに、少し前までヒャクメの横では未来を変える使命に燃えるネギが熱心に勧誘を繰り返し、アスナがそれを実力行使で黙らせるといった光景が繰り広げられていたりしたが、その点については気にしないほうがいいだろう。ましてや、アスナの乱入があと1分も遅ければ本格的に入信していたかも知れなかった事実など、決してありはしなかったのだ。
 神を勧誘し、あまつさえその神を改宗させかけたネギ、このまま成長すればきっと歴史に名を残す存在になる事であろう。それが英名なのか、悪名なのかは別にしてだが。
 さらに余談ではあるが、ヒャクメによりネギ達に横島が異世界の住人であることが暴露されてしまったのだが、何故かその事実はあっさり受け入れられ、混乱などは生じなかった事を申し添えておく。
 なんというか、もはや異世界の住人や神が出てきても驚けなくなっているくらい、精神的にタフになってしまったネギ達一同である。なお、誰がそこまで鍛え上げたかについては言わずもがなというものであろう。
 ともあれ、いつまでもこうしているわけにもいかないので横島はとりあえず彼女を元に戻すべく、彼女に声をかけた。


「まあ元気を出せ、お前がたとえ誰に役立たずと言われても、俺はお前がそれだけの女じゃないという事を知っている」

「うう……えぐえぐ」

「そう、俺とお前はかつて共にパピリオのペットとして暮らし、同じ釜のメシを食った仲じゃないか」

「横島さん……」


 横島は先ほど自らも一緒になって、いや、それどころか率先してヒャクメをいじくっていた事も忘れ、普段めったに見ることの出来ないシリアスな顔でヒャクメの肩を抱く。当然、この時キラリと歯を光らせるのも忘れない。
 すると、ヒャクメもまたノリがいいのか、さっきまで泣いていたのにも関わらずまるで少女漫画のごとく目をキラキラと輝かせ、胸の前で腕を組むとまるで恋する少女のように横島を見つめる。
 横島はそのヒャクメの視線を受け、彼女から決して目をそらすことなく静かに頷く。そして彼女の首筋に口を寄せ、まるで睦言を呟くかのように優しく、慈愛を込めて――


「そう、俺は知っている。お前は少なくとも猫のエサ係くらいは役に立つという……役に立つのか?」

「ってそこでなんで最後が疑問系になるのねー! というかそれって慰めになってないわよー!」


 ――きっちりと地獄へと叩き落したのであった。
 この男、やはりヒャクメ相手には容赦が無い。まあ、元々ヒャクメが神様云々以前に気安く付き合いやすい性格の上、役立たずとまではいかないがやはりどこか間が抜けているので、からかう対象としてはこの上ない存在だからであろう。
 とは言え、いつまでもこうしていては本当に話が進まない。
 故にタマモはいつものごとくハンマーを取り出し、それを振りかぶると横島とヒャクメに向けて凄まじい殺気を撒き散らし、二人のコントを強制終了させるのであった。


「で……結局用件はなんなの?」

「横島さん……タマモちゃんってこんな雄々しい性格してたっけ? というか、誰かさんを髣髴とさせるような感じなんだけど」

「元々気は強かったが、こうなったのはこっち来てからだな。原因はよーわからんが……」

「まあ、原因は想像できるけどね。美神さんっていうブレーキがいない今、横島さんを物理的に制御するためにはそうならざるを得なかったんでしょう……素養はあったかもしれないけど」

「そこ、うるさい! いいからさっさと何しに来たか言いなさいよ!」


 タマモは目の前で神妙に正座する二人の目の前で、ドスンと凄まじい重量音を響かせながらハンマーを大地に下ろす。
 すると、ヒャクメはその迫力に怖気づいたのか、いきなり立ち上がると軍隊のように直立不動の姿勢をとり、敬礼をしながらようやく要件を告げた。


「は、はい! 横島さんとタマモちゃんを迎えに来たのねー!」

「え……」


 ヒャクメが神としての尊厳もかなぐり捨て、命の危機から脱するために用件を告げた瞬間、刹那は誰にも聞こえないくらい小さな声で驚きの声を上げ、横島の顔を見つめる。
 そして、横島はといえばそんな刹那に気づくことなく、驚愕の表情でヒャクメを見つめていた。


「迎え……ちょっとまて、っつーことは俺たちは帰れるってことなのか?」

「ちょ、それって本当なの!? というか、本当によく私達を見つけられたわね」

「当然よ、横島さんが行方不明になってから4ヶ月、横島さんならどんな世界にいようとも絶対に何か騒動に巻き込まれると思って、時空間の変調や運命係数の変動が著しい世界に当たりをつけたの。そしてそれはまさしくビンゴだったのねー! 後は元の世界への通路を開いて帰るだけなのねー」

「後は帰るだけか……一応聞くが、以前みたいに帰りのエネルギーが無いとか言うのは無いだろうな?」

「それについても大丈夫なのね。確かに通常の私の力じゃどうにもならないけど、今ならこの空間に満ちる魔力を利用すれば十分帰れるのねー」 


 呆然とする刹那を他所に、横島達はどんどん話を進めていく。
 この時、刹那は足元の地面が急になくなったかのようにふら付きながら、ゆっくりと横島達のもとへと歩もうとする。だが、何故かその一歩が踏み出せない。

 刹那は知っていた。
 横島とタマモの二人はこの世界にとって異邦人でしかないのだと。
 だから、いつか別れの時が来るかもしれないという事を。
 しかし、その日はずっと先だと思っていた。
 これから過ごす夏休み、そして紅葉彩る秋、自分の翼と同じ色の雪が降り積もる冬、二人と初めて出会った時と同じく花咲き誇る春。
 麻帆良の美しい四季が巡り、やがて自分達は卒業する。
 そして高校生となった自分とタマモの二人は、横島と共に再び新たな一年を過ごす。
 そんな毎日がまだこの先も続くと思っていた。
 しかし、それはただの思い込みにすぎなかったのだ。
 

(私も連れて行ってください)


 今にも真っ暗になりそうな視界の仲、刹那の喉元までその言葉が登ってくる。
 だが、それが言葉として発せられる瞬間、明らかに様子がおかしい刹那に木乃香が心配そうに声をかけた。


「なあ、せっちゃん……大丈夫?」

「……お、お嬢様」


 刹那は心配そうな顔をして自分を見つめる木乃香と目を合わせる。
 するとその瞬間、刹那は学園祭一日目に保健室で見た夢を思い出した。
 その夢の内容は横島が自分を置いてどこかに、二度と会えない場所に行こうとする夢。そしてそれを思い出した時、刹那は気づいた。いや、気づいてしまった。
 自分はすでに選択している事を。
 あの時、刹那は夢の中で横島が自分の手の届かない場所に行こうとしているにもかかわらず、彼を追う事が出来なかった。
 横島を追うこと、それは目の前で自分を気遣う木乃香を置いて行くことを意味している。そして、それは刹那にとって絶対に選択することが出来ない選択肢であった。
 近衛木乃香、彼女は刹那にとってかけがえの無い親友であり、幼き頃より何を捨ててでも守る事を誓った相手。だから刹那は、夢の中でとは言え彼女の手を振りほどいて横島のもとへ行くことができなかった。
 そして今、あの時の夢は現実のものとなり、再び同じ選択肢を刹那に突きつける。
 だが、すでに刹那はその答えを選択していた。だからこそ、何度同じ条件を突きつけられても同じ選択を選ぶであろう。
 そう、刹那は決して木乃香を置いて横島と共に歩む事はできないのだった。


「大丈夫……大丈夫です、お嬢様。私は……」

「ストップやせっちゃん」

「え?」


 刹那は手をぎゅっと握りしめながらも、それでも顔をあげるといつも通りの笑顔を木乃香に見せようとする。
 それは木乃香心配させないようにと気遣う、刹那の必死の努力の結晶。しかし、そんな彼女の心の内を木乃香は正確に見抜いていた。
 だからこそ、木乃香は刹那に皆まで言わせず、刹那の口に人差し指当てて彼女の言葉を封じる。

 
「大丈夫や、横島さんがせっちゃんを置いて帰るなんて絶対にないんよ」


 木乃香は戸惑う刹那に向かってきっぱりと言い切った。もちろん、彼女の言葉には根拠など無い。
 しかし、なんの根拠もないはずの言葉は、閉ざされかけた刹那の心を包み込み、再びその扉は開かれることとなる。


「ほ、本当にそうなんでしょうか……」

「せや、絶対にそうや。だって、せっちゃんも横島さんが帰りたいって聞いたことないんやろ?」

「え、ええ……でも……」


 刹那は少しだけ元気を取り戻したかに見える。しかし、それでも彼女は不安そうに横島を見つめるだけだ。
 すると、そんな二人に先ほどから話を聞いていたアスナも割り込んでくる。


「まあ、確かに横島さんが刹那さんを置いて帰っちゃうって言うのは想像できないわね。それに、以前聞いたことがあるけど、向こうの上司ってのがあの横島さんを丁稚扱いしていたって言うじゃない。そんな場所に帰りたいって思うかな?」

「せやせや、ウチが聞いた時、たしか給料は上限固定の減額制って聞いたよー」

「そういえばそうだったわね。それでミスしたりセクハラするたびに減額されるから、最終的に手取りを時給換算したら実質250円ぐらいだったって……今聞いても凄まじい生活よね」

「それに比べて、こっちやと横島さんは自分で事務所経営しとる上に、せっちゃんをはじめとして綺麗どころいっぱいやろ。どっちがいいかなんて決まりきったことやー」


 木乃香とアスナは刹那を元気づけるために、一生懸命に説得を続ける。すると、刹那もまたその内容に勇気づけられたのか、その顔に徐々に安堵の表情が浮かんできた。
 実は木乃香などはいざとなったら自分も横島について行くことにより、刹那と横島を添い遂げさせようと凄まじい決意を胸に秘めていたりするのだが、それも横島がこの世界に残るのならばいらぬ心配というものだ。
 ちなみに、向こうの世界での横島の扱いについてだが、話を聞くかぎりさぞかし美神が鬼や守銭奴のように聞こえるのだが――否定はできない――実はこれは美神が横島のセクハラや正社員としての責任重さを実感させるために、自分がやられた場合もっともダメージを受けるであろう罰、つまり上限固定減額制の給与体系を定めたのだ。
 だからこの給与体系は一見鬼のようにも見えるが、あくまでもこれは横島の成長を願う美神の親心であるのだ。けっして丁稚である横島に払う給料がもったいなかったというわけではない、たぶん。
 しかし、そんな美神の親心など横島はもとよりアスナ達が知りえるはずがない。それゆえ、アスナと木乃香は横島がこの世界に残る事を楽観視し、刹那を元気付けていたのだが、今までその会話を黙っていたネギが何かに気づいたのか、手をポンと叩くとやたらと嬉しそうにアスナ達に告げたのであった。


「けど、横島さんってこっちだと1億円の借金があるんですよね♪」

「……」

「……」

「……」


 ネギの投下した言葉の爆弾がさく裂した瞬間、周囲を不気味な沈黙が包み込む。
 アスナと木乃香は互いに沈黙した後、ゆっくりと刹那の方を見る。するとそこには両手を口元にあて、今にも泣きそうな顔をする刹那の顔があった。


「や、やっぱり横島さんは帰ってしまうんでしょうか……」

「だ、大丈夫よ刹那さん! たとえ借金があったってきっとこっちに残ってくれるわ……たぶん、きっと」

「せ、せや! いざとなったら、ウチがお父様を説得して帳消しに……」


 普段凛々しい刹那が少女のように目に涙を浮かべ、それでもなお泣くのを我慢している。その普段とのギャップも加え、やたらとかわいい刹那の姿にアスナと木乃香は微妙に萌ながらも、再び元気付けようとする。


「それじゃ、横島さんがその事を忘れてるといけませんから、今から伝えてきますね。それに、学園長がさっき念話で今回の騒動の損害賠償、8千万円を横島さんに請求するっていってましたし」


 しかし、そんな彼女達の努力をあざ笑うかのように、この邪悪なる未来の『立派な魔法使い』候補はそれこそスキップしかねない勢いで横島のもとに向かおうとしていた。
 ちなみに、学園長云々は大ウソである。
 ネギにとって天敵であるタマモと横島、この二人を合法的に、それも物理的に排除できるこの機会、そんな千載一遇のチャンスが来たのだ。これを逃すほどネギは馬鹿ではないのである。


「ちょ、ダメー!」


 ネギが嬉々として横島のもとに向かおうとすると、当然ながらアスナはそれを阻止しようとグレイシー一族も真っ青な神速のタックルかます。
 しかし、ネギはそれに対してまるで分身の術のごとく突如として6体に分裂すると、蜘蛛の子を散らすように逃げ出すのであった。


「……ネギのやついつの間に分身の術を?」

「ひょっとしてカエデが教えたアルか?」

「いや、ネギ坊主の前で幾度か使った程度でござるが……さすがに実体を持つまではいかないようでござるな」

「見よう見まねでそこまでやられたらさすがにへこむで」


 分裂するネギをハマノツルギ(ハリセンVer)で瞬く間にぶっ叩くアスナ。そんな風景を前衛組の三人は何をするでもなく眺めている。
 この場合、驚くべきは見よう見まねで分身の術を繰り出すネギの才能なのか、それとも6体に分かれたネギを一瞬のうちに叩きのめすアスナの身体能力に驚くべきか迷うところである。
 ともあれ、呆然とする小太郎達を他所に、アスナに取り押さえられたネギは木乃香の手も加わって猿轡をかまされ、あっという間にロープでみの虫状に拘束されるという騒々しい場面が繰り広げられるのだが、そんな最中にも横島達の会話は続いていく。


「というわけで、みんな横島さんたちを待ってるのねー」

「ねえ、帰るって今すぐじゃないとだめなの?」

「残念だけど、すぐに帰らないとダメなのねー」


 ヒャクメは帰る事を渋るタマモをせかす。
 タマモとしては、横島が帰る事を選択するのならそれについて行くだけなので特に問題は無いのだが、刹那のこともあるのですぐに決断するわけには行かない。
 それゆえにヒャクメに時間的猶予を求めたのだが、それに対するヒャクメの答えは無情であった。
 彼女の説明によれば、現在のヒャクメの力では帰還に必要なエネルギーをすぐには賄えず、この世界樹の魔力を利用する事でようやく帰ることが可能なのだそうだ。
 ちなみに、この世界に来る時は儀式場を設けた上に天龍童子に小竜姫、それに加えてワルキューレ、ベスパ、パピリオ等の協力の下ようやくこの世界へとやってこれたのである。
 そのため、もし今を逃せば22年後の大発光を待たなくてはならないのだ。


「じゃあ、帰るとしたら今、もしくは22年後か……帰れるのは嬉しいんだが、正直いきなりすぎてピンとこんなー」

「私は横島に付いていくだけだから、帰るか帰らないかは横島しだいなんだけど……けど、刹那はどうするの? それに小太郎も……刹那達がよければ一緒についていくってのもありかもしれないけど」

「だな、一度みんなで相談して……」

「あ、それはダメなのねー」


 横島が今後のことについて相談するために刹那を呼ぼうとすると、何か慌てたようにヒャクメはそれを制止した。


「ダメって……なんでだ?」

「横島さん達が知らないのも無理も無いけど、本来なら異世界の人間というのはその世界にとって異物、存在してはいけないものなのね。だから、そういうものが万が一発生した場合、世界は二つの行動を取るの」

「二つの行動?」

「そう、迷い込んだ異物を取り込むか……もしくは排除するか。とは言え、ほとんどが排除されると見ていいんだけどね」

「は、排除……」

「有史以来、ごくたまーに横島さん達みたいに異世界に行ったり、逆に異世界から迷い込んだ人物は観測されてたんだけど、そういった人物はほぼ例外なく迷い込んできてから5年以内に死を迎えているのねー」

「5、5年……」

「ちょ、ちょっと待ってよ! という事は、私達がここに残ったら5年以内に死んじゃうってこと?」

「そういうことになるのね。それもこれも、どの世界にも世界固有の運命、因果律があるんだけど、迷い込んできた人達って例外なくそういった物から外れた上に、元々の運命を大なり小なりいじくる事になっちゃうからその修正って意味もあるわけなのよ」

「そ、そんな……」

「で、言いにくいんだけど事前に観測した結果、この世界の運命係数が横島さんのおかげでそれはもうものすごい事になってるから、下手をすると1年以内に世界から排除される可能性が高いのね……心当たりない?」

「そういえば、やたらとリアルな命の危機が多かったな……」


 横島はヒャクメに言われて、改めてこの麻帆良に来てから幾度となく命の危機に陥った事を思い出す。
 考えてみれば、この世界で過ごした月日はわずか4ヶ月。しかし、その4ヶ月の間に横島は京都で腹に大穴を空けられて死にかけ、つい最近ネギとエヴァによって危うくトドメさされかけたのだ。その上、タマモの話ではタマモが参戦していなかった麻帆良祭ではフェイトによって殺されていたらしい。
 横島はそこまで思いたると、自分の命がいかに危うかったかに気づいたのか、顔をいっきに青ざめさせる。
 だが、同時にふとある事に気づき、その顔を上げると刹那のほうをふり返った。すると刹那は今までの話を聞いていたのか、今にも泣きそうな顔をしていた。
 横島としては帰る帰らないは別にして、どこかお気楽に考えていた。それに、たとえ向こうに帰ったところで、ヒャクメがこちらに来れた以上、もう一度ここに来る事も可能だと思っていたのだ。
 しかし、横島がここにとどまる事は自分の死を意味し、同時に刹那や小太郎を連れて行った場合、彼女達の死を意味している。
 となれば、横島が取る手段は一つしか残されていなかった。
 ちなみに、現在刹那の背後ではいつの間にか縄から脱出したネギが『祝帰還! さようなら横島さん、タマモさん。いつまでもお元気で!』と書かれた幟をかかげようとし、それを見つけた高音の影によってパロスペシャルの刑に処せられて悶絶しているのだが、気にしてはいけない。
 

「というわけで、横島さんたちは問答無用で向こうに帰るしかないわけなんだけど……アレ?」


 ともあれ、刹那だけでなくアスナや木乃香に小太郎、そしてそれ以外のメンバーが突然の別離にショックを受けている中、ヒャクメは一刻も早く横島達を連れ帰るべく彼らの手を引こうとする。
 しかし、ヒャクメがタマモの手を取った時、彼女は訝しげな表情で改めてタマモを見つめた。


「……な、なによ?」

「タマモちゃん……こっちで何かあった?」


 ヒャクメはしばしタマモと目を合わせた後、即座にトランク型のパソコンもどきを開き、そこから取り出したコードをタマモの額に取り付けるとなにやら打ち込んでいく。
 そしてしばらく何かを計算し続けた彼女は、画面に映し出されたその結果を見て驚愕の声を上げるのであった。


「こ、これは……」

「何? 何があったの?」

「えっと……驚かないで聞いてね。なんかこう……タマモちゃんの存在というか魂が、こっちの世界に定着しちゃってるみたいなんだけど」

「それってどういうこと?」


 タマモはヒャクメの言い回しに嫌な予感を感じ、どこかイラついたように結論を迫る。
 するとヒャクメはなんとも気の毒そうな表情をしながら、タマモの陥った状態を説明するのだった。


「だから、早い話がタマモちゃんは横島さんと違ってこっちの世界に受け入れられちゃってるのねー。つまり、今タマモちゃんが向こうの世界に帰ったら……死んじゃうかも」

「そ、それっていったいどういうことよー!」


 ヒャクメから告げられた驚愕の事実に、タマモは思わず彼女の胸倉をつかんで絶叫する。しかし、それも無理も無いことであろう。
 なにしろ、ヒャクメが告げた事が事実ならそれは横島との別離を意味しているのだ。とてもではないが納得できるものではない。


「ちょ、タマモちゃん落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかー! なんで元々向こうにいた私が帰れないのよー!」

「そこまで私にはわからないのねー! というか、本当になにか心当たりないの?」

「心当たりと言われても、そんなもの……あっ!」


 今までヒャクメを揺さぶっていたタマモはふと何かに気付いたのか、大声を上げるとその手を止める。
 言われてみれば、確かに心当たりはあったのだ。それもつい先ほど。
 その事実に気づいたタマモは呆然とし、目を虚ろにしながらどこか乾いた笑いを声を上げる。


「おい、タマモ……何かあったのか?」

「あは、あはははは……さっき……ほんのついさっき、私こっちの世界の私と同化しちゃった……」

「たぶん、そのせいね。こっちの世界の同一存在を取り込んだことによって、世界がタマモちゃんの存在を認めちゃったのねー」

「じゃ、じゃあ私は……」

「ここに残るしかないのねー」


 タマモはヒャクメによって告げられた事実に呆然とする。しかし、それも無理も無いことであろう。
 なにしろ良かれと思ってやった、この世界のタマモとの融合がものの見事に裏目に出たのだ。もはや悲しみを通り越して笑うしかない。いや、笑い声すら出てこない。


「なあヒャクメ、なんとかならんか?」

「こればっかりはどうにもならないのね。タマモちゃんには気の毒だけど、向こうにつれて帰るわけには行かなくなったわ」

「そんな……」


 横島は突きつけられた無情な事実に絶句する。そして同時に、とある場所では突きつけられた無情な事実にネギが涙を流しながら絶句し、先ほどの幟に書かれたタマモの名前に二重取消線を書き込んでいる。当然ながら、その行為に対して今度はいつの間にか合流していた千雨が某プロレスラーを髣髴とさせるドラゴンスクリューから四の字固めといった連続技を披露する事になっているが、そんな喧騒も横島に届く事はなかった。
 お互いに呆然とする横島とタマモ。経緯はどうあれ、数奇な運命に流されてこの世界にたどり着いた二人の異邦人は今ここで引き裂かれることになるのだ。そのショックのほどは筆舌にしがたいだろう。
 そしてそれは刹那もまた同じであった。
 刹那はヒャクメが迎えに来たと知った時点で横島との別離を覚悟し、この世界に残る事を選択した。そして今、横島がこの世界に残るという最後の希望すら失われ、あまつさえせめて二人は幸せになって欲しいというささやかな願いさえも無残に打ち砕かれたのだ。それだけ彼女の失意は大きかった。
 しかし、それでも刹那はいち早く自分を取り戻すと、ペタンと地面にへたりこんだタマモの手を取る。


「タマモさん……」

「刹那……ありがとう、もう大丈夫……私は大丈夫だから」


 タマモは刹那の手を取って立ち上がると、目に浮かんだ涙を横島にばれないようにぬぐい、いつもと変わらぬ笑みを浮かべる。しかし、それは付き合いの浅い高音とメイから見ても空元気にしか見えなかった。
 当然ながら、それ以上に付き合いの長いアスナ達、ましてや横島がそれに気づかぬはずが無い。
 だからこそ横島は心配そうにタマモの肩に手をかけようとするが、タマモはその手を避けるように一歩下がると横島を見上げた。


「さて、残念だけどここでお別れ……今まで楽しかったわ。向こうでシロによろしくね」

「タマモ……」

「あ、事務所のことなら心配しないで。私がちゃんと後を引き継ぐから……刹那と、小太郎……そしてアヤカと一緒にね」

「横島さん……今まで本当にありがとうございました。タマモさんのことは心配しないでください、私が必ずついていますから」


 タマモと刹那、二人は心の中で荒れ狂う悲しみを必死で抑え、少しでも横島が安心して帰れるように笑顔で送り出そうとする。
 そして、その意を汲んだヒャクメは呆然とする横島の袖を引っ張る。このままいつまでもここにいれば、それだけタマモ達は悲しみを押さえつけようと必死な努力を続ける事になるのだ。それはタマモ達にとって負担でしかない。
 だからこそ非情なようだが、ここは少しでも早く横島を彼女達から引き離し、後で思う存分泣いてもらうしかない。そして、その涙が流されない限り、彼女達が立ち直る事は無いのだ。


「横島さん、名残惜しいかもしれないけど、もうどうにもならないのねー」

「あ、ああ……」


 横島もまた、いつまでも自分がここにいてはタマモ達が悲しみが深くなるだけだと理解している。
 だからこそ、彼もまたいつもどおりの笑顔で彼女達に別れを告げようとした。しかし、そんな横島の動きは懐から突如として現れた二体の小さな影によって妨害される事になった。


「ううううう、いっちゃダメですー」

「イヤ! 絶対にイヤよ! 横島と離れたくなんかないわ!」

 
 横島がタマモ達にさよならと言おうとした瞬間、突如として横島の懐からちび達が現れ、涙も露に横島の腕に抱きつく。 
 二体の式神は横島の腕にしがみつくと、イヤイヤとばかりに首を振りながら決して彼を離そうとはしない。
 ちびタマモとちび刹那、この二体の式神は以前もそうだったが、多少なりとも幼児性があるせいか本体の持つ感情をストレートに現す傾向がある。そんなちび達の行動、それは紛れもなくタマモ達の偽らざる本心でもあるのだ。
 横島は自分にしがみつくちび達と、そのちび達の行動に驚く刹那達を苦悩に満ちた表情で交互に見る。
 元来、横島の性格ならこういった別れを認めることは出来ないし納得できない。ましてや、かつて美神やおキヌのどちらかを選べといわれたら両方俺のだと言ってはばからない人間である。
 当然ながら、元の世界に帰れると聞いた時点で美神やおキヌと再会した時に繰り広げる熱いラブシーンなどを妄想すらした。
 だが、向こうに帰るということは刹那とタマモとの永遠の別離を意味し、またその逆ならば長年苦楽を共にした美神やおキヌ、そして弟子のシロとの別離の上、ヒャクメによれば自らの命が危うと言うのだ。
 ここでもし横島が極常識的なまともな男ならば命の危険がある以上、この世界に残るという選択肢は浮かんでこない。
 だが、彼はやせても枯れても、ましてや多少なりとも成長したとは言え、煩悩の化身と称せられたほどの男である。その問題に女が絡んでいれば、自分の命など二の次なのだ。
 だからこそ、ちび達によって告げられたタマモ達の本心を改めて知る事により、一度は決めた帰還を躊躇する事になる。

 突きつけられた選択肢は二つ、帰るか、残るか。選ぶ答えはただ一つ。
 元の世界に帰れば、横島は美神やおキヌ、シロと再び再会できる。だが、そのかわりタマモと刹那とは二度と会うことが出来なくなる。
 逆にこの世界に残れば、タマモと刹那と変わらぬ毎日を過ごす事が出来る。しかし、その反面として永久に美神達と引き離され、あまつさえ世界の修正による死の危険が付きまとうのだ。
 本来なら考えるまでも無い選択肢を前に、横島は深く懊悩する。
 ちなみに、現在横島の頭の中ではデフォルメされたツンデレ巨乳上司&清純派同僚&自分の命と、将来性抜群の妹系ツンデレ美少女&清純派美少女剣士が完全に拮抗した状態で天秤の上に乗っかっていたりする。
 自分の命を加味した上で尚、タマモ達と美神達が拮抗していることからも、横島の内では既に答えが出ているような物なのだが、やはり基本的にヘタレな横島としては命も惜しい。
 それだけに深く静かに考えていたのだが、ここでふと横島はとある事実に思い至った。
 

「ってアレ? よく考えたら俺って結局向こうでも普通に隣り合わせの灰と死の世界にいなかったか? 主に美神さんの手によって……」

「……い、一応自業自得とは言え、否定できないのねー」


 ヒャクメは横島が気づいた事実を前に、思わず額に汗を浮かべながら日ごろの横島の扱いを思い出す。
 それと同時に、殴りたい時にその場横島がにいないことによって美神のイライラが既に頂点に達している事もあり、下手をしたら元の世界に戻った瞬間に美神に殺される可能性すらある事に思い至る。なにしろ、美神は横島捜索のために既に数千万円の散財をしているのだ、そのことを踏まえればふとした弾みで殺ってしまっても全然おかしくは無い。いや、むしろ美神なら殺りかねないのである。
 横島はそんなヒャクメの表情で向こうで待つ美神精神状態を正確に読み取り、その瞬間彼の脳内にある心の天秤が一方にいっきに傾く事になるのだった。


「……なあ、俺ここに残っちゃダメか?」

「ちょ、横島さん本気? ここに残ったらこの世界……いえ、宇宙意思によって確実に死ぬのよ」

「大丈夫、俺なら絶対に何とかできる! 俺は美神さんの添え物、具体的にはカレーライスの福神漬けのような立場だったとは言え、あのアシュタロスと戦った男だぞ」

「そのアシュタロスですら宇宙意思の前ではどうにもならなかったのよ、無茶すぎるのねー!」


 横島はしばしの懊悩の後、ヒャクメに向かってこの世界に残る事を告げる。だが、その選択はヒャクメにとって無謀としか考えられない物であった。
 それゆえに彼女はなんとか横島を説得しようとするのだが、答えを得た横島はやたらと爽やかな笑みを浮かべるだけだ。
 ちなみに、そんな彼らのすぐそばでは魔法使い及びネギパーティーの知識担当達が、顔を青ざめさせながら円陣を組んで話し合ってたりする。


「……あの、お姉様……今、なにかものすごい固有名詞が聞こえてきたような……」

「大丈夫、大丈夫です。きっと気のせいですわ」

「い、今横島の兄さん確かにアシュタロスとか言ってたよな……というか戦った?」

「アシュタロス……おそらく、ソロモン72柱の1柱で地獄の大公爵のことかと思いますが……なんですかそれは!」

「夕映さん、お願いですから気のせいという事にしてください。というかもう驚かないと決めたのに、こればかりはインパクト強すぎですわー!」


 既に何を聞いても驚かないと決め、それを実践していた彼女達であったが、さすがに今回ばかりは話に出てきた相手ビッグネームすぎたのか、彼女達は一様に顔を青ざめさせている。
 ついでに、ここで横島が実はカレーライスの福神漬けどころか、むしろライスの方だと知ったら彼女達の驚愕は計り知れない事になるであろう。
 一方、横島がここに残ると告げると、タマモと刹那は複雑な表情を浮かべていた。
 横島が残るのは嬉しい。しかし、そのせいで横島が死んでしまってはなんの意味もないのだ。だからこそ、タマモはヒャクメの手を取ると彼女に詰め寄る。


「ねえ、本当になにか手段は無いの? それこそ裏ワザみたいなものが」

「それは確かにいくつか方法はあるけど、そのほとんどが実行不可能なものなのねー」

「実行不可能ってどんなふうなんですか?」

「まず、この世界の宇宙意思が横島さんを異物と判定している最大の要因が、縁という物なのね。異世界から来た人たちは例外なくこれが誰にもつながってないの」

「縁? けど、私はこっちの世界の異物じゃなくなったわけなんでしょ?」

「タマモちゃんの場合、この世界に飛ばされて元の世界との縁が細くなった所に、この世界の同一存在と融合したことによって縁が上書きされてしまったのねー。その結果、元の世界との縁が切れて、この世界の存在として認められたわけなのね」

「じゃ、じゃあ……」

「そう、横島さんがこの世界に残るには、この世界における横島さんの同一存在と融合する必要があるんだけど、タマモちゃんみたいな大妖怪と違って、ただの人間の同一存在を見つけることは不可能なのねー」

「……」


 タマモと刹那はヒャクメの話を聞くと、驚愕の表情を浮かべてお互いに顔を見合わせて沈黙する。
 そしてちょうどそんな時、やたらと重苦しい沈黙を破る声が響き渡った。


「あら、皆さんこんな所で集まって何をなさってるんですか? というか、こちらの方は?」


 突如として現れた乱入者、それは先ほどヒャクメが見つけることが不可能と断じた横島の同一存在、雪広あやかであった。
 彼女は事が終った後、タマモ達と合流すべくここに来たところであったが、なにやら横島達が深刻な顔をしていることと、見知らぬ女性の姿があることに小首をかしげている。


「あー、アヤカ。彼女はヒャクメ、以前いた場所で一応横島の友人だった人よ」

「まあ、横島さんの……では改めまして、私はタマモさんの友人で、縁あって横島さんの事務所で従業員をしている雪広あやかと申します」

「あ、これはご丁寧に……でも、横島さんもスミに置けないのねー。タマモちゃん達だけじゃなく、こんな美少女まではべらせ……はべら……アレ?」

「あの……なにか?」


 あやかは突然自分の顔を見つめて黙り込むヒャクメをいぶかしげに見つめる。だが、ヒャクメはそんなあやかの反応にもかかわらず、ただ茫然とあやかを見つめるだけだ。
 そして、彼女はしばしののち、ギギギと擬音がつくような感じでタマモの方へと振り返った。


「……えっと、何かの間違い……よね?」

「うん、信じたくないという気持はよーくわかるけど、事実よ……」

「う、うそぉぉぉぉー!」


 ヒャクメの絶叫が夜空に響き渡る。しかし、それも無理もないことであろう。なにしろつい先ほど不可能と断定したのにもかかわらず、横島の同一存在が目の前でニコニコと笑っているのだ。しかも、彼女は横島の同一存在であるにもかかわらず、とびっきりの美少女と来ているのだ。これで驚かなければいったい何を驚けと言うのだろうか。


「な、なんなのよこのデタラメな世界はー! 横島さんと同じ人がこんな美少女で、しかもものすごくいい人っぽいだなんて何かが間違ってるのねー!」

「えらい言いようね。でも……さすがに同一存在だけあって、根源は一緒よ。ベクトルは完全に逆方向だけど……」

「逆?」

「重度のショタ。標的はそこの小太郎とネギ先生」

「な、なんなのね、納得できるけどなにか納得できないこの感情は……」


 ヒャクメはハテナマークを浮かべる横島とあやかを交互に見詰めつつ、あまりにも数奇すぎる運命の巡り合わせに頭痛を覚えてしまう。
 しかし、彼女が納得できいるか否かはともかくとして、こうして横島の同一存在がそろったのだ。故に彼女はタマモに向かって同化するか否かを問おうとするが、タマモはヒャクメに皆まで言わせずにただ首を振る。
 なにしろ同化ということは片方の消滅を意味しているのだ。タマモにしてみれば横島とあやか、どちらも消えてほしくないのだから、その選択も仕方がないであろう。
 これによりヒャクメの示した方法は実行不可能になるかと思われたのだが、ここでふと刹那が何かを思い出したかのようにポケットをまさぐる。


「あの、ヒャクメさん。ようは、横島さんがこの世界との縁を深め、その宇宙意思というのに認められればいいんですよね」

「基本的にはそうなんだけどね……」

「じゃあ、これではダメなんでしょうか?」


 刹那はあるものをポケットから取り出すと、それをヒャクメに見せる。


「これは……横島さんと私の仮契約カードです。今、私とタマモさんはこの世界の魔法的なつながりで横島さんと結ばれ、従者となっています。これで……」

「そうか、私達は横島の従者なんだから、当然横島と強い縁が有るわけなんでしょ。だったら……」


 タマモと刹那は互いに仮契約カードを取り出すと、期待に満ちた目でヒャクメに視線を向けた。
 ちなみに、そんな彼女達の背後では千雨の四の字固めを裏返すことによって脱出に成功したネギがカモを呼び、仮契約の強制破棄の方法を聞き出そうとしていたが、当然ながらそれを察知したハルナと夕映の連携によるクロスボンバーが決まってたりする。
 しかし、ヒャクメはそんな背後の喧騒を見ないふりをしつつ、気の毒そうにタマモ達に告げた。


「たしかに、それで縁を深めることになってるけど……やっぱりちょっと弱いみたいなのねー。というか、そもそも……」

「それなら、これはどうですかー?」

「横島と私達の婚姻届。それも呪的効力効力満載の血と霊力の契約書よ!」


 ヒャクメが首を振りながらタマモ達の提案にダメ出しをしようとした時、ヒャクメが全てを言い切る前に今まで横島にしがみついていたちび達が横島から離れると、いつの間に手にしたのか、いつぞや超からせしめた婚姻届を持ってヒャクメにそれを突きつけた。
 ちび達が取り出した婚姻届、それは横島が超の策略によって霊力を込めて己の名前を書き、その上血判を押したものだ。そして、さらにタマモ達の霊力の化身ともいえるちび達がサインしたことにより、エンゲージの契約書も真っ青な凄まじい呪的契約書となってしまっていたのだった。
 ヒャクメはそんな婚姻届を手に取り、そこに書かれた名前を見た後に汚物でも見るかのような視線を横島に向ける。


「……横島さん?」

「ナ、ナニカナ?」

「こっちに来てから何かおかしいと思ってたけど……いつの間に真正のロリコンになったのね?」

「……」

「アレ、否定しないの? というかまさか照れてる?」


 ヒャクメは否定するどころか、沈黙したままそっぽを向きく横島を意外そうに見つめる。そして、ふと視線を上げるとその耳が見事に真っ赤になっているのに気づいた。
 あの煩悩の化身と言われた横島が照れている、それもしごく単純なストレートな好意を受けて。
 その意外すぎる行動にヒャクメはしばし驚愕していたが、同時になぜ横島がここに残ると言い出したかを理解する。そう、横島もまた彼女達を好きになっているのだと。
 ちなみに、ヒャクメが横島の真意を察している一方で、タマモはちび達を手元に抱きよせ、歓喜の声をあげていた。


「あんた達でかしたわ! さすが私達の分身ね!」

「えへへへへ」

「当然よ、こんなチャンス逃すはずがないじゃない!」

「い、いいのでしょうか……いえ、嬉しくないわけじゃありませんけど……」


 歓喜の声を上げるタマモとは別に、刹那はどこか戸惑いつつも恥ずかしそうに自分と横島の名が書かれた書類を見つめる。
 刹那が手にするのはたかが紙切れ一枚、されど女としていつか夢見る結婚という名のファンタジーへいざなう神聖なる契約書。それを手にした彼女は顔を真っ赤にし、照れまくっている横島を見つめていた。
 彼女は一度は横島と離ればなれになる事を覚悟し、それを許容した。しかし、この契約書を見てしまった以上、離れたくないという思いが強くなるだけだ。
 だからこそ、刹那はたとえ宇宙意思が横島を認めなくても、彼を助け守ることを決意するのだった。
 なお、刹那がそんな決意を胸に秘めているころ、その背後では例によって即座に復活したネギが麻帆良市役所へねつ造した離婚届を提出すべく駆け出そうとしたところを、いい加減しびれを切らしたアスナによって放たれたアスナバスターを喰らい、今度こそ完全に沈黙していたりするのだが、それはひとまず置いておいたほうがいいだろう。


「さあ、これでどうなの? 結婚よ結婚、これ以上強い縁なんて普通ないわよ!」

「いや、確かにそうなんだけど……これ、まだ不十分なのねー」


 なにやら騒がしいネギ達をよそに、ついに切り札を手に入れたタマモはヒャクメにそれを突きつける。
 しかし、ヒャクメから帰ってきた答えはそれでもなお良いものではなかった。


「不十分? なにが?」

「だって、契約はしたかもしれないけど、まだその証明をしてないみたいだから、この契約書の効力が発動されてないのねー。それに……」

「それに?」

「いくらこっちの縁が強くなっても、元の世界との縁が文字通り切れない限り、どうしても世界はその人を異物とみなしてしまうのよ」

「そんな……」

「残念だけど、同一存在との同化が出来ない以上、元の世界との縁を切ることなんて不可能なのね。そもそも世界的な縁というものはそれこそ人の魂につながってるから、現世との縁を切ることを生業としている死神でなければ縁を切るなんてこと絶対に不可能なのねー」

「……」

「あれ? みんなどうしたの、急に黙り込んで……」


 ヒャクメが横島達を諦めさせるつもりで元の世界との縁を切る方法を告げた瞬間、横島達はアスナ達も含めてみな一様に沈黙する。そんな彼らの背後ではネギが悲しみのあまり塩の柱となってたりするが、それは気にしなくていいだろう。
 ともあれ、そんな沈黙が続く中、横島は訳が分からないといった感じのヒャクメの肩をポンと叩くと、彼女を問い詰める。


「あー……うん、なんというかつくづく俺って運がいいなと思ってな……あ、それでさっきの契約の証明ってのはどうすればいいんだ?」

「あ、それは……」


 ヒャクメは横島の態度にハテナマークを浮かべるが、とりあえずそれは置いておいて横島にだけ聞こえるように小さな声でその証明の方法を示した。
 すると、横島はしばし呆然とした後、ふと空を見上げる。そして何かを決意したような顔をすると、刹那のもとに歩み寄り、彼女の肩にそっと手を置く。
 そして――


「横島さ……ん!?」


 ――戸惑う刹那に構わず、ゆっくりと顔を近づけ、そっとキスをしたのであった。
 刹那は横島の突然の行動に思わず目を見開き、反射的に横島の胸を押しのけようとする。しかし、間近にある横島の表情がいつになく真面目なものであったため、そのまま横島を受け入れて目を閉じる。


「ん……んん……」

「お、おおー!」


 普段ドラマ以外なかなか見られるものではないキスシーン、それが生で繰り広げられたため、アスナ達は顔を真っ赤にしつつも思わず歓声を上げながらキスをする二人に見入ってしまう。
 そして、タマモもまた横島のすぐ隣でアスナ達と同じように見入っていたが、ふと我に返ると横島を問い詰めようとする。
 すると、ちょうどその瞬間に横島は刹那から顔を離し、今度はタマモの方を振り向いた。その一方で、刹那はどこか放心したかのようにぼうっとしている。やはり、突然のキスは色々とショックだったのだろう。
 タマモは二人の姿を交互に見ながら、横島の異様なまでにシリアスな迫力に押されて一歩下がる。だが、横島は無言のままタマモが下がるとそれ以上に距離を詰め、やがて刹那の問いと同じようにタマモの肩に片手を置き、空いた手でタマモのアゴをつかむとクイっと上を向けさせ、そのままキスをした。


「ちょ、横島あんたいったい……んん!」


 タマモは逃げようと思えば、横島の手からいとも簡単に逃げることができたはずだった。だが、彼女は横島のあまりにも意外な行動に戸惑い、思わず逃げるのも忘れて目を見開き、そのまま横島を受け入れてしまう。


「おおおおー!」


 キスをする二人を見て、もはや観客と化したアスナ達は再び歓声を上げる。
 そして全員の視線が集中する中、横島はようやくタマモから顔を離す。そして、顔を真っ赤にしてうつむいているタマモから少し離れると、空に向かって叫ぶのであった。


「ドチクショー、どーせ俺はロリコンだよ! もう堕ちちまったよ! でもな、これが俺の選んだ結論だ! だから大事な二人と一緒にいられるなら、永遠の愛でもなんでも誓ってやらー!」


 横島はなにやら涙を流しながら天に向かって叫ぶ。そんな彼の背中は、それはもう世界の中心で自分はロリコンだと叫ぶかのような悲哀に満ちていた。
 そして天に向かって叫んだ後、横島は傍らで真っ赤になっている二人を改めて見つめると、二人の肩に手を置き、じっと見つめる。そして、二人が何か言う前にそのまま抱きしめると、彼女達の耳元でそっとささやく。


「タマモ、刹那ちゃん……答えを聞かせてくれ……俺は二人と一緒にいたいし離したくない。だから、その……俺はお前達が好きなんだ!」


 横島は二人を抱きしめたまま、今更ながらに自分の行動が恥かしくなってきたのか、みるみるうちに顔が真っ赤になっていき、呆然と自分を見つめるタマモ達の視線から逃れるかのように顔を逸らす。
 そして、タマモ達は横島の突然のキスと告白に呆然としていたが、二人同時に横島の行動の意味に気づいた。
 そう、横島は今誓ったのだ。それもご利益はともかくとしても、曲がりなりにも神の目の前で。となれば、自分達もそれに答えなければならない。
 それに気づいた以上、彼女達の答えは既に決まっている。 


「私……私は横島が大好き。離れるのはイヤ……だから、ずっといて……私のそばに」

「私も大好きです、タマモさんと同じくらい横島さんが好きです! だから、もうどこへも行かないでください」


 タマモと刹那は恥かしさのあまりそっぽを向いている横島に抱きつくと、自らの思いを彼に伝える。
 すると、まるでそれが合図であったかのように、ちび達の持っていた婚姻届が光り輝き、その光は横島とタマモ、刹那の三人を包み込んだ。
 いや、それだけではない。
 婚姻届が光り輝いたのと時を同じくして、彼女達の背後に聳え立つ巨大な木、世界樹がいっそう光り輝きだしたのだ。


「こ、これは……まさか世界樹がタマモさん達の願いを聞き入れたというのですの!?」


 高音やメイ達、世界樹伝説の真相を知る者は光り輝く世界樹を見つめながら驚愕の声を上げる。
 一方、彼女達とは別に、ヒャクメはこの瞬間に確かに見たのだ。今まで糸くず程度でしかなかった横島のこの世界におけるタマモと刹那への縁が、まるで注連縄のごとく太く強靭な物にかわったのを。
 そして、それと同時に世界へと繋がる縁がこの麻帆良を中心に伸びていく。
 この瞬間、横島とこの世界の縁は強固に結ばれる事になった。後に残るのは元の世界とのつながりを示すか細い縁だけだ。
 これを切る事が出来れば、確かに横島は完全にこの世界に認められることになるだろう。
 だが、その縁を切る事はヒャクメにしてみれば不可能である。だからこそ、喜びのあまり涙を流すタマモと刹那を傷つけることになるのも覚悟し、その事実を伝えようとする。
 しかし、横島はヒャクメが何を言おうとしているのかを察し、彼女を押し留めるとふと空を見上げ、誰もいない虚空に向かってぼそりと呟く。


「死神……頼む」


 横島がそう呟くと、何もなかったはずの虚空からじわりと影が染み出し、それはやがて2頭身ぐらいのやたらとコミカルちっくなボロを纏ったドクロと化して行く。そう、それは横島に取り憑き、もはや横島ファミリーの一角をなす我等が愛すべき死神であった。
 死神は横島の呼びかけに応じると、すでに全ての事情を把握しているのか、『まかせて』と書かれたプラカードを背負いながら鎌を構える。
 そして、死神の目にはっきりと映る元の世界の縁にむけてそれを振り下ろそうとした瞬間、あまりの展開についていけなかったヒャクメが驚愕の声を上げたのであった。


「ちょ、ちょっと待つのねー! なんで死神がここにいるのよー!」

「何でといわれても……最初からいたわよ」

「う、嘘……ってホントだ、ちゃんと調書に載ってるー!」


 ヒャクメは死神が横島に憑いていたことを知らなかったのか、信じられないという風に絶叫する。
 だが、そこでなされたタマモの冷静なる突込みを受けると、改めて今回の事件の顛末書をめくりはじめ、その書類に記された行方不明者名簿の中に死神があったのを認めた。
 どうやら彼女はろくに書類を読んでいなかったようである。


「と、いうわけで。不思議なくらいいいタイミングで条件がそろってるんだよな。俺って運がいい……のか?」

「運がよければ、そもそも異世界に迷い込む事自体がありえないのねー! それに、本当にいいの? 美神さん達ともう会えなくなるのよ」

「むぐ……あの乳は捨てがたいが……それでも、それでも俺は……」

「な、何も血涙流してまで……」


 ヒャクメは、横島と死神が肩を組みながらのほほんと自分を見つめている姿に思わず頭痛を感じてしまう。
 そもそも魂を狩る事を仕事とし、神の名を持ちながら古今東西全てにおいて貧乏神と2TOPをはる忌神と仲良くするなんて、いったいどういう人生だと突っ込みたいのだが、よく考えたらこの男はしっかりと貧乏神とも関わっていた事を思い出し、さらなる頭痛を感じて頭を押さえる。
 だが、とにかくこれで横島がこの世界に残るための条件はそろったのである。だからこそ、ヒャクメは最後の確認とばかりに美神の名前を出す。
 だが、それでも横島はこの世界に残る事を選択したようだ。ただし、血涙を流している所を見る限り、かなり苦渋の決断でもあったようだ。


「と、とにかく、こういうのは勢いだ。というわけで死神、ちゃっちゃとやってくれ」


 ともあれ、いかに苦渋の決断であろうとなんであろうと、横島はこの世界に残る事を選択したのだ。ならば後はそれに必要な事をするだけだ。
 故に横島は気を取り直すと再び死神に頼み込む。
 ちなみに、そんな彼の背後では例によってネギが死神に向けて最大級の魔法を放とうとしていたようだが、音もなくネギの背後に回っていたあやかが静かにネギの首に腕を廻し、魔性のスリーパーホールドを決めてネギを昏倒させてお持ち帰りしようとしているが、もはや誰もネギを助けようと動く者はいなかったりする。
 そして、今まさにあやかによってネギがお持ち帰りされようとしている中、死神はそれにかまうことなくいっきに鎌を振り下ろした。
 その瞬間、横島は心の奥底でなんとなく何かから切り離されたような喪失感を覚えたが、それもすぐに気にならなくなってしまう。
 おそらく、今横島が感じた喪失感は元の世界との縁が切り離されたことが関係しているのだろう。だからこそ、それを理解した横島は心の中で美神とおキヌ、そして弟子であったシロへむけてゴメンと謝った。
 そして、死神が横島の縁を切った瞬間、アスナ達は歓声を上げながら横島、タマモ、刹那のもとへと殺到するのだった。


「に、兄ちゃーん!」


 まず、真っ先に横島に飛びついたのは小太郎であった。
 だが、それも無理も無いことであろう。なにしろ、下手をしたら再び家族を失うところだったのだから。何度か下手をうって洒落にならないドえらい目にあっているが、それでも彼にとって横島はかけがえのない兄でもあるのだ。
 そういった点では彼はまだネギほど毒されていないだけ幸いであろう。願わくば、本当にこのまま純粋に育って欲しいものである。
 一方、アスナや木乃香といった少女達はタマモと刹那を取り囲むと、彼女達を祝福していく。特にハルナにいたっては、先ほどのキスの感想について朝倉ばりのインタビューをかますほどだ。
 ついでに、ここでようやくネギがあやかによってお持ち帰りされかけてる事に気づいたアスナは、慌ててあやかに追いすがると例によって凄まじい攻防戦を繰り広げてたりする。

 
「ふう、結局私の任務は失敗なのねー。となれば長居しても意味も無いし、この魔力があるうちに帰るとしますか」


 ヒャクメは皆の祝福を受ける横島達を見つめながら、これなら大丈夫だろうと微笑むと帰るために立ち上がる。
 すると、小太郎を腰の下にぶら下げた横島がそれに気づくとヒャクメのもとへと近付いていく。


「あー、すまんな。結果的に無駄足になっちまって……あと、美神さん達には……」

「気にしないでいいのねー。美神さんには私からうまく言っておくわね」

「ああ、頼む……」


 横島はヒャクメに後事を託しながらも、決別したはずの美神達を思う。
 毎朝散歩をねだり、自分を師匠と呼んだシロはもう会えないと知ると悲しむだろうか。
 冗談抜きで食生活における生命線であり、主に金銭関係で荒みまくっていたあの事務所において女神とも言える存在であったおキヌ。彼女もやはりシロと同じように悲しんでくれるだろうか。
 そして、無理目の女と言いながらも常に憧れ、文字通り命をかけて仕えてきた偉大なる上司、美神令子。彼女ももう自分と会えないと知ると皆と同じように悲しんでくれるだろうか。
 横島は自分がいないことで美神が悲しむかどうか、その事に思いをはせていく。
 だが――


「いや、それは無いな。むしろ美神さんなら怒り狂いかねん……給料の前借りぶん返してなかったしな」


 ――あっさりとそれを否定すると、美神の怒りの顔を思い浮かべたのか、背筋に妙な寒気を覚えてしまう。
 ともあれ、美神はどうなるかよくわからないが、確実に自分を心配しているであろうおキヌとシロについては、せめて自分がこっちで元気にやっている事を知らせる必要があるだろう。
 その事に思い至ると、横島はふと昨日からポケットに入れたままの物を思い出し、それを手に取る。
 それは、朝倉がデジカメで撮影していた写真であった。
 横島はその写真の中から、事務所の玄関で写した写真を手に取る。それには、横島を中心に左右に寄り添うようにタマモと刹那が写り、タマモの隣には小太郎の肩に背後から両手を置くあやかが写っていた。
 横島は手にしたその写真を裏返すと、ハルナからペンを借り受けるとそれに何やら書き込み、何かから決別するかのようにトレードマークであったバンダナを外し、持っていた写真をバンダナで丁寧に包装していった。
 そして、それを見ていたタマモもまた、懐から一枚の写真を取り出すとやはりハルナからペンを借り、そこに何やら書き込むと持っていたハンカチでくるむと、横島と共にそれぞれの写真をヒャクメに手渡した。


「じゃあ、これを美神さん達に……俺はこっちで元気でやってるて伝えてくれ」

「私のはシロにお願いね」

「うん、わかったのね。ちゃんと渡しておくわ」


 ヒャクメは二人から写真を受取ると、それを大事そうに懐にしまう。そして横島達から距離を取ると傍らにいた死神へとふり返った。


「さて、それじゃあ帰りますか」


 ヒャクメに声をかけられた死神は彼女の目を見つめ、コクンと頷く。そして横島のほうへ振り向くと、その小さな手をバイバイという感じで振る。


「ちょ、待って! 何で死神を連れて行くのよ!」

「何でと言われても……死神は元々向こうの世界の存在なのね。その上、今まで横島さんに取り憑いていたから無事だったけど、元の世界との縁を切ったから自動的に死神は役目から解放された状態なるのねー」

「だ、だからって……」

「そのせいで死神も横島さんと同じで異物として認識されるわけだから、このままここにいたら間違いなくそう遠くないうちに消滅するわよ。あ、言っとくけどこればっかりは本当に裏ワザも何もないのねー」

「そ、そんな……」


 タマモと横島は信じられないといった感じで言葉もなく死神を見つめる。すると、死神は申し訳無さそうにペコリとお辞儀するとヒャクメの肩へと止まった。


「死神、お前知ってたのか?」


 横島は死神に向かって問いかけるが、死神は何も言わず、ただ無言で見つめ返すだけだ。
 どうやら死神はヒャクメが来た時点ですでにこの事を覚悟していたようだ。だからこそ、彼は何も言わない。未練も残さない。
 ただ来るべき時が来たとばかりに、静かに状況を受け入れるだけだ。
 そして、横島達もまた死神の決意に気づき、あえて涙を見せることなく死神を見送る。


「そうか……お前はいっちまうんだな」

「さよならは言わないわよ。だから……いってらっしゃい」


 ヒャクメは横島達の気持ちの整理がついたのを見計らうと、肩のところに止まった死神に視線を送る。
 そして、死神がそれに答えるように頷くと、彼女はいよいよ横島達に別れを告げた。


「それじゃあ、名残惜しいけど私達はこれで帰るのね。横島さん、向こうの世界で幸せを祈ってるのねー」


 ヒャクメが横島達に別れを告げた瞬間、周囲に満ちていた魔力が彼女に集まっていく。
 横島達が見守る中、ヒャクメの輪郭がゆっくりとぼやけていき、やがてヒャクメと死神の姿が透けて見え出す。そして、ヒャクメ達の姿が完全に消える間際に、死神は横島達に向けて手にしたプラカード掲げて見せるとその姿を完全に消していったのであった。


「『行ってきます』か……じゃあ、帰って来た時にはお帰りって言ってやらないとな」

「そうね……」


 横島とタマモは最後までさよならと言わなかった死神を思いながら、消えていった虚空を寂しそうに見つめる。
 だが、いつまでも悲しそうにしていては、身代わりに帰っていった死神に申し訳ない。だからこそ、横島とタマモは消えていった死神を振り払うかのように、明るい声を上げた。


「さて、これで本当に全部終わりだ! さあ、みんな後は後夜祭を楽しむぞ! というか、この後の飲み食いは全部俺のおごりじゃー!」

「アヤカがさっきお弁当を持ってきてくれたからね、みんなで食べましょ……ってアヤカはドコ?」

「あの、あやかさんでしたら向こうでアスナさん相手にSTFをかけてますけど……あ、返された」

「おお、アスナちゃんはドラゴンスリーパーか、渋いところを狙うねー」


 タマモはふとアヤカがいないことに気づき、刹那に行方を尋ねると、なんと彼女はアスナを相手にどこぞのプロレスラーのように見事なSTFをかけていた。
 だが、相手のアスナもそれでギブアップするほどヤワではない。わずかな隙をついて拘束から逃れると、瞬く間にあやかの背後を取り、そのままドラゴンスリーパーの体勢にはいるとあやかを締め上げていく。
 ちなみに、そんな彼女たちのすぐ脇では何故か執事服に着替えさせられたネギが涙を流しながら膝を抱えているが、その事に突っ込む勇者はいない。


「ってみんなはやく止めなさいよー!」


 しばらく二人のキャットファイトを呆然と見ていたタマモであったが、我に帰ると二人を止めるべく騒乱に乱入していく。
 横島はしばしの間乱闘を繰り広げるタマモ達を見つめていたが、ここでふと空を見上げると、もはやここにはいない死神に向かってそっと呟いた。


「結局、俺たちにはこういった騒乱が似合ってるのかね……死神、俺達はいつもどおりだ。だから、お前もそっちでがんばれよ」


 横島のつぶやきは夜の闇に吸い込まれ、その代わりに少女達の歓声と怒号、おまけにタマモのハンマーの打撃音とネギと小太郎の悲鳴が聞こえてくる。
 そんないつも通りな風景が繰り広げられる中、横島は傍らにいた刹那の手を取ると微笑みかける。


「さて、じゃあそろそろ行くか」

「ですね、いいかげんタマモさんを止めないと怪我人が出そうですし」

「で、俺が体を張って止めるんだよな、結局」

「クス……じゃあ後で介抱してあげます」

「出来れば膝枕で頼むな」

「ええ、もちろんです」


 横島と刹那は互いに微笑むと、騒乱を収めるべくその中心地へと駆け出していく。
 そして、そんな彼女たちの頭上ではどんな世界でも変わらぬ月が横島達の未来を照らすかのように明るく、いつまでも輝いているのだった。









「と、いうわけで残念だったけど横島さんは向こうに残る事を選んだのねー」


 ここは美神除霊事務所の応接室。
 そこではたった今麻帆良から帰ってきたヒャクメが横島の事を美神に告げている。
 さすがにそのショッキングな内容に美神達一同は言葉もなく驚愕の表情を浮かべていた。
 だが、その中でも美神はいち早くショックから回復したのか、どこか感慨深げに呟く。


「それが横島君の選択なのね……」

「ええ、それと横島さんが美神さんにってこれを預ってきたわ」


 ヒャクメは美神が事情を飲み込めたと見ると、懐からバンダナにくるまれた一枚の写真を取り出して美神に渡す。
 美神はヒャクメからそれを受取ると、バンダナの包装を解き、中の写真を見つめる。そして、その裏に書いてあったメッセージを読むと少しだけ微笑んだ。


「元気にやってます……か。こういう形で独立されるとは思ってなかったわね。これって飛び立つ雛鳥を見守る親鳥の心境ってヤツかしら」

「横島さん、向こうで事務所を開いたんですね……」

「拙者に! 拙者には何もなかったでござるか!?」


 美神とおキヌが横島からのメッセージを伝える写真を見つめる中、シロはヒャクメに飛びかかると自分のはないかとヒャクメの胸元をゴソゴソと勝手に漁り出す。
 当然ながらヒャクメはもがきながら抜け出そうとするが、シロがその程度で離す事もなく、やがて一枚の写真を見つけるとようやくヒャクメを解放する事になる。


「ム、何故か雌狐の匂いがするでござるが……まあいいでござる。先生は拙者にどんなメッセージを……」


 シロが見つけたもの。それは当然タマモがシロへと送った写真である。しかし、シロがなにやら嬉々として写真をくるんだハンカチを剥ぎ取り、その写真を見た瞬間、なぜか彼女は石の様に固まってしまう。


「あ、それは横島さんじゃなくタマモちゃんからなのねー……っていったいどうしたの?」


 ヒャクメは急に固まったシロに小首をかしげながら近付き、その肩に手を置く。すると、それが合図であったのかシロは急に我に帰ると手にした写真を床に投げ出して窓に駆け寄り、天に向かって呪詛の声を上げるのだった。


「タマモォォォー! おのれよくも抜け駆けをー!」

「えっと、シロちゃんいったい……」


 突然のシロの奇行に呆然とする美神達であったが、いち早く復活したおキヌがシロの奇行の原因であろう写真を床から取る。しかし、それを見た瞬間、おキヌもまたシロと同じように写真を投げ出すと窓に駆け寄り、天に向かって叫んだ。


「横島さぁぁぁぁん! なんでタマモちゃんは良くて私はダメなんですかー! というか、隣の女の子はいったい誰なんですかー!」

「え、えっと……おキヌちゃん? シロ?」


 美神は混乱が感染した二人にすこし引きながら、先ほどのおキヌと同じように床に落ちた写真を取る。
 だが、美神はシロともおキヌとも違って特に取り乱すことなく、頬に少しだけ笑みを浮かべた。



私の勝ち





「……『私の勝ち♪』か。まったく、見事に私達は逆転負けしたみたいね」


 美神は写真に向かって微笑みながら、その写真に写ったタマモを指で小突く。
 その写真の向こうでは、ウェディングドレス姿のタマモと、見知らぬ少女が満面の笑みを浮かべてタキシード姿の横島すがりついており、その中央に口紅のように真っ赤なサインペンで『私の勝ち♪』と書かれていた。


「横島さぁぁぁん!」

「タマモォォォー!」


 部屋に響き渡るシロとおキヌの叫び声をBGMに、美神は先ほどの集合写真とあわせてその写真を机の中に入れるとカギをかける。
 そして、自分も感じた寂しさを少しだけ誤魔化すように机をバンと叩いてシロ達を黙らせると、いつもの美神らしく颯爽と宣言するのであった。


「こら、いつまでも近所迷惑なことをしてるんじゃない! そんな事より、今夜は3億の大仕事、ガンガン稼ぐためにも今から準備をするわよ!」


 横島は自分の行く道を選択し、その道を歩もうとしている。
 ならば、その彼の師匠たる美神がいつまでもいない男を思ってぐじぐじするわけには行かないのだ。
 そう、こんな事で弟子に負けるわけには行かない。
 美神はそんな思いを胸に秘め、シロとおキヌを叱咤すると久しぶりの大仕事へと向けて張り切るのであった。
 心の中でひとり立ちした弟子への祝福と、所長よりも先に寿退社した二人に呪詛を込めながら――







 エピローグ 








「アレから一月ですか……」

「世界から切り離されたせいで煩悩殿が閉鎖されてからこっち、月日が立つのはホンマに速いもんやな……で、アレはどうしとる?」


 横島が元の世界より決別してより一月、とある場所では日々忙しい執務に追われる最高指導者がふと手を止めて感慨深げな表情をする。


「まだ落ち込んでいるようですね。報告書によると、間違えて別の人の魂を持ち帰りかけたのが3件もあり、今は謹慎中です」

「やはり死神でも別れは辛いか……」

「まして彼はまだ見習いですからね。というわけで、運命室魂魄管理部採取課から彼の初期化申請が上がってきたわけですが……どうします?」


 最高指導者達が話題にしているのはどうやら横島に取り憑いていた死神のことのようである。


「初期化か……せやけど、それって実質消滅やろ。さすがに気の毒っちゅーか……なあ」

「とはいえ、このままですと仕事になりませんからね。下手すれば歴史上の重要な役目を担うはずだった魂を持って帰るなんてことがおきかねません」

「せやなー」


 最高指導者達は普通なら目に求めずに決済をしていたであろう書類を前に、難しい顔をしている。
 ちなみに、初期化とは死神の存在を完全に抹消し、記憶や経験などをゼロの状態に戻して復活させる事だ。本来、この程度の案件が最高指導者に回ってくる事はないのだが、いたずらと息抜きを兼ねて横島の意識内で遊んでいた上位神族や魔族達はさすがに事情を知っているため、その決済をどんどん上に回し、こうして最高指導者まで書類が回ってきたというわけなのである。


「なあ、キーやん」

「なんでしょう」

「いっそのこと、死神を戻すか?」

「戻すと言いますと、横島さんの所にですか? でも……」

「ああ、言わんでもええで。このまま送っても、消滅するって言うんやろ」

「そうですが……なにか、手段が?」

「裏ワザやけどな……」


 最高指導者たちは何かを思いついたのか、なにやら悪巧みをするかのようにほくそえみ、元々の仕事もほっぽり出して何やら書類を作っていくのであった。





 狭く暗い4畳半の部屋の中、死神は静かにため息をつく。
 あれほど上司に注意されてたと言うのに、今回ついに三回目のミスをしてしまった。おそらく、今頃上司達は自分の初期化申請を上層部に提出しているころであろう。
 死神は深くため息をつきながら、ただ静かに開かれる事のない扉を見つめる。
 あの扉が次に開く時は、自分の初期化が決まった時だ。それを覚悟した死神は少しだけ気落ちしたように悲しそうな顔をする。
 そして、ちょうどそんな時、ついにその扉が音を立てて開かれる事になった。


「死神ナンバー4億飛んで12番いるか。これより、君の処遇を通達する」


 扉を開けて現れたのは、死神が所属する部署の上司であった。
 彼は懐から一枚の書類を取り出すと、もはや観念したとばかりに頭をたれ、そっと横島に別れを告げた死神に向かってその内容を告げはじめる。
 しかし、その内容が進むにつれて死神は頭を上げ、その予想外の内容に驚愕するのであった。




「では、準備はよいか?」


 死神はなにやら光り輝く扉を前に呆然としていたが、上司に声をかけられると即座に向き直り、見事な敬礼をする。
 すると、上司は満足げに頷きながら、一枚の指令書を死神に手渡した。


「うむ、では此度の任務、必ず全うするのだぞ。この任務にはそれこそ世界のメンツがかかっているのだ」

 
 死神が受取った指令書。それは神魔最高指導者の連名が記された長期出張命令書であった。
 それによると、本来この世界の住人である横島はこの世界の輪廻の輪に組み込まれるはずであったのだが、今回の事件によってその輪から外れる事になる。今回は仕方がないとはいえ、それはこの世界にとって多少なりともバランスを崩すことにもなるのだ。
 これを分かりやすくどこぞの特殊な業界の世界に例えるならば――


「ウチのシマのシノギ、勝手にさらってくとは何事かゴルァ!」


 ――という事になる。
 とはいえ、もはや本人の合意の下、そのシノギが他所に移ってしまっているのだが、これをこのまま放置していては組のメンツに関わるのである。
 だからこそ、ヒットマンではないが、舐めたことをしくさったガキへの教育と、形の上で自分達の組の者がケジメ――ようは死んだ時の魂の切り離し――を行う事により、メンツを保とうというわけなのである。
 ちなみに、この事を押し通す上で最高指導者達は存分に暴れ周り、麻帆良がある世界へきっちりと仁義を切ることに成功しているので、世界の修正力によって死神が消滅する事はありえないようになっている。
 なんとも、ご都合主義満載の展開とも言えよう。
 ただし、なぜ上層部がこのようなごり押しが通ったかといえば、死神を横島に取り憑けておくと死神を経由して再びラインが繋がり、煩悩殿の新装オープンが出来るからだったりする。

 ともあれ、死神にしてみれば細かい事はどうでも良いのだ。ようは、この書類に従えば再び横島と一緒に過ごす事が出来る。それが彼にとってもっとも重要なことである。
 そして、死神は見送りに来た同僚や上司達に敬礼を返すと、ふり返ることなく麻帆良へと続く異界の扉に足を踏み入れた。するとその瞬間、死神の姿は皆の前から姿を完全に消し去ったのだった。




 ああ、この風、この匂い。その全てが死神の記憶を揺さぶる。
 彼の眼下に広がるのはかつて横島と共に過ごした麻帆良学園都市が見える。
 その事に気づいた瞬間、死神の脳裏にまるでビデオのように自分がいない間の横島達の姿が浮かんでは消えていく。


「さあ、横島君。もう一軒行こうか……次の店には君好みのいい娘がいるんだよ」

「どこまでもお供しますぜ、ガンドル先生! おら、ネギも来い!」

「あの、なんで僕が……というか、僕10歳……」

「細かい事は気にするな、さあまだ見ぬ美女達よ、今貴方の運命が今ここに!」

「アナタ……ここ最近残業だと言ってましたけど、これはどういうことかしら?」

「横島……こういう所で飲むなとは言わないけど、ここ最近のこの請求書の山、説明してくれるわよね?」

「横島さん……」

「ネギー! あんた子供なのになにこんな所でお酒なんか飲んでるのよー!」


 死神の脳裏に、タマモ達+ガンドルの嫁に追い回される横島達の姿が浮かんでは消えていく。
 そして死神が高度を下げ、世界樹の所まで来ると今度は別の映像が浮かんできた。


「いやぁぁぁぁぁー! 誰か、誰か助けてー!」

「おのれ……おのれネギ。俺でもまだやったことの無いタマモと刹那ちゃんへの覗きを堂々とやってのけるだと? 本当にいい度胸だ、以前言ったはずだよな……次は月だと」

「そんなー! あれは事故、純然たる事故なんですー! 小太郎君、お願いだから助けてー!」

「あー、うん。無理や……というわけで、月のウサギに会うたらよろしくなー」

「いやぁぁぁぁー!」

「というわけで、月でゆっくりして逝ってこい、くらえぇぇぇー!」

「じゅ、順逆自在の術ー!」

「ほえ? ってぎゃぁぁぁぁー!」


 死神が世界樹公園を越え、タマモ達が通学していた町並みに差し掛かるころ、彼の脳裏には例によって即席ロケットに拘束されたネギが泣き叫んでいる映像が浮かんでいたが、ネギがなにか呪文のようなものを唱えた瞬間、何故か横島とネギの場所が入れ替わり、発動した文珠によって横島は月へと旅立っていく。
 横島を追い抜いたかと思われたネギと小太郎であったが、どうやら横島という壁はまだまだ大きいようだ。彼を超えるには火星でも目指さなくてはいけないのだろう。


「さて、茶々丸。次はどのコスで行くか?」

「そうですね、せっかくのマスターと千雨さんのユニットですから、大人とロリの組み合わせを基本にするのがよろしいかと」

「ケケケ、マサニ最強タッグノ誕生ッテヤツダナ」

「グレてやるぅぅぅー!」


 ちなみに少し前の森に差し掛かった時に、学園祭で行われた死闘の末、意気投合した茶々丸と千雨、チャチャゼロの妖しい笑い声とエヴァの悲しい悲鳴が聞こえてきたような気がするが、これはきっと気のせいであろう。
 ともあれ、そんな事を思ううちに麻帆良の町並みは次々と通り過ぎ、やがて見覚えのある建物が見えてくる。
 ああ、間違えもしない。あれは横島とタマモが住むあの楽しくも騒がしい家だ。

 ――あと5m


 死神は歓喜に打ち震えながら『横島よろず調査事務所』と書かれた看板を見上げる。
 そして、門をくぐるとゆっくりと玄関へと向かって飛んでいった。


 ――あと1m


 死神の目の前には大きな両開きの扉が聳え立つ。
 その扉の向こうにはずっと会いたかった男、楽しい家族達がいるのだ。
 死神はついに念願の場所に帰ってきた。
 まず、横島に会ったら何をしよう。タマモと会ったら向こうで手に入れたお土産のお揚げを渡さなければ。当然、刹那と小太郎、そしてあやかにもお土産は忘れていない。
 だが、それでもまずこの扉をくぐった瞬間にすることは既に決まっている。
 だから死神はゆっくりとその扉に手をかけ―― 


「タ ダ イ マ」






二人?の異邦人IN麻帆良  完




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