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「改めて名乗ろう、僕の名はフェイト・アーウェルンクス、九尾の狐である君の力、貰い受けに来たよ。さあ、京都の続きといこうか」


 
 超の野望も潰え、全てが終わったかに見えたその時、横島達の前に現れたのは京都で西の本山を壊滅させ、タマモが思い出すも忌まわしい己の怨念に囚われて暴走した契機を作った白髪の少年であった。
 タマモはフェイトと名乗った少年を前にすると、今まで引きずっていたハカセを後方に放り投げ、即座にハンマーを構えていつでも動けるような体勢をとる。そしてそれはタマモの後ろにいたネギ達も同様だった。
 

「フェイトとか言ったわね。あんた、たしか京都で人形ごと私が燃やしたはずなのになんで……」

「ああ、あの時かい? あの時はビックリしたよ。まさか距離を無視して人形ごと僕を焼くなんて芸当が出来るなんてね……おかげで間一髪で防いだけど、顔の右半分はご覧の通りだよ。さすがは九尾の狐といったところかな」

「で、今度はその左半分も焼かれにわざわざ麻帆良まで来たってわけ? あ、今ならせっかくだからサービスで全身をこんがりとヴェルダンにしてあげるわよ」


 タマモはまるで猫科の生物のように目を見開き、警戒を露にする。
 なにしろ、タマモにしてみれば京都で確実に殲滅したはずの相手が目の前にいるのだ、警戒するなというのが無理な話だろう。
 そしてなによりも、あの時力を解放したタマモに対して手も足も出なかったフェイトが妙に余裕の表情をしていることが気にかかる。
 そんな緊張感を含んだ空気が充満する中、やはりというか案の定と言うか、シリアスな空気を読めない、いや読んでいるからこそその空気をぶち壊す男、横島忠夫はなんとも能天気な声でフェイトに話しかけるのであった。


「なあ、シリアスなところ悪いんだけど、ちょっといいか?」

「なによ、こっちは今かなり切羽詰ってるのよ」


 タマモはあまりにも能天気な横島の声に少しイラつくが、それでも視線をフェイトから外さぬまま横島に答える。
 すると横島はしばし何事かを迷うような仕草をした後、遠慮がちに答るのだった。


「いや、そのな……」

「だからなによ」

「なんでそこの若白髪のガキはこう……全力でお祭りを楽しんでますって格好をしてるんだ?」


 横島の発言の後に続くしばしの沈黙。
 タマモ達は今まであまりにも予想外の敵の出現というインパクトのおかげで気づいてはいなかったが、よく見ればフェイトは左手には金魚が入った袋、右手には水風船、そして彼の背後にはおそらく何かの景品だろうか、数々のぬいぐるみやおもちゃが山となっている。
 そしてなによりも極めつけとして、通常三日がかりでようやくコンプリート可能といわれている麻帆良祭スタンプラリーが3枚もフルコンプの状態で首にかかっていた。おそらく学園祭初日から今まで、全身全霊をかけてこの学園祭を遊びつくしていたのだろう。


「あー……うん、一応お前もお子様だったんだな」

「こ、これは違……」

「スタンプラリーフルコンプしたっちゅーことは、うちとこのお化け屋敷にも来たんやろ、どやったかなー?」

「いや、だから!」


 先ほどまでのシリアスな空気がまるで気のせいであるかのように、フェイトに突き刺さるのはなんだかとっても生暖かい視線。
 そんな不名誉な視線をフェイトは必死で否定しているが、あいにくと否定するには物証がそろいすぎていた。
 ともあれ、そんなフェイトの無駄な努力が続く中、彼と対峙していたタマモはただ一人冷然とした視線をフェイトに向けた。


「……で、本当は?」

「いや、これはその……僕にも何がなんだか……気がついたらいつの間にかこう……」


 皆の無言の圧力と、なんだかよく分からない空気に影響されたのか、フェイトはタマモの視線を受けるとどこか戸惑うように言い訳をする。
 どうやら本人ですら何故そこまで情熱を駆けてまで、学園祭を楽しんだのか不明のようだ。それとも、ただ単純に童心に返りまくって遊んだ事が恥かしかったのかもしれない。
 京都で横島をあわや死に追いやり、ネギ達を圧倒した無表情な少年をそこまで遊びに駆り立てる麻帆良祭、実に侮れない。いや、この場合侮れないのはその麻帆良祭を実行した学生全員ではなかろうか。


「と、とにかく! そんなことは今は重要じゃない。僕の目的は君、九尾の狐である君を手に入れることだ!」
 
「誤魔化したな……」

「誤魔化したでござるな」

「そこ、うるさい!」


 なんとも微妙な空気、いやギャグマンガの典型ともいえるマヌケな時空が広がる中、フェイトはなんとか場の空気を元に戻そうと声を張り上げる。
 しかし、横島が張り巡らせたギャグの空気はまるで底なし沼のようにフェイトを捉え、抜け出す事を許さない。
 事実、フェイトが場を元に戻そうと張り上げた声もむなしく響くだけで、横島と楓の冷静な突込みがフェイトの心を深くえぐる。
 そんな中、この場の中で唯一冷静さを維持していたタマモはフェイトに向けて笑う。
 タマモの浮かべる笑みには先ほどまでの緊張感など無い、あるのは自らの勝利を確信し、敵に対して絶対有利な地歩を確保した時に出るごく自然な微笑みだった。
 なにしろ、すでにフェイトはギャグの空間に膝どころか腰まで浸かっているのだ、シリアスな敵をギャグの世界に引きずり落とし、心の底までいたぶり、ぼてくりまわす事こそを真骨頂とする横島とタマモにとって、この空間はまさにホームグラウンド、水を得た魚。
 そん状況を確立した今、彼らが負ける要素などまさに万に一つも無い。それになによりも、フェイトはある一つの法則故にすでに勝利の女神からはそっぽを向かれていたのであった。


「私を手に入れるね……あんたにそんな事ができるかしら?」

「むしろ出来ないという根拠を知りたいね。京都での君は力を暴走しただけ、普段の君は恐れるに値しない。そしてそこのネギ・スプリングフィールドやその他の者にしたって、京都の事を考えれば僕には遠く及ばない。これのどこに僕が負ける要素があるんだい?」


 タマモと横島はフェイトの言葉を聞くと顔を見合わせ、次いで大きくため息をつく。そして二人は、何故かものすごく気の毒そうな顔でフェイトを見つめた。


「なにかこう、凄くムカツク仕草だね。正直、ここまで舐められたのは初めてだよ……」

「あーそうかそうか、そりゃーよござんした。まあ、悪いことは言わん。今なら学園祭の楽しい思い出抱えて終われるからこのまま帰ったほうが身のためだぞ。ほら、綿飴やるから」

「……それが君の遺言かい? じゃあ、死んでよ」


 いいかげん我慢の限界に来ていたのだろうか、フェイトは額にビシリと青筋を浮かべる。そして次の瞬間、フェイトは無詠唱で石の槍を横島の腹へと向けて突き出した。
 今にも横島の腹を貫くかに見えた石の槍。それはまさしくあの京都での悪夢の再現。
 しかし、横島はそんな不意打ちにも慌てず騒がず、隣にいたネギの襟首を引っつかむと迷うことなく自らの腹を貫こうとする石の槍の前にネギをさらすのであった。


「ネギ、頼んだぞ!」
 
「え? ちょ、何?」 


 横島の腹を石の槍が貫こうとしたその瞬間、ネギは逃げる間もなく横島に首根っこを捕まえられる。
 ネギは横島に捕まったその瞬間に横島の意図を正確に見抜き、己の安全のために迷うことなく他人を犠牲にする横島に戦慄した。しかし、ネギとて伊達に天才少年などと謳われてはいない。
 ネギは即座に咸化法で体を覆って強化すると、横島がネギを槍の前に出そうとする前に手近にあった盾を目にもとまらぬ速さで引っつかみ、自らの前にもって来るのだった。


「小太郎君、お願い!」

「お願いじゃねえええー!」


 ちなみに、その盾の名は犬上小太郎と言う。


 ――ズン!


 目にもとまらぬ速さで横島がネギを盾にし、そのネギが小太郎を盾にした瞬間、フェイトが放った石の槍は凄まじい音を響かせてネギ達に接触する。
 それと同時に、破砕された石が細かな粒子となり、石の槍で貫かれたであろう横島達の姿を覆い隠した。
 フェイトは自らの放った魔法の手ごたえと、計画の邪魔になりそうな敵が一挙に3人も減った事で小さく笑みを浮かべる。
 しかし、今まで視界を覆っていた煙が晴れると、その顔には今までのクール系美少年というキャラ付けを覆すかのような驚愕の表情を浮かべるのであった。


「ふう、危ないところだったぜ……」

「横島さん、人を盾にするだなんて……あなたは外道です、いやもういっそ鬼、悪魔、魔王、タマモさんだー!」

「ネギ、お前が人の事言える立場やと思うとるんか? というか、さりげなく人外の最上位にタマモ姉ちゃんを置くなや」


 煙が晴れると、そこには当然ながら無傷の横島が、いかにも命の危機を脱したといった感じで額の汗をぬぐっている。
 そんな彼の足元には、これまた無傷のネギが恨みがましげな視線を横島に向け、さらにその隣ではネギによって盾にされた小太郎が額を手で押さえながらなにやら叫んでいた。
 三者三様、事の是非はともかくとしてフェイトの魔法の直撃を受けた彼等は、これでもかとばかりに元気であった。


「……そ、そんなバカな! なんで今のを無傷で……無詠唱とは言え、少々の障壁なんか軽く貫けるだけの魔力は込めたはずなのに!」

「いや、無傷やないで。突然やったから障壁も強化も間に合わへんかったから、ほらこのとおり」


 信じられない物を見たとばかりに叫ぶフェイトであったが、それに対して返ってきたのは小太郎の声。
 小太郎はフェイトの方にふり返ると、額に当てていた手を取り、ちょうど額の真ん中のあたりを指差した。しかし、いくらフェイトが目を凝らしてもそこには血の一滴どころか傷一つ見えない。


「……無傷だね」

「いや、ほれここや、赤くなっとるやろ」


 フェイトは小太郎に言われて改めてよく見れば、たしかに小太郎の指の先がちょっぴり赤くなっている。そのことを認識した瞬間、フェイトの中で何かが壊れた。


「あは、あはははは!」

「……ネギ、今の俺達の行動で何か笑うところあったか?」

「いえ、別に無いはずですけど」

「まあ、普通は笑えんわな……それはともかく、ネギとは後でじっくり話あわんといかんな。もちろんその会話に言葉なんぞいらへんで」


 横島とネギは突然笑い出したフェイトに首をかしげ、結局最終的に被害担当となった小太郎は二人に冷たい視線を送っている。
 そんな中、フェイトはしばしの間笑い続けた。
 フェイトの先ほどの攻撃は全身全霊の力を込めた渾身の攻撃というわけではない。しかし、それでもそれなりに力を込め、牽制どころか必殺の意思を持って放ったにも関わらず、その結果は小太郎の額をちょっぴり赤くさせただけ。しかも小太郎は障壁どころか、強化もしていない生身の状態でそれを受けたのである。
 その事実はフェイトが今まで築いた自信とプライドを容易に打ち砕いていく。


「さて、今ので答えは出たようね……」


 フェイトのむなしい笑い声が響く中、タマモは横島達を押しのけるようにフェイトの前に立つ。すると、今まで虚ろに笑っていたフェイトはその顔を力なくタマモに向ける。
 

「答え?」

「ええ、あんたが絶対に私達に勝てないって答えがね」


 タマモは自信たっぷりにといった感じでフェイトにハンマーを突きつけると、今こそ怨敵を倒す時が来たとばかりに力を解放していく。
 いや、タマモだけではない。今までタマモの傍らにいた刹那を筆頭に、アスナ、クーフェイ、楓、ついでに木乃香が信じられないような力を放出しだす。その姿はまさにどっかの星にいる戦闘民族がスーパーな感じになったかのようである。
 そして今まで微笑ましくじゃれあっていたネギと小太郎もまた、力を解放していく。
 タマモ達が解放する力、それはかつてフェイトが京都で戦ったネギ達とは比べ物にならず、完全にあの時のフェイトを上回っていた。


「こ、これは……そんなばかな!」


 フェイトがネギ達の力に恐れおののき、思わず後ずさる中、タマモはフェイトに対して不敵に笑った。


「これが今の私達の力……数か月とは言え全く登場してこなかったあんたと、その間ずっと力を高め続けてきた私達、その差は歴然としているわ。そう、時がたてばあのヤムチャですらフリーザを圧倒できるように、登場しないということはそれだけですさまじいハンデとなるのよ!」


 タマモをはじめとした全員が今こそ武器を構え、京都にて自分たちをさんざん苦しめた男を前に不気味に笑う。
 今、フェイトはまさにうさぎの中に小屋に紛れ込んだオオカミではなく、自分がトラ、ライオン、熊などの猛獣がひしめく檻の中に迷い込んだ子ヒツジに過ぎないことを理解する。
 そして次の瞬間、まさに放たれた弓の如くタマモ達は一斉に怨敵フェイトへと躍りかかるのであった。


「強さのインフレなんて嫌いだー!!」


 かくして月夜の麻帆良に少年の悲鳴が響き渡る。
 京都における最大の敵フェイト・アーウェ・ルンクス。彼は真打とばかりに物々しく登場した割に、5分とたたず退場することになるのであった。






第56話 「Hearts of Iron」










「なんて言うと思ったかい?」

 
 フェイトに向けて迫る幾多の魔法や剣刃、その全ては例外なく彼の体をすり抜けていく。


「これは……幻術? でも、幻術でこの私を騙せるとは思わないことね。そこよ!」


 誰もがフェイトの幻術に驚愕して周囲を警戒する中、唯一冷静だったタマモはあっさりとフェイトの幻術を見破ると何も無い空間へ向けて必殺のメガトンハンマーを叩き込む。
 この辺はさすが幻術を得意とする妖狐である。
 しかし次の瞬間、今度こそタマモを初めとした全員は信じられない現象をその目にするのであった。


「もしかして、これが君の全力かい? 京都で見せた力、もう一度見せてくれないかな?」

「な!?」


 刹那や横島の視線の先には、今まで幾多の不埒者やナンパ男どもを蹴散らし、防御不能、回避不能、ともすれば因果律すら逆転させているのではと噂されるタマモのハンマーが片手で受け止められていた。


「タ、タマモのハンマーを防いだ……だと?」

「そんな! 今の一撃は横島さんへの突っ込み並みの速度があったのに何故?」


 この麻帆良において理不尽の象徴ともいえるタマモのハンマー、それをフェイトはいとも簡単に防ぐ。
 その事実にハンマーの威力を最もよく知る横島とタマモは、思わずフェイトへの追撃も忘れ、ただ呆然とその場に立ち竦むのみだ。
 それになにより、完全にギャグの空間に捕らわれていたのにもかかわらず、今のフェイトは元のシリアスに戻っている。これはとてつもなく異常なことだ。
 一度横島達の作るギャグ空間に捕らえられれば、そこから脱出する事は不可能であるはずなのだ。そう、一度ギャグの空間に落ちればあのヘルマン、そして魔王アシュタロスですら抜け出せなかったはずなのに、である。


「くっ……あんたいったい……」

「君達の手口はヘルマンから聞いていてね。どの程度のものかと付き合ってみたんだが……たいした事無いみたいだね」

「あ、あんただったのね、あのスケベオヤジをよこしたのは!」

「スケベオヤジとは酷い言われようだね。彼はああ見えて高位の魔族だし、紳士でもあるんだよ」


 フェイトはそう言うとニヤリと笑い、タマモの質問を肯定すると、左手をタマモへとかざす。
 しかしその瞬間、タマモの援護に飛び出した刹那の剣閃が走り、フェイトは攻撃を中断させてその場から飛び退く。
 するとそのタイミングを見計らったかのように、横島のサイキックソーサーが正確にフェイトの着地点へめがけて炸裂した。
 横島のサイキックソーサーが炸裂した瞬間、凄まじい爆音と共に煙が舞い上がり、フェイトの小さな体を覆っていく。
 そして、それをチャンスと見たのか小太郎の気弾、それにネギに加えて高音&メイ達魔法使いが放つ魔法の矢がフェイトを襲う。
 しかもそれだけではない、自らの剣を交わされたと悟った刹那は即座にアーティファクト『シーカシシクロ』を召喚し、捕縛結界展開した。
 それは京都でのフェイトの強さを知るが故の全力攻撃。
 これだけの攻撃に晒されれば、いかにフェイトであれど無事ではすまない。そう確信にいたるほどの波状攻撃であった。


「やったか?」

「ネギ先生も含めて全員の攻撃が直撃したようですし……よしんば耐えられたとしても、あの捕縛結界から逃げるのは不可能のはずです」


 横島と刹那はタマモをかばうように前に立つと、いまだに捕縛結界の中で立ち込める煙を見つめる。
 そしてようやく煙が晴れると、ボロボロになったローブを脱ぎ捨て、学生服姿となったフェイトが無傷で佇んでいた。


「やれやれ、もう少し黙って見ててくれれば僕は大人しく帰るつもりだったんだけどね……」

「貴様……タマモさんに一体何をしようとした!」


 捕縛結界の中で、フェイトは服に付いた埃を払う仕草をしながら呆れたような視線を横島達に向ける。
 一方、刹那は夕凪を構え、厳しい表情を崩さぬまま結界に捕らわれたフェイトに対して詰問すると、フェイトはただ薄気味悪く笑う。


「何をって……最初に言ったはずだよ。彼女を貰い受けると……」

「タマモを貰い受けるだと……お前正気か? 人生を諦めるにはまだ早いぞ」

「ちょっと横島! それってどういう意味よ!」

「いや、俺以外のヤツがタマモと対当にやっていける訳が無いと思っただけなんだが……」

「横島さん、こんな状況の中でさらりと惚気ないでください!」


 未だに余裕の表情を崩さぬフェイトに対して、横島はどこか可哀想な人を見るような視線で彼を見つめつつ、はたから見れば惚気以外何物でもないことをのたまう。
 まあ、そのおかげで少し怒り気味であったタマモの機嫌があっさり戻っているので、横島は命拾いをしたとばかりに心ひそかに汗をぬぐう。
 その一方で、刹那は油断なく剣を構えてフェイトと対峙しているが、その背後にいる横島とタマモのじゃれあいと夫婦漫才に少々呆れ気味であった。
 そんな中、彼らのやり取りをただ見つめていたフェイトはやがて何かに耐えられなくなったかのように笑い出した。


「くくく、なるほど。さっきといい、今といい、これが君達の戦い方というわけか。わざと馬鹿をやって相手のペースを乱し、実力差を埋める……ヘルマンが調子を狂わされて負けたのも納得だよ」

「いや、別にそんなもの意図したわけじゃないんだがな……というか、とっとと降伏したほうがいいぞ。その結界のおかげでもう動けないんだし、ネギやアスナちゃん達も攻撃する気満々だからな……ただじゃすまんぞ」

「結界? こんなもので僕を封じられると本当に思っているの?」


 フェイトは自分を結界に捕らえ、行動を封じたと安心している横島達に対してどこか蔑むような視線を向けると右手を掲げ、ただ指をパチリと鳴らした。
 すると、ただそれだけで今までフェイトを捕らえていた捕縛結界がいとも簡単に霧散していく。


「な!?」

「さて、いくら雑魚とは言え数が多いとうっとうしいし、ネギ・スプリングフィールドも油断がならない。だから彼等にはこれを相手にしてもらおうか……ちょうどいいものがあることだしね」


 横島達が驚愕のあまり動けない中、フェイトは再び右手を上げると指を鳴らした。
 すると、今度はネギの魔法の余波で凍り付いていた湖が凄まじい速さで元の姿に戻っていく。


「ど、どわぁぁー!」

「横島さん、私につかまってください!」


 現在横島達がいるのは湖のほぼ中央。それゆえ湖の氷が溶けたことによって水の中に沈みそうになるが、それぞれネギやメイの魔法や高音の影、そして今回の余波でようやく氷付けから復活したガンドルフィーニ達によって脱出に成功していた。
 そして横島はといえば、間一髪で刹那が翼を出現させて空を飛び、横島を救出していた。


「なんっちゅーやつだ……湖の氷を一瞬で溶かしやがった」

「湖だけじゃないわよ……あいつ、鬼神の氷まで溶かしたみたい」

「なんだと!」


 刹那と同じように翼を生やしたタマモは、横島達に近付くと今まで氷の彫像と化していた一体の鬼神を指差した。
 横島は文珠を使えば自力で空を飛べるのちゃっかりと刹那の腰のところにしがみつき、しっかりと煩悩で霊力をフルチャージしながら改めてタマモが指差すほうを見る。
 すると、そこには今までぴくりとも動かなかった鬼神が氷を溶かされたことにより、活動を再開しようとしているところであった。


「あんにゃろう、鬼神を解放して何をするつもりだ」

「横島さん、鬼神が動き出すとまずいのでは?」

「まあ、サイズがでかいから下手すると街に被害が出るかもしれんが……超ちゃんがあれの力のほとんどを封じてる上に、攻撃は拡散脱げビームのみに設定してるから害は無いといっていたぞ。まあ、タマモが見てきた未来のように暴走してたら話は別かもしれんが……ってまさか!」

「アイツ、まさか鬼神を暴走させるつもり!?」


 横島達はようやくフェイトの意図に気づき、慌ててフェイトを探す。
 すると、フェイトは既に鬼神の一体の顔の前に浮かび上がり、鬼神達に向かって手をかざしていた。


「さて、今から君たちを全ての束縛から解放してあげるよ……その破壊本能にしたがって存分に暴れるといい」


 フェイトがそう呟くと、今まで鬼神達を制御していた頭部の機械が一瞬で破壊され、湖へと落ちていく。
 そして鬼神たちが解放された瞬間、まるで歓喜に打ち震えるかのような咆哮が麻帆良の空に響き渡った。
 

「く……野郎とんでもねえことをしやがった。あの時のスクナほどじゃないとは言え、正直洒落にならんぞ。さすがにあの数相手に京都の時みたく『痛』の文珠はつかえん、俺のほうが先にまいっちまう」


 横島の視線の先には超の束縛から解放された鬼神たちが、思い思いに咆哮を上げながら街の中心部へと向かっていこうとしている。これを放って置けば、大惨事なることは疑いないのだが、かといってここでフェイトをほったらかしにすることも出来ない。
 なにせ、フェイトの目的はタマモなのだ。
 それに意外に思うかもしれないが、実のところタマモの直接の強さそのものはたいしたことは無い。
 力を解放して暴走した時は別格としても、普通に怒り狂った時や突っ込み時などは強さが水増しされるようではあるが、それでも実際のところネギや小太郎と正面きって戦えばむしろ彼らのほうが勝つくらいなのだ。ネギ達がタマモに勝てないのは、ただ単純に思い込みとトラウマによるところが大きいのである。
 とはいえ、直接戦わずに幻術などを駆使し、強烈無比のハンマーを叩き込めばトラウマ等がなくてもネギ達を十分にあしらえるのだが、フェイトを単独で相手にするには正直力不足であった。
 それを理解しているが故に、横島はタマモのそばから放れるわけにはいかない。
 そして、ネギ達もまたタマモのもとに援軍に向かおうとするが、鬼神によって完全に分断されている形となっているため、まず鬼神をどうにかしなければタマモを助けに来る事は不可能であった。

 横島がようやく『飛翔』の文珠を使って刹那から離れ、普段ナンパ以外めったに使わない脳みそフル回転させて事態の打開を考えているころ、当のタマモは傍らにいる刹那と共に目を見開きながら暴走しだした鬼神を見つめていた。
 刹那とタマモ、二人はどういうわけか手から血が出るほど強く拳を握り締め、その目に怒りの感情を浮かべている。


「そう……お前が…全てはお前のやったことだったのね……やっと合点がいったわ」

「あいつが……あいつが本当の私達の仇……」

「刹那ちゃん……タマモ?」


 横島は尋常ではない様子の二人にいぶかしげな表情を浮かべつつ、その肩を叩く。
 しかし、二人はそれに気づいた様子もなく、ただじっとフェイトを睨みつけるだけだ。
 タマモ達はここでようやく気付いたのだ。未来において誰が鬼神を暴走させ、横島を葬ったのかを。

 事実、未来でタマモ達の体験した歴史では学園祭三日目にタマモ達はいなかった。
 それゆえ、タマモを目的とするフェイトは彼女が未来にいるとは知らないまま、タマモをいぶり出すために鬼神を暴走させ、あまつさえそれを防ごうとした横島を殺害したのである。
 今までタマモ達は全ての元凶が超であると思っていた。しかし真犯人は超ではなく、今タマモ達の前で薄気味悪く笑う少年であったと察知したのであった。


「さて、これで邪魔者はいなくなった。まあ、出来ればそこの神鳴流剣士とバカ一人もお引取り願いたい所だけど、そうもいかないだろうね」


 フェイトは鬼神をネギにけしかけ、改めて横島達の下へとやってくると不敵に笑う。


「当然だ! タマモさんには指一本触れさせやしない!」

「つーか、いきなり人をバカ呼ばわりかよ!」


 刹那と横島はそれぞれ夕凪と栄光の手を構え、フェイトの目を見据えたまま油断なく身構える。
 そして二人の緊張が高まり、ネギたちのいるほうから魔法による爆音が聞こえた瞬間、二人は一気にフェイトのもとへと剣閃を閃かせるのだった。






 刹那は自分の前に出て一足先にフェイトと剣を交えようとする横島の背中を見つめながら、未来のように横島を失うわけにはいかないと心に決める。
 未来での歴史では横島のそばに自分はいなかった。しかし、今この瞬間横島のそばに自分はいるのだ。ならば何があっても必ず横島を守り、敵を討ち果たすのみだ。
 そう、タマモと刹那、そして横島の三人がそろえば不可能など何もない。悲劇しか生まない未来など、絶対に変えてみせる。
 刹那は横島の頼もしさすら感じる背中を見つめながら、共に戦場に立てる事で歓喜にうち震えた。
 そして、高揚する気もそのままに横島に次いでフェイトに切りかかろうとした瞬間、それは起こった。


 ――ドン!


 夕凪を振り上げ、今まさにそれを振りおろそうとした瞬間、刹那の胸元に30cm程度の石のようなものが飛び込み、思わず刹那は反射的にそれを受け止める。


 ――ビシャ!


 そして、その石のようようなものを受け止めた瞬間、刹那の目に水のような飛沫が飛び込んで来た。


「え?」


 刹那の目にに飛沫がかかり、光を失った瞬間、彼女の鼻腔になんとも言い難い鉄の匂いが飛び込んでくる。
 その匂いは戦場に立つ者にとって嗅ぎなれた匂い。そして、刹那もまた戦場に立つ者であるが故に、その匂いの正体に即座に思い至った。
 刹那の鼻腔をくすぐる嫌な匂い、それは血臭。戦場で当たり前に嗅いできた血の匂い。
 刹那はその事に思い至ると、慌てて視界を確保するために目をぬぐう。そしてようやく視界を確保した彼女の眼に映ったものは、何故か栄光の手も発動せずにただ右腕を振りかぶった状態で動きを止めた横島の背中と、そんな彼をあざ笑うフェイトであった。


「よ、横島さん?」


 刹那はフェイトへの攻撃も忘れ、様子のおかしい横島に声をかける。
 しかし、横島は返事をすることもなく、ただフェイトのすぐそばの空中で身動き一つせず浮かんでいるだけだ。
 そして、ここに至って刹那はようやく横島の異変に気づいた。


 ――ナニカガオカシイ


 心の中に不安という名の魔物がうごめき始める。
 刹那の視界に映るのは、かつてタマモの心象世界で九尾の怨念から自分たちを守り、身を呈して戦った頼もしい横島の背中。
 その背中と共にあるかぎり、どこにでも行ける。しかし、そんな横島の背中が、今はなぜか小さく見える。
 刹那は不安に駆られながら視線を上にあげると、そこには普段金色に輝いているはずの月が、血のように真っ赤に染まった状態で空に浮かんでいた。
 そして、刹那は同時に気づく。
 真っ赤に染まる月の光の下に、有るべきはずのもの。そう、本来なら横島の背中の上にあるべきはずの物がどこにも無かったことを。
 その事に気づいた刹那は目を見開き、ここでようやく自らが手にした石のようなものに意識を向ける。
 そしてその瞬間、刹那の意識は反転した。


「い、いやぁぁぁー!」


 真っ赤に輝く月、それは横島の首から噴き出す血煙の輝き。
 刹那の腕の中に有るは驚愕の表情を浮かべ、うつろな瞳で刹那を見つめる変わり果てた横島の頭部。
 刹那の悲鳴が麻帆良の空に響き渡る中、まるで噴水の如く血を噴き出していた横島の胴体はぐらりと傾くと、そのまま地上へ向けて落下していく。
 彼女はもはやフェイトなど構うことなく、横島の首を抱えると地上へ落ちていく胴体を追った。
 そして、無残にも地面へ叩きつけられた横島の胴体に駆け寄ると、うつろな瞳で横島の首を胴体にあてがおうとする。


「横島さん……ほら、起きてください……」


 刹那は目の前で見せつけられた横島の死が受け入れられない。
 刹那は未来でタマモと誓った。必ず横島を助け、未来を変えると。しかし、現実はあまりにも過酷で非常だった。
 彼女は自らの手が血に染まるのも構わず、横島の首を胴体にあてがい続ける。しかし、いくらその行動を続けようと横島はすでにこと切れ、蘇るはずもなかった。


「さて、これで残る邪魔者は君だけだね」


 刹那が正体を無くし、ただ茫然としていると、そこにフェイトが現れ、湖の氷を溶かした時のように指を鳴らした。
 すると、フェイトの背後に夜の暗闇よりなお暗い闇が現れ、その中には禍々しく赤く光る眼がいくつも見える。そして、刹那がただ茫然としている間に、闇の中から途切れることなく次々と闇の獣、人の恐怖の根源を煽るおぞましき化物達が姿をした。
 刹那は自からの周囲を化物達に埋め尽くされているのにも気づかず、ただひたすらに横島の物言わぬ骸に語りかけていた。しかし、それも化物の一体が自らの羽根に触れるまでだった。
 刹那の純白の羽根に黒いおぞましき化物が触れた瞬間、戦士としての本能なのか、刹那の壊れかけた心が一時的に修復され、とっさにその場から飛びのきながら夕凪を薙ぐことでその化物を討ち果たす。
 そして、化物を討ち果たした事でようやく刹那は自分が絶体絶命の危機に陥っているということに気がつくのだった。


「さすが神鳴流の剣士、どんなに動揺してもいざとなれば本能で剣をふるう。実に見事だよ……けど、この数相手に勝てるかな?」

「貴様……よくも……よくも!」


 刹那の眼は怒りに染まり、凄まじい殺気を振りまきながらフェイトを睨みつける。だが、そんな刹那に対してフェイトはあくまでも涼しい顔で笑う。そして横たわる横島の枕もとに立つと、薄気味悪い笑みを張りつかせたまま横島の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
 刹那の戦士としての本能はフェイトの行動をただの挑発だと理解し、うかつに動いてはならないと警告を送る。しかし、フェイトの暴挙を見た今、刹那の内にはどうにも冷めやらぬ怒りと激情が太陽の如く激しく燃え盛っていた。


<アイツハ今ナニヲシタ>


 戦士の本能が激しく警鐘を鳴らす。動いてはならない、今は冷静に相手の動きを見極めるべきだと。
 だが、もはや刹那にはそんな声など聞こえてはいない。あるのはただフェイトに対する復讐心のみ。
 暴走する刹那の思いは、彼女とフェイトの間に立ちはだかる化物の姿すら目に入らなくさせる。そして彼女は雄たけびを上げながら翼をはためかせ、一本の槍のごとく化物どもを蹴散らしながら憎きフェイトのもとへと突き進む。ただひたすらフェイトを討つことのみを思いながら。
 しかし、そんな彼女の思いはフェイトの前に立ちはだかる化物によって打ち砕かれることになる。
 いかに刹那が頭抜けた力を持つ剣士とはいえ、しょせん多勢に無勢。仕留めそこなった化物に動きを止められると、やがて刹那は黒き化物の奔流にのみこまれる事になる。
 もはや地面に引きずり降ろされた白烏は、その純白の羽根を無残に引き裂かれた。大地に縫われた白烏に残された運命は、ただ黒の獣に蹂躙されるだけだ。
 刹那は化物の一体に体を拘束され、痛みと悔しさに顔をゆがませながら、それでも気丈に自らを取り囲む化物を睨みつける。しかし、刹那はこの時気づいた。気づいてしまった。自分を取り囲む黒き化物達の眼に光る獣欲を。


「い……いや……助けて、横島さん」


 刹那を十重二十重と囲む黒き化物達。その全てから注がれる獣欲の視線は、今までそういった経験のない刹那の剣士としての心をたやすく折り、彼女は女としての恐怖にその身を震わせる。
 刹那は思わず自らが最も信頼する横島に助けを求めようとするが、そんな刹那の眼に映るのは地面に転がり、うつろな目を向ける横島の首だけだ。
 刹那の心が絶望に染まりゆく中、ついに我慢できなくなったのか、化物達は黒き獣欲を満たさんがために刹那へと一斉に躍りかかった。
 そして、今まさに刹那が欲望の波に囚われ、無垢なる体を蹂躙されようとしたその瞬間、聞こえるはずのない声が刹那の耳に届いた。


「どっせぇぇぇぇーい!」


 今にも絶望の闇に囚われ、身も心も折れようとしていた刹那の耳に聞こえてきた声、それは二度と聞くことがかなわぬはずだった者の声だった。
 その声の主の名前、それはフェイトによって首を討たれた横島忠夫の声。そしてその声を聞いた瞬間、刹那の世界は光で埋め尽くされ、やがて彼女の意識は何か温かいものに包まれるような心地よさとともに沈み込んでいくのだった。








「い、いやぁぁぁー!」

「刹那、しっかりして! 意識をしっかり持つのよ!」


 タマモはフェイトに切りかかろうとした瞬間、突如として暴れだした刹那を必死になって押さえ、なんとか刹那を確保して地上へ降りていた。
 タマモの眼に映る刹那は、強力な幻覚に完全に囚われている。このまま幻覚から覚めなければ、確実に刹那の精神が壊れてしまうだろう。
 それを理解しているがゆえに、タマモは全力で刹那を覚醒させようとするが、どういうわけか幻術を得意とするはずのタマモをしても、刹那の意識を救い出すことができないでいた。
 となれば、残す手段は横島の持つ問答無用の便利なアイテム、文珠しか無いわけなのだが、あいにくと横島もまた刹那と同じように幻覚に囚われ、うつろな目をして何かをブツブツとつぶやくだけだ。
 そんな中、タマモが押さえていた刹那の体がひときわ強く跳ね、今まで以上に暴れだす。そして彼女はまるで何かから逃れるように両手を前に突き出し、目に涙を浮かべながらか細い声で助けを呼んだ。


「い……いや……助けて、横島さん」


 刹那の助けを求めるか細い声、それがタマモの耳に入った時、今ままで何の反応も示さなかった横島の手がピクリと動く。
 そして次の瞬間、ある意味聞きなれた横島の奇怪な声が響き渡るのであった。


「どっせぇぇぇぇーい!」


 横島は奇怪な雄叫びを上げると、彼は右腕を振りかぶってそれを自らの股間へと叩き込む。
 その自殺にも等しい行為の後、当然ながら彼はその全ての活動を停止し、まるで死体のごとく大地に向かって前のめりに崩れ落ちようとしている。
 しかし、横島は大地にキスをする寸前に目覚めると、顔に脂汗を浮かばせ、やや内股ながら即座に刹那の元へと向かい、タマモに代わって刹那を抱きとめると彼女の額に『覚』の文珠を押し当てた。


「よ……横島?」

「くぅ……犠牲はでかかったが、なんとか帰ってこれたぜ」


 タマモは横島の珍妙奇天烈な行動に戸惑いながらも、文珠によって刹那の意識が覚醒した事に安堵を覚える。ただし、同時に自分ですら解除できなかった幻術を自力で打ち破った横島に純粋な驚きを覚えていた。


「横島……さん?」

「お、大丈夫か刹那ちゃん?」

「今の……化物は……横島さんの首が……」

「刹那、あなたがさっきまで見てたのは幻覚よ。もう少しで精神が壊れるところだったけど、ギリギリで横島の文珠が間に合ったわ」

「そ、そうだったんですか……」


 刹那は自分の肩に腕を廻して心配そうな顔をしている横島を静かに見上げる。
 そして刹那は一瞬、ほんの一瞬だけ目を閉じて横島の胸に顔をうずめ、両腕を横島の背中に廻して抱きしめた。
 それは刹那にとって横島が自分の側にいることを確認する一つの儀式。そして、その儀式に費やされたほんのわずかな時で刹那は幻術によって壊れかけた己の心を修復し、改めて敵であるフェイトへと視線を向けた。今度こそ敵の術中にはまるわけには行かないと言う覚悟と共に。


「へえ……僕の幻術自力で打ち破るなんて……スクナの時の妙な力といい、やはり君は油断ならないようだね。というかどうやって抜け出したんだい?」


 一方、フェイトは自らの幻術を打ち破られたのにもかかわらず、焦りを示すどころか相変わらず余裕の表情を崩さない。
 むしろ自力で幻術を打ち破った事を称賛し、その手段に対して好奇心すら除かせている。
 横島はそんなフェイトに対して珍しく心の底からの怒りを目に浮かばせ、栄光手を右手に纏わせながら叫んだ。


「やかましい! 俺のナンパが成功しまくって、あまつさえ女の子にモテてるなんてことは物理的にありえないんじゃー!」

「あー……うん、なんとなくあんたが見てた幻覚の内容が理解できたわ。けど…・・・自分で言ってて悲しくない?」

「言うな、頼むから言わんでくれ」

「い、一応現実は見えてたんですね……」


 横島は血涙を流しながら、実は結構身の程を知っていた事をカミングアウトする。
 この時、刹那とタマモはそこまで身の程を知っているなら無駄なナンパなんかしなきゃいいのにと考えてしまう。だが、それと同時に適わぬ夢を追い求めないようでは横島ではないと妙に納得してしまっていた。
 そんな風に刹那とタマモが珍しく横島のナンパに対して生暖かい理解を示しているころ、フェイトは横島を不思議な生き物でも見るかのように首をかしげていた。


「おかしいな、ヘルマンから君は責苦を与えるとむしろ喜びそうだから、快楽の方で落としたほうが効率が良いって報告を受けていたけど……少し情報を改める必要があるかな?」

「ちょっと待て! なんだその責苦を与えると喜ぶというのは!」  

「え、違ったの?」

「OKタマモ……お前とは事が終わったらとことん話す必要があるようだな」

「というか、本当によく自力で帰って来れましたね……」

「んなもん、幻覚と分かってれば幻の女と現実の女とで比べ物になるか! しかも俺の側には大事なパートナーがいるんだ、現実に帰ってこなくてどうする!」

「……だから、こんな状況でナチュラルにそういう発言をするな!」

「……実は横島さん、ナンパの手口が上達したらものすごい女たらしになるのでは?」


 刹那とタマモは横島の惚気同然とも言える発言に思わず顔を赤らめるが、それでも即座に緊張感を取り戻すとフェイトを睨みつけた。
 すると、横島もまたおちゃらけた空気を振り払い、フェイトへと対峙する。
 タマモ達三人は改めてフェイトと対峙し、どうやってフェイトを無力化するか思案に暮れる。しかし、京都の時点ですでに自分達を圧倒していたのに加え、今は明らかにそれ以上のパワーアップをしている。
 正直、まともにぶつかっても勝ち目は無い。それゆえにタマモは最初のうちに問答無用で自分達のペースに引き込んで滅殺しようとしたのだが、それも失敗した以上八方塞に近い。
 それに、タマモはどうにもフェイトに対して何か言い知れない違和感を感じていた。
 フェイトの強さそのもは確かに脅威だ。しかも、それだけではなくタマモの妖狐としての勘が先ほどから警鐘を鳴らしていた。
 一方、フェイトは余裕を見せ付けるためなのか、横島達のやりとりを黙って見ていたが、横島達が準備を整えたと見るや次なる一手を刺す。


「さてと、どうやら幻術は破られてしまったようだし……じゃあ、次はこれでいこうか。僕もどこまで威力があるか把握して無いけど、まさかこれぐらいで死なないよね?」


 フェイトは口元に白く小さな指をあてがうと、静かに息を吹き込む。
 すると、そこからまるで太陽と見まごうばかりの膨大な熱量を宿した火球が出現する。そして、それを見た横島達は例外なく驚愕の声を上げた。
 

「これは……」

「待て、狐火だと!?」

「何よ……これはいったいどういうことよ!」


 刹那はフェイトの出した火球の膨大な熱量に驚愕する。しかし、タマモと横島はそれとは違った意味で驚愕の表情を浮かべていた。
 今、目の前でフェイトが展開した火球は紛れもなく狐火である。それは狐火を得意とするタマモと、それを幾度となくその身で喰らい続けた横島にとっていともたやすく見抜ける事実。
 そして、フェイトが狐火を使うということは彼が妖狐であることの証でもある。
 しかし、少なくともタマモは彼が妖狐であるはずが無い事を確信していた。
 事実、京都で対戦した時点では彼は強力な西洋魔法使い以外何者でもなかたはずだ。だというのに、今フェイトはタマモ達の目の前で狐火を使っている。
 これは明らかにおかしかった。
 タマモは言い知れぬ胸騒ぎと、正体の分からない寒気に思わず傍らにいる横島のシャツを握り締める。


「ふふ、驚いているようだね。僕がこの火を操る事がそんなに意外かい?」
 
「なぜ……なぜお前が……妖狐でもないお前が狐火を使えるのよ!」


 タマモは言い知れぬ寒気に耐えながら、フェイトに対して問い詰める。
 するとフェイトは無言でズボンのポケットに手を入れ、何かを掴むとそれを横島へ向けて放り投げた。


「なんだこれ……石?」


 横島は反射的にフェイトが投げた物を受取ると、それをじっくりと観察する。しかし、それはその辺の道端に落ちている石ころ西か見えない。そして、それは刹那も同じだ。
 だがこの三人の中で唯一、タマモだけがその石の正体を看破したのだった。


「これは……殺生石! まさかお前は!?」

「そのとおり、これは殺生石のかけら。君と同じ、九尾の狐が封じ込まれていたはずのものさ」


 フェイトが横島に投げてよこしたなんの変哲も無い石、それはタマモの前世である玉藻前が封じ込められていた殺生石の欠片だった。だが、その殺生石の欠片からはなんの神秘性も霊力も感じられない。
 本来殺生石にあるべき霊力がなくなっている。これはある一つの事を示している。そう、それは殺生石に封じられたこの世界の九尾の狐が復活したということだ。
 そして今、タマモは先ほどから感じていた違和感の正体に気付いた。
 フェイトの放つ狐火、抜け殻となった殺生石、あわや刹那を追い詰めた幻術、そして極めつけとして麻帆良祭をこれでもかとばかりに遊びつくした所業、その全てがある一つの答えをタマモに告げる。
 そして、タマモがその答えにたどり着いたのを見計らったかのように、フェイトはニヤリと笑うとタマモに絶望を突きつけたのだった。


「そう、復活した九尾の狐の力は僕が貰い受けた。つまり、僕は九尾の狐を食べたんだよ……伝説に謳われた最強の妖怪、白面金毛九尾の狐をね」


 タマモの目の前で薄気味悪く笑うフェイト。


 ――彼はすでにタマモを


 ――生まれる前に


 ――殺していた。










「ネギ君、こっちの鬼神は僕達で押さえておく、君たちは一体ずつ格個撃破するんだ!」


 タマモ達がフェイトと対峙しているころ、分断されたネギ達はガンドルフィーニの指揮のもと鬼神と戦っていた。
 しかし、超の束縛から解放された鬼神は強く、ガンドルフィーニ達でも動きを止めるのが精一杯である。それ故に彼らはタマモ達との合流を一時あきらめ、鬼神を抑えることに全精力を注ぐことにしたのであるが――


「よっしゃネギ、そのまま押さえとかんかい! 行くで、ウルトラスーパーバーニングファイヤーネギ焼きミサイルー!」

「ちょ、小太郎君ひど……うぎゃぁぁー!」

「くぅ、防御が間に合わない! そうだ、小太郎君プリーズ!」

「だからプリーズってなんや……ぎえぇぇぇー!」


 ――なんだかちびっこ二人がとってもカオスな空間を作り出し、何気に互角以上の勝負を繰り広げていた。
 なにしろ、お子様組は鬼神に攻撃されれば隙を見て互いを盾にし、攻撃のチャンスあらば味方の――ネギ、小太郎限定――犠牲も顧みずに攻撃をたたきこむなど、実にやりたい放題に暴れているのだ。
 そのカオスぶりは下手をすれば横島達が本気でおちゃらけた状態を上回るかもしれないほどだ。


「ガンドルフィーニ先生、こういうのって何気にいいコンビって言うんですかね?」

「一応なんだかんだ喧嘩しながら互角に、いや、むしろ圧倒しているぐらいだからね」

「はっはっは、やはり子供は喧嘩するくらいがちょうどいいよ。僕も娘だけじゃなくてあんな元気な息子が欲しかったな」

「いや明石教授、あれは元気とかそういうレベルを超えていると思いますよ。というか、なんであれだけ攻撃食らってるのに無傷なんですか?」


 ガンドルフィーニ達が三体の鬼神を必死こいて押さえている間に、ネギ達はすでに2体もの鬼神を葬っている。
 戦果そのもを見れば、実にたいしたものなのだが、その戦い様は素直に褒める事は出来ない。
 もっとも、あと百年ぐらいすれば、この情けなくもお間抜け臭い戦いも『新世代の英雄とそのライバル』といった感じで伝説になるのかもしれない。
 必死に頑張るガンドルフィーニ達を他所に、すでに完璧においていかれた風のあるアスナ達はそんな事を思いながら、上空で壮絶な自他犠牲溢れる戦いを繰り広げるネギ達を呆れたように見つめていた。
 ちなみに、現在ネギと小太郎の座右の銘は『死なば諸共』、『一蓮托生』であるとだけ言っておこう。
 さらに余談だが、好きな言葉は『生きてるってそれだけで幸せ』『死んで花実が咲くものか』だったりする。彼らの普段の生活が忍ばれる重い、あまりにも重すぎる言葉である。


「ねえ、ひょっとしてあたし達っていらない子?」

「というか、さすがにあの戦いに割って入るのはあまりにも危険でござる」

「なんというか、うかつに割り込もうものなら、鬼神ごと葬り去られかねませんわ」


 アスナ、楓、高音といった面々はなんとも壮絶な戦いを繰り広げる二人を見上げながら盛大なため息をつきつつ、後日ネギの戦い方について師匠たるエヴァを問い詰める事を心に決める。
 こうしてまた一つエヴァの心労が増す事象が積み上げられる事になるのだが、それはもはやネギを弟子にした時点で運が悪かったと思って諦めてもらうしかない。
 ともあれ、アスナ達はすっかり観戦モードに移行して寛ぎの様相を見せたころ、鬼神によって分断されたタマモ達のいる方角から凄まじい光と爆音が轟き、アスナ達は一斉に真面目モードに移行してその方角を見つめる。


「ちょ、今のは何ですか!?」

「よく分からないけど、なにか凄まじい魔力を感じます! これはただ事じゃありません!」

「これは……早く私達も援護に行かないとまずいんじゃ」

「でもどうやって? まだ鬼神は4対も残ってますのよ」


 アスナ達は突然の事態に早くタマモ達の援護をしなければと焦るが、あいにくと鬼神とネギ達が大暴れしている状態ではとても無理だろうと思われた。
 しかし、彼女達は忘れていた。ほぼなし崩し的な状態ではあるが、麻帆良の誇る二人の天才が見方についていることを。


「ふふふふ、こんな時こそ私達の出番ですね」

「そうね、まさに今こそ科学者の本懐をなすべき時ネ。それにどうやら私の濡れ衣の真犯人はあの小坊主……私の計画を台無しにしてくれた報い、存分に受けてもらうヨ……」

「ちょ、ハカセ? 超さん?」


 二人のマッドサイエンティストは不気味な笑みを顔に貼り付け、おもむろに前に出た。特に超はフェイトが横島殺害の真犯人であると看破したため、その怨念がすさまじいことになっている。


「うふふふ、こんな事もあろうかと」

「そう、こんな事もあろうかと!」


 二人は科学者としていつか言ってみたい言葉の上位にランクインされるセリフを感涙と共にのたまいながら、懐から取り出したリモコンのスイッチを押す。
 すると次の瞬間、地鳴りと共に今までアスナ達の目の前の地面が割れ、そこから強大な大砲が姿を現したのだった。


「祝砲代わりの対宙レールガンを配置しておいたんです!」

「しかも二門もネ!」

「ちょっと待ちなさい! 何よこれはー!」


 アスナ達の前にはなにやら嬉々として未来科学の結晶を説明するマッドが二人。
 そのあまりの突き抜けぶりに思わず呆然としていたアスナであったが、すぐに気を取り直すと持ち前の突っ込み属性をフルに生かして超達に突っ込んだ。
 しかし、それに対しての答えはただひたすらに冷静な物であった。


「本当はことが成功した暁に、祝砲としてこれで花火を打ち上げる予定だったネ」

「まあ、私達の計画は失敗しましたが、このレールガンを使えば十分にタマモさんの援護も可能ですよ」

「これでタマモちゃんの援護って……もしかしてこれで直接狙うの?」

「それは無理ネ、あのフェイトとかいう小坊主の力は尋常じゃないヨ。たぶん直接弾丸を撃ち込んでも途中にある障壁で防がれるだけネ」

「じゃあ、いったいこれで何を……」

「なに、直接攻撃がダメなら、これで援軍を送ればいいだけのことヨ」

「……援軍?」


 アスナは超の説明の意味が分からず、一瞬ハテナマークを浮かべるが、ふと超の視線を追いかけた時、その悪魔的計画の全貌理解したのであった。




「なんですかこれはー!」

「なんんやこれは、とっとと出さんかーい!」


 なにやらものごっつい鉄の砲身の中から、どこかで聞いた事のある少年の叫び声が聞こえてくる。しかし、アスナはその声に対して一言ゴメンと呟きながら黙殺する。
 あれから超から計画の全貌を聞かされた後、アスナ達はネギと小太郎が3体目の鬼神を倒したところでネギ達を捕獲し、高音の影でネギ達を拘束して身動きできなくすると、そのまま二人を二門の対宙レールガンの砲身に放り込んだのだ。
 ちなみに超の計画は、このレールガンを使用して内容物を衛星軌道まで打ち上げ、そこから自由落下させることによってフェイトの障壁を物理的に飛び越えるという計画である。
 なにしろフェイトの強大な障壁はハカセの持つセンサーによって計測したところ、かなりの上空まで存在しているため、単純な弾道起動でそれを超えようとすれば数キロ単位でタマモ達の頭上を飛び越えて行き過ぎる事になるのだ。ならば、逆転の発想とばかりに超とハカセは衛星軌道まで打ち上げ、地球を高速で周回させる事によって正確に弾着を計ろうとしたのであった。
 ちなみに、この計画に耐えられるのは何をどう考えてもネギと小太郎のみであるため、問答無用で人間大砲の弾丸となっている。


「ほんとうにいいのかな、これで……」

「他に手段は無いネ。それに、ネギ坊主と小太郎を向こうに送った後、残りの三体は私達が倒さなければならないネ。今はそっちのほうが心配ヨ」

「そうか……そうよね。どうせネギ達も慣れてるし大丈夫か」

「いや、そこは体をはってでも止めてくださいよアスナさん!」

「せやで、いくら慣れとる言うても、苦しいもんは苦しいんや! というか、何で俺ってこんなんばっかなんやー!」


 アスナ達はネギと小太郎の絶叫を涙を飲んで黙殺しながら、発射準備を整える。そして、ついにその魔弾が放たれる時が来た。


「それでは、「対宙レールガン『タスラム』発射シークェンスに入ります、秒読み10……9……8……7……」

「いやだー帰るー! 僕もうウェールズのお家帰るー!」

「あはははは、もうヤケクソや! こうなったらフェイトのガキにこのフラストレーションの全てをぶつけてやる!」


 ハカセの冷静な声で秒読みが始まる中、ネギは砲身の中で暴れ、小太郎は全てを諦めてフェイトと戦うことを決意する。
 そして正確に10秒後、ついに彼等はその身を猛速で宇宙へと躍らせる事になった。


「3……2……1」

「発射!」

「たーまやー!」

「「いやぁぁぁぁぁー!」」


 麻帆良の夜空にネギと小太郎の絶叫が響き渡る。
 アスナ達はそんなネギ達に武運長久を祈りながら、星空となって消えた二人に敬礼を送るのであった。












「だぁぁっ! なんつー火力だ、正直洒落にならん!」

「ふうん、これを防ぐか……だったらもう少し力を込めてもよかったかな?」


 ネギ達が天に召される少し前、横島はフェイトが放った狐火を文珠によってかろうじて防いでいた。だが、フェイトの仕草を見るに彼はまだ余裕を残しており、これ以上出力を上げられたらとてもではないが防げる物ではない。
 それがよくわかるだけに、横島は戦慄の汗を浮かべながら何とか事態の打開図るべく一発逆転のアイディアを模索する。しかし、相手はこの世界のタマモ、九尾の狐を取り込んで問答無用のパワーアップをしているのだ、同期合体でもしない限り勝ち目は無いだろう。
 とはいえ、同期合体は行えない。なにしろ、タマモはまがりなりにも九尾の狐なのだ。その大半が眠っているとは言え純然たる霊力は横島の及ぶものではない。そして、刹那に関してはそもそも霊力が使えないために問題外であった。
 そんな風に横島が今にも知恵熱を吹き出しそうなほど脳みそをフル回転させているころ、当のタマモはショックのせいか呆然としたまま刹那に支えられてかろうじて立っていた。
 しかし、すぐ気を取り直すとフェイトをキッと睨みつけた。
 

「なんで……なんでそんな事を……あの子はただ静かに眠っていただけなのに!」

「なんでと問われても困るんだけどね。正直、白面金毛を取り込んだのは怪我の功名さ」

「どういうこと?」

「最初は君への復讐から、九尾の狐の事を調べていただけだった。なにしろ、君はこの僕にこれだけの傷を負わせたんだ、相応の報いを受けてもらうためにも、まずは九尾の狐を研究したのさ」


 フェイトは自らの絶対的優位を確信しているが故か、それとも取り込んだこの世界のタマモの性格に影響されているからか、以前のように無表情な少年ではなく、喜悦に顔を歪ませながらタマモに語る。
 タマモが万全の状態なら、この間に一発大逆転の罠を仕込むのだが、あいにくとショックが大きすぎてそこまで頭が回らず、ただじっとフェイトの語りを聞くだけだ。


「そして、いくつかの文献や情報を調べているうちに奇妙な事に気がついてね……」

「奇妙?」

「そう、奇妙だ。最初、僕は君が白面金毛だと思っていたんだが、肝心の封印が解かれたという情報はどこにもなかったんだよ。だから僕はヘルマンを派遣し、封印の調査と君の捕獲を命じた。まあ、捕獲については可能ならばといった程度でしかなかったけどね」

「で、どんな調査結果だったの? まあ、答えは分かってるけど」

「そうだよ、察しの通り封印は解かれていなかった。そして伝承にある九尾の狐の力を考えるに、君はまだ生まれたての九尾の狐であり、潜在力はあるようだけどまだ力を自在に使えないというこということが分かったんだ。そしてそれを理解した瞬間、僕は狂喜したよ……スクナの時は君達の妨害で失敗したけど、封印された白面ともども君の力を取り込めば今度こそ無敵の力を得る事が出来る、この旧世界も新世界も全てを変える無敵の力を!」

「そんな事のためにまだ眠っていた私を……まだ何も知らない私を殺したって言うの!?」



 タマモは怒りを露に、今にも飛び出さんばかりの勢いでフェイトに向かおうとする。刹那はそんなタマモを必死に押さえ、今にも暴走しかねないタマモをなだめていた。
 しかし、刹那もまたその身にタマモに匹敵する、いやひょっとしたらそれ以上の怒りを秘めていた。
 なにしろ、この目の前の少年はこの世界のタマモを殺し、その力を取り込んだのだ。それもまだ封印から解かれたばかりで、お揚げの味も、そして恋すら何も知らない無垢なタマモを。その怒りは筆舌にしがたい物があることだろう。
 かといって九尾の狐の力を手に入れたフェイトを相手に、真っ向から挑んでも無謀なだけだ。下手をすれば、タマモを奪われる可能性もある。それが分かるだけに刹那は静かに、ただ冷静に戦局を見つめる。ただし、その内なる炎は鉄をも溶かす勢いで燃え盛っていた。
 その一方で、タマモが異世界からやって来た白面金毛九尾の狐であることを知らないフェイトはタマモの発言に小首を傾げるが、特にそれに注意を払うことなく、ただ怒りに燃えるタマモを見つめている。
 おそらく、今のフェイトの心境は同じ九尾の狐であるタマモを相手に自らの力をためす事と、もう一人の九尾であるタマモを取り込むことでどれだけパワーアップできるかということに重きを置いているようであり、そのため些細なことを気にしなくなっているのだろう。


「さて、これでなぜ僕が君を狙い、九尾を取り込んだか理解してくれたかな? というわけで、君達には僕の心行くまで相手をしてもらうよ……なにしろ、九尾を取り込んでからまともに戦うのは初めてなんだ。今の僕がどの程度の力を持っているか知りたいしね……せいぜい楽しませてくれるかな」

「んなろ! させるかー!」


 横島はタマモに向かって一瞬で間合いを詰めてきたフェイトに対し、栄光の手を最大出力でたたきつける。しかし、その攻撃はフェイトが回りに張り巡らせた防御結界に阻まれ、むなしく魔力の火花を散らすだけに終わった。
 しかし、その攻撃でフェイトの動きが止まったことも事実だ。そのチャンスを逃すほど刹那もタマモも甘くは無い。
 二人は横島の影となってフェイトの死角に入り、左右からいっきに躍り出てフェイトに対して夕凪とハンマーを叩き込んだ。だが、その攻撃さえもフェイトに通じることはなかった。
 二人の攻撃は横島と同じように障壁に阻まれ、フェイトの体に届くことは無かった。
 その事実に驚愕する3人対し、フェイトはいっきに力を解放してその衝撃波のみで横島達を吹き飛ばしたのだった。


「ぐ、ぐぅ……」

「おい、二人とも大丈夫か?」

「大丈夫よ……刹那は?」

「私も、大丈夫です……けど、改めてとんでもない強さです。正直勝ち目なんか見えません」


 三人は幸いにも砂地に吹き飛ばされたため、たいしたケガを負う事もなく立ち上がる。だが、正直立ち上がったところでフェイトを相手に勝てるかどうか疑問だ。
 横島としては、一つだけ勝ち目の見える策があるのだが、あの障壁が邪魔をして実行できそうも無い。ここにアスナがいれば、彼女の魔法無効化能力を使って障壁をどうにかできるのだが、あいにくと彼女は鬼神と戦うので精一杯だ。
 となれば、残された手段はあの強力な障壁を問答無用でぶち抜けるだけの強力な攻撃を叩き込むしかない。
 横島はそこまで考えたところで、その視線をタマモと刹那に向けた。


「一つ……策がある」

「それはなんなの? 今なら脱げといわれても脱いだげるわよ」

「それはそれで魅力的……もとい、なら聞くがタマモ、お前今なら何トンまでいける?」

「ハンマーのこと? 今ならたぶんテラ単位までいけるわよ……何が何でもアイツをぶちのめしてやる」

「それならいけるかもな。そこに刹那ちゃんの最大攻撃も加えたら、いくらアイツでも障壁ぐらいは突破できるだろう」

「なにかいい手があるんですか?」

「ああ、一発大逆転の必殺技がな。けど、そのためにはあの障壁をどうにかしなきゃならん」

「その障壁を私と刹那の攻撃で破るってわけね」

「そういうことだ。正直、俺よりも二人の攻撃のほうがよっぽど強いからな」

「でも……そのためにはまず相手の動きを止めないといけません。私もタマモさんもどうしても奥義発動のタメがいりますし、避けられたら終わりです」

「なに、それについては大丈夫だ。あの野郎の動きは……俺が止める」

「横島さん!?」


 横島は不安そうな表情を見せる刹那に対し、安心させるように笑った後、フェイトを睨みつけながら表情を引き締めた。
 刹那は普段なかなか見ることの出来ない横島の真面目な表情に、こんな時だというのに思わず見惚れてしまう。一方でそんな刹那とは対照的に、タマモのほうは何か悪い物でも食べたんじゃないかと心配してたりするのだが、そこはさすがに空気を読んだのか発言を控えたようだ。
 横島はそんな二人を守るように前に出ると、再び栄光の手を発現させた。
 フェイトはそんな横島に対し、あざける様に笑う。


「いっぱしのナイト気取りかい? 君はどちらかというと道化の方が似合ってると思うけどね」

「否定はせんがな……けど、やせ我慢してでも男はナイトにならないといけない時があるって、昔学んだんでな……それが今ってわけだ」

「へえ……それは素晴らしい決意だ。けど、道化は何をやっても道化にすぎないことを教えてあげるよ」

「俺を舐めるなよ……これでも俺はお前以上の敵を相手に生き残ってきたんだ、ゴキブリのごとくのしぶとさを味あわせてやる!」

「じゃあ、せいぜい期待させてもらうよ……来るがいい!」


 フェイトは横島の気迫にただならない物を感じたのか、ここに来て初めて構えのような物を取る。
 そしてその瞬間、横島はいっきにフェイトに向かってもはや戦闘時の定番と化した『ゴキブリ歩法』で詰め寄った。
 フェイトは特に油断していたわけではないが、両足を地面につけたまま疾走するという非常識な歩法に思わず気を取られ、一瞬横島への対応を遅らせてしまう。そして、その一瞬のタイムラグこそ、横島の狙ったものだった。
 横島はフェイトへと接近するさい、気づかれぬように懐に手を入れ、あるものを取り出す。そしてそれをしっかりと手に握り、大きく振りかぶるとそれを力いっぱい投げつけたのだった。


「そーれ取ってこーい!」


 横島が気の抜ける声で遠投した謎の物体、それはナンパ時にタマモを撒くために持ち歩いていた秘蔵のお揚げである。そのお揚げは最高の大豆と水を使い、匠の技で作り上げられた至高の一品。
 お揚げのプロである妖狐にとって、それを追い求めるはまさに当然であり、これを追わぬようでは妖狐では無い。いや、むしろこのお揚げからは妖狐を引き付けてやまない魔力すら感じる。
 それほどの一品を横島は空中へ放り投げ、九尾を取り込んだフェイトの動向を追う。そしてフェイトは――
 

「ああ、しまったー!」

「だーっはっはっは! 俺が道化にしかなれないってことは百も承知じゃ! その道化なりの戦い方、存分に味あわせてやるぜー!」


 ――取り込んだ九尾の狐の本能ゆえに、しっかりとお揚げに向かって空中に飛び上がり、狐のようにそれを口でキャッチしていたのだった。
 横島としては、この賭けは正直五分五分だったのだが、麻帆良祭を遊びつくしたりと微妙にタマモと同じ嗜好が表に出ているフェイトに対してやってみる価値はあると判断し、その賭けに勝ったのである。それだけに横島の喜びは大きい。そして今やフェイトは完全に無防備な姿を晒している。今こそ攻撃のチャンスであった。


「……ハッ!」

「刹那、今よ!」


 刹那はそのあまりの間抜けな光景に思わず呆然としていたが、冷静に戦局を見つめていたタマモは刹那を促して今こそ時が来たとばかりに走る。ちなみに、タマモはハンマーを握る手が青くなるほど握り締めていたのだが、それは実は自分もお揚げに飛びつきそうになるのを必死に抑えていたからだったりする。
 ともあれ、彼女達は空中で身動きの取れないフェイトに対し、神速でもって近付き、お互いの必殺の一撃を叩き込む。そこに一切の躊躇も手加減もなかった。


「神鳴流奥義、雷皇剣!」

「くらいなさい、必殺の100Ttハンマー!」

「く……舐めるなー!」


 二人の人知を超えた超えた攻撃と、一瞬とは言え気が抜けてしまったために弱まったフェイトの障壁がせめぎあう。
 刹那は自身の最大の気を剣に込め、もはやこの後に倒れてもかまわぬとばかりに力を放出する。
 タマモはこの世界の白面金毛、生まれ出でることさえ適わなかったもう一人の自分の無念を晴らすため、刹那と同じように全ての力を叩き込んだ。
 そしてタマモ達二人とフェイトの力が最高潮に達した時、彼女達の視界は凄まじい爆音とともに光に覆われたのだった。


「キャっ!」


 タマモと刹那の二人は突然の爆風に吹き飛ばされ、地面に激突して悲鳴を上げた。
 しかし、地面に激突する瞬間に横島が『柔』の文珠を着地点に放り投げたので彼女達にケガは無い。
 そして、横島は彼女達が起き上がるのも待たずにフェイトへと向かう。
 あれほどの力がぶつかったのだ、いかにフェイトの障壁が強力であろうと、今その障壁は消滅したはずだ。しかし、時を置けばまた障壁を張られてしまう。そうなっては完全に勝ち目が無い。
 それを理解しているが故に、横島はタマモ達にかまわずフェイトがいたはずの場所に向かう。そして煙で視界が悪い中、明らかにフェイトであると思われる影を見つけた瞬間、横島はその手に文珠を出現させ、それを影に向かって叩きつけたのだった。
 しかし――


「い、今のは危なかった……本当にもう少しで障壁が破られるところだったよ」

 
 ――煙が晴れ、横島の目の前に現れたのは当初の半分以下に弱まりながらも、障壁を張り巡らせたままのフェイトが薄気味悪く笑っていた。
 横島の賭けは最後の最後になって負けたのであった。


「ふう、ビックリしたよ。あんなバカなことで僕の気を抜かせ、その瞬間に攻撃して僕の障壁を破る……でも、その珠で何をしようとしたのか知らないけど、障壁が破れなかった以上、君達の負けだね」

「ぐ……」

「おっと、君は逃がさないよ。どうも君をほうっておくと危険だからね、ここで退場してもらう」


 フェイトは悔しさに顔をゆがめる横島に対し、まるで虫けらでも殺すかのように何の感動も見せないままその手を向ける。
 そして、フェイトが自らの小さな手に収束した魔力光を放とうとした瞬間、一つの奇跡がおこった。


「「いやぁぁぁぁぁぁぁー!」」


 フェイトが攻撃しようとした瞬間、彼の耳に天空から何者かの悲鳴が轟音と共に聞こえてきたのだ。フェイトは思わず攻撃を中断し、空を見上げる。
 すると、天空から真っ赤に燃え盛るネギと小太郎が連なって自分に向けて落下しようとしているではないか。
 そして、その事に気づいた時はすでになにもかも遅かった。ネギ達の落下スピードは凄まじく、もはや避ける暇など無い。
 故にフェイトは横島を放り出して弱まった障壁を補強してそれに対応しようとする。しかし、それすらも間に合うタイミングではなかった。
  

「ネギ・スプリングフィールド、何故お前がここにいるー!」


 フェイトが絶叫した瞬間、ネギと小太郎はついにフェイトの障壁と激突した。
 レールガンで天空高く打ち上げられ、衛星軌道上でどこかの国の攻撃衛星をいくつも破壊しながら落下していくネギと小太郎。
 この二人の落下エネルギーは先ほどのタマモ達の攻撃すら上回り、フェイトの障壁に軋みを上げさせていく。そしてしばしの均衡状態の後、ついに耐えかねたかのようにあれほど堅牢だったフェイトの障壁が消滅した。
 横島は障壁が消えたと見るや敢然と立ち上がり、障壁が消えたことで呆然としているフェイトに近付くと再び文珠を手にするとそれをたたきつけるのであった。


「よくやった小太郎、それにネギ。さあこのクソガキ、これで俺とお前は互角だー!」


 横島が使用した文珠、それはかつてアシュタロスとの戦いの時に使用した『模』の文珠。
 その効能は相手の状態を完全にトレースし、その全ての能力を手にした上に思考まで読める究極の反則技だ。しかし、その反面決定的な弱点もある。
 相手の状態を完全にトレースすると言う反則技、一見どんな戦力差も埋める妙策に見えるのだが、相手の状態をトレースすると言う事は、相手にダメージを与えればそれが全て自分に帰ってくるということでもある。
 つまり、早い話が相手の攻撃は自分のダメージで、自分の攻撃は双方のダメージとなるのである。これでは負けないどころか、必敗確定だ。
 アシュタロスの時は幸いにもその後相手の思考を読むことで逃亡することが出来たのだが、はっきり言って今の状態で逃げてもなんの意味も無い。
 その事実に気づかぬほど横島はバカではないはずなのだが、それでも横島は起死回生の一手として『模』の文珠を使ったのだ。
 となれば、その答えは一つしかない。
 タマモは美神から『模』の文珠の効果をあくまでも失敗談としての笑い話ながら聞いていたため、横島の声を聴いた瞬間、彼が何を考えているのか察知したのである。
 タマモが察知した横島の秘策、それは相手のダメージのフィードバックによる自爆覚悟の特攻攻撃であった。


「タマモさん、横島さんはいったい何を?」

「横島は死ぬ気よ……早くアイツを止めないと!」

「そ、そんな……」


 タマモと刹那は先ほどの攻防でほぼ全ての力を使い果たしたために、満足に立ち上がることも出来ない。しかし、それでも彼女達は横島を助けるために動かぬ体に鞭打って立ち上がる。
 そしてやっとの思いで立ち上がるころ、ネギ達の激突による煙も晴れ、彼女達の視界に横島の姿が入ってくる。
 しかし、その姿はどこかがおかしかった。
 二人の眼の前には、何故か横島が二人いたのだった。


「こ、これは……」


 フェイトは驚愕の表情を浮かべながら自らの体を見る。
 その彼の瞳に写るのは、今までの学生服を着た少年の体ではなく、ジーンズにラフなカジュアルシャツといった目の前にいる横島と同じような格好をした姿だ。しかも、手の大きさや視線の高さから考えるに身長も横島と同じようになっている。
 今、フェイトの姿は横島の胴体に首から上がフェイトのままという、実に面白おかしい状態になっていたのだった。


「ふはははは! 驚いたか、前回は相手をトレースしたからおかしな事になったが、何のことはない、俺に合わせれば結果は同じ、しかも俺にとってデメリット無しだ! これぞ逆転の発想のまた再逆転ってやつだ!」


 横島の起死回生の策、それは『模』の文珠を使用した相手のトレースではなく、相手に自分をトレースさせることであった。
 かつて横島は強い相手に勝つために自らも強くなる必要があると考え、自分に対して文珠を使用して相手の力を手に入れて互角の勝負をしようとした。
 しかし、今回の横島は前回の失敗の教訓を存分に生かし、自分が強くなるのではなく、相手を自分の強さまで成り下がらせることによって戦力を互角に持ち込もうとしたのだ。
 しかも、この場合相手に横島をトレースさせるため、『模』の文珠の唯一の欠点であったダメージのフィードバックも無いという完璧な作戦だ。まさに逆転の発想ここに極まれりである。


「さあて、貴様よくもタマモを殺してくれたな……」


 横島はベキベキとどっかの世紀末救世主のように指を鳴らしながら、実にいい笑顔を浮かべながらフェイトににじりよる。


「さて、私と横島を殺した報い、しっかりと受けてもらいましょうか……」

「横島さんの姿をいたぶるのは心苦しいですが、タマモさんと横島さんの無念、その身で受けてもらいます」


 横島に続き、立ち上がったタマモと刹那は今までの疲れが嘘のように元気いっぱい得物を構る。
 彼女達にとって、お仕置きは女性にとってのケーキと同じで別腹なのか、疲れの欠片すら見せない。


「うふふふふふふ……結局僕ってこうなるんだよね、それもこれも全部……でも、相手が君なら横島さんをいたぶる事にはならないから、タマモさん達からの報復も無い。今こそ存分に僕のストレス、君にはきだしちゃっていいよね? よね?」

「あはははは……なんかよーわからんけど兄ちゃんの仇、そして俺のどーにもならんこのフラストレーション、存分に味わうとええで」


 そして、最後の真打とばかりにネギと小太郎がボロボロになりながらも立ち上がると、暗い、実に暗い笑みを浮かべながらフェイトににじり寄った。
 これにより、フェイトを中心に横島、タマモ&刹那、ネギ&小太郎と三角形を形成し、未だに事態を把握できずに呆然としているフェイトを包囲する。
 もっとも、フェイトにしてみれば何か得体の知れない珠をぶつけられた瞬間、あれほど溢れていた力が消えたのだ、そのショックで呆然とするのも無理も無いことであろう。
 しかし、今にも横島達が総攻撃をかける直前に彼はかろうじて自分を取り戻した。


「なんだこのデタラメはー!」

「「「「「問答無用ー!」」」」」


 フェイトが魂の叫びを上げた瞬間、横島達は一斉にフェイトへ躍りかかる。しかし、フェイトとてここで負けるわけにはいかない。
 ましてや、この体は横島忠夫と同じ能力を持っているのだ。その回避力は凄まじいものがある。
 フェイトは戸惑いながらも横島の体を駆使し、存外に扱いやすい体に感嘆しながらも攻撃を回避していく。
 しかし、いくら回避しようと攻撃手段が無ければいつか捕まる事は必定なのだが、あいにくとフェイトにとって使い慣れた魔力がこの体にはあまり無い。それでいて、魔力ではないなんだかよく分からない力に溢れているのだ。
 フェイトはなんとかその力を引き出すべく、必死にタマモ達の攻撃を避けながら脳内を検索していくと、ふと彼の頭にまるで最初からあったかのごとくその力の使い方が閃いていった。


「これで鬼ごっこは終わりだ、喰らえー!」


 横島がついにフェイトを追い詰め、栄光の手を叩きつける。しかし、次の瞬間、彼の目は驚愕に染まった。


「なんだと!」

「なるほど……これが霊力というヤツか……面白い力だね」


 トドメとばかりに横島が放った一撃は、フェイトの目の前で受け止められていた。そのフェイトと栄光ての間には横島のよく知る六角形の盾が横島の一撃を阻んでいる。


「サイキックソーサーだと!?」

「そう、そしてこれが栄光の手……使用する力の割に使い勝手がいいね」


 横島が思わずフェイトから距離をとると、それに合わせてフェイトは右手に横島と全く同じ栄光の手を出現させて背後から切りかかって来た刹那と剣を合わせる。
 少なくともこの世界では横島以外には使えない能力、それをフェイトは自在に使いこなしていた。
 考えてみれば当たり前の話である。かつて横島はアシュタロスを『模』したとき、アシュタロスの力を自在に使いこなしていたのだ。となれば、横島と化したフェイトが横島の霊能力を使えない道理がないのである。
 そして、フェイトは横島の能力を使いこなしながら巧みにタマモ達の攻撃を避け、逆撃に転じようとしていた。
 

「くう、横島が敵に回るとこんなに厄介だなんて!」

「ちくしょう、なんだか俺のくせに生意気な」

「そんな事を言ってる場合じゃありません、横島さんの能力を使えるって言うことは最悪……」


 横島達がいま一つフェイトを追い詰められずに焦る中、刹那はふとある事に思い至り、ゾっと背筋を寒くさせる。
 しかし、それに気付くのは少し遅かった。


「すごい、これが文珠……なんてデタラメな能力なんだ……」


 刹那が思い至った最悪の事態、それはフェイトによる文珠の使用。だが、それに気付くのがあまりにも遅すぎた。
 今、横島達の目の前ではフェイトがその手に力を収束させ、文珠を作り上げようとしている。
 重力や天候を操作し、使い方によって万能の力を発揮する宝具にも等しい究極のアイテムである文珠。
 それが今、フェイトによって使用されようとしている。しかし、そんな悪夢にも等しい状況を前に、意外にも横島は慌てることなくただニヤリと笑った。
 その余裕の源は真の文珠使いである彼が文珠の弱点を知っているからでもある。
 横島は前に出ると今まさに文珠を作り出そうとするフェイトの前で静かに目を閉じる。そして、精神を集中させた後にクワッと目を見開くと大音声で叫ぶのであった。


「甘いわ、くらえ『煩悩全開』!」


 横島が叫んだ瞬間、彼の脳裏には幾人もの美女、美少女のあられもない姿が浮かび上がる。そしてそれに比例しするかのように、横島の煩悩が活性化され、霊力をフルチャージしていく。


「アホー! こんな状況でアンタがパワーアップしたらアイツもパワーアップするでしょうがー!」


 タマモは思わずずっこけた後、かえって状況が悪化していることに気づいて叫ぶ。しかし、そんな彼女に対して横島はしずかにフェイトの方を指さす。
 すると、そこではフェイトが何やら悶絶しながら地面にひっくり返っていた。


「な、なんだこのピンク色の妄想は……くそ、力が上がってるのになんか集中できない!」

「ふははは! いかに俺の能力を持ち、状態をトレースしようとその思考の根源は貴様自身だ。世界広しといえど、これほど溢れる煩悩を糧に霊力を制御しうる人間など俺以外にいるものか!」

「あああああ、染まる! なんか頭がピンク色に……というかなんだこの外道の思考は……貴様すでにロリ」

「極・煩悩全開!」

「うああああああああああー!」


 なにやらフェイトがものすごく危険な事を暴露しようとした瞬間、横島は封印していたさらなる禁断の煩悩を解放していく。ちなみに、その内容を映像化したら18才未満禁止どころか発禁確定だ。
 フェイトはそんな濃すぎる妄想に耐えきれず、文珠の制御を完全に放棄してのたうちまわっていた。
 そして、作成中に制御を失った文珠はその内包された霊力を一気に解放し、爆発となってフェイトを包み込んだ。


「よっし、これでもうアイツは使い物にならん。いっきにトドメを刺すぞー!」

「い、いったいどんな物を見たらこんな風に……」

「脳がおポンチにならなきゃいいけど……アイツの煩悩、本当に洒落にならないから」

「ふ、少なくともあのガキはもう一生AVを見る必要は無いだろうな!」

「そんなことで威張るなー!」


 タマモと刹那は横島の煩悩の直撃を受けたフェイトに対し、一瞬同情の視線を送る。 
 しかし、すぐに気を取り直すとお互いに頷きあい、得物を手にして顔を引き締めた。なにしろ、今のフェイトは人外回避能力と回復力を持つ横島と同じ体を持っているのだ。それが今動きを止めて悶絶している。このチャンスを逃す手は無い。
 二人はお互いの視線のみでその意思を確認すると、いっきにフェイトへと躍りかかった。しかし、いかに煩悩に押しつぶされて悶絶していようと、フェイトとて只者ではない。
 彼はすぐに起き上がると、今までの余裕もプライドもかなぐり捨て、脱兎のごとく二人から逃げ出したのだった。


「くそ、本当になんて非常識なヤツなんだ……とにかく、この文珠の効果範囲から外れれば事態を打開できるはずだ」


 フェイトは横島の意識から文珠の効果範囲に限界があることを読み取り、効果範囲から離脱する事で本来の自分の姿を取り戻そうとしているようだ。
 しかも、横島が本気で逃げ出したときのごとく本当にゴキブリのように逃げているものだから、タマモや刹那ではとても追いつけない。
 二人の少女に追われ、ゴキブリのように逃げる少年。その絵面は間抜け以外何物でもないが、渦中の人物はどこまでも真剣であった。
 一方、なんとも間抜けな鬼ごっこを眺めていた横島、ネギ、小太郎は3人そろって盛大にため息をつく。


「兄ちゃん、追わんでええんか? 逃げられたらことやろ?」

「でも、アレって横島さんと同じなんだよね。だったらとてもじゃないけど捕まえるのなんて無理っぽいけど」

「まあ、とっ捕まえる手段がないわけじゃないけどな」

「なんかええ手があるんか?」

「まあな。というわけで小太郎、お前今から俺を殴れ。ただし、あまり痛くないようにな」

「へ?」


 小太郎は横島の突拍子もない提案に頭にハテナマークを浮かべる。しかし、それでも小太郎は素直ないい子なので、とりあえずかなり手加減をして横島の後ろ頭を殴った。
 すると、今まで軽快に逃げ続けていたフェイトが突如頭を押さえる仕草をし、一瞬ふらついた後にまた逃げ出したのだ。


「えっと……今のはなんなんや?」

「一瞬、ふらついてた……よね?」

「最初に言ったろ、アイツは文珠で俺をトレースしてると。だから、俺のダメージはそのままアイツのダメージになるってわけだ。つまり、ここで俺にチクチクと痛くない程度に刺激して走るのを妨害してやれば、あとはあの二人が追いついて滅殺してくれ……ヴォゲ!」


 なにやら訳が分からず、呆然としていたネギ達であったが、彼等は横島の説明を聞くと、納得したかのように手を打つ。
 そして次の瞬間、ネギは嬉々として力いっぱい、それも咸化法を使って横島を殴り飛ばしたのであった。


「横島さん、僕は感動しました! 敵にダメージを与えるために自らの犠牲もいとわぬその心、じつに素晴らしいです。というわけで、その横島さんの自己犠牲の精神に応え、僕の全力を持って殺らせていただきます!」

「いや、ちょっと待て! 俺はアイツが走れない程度に軽くチクチクと……というか殺るって何をだー!」

「というわけで、一番ネギ・スプリングフィールド行きまーす!」

「ぎゃぁぁぁぁー!」


 突如小太郎の目の前で始まった血の惨劇、その凄惨な絵面はまさに地獄絵図。
 ネギは嬉々として、それはもう本当に心の底から嬉しそうに笑いながら、手を真っ赤に染めてマウントポジションで横島を殴り続けている。
 小太郎はそのあまりの光景に思わず背筋を寒くし、実はフェイトよりもネギの方がヤバイのではないかと思いつつ、静かに横島の冥福を祈った。いかに小太郎といえども、今のネギはあまりにも怖かったのだろう。
 ともあれ、これによって横島に凄まじい打撃が叩き込まれるたびにフェイトも同じように血に染まり、悶絶していく。もはや文珠の影響範囲外まで逃げるどころの話ではないだろう。
 そして、遅ればせながらタマモ達が状況に気付き、慌ててネギを止めようと駆け出した瞬間、ネギは最後のトドメとばかりにどこからともなく青いところが二股に分かれたネギを取り出し、小太郎が止める間もなく横島をひっくり返す。
 そして次の瞬間――


「「アッーーーー!」」


 ――フェイトと横島の悲痛な、それはもうものすごく悲痛な悲鳴が麻帆良の空に響き渡ったのであった。









「父さん、天国で見ていてくれましたか? 今、僕の手で一つの悪が滅びました」

「確かに悪は滅んだかもしれへんが、同時に新たな悪が生まれたよーな気がするのは俺の気のせいか? つーか、お前の親父は生きてたんじゃないんかい!?」


 晴れた夜空が広がる中、その天に向かってネギがなにやら祈り、それに小太郎が力なく突っ込みをいれている。
 ネギが横島に――もとい、フェイトにトドメをさしたのとほぼ同じころ、いいかげん事態がとんでもない事になっていると気づいた茶々丸と千雨に共同作業によって学園結界が復活し、これによってアスナ達の戦いもまた終結していた。
 今、アスナ達はネギ達の元に再び集まり、互いの無事を確かめながら勝利の喜びを分かち合っていた。
 一方、そんな彼らの背後では――


「シクシクシクシクシク……ネギはイヤネギはイヤネギはイヤネギはイヤ」

「横島さん、しっかりしてくださーい!」

「いかん、脈拍がどんどん弱くなっている。このままでは危険だ!」

「衛生兵! 衛生兵はどこだー!」

「さあ、今これを抜くよ。1、2、3!」

「ハゥッ!」


 ――なにやら刹那の必死の叫び声と横島の泣き声が響き渡り、同時にガンドルフィーニ達三人による必死の救助活動が行われていた。
 もっとも、横島のケガはネギを引き抜いた後、例によって高速で修復しているので少なくとも命の心配はいらないだろう。ただし、精神面については二度目でもあることだし、かなりまずいかもしれない。
 そんな賑やかなメンバーから少しはなれた場所では、タマモが静かにフェイトを見下ろしていた。
 フェイトは文珠の影響が切れた今もそのダメージをもろに引き継ぎ、もはや完全に力を使い果たして意識を失っている。
 タマモはしばしの間そうやってフェイトを見つめていたが、ふと自分の傍らにいる死神に声をかけた。


「ねえ死神……あんた、あの子を切り離せる?」


 死神はタマモの質問に対し、ただ静かに頷く。


「じゃあ、お願い……あの子を、私を自由にしてあげて」


 死神はタマモの願いを聞き届けると、静かに万物の事象を切り離す大鎌を構える。そしてタマモが静かに見守る中、死神はフェイトに向かってその大鎌を振り下ろした。
 死神の鎌は何の抵抗もなく、まるでフェイトの体が幻であるかのように体を通り過ぎていく。そして、死神の鎌が完全に体を通り抜けた瞬間、フェイトの体から金色に淡く輝く炎のような物が浮かび上がった。


「これが……これがこの世界の私の魂……」


 金色に淡く輝く火の玉、それはフェイトに取り込まれ、今死神の手によって切り離されたこの世界のタマモの魂だった。
 タマモは思わずその魂に向かって両手を伸ばす。
 すると、魂はまるでタマモが分かるかのように、タマモの周りをゆくりと飛びまわり、最後にタマモの手のひらに乗るとその動きを止める。
 死神は魂をじっと見つめるタマモに対し、静かに鎌を天に向かって突き上げた。それは死神によってこの世界のタマモの魂を天に送るか否かという最後の確認であった。
 タマモは死神の問いに対し、特に答えることなくただ静かに魂を見つめる。そして、ぽつりと魂にむかって語りかけた。


「あなたは今まで光の届かない暗い闇の中にいた。だから、私と違ってこの空の青さも、太陽の暖かさ、そして至福のお揚げの美味しさも知らない。だけど私はその全てを知っている……同じ私だというのに」


 タマモの澄み渡った声は無意識に霊力が込められ、言霊となってタマモの魂へと届く。そしてそんな魂に向かい、タマモは一つの提案を持ちかけたのだった。


「だから……私と一つになろう。私と一つになり、空の青さと太陽の暖かさ、お揚げの美味しさを一緒に味わいましょう。そして、一緒に恋を……今度こそ裏切られる事の無い、一人の少女としての幸せな恋をしましょう」


 タマモは自らの心の内を全てさらけ出して魂に語り続ける。
 すると、いつしかタマモの手に平に乗っていた魂はふわりと浮かび上がり、ひと際眩しく輝くとタマモの周りを飛び始めた。


「さあ……私と……一つに……」


 いつしか魂はタマモの頭上にとどまり、ゆっくりと明滅しながら光を放つ。
 タマモはその魂に向かってゆっくりと手を伸ばし、再びそれを手にすると自らの胸にあてがう。そしてタマモは眩しいほどの光に包まれながら、目を閉じながら無垢なる魂を受け入れたのであった。



 周囲を包み込むまぶしい光がおさまり、死神はいつのまにか装備していたサングラスを外して周囲を見渡す。
 すると、彼の目の前にはいつもと変わらぬタマモが静かに立っていた。
 死神は魂の同化という荒業を行ったタマモを心配そうに見つめていたが、タマモは大丈夫だとばかりに手を振ると笑みを見せる。


「大丈夫、心配かけたわね……さ、横島のところに行きましょ。早くアイツを元に戻してやらないとね」


 タマモは心配そうな顔をしていた死神にそう微笑むと、未だに大騒ぎしている横島のほうを見つめて今度は楽しそうに笑う。そして、彼女は死神の返事を待つのももどかしいとばかりに、横島の下へと駆け出していった。 

 
「さあ、これからはずっと一緒よ……よろしく、私」


 タマモは走りながら自分の胸に手を当て、静かに呟く。すると、まるでその声に反応したかのようにタマモの体の中で何かがドクンと動くのを感じながら、これから共に過ごす楽しい毎日を思い浮かべていく。
 しかし、彼女は少々浮かれすぎていた。
 何故なら、彼女の背後では今までピクリとも動かなかったフェイトがゆっくりと頭を起こし、憎しみのこもった目で見つめているのだから。
 そして次の瞬間、フェイトは静かに、音もなく京都の時のように水の中にその姿を消していくのだった。






「さて、これで全てが終わりましたね」

「ちょっと横島君には酷な終わり方だったが、とりあえず命のほうは大丈夫みたいだしね」

「心については、彼女達がケアしてくれるだろうしね」


 全ての戦いが終わり、他の魔法先生や魔法生徒達を指揮しつつ、ガンドルフィーニ達はようやく一息入れる。
 そんな彼らの視線の先では、タマモと刹那のかいがいしい看病の元、徐々に元の状態を取り戻しつつある横島がいた。ちなみに、そんな彼のすぐ横には、どこから調達したのか二股に分かれた巨大なネギに磔にされて気絶しているネギがいるという、なんともシュールな光景が広がっているが、それは視界に入っていない。いや、正確には視界に入れないようにしている。
 ともあれ、ようやく一服を入れる時間が取れたとしても、彼らの忙しさはこれからが本番だ。
 なにしろ、そろそろ雪広財閥が行ったイベントも終わる時刻だ。早く人払いの結界をしき、山となった田中さんの残骸や戦闘の後を片付けて証拠隠滅をしなくてはならない。その上で、学園長への報告もしなければならないのだ。これからの作業量を考えると正直頭が痛くなる。
 ガンドルフィーニは軽く現実逃避をしつつ、精神安定のためにもくわえたタバコに火をつけると深く煙を吸う。そして、まだ半分以上残っていたがすぐに携帯灰皿にタバコを押し付けると、おもむろに立ち上がって瀬流彦達に告げた。


「さて、それじゃあ私はこれから学園長のところに第一報を届けてくるよ。すぐに帰ってくるからそれまで頼めるかな?」

「あ、はい……じゃあその間に結界は張っておきますが、彼等はどうします?」

「とりあえずそっとしておこう。何しろ彼等はこの麻帆良の危機を救った英雄なんだ。戦いが終わった今、英雄は祝福され、休息の時間を迎えるんだよ」


 ガンドルフィーニは瀬流彦と明石にそう言うと、空に飛びあがり、学園長の元へと向かう。
 明石達はそんな彼の背中をしばし見つめていたが、やがて気を取り直すと二人同時に立ち上がり、改めて事後処理をすべく気合を入れるのであった。




「……くっ、まさか僕がこんな目に会うなんて……許さない、絶対にアイツ等をゆるすもんか」


 戦場となった湖から少しはなれた森の中をフェイトは息も絶え絶えに歩いていた。
 彼は最後の力を振り絞って先ほどの転移を行ったのだが、あいにくと消耗が激しすぎて麻帆良から出ることも適わずに森の中をただ歩いている。
 だが、そんな落武者のごとくの彼であったが、その目に宿る怒りは凄まじく、らんらんと光る目で前を見つめながらうわごとのように横島達に向かって呪の言葉を吐く。
 フェイトはおぼつかない足無理矢理動かし、ただひたすらに捲土重来を期して横島達に背を向ける。そんな彼を支えるのはタマモと横島、そしてネギに対する激しい憎しみのみだ、


「もう少しだ、もう少しで結界を抜ける。そうすれば力を回復し、今度こそ……」

「今度こそ、どうするつもりだい?」

「!?」


 フェイトが動かぬ体に鞭打ち、あと少しで結界を抜けられる場所まで来た時、彼の背後から低い男の声がかけられた。
 フェイトはなんの気配も感じなかったその声に驚愕し、思わず足を止める。そしてゆっくりとふり返ると、そこには銃とアーミーナイフを構えた黒人の男、ガンドルフィーニが静かにフェイトを見下ろしていた。
 そして、そのことにフェイトが気づいた瞬間、ガンドルフィーニはいっきにフェイトとの間合いを詰め、彼を地面に引き倒すとその額に銃を押し当てた。


「チェックメイトだ」

「く……万全ならばこの程度の相手に……」

「私にとっては幸いだったがね。さて、残念だが君を逃がすわけにはいかないんだよ」


 全てが終わった思われた後、ガンドルフィーニはただ一人フェイトがどこかに転移した事に気づいていた。
 だが、彼はそのことを誰にも告げることなく、フェイトの魔力の残滓を追いかけてきた。そして今、フェイトに対して銃をつきつけ、冷酷な瞳で悔しそうな顔を浮かべるフェイトを見下ろしている。


「さて、君には京都のでの事、そして今回の事で聞きたいことが山ほどあるからね。大人しくお縄についてもらおうか」

「何故だ、何故僕がこんな所で! だいたい、何故お前達はアイツ等を放置している!」


 フェイトは自らの胸を踏みつけ、冷然と見下ろすガンドルフィーニ対して怒りをぶつける。彼にとって、格下の魔法使いに拘束されるこんな事態など著しくプライドが傷つけられる行為だ。
 そして、フェイトはその原因となった横島達を道連れにするために、横島達以外知りえない秘密をガンドルフィーニにぶちまけようとする。


「どういう意味だい?」

「僕はあの横島という男と同化する事で、あいつらの正体を知ったんだ! アイツらは危険だ、神や悪魔が現実に存在する異世界、そこでアイツは魔族と同化した上に魔王を倒した。つまりアイツは人間じゃない、その上魔法という概念を根底から崩しかねない文珠というアイテムを無限に作れるんだぞ! それに、あの女だって九尾の狐、それも白面金毛なんだ。アイツ等を生かしておけば、必ず貴様たちに災いを呼び込む!」

「……」

「大人しくしろ? ああ、大人しくしてやるよ。そして、この情報を本国の全ての調査官にぶちまけてやる! そうすればあいつらは破滅だ、ただでさえでも保守的な本国の魔法使いが魔法という存在を脅かす存在を、そして天を焼き尽くした危険な化物をそのままにしておくものか!」


 フェイトはもはや正常な思考をしていない。とてつもなく情けない負け方で戦場を追われ、今また屈辱的な拘束を受けようとしている。
 それはプライドの高い彼にとって耐えられるものではない。
 だから、彼はもはやただ横島達への復讐心のみで動いていた。もはやそれは執念ともいえるだろう。
 フェイトは火傷で覆われた部分だけではなく、整った残り半分の顔すら醜く歪め、横島達への呪詛を吐き続ける。
 ガンドルフィーニはそんなフェイトに対し、吐き気をがまするかのように顔をゆがめると銃を下ろし、ぽつりと呟いた。


「……もういい」

「?」

「わからなかったのかね? もういいと言ったんだ。なるほど、確かに君を捕らえ、その証言をされれば彼等は間違いなく本国から追われる存在になるだろう。特に横島君については軍が黙ってはいまい」

「……」

「だが、あいにく彼等は僕の恩人だ。だから……私は君から何も聞かなかった。ここで君を見ることもなかった……」

「僕を……逃がすということかい?」


 フェイトの問いに対し、ガンドルフィーニは無言でフェイトを押さえていた足をどかし、視線で結界の先を指す。
 すると、フェイトはよろけながら身を起こし、実に愉快そうに笑った。


「はは、はははははは! そう、それが正しい判断だよ。君は小物らしく、大人しくそこで僕が逃げるのを見ているがいい!」


 フェイトはひとしきり狂ったように笑い、蔑むようにガンドルフィーニを見る。そしてゆっくり背を向ける。
 しかし、そんなフェイトの後頭部にガンドルフィーニはゆっくりと手にした銃を押し当てた。


「そう、私はここで誰も見ていない。だから、君はここにいては困るんだよ」

「き、貴様……貴様ー!」


 静かな森にフェイトの叫び声が響き渡る。
 そして次の瞬間、その叫び声をかき消すように一発の銃声が響き渡った。


「これで全て終わり、世は全てことも無し……か」


 ガンドルフィーニは、額から血を流、完全に事切れたフェイトを見下ろしながらタバコに火をつける。
 そして、しばらくそのタバコの煙を楽しんだ後、もはや返事を返すことも無いフェイトに向かって語りかけた。


「横島君が魔族、タマモ君が九尾の狐? それがいったいどうしたと言うのだね。彼は僕の恩人で飲み仲間、そしてその仲のいい妹。それ以外何者でもないのだよ……」


 ガンドルフィーニは答えをよこさぬフェイトに向かって火のついたタバコを投げ、ポケットに手を入れると今度こそ学園長のもとへと向かうべく歩いていく。
 そんな彼の背後ではタバコの火を触媒とした魔法の炎が、フェイトのみを跡形もなく燃やしていた。
 京都で千草の裏で暗躍し、この麻帆良を混乱の渦に落とした謎の少年は誰にも看取られる事なく、その存在の痕跡全てを消していく。
 こうして、麻帆良学園学園祭最終日に引き起こされた騒乱は書類の上では容疑者逃亡のまま、とりあえずの決着を見る事になるのであった。
 ただ一人、男の胸の中に真実を残したまま。





第56話 end






「ふう、なんだか色々とあったが、とりあえず全部終わったようネ」

「あの、超さん……本当に未来に帰っちゃうんですか?」


 全ての戦闘が終わり、他の魔法使い達も数々の戦闘の証拠を隠滅し終わったころ、それを見計らったかのように超は立ち上がる。
 彼女は全ての事が破れた今、彼女が元々いた時代に帰る事を決意していた。


「名残惜しいが、私が本来いるべき場所はやはり元の時代ネ。だからここでお別れヨ」

「そうですか……できれば超さんと一緒にこの時代で神の教えを共に語りたかったです。けど、見ていてください! 僕はきっとファラリス様の教えを広め、未来を変えて見せます!」

「期待してるよ、ネギ坊主……いや、我が始祖ネギ・スプリングフィールド。君の未来にファラリスの加護があらんことを」

「超さん……それじゃあ餞別にこれを……魔を滅した聖剣です」


 ネギは名残惜しげに超と話しながら、餞別とばかりに手にしていたネギを超に渡そうとする。
 しかし、超は首を振ってそれをネギに押し返し、言い聞かせるように微笑んだ。


「それを受取るわけにはいかないネ。それに、そのネギはやがて君の業績をたたえるホーリーシンボルになるヨ。だから大事にするといいネ」

「超さん……」
 
「ってあんたらいいかげんその神から離れろー! っていうか、なんで横島さんにトドメさしたネギが魔を滅した聖剣になるのよー!」


 ネギと超が感涙にむせび泣き、互いにひしと抱き合っていたが、そこにもはや達人の域に達したアスナのハリセンが奔り、ネギ達を粉砕していく。
 やはり超の望む未来にとって最大の障害はアスナのようである。


「ふう……とにかく超さん、ネギは私が責任を持って改宗させて未来を変えるから、安心して帰るといいわよ」

「いや、それはそれで困るんだガ……」

「あ゛?」

「い、いや……なんでもないネ」


 超は実にいい笑顔でネギを踏みつけるアスナに一言物申そうとしたが、彼女の迫力に負けて押し黙る。
 そして、そんなやり取りをしているうちに世界樹の発光が始まり、超が未来に帰る為に必要な魔力が周囲に満ち始める。
 そして、いよいよ意を決した超は皆をふり返った。


「と、とにかく……それでは皆これでさよならだが、未来で皆の幸せを祈ってるネ」


 超はそう言うとスペアとして持っていたカシオペヤを発動させる。
 すると、彼女の周囲に魔力の光が満ち溢れ、彼女を包んでいく。そして、最後にネギやアスナ達が超にお別れを言った瞬間、彼女は未来へと向けて旅立っていくのであった。


「さて、これで本当に全部終わったわね」


 超が未来へ向けて旅立ったのを見送った後、タマモは横島の腕に嬉しそうに抱きつきながら、全ての感想をつむぐ。
 そんな彼女に対し、横島は苦笑を浮かべながら空を見上げた。


「楽しい学園祭が結局とんでも無い事になったがな……あー疲れた」

「本当にお疲れ様でした。でも、この後中央公園で後夜祭がありますよ」

「けど、それもこれもまずはメシを食ってからだな」

「せやせや、今日は動きまくったんやから徹底的に食うで」

「そうよね、それならアヤカと合流してどこかでご飯を食べよっか」

「あ、それでしたら先ほど連絡がありまして、間もなくあやかさんはこちらに来るそうです。シェフ特性のお弁当を持って」

「やったー! 姉ちゃん家の弁当はうまいからな。食いまくるでー」


 横島達3人、そして小太郎は全てが終わった安堵感に包まれながら、あやかを待つために湖岸公園にあるベンチに腰を下ろす。
 しかしその時、横島とタマモの耳にどこからともなく声が聞こえてきた。


<ミ……ケ……ネ……>


「ん? 小太郎、今何か言ったか?」

「俺はなんも言うてへんで。気のせいとちゃうんか?」

「でも、私も今何か聞こえたわよ」

「おかしいですね。私には何も聞こえませんでしたが……」


 横島とタマモは突如聞こえてきた声に首を傾げるが、聞こえたのはどうやら二人のみで刹那と小太郎には聞こえていないようだ。
 横島達はその事実に訝しがり、周囲を警戒する。しかし、他には何も気配を感じなかった。
 そんな時、再び彼らの耳に謎の声が響き渡る。ただし、今度は小太郎と刹那にもはっきりと聞こえていた。


<ミ……ツ……ケ……タ……> 


「聞こえる……俺にも聞こえたで!」

「ミツケタ……何かを見つけたということでしょうか」

「一体なんなんだ? つーか、ようやく終わったのにまた厄介ごとか?」

「とにかく、警戒したほうがいいわ。皆周囲に注意して!」


 タマモ達は互いに背をかばい合う形で周囲を警戒していく。しかし、どんなに周囲を探ろうとなんの異変も感じない。
 ただ彼らには『ミツケタ』と叫ぶ声だけが響くだけだ。
 そして、彼らの周囲に響き渡る声がいよいよ最高潮に達し、声のノイズが完全に消え去った瞬間、今度ははっきりと空の上から女性の声が響き渡った。


「見・つ・け・た・の・ねー!」


 麻帆良の空に響き渡った声に反射的に上空を見上げた彼らは、世界樹の頂点に見たこともない奇抜なヘアスタイルをした女性が歓喜の声を上げているのを見つける事になる。
 そして、横島とタマモはその女性の正体を知っていた。


「ヒャ、ヒャクメー!」


 突如として麻帆良の上空に現れた女性、それは横島のいた世界で調査官をしているヒャクメという神族であった。



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