×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


二人?の異邦人IN麻帆良 NEXT


(エイプリルフールお詫び記念、特別企画シリーズ)

「もしも原作のあの場面に異邦人のキャラがいたら」




―――最終話(前篇) 「隣り合う世界」―――






 草木も眠る丑三つ時。
 日の出と共に起床し、日の入りとともに眠る古の人々は清浄なる深夜をこう表現して眠りにつき、同時にこの時間帯は人ならざるものが蠢く者として恐れてもいた。
 しかし、昨今の日本の生活事情においては丑三つ時などまだまだ宵の口、それこそ深夜アニメ、はたまたプロレス関係の番組を見る者は昼間に等しい時間帯となっている。
 そしてそれはこの麻帆良でも変わりはない。
 それでも絶対数においてこの時間帯に起きているものの数は少数に分類されるのだが、それでもこの麻帆良学園女子中等部女子寮において数人の人間がいまだに起床中であった。
 そう、あるものは幽霊となっているが故に、そしてあるものはコミケなるもののネタのために、そしてあるものは神への祈りのために起きていたのであった。


「神よ! 偉大なる暗黒神にして自由なる神よ! 願わくば我の願いを聞き届けたまえ!」


 静寂なる女子寮の一室。
 一部の例外を除いてほとんどの入寮者が眠る中、この女子寮にいる唯一の男、ネギ・スプリングフィールドはいつもの如く神への祈りを捧げていた。
 ネギの目の前には朝倉から譲り受けた欧州の名馬の写真と、自由の名を冠するガンダム(ティターンズカラー)のプラモデルが鎮座し、その周りを数本のロウソクが取り囲んでいる。
 そしてネギは同室であるアスナと木乃香の迷惑にならないよう、静寂の魔法を周囲にかけた状態で一心に祈り続け、やがて一種のトランス状態に陥ってしまう。


「我が願うはひと時の平和! 贅沢を言えば日々の安全保障! 神様、僕のこのささやかな願いは無茶なのでしょうか!」


 ネギはともすれば血涙を流しかねない勢いで祈り続ける。そして、その祈りが最高潮に達した時、ネギの脳裏にかつての声が再び響き渡った。


<汝の為したいように為すがよい……>

「こ、これは……そうなんですね! 僕の願いは間違ってないんですね!」


 神の啓示を受けたネギは歓喜の涙を流し、目の前に鎮座する模型にむかって感謝の祈りを捧げていく。
 そしてその後、答えを得たネギは何かに取りつかれたかのようにエヴァの蔵書室や図書館島へともぐりこみ、研究に没頭していくことになるのであった。









「ふう……太陽がいっぱいだぜ」


 青い空、白い雲、そして輝く太陽。
 横島は空に輝く太陽をまぶしそうに見上げながらつぶやく。そう、横島は今南国の海に来ていた。
 横島の目の前に広がる風景はまさにエメラルグリーンの海、きらめく太陽、そして白い砂浜。その風景はたしかに南国の海。
 しかし、一見すれば海外のリゾート地で休暇を満喫する風景に見えるその風景の中で、ただ一点だけがそれを裏切っていた。


 ――グシャ!


 横島が空を見上げ、まぶしそうに太陽を見上げていると、幾度目かになる水気を含んだ破砕音が至近で響き渡り、それと同時に横島の頬に真っ赤に濡れた飛沫がかかる。
 だが、横島はそれをぬぐうこともせずにただ太陽を見上げ、虚ろに笑うだけだ。


「あは、あはははははは」


 ――グシャ!


 今度は先ほどと反対側から湿り気を含んだ破砕音が響き渡る。


 ――グシャ!

 ――グシャ!


 少しずつ近づいてくる破砕音。その音が近づいてくるたびに横島は虚ろに笑う。
 彼の周囲はすでに血の海に等しいほど真っ赤に染まり、ピンクと白の破片が飛び散っている。
 そして、ついに来るべき時が来た。
 今まで横島を照りつけていた太陽がなにかによって遮られ、何者かの影が横島を包み込むが、横島は金縛りにかかっているかのように身動き一つしない。そして横島が動けないことをいいことに、その影がやがて視界いっぱいに広がり、哀れ横島は砂浜の露と消えるのであった。


「あ、ついに命中や……」

「横島さぁぁぁん!」


 横島が砂浜――エヴァの別荘――に大輪の血桜を咲かせると、今までただ事を見詰めていた小太郎がボソリとつぶやき、刹那は思わず悲鳴を上げる。
 そして当の横島は砂に首まで埋められ、顔面にハンマーをめり込ませた状態で気を失っていた。ちなみに彼の生首の周辺にはいくつものスイカが割られ、周囲を真っ赤に染めていたりする。
 さて、ここでほとんど読者は横島を討ち取った下手人としてタマモを予測したであろうが、今回は残念ながら違う。

 
「あややー、当たってもうた。横島さんゴメンなー」


 そう、今回の下手人は麻帆良の誇る癒し系美少女にして、にっこり微笑みながら人を殺る頬笑みの闇巫女こと近衛木乃香であった。
 彼女は横島の顔面にめり込んだハンマーを抜き取ると、心配そうにしている刹那を呼び寄せ、横島を介抱させる。
 このように木乃香は事あるごとに親友である刹那をたきつけ、横島の世話を焼かせるべく陰日向に計画を実行しているのだ。
 そして、今回も南国の海岸で傷ついた横島を介抱させるという状況を作り出すために、躊躇なく横島の顔面にハンマーを叩き込んだのであった。
 親友の恋の応援するという純粋で心温まる気持ちもち、その目的達成のために親友の思い人を躊躇なく血祭りにあげた少女木乃香。まさに母性と魔性が同居する巫女へと成長していたのだった。
 さて、ここで説明を終えると、この極悪極まりない『スイカ割りIN横島』を画策したのは木乃香だと思われるかもしれないが、さにあらず。
 今回のイベントを画策した人物は麻帆良学園の頂点に君臨する最凶の生物、横島タマモその人であった。 


「くぉらタマモー! 貴様海岸に着いた早々人をこんな目にあわせるとはどういう了見じゃー!」

「え? だって夏と言えば海、海といえばスイカ割り、スイカ割りと言えば横島割りじゃないの? ほら、向こうにいた時美神がトゲ付き神通棍棒でよくやってたじゃない」


 木乃香のハンマーを食らってから一分後、具体的にはビキニタイプの水着を着た刹那が横島を介抱するために近づき、最近微妙に増量し始めた胸元の谷間が横島の顔に近づいてきたと同時に彼はその意識を隠せさせる。
 そして、覚醒と同時にこのイベントの主催者であるタマモに文句を言うのだが、その視線は刹那の胸元にしっかり固定されていた。
 一方タマモはと言えば、アスナや小太郎と共にバニラアイスバーにかじりつきながら不思議そうに横島を見つめ返す。
 その際、アイスバーから溶けた雫がこれまた最近微妙に増量する気配を見せ始めた胸元にこぼれ落ち、何を想像したのか横島は思わずゴクリと唾を飲み込む。しかし、すぐに自分を取り戻すと猛然とタマモへ抗議しだした。
 

「それはお仕置きで食らったイベントじゃー!」

「でも、海に行くたびに当たり前のようにやってたじゃない。他にもドラム缶に首までコンクリ詰めされた状態での大脱出とか……結構面白かったわよ、あの手品」

「手品じゃねー! というか、そんな極悪イベントを通常のものとして実施するなー!」


 現在、麻帆良学園3−Aに所属する妖狐、横島タマモ。
 彼女はこの世に生まれおちた以来、常識を平気でぶち破る美神のもとで常識を学び、常識という概念が発狂するほど非常識な横島のパートナーだ。それゆえに、彼女の常識はどこかずれていた。
 なお、そのずれた常識に対して突っ込む勇者はここにはいない。
 アスナも小太郎もただ夫婦漫才を繰り広げる二人を遠巻きに見つめ、いつものことだと言わんばかりに、今度は焼きトウモロコシをむさぼり食うだけだ。
 だが、そんな予定調和ともいえる空気の中、今まで無言で焼きトウモロコシやアイスバーの屋台を切り盛りしていた茶々丸が不思議そうに横島に問いかける。
 その質問に対して帰ってきた答えはある意味予想通りであった。


「それにしても、なぜ横島さんは逃げないのですか? 横島さんの身体能力なら砂に埋められた程度、すぐに脱出できるのではないでしょうか?」

「いや、最初は逃げようと思ったんだが……中学生とは言え、水着美少女のフトモモをローアングルから見る機会を逃したら男じゃな……もげら!」

「いややわー、横島さんったらー」


 茶々丸の質問に対して、あらゆる意味で解き放たれた横島は躊躇なく漢の答えを返す。だが、返す刀で照れた木乃香がトドメとばかりにハンマーを叩きつけたために再び沈黙するのであった。
 

「横島さぁぁぁぁぁん! タマモさぁぁぁぁん! ついに完成しましたー!」


 と、その時、今まで数日間エヴァの蔵書室にこもりっきりだったネギが姿を現し、なにかを手に持ちながらこちらへと駆けてきた。
 手にしたなにかを振りながら、全力で駆けてくるネギ。その表情はなにかをやり遂げたかのような充実した顔をしており、数日の徹夜もものともせんとばかりに笑みを浮かべている。
 そして瞬く間に横島のもとへとたどり着くと、ネギは手にしたナニカを横島に突き付けた。


「なんだこれ? いや、どっかで見たことあるような……」

「時計……よね。そういえば私もなんか見覚え……ってこれは!」


 横島はネギが手にした物に見覚えがあるのか、小首を傾げて思い出そうとするが、どうにも彼の脳みその容量では思い出すことはできないようだ。
 だが、いつまでたっても思い出せない横島と違い、タマモはすぐにその正体に思い至ってその顔を硬直させる。


「そうです、これは超さんのカシオペヤをベースに僕が魔改造を施したびっくりアイテムなんです!」
 
「魔改造か……その言葉が洒落にならん気がするのは俺だけか?」

「あははは……今までの所業を考えると否定できません」

「で、結局その後始末が私に降りかかってくるのよね」

「アスナちゃん……いつも苦労をかけるね」

「ちなみに、ネギの引き起こす騒動の根源をたどれば8割以上が横島さんに行きつくんだけど」

「あははははは」


 横島は相変わらず砂浜に埋まったまま、アスナの突っ込みを誤魔化すように乾いた笑い声を上げる。だが、そんな彼の視線は自分の所に集まってきたタマモ、刹那、アスナ、木乃香、そして茶々丸のまぶしい太もも釘づけになっていた。
 そして、その事実に気付いたアスナによって顔面を踏みつぶされ、彼は再び意識を失うのであった。








 横島が気を失ってから30分後、彼らは水着から普段着に着替え、別荘の中央広場へと集まっていた。
 現在、この場所に集まっているのは横島、タマモ、刹那、小太郎、ネギ、木乃香、アスナ、そして茶々丸の8人だ。
 本来、このエヴァの別荘を利用したバカンスは他のメンバーも参戦する予定だったのだが、のどかと夕映、ついでに朝倉はハルナに巻き込まれて夏の祭典の売り子として聖地に向かい、長谷川はレイヤーとして参加中のためこの場にはいない。
 さらに加えて楓とクーフェイは今朝早々に裏山のトラップゾーンにて玉砕し、絶賛放置プレイ中である。
 そして、この別荘の主人たるエヴァはと言えば――


「サテ、次ノ画像データ配信ハオ姉様メイド仕様ニ……イヤ、ダメダ。ゴ主人ジャア萌エナイメイドニナッテシマウ……」

「誰が萌えないメイドだー! いいだろう、やってやる! せいぜい萌え狂うがいい、この愚民ども!」

「ヨシ、計画通リ……」


 ――従者たるチャチャゼロと壮絶なコスプレバトルを繰り広げていた。
 なお、彼女のセリフを聞くに徐々に染まりつつある気がするが、ここはスルーしておくほうが賢明であろう。

 さて、地下で繰り広げられているコスプレバトルはともかくとして、この場に集まった面々はテーブルの中央に置かれた見覚えのある時計に目を向けていた。
 そのアイテムに向ける視線はどこか胡散臭げではあるが、それもこのアイテムによって過去にえらい目に会ったのだから無理もないことであろう。
 そんな微妙な空気の中、意を決したタマモが鋭い視線をネギに向ける。


「で、結局これはいったいなんなの?」

「はい、これは本来タイムマシン、つまり時空間を移動する機械なんですが……」

「それは知ってるわ。だけど、もう使えないんでしょ? まさか使えるように直したとか?」

「まさか、そのまま直して使えるようにしたら、最悪中世ヨーロッパで魔女裁判食らって火あぶりにあったり、平安時代に飛ばされてリアル平安京エイリアンになるのが目に見えてるじゃないですか」

「……それは賢明な判断……なのかしら?」


 タマモはどこか悟りきったかのように晴れ晴れと言ってのけたネギに対し、微妙に引いてしまう。だが、それも無理もないことであろう。
 なにしろこの時のネギは顔の表情だけは素晴らしいほどの笑顔にも関わらず、その目は完璧に死んでおり、瞳になにも映していなかった。それゆえに元々整った顔のつくりをしているのも相まって、ものすごく不気味な雰囲気を醸し出していたのだ。


「ともかく、時間移動なんて物騒な機能はしっかりと封印しておきました」

「せやったら、いったい何をやったんや? 時間移動機能を殺してもうたら、それはただの時計やんか」

「たしかに単純に考えるとそうだけど、あいにくとこの時計の能力はそれだけじゃないんだ」

「他にも何か機能があったっけ?」

「うん、みんな思い出してほしい。未来から僕たちが帰る時、僕たちは地下深くにいたはずなのに、まったく別の場所に出ましたよね」

「そういえば……」

「そんなこともあったわね」


 タマモとアスナはネギに言われてようやく思い出したのか、今までキョトンとした表情を一変させ、どか納得したかのように首を縦に振る。
 そして、ネギはそんなアスナ達に対してまるでどこぞの青タヌキのようにカシオペヤを突き出す。


「そう、地下深くから上空数100mへの転移、これはこの時計に時間移動のほかに空間移動機能も付いているという証明になります」

「空間移動ねー……けど、それだけなら横島の文珠でもできるし、別にそこまでたいした機能じゃ……」

「甘いですタマモさん! 空間移動はこのアイテムの基本にしかすぎません」

「基本?」

「そう、基本です。僕はこの空間移動機能をベースに、この一週間不眠不休で数々文献と魔法を漁り、幾多の実験と失敗を繰り返したのち、ついに究極の、神の奇跡を達成したのです!」

「神……あんたまたなんかろくでもない事を考えてるんじゃないでしょうね」


 アスナはネギが神という言葉を口にした瞬間、明らかに警戒したような口調で問いただす。なにしろ、今までネギが神様がらみで何か行動を起こした場合、そのほとんどのツケをアスナが支払っているのだから、その対応も無理もない。
 しかし、ネギはそんなアスナの心配を一笑に付し、あっさりと否定する。


「いえ、神といっても僕の神様じゃなくて、僕の研究が文字通り神の領域に達したという意味です。そう、あの時横島さんを連れて帰ってくれなかった憎き役立たず、ヒャクメとか言う神を名乗るのもおこがましい邪神程度の些細な奇跡を……」

「いや、ヒャクメを邪神って……というかネギ、お前体からなんか黒い瘴気が漏れて……」

「ま、まあそれはともかく。ヒャクメが起こす程度の奇跡ってどういうこと? 一応あんなナリでも神様だから能力だけは文字通り人外魔境なのよ」


 横島とタマモはその恨みの深さゆえか、真っ黒い瘴気を噴出し始めたネギに恐れをなして微妙に距離をとる。
 すると、ネギも感情を高ぶらせすぎたのに気付き、すぐに瘴気を引っ込めるといつものように明るい少年の笑顔を取り戻して説明を続けていく。


「あ、失礼しました。まあ、手っ取り早く結論から言うと……」

「結論から言うと?」

「並行世界への異空間転移に成功しました!」


 前置きの長さに比してえらくあっさりと、それはもう本当にあっさりと言い放った言葉。
 そのあまりの意外性のために、ネギの発言の意味が横島たちに伝わるのに10秒ほどかかってしまう。
 そして10秒後――


「なにぃぃぃぃぃぃー!」


 ――あっさりと神の奇跡を実現させたネギに対して、この場にいる全員が悲鳴を上げるのであった。





「それにしても、ほんとにドえらいもんを発明したな……」

「魔法界で発表したら、間違いなく魔法科学史に名前が残るかと」

「どんなに落ちぶれても腐っても鯛、天才には変わりないってことね……」

「なんかよーわからんが、これを使って並行世界に行けるっちゅーことなんか?」

「はわー、ネギ君はすごいんやなー」

「確かにすごいんですけど……気のせいでしょうか、非常に嫌な予感がします」

「奇遇ね、刹那さん……私も同意見よ」


 あれから数分後、ようやく落ち着きを取り戻した横島たちは改めてカシオペヤを手に取りながら口々に感想を述べている。
 その内容は普段のネギの所業を勘案して、騒動の引き金になるのではないかと懸念する声も聞こえてくるが、おおむねとして称賛する声のほうが多い。
 そして開発者たるネギはやはり褒められると嬉しいのか、実に少年らしい笑顔で機能を説明していく。
 ちなみに、本来ならカシオペヤは世界樹の魔力を必要とするほど燃費が悪いのだが、ネギはこれに霊力と魔力のハイブリッド化に成功し、劇的に燃費を向上させることに成功している。


「ふむ、ようはコレを使えば並行世界へ自由に行けると……まさに神の奇跡ってヤツだな」

「それにしても、なんでこんなモノを作ろうと思ったの?」

「いえ、最近LVが頭打ちなんでコールゴッドの魔法の代わりに使えないかと改造してたんですが……ふと思い至って作ってみたんです」

「やっぱりそっちがらみか……」

「とにかく、これがあれば横島さん達は向こうの世界に里帰りができます! 横島さんだって向こうにご両親や友達がいるんでしょう? やはりちゃんと挨拶しておかないとダメです」


 ネギはいかにも善意で作りましたと言わんばかりに目を輝かせ、いかに里帰りが大切か滔々と語っていく。
 奇しくも時は夏休み、お盆もさしかかって文字通り実家に里帰りする生徒も多い。ネギはそういった事情も踏まえて横島たちに熱心に里帰りを進める。
 だが、そんな一見善意あふれるネギに対し、その真意を正確に見抜いている者もいた。


「気のせいかしら、言ってることはすごく正しそうに聞こえるのに、ネギの背中から瘴気のようなものが見えるんだけど……」

「ネギ君、きっとまたなにかたくらんでるんやろなー。うふふふふ」

「あの、お嬢様……お願いですから笑顔で鎌を研がないでください。というか、いったいどこからそんな大きな鎌を……」


 どうやらアスナと木乃香はネギとの付き合いが長いゆえに、ネギの不穏な考えをしっかりと看破しているようである。
 

「ネギ先生、一つ確認しておくけど、コレを使って向こうへ行っても、ちゃんと帰って来られるのよね?」

「それはもちろん僕が保証します、向こうに帰ってもこのアイテムを使えばちゃんとこっちにも来れますよ」

「そっか……なら、一度向こうに行って見るのもいいかもしれないわね」


 タマモはカシオペヤを手にし、過去を懐かしむように空を見上げる。
 やはりタマモも横島も美神やおキヌちゃんに何の断りもなく別れる形になった事を悔やんでいるのであろう。それだけに向こうに里帰りできるというのなら、十分に心惹かれるのである。
 しかし、横島たちはすでにこの世界に骨をうずめる事を決めている。それは先ほどから横島たちが元の世界に『行き』こちらの世界に『帰る』という発言からもその決意がうかがえた。
 ちなみに、同じようにネギも先ほどから横島達の世界に『帰り』こちらに『来る』という発言から、彼の本心が見え隠れしているのだが、幸いなことにその事実はアスナ達以外気づいていない。
 ともあれ、こうしてネギの説得によりタマモと横島は望郷の念を思い起こされ、一時的に元の世界に行くことを決心した。
 ネギは横島達に見えないように静かに拳を握りしめる。
 さて、ここでネギの計画、『プロジェクトクーリングオフ 明日への希望』を説明しよう。
 まず、計画の第一段階として横島達を説得し、万難を排して横島達二人を元の世界へ返品する。
 そして、重要なのが横島達二人だけを向こうに返品するということだ。ここでなぜ横島達二人だけを返品しないといけないのか、それはこの改良型カシオペヤの性能が関係してくる。
 先ほど、ネギはタマモに改良型カシオペヤを使えば自由に行き来できると説明したのだが、実のところそれは正確ではない。
 この改良型カシオペヤは確かに霊力と魔力の両方を効率よく使うことで、従来のカシオペヤよりはるかに少ない力で起動させることができる。
 しかし、逆を言えばどちらか片方がなければ起動しないのだ。つまり、霊力を使う横島とタマモ、そして魔力を使うネギがそろわない限り起動しないのである。
 そして、ここで横島達のみを向こうに送るということは、この麻帆良に帰ってこれないということを意味していた。
 ネギは自身の邪悪な計画が順調に進行していることにほくそ笑みながら、これから訪れるであろう平和な日々に思いをはせる。
 だが、そんなネギの計画は一人の少女によってあっさりと瓦解するのであった。


「あの……横島さん。私も行ってもよろしいでしょうか?」

「別にかまわんけど、向こうに行くんなら覚悟しといたほうがいいぞ、色々とぶっとんだ連中ばっかだから」
 
「兄ちゃん、俺も行ってもええか?」

「あ、私も行ってみたい!」

「せっちゃんが行くんなら、私もいってみたいわー」

「うーん、それじゃあみんなで行ってみましょうか」

「賛成ー!」


 横島達が向こうの世界に行くことを決めると、そこに刹那がおずおずと自分も行きたいと言い出した。
 すると、刹那に触発されたのか木乃香をはじめとしてアスナ達も横島がいた世界へ行く事を希望する。
 これはネギにとって完全に予想外であった。
 なにしろ横島だけでなく、アスナ達も横島について行こうというのだ。このまま計画を進めれば横島だけでなく、アスナ達まで帰ることができなくなってしまう。
 かといって、横島がアスナ達の同行を了承している以上、ここでネギがアスナ達の同行を拒否すれば不自然であり、最悪計画が露見する恐れが高い。
 となれば、ネギに残された手段はただ一つ、自分も同行して確実にアスナ達を連れて帰るよう手配することだ。
 かくして、ネギの計画『プロジェクトクーリングオフ 明日への希望』は計画の初期段階であっさりと瓦解するのであった。


「まだだ! まだあわてる時間じゃない! うまく事を運べば横島さん達だけを向こうに置き去りにして、僕たちだけが帰って来ることは可能だ。考えろ、考えるんだ僕!」


 ネギ・スプリングフィールドはあきらめない。
 たしかに計画の初期段階は崩壊してしまったが、計画の大前提である横島の返品はまだ可能なのだ。
 だからこそ、ネギは幾多の困難を乗り越えた不屈の精神で強大な敵と戦い続けることを決意する。
 ガンバレネギ。ファイトだネギ。
 少年の平和と安全保障を求めた熱き戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
 そしてその熱き戦いは――


「うふ、うふふふふふふふふ」

「お、お嬢様……なぜ仮契約カードを手に? というか、白地の仮契約カードが黒地になってますが……」

 
 ――開始して10秒後に、降臨した頬笑みの闇巫女によって強制終了させられるのであった。






(後篇につづく)


Top
小説のメニューへ戻る
前の話
次の話