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 ネギ達一行が南国で遭難と言う名のリゾートをこれでもかと言うくらいに満喫し、あらゆる意味で心身ともにリフレッシュして麻帆良に帰ると、そこには怒り狂う幼女が生まれ出でていた。
 その幼女ことエヴァンジェリンが何故怒り狂っているのか、それは――


 曰く、修行開始早々いきなり長期にわたって休むとは何事か!

 曰く、ただでさえでも時間がたりないと言うのに、師である私の許可も得ず遊ぶとはいい度胸だ。

 曰く、ここ最近茶々丸達の怪しい行動は貴様が原因だと言うが、貴様いったいあいつらに何を吹き込んだ!?

 曰く、いい機会だ、ここから動けない私を差し置いてお楽しみの貴様と、私で遊ぶ従者共々全員徹底的に調教しなおしてくれるわー!


 ――という理由なのだが、それを聞いたタマモ達は結局自分も行きたかっただけなのではという感想を抱き、同時に同じ答えに行き着いたチャチャゼロと茶々丸にからかわれる結果となっていた。
 ともあれ、これによりネギは今までよりちょっぴり厳しい(ネギ主観)修行に強制的に参加させられることになったのだった。


 そして三日後。
 ネギ達は南国風味な広場で実戦形式の格闘訓練を行っている最中であった。


「ぐあ!」


 ネギはエヴァの強力な一撃を喰らい、吹き飛ばされる。さらにそれに追い討ちをかけるように茶々丸とチャチャゼロが左右からネギに襲い掛かった。


「ぐっ!風花・風障壁!!」


 ネギは茶々丸たちの攻撃を障壁を張ることで防ぐ、だがそれは一瞬しか持たず、障壁を抜けた茶々丸に頭を押さえつけられ、さらにチャチャゼロは、手にした小剣をネギの首筋の側の地面に突き立てた。
 これによりネギは完全に動きを封じられ、サディステックな笑みを浮かべるエヴァを見上げながら抵抗を諦める。すると、そのネギの視界いっぱいにエヴァの足の裏が大きく迫ってきた。


「へみゅ……」

「どうした、たった20秒だぞ、3対1とはいえせめて1分は持たせろ」

「マスターが微妙に私達に魔法の照準を向けなければ、12秒程度で終わっていたと思いますが……」


 エヴァは無表情に突っ込みを入れる茶々丸をスルーすると、その怒りをぶつけるかのごとくネギの頭をグリグリと踏みつける。そしてネギはそんなエヴァに抵抗することなく、涙を流しながらエヴァの八つ当たりを甘んじて受けているのだった。
 

「まあ、横島達の修行で耐久力とスタミナが標準以上なのは認めるが、いかんせん戦い方が未熟! これではあの白髪の少年クラスの敵が出たら手も足も出んぞ」

「あうううう」

「さらにいくぞ」


 エヴァは休憩も挟まず、そのままネギを空中に蹴り上げる。


「手加減してやる……耐えてみせろ!!」


 エヴァは手に雷を纏わせてネギの胸に手を当て、そのまま魔力を解放させネギに叩き込んだ。すると、ネギはその衝撃に吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられる。
 だが、エヴァの攻撃はそれでは終わらない。エヴァは空中に浮かんだまま、次の呪文の詠唱を始めたのだ。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、来たれ虚空の雷、なぎ払え!『雷の斧』!!」


 エヴァは地面に叩きつけられたネギに雷の斧の魔法を叩き込む。その詠唱から発動までの時間は他の同LV帯の呪文よりはるかに短く、ネギは回避もままならないうちにその呪文の直撃を受け、大地に崩れ落ちた。


「今のが決めとしてそれなりに有効な雷系の上位古代語魔法だ……む?」


 エヴァは地面に降り立ち、先ほどの魔法の説明を始める。だが、その時、ダウンしていたネギがむっくりと起き上がりだした。


「まだ、まだです! こんな魔法僕には効きません!」


 ネギはそう言うと、しっかりとした足取りでエヴァにゆっくりと近づいていく。


「ほう、さっきのに耐えたか。ではこの魔法に耐えてみせろ『凍る大地』」


 エヴァは『雷の斧』を喰らってもまだ立ち上がるネギを見て、ほんの少しだけ本気を出すことに決めた。けっして「こんな魔法」呼ばわりされたことに怒っているわけではない、と思う。だが、ネギは『凍る大地』を喰らっても平然と立っていた。


「な! 貴様今のも耐えたのか!!」


 ネギはエヴァの魔法をまともに喰らったはずなのになんとも無いのか、肩口の凍った箇所をポンポンとはたき、そして馬鹿にしたような視線でエヴァを見つめ、鼻で笑っう。その行動は普段のネギならば考えられない行動なのだが、ネギの行動により頭に血が上ったエヴァは完全に逆上してしまう。


「いい度胸だ……ではコレでも喰らうがいい! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、契約に従い我に従え、氷の女王」

「いけませんマスター!」


 エヴァの背後に控えていた茶々丸はエヴァがどんな魔法を使おうとしてるのかを理解したのか、エヴァを止めようとする。しかし、エヴァは茶々丸の制止に耳を傾けることなく、目の前で笑っているネギに向かって魔法を解き放つ。


「師への態度をあの世で勉強し直して来い、このばか弟子がー! 喰らえ『永遠の氷河』」


 エヴァが魔法を解き放つと、ネギを中心として氷が辺りを包み込み無と同時に、空気中の水分が凍りついてダイヤモンドダストを形成し、エヴァ達の視界を奪う。だが、それは一瞬のことで、すぐに視界が晴れるとそこには氷の彫像と化したネギが物言わぬ骸と化して立っていた。
 エヴァは不遜な弟子の最後を看取ってやろうと一歩を踏み出した時、小さな音が鳴り響いた。


 ピシリ!



 それは本来なら聞こえるはずの無いほど小さな音だった。
 しかし、その音はエヴァの魔法の影響により、気温が急激に下がった空間の中ではっきりと響き渡る。
 エヴァはその音に足を止めると、その発生源に目をむけ、そこで信じられない物を見るのだった。


「ま、まさか、そんなばかな……」


 エヴァはそんなはずは無いと首を何度も振る。だが、いくら目をこすろうが、首を振って否定しようが、目の前で起こっていることは夢でも幻でもなく厳然たる事実である。そしてエヴァが必死に目の前で起こる事象を否定しているのを嘲笑うかのように、それはひと際大きな音を響かせて自らの戒めを打ち消す。
 エヴァの視線の先にいるのは、エヴァの放った魔法を完全に打ち破り、先ほどまでと変わらない様子でたたずむネギの姿であった。
 確かにエヴァにネギを殺す気は無い、事実先ほどの魔法も十分に手加減はしていた。しかし、いかに父親譲りの強大な魔力を持つネギであろうと、先ほど放った『永遠の氷河』から自力で脱出することは不可能なはずである。だが、現実にネギはなんでもないかのように体に張り付いた氷をはたき落とし、不気味な笑みを浮かべている。


「マスター、あなたの力はこんなものですか。今の僕には魔法は効きませんよ!!」


 ネギはどことなく失望したと言う風に首を振り、エヴァを見据える。と、同時にエヴァはネギに対して不気味なプレッシャーを感じた。
 そのプレッシャーはゆっくりとエヴァを包み込み、エヴァを蝕んでいく。本来のエヴァなら不遜な弟子に対してここで黙っているような人間ではない。しかし、エヴァを包み込んだプレッシャーは京都で暴走したタマモを髣髴とさせる暗い何かを内包しており、いかなエヴァとてうかつに動けなくなっていた。
 ネギは自分を睨みつけたまま動こうとしないエヴァに向かいクスリと笑うと、ゆっくりとエヴァに近付いていく。その足取り、そして表情は師に向かう敬意を含んだものではなく、圧倒的強者が弱者に対するかのようであった。
 エヴァはネギのあまりの変貌に声も出せずに目を見開く。しかし、ネギの変化はそれだけではなかった。
 ネギが一歩、また一歩近付くたびにネギの皮膚に張り付いた薄氷はその振動で地面に落ち、その下には傷一つ無い元通りの肌を覗かせる。いや、正確にはいつもと違っていた。
 ネギの変化の最たるもの、それは薄氷の下から覗くドス黒い肌であり、そしていつの間にか長く伸びた耳である。肌黒くなり、耳が無くなったネギ、それはファンタジー小説において悪役のエリート、ある意味ヴァンパイア以上の知名度を誇るダークエルフそのものであった。


「ぼーや、その肌の色は? それにその耳……」

「マスター、僕はついに力を手に入れました! もう貧弱だった今までの僕とは違う、僕の自由なる神ファラリス様の加護を得た今の僕はこんなに強くたくましい! ファラリス様、感謝しますー!」


 ネギは呆然と呟くエヴァの前に立つと、まるで感極まったかのごとく跪き、涙を流さんばかりに天に向かって祈りを捧げる。
 そしてネギは呆然としたままのエヴァに実にいい笑顔をむけると、まるでエヴァに慈悲を与えるかのようにそっと手を伸ばした。


「さあ、マスター。あなたも僕と一緒に神に祈りましょう、今こそ束縛なき自由なる神の御許へ!」


 エヴァはネギのあまりの変貌に言葉も無く、なにかヤバめのクスリをキメたような目をしたネギの迫力に負け、一歩後退する。
 だが、そのエヴァの腕を何者かが背後からつかんだ。


「ネギ君だめやでー」

「き、貴様は近衛木乃香!? なぜここにいる!」


 エヴァがびっくりして振り返ると、そこには先ほどまでいた茶々丸やチャチャゼロは姿を消し、かわりにこの場にいないはずの木乃香が無邪気な、まるで純真な子供のような笑みを浮かべて自分を見せていた。


「近衛木乃香、いい所にきた。とりあえずあのバカを何とかしてくれ」


 エヴァはなぜここに木乃香がいるのかは分からないが、とりあえずネギを何とかするのが先決と思い、やっかいごとを木乃香に押し付ける。
 だが、次に木乃香が放った言葉でエヴァは再び凍りついたのだった。


「ネギ君、エヴァちゃんは吸血鬼なんやから、ウチとこのカーディス様の管轄や♪


 木乃香はどこまでも透き通る笑顔で、同時にどことなく死の気配を漂わせながらエヴァの肩をガッシリと掴む。
 その迫力はエヴァをしても恐怖に顔を引きつらせるほどであった。


「だめですよ木乃香さん! マスターは束縛を嫌います、その性質はまさにファラリス様の従者にふさわしいんです。それに茶々丸さんやチャチャゼロさんだって神の教えに帰依しているんですよ!」


 凍りつくエヴァを他所に、互いにどちらの神がエヴァにふさわしいか喧々諤々の論争を繰り広げるネギ達。さらに、いつの間にかネギの背後には茶々丸とチャチャゼロが黒い神官服を纏って自分にむかって笑顔で手招きをしてたりする。
 エヴァはもうなにがなんだか分からない状態であった。だが、そのそんなネギ達からかくまうようにエヴァの手をひっぱる人物がいた。


「今度は誰だ! もう誰でもいいからアイツらを何とかして……く……れ」


 エヴァはそう言いながら振り返り、再び凍りついた。
 そこには――



「あのー、エヴァンジェリンさん。私と一緒に夢の国へ行きませんか?」



 ――胸元が大胆に開いた黒い全身タイツモドキに身を包み、蝶の仮面をつけた変態、いや自身のクラスメイトの宮崎のどかが両手を胸のところで組んでオドオドとたたずんでいた。


「宮崎のどか、貴様もかー! ていうかなんだその格好はぁー!」

「え? レスフェーン様の従者のパピヨンですけど……おかしかったですか?」

「突っ込みどころが多すぎるー! だが、とりあえずコレだけは言わせろ、その格好は武装な錬金のパピヨンだー!!」


 エヴァはあまりにも予想外の事態に頭を抱え、絶叫する。だが、その絶叫は事態の悪化を招くだけであった。
 なぜならその声を聞きつけたネギと木乃香が、論争を一時中止しエヴァに詰め寄ってきたからである。


「マスター! あなたは僕と一緒に神の教えを受けるんです!!」

「エヴァちゃんはウチと一緒に行くんや!」

「エヴァンジェリンさん〜夢の国は楽しいですよ〜、試験も学校もありませんよ〜」

「ああーもうなにがなんだか、もう横島でも誰でもいい! 誰か私をここから連れ出してくれ……って茶々丸、そのロープは何だ? それにチャチャゼロ、何故ムチとロウソクを……うわぁぁぁぁ!」


 ネギ達に詰め寄られる中、エヴァは天に届けとばかりに絶叫し、同時になにやら撮影機材一式を背景にし、怪しいアイテムを持って自分ににじよる従者たちに言い知れぬ恐怖を感じる。だが、いくら叫べど天の助けは来ず、ただむなしくエヴァの絶叫が天にこだまするのみであった。












「妹ヨ、起コサナクテイイノカ?」

「いえ、これはこれで中々良い絵です。とりあえず記録しておきましょう。あ、姉さん、照明の光度を落としてください」

「オオ、マカセロ」


 とある日の早朝、茶々丸とチャチャゼロはエヴァの部屋で撮影機材一式を持ち込み、新たな素材を熱心に収集していた。
 そして茶々丸のカメラの向こうには、苦悶の表情を浮かべて唸るエヴァがベッドの上で眠っている。そのエヴァは時折なにやら外見不相応の色っぽい声も発しており、その筋の方に流せば一財産間違い無しのプレミア映像が続々と記録されていく。


「シカシサッキカラドウイウ夢を見テルンダ?」

「ネギ先生の夢を見ているようですね、ですが……なにやら妙に顔が赤くて心拍数が上昇しているのが気になりますが……」

「色々トオイシイ夢ミタイダナ……ナラココハ起コサズニソットシテオクノガ従者ノ勤メッテヤツカ」

「そうですね……あ、マスターの目に涙が! これは貴重です!」

「オオ、チャント記録シタカ?」

「はい、記録は完璧です」


 茶々丸とチャチャゼロの撮影会、それはエヴァが起きるまでの2時間の間あらゆるエヴァの痴態を余すことなく記録する事に成功し、二人は密かに祝杯を挙げるのだった。
 彼女達の記録が世に出たらとりあえず魔法界は震撼することになるであろう、いや、表の世界も震撼するかもしれない。イロイロな意味で。




第26話 「秘められし才能の末路」






「ネギ先生の様子がおかしいって?」


 南国から帰還してより数日、中間テストを目前に控えて昼休みも教科書を開いて勉強していたタマモにアスナが話しかけてきた。
 聞くことによると、ここ最近ネギがエヴァの所から帰ると妙にヤツれていると言うのだ。確かに言われて見れば、今日の授業もなにかフラフラと足元がおぼつかない様子であった。


「横島さんとこでアレだけハードな修行やっててもピンピンしてたのに、エヴァちゃんとこで2,3時間の修行であそこまでヤツれるなんて絶対おかしいわ」

「あ、それ横島が文珠で無理矢理全快させてたせいだから」

「そうなの? 横島さんってほんっと反則よね……遭難した時だって二日目からは下手なホテルより上の快適空間つくりだして、みんな堪能していたし……」


 アスナは横島のあまりの反則ぶりを思い出し、文珠も含めてあらためて敬服した。


「まあエヴァに文珠が無いとはいえ、確かにニ、三時間であそこまでヤツれるのはおかしいわね」

「でしょ! だから今日ネギの後をつけて見ようと思うんだけど……」

「手伝ってくれ、ということ?」


 どうやらアスナはネギを尾行するのにタマモの助力を頼むつもりだったらしい。だが、タマモの言葉はアスナにとっていささか期待はずれなものであった。
 タマモは顎に人差し指を当てながら天井を見上げると、申し訳ないという感じでアスナに答える。


「んー、手伝ってあげたいのは山々なんだけど。私はこの後アヤカの所に行く約束してるのよね、中間も近いしさ」

「え、そうなの?! それじゃあ無理よね……しょうがない、私一人でいってくるわ」


 アスナはここでタマモという対エヴァンジェリン用決戦兵器を諦め、しょうがないという風にため息を一つ吐くとタマモから離れる。だが、そのアスナの背後から突然話しかける者達がいた。


「成る程、エヴァンジェリンさんの修行ですか」

「ネギ先生大丈夫なのかな……」

「それであんなにヤツれてんだ」

「私との朝練でもフラフラで気になってたアルよねー」


 上から夕映、のどか、朝倉、クーフェイの発言である。
 結局その後、アスナはなし崩し的に彼女達に加えて刹那と木乃香も交えてエヴァと合流したネギの尾行を開始するのだった。




 時は移り、ここは麻帆良学園都市の街中である。
 そしてここでいささか突然ではあるが、問題をひとつ出そう。


 問 尾行をする上で最も注意する事は何か。
 

「相手から距離をとるアル」

「物陰に隠れる……ですか?」

「被写体を見失わない事かな?」

「えっと……変装をする……のかな?」

「背後から影に潜り込んでってサクってヤツやなー」

「お嬢様、それはどこの忍者かアサシンですか……」


 クーフェイ、夕映、朝倉、のどか、木乃香、刹那とどれが彼女らの発言かあえて説明は省くが、約一名の不穏当な発言を除き概ね解答は正しいと言えよう。
 だが、ここにはまだバカレンジャー筆頭、神楽坂アスナの答えはまだない。そんなアスナの答えはというと。


「あんた達、尾行中はもう少し静かにしなさいよー!」


 メンバーの中でもっとも大きい声で叫ぶアスナである。確かに尾行中にわざわざやかましく騒ぐ馬鹿はいない。だが、彼女のとった行動は自ら自分の出した答えを否定するのに等しい行動であった。
 故に、朝倉、クーフェ、刹那によって強制的に口を押さえられる結末もまたやむなしといえよう。

 ともかく、彼女達は尾行する上で必要なことを十分に把握し、それを実行している。
 彼女達は今、尾行対象であるネギ達から30mは離れ、そして電柱に身を隠し、対象を見失わないように時に物陰から顔を出して確認し、一人の少女は変装をしようと懐から蝶の仮面を取り出そうとしてその隣でジュースを飲んでいた少女に没収されるなど、一応尾行の最低基準はクリアーしているかのように思われた。

 ――ただ一点を除いて。


「ねーママー、あの人達何してるのー?」

「見ちゃダメよ、早く行きましょ!!」


 ――集団で尾行している時点で、尾行する上で最も重要な『周囲の環境に溶け込む』という大原則に反していることに彼女達は気付いていない。
 ネギ達を追跡してすでに15分、彼女達は電柱の影からトーテムポールのように下から順に顔をだし、ネギ達をうかがっている。その行動はまさしく奇行であり、街中で浮きまくっていた。


「なんかさっきから街の人の視線が痛いような気がするんですけど……」

「これだけ女子中学生が集まって物陰に隠れてれば当然ですね」


 さすがに色々と恥ずかしいのか、刹那と夕映にとって無邪気な子ども言葉はかなりのダメージを与えたようである。だが、天は彼女達を見捨てなかった。
 彼女達にとって天の助けが、見るに見かねて声をかけて来たからである。


「えっと……みんな何をしてるんだ?」


 彼女達に声をかけてきた人物、それは仕事帰りなのか、スーツを着崩した横島忠夫であった。


「横島さん隠れて!」

「ちょ! アスナちゃん一体何を」


 アスナは横島を確認すると、神速の速さで横島のネクタイをむんずと引っつかみ、自分のもとへ引き寄せてそのまま物陰に隠れる。


「ふう、気付かれて無いわね……って横島さん?」


 アスナがエヴァ達に気付かれていないことを確認し、改めて横島を見ると、そこにはネクタイで首を締め上げられ、窒息寸前の状態の横島がいた。


「横島さんしっかりしてくださーい!!」


 その後、刹那を中心とした必死の介護によりなんとか横島は命の危機を脱することができたという。
 ちなみに、この時刹那は人工呼吸をするべきか否か葛藤し、木乃香の後押しを受けていざ決意した瞬間、横島は自力で回復した。惜しむらくはあと1分早く刹那が決断するか、もしくは横島が1分遅く目覚めれば大変面白い物が見れたのだが、過ぎ去った時はもう戻る事はなかった。


 

「で、今はネギの尾行をしていると言うわけなのか? この人数で」

「そうなんです」


 その後、アスナ達は横島が回復すると横島をそのまま拉致し、ネギ達の追跡を再開していた。そして横島はアスナ達がネギの尾行をしていることを聞くと、なんとも微妙な視線でアスナ達を見つめる。


「あ、そうだ! 横島さんって探偵モドキやってるよね。横島さんならエヴァちゃん達に気付かれずに尾行出来るんじゃない?」


 その時、朝倉が名案を思いついたようにポンと手を打つ。


「まあ、出来んこともないが……俺が尾行するのか?」

「お願いできないかな? それで横島さんの後を私たちが離れて着いて行けば、見つかるリスクも少ないしさ」

「んー……まあヒマだしいいか。それじゃあ適当に距離を開けて着いて来いよ」


 横島はそう言うとアスナ達から離れ、エヴァの追跡を開始する。横島のエヴァ達を尾行する姿は実に手馴れており、自分達のようにあからさまに物陰に隠れるようなことはせず、ただ周囲の風景や人波に紛れ、まるで世界と同化するかのようにその存在を薄くさせていく。
 そして横島が刹那達から10mも離れたころ、刹那も含めて全員の視界から横島の姿が唐突に消えていった。


「アレ? 横島さんが消えた……」

「せっちゃん、横島さん今消えてった。ドコや?」

「私にも感じられません! コレはどいうことなんでしょう……」


 刹那達は目の前で横島が霞のように消えたことによりパニック寸前になる。だが、その時突然刹那の目の前で聞きなれた声が響いた。


「何やってんだ? 早く着いてこないとネギ達において行かれるぞ」

「うにゃ!」


 刹那が奇声を上げながらあわてて前を見ると、そこにはやや呆れたような表情をした横島がたたずんでいた。


「あの、横島さんいったいドコに……」

「どこにって、普通にネギ達を尾行しようとしてたんだが」

「でも今私たちの目の前で横島さんが消えていましたよ」


 横島は刹那の言葉で何かを考えるようなしぐさをすると、やがて何かに思い至ったのかポンと手を叩く。


「あ、ついクセで対美神さん用の気配断絶をやってたからそのせいか。次はちゃんと普通の尾行をやるからな」


 横島は一言刹那たちに謝ると、今度こそ『普通の』尾行を開始する。そのため、今度は刹那達にもちゃんと横島の姿が確認でき、これで尾行は完璧となったのである。
 そしてアスナはやたら尾行に慣れている横島に戦慄を感じると共に、対エヴァンジェリン決戦兵器Mk2を手に入れた事に密かに笑みを浮かべるのだった。
 ちなみに、対エヴァンジェリン決戦兵器Zはチャチャゼロ、ZZは茶々丸として後に猛威を振るう事になるのだが、今のアスナには知る由もなかった。


「ところで刹那さん、対美神さん用の気配断絶ってどういうことなのかな?」

「さあ? ただそれほど気配を殺さないと気取られるほどの達人だったのでしょう……なんか釈然としませんけど」


 刹那はアスナの疑問に答えながら、自分の胸に妙なイラ立ちを感じていた。
 どうやら彼女は本能か、はたまた乙女のカンによるもので横島の気配断絶の本当の使い道を察知していた。
 そう、横島の見事なまでの気配断絶の使い道、それは美神への覗きである。横島は美神に対する数々の覗きで自然に気配を殺すことを覚え、今ではその気になれば目の前にいるのにその姿が感じられなくなるほどのレベルに達していたのだ。げに恐ろしきは横島の煩悩である。



 その後横島達は順調にネギ達を尾行し、やがてネギ達がエヴァの家に入るのを確認すると家の中に進入する。
 だが、家の中にはどこを探してもネギ達の姿はなかった。


「ネギ先生の姿が見えませんね……」

「おっかしいなー、ここでめくるめく18禁な展開を期待したのに」

「そんなわけあるかー!」


 皆はネギの姿が無い事に首をかしげている。だが、その時この場にいないはずの人物の声が横島の方から聞こえてきた。


「後は怪しいのは地下室ぐらいね、それより横島、はやく出してよ!」

「え!? タマちゃんの声? どこにいるの」


 朝倉はキョロキョロとあたりを見回す。たった今聞こえてきた声、それは紛れもなくタマモの声であった。しかし、声はすれど姿は見えず。いくら朝倉達が周りを見渡そうと、タマモの姿はどこにも見えなかった。


「あ、ここだここ。ほれ、今出してやるから暴れるな」


 横島は皆の混乱を他所に、懐から人形のようなものをつまみ上げる。すると、それを見たアスナは横島が手にした物を指差しながら叫んだ。


「あ! それって京都のとき刹那さんと同じ!」


 横島が摘み上げたものを見て、アスナは京都でみた『ちび刹那』を思い出していた。
 そう、それはあの時の刹那と全く同じ大きさをし、1kgと書かれているハンマーを手にしたタマモ、つまり『ちびタマモ』であった。


「あ、そういえばこの前タマモさんにあの術教えたんですよね」

「やっぱり刹那ちゃんが教えてたのか……今朝からコイツが付きまとってくれたおかげで碌にナンパが出来んかったんだよ」

「当たり前よ! アンタは見張ってないとすぐサボるんじゃない」


 どうやらタマモは横島のナンパ防止対策としてこの式神の使用方法を刹那に教わったようである。
 横島はちびタマモの言葉にガックリとうなだれ、「自由を返せー!!」と叫ぶ。
 ちなみにその脇で刹那とちびタマモが互いに視線で会話していた。


<ナイスですタマモさん>

<当然、刹那もフォローお願いね>

<任せてください、私も後で式神を放っておきます>


 これ以後、ちびタマモ&ちび刹那のタッグによる横島のナンパ阻止率は72%にも及んだという。



 その後、ちびタマモにより強制的に現実に戻された横島達は、地下室で見つけた塔のミニチュアモドキの中に転移していた。
 どうやら地下室で見つけたミニチュアは何らかの魔法装置のようである。


「これは……さっきのミニチュアの中?」

「だな、とりあえずあそこの建物の中に入ってみようぜ……たぶんネギはあの中だ」

「この中で修行していたってことアルかねー」

「たぶんな」


 横島は橋の向こうにある建物にネギがいると判断し、ゆっくりと手すりもない橋を渡っていった。
 ちなみにのどかはその橋のあまりの高さに怖がり、一人でわたる事が出来ず、刹那とアスナに手を引かれてようやく渡る事が出来たという。さらに余談だが、この時刹那は脅えるのどかの手を引きながら、自分がもしのどかの立場で横島に手を引かれる姿を想像していたのは彼女だけの秘密である。

 少々のまごつきはあったが、全員無事にわたり終え、建物の中に入っていく。
 その後暫くするとのどかが塔の中へ降りる階段を見つけ、全員で下に下りていくとやがて誰かの話し声が聞こえ、そしてその声を聞いた全員が凍りついた。


「ぼーや、これは師匠命令だ早く服を脱げ」

「エ、エヴァンジェリンさん……そんな……」

「私のことはマスターと呼べ、それに脱がないなら私が脱がせてやる」

「ああ、そんな……マスター、耳は……」
 

 奥の部屋から聞こえてくる声、それはネギとエヴァの声であった。
 どうやら朝倉の予想が当たったのか、聞こえてくる声はまるで男と女の情事のようであり、あまりの事態に横島を除く全員は顔を真っ赤にして沈黙している。


 ブチィッ!



 その時、アスナの方から堪忍袋の尾が切れたような音が聞こえ、アスナはゆらりと立ち上がりながらいつの間にか召還したハリセンを片手にゆっくりとネギ達のいる部屋へと足を向ける。
 そんなアスナの迫力は凄まじく、それを直視した朝倉はもとより、刹那や木乃香でさえ無言のままアスナに道を開ける。だが、そんな幽鬼のようなアスナに怯むことなく、横島はアスナの進路上に悠然とたたずんでいた。


「アスナちゃん……」

「なんですか横島さん、まさか止めるつもりじゃありませんよね」


 アスナの目は完全に据わっていた。アスナは握り締めたハリセンに力を込め、横島を睨みつける。その視線からは邪魔するなら殺すという気配がビンビンと伝わってくる。
 だが、横島はそんな鬼すら逃げるであろうアスナの気迫にひるむことなく答えた。


「ネギは任せろ!」


 横島はこれまたいつの間に手にしたのか『不能』と書かれた文珠を手にし、アスナにむかって親指を立てる。しかし、その文珠が夕映達に見えないよう工夫しているあたり、アスナと比べるとまだ理性がちゃんとあるのかもしれない。


「それじゃあ私はエヴァちゃんを殺るわね」

「くくくく、俺でもまだだというのにネギは10歳にしてチェリー卒業だと……ふざけやがってー!」

「アスナさん殺るってそんな! 横島さんも何物騒な物手にしてるんですかー!」


 刹那はいち早く復活するが、横島とアスナはそんなものに耳を貸す事はない。二人は刹那の制止をいとも簡単に振り切り、ネギ達がいる部屋へ突入していった。


「コラー! あんた達何やってんのー!」

「くおらネギ! 貴様よりによって中学生、それも自分の生徒に手を出すとは何事だぁー!」


 横島達は扉を蹴破り突入すると、そこにはエヴァに組み敷かれ、上半身裸となったネギがいた。
 しかもエヴァはネギの顔に覆いかぶさっている。まさに情事の決定的瞬間であった。


「神楽坂アスナに横島忠夫! 貴様らがなぜここに!」

「アスナさん!!」


 突然の乱入者にネギ達は混乱する。だが、横島達はネギとエヴァが混乱から回復する間を与える事はなかった。


「さてネギ、貴様には男としての極刑を言い渡す。自らの愚息に別れを告げるがいい!」

「エヴァちゃん! あんたって人は子供になんてことしてんのよー!!」

「ちょ! 横島さん一体何を……」

「マテ、何を勘違いしているか大概想像はつくがあえて言わせろ、誤解だぁー!」

「「問答無用ー!!」」


 その後、茶々丸の介入により事態が収拾するまでの30分、エヴァの別荘はあやうく壊滅の被害をこうむる事になる所であった。


 そして事態が収拾してしばらくの後、アスナと横島は正座するネギとエヴァを前にして腕を組み、まるで今にも断罪の刃を振るわんばかりの迫力をかもし出しながらエヴァ達を見下ろしていた。
 そのあまりの迫力を前にし、本来このような扱いを受けるいわれのないエヴァであったが、今はまるで借りてきた猫のように大人しく正座している。


「で、なんであんな事をしてたのよ」

「いや、ちょっと今朝の夢見があまりにも悪くてな。それで不安になってぼーやの耳と肌がつけ耳や白粉じゃないかどうかチェックしようとしただけなのだが……」


 どうもエヴァは今朝見た夢が心配になり、正夢でない事を確認するためにネギを脱がせ、肌の色と耳を確認していたようであった。
 そしてアスナはエヴァの言う『つけ耳』や『白粉』という単語を聞くと、エヴァがどのような夢を見たのか瞬時に察知する。
 

「エヴァちゃん……もしかしてネギがアレになった夢を……」

「ああ、お前の想像した通りだ、しかもぼーやだけじゃなく何故か近衛木乃香や宮崎のどかまでおかしくなっていたがな……」

「そ、そうなんだ……木乃香まで」

「のどかまで出てたですか……もしかして蝶……」

「言うな! 頼むからそれ以上私にあの夢を思い出させないでくれ」

 
 エヴァは忌まわしい悪夢を振り払うように頭を振ると、普段なら考えられないような弱々しい声で夕映に懇願する。彼女にとってあの夢はもはや思い出すのも忌まわしい悪夢と化していたのだった。
 そしてアスナと夕映は互いに原因に心当たりがあるため、顔を青ざめさせながら無言の言葉を交わす。

 一方、危うくネギの将来を奪うところであった横島は、なにやら沈みこむ三人を眺めながら人事のように呟くのだった。


「まったく、なんつー人騒がせな」

「一番騒動を拡大していた横島さんがソレをいいますか」


 実際の話、霊波刀も含めてすさまじい破壊の嵐を振りまいていた横島のいうセリフではない。
 事実、刹那の言葉には少々どころでない呆れが含まれていた。

 と、ここで今までキョトンとした顔で正座していたネギが、ようやく事態を把握したのか唐突に手を叩いた。


「そうか、アスナさんはそれでさっきから騒いでたんですか。それにマスターもせっかちなんだから……僕は『まだ』そこまでの高みに至ってませんよ」

「……」


 ネギの場をわきまえない発言と共に、重苦しい沈黙が周囲の空間を支配する。
 そしてその沈黙を破ったのは異口同音にでた少女達の声でであった。


「「「「まだ?」」」」

「ネギ……あんたチョットこっちにいらっしゃい」

「ぼーや、ちょっと来い。今後のことについて色々と話し合おうじゃないか。とくに貴様の信仰する宗派とやらについて……」

「へ!? アスナさん、マスター!? 一体何を……」


 ネギはわけのわからぬままアスナとエヴァに両手を、さらに何故か死神に足を捕まれ、ずるずると奥の部屋へと引きずり込まれていく。
 やがて――


「死神の鎌はいやぁー! アスナさんゴメンなさぁぁぁい! マスター、その魔法はダメー!」


 ――ネギの絶叫と塔を揺るがす破壊音が響き渡るのだった。





 その後、ようやくネギへの折檻が終了したエヴァはアスナ達にこの別荘の用途を説明していく。ちなみにエヴァの脇には何があったのか、髪が真っ白になったネギが魂を口から吐きながら横たわっているが、それについて言及する勇者はいなかった。
 魂が抜けているネギはともかく、早い話がこの別荘は外と時間の流れが違い、ここでの一日は外での一時間に相当するらしく、さらにこの別荘は一度入ると別荘の中で一日たたないと外に出られないらしい。
 それゆえ、アスナ達はこの別荘で一夜を明かすことになり、その後当然の流のごとく宴会を始めるのだった。


「なに? 私に魔法を教えてほしいだと?」


 宴会が一段楽した後、夕映とのどかはエヴァに教えを請うべく直談判していた。彼女達、特に夕映は魔法という夢とファンタジーの存在を知ったため、今まで何度もネギに魔法を教えてもらおうと迫っていたのだが、ネギは決してその首を縦に振ることはなかった。
 そのため、エヴァがネギの師匠であるということから、ネギと一緒に彼女から魔法を教えてもらおうというつもりなのだ。
 だが、いざ意気込んでエヴァに師事を頼んでも、彼女もまたネギと同じように首を縦に振ることはない。ただし、その思いの根底はネギはのどか達を危険に近づかせまいという心遣いからであり、エヴァはといえば――


「そんな面倒な事をなんで私がしなきゃならんのだ、魔法を教わるならホレ、そこに魔法先生がいるだろう」


 ――ひたすら熱意というものがかけていたのだった。そしてエヴァは全身でそのやる気のなさをアピールするかのように、本を読みながらゴロリと寝転ぶ。
 ちなみにその本は「正しい弟子の矯正方法&折檻100選」と書かれている。彼女としては、最近我が身に降りかかる厄介ごとの根源がネギであるだけに、なんとかネギを自分の望む悪人に仕立て上げようと必死のようである。


「だいたい私はぼーや以外では、そこの横島忠夫以外弟子にとる気は無い」

「だから俺は今更勉強なんかいやじゃっつーに」

「ええいまだそんなことを!だいたい貴様はだな……」


 その後、横島とエヴァは刹那とちびタマモを交えての喧々諤々の争奪戦が繰り広げる。そしてもはや完全に忘れ去られた感のある夕映たちはといえば、ただひたすら目の前で繰り広げられる人知を超えた戦いに呆然とするのだった。


「えーっと、私たちの魔法の件は?」


 その後、結局彼女達はエヴァにお墨付きをもらい、晴れてネギから正式に魔法を習うことになった。
 ネギは少々戸惑いながらも早速初心者用の杖を数本取り出し、簡単な魔法を実演する。


「この杖を振りながら”プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカット”です」


 ネギが呪文を唱えると、杖の先から小さな火がともる。それはライターの火のように小さく、熱量もたかが知れている。しかし、その火は間違いなく魔法の産物であり、自分たちが知るいかなる自然現象、科学技術とも違う神秘的な火であった。
 そしてそれに触発されたのか、それを見た朝倉達も杖を取り、続々と練習していく。だが、本来なら数ヶ月もの修業の後、ようやくできるはずのものであるから当然誰も成功するものはいなかった。


「なあ横島、お前ちょっとやってみないか?」


 皆の喧騒を他所に、エヴァはちびタマモを頭の上に乗せた横島にたずねる。どうやら横島に魔法を使わせ、興味を持たせるように仕向けるようだ。
 エヴァの見立てでは横島の内包する魔力は自分はもとより、ネギや木乃香に劣るものの、魔法を使う上では十分であり、鍛え方次第では一流一歩手前程度の魔力がある。
 故に、今回のどさくさで横島に魔法という概念の一端でも覚えさせ、あとはなし崩し的に弟子にしてしまおうと考えたのだ。
 

「俺が? でもどうせ出来ないと思うがなー」

「まあ、そう言わずやってみろ。この中は魔力が充実してるから結構簡単に出来るぞ」

「ふむ……まあ、ダメ元でやってみるか」

「あ、ちょっとまて。手伝ってやる」


 横島は頭をかきながら杖を手に取り、呪文を口にしようとした。この時、エヴァは横島の横に立つとそっと手を重ねて横島の魔力に干渉し、横島の魔力を呪文に乗せ易くする。こうすることにより、エヴァの干渉した魔力に誘導され、横島は確実に魔法を発動できるはずであった。


「えーっとたしか……プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカット!!」


 横島は少し照れながら呪文を唱え、杖を振るう。ちなみにこの時エヴァにドキドキしているわけではなく、ただこの呪文が恥ずかしいだけだと心の中で自分に言い聞かせていたのは誰も知らないことである。
 この時横島は自分の中にある表現できない何かが体中をめぐり、呪文を唱え終わると同時にその杖に向かって集中、収束していくのをはっきりと感じた。しかし、杖の先にはいくら待っても灯りが灯る気配はない。やはり皆と同じように失敗したのだろうと、横島は早々に諦め杖を手放そうとした時、それはおこった。


「やっぱり無理だったか……ん? エヴァちゃんどうした?」


 横島は予想通りの失敗に気落ちした風もなく杖を置こうとしたが、ふとエヴァの方を見るとエヴァはポカーンと口をあけてこちらを見ており、そして顔を青ざめさせながらなにやら叫びだした。


「よ、横島! そこを動くな!」

「マスター、どうしたんで……す……か」


 エヴァの絶叫があたりに響き、それに気づいたネギ達も横島を振り返り、エヴァと同様に見る見るうちに顔色をなくしていく。
 見ればなにやら刹那が顔を青ざめさせながら必死にこちらに手を伸ばし、それをなにやら切羽詰った表情のちびタマモが刹那の襟首をつかんで押しとどめている。
 ことここにいたり、横島は自分に何かが起こったのだと悟るが、体を見下ろしても何の変化も見えない。


「おい、どうしたんだみんな?」

「横島、いいからそこに居ろ。神楽坂アスナ、そこの窓を開けるんだ! 急げ!」

「ちょ、まて! 俺に一体何が!」

「横島さん、杖! 杖の先見てください!!!」


 横島はネギに言われ、先ほどから持っていた杖に目を落とす。すると、そこには膨大な魔力が炎の形をとり1cm程の塊に凝縮され、今にもあふれださんとしていた。
 何故このような事態になったのか、それは横島の霊能に深い関わりがある。
 本来、横島の内包する魔力は低くはないが、逆に飛びぬけて高いわけでもない。そしてそれは横島の霊力もまた同じである。しかし、それでも横島は霊力を集束させた盾、霊波刀を駆使し、そして霊力の集束の最たる文珠を使いこなしている。
 これは、横島が霊力の集中・集束に対して並々ならぬ才能を持っていることを意味しており、今回使用した魔力もまた霊力と同じように集中・集束し、あわせてエヴァにより通常より多めに集まった魔力が本来なら明かりをともすだけのはずだった魔法を、とんでもない火球の魔法にまでランクアップさせたのだった。


「ここここここれは……」

「横島、杖を離すな! 今それを離すと魔力が開放されてこの部屋が消し飛ぶぞ!」


 エヴァはそう叫ぶと横島の手をむんずと引っつかみ、そして吸血鬼のフルパワーで横島を開け放たれた窓から外へ向かって放り投げる。


「のわあああああああああ!!!!」


 横島は放物線を描き、別荘から遠く離れた海へと落下していった。
 そして10秒後。



 ZDOOOOOM!!!!!



 耳をつんざくすさまじい爆発音と共に、核爆発に匹敵するエネルギーが吹き荒れ、爆風が別荘を襲う。そしてようやくネギ達が恐る恐る窓から顔を出すと、横島の落下点にはきのこ雲が立ち登り、海水が綺麗に円形に蒸発していた。


「ちょ! 横島さーん!」

「すさまじい威力だな……というかいったいどうやったら初級魔法であんな破壊力が……」

「なまじ横島に才能が有ったゆえ……といったからかしらね。とことん常識ハズレなやつだし」


 皆が黙祷し、十字を切る中、ただ一人刹那だけが横島の身を案じ、その悲鳴が別荘の中にこだましていった。
 ちなみに10分後、横島は普通に復活してまるでリカバーで消費したエネルギーを補うように料理を食いまくり、もはやそのことに突っ込むものは誰も居なかったという。
 つくづく慣れとは恐ろしいものである。


 やがて日は沈み、月が静かに夜空を彩る。
 皆は昼間の騒動に疲れたのか静かに眠りについていた。だが、皆が眠りにつく中でアスナはふと目を覚まし、外へフラフラと歩いていく。
 その時、アスナは広場に誰かが居るのに気がついた。

 アスナが広場に目をやると、そこではネギが熱心に魔法も交えた拳法の動きを繰り返していた。


「さーすが魔法先生、天才少年は違うわねー」

「アスナさん!」


 どうやらネギは昼間遊んだ分を取り戻すために今練習していたらしい。
 アスナは少々がんばりすぎる傾向のあるネギに少々の不安を感じていた。


「あの・・・…アスナさん」


 ふと二人の会話が止まったとき、ネギはポツリとアスナに声をかけた。


「え、何?」

「ちょっとお話を聞いてもらっていいですか?」

「いいけど、何なの?」

「アスナさんには話しておこうと思いまして、僕ががんばる理由を……6年前、僕が父さんと出会ったとき何があったのかを……」


 ネギはアスナをパートナーとして見る以上、自分ががんばる理由を話すつもりでいた。そしてそのために自分の記憶をアスナに見せようと決心したのだった。


 アスナは今、ネギが体験している過去の世界にいる。
 そこではネギの幼いころの体験を映画のように見ることができた。

 そこでは一人で熱心に魔法の練習をする姿、父を慕いその父の絵を描く姿、犬にイタズラする姿がアスナの目の前で繰り広げられていく。
 やがて時は移り、小さなネギはネカネを迎えるために釣りを中止し、村に帰ろうとしていた。

 だが、村にたどり着いたネギの前には燃え盛る炎が村を包んでいた。
 ネギは子供心に怯えながらも、村の中にネカネを探しに入っていく。そして村の中でネギは石とかした村人を見つけ、呆然とたたずんでいた。

 ネギはこの時、自らを責めた。
 自分がピンチになれば父が、尊敬するサウザンドマスターが助けに来ると願ったから村がこのようなことになったのだと。そして泣き崩れるネギの前に異形の悪魔たちが姿を現していく。おそらくこの悪魔たちが村を襲い、村人を石化させたのだろう。
 そしてその悪魔がゆっくりとネギに迫り、巨大な拳をネギに振り下ろした。
 だが、その拳がネギに届くことはなかった。

 ネギが目を開けると、そこには巨大な拳を受け止める青年がたたずんでいた。
 その顔立ちはどことなくネギに似ている。

 それから繰り広げられた光景はまさに虐殺であった。
 その青年の圧倒的な力は悪魔たちをいとも簡単に蹴散らし、やがて最後に残った悪魔の首をへし折る。
 ネギはそれを見て恐怖にかられたのか、青年の前から逃げ出してしまう。

 青年の前から逃げ出したネギはネカネを探すため再び村をさまよう。だが、そのネギの前に再び一体の悪魔が姿を現した。
 その悪魔は口を開きその口から光線を放つ。だが、再びネギの前に立つ人影があった。
 それは探していたネカネ、そしてネカネの祖父のスタンであった。
 しかし、この二人はネギを守ることには成功したが、悪魔の光線をまともに受けたため徐々に石化していく。
 やがて、ネカネの足は完全に石化しして砕け散り、気を失う。スタンは最後の力を振り絞り、悪魔を瓶の中に封じていった。

 やがて、すべての悪魔がいなくなったのか、ネカネの前で泣くネギの前に先ほどの青年が姿を現す。
 その青年は燃え盛る村からネギとネカネを連れ出し、ネカネを治療していく。
 そしてその青年はネカネを守るように青年の前に立つネギに、自らの杖をわたし、空のかなたへと消えていった。

 後に残されたのは助けてくれたのが父と気づき、泣き叫ぶネギだけであった。




 ネギの過去を見終わった後、いまだにその時の罪悪感にとらわれるネギにアスナは語りかけていた。
 だが、ふとアスナはネギの背後に大量の人影がいることに気づく。

 そこには、涙を流して打ち震える横島たち一堂がいた。


「くううううええ話やー! ネギ、強く生きるんやで!!」

「うう、ネギ君にそんな過去が」

「「「「ネギ先生ー!!!」」」」


 涙に濡れるのどか達はいっせいにネギの元へと殺到していく。


「ネギ君! 及ばずながら私もお父さん探しに協力するよ!」

「き、聞いてたんですか皆さん!? ていうか一体どうやって!」

「あ、宮崎のどかのアーティファクトを使わせてもらったぞ」

「マスター! 何てことするんですかー!」

「いや、まあちょっと興味があってな……うん私も協力してやらんこともないが」

「ちょ! 何いってるんですか! 横島さんあなたもみんなを止めてくださいよ!」

「あきらめろ、ネギ。こうなった彼女達を止められると思うか?」

「そんなあああ!!」


 ネギがいくら泣けど叫べど、もはやこうなった彼女達は止まらない。そして彼女達はネギの父親を見つけるべく協力することを約束すると共に、何故かネギの父親が見つかることを祈願しての宴会を再び繰り広げるのだった。


「なんかあるとは思ってたけどそんな過去があったのねー、けど過去を引きずってちゃ碌な事にならないわよ……横島みたいに……」


 皆が喧騒に包まれる中、ちびタマモは横島の頭の上でポツリとつぶやく。


「ん? 何か言ったか、タマモ?」

「なんでもないわ、さ、早く行きましょう」


 ちびタマモは何かを誤魔化すようにそう言うと、横島の髪を引っ張りながら皆の中へと入っていく。
 そして横島は自分の髪をつかむちびタマモの襟首をつかみ、胸ポケットに入れると改めて喧騒の中へ突入する。目指すはテーブルを彩る大量の料理、貧乏性の横島にとっていかにシリアスシーンであろうと、栄養摂取の機会を逃すわけにはいかない。

 ここで横島はふとネギを見つめて考える。自分はかつてこの手で大切な人の生きる機会を捨てた。そしてネギは自分のせいでもないのに、6年前の事件に囚われ続けている。きっと自分にもっと力があればもっと村の人を助ける事が出来るのではないか、そう考えているのだろう。
 横島としてもかつてもっと力があれば大切な人、ルシオラを助けられたのではないかと思い悩んだ時期も有っただけに、ネギの考えは手に取るようにわかる。そしてそれに対するには時間が解決するしかないということも理解していた。
 横島はここでふと、胸元にいるちびタマモに目を落とす。
 考えてみれば、自分はあの事件の後、美神やおキヌちゃん、そして何も知らないはずのシロやタマモと毎日を過ごしているうちに今のようにルシオラを失った悲しみからは完全に立ち直る事が出来た。そしてネギもまた少々憎らしいが、アスナをはじめとして将来有望な少女達がきっとネギを支え、時には支えられながらお互いに成長していくのだろう。
 横島は無意識にちびタマモの頭を撫でながら、ネギの行く末にちょっぴり嫉妬しつつ、微笑ましく見守るのだった。


 ここで余談だが、頭を撫でられるちびタマモをうらやましそうに刹那がチラチラと見ていたのに横島は気付いていない。
 そして後にちびタマモとちび刹那は、横島の胸ポケットの座を巡って微笑ましい戦いを繰り広げることになるのだが、それは横島の知る由のない未来の出来事であった。

 



第26話    end





「横島の過去……か、やはり何か秘密があるのか?」

「あのーエヴァンジェリンさん、そろそろ本を返してもらえませんか?」


 タマモの呟きを聞きつけ、エヴァが横島の過去についていぶかしがっていると、のどかがすこし怯えのはいった表情で話しかけてきた。
 するとエヴァはしばしの間思案顔になり、やがて何かを思いついたのかその顔を上げる。


「ああ、そうだな……そうだ! すまんがもう少し貸せ」

「ええ! ダメですよー」

「まあ、そう言うなちょっと横島の過去を見てみようと思ってな、今ならぼーやに触発されて自分の過去も多少なりとも表層意識に出ているはずだ」


 どうやらエヴァはのどかのアーティファクト『イドの絵日記』で横島の過去を見るつもりらしい。


「あの……どうしたんですか?」


 そんな中、なにやらもめているエヴァ達を怪しんだのか、刹那が話しかけてきた。


「ああ、刹那さんいいところに。エヴァンジェリンさんを止めてください。横島さんの過去を見るって聞かないんですー」

「な、エヴァンジェリンさんダメですよ!!」

「まあ、硬いこと言うな。それに貴様も興味がないか? 横島忠夫の過去に……それにただでさえでも横島の過去を知るタマモのヤツにリードされているんだ、ここらで差を詰めておかんと後々苦しくなると思うがな」

「ぐ……そ、それは……」


 刹那はここで思わず横島を見つめる。すると、そこでは横島がなにやら慈しむような表情で胸ポケットに入っているタマモの頭を撫でており、当のタマモは気持ちよさそうに目をつむり、横島のされるがままになっていた。


「……いいなー、タマモさん……」


 エヴァは刹那が横島たちを羨ましそうに見ているのに気付くと、ここがチャンスとばかりにたたみかける。


「なあに安心しろ、他言することはない。貴様は私がやることを止めようとして誤って見てしまった、それだけだ」

「え!? いや……でも、それは……」


 エヴァは言葉巧みに刹那を取り込んでいき、結局最後に刹那はエヴァに言いくるめられ、刹那とのどかは横島の表層意識を見ることになってしまった。


「では、いくぞ……」


 エヴァはゆっくりと本を開く。
 そこに現れたものは――





<ふう、今日の政務もようやく終わりましたか>

<おお、キーやんお疲れさん。今ミカンのいいやつが手に入ったところや、食わんか?>


 ――なにやらいつもの絵日記風ではなく、しっかりとコマ割された漫画のような形で絵が浮かび上がり、そこでは神を祭る某所で磔にされている偶像とよく似た姿をした人物と、12枚の羽をもった角を持つ異形がどこかの部屋の一室でミカンを食べながらTVを見ていた。
 刹那たちは何がなんだかわからないうちに、次々とそのコマは進み、次の絵を映し出していく。


<いいですねご馳走になります。しかしサっちゃんアナタは良いんですか? 政務はまだ終わってないんじゃあ>

<そんなもん部下に任せて逃げて来たんや。ちっとは息抜きせんとあかんっちゅうーに>

<まあ、いいですけどね……しかしここは和みますねー>

<まったくや、横っちには悪いが保養所を意識下に作って正解やったわ>

<おや、悪いと思ってるんですか?>

<まさか>

<やっぱりアナタは十分に悪魔ですよ>

<なんのキーやんの腹黒さにはかなわんわ>


 二人は和やかにミカンを食べながら談笑していたが、ここでふと神っぽい何かがミカンを食べていた手を止め、虚空を見つめる。


<む!?>

<どうしたんやキーやん>


 神っぽいなにかは、悪魔っぽい何かに手をかざして押しとどめると、やがて右手を自分の顔に当てて隠しつつ、まるで刹那たちが見えているかのように刹那達に向けて左手で虚空を指差す。その姿は某奇妙な冒険に出てくるDI○様そっくりの立ち姿であった。


<エヴァンジェリンさん! あなた見てますね!>

<お、マジか!? 刹那の嬢ちゃんもいるやないけ、よろしうなー>


 悪魔っぽいなにかは、神っぽいなにかが指し示す方を見ると、にこやかな笑みを浮かべてまるで刹那達が見えているかのように手を振っていた。


「「「……」」」


 ――パタン


 エヴァは沈黙が支配する中、ゆっくりと本を閉じる。


「あの、エヴァンジェリンさん……今のは一体?」

「刹那、それに宮崎のどか。いいな、私たちは何も見ていない、何も見ていないんだ」

「ですが今の12枚の羽にどこかで見たような格好をした人物って……ていうかアレってひょとして」

「よせ刹那! いいか、私たちは何も見なかったんだ……それだけだ」


 エヴァはそう言うと無言でのどかに本を返し、おぼつかない足取りで部屋へと帰っていく。きっと今夜も彼女は悪夢を見ることになるであろう。
 そしてその場に残された刹那達は、本を手にしたままお互いに顔を見合わせる。


「あのー刹那さん……今のはいったい?」

「とりあえず……私たちも見なかったことにしましょう」

「そうですねー、なんか下手したら人類の3分の1を敵にしてしまいそうですし……」


 なにかこう、いろいろな意味で横島の恐ろしさを知った刹那は今回の出来事を心の奥底に封印することに決めたようである。
 事実刹那たちはこのときの出来事について、生涯にわたって話す事はなかったという。



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