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「ネギ! いつまで寝てんのよ、いいかげん起きなさーい!」

「あううう、今日はおなかがー」


 ネギとエヴァが桜通りで激突した翌日、女子寮の一室でネギとアスナが押し問答を繰り広げていた。


「先生のクセに登校拒否ってどういうことよ、いいから起きて学校へ逝きなさい」

「アスナさん微妙に字が違うと思うんですが」

「いいから起きろー!」


 昨夜エヴァに血を吸われそうになった事がよほど怖かったのか、ネギは布団の中に潜り込み、明日菜に精一杯の抵抗を示すが、所詮齢10歳の少年では純粋な腕力でアスナにかなうはずもなかった。
 アスナは無理矢理ネギを抱え込み、米俵のように担ぎながら部屋を出て行こうとしたが、その時部屋の奥から地の底から聞こえるような恐ろしげな声が聞こえてきた。


「ア〜ス〜ナ〜……うちを置いていかんといてー」


「こ、木乃香……」


 その声は、今まさに部屋を出ようとしていた明日菜を呼び止める。
 アスナは今朝から可能な限り木乃香のことを意識から排除していたが、ここにいたってはもはや無視できず、覚悟を決めて木乃香の方を振り向く。


「こ、木乃香は具合悪いんでしょ、今日は休んだほうがいいと……ヒィ!」

「ウ〜チ〜は〜大丈夫〜や〜」


 明日菜が振り向くと、そこには髪の毛を前にたらし、微妙に顔を隠した木乃香が目の前に迫っていた。
 目が異様に光っていたような気もしたが、そこは気にしてはいけない。


「こ、木乃香……わかったから、もう置いていかないから、お願いだからそのテレビから這い出てきそうな格好はやめてー!」


 アスナは泣いて木乃香にしがみつき、昨夜、木乃香を生贄に魔界から逃げ出した事を必死で謝るのだった。

 横島とタマモ、二人が気付かないところで世界の侵食は広がっていく。



第5話 「Mad lunch party」




 タマモは今日で二日目になる学校の廊下を鼻歌を歌いながら歩いていた。
 タマモにとって学校で学ぶ学問は新鮮であり、またクラスメイトとの語らいや、ネギとのやりとりは重要な娯楽となりつつあった。

 もっとも、内心全力で突っ込むことが出来ない事に不満もあったりするが、そこまで望むのは贅沢というものであろう。


「まあ、全力で突っ込む相手は横島で十分か」


 自分の内心を独り言でポツリともらし、そのまま廊下を歩いていると、やがて3−Aの教室の入り口が視界に入ってくる。
 だが、その入り口は妙に混雑しており、タマモは廊下の端からそれを妖狐特有の視力で確認すると、どうやら入り口付近でネギ達がなにやらもめているようだった。






 時間は少し前に戻る。

 ネギは朝の騒動の後、半ば以上強制的にアスナに米俵のように肩に担がれ、登校させられていた。
 そしてまだ心の準備も出来ないまま教室に到着し、アスナはネギの心の叫びも無視してその扉を開くのだった。


「おっはよー!」

「みんなおはよー」

「うわーん、まだ心の準備がー!!!」


 普段どおり明るく挨拶するアスナと木乃香、アスナに抱えられてジタバタするネギといういろいろと突っ込みどころのある絵面で教室に入るネギたち。
 ちなみに、木乃香は普段の登校風景と、アスナ必死の介護により日常を取り戻したようだ。


「ほら、ネギ! いつまでしがみついてるのよ。早く降りなさい」

「でも……」

「大丈夫、エヴァちゃんはいないみたいだから」

「え?……エヴァンジェリンさんですか?」


 アスナはネギがおびえていたのはエヴァンジェリンに襲われたせいだと思っていたのだが、ネギの口ぶりからすると、どうやら違うようだ。


「ネギ、アンタはエヴァちゃんが怖くて学校来るの嫌がってたんじゃないの? ほら、昨日襲われそうに……」

「あ、そうでしたね。でも、そんな些細な事ことよりももっと重要な事が……」

「ささいなって、アンタ昨日それで命落としかけたんじゃあなかったの?」


 アスナは昨日の出来事を「些細な事」といって流そうとするネギに首をかしげる。
 一方でネギは、先ほどからなにかを探しているのか、教室内をずっとキョロキョロと探していた。


「よかった、いませんね」

「ネギ先生、エヴァに脅えてるんじゃないなら、いったい誰にそんなに脅えているの?」

「それはもうタマモさんに決まってるじゃないですか、あのエヴァンジェリンさんを脅えさせ、あまつさえ自分の兄をあそこまで拷問にかけるだなんて……人間にできる所業じゃありません!」


 ネギは昨日の出来事がよほど怖かったのだろうか、目に涙を浮かべていた。
 その姿はまさに命の危機に脅える小動物のごとくであり、その破壊力はアスナをして、己の好みも忘れてネギを抱きしめたくなるような衝動に駆られてしまうほどだった。


「ま、まあ確かに昨日のタマモちゃんは凄かったけどさ。アンタ曲がりなりにも教師なんだから生徒に脅えるのはどうかと思うんだけどなー」

「でも、でも! 昨日は本当に怖かったんですよ!」


 アスナは必死に己の衝動に抗い、それと同時に昨日の事件を思い出して顔を青ざめさせる。
 
 実際の話、昨日の事件はショックだった。
 あのおっとりとした木乃香でさえ、まだ序の口といえる序盤でトラウマを背負ってしまったのだ。ましてや、そのクライマックスを間近で目撃してしまった以上、まだ子供であるネギには少々刺激が強すぎたというものである。

 アスナは涙ながらに自分にせまるネギを見ながら、最後まで目と耳をふさぎ、ネギを強制的に眠らした己の判断は正しかったと確信するのだった。

 そしてアスナはこの時ふと気がついた、先ほどネギに質問したのは自分ではないということを。


「ネギ……ところで今気がついたんだけどさ。さっきネギに質問したのは誰?」

「え、アスナさんじゃなかったんですか?」

「私はさっきの曲りなりにうんぬんを言っただけなんだけど……」

「い、いやだなーアスナさん。さっきちゃんと誰に脅えていたかって聞いたじゃないですか」

「いくら私でも、エヴァちゃんじゃないとしたら誰に脅えているかぐらい察っせるわよ」

「……と、ということは……」


 ネギは、恐る恐るといった感じでアスナの体によって隠された廊下を見た。


「はーい、ネギ先生、アスナ。おはよう」


 そこには満面の笑顔を浮かべたタマモが手を振りながら廊下に立っていた。
 もっとも、その額には微妙に青筋が浮かんでいるのが気になるところである。


「たたたたたたタマモさん!」


 タマモは自分を見ると、アスナに隠れるようにして自分を見上げるネギに少々呆れたようなため息を一つ吐く。


「まったく……ネギ先生、そんなに脅えなくても何もしないわよ」

「ほ、本当ですね!? 嘘じゃありませんよね!? 油断させといて頭からガブリとか、ハンマーでドッカンとかそんなのありませんよね!?」

「ひ、人をなんだと思って……ともかく、そんなことしないから落ち着きなさい!」

「イ、イエッサー!」


 ネギはビシリと敬礼をすると、直立不動の姿勢をとる。
 タマモはそんなネギをなにか諦めたような視線で一瞥した後、こんどはアスナに視線をむけた。


「ごめんね、アスナ。この様子だと、昨日迷惑かけちゃったみたいね」

「いや、いいのよ。ちょっとショッキングだっただけよ」

「それならいいんだけどさ。私もちょっとうかつだったわ、いくらなんでも普通の人がいきなりアレを見たら、そりゃ脅えるのも無理もない話よね」

「まあ、確かにちょっと強烈だったけどさ……って普通の人ってネギやエヴァちゃんが?」

「普通じゃないの?」

「……ま、まあ確かに普通よね。うん」


 アスナは昨日の出来事を正確に思い出そうとする脳を強制的にシャットダウンさせながら、タマモに頷いた。

 だが、アスナ達は知らない。
 木乃香がトラウマを抱え、ネギとエヴァが恐怖に身を震わし、アスナがかたくなに見るのを拒否した昨日のあの事件でさえ、横島がいた世界においては『ぬるい!』と表現される程度のものであったことを。


「だいたい昨日は失敗だったのよね」

「失敗?」

「そう、普通なら横島は5分と立たずに復活するはずなんだけどさ、昨日は復活するのに30分もかかったし、手加減間違えちゃったわ」

「あ、アレで手加減って……」

「前いたところじゃ、美神っていう人がその辺の加減知り尽くしていたから、最大でも10分で復活するように調整していたんだけどね、私もまだまだ甘いわ」

「甘いって……ていうかそこまでやられて普通に復活している横島さんってどういう人なの?」

「生命力は人間を超えてるわよ、昨日なんか横島専属の死神が私にグチを言いに来るぐらいだし」

(専属の死神ってなによー!)


 アスナの心の絶叫を他所に、その傍らではいまだにネギは敬礼の姿勢のまま硬直していた。





 4時間目も半ばを過ぎ、窓際で春の心地よい風を感じながらタマモは授業を受けていた。
 もっとも、教壇に立つネギはドヨヨーンという効果音を背負い、何かを憂えた表情で授業を続けている。

 10歳の少年が憂いを含んだ表情で物思いにふけるその姿は、その筋の人が見たら一発でお持ち帰りしたくなるような絵面である。
 事実、雪広あやかを筆頭に何人もの生徒がネギの顔に注目していた。


「ネギ先生ー、もう読み終わりましたけどー」


 その時、教科書を読み上げていた和泉亜子がボーっとしているネギに声をかけた。


「ああ、スミマセンでした亜子さん……」


 ネギがあわてて授業を進めようとしたが、ふと、何かを思いついたかのように亜子に質問をする。


「あのー、つかぬ事を伺いますが、パートナーを選ぶ時、相手が10歳の年下の男の子なんてイヤですよね」


 それが引き金だった。
 ネギの突然の質問の後、教室は大混乱に陥いり、事態は収拾がつかなくなるぐらいになったが、ここで天の助けとばかりに授業終了のチャイムが鳴り響く。

 ネギはそれを好機と見て、うやむやのうちに授業を終わらせると、そのままフラフラとしながら教室を出て行くのだった。
 そんなネギを面白そうに見ながらタマモはつぶやく。


「なんかイロイロとせっぱつまってるわねー」

「その原因の半分は間違いなくタマモちゃんだと思うわよ……」


 タマモのつぶやきに突っ込むアスナだった。







 4時間目が終わる少し前、横島は学園長に呼び出されて学園長室に来ていた。


「突然の呼び出しはいったいなんでございませう。この後用事もあるんですが」

 学園長のかもし出すただならぬ雰囲気に、少し腰が引ける横島。こういったところはちっとも成長がないようだ。
 まあ、イロイロと呼び出しを受けそうな原因について身に覚えがありすぎるという点がその主な理由なのだが、それは気にしないでおこう。


「どうじゃな、この学園の生活にはなれたかの? 聞けば最近便利屋もどきの事務所を開業したそうじゃないか」

「ええ、なんとかやってます。もっとも事務所のほうは開店休業の状態っすから学園長からの依頼と、契約した警備の給料が俺たちの生命線になりますけどね」

「ならちょうどよかった、実は最近ちょっと困った事が起こっての」

「困ったことですか」

「うむ、横島君は桜通りの吸血鬼の噂は聞いた事あるかね?」

「あ、そっちのことっすか。いえ聞いた事ありませんが」

「なにか他に問題でもあったのかの?」

「いえ、アリマセン!! なにも問題ありませんです!!」


 横島は直立不動の姿勢をとり、即座に返答する。


「ふむ、まあとにかく詳しい事はこの報告書を見てもらおう」

「どれどれ?」


 横島は渡された報告書を読み始める。そしてしばしの後、見覚えのある少女の写真が添付された部分に注目する。


「あれ? この子はあの時の……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。3−A所属の吸血鬼!?」

「おや、横島君はその子を知っているのか?」

「ええ、昨日ネギ先生と戦ってるのを見ましたから」

「ふむ、それなら話は早い」

「まさか私めにこのお子様吸血鬼を滅ぼせ、とでもおっしゃるつもりでしょうか?」

「まさか、この件は基本的にネギ先生に任すように手配しておる。横島君はネギ君が失敗した時の保険じゃよ。それに彼女は学園の警備員でもあるから倒すわけにはいかん」

「その警備員が生徒を襲ってるんですから本末転倒っすねー」

「君も人のこと言えんと思うがの……」

「ナンノコトデショウ」

「ほっほっほ、さての。とにかく、君はネギ君が失敗した場合に動いてもらう。あとは事件の後始末ぐらいかの」

「了解しました。以上ですか?」

「うむ、以上じゃ。さがってよいぞ」


 横島は学園長の依頼を受ける事にした、まあ当座の資金がかなり不安でもあったので受けざるをえない状況でもあったのだが。
 横島は学園長室を後にし、もう一つの目的地に向かって歩き出した。





 現在の時刻はお昼休み。それは全ての学生が待ち望んだ昼食の時間である。
 教室の中は何組かのグループで集まり、弁当を広げ姦しく騒いでいる。


「さあ、お弁当〜♪」


 タマモは教室の隅で一人弁当を広げようとした刹那を見つけると、その前の席を確保して刹那と昼食をとろうとしていた。
 タマモの対面に座る刹那は、この時教室をぐるりと見渡して誰も自分達を見ていないことを確認すると、小声でタマモに話しかける。


「タマモさん、ちょっとよろしいですか?」

「ん? 別にかまわないけどどうしたの?」

「今朝ネギ先生達と話していたことについて、聞きたい事があるんです」

「今朝って言うと……ああ、桜通りでの出来事の話ね」

「ええ、そのことなんですが。昨日はいったい桜通りでなにがあったんですか?」


 刹那は昨夜の木乃香が普通でなかったことから、事情を知っていそうなタマモにたずねるつもりのようだった。
 タマモは鞄から自分の弁当箱を取り出しながら、昨夜の話を刹那に話して聞かせていた。


「……タマモさんの話を総合すると、桜通りで吸血鬼に襲われたのどかさんを助けた横島さんを勘違いしたタマモさんがドツキ回し、それを目撃したお嬢……近衛さんが恐怖のあまりトラウマをしょってしまったと」

「ま、まあ確かにそういう解釈の仕方もできるかも……」

「100人に聞いたら100人がそう解釈すると思いますが」

「き、気のせいだと思うなー」


 タマモは半眼で睨みつける刹那から視線をそらしながら、まるで誤魔化すように弁当箱の蓋を開ける。
 刹那も今現在木乃香は元通りでもあることだし、それ以上追求せずにタマモと同じように弁当の蓋を開けた。


「あああー!」


 刹那が自作の弁当を空けたとき、この世の終わりのような悲鳴がすぐ近くから上がった。
 その悲鳴の主は、刹那の目の前にいるタマモであり、当のタマモは弁当の蓋を開けた状態のまま固まっている。


「タマモさん、どうしたんですか?」

 
 刹那が固まっているタマモを揺り起こすと、タマモは目に涙を浮かべながら刹那に答えた。


「お弁当の中身……間違えて横島用のヤツを私のにいれちゃってた……」


 タマモはなにかひどくショックを受けたのか、放心したようにうなだれる。


「横島さん用ですか?」

「そう、横島用。ちなみに私用のは、ご飯の上に醤油とみりんで漬け込んだ最高級のお揚げが敷き詰めてあるの」


 タマモはそう言いながら刹那に弁当を差し出す。
 刹那が差し出された弁当を見ると、そこには普通に白米の上に梅干が一つのっかり、あとは野菜やウインナー等が入れてある普通の弁当だった。
 このままでも十分な弁当のような気もするが、タマモにとってお揚げの無い弁当は、ルーの無いカレーと同じ事でである。
 そのため、タマモはまるで生きる希望を失ったかのごとく机に突っ伏し、シクシクと泣き出すのだった。

 だが、天はタマモを見捨てなかった。
 タマモがシクシクと涙の海に沈み込んでいると時、本来聞こえないはずの声が聞こえてきたのだ。

「おーい、タマモ。弁当の中身が違ってたから持ってきてやったぞー」


 突然教室に響き渡った聞きなれぬ声に教室は静まり返り、視線は真っ赤な弁当入れを手にした青年に集中する。


「横島……どうして?」

「早めに弁当を食おうと思って蓋を開けたらお前用の中身が入ってたからな。まあ、それに弁当届けるついでに学園長のとこへ用もあったし持ってきてやったんだが、いらなかったか?」

「ぜんぜん! ありがとう、横島!」


 タマモは横島の元に走りよると、感極まったのかそのまま弁当と共に横島に抱きついていた。
 


 さきほどまでシーンと静まり返っていた教室は、タマモと横島のやりとりをへてしだいにざわついていく。
 ちなみに、他の皆が何を話していたかというと。


「ねえねえ、あの人ってタマモさんのなんなのかな?」

「ひょっとして、あれがこの前言ってた気になる人かな」

「兄妹って感じでもなさそうだしねー」

「あれ? でもお弁当を持ってるんでしょ……もしかして二人は一緒にすんでるのかな?」

「じゃあ、もしかして同棲? すごーい!」


 横島はなにやら聞こえてきた不穏当な発言に、突っ込みを入れるべきか真剣に悩んでいたが、今はそれよりもいまだに自分に抱きついたまま器用に弁当に頬ずりをしているタマモを引き剥がすのが先だった。
 なぜなら、タマモはなにか特別なシャンプーでも使っているのか、横島はさきほどから感じるいい臭いに、煩悩を刺激されており、このままではヤバイ事になると判断したからだった。

 そんなタマモ達を面白そう見ていた朝倉が、タマモの肩をちょんちょんと叩く。どうやら記者根性が刺激されたようだ。


「タマモちゃん、その人は誰か聞いていいかな?」


 タマモは朝倉に声をかけられてようやく正気に戻ったのか、横島から離れて朝倉を涼しい目で見据える。
 もっとも、タマモのその手は横島が持ってきた弁当箱を決して手放すまいと、しっかり抱えているのがちょっと微笑ましい。


「一応私の兄よ……不本意だけどね」

「「「「えー!!タマモちゃん(さん)のお兄さんー!」」」」


 横島とタマモが兄弟と聞いてびっくりする3−A。
 とたんにタマモと横島に群がり質問がとびかう。


「う、うわーこれが女子中学生のパワーってヤツかー」

「このクラスの連中、お祭り好きみたいだしねー、アンタと波長あうんじゃない」

「むう、微妙に侮辱されてる気が……む?」


 タマモは自分達をものめずらしそうに見つめるクラスメイトをやや呆れたように見つめていると、横島は何かに気付いたのか、教室の一角に鋭い視線を這わせる。
 タマモは横島が何かを見つけたのかと、その方向を警戒しながら見ると、そこには龍宮、那波、長瀬といったメンバーが自分達を遠巻きに見つめていた。


「けしからん、なんだあのスペックは……というかなんで彼女達が中学生なんだ!!」

「あ、あんたは……いや、ある意味予想通りといえばそうなんだけどさ」


 横島はそう叫ぶと呆れるタマモを他所に、壁に拳を打ちつけながら血涙を流していく。


「ちくしょー、神は死んだー! 中学生では手出しできんじゃないかー、ええい口惜しや! 口惜しやー!」


 横島はよほど悔しいのか、懐からとある一神教の開祖の形を模した人形を取り出し、釘を打ち付けた。


<う! 突然胸が苦しく……イタタタタ>

<キーやんどうしたんや、いくら一人負けやからってそんなんで逃がしはせーへんで>

<ふむ、なにやら強力な呪いのようなものが見えるようだが、気にする事はない。我々はそんなもので死にはしないのだから>

<さ、早く牌を捨てて下さい。後がつかえてるんですから>


 横島の呪いは時空を超え、神に届いたようだが、それは横島たちの預かり知らぬことである。ちなみに神3柱、魔1柱の麻雀大会の開催中の出来事であった。



 横島は彼女達が中学生であることをひとしきり神に呪い、気が済んだところでふとタマモを気の毒そうな表情で見た。


「ふう、せめてタマモもあれぐらい「あたしじゃ不満かー!」げぶぅー」

 タマモは先ほどからの横島の発言にいい加減堪忍袋の緒が切れたのか、いつの間にか手にした100tハンマーを横島の脳天に叩き込んだ。


「ああああああの、タマモさんその人死んじゃったんじゃ……」


 タマモの突っ込みを初めて目撃し、教室はは静まり返った。
 もっとも明日菜と刹那は何かをあきらめたような表情で虚空を見ていたが、それはこの後に起こることを正確に予測していたからなのだろう。
 ただ、アスナはタマモが横島にハンマーを叩きつける瞬間に木乃香の目と耳を塞ぎ、木乃香のトラウマの再発を防いだことは幸いだった。


「大丈夫よ、このぐらいでコイツが死ぬわけないでしょ」

「でも首が……」


 横島の首、いや頭部は亀のように完全に胴体にめり込んでいる。普通なら死亡確定であろう。
 だが、彼女達はまだ知らなかった。
 この世には決して死ぬことの無い法則と言うものがあることを。


「大丈夫だったら、ほら起きなさい! あんまりここにいると迷惑かかるから外へ行くわよ!」

「あたたた、タマモてめー毎度毎度何しやがる!」

「「「「「「生きてるー!!!!」」」」」


 タマモが声をかけると、ポンッという音と共に横島の頭が胴体から飛び出し、完全に復活する。


「あーもーやかましい、とっとと来なさい!!」


 この時、タマモは刹那に視線で小さく謝ると、横島の足を持って引きずりながら教室を出て行くのだった。


「おいコラ、足を持つな。つか視界がヤバイ、理性がー!!!!」

「眠れー!」


ドカンッ!

ズルズル……


 3−Aの面々は廊下の向こう側で聞こえる悲鳴と、なにかが爆発したような音をBGMに時を停止させていた。





 タマモは横島を学校の外れにある木陰に放り込み、自分も遅ればせながら横島の隣で弁当を開いて昼食をとる。


「アイタタタ……タマモ、最近お前の突っ込みどんどん苛烈になってきてないか?」


 暫くすると横島は復活し、タマモに文句を言い始める。



「美神よりはマシでしょ。美神の折檻なら横島はまだ気絶も出来ずに激痛を味わってるはずよ」

「そりゃあ、まあそうなんだが……美神さんか」

「どうしたの?」

「いや、美神さんにおキヌちゃん、シロ……みんなどうしてるかなと思ってな」

「帰りたいの?」

「タマモはどうなんだ?」

「帰る手段が無い以上どうしようもないわ、それにこっちもそれなりに面白いしね」

「俺はどうなんだろうな……帰りたい、けど帰りたくない。自分でもわからねえよ」

「まあ、向こうに戻ったらまた赤貧だもんね」

「う、それもあったか」

「ま、ウダウダ考えてもしょうがないわよ、今は生きること。生きていれば帰るチャンスもあるかもしれないわ、その時に決めればいいじゃない」

「そっか、まず生きることか」

「そうよ、それにシリアスっぽい横島は似合わないわよ」

「やかましー!!!」


 会話がとぎれ、心地よい風が流れる。タマモは食事を終え、空を見上げた。
 そこには流れる雲と青い空がどこまでも広がっている。
 世界は違っても、横島とタマモにとってはなんら変わらない空だった。


「タマモ……サンキューな」


 横島がボソリとタマモに礼を言う。
 するとタマモは横島の顔を見上げ、何かを思いついたかのような顔をした。


「うん……そうだ、ちょっと足を伸ばして」


 タマモは横島の足を伸ばしてその太ももを枕のようにして寝転ぶ。所謂『膝枕』というヤツである。


「うん、いい感じ。じゃあチャイムがなったら起こしてね」

「おいおい突然何を……」


 横島は突然自分の太ももに頭を乗せたタマモに戸惑うが、その足を動かすことはなかった。


「いいじゃない、さっきのお礼ということで。こんな美人を膝枕できるんだから泣いて喜びなさい」

「命令形! それにお礼って、むしろ俺としてはさっきの教室での詫びをもらいたいくらいなんだが」

「じゃあ、私の手を煩わせたお詫びでもいいわよ。じゃ、おやすみー」


 タマモは目を閉じ、風に髪をはためかせながら眠りにつく。


「やれやれ、どっちにしろ膝枕は確定なのか・・・」


 横島はあきらめたようにつぶやくと、木にもたれながらタマモの頭をなで、自分も目を閉じるのだった。







そのころの3−A。


「ねえねえ、あれって兄妹の域超えてるよね」

「じゃあ、ひょっとして禁断の……きゃー!!!」

 横島たちが駆け込んだ木陰はじつは3−Aの教室から丸見えだった。
 昼休み終了後、タマモは朝倉を筆頭に質問攻めとなることがここに確定したのである。


 放課後、全員からの質問攻めをからくもかわし、タマモは帰路についていた。
 ちなみに帰り際にネギを元気付けようというイベントに誘われたが、水着も無い事だし丁重に辞退している。
 正直ツボにはまった3−Aの熱気は横島に匹敵する熱さがあるので、この後の混乱を本能的に悟って回避したのかもしれない。


「あ、あんたたち。まさかまたネギになにかしようって言うんじゃ」


 タマモが生徒昇降口に向かって歩いていると、ふと下駄箱の方から明日菜の声が聞こえてきた。
 どうやら誰かともめているようだ。


「安心しろ、次の満月まで坊やを襲ったりはせん」

「どういうことよ」

「夜の住人は多かれ少なかれ月の満ち欠けに力を左右されるわ、吸血鬼と人狼なんかその際たるものね」


 明日菜は突然かけられた声に驚いて振り向くと、そこにはタマモが手を振りながら立っていた。


「やっほー明日菜。そこのお子様吸血鬼となにか揉め事?」

「タ、タマモちゃん!」

「お、お前は横島タマモ……貴様もこちら側の住人だったか、いや、昨日のことを考えればそれも当然か。だが、私をお子様呼ばわりとはいい度胸だな」

「お子様はお子様でしょ」

「ほう、600年生きたこの私をお子様呼ばわりとは……縊るぞ貴様」

「600年、やっぱりお子様じゃない。まして今の貴方は力を失っている。どこからそんな自信がでるのかしら?」

「ふん、100年も生きていない人間風情がよく言う。それに魔力はなくとも貴様をミンチにするぐらい私にとってはたやすい事だぞ」

「それはどうかしらね、確かにこの身は100年も生きていないけど……私もただでやられるつもりはないわよ」


 タマモは妖艶に笑いながらエヴァを挑発する。
 いつの間にか明日菜とエヴァのやりとりから、タマモとエヴァのやり取りに場は変化していた。

 タマモは少し霊力を開放し、エヴァにプレッシャーをかける。
 だが、そのプレッシャーはエヴァにとってはたいしたものではなかった。
 事実、昨夜感じた死のプレッシャーとは明らかに重さが違っている。


「ふん、珍しい気だな、そこそこの力はあるようだが、その程度では話にならん。邪魔をするつもりなら命は無いと思え」

「心配御無用、私から邪魔するつもりないから」

「ちょっと、タマモちゃん!」

「ほう、身の程をわかっているじゃないか」

「もっとも、どうせあの馬鹿がかかわる事になるだろうから……まったく厄介ごとに好かれているというかなんと言うか……まあ、とにかく私の相棒が関わらない限りあなたと敵対する気は無いわよ。でも敵対するなら全力で相手してあげるわ」

「ふん、ならその相棒とやらにもよく言っとくんだな。茶々丸、帰るぞ」


 エヴァは脇に控えていた茶々丸を引きつれ帰っていった。
 アスナは二人の間に飛び交うプレッシャーに言葉を無くしていたが、やがて我を取り戻し、タマモにつかみかかる。


「ちょっとタマモちゃん。ネギを助けてくれないの?」

「あー大丈夫よ。横島が学園長になにか頼まれてたみたいだし……たぶん、いや絶対にこの件にかかわると思うから」

「そうなの?」

「ええ。だから結果としてネギ先生を手助けすることになると思うわ」

「それならいいんだけどね」


 アスナはタマモの言葉に納得したのか、ようやくタマモから手を離した。
 そんなアスナを微笑ましく見つめながら、タマモはアスナと共に帰宅の途につくのだった。




 横島宅にて。


 その日の夕食時、タマモは鼻歌を歌いながら夕食を作っている。


「ずいぶんと機嫌がいいなー。なんかいいことがあったのか?」

「まーねー」


 タマモのご機嫌の原因は昼休みの膝枕なのだが、横島はその事にまったく気付かない。


「出来たわよー」

「おーこらうまそうだ!」

「さ、めしあがれ」


 横島はガツガツと詰め込むようにかき込み、タマモはうれしそうに横島を見つめる。それがここ最近の二人の夕食の風景である。
 やはり自分が作った料理をおいしく食べてくれるのは嬉しいのだろう。
 しかし、はたから見るとまるで新婚夫婦であるが、両者ともその事を自覚してないのだからまったくもって始末に悪い。


「ねえ横島、今日ね……」


 タマモは今日の出来事を嬉しそうに横島に語る。まるで恋人に語り聞かせるように。
 だが、その時間は長くは続かなかった。
 なぜなら話がネギを元気付ける会の話になった時、横島が絶叫したからだった。


「なんだとー! ネギが中学生とはいえ、水着の美少女と一緒に風呂にはいってただとー!」

「ちょ、横島」

「くそー、自分は何も知りませんって顔をしておきながらあのガキめー。ロリコンは犯罪じゃー!」

「あんたのやってる覗きやセクハラも十分犯罪よ……それにネギ先生は私達より年下だからロリコンというのは違うんじゃない?」


 タマモは絶叫する横島を半眼で見つめながら答える。
 

「シャーラーップ! 中学生に手を出すものはたとえ10歳だろうが100歳だろうがロリコンじゃー!!!」

「まあ、もういいけどね……」


 タマモは処置無しとばかりに両手を挙げると、傍らに置いたお茶を飲み干すのだった。


「くっそー! ネギめ、うらやましいぞー! それにそんな存在を許す神は許せん、なぜこのような富の偏在を許すんだ、神のバッキャーロー!」

「ロリコンは犯罪じゃなかったのかしら……」


 タマモの突込みを他所に、横島は再び懐から某宗教の開祖の人形を取り出して釘を打ち付ける。


「チクショー! 俺が普段どんな思いでタマモの色香を耐えてると思ってるんだ。青春の光と影をもてあそびやがってあのクソ神族……呪ってやるー!」

「……狐火♪」

「ぎゃああああああ!」


 タマモは神の人形ごと横島を焼き尽くし、沈黙した横島を部屋に放り込むと、再び食卓につくのだった。


「まったく……別に耐えなくてもいいんだけどねー」


 タマモは頬を少し染めながらつぶやいた。
 そのタマモの目の前には、残された料理に舌鼓をうつ死神が嬉しそうにワインを空けていた。


第5話 end






<痛! また胸が!>

<またかキーやん、演技はいいからさっさと牌をきりーや>

<いや、本当に痛……熱! 燃える、体が燃えるー!>

<ふむ、神を呪うとはなかなか有望な新人が出現したようだね>

<今度1000年ぶりにドラフト会議でも開きましょうか>

<せやなー。アシュタロスがおらんようなってから人手不足やし、魔族側にぜひスカウトしたいとこや……逆指名してくれたら言う事あらへんけど>

<いやああ、熱い! 熱いー!>


 体の熱さにのた打ち回っている神は、その拍子に牌を一つ倒す。


<あ、それロンです>

<なんですと!>

<リーチ、一発、役牌、ダブ東、混一色、ドラ3……親の三倍満で3万6千ですね>

<NOOOO!>


横島の呪いは再び時空を超え、神に届いたようだった。

 
 
 
 
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