青い空、白い海、そしてギラギラと輝く太陽。
 それは紛れもなく南国の海。
 もはや使い古された陳腐な言い回しではあるが、この場における情景を現すのにこれほど都合のよい描写は無い。
 ここはまさに仕事に、勉強にと忙しい一般的日本人には垂涎ともいえる南国パラダイスである。
 ただし、つい最近までここはバカンスではなく、武術の疲れを武術で癒すというどこぞの史上最強の弟子も真っ青なトンデモ修行が行われてた場所でもある。
 そう、ここは修行の地、下手をすれば砂漠や猛獣あふれるジャングルよりも厳しい自然環境を誇る麻帆良の地で、ただひたすらに生き抜くためにネギが修行しているエヴァの別荘であった。
 強くなくては生き残れない、辛く厳しい環境の麻帆良学園。さすが『立派な魔法使い』を目指す少年の試練の場所として選ばれるだけの事はある。
 ネギにしても、当初はなんで日本で先生をやることが『立派な魔法使い』になることにつながるのだろうかと首をかしげていたのだが、今ならば納得できる。
 そう、この麻帆良で生き抜くことが出来れば、地球上はおろか話に聞く『魔法界』のどんな場所でも生きていくことができるだろう。
 ネギは麻帆良で日々を過ごす中、自らを奮い立たせるようにそう強く念じ、未来を夢見て逞しく生きていく事を決意していたのだった。
 ちなみに人はそれを自己暗示、もしくは現実逃避と呼ぶ。

 ともあれ、そんなデッドorアライブで波乱万丈な日々を過ごすネギは、何故か今日は海水パンツを身にまとい、顔に満面の笑みを浮かべながらこの別荘に降り立った。どうやらここに来る前に、横島を完膚なきまでに葬り去る事が出来たのがよほど嬉しいらしい。
 そんな彼の背後にはタマモをはじめ、3−Aの魔法関係者――新規参入組みの千雨やハルナもいる――がネギと同じようにレジャー装備満載の状態で、この別荘の主であるエヴァの許可も取らずにプールへと駆け抜けようとしていた
 しかし、ネギはまがりなりにも英国紳士である。そう、たとえどこかの暗黒神を信奉していていたり、機あらば横島を亡き者にしようとしたり、はてはタマモに脅えつつもしっかりと対抗するために味方を増やそうと暗躍していても、彼は紳士である。
 異論は認めない。というか、彼の苦悩を察してあげてくれると実にありがたい。
 とにかく、紳士故にネギはまず最初にここの主であり、己の師であるエヴァのもとに挨拶をするために、彼女がいるはずの部屋のドアをノックと共に開けるのだった。


「ううう……く、来るな茶々丸! なんだその男物のトランクスと『八』の字が書かれたランニングシャツは!? ああ、北勝海と双羽黒と千代の富士がジェットストリームアタックを……待て、大乃国と曙のトペは洒落にならん! というかチャチャゼロ、木村庄之助のコスプレなんぞしてないで助けろー!」

「うううううう、お姉様……私、取れないんです。何べん洗っても、確実に消したはずなのに、鏡を見ると背中に『裸』の文字が……」

「どうせ、どうせ私に服なんか……ええもう、服なんか飾りです。偉い人にはそれがわからないのよ!」


 ドアを開けるとそこはカオスだった。


「うわ、なにこれ? お酒臭い!」


 ネギがドアを開けた瞬間、部屋に充満した酒の匂いが外気を求めて外に漂っていく。
 その匂いの濃さは凄まじく、匂いを嗅いだだけで酔ってしまいそうだ。
 そんな酒の神バッカスの群れが腕を組み、マッソーな体でラインダンスを踊っているかのような部屋の中央では、視界を埋め尽くす酒樽に埋もれたエヴァ、高音、メイの3人の姿がかろうじて見える。
 よく見ればエヴァは巨大な酒樽の下敷きになり、なにやら幻覚でも見ているのか苦しそうにうめいており、メイは酔いのせいか顔を真っ赤にし、泣きそうな顔をしながらしきりに酒で服の上から背中を洗っている。
 だが、そんな中でも特に異彩を放つのが高音であった。
 彼女はなんとそこらじゅうに下着も含めて全ての服を脱ぎ散らし、背中に背負う『裸』の文字にふさわしく、生まれたままの姿で酒樽に首まで浸かって壁に向かってナニカを呟いていたのだ。
 その姿はもはや痛い人を軽く通り越し、可哀想な人、いやむしろ可笑しい人と呼ぶにふさわしい。
 そんなカオス溢れる空間を目にしたネギはしばしの間呆然としていたが、同じ魔法関係者としてこの醜態はあまりにも見るに耐えない。
 正直いっそ見なかった事にしてドアを閉め、全てを忘れてプールに飛び込んだほうがはるかに楽なのだが、それではあまりにも忍びない。というか、見ていて痛すぎる。
 故にネギは覚悟を決めると、あらためてその魔窟に踏み込もうとした瞬間、彼の脇を一陣の風が通り過ぎたのだった。


「うっとうしいわー!」

「「「へぷぅぅー!」」」


 ネギの脇を通り過ぎた一陣の風、その名は神楽坂明日菜。
 彼女はいつまでたってもやってこないネギを心配し、この部屋にやってきたのだが、この部屋の惨状を目撃すると何故か嬉々として主にエヴァに飛びかかり、真祖の魔力障壁をテキトーに無視すると芸術的なローリングソバットを決めたのだった。




 ちなみにそれと同時刻。


「こ、これは何かの間違いだ……」


 龍宮真名は仰向けになって寝た状態のまま、放心したように目を虚ろにしながらナニカを呟き、自分以外答えるはずの無い疑問を口にする。
 だが、それを嘲笑うかのように、彼女の頭のほうから誰かが話しかけてきた。


「あらあら、それではやはり間違いがあったんですね」


 頭のほうから聞こえる声、それはちづるの声であった。
 真名はその声を聴いた瞬間、いっきに顔を青ざめさせて起き上がろうとするが、とある外的要因によって起き上がることが出来ない。
 それゆえ彼女は何とか頭を動かしてちづるを視界に収めると、弁明をするために口を開いた。


「ま、待て。そっちの間違いじゃない。そもそもこれは誤解……」

「誤解……ですか? 本当に?」
 

 真名の視界にいるちづるは小首をかしげながら、かわいらしく手を口元にあて、まるで慈母のような微笑を浮かべる。
 だが、その目はまったく笑っていない。むしろ、かもし出す雰囲気はその視線の鋭さもあいまって慈母どころか夜叉のそれだ。
 数多の戦場や紛争地帯で生き抜き抜いてきた真名は、ちづるから発せられる気配に思わず背筋を寒くさせる。ここで答えを間違えたら、下手をしなくてもバッドエンド一直線なのは間違いない。ちづるの微笑みは真名にそう確信させるほど、迫力に満ちていたのだった。
 真名はぐびりと喉を鳴らすと、ここで一度自分のおかれた状況を確認する視線をちづるから外した。
 
 真名がいるのは超の送別会をするために集まった、女子寮の屋上である。どうやらあの宴会の騒ぎに疲れてそのまま眠ったようだ。
 そして朝日が浮かぼうとしているつい先ほど、彼女は一人目を覚ました。
 ここまでは別にいいのだ。そう、昨夜はただ単に場の雰囲気に飲まれて酒をかっくらい、そのまま屋上で眠っただけだ。
 それがたとえタオルケットがかけてあるとは言え、その下が素っ裸で、視界の端に横島が目隠しをしたまま複数のハンマーで作られた十字架に磔にされ、血の海に沈んでいるとしてもだ。
 真名は自分自身に言い聞かせるように、昨夜は何も無かったと思い込もうとする。
 だが、それを裏切るかのように、真名の両脇で何かが蠢いた。


「ううーん、お姉ちゃん頭痛いよー」

「あううう、私も……」
 

 真名はその声を聴いた瞬間、ビシリと音を立てて固まったが、やがて覚悟を決めると視線をゆっくりと自らの両脇へと移す。
 そして、そこで真名の見たものは中学三年生としてはありえないミニマムさを誇る驚異の双子、鳴滝姉妹が真名の腕にすがるように裸で眠っていたのだった。


「……認めたくないものだな、若さゆえの過ちというやつは」
 
「さて、龍宮さん……」

「な、なんだ?」

「ちゃんと責任、とってくれますわよね?」

「何度も言うが誤解だぁぁぁー!」


 けっきょくこの日、真名はほぼ一日を費やして子猫のように泣く鳴滝姉妹とちづるに対して誤解を解いたという。
 そしてこの結果、超は自身が持つ最大戦力を失う事に成るだが、タマモとあやかによって酔い潰され、未だに夢の世界にいる彼女はそのことを知らなかった。








第50話 「失われた時間」








 
「なんというか……魔法って何でもありなんだよな、これを見たら世の科学者はほとんど発狂するんじゃないか?」

「科学も魔法も突き詰めれば何でもありよ。いいかげん認めたほうが楽なんじゃない?」

「いや、まあな……認めちゃいるんだがな。色々と魔法のアイテムも手に入ったし」

「アレね、あのステキなステッキ」

「言うな、頼むから……」


 ギラギラと照りつける太陽に照らされ、浮き輪に捕まりながら千雨が空を見上げると、そこに近くで泳いでいたタマモが顔を出し、未だに心のどこかで魔法に納得できてない感じの千雨に声をかける。
 もっとも、千雨にしてみればあまりにもの常識の違いに脳が飽和状態になっただけで、魔法の否定などということではない。
 実際、不本意ながらネギと仮契約したことによって、電脳空間において非常に役に立ちそうなアイテムもゲットしたことなのだから、全ては今更の話だ。ただし、アーティファクトの形状についてはその製作者に対して小一時間問い詰めたくなる物であったが、その辺はとりあえず気にしないでおく事にしたようだ。


「まあ、私のことはおいといて……思えば珍しいんじゃないか? 横島がお前の兄貴と別々にいるなんてさ」


 千雨はここで自分のアーティファクトを皆に見せたことを後悔しつつ、その話題から離れるために珍しく横島を伴っていないタマモにその事を問いかけた。
 すると、タマモは明らかに気分を害したように眦を上げると、ここに居ない横島に向かって怒りをぶつける。


「さすがに今回は腹に据えかねたからね。だいたいなによ、いくら酔っ払ってるからって真名が脱ぎだした瞬間に即座に飛びかかるだなんて」

「ああ、あの縄抜けは見事だったな……」

「それにそれに、真名も酔っ払ったせいか、普通なら横島を張り飛ばすはずなのに、どこぞの教委が年齢詐称疑惑をもっていると噂されている驚異的な胸囲を誇る胸に横島の顔をうずめるなんていう暴挙にでたのよ!」

「その後お前は兄貴をハンマーで叩き潰した上にまた磔にして、オマケに素っ裸のまま眠てた龍宮の両脇にひん剥いた鳴滝姉妹を放り込んだよな……今頃ショックを受けているだろうな……」


 千雨は宴会の後半で行われた惨劇を思い出し、顔を青ざめさせ、未だに怒り治まらないタマモを恐怖の視線で見つめる。
 あの時、横島が龍宮に飛びかかる少し前では、酔っ払った刹那が歳不相応なものごっつい色気をかもし出して横島にしなだれかかるなどして横島の煩悩を揺さぶり、このままではまずいと考えた横島が文珠でもって強制的に刹那を眠らしていた。
 しかし、いくら刹那を眠らせたとはいえ、刹那によって自身が持つ巨大な煩悩は既に解き放たれる直前であり、ほんのわずかな衝撃でも戒めが解かれる状態であったのだ。
 そしてちょうどそんな時、運命の神の悪戯なのか、酔っ払った龍宮が突如脱ぎだして横島の煩悩を解放したのだった。
 その後の彼らの末路については、タマモと千雨の会話をもって察してもらいたい。
 ともあれ、千雨はそんなダークでデンジャラス、そしてブラッドフェステバルな過去を心の奥底に封印しようとしたその時、プールに隣接する建物から怒鳴り声があがった。


「あんたたち、いいかげん現世にもどってきなさぁぁーい!」


 その怒鳴り声の主は紛れも無いバカレッドこと神楽坂明日菜。
 その声が響き渡った瞬間、凄まじい破壊音と共に建物から三つの影が砲弾のように放物線を描いてこちらに向かって飛んでくる。
 そして次の瞬間、麻帆良が誇る戦艦アスナから打ち出された主砲弾はタマモ達の周りに落下し、巨大な水柱を形成した。
 千雨は水柱が収まり、水死体のようになって浮かぶ三人を視界に収めながら、何かを誤魔化すように呟くのだった。


「ほんと、魔法ってなんでもアリだよなー……」


 千雨は雲ひとつ無い空を見上げながら、水中に沈んでいくエヴァ達を見ないようにする。
 そんな彼女の背後では刹那、クーフェイ、楓があわててエヴァ達を救出すべくプールに飛び込んでいた。







「それにしても、火星から来た上に未来から来たネギ先生の子孫か……ネタ多すぎだな」

「ああ、宴会の時に超さんが言ってた冗談ですね」

「青タヌキにH・G・ウェルズだっけ?」

「でも、冗談にしてはやけに真剣……だったような……」


 あれからようやく騒ぎも収まり、現世に戻ったエヴァ達も交えてプールサイドで歓談の時を迎えている際、ふと千雨は宴会の時の超の妄言を思い出して口にする。
 すると、やはりその手のSFじみた話が好きなのか、夕映やのどか、ハルナといった図書館組がさっそくその話に食い付いてきた。
 ちなみに、その視界の脇では小太郎&死神組が、楓&クー組とタッグマッチの王者決定戦を行っているが、気にしてはいけない。
 

「ま、冗談にしてもたちが悪いよな。だいたいいくら魔法があるからってタイムスリップなんて……って待てよ、そういえばネギ先生は何度かタイムスリップをしてたよな」

「あ、でもコレは学園祭の期間限定でしかタイムスリップできないって超さんが言ってましたよ。ですからさすがに遥か未来からというのは……」

「ならやはり酔っぱらいの戯言ですかね」

 
 千雨は最初未来からのタイムスリップなどありえないといった感じで話していたが、ここでふとそもそも自分が魔法に関わったきっかけの事件を思い出し、絶句する。
 するとネギは絶句する千雨に懐から取り出したカシオペヤを見せ、その機能が学園祭の期間限定商品でしかないことをつげる。
 そして、その話を結論付けるかのように、最後に夕映が超の未来うんぬんという話を戯言として話をしめた。
 普通ならここで話は終わり、移ろいやすい女子中学生の話題は別の方向へと移るのが常なのだが、ここにはあいにくと世の非常識を体現する男を実に身近に感じる人物がいたため、それはかなわなかった。
 その人物であるタマモは、ネギ達の話を聞くとしばし顎に人差し指を当てて考えるしぐさをしていたが、ふと視線をネギに戻した。


「超の言ってることが戯言かどうかは別にしてさ、可能性としてはまったく荒唐無稽って話じゃないと思うわよ」

「それってどういうことですか?」


 タマモがそういうと、皆の視線はタマモに集まる。


「いやさ、私の身近に時間移動を経験したヤツがいるのよね。しかも行先は中世ヨーロッパと平安時代の平安京に」

「誰ですかその非常識な人は……って聞くまでもないですか」

「そういえば、そうでしたね」

「そんなバカな、だいたい学祭期間限定というだけでも非常識なのに、そんな大規模な時間移動など絶対に不可能ですわよ! というか、誰ですかそんな非常識な人は!?」


 タマモの発言を聞くと刹那とネギを除いた全員が騒ぎ出す。だが、夕映をはじめとしてほぼ全員がすぐにそれを実行したのが誰であるかを悟ると、なぜが妙に納得したような顔をする。
 だが、この中でも新参のハルナや千雨、そしてようやく復活した高音とメイなどは訳がわからないようだ。
 特に高音は現代魔法の限界を知っているだけに、その驚愕はすさまじい。


「非常識って……まあ、確かにその点は否定しないけどさ」

「いや、タマモさん。一応否定してあげてください」

「だって横島を漢字3文字で表せって言われたらどう表現できる?」

「う……ふ、不死身とか……」

「あまり変わらないような気がするのは気のせいかしら?」

「あううう!」


 タマモは高音の言った非常識といった言葉に一瞬ムっとしたような顔をしたが、すぐに表情を元に戻すとむしろ高音の言い分を肯定してしまう。
 そこにすかさず刹那がフォローを入れるのだが、タマモにあっさりと切り返されると、そのまま沈黙してしまう。いかに恋する乙女としてのフィルターがかかっていても、横島はちっとやそっとでフォローできるような小さい男ではなかったようだ。


「で、結局誰なんですの?」

「あ、ごめんなさい。まあ、ぶっちゃければ私の義兄の横島なんだけどね」

「タマモさんの義兄といえば……たしか武道大会に出ていたあのバンダナの人ですか?」

「そ、アイツよ」

「では、その横島さん……ですか? その人は自由に時間移動ができるんですの?」


 ここで少し会話から置き去りにされた感のある高音が刹那とタマモの会話に割り込み、その話題を元に戻す。
 そしてその非常識な人物が、武道会に出場していた人物であると知ると、横島の能力についてタマモに質問を続けた。


「違うわ、アイツ自体で時間移動はできない……らしいわ。時間移動能力を持っていたのは前居た所の上司よ。ただ、その人も自由に使えるわけじゃなくて、ほとんど事故のような感じで横島と一緒に時間移動しただけって話よ。ま、これもまた聞きだけどね」

「そ、そんな人がいるのですか?」

「まあね。でも、今は危険だからその力は封印しているんだってさ。ま、結局私が言いたいのは、超がその人と同じように時間移動能力を持っているって可能性もゼロじゃないわけなのよね」
 

 タマモはこの世界で数々のかつての世界の同一存在と呼べる人物を見てきた。ならば美神の同一存在がいてもおかしくないし、その血筋の人物が未来で能力を開花させていたとしてもなんら不思議ではないと考える。
 それ故にタマモはあくまでも可能性の一つとして、超の話を受け入れたのだ。


「ま、仮に超の話が本当だとしても、私たちには関係のない話よ。特に気にする必要はないわね」

「え、それってどういうこやの?」

「そうそう、もし本当に未来から逆行してきたんなら、やっぱり定番として過去の改変をするのが当たり前でしょ」

「青タヌキの話なんかはその典型ですしね」


 タマモはこの話はこれで終わりとばかりに、超のヨタ話を関係ないと切って捨てようとしたが、あいにくと図書館組のメンバーは数々の本を読んでいるがゆえに、超の行動に不審を覚え始めたのか、不安そうな顔をする。
 だが、そんな表情をする木乃香達にタマモはクスリと笑うと人差し指を立て、どこからかとりだしたメガネを装着するとまるで教師のように説明を始めるのだった。


「ふう、いい? もし超が未来から意図して来たとしたら、まず過去の世界に来た目的っていう物があるのが普通よね」

「そうです。そしてその場合、ほとんどが過去の歴史の改変という……」

「じゃあ聞くけど、過去を改変したくなるような未来ってなんなのかしら? 大きくはそれこそ世界が滅亡するってのもあるし、どこかの映画みたいに未来に英雄となる人物を子供のうちに殺すための暗殺者や、そのボディーガードなんてのもあるわね」

「はい、だからその場合やはりなんらかの対処を……っていうか、後者の場合モロにネギ先生にあてはまるです!」


 タマモが冷静に説明する話を聞きいって夕映だったが、最後にタマモが言ったどこぞのターミネーターな映画の設定の符丁があまりにもネギにはまりすぎているために思わず声を荒げてしまう。
 だが、タマモは特にそれを気にした風もなく話を続けていく。


「あ、大丈夫よ。たぶんそれはないから。むしろその場合明らかに超はネギを守る方の側だしね。殺すなりなんなりするチャンスはそれこそ今まで何度もあったんだから」

「そ、それはそうですが……」

「それに、さっき言ったのはあくまでも超が意図して逆行した場合の話よ」

「というと?」

「別に未来から逆行するのは意図した物ばかりじゃないってこと。言ったでしょ、横島は事故で過去に行ったんだって」

「あ、そういえば……」

「で、この場合当然過去の改編なんか関係ないし、学祭の後の転校にしたってただ単に未来に戻る準備が出来たってだけの話なのかもしれないしね」

「なるほど……」


 夕映をはじめ、無言のままタマモの話を聞き入っていた皆は一様にうなづく。


「それにさっきも言ったけど、もし意図して来たとしても、過去の改変、私たちにとっての未来をどう改変したって私たちには関係ない話よ。確かに未来においてなんらかの事態が起こるのかもしれないけど、私たちはそれがなんなのか、改変を阻止したほうが良いのか、それとも改変したほうが良いのかなんてわかるはずがないもの。つまり、未来がどうあれ、これから起こることが私達にとっての歴史ってわけよ」

「た、たしかに」

「だから、その辺を考えるだけ無駄って話。それに何より、あのお気楽な3−Aのメンバーである超が、少なくとも私達に不利になるようなまねをするはずがないと思うしね」


 タマモはここでようやくメガネを外し、話は終わったとばかりに皆を見渡す。
 皆はタマモの言ったことをあるものは納得したように首を縦に振る。ただし、主に赤いバカレンジャーな人は頭にハテナマークを浮かべているが、それを気にしたらきっと負けだ。
 ともあれ、これで話は一段落したとばかりに、タマモは刹那と木乃香をひきつれて小太郎のもとへと向かうと、死神と協力して彼の手足を押さえ、一気に彼をプールへ放り込んだ。
 タマモは目を丸くしながら水面に浮かび、やたらとプリティーな犬かきを披露する小太郎を笑いながら、自らも刹那達を巻き込んでプールへと飛び込んでいく。
 残された皆はタマモの姿を呆然と見ていたが、やがて皆も顔に笑みを浮かべるとタマモと同じようにプールへと飛び込むのだった。








「さて、皆さんしっかり休めましたかー?」

「うん、ばっちり眠ったえー」


 別荘の夜が明け、外の世界で一時間がたつころ、別荘の出入り口にエヴァ以外の全員が集合していた。
 この別荘で完全にリフレッシュしたことにより、彼女たちの顔色は良く、これによって学園祭の最後の一日もきっと思う存分、体力の許すが限り楽しむことができるだろう。
 ネギはそれを確認すると表情を緩め、改めて転移のキーワードを口にする。
 そして全員の視界が光に覆われた瞬間、ネギ達は外の世界へと戻っていく。ただし、この時ネギのもつカシオペヤが密かに動いていたことに気づくものは誰もいなかった。


「ふう、外は7時……ですね。皆さん時計をちゃんと合わせてくださいね」


 ネギ達は別荘を出ると、エヴァの家に備え付けられている時計で時間を確認し、各自でずれこんだ時計を調節する。そして各々がそれぞれ三日目のどこを回るか話しながら、エヴァの家を後にしていく。


「さーて、三日目はどこに行こうかしらね」

「とりあえず、午後にまたお化け屋敷の当番がありますけど、それまでどこを回りましょう?」

「そうねー、まずは横島を回収して、それからあやかと小太郎、そして木乃香と一緒にアトラクション系を回らない?」

「とすると、まずは寮に帰らないといけませんね」

「あ、俺はなんかうまいもんが食いたいなー」

「大丈夫よ、その辺はリサーチ済みだからね、期待してなさい」

「やったー!」


 エヴァの家のある森を歩きながら、タマモは刹那と一緒にまわるアトラクションに思いをはせる。
 もともと彼女は遊園地系のアトラクションが大好きなので、その顔は喜びにほころんでいた。
 傍らにいる刹那は、そんなを微笑ましいタマモのしぐさを見つめながら、これから始まる楽しい時間を心待ちにし、小太郎はアトラクションよりも食い物に関して思いをはしせる。
 だが、その時だった。
 タマモと刹那の楽しい未来予想図を打ち砕くかのように、せっぱつまったネギの声が響き渡ったのは。


「ちょ! こ、これはいったい!」

「どうしたのよネギ、そんな馬鹿みたいに大口あけ……」


 森の出口でネギが驚愕の表情を浮かべていると、すぐに追いついたアスナがネギをたしなめるように声をかけたが、彼女もまたネギと同じように口をあんぐりと開け、言葉を失う。
 その異様な雰囲気に気づいた皆はネギ達に走り寄ったが、彼女達もまたまるで取りつかれたかのように呆然と森の出口を見つめるだけだった。
 特に高音とメイなどは口を両手で押さえ、なにかショックなものでも見たのか、膝から地面に崩れ落ちてしまう。
 そして、最後尾にいたタマモ達が皆のもとに走り寄ったとき、彼女達の眼に信じられないものが映りこんで来たのだった。


「なんやこれはー!」

「う、嘘……」

「そ、そんなバカな……」


 驚愕に目を見開き、口で手を隠すタマモ達。
 そんな彼女達の目には、いくつもの建物が瓦礫となって崩れ去った戦場の後のような麻帆良学園の姿であった。
 彼女達が目にした現実、それは考えうる中でも、ありえるはずのない最悪の未来であった。


 第50話 END
 



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