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 蛇に睨まれたカエルという言葉がある。
 その言葉について端的に言えば、天敵によって絶体絶命、万に一つも勝ち目も無く、まな板の上の鯉のような状態でただ捕食者に食べられる状態に陥り、恐怖に身をすくませる状態の事を言う。
 何故唐突にこんな事をわざわざ数行を使ってまで説明しているのかといえば、その見本ともいえる状況が神楽坂アスナの眼前で繰り広げられていたのだ。


「……で?」

「あ、あああああの……」


 この場合の蛇、横島タマモが完全に捕食者のごとく冷酷な視線で、獲物であるネギを見据えている。
 そんな彼女の横では、鷹のごとく鋭い視線をネギに向けている刹那がおり、今にもネギの首をズンパラサと飛ばしそうな気配をかもし出しながら夕凪を手にしている。
 なんと言うか、ここは紛れもなくネギにとっての死地であった。


「ネギ先生……今幻聴が聞こえたような気がしたのですが、一応確認のためもう一度お願いできますか?」

「あああ、あのあの、ですから……」


 ネギはつい数時間前まで人生の絶頂にいた。
 かつて幾たびも生身で天高く打ち上げられ、『地球は青かった。けど、すぐに赤くなった』と名言を残す原因となった男を討ち取り、返す刀で自分を幾度も圧殺してきた暴君を精神的に追い詰め、再起不能に追い込むことに成功したのだ。
 これでもう自分を脅かす天敵はいない、そう確信したネギは天にも昇る気持ちでこれから過ごすはずの平和な日々を夢見ていた。
 だが、それは所詮つかの間の夢幻でしかない。
 ネギの目の前には、完全に復活した暴君が再び麻帆良の頂点に返り咲くべく、虎の尾の上でタップダンスを踊っていた愚かな子羊を見つめていた。
 ちなみにその横には爪を研いている猛禽類が目を光らせている上に、ご丁寧にも死神がネギの墓石に名前を刻みこんでいる。もはやこうなった以上、ネギにはほんのわずかな勝ち目もない。故にネギは薄氷を踏む思いで、先ほど言った事をもう一度口にするのだった。


「あの……ですから……僕達、もう過去に戻れないんですけど……」


 ネギがそれを告げた瞬間、部屋の気温がいっきに氷点下まで下がった。
 この場にいる全員がその凍りつく寒さに肌を寄せ合い、ガタガタ震える中――ただし、寒さによる震えにしては皆顔が恐怖に引きつっている――その真っ只中にいるネギとカモはお互いに身を寄せながら、恐怖の魔王達の降臨をただ座して見つめるのみであった。


「もう一度……言ってもらえる?」


 極寒の吹雪が吹き荒れる中、己の内に烈火を秘めたタマモが静かにネギに問う。


「この期に及んで冗談……では済まされませんよ?」


 事が事だけに、普段温厚でタマモと横島の暴走を制止する役目を担う刹那も、今回ばかりはタマモに負けぬ殺気を撒き散らしながらネギに視線を送る。


「で、ですから……このカシオペヤは世界樹の魔力を使って動いてますから……」

「学園祭が終わって世界樹の魔力が消えた今、俺達はもう過去に戻る事は出来ないってわけだ……くそ、超ってやつに完璧にしてやられたぜ」
 

 ネギは震えながら過去に帰れない事情を説明するために、1mぐらいの竹ざおの先にくくりつけたカシオペヤの説明書を刹那に差し出す。その仕草はまるで大名に直訴する農民のようだ。
 そしてカモは口にくわえた手紙のようなものをタマモに渡した。それは超からの魔法通信であった。
 タマモはそれを受取ると、無言のまま再生ボタンを押した。すると、超の姿がホログラフのように浮かび上がり、今回の時間移動は全て超による画策による物だと告げたのだった。




 そして2分後。


「超鈴音……そう、やっぱりあんたのせいだったのね」

「そうですか……超さんのおかげで私達は未来の世界に……」

「正直、超が何をやろうと興味も何も無かったけど……」

「というか、こんな大それた事を考えていたとは欠片も知りませんでしたけど……」


 刹那とタマモはギュピンと目を光らせ、手紙から浮かび上がる超の映像を睨みつける。この時、気のせいか超の顔が恐怖で引きつっているような気がしないでもない。
 しかし、それはあくまでも気のせい――むしろ気のせいだと思いたい――だ。故に超は最後の締めとばかりに宣戦布告を告げたのだった。


「最初はタマモさんやネギ先生達を味方に引き入れようかと思ったガ……なんかこう、味方に引き入れたら、ある意味敵よりやっかいな事になるような気がしてネ。というわけで、諸君達は素晴らしき未来の世界へとご案内したわけなのだヨ。まあ、色々と文句はあると思うが、君達がいない以上もう全ての事は成っただろうから諦めるのが肝心ネ。というわけで諸君、さようなら」


 超の映像は最後にそう言うとペコリと執事のように礼をし、顔に笑みを浮かべながら消えていく。
 すると次の瞬間、タマモはグシャリとその手紙を握りつぶし、ぽつりと呟いた。その声には抑えようとしても抑え切れない怒りがにじみ出ている。
 

「超……貴方の失敗は私達を怒らせたこと……」


 すると、タマモに引き続き刹那も呟く。その声には先ほどのタマモと同じように、抑えようとしても抑え切れない悲しみがにじみ出ていた。


「超さん、貴方の失敗は私達を悲しませたことと……」


 二人は互いに得物を手にすると、ゆっくりとそれを天に掲げる。


「いいわ、そっちがその気なら……」

「それが貴方の望みなら……」


 互いの武器を天に掲げる二人は、ここで一つ間を置き、互いに目を合わせると天に届けとばかりに凛とした声を響かせた。


「「超鈴音、私達は全力で貴方に敵対する!!」」


 この瞬間、超はこの麻帆良学園において最も敵対してはならない人物を敵に回したのだった。






第52話 「14人の宣戦布告」







 



「……と、とにかく、これで俺っち達に何があったのかはっきりしたんだが……実際問題、過去に戻る手段が無いぞ。それにしても、魔法を全世界にバラスなんてなんつーことを……」


 あれから数刻、ようやく落ち着きを取り戻したタマモ達に、カモがやや脅えながら現状では帰る手段が無い事を改めて告げる。
 

「魔法が全世界にバレるのはこのさいどうでもいいわ、そんなことより今大事なのはどうやって戻るかよ!」

「いや、魔法が全世界にバレたら大変なことに! というか、超さんの担任の僕は監督責任を問われて間違いなくオコジョになるんですけど……」


 タマモ達がネギ達と合流したおり、タマモは怒りのあまりろくに事情も説明せずに帰る事を主張したため、ネギはまだあやかと横島の事を知らない。
 だが、超のしでかした事の影響により、このままこの時間にいたらネギもまた人間を止めなくてはならないために、彼もまたタマモと同じように過去に戻れない事を苦悩し、カシオペヤを眺めながら頭を抱える。
 なにしろ、過去に戻るにはカシオペヤを使わなくてはならない。しかし、肝心のカシオペヤを動かす動力源である魔力が無いのだ。
 はっきり言って八方塞、このどうにもならない現実に刹那は絶望の表情を浮かべる。だが、タマモはそのカシオペヤを握りしめると、不気味に笑った。


「くくくく、カシオペヤを動かす魔力が無い? 動かすには世界樹の魔力が必要? いいわ、ならば古の大妖と呼ばれたこの私、白面金毛九尾の狐の転生たるこの私の力を使ってでも強引に動かしてやる!」

「ちょ! タマモちゃんいきなり何カミングアウトしてんのよ! というか、漏れてる! 漏るですじゃないけどなんか変な気が体から漏れてるー!」


 タマモが目を不気味に光らせ、なにげに自身の重大な秘密をいともあっさりとカミングアウトする。そのいきなりな暴露に事情を知るアスナは慌てるが、タマモはそんな物はどこ吹く風とばかりに、アスナにかまわず体から強力な妖気を吹き出し、金色の髪を逆立てている。
 その姿はもはや伝説の戦闘民族、超サ○ヤ人のごとくであった。
 一方、アスナとは違い、タマモの正体を知らない夕映、のどか、ハルナと言った図書館組や、中国人のクー、ネットによって無駄知識の多い千雨はタマモの発言を聞いた瞬間、あるものは盛大に顔をしかめ、あるものは少女にあるまじき事だが飲んでいたジュースを吹き出した。


「ちょ、ちょっと待つネ! 今なんか凄い事が聞こえたような気がするアル!」

「白面金毛九尾の狐!? そ、それってあの……」

「どこかで聞いた事があるような気がするでござるが……なんでござったか?」

「たしか妖怪の名前でしたわよね? メイは知ってますか?」

「い、いえ私も日本の妖怪はあまり……」

「バカ! 九尾の狐っていやあ平安時代の玉藻前っつー有名な……って名前そのまんまじゃねえか!」

「他にも有名なところでは中国の殷王朝が滅びるきっかけをつくったとか。とにかく、数ある妖怪の中でも最強の部類に入る大妖怪です」

「あれ? でも、転生ということは直接の関係はないんじゃ?」

「どっちにしても、とんでもなくヤバイくらいに強い事に変わりないんじゃない?」


 クー達は混乱した頭の中、手をわたわたとと振りながらそれぞれが知る九尾の狐の伝説を語っていく。
 そんな中、ハルナが頭をかきながら疑問を口にした。


「あの……ふと思ったんだけど。タマモちゃんが九尾の狐であれなんであれ、そんなもん関係無しにすでに最強の座に君臨しているって思うんだけど。というか、ある意味ものすごく納得できない?」

「あ……」


 この時、この場にいる全員の頭に、皇帝の隣でハンマーを振りかぶり、最高権力者である皇帝をさしおいて頂点に君臨するタマモの姿が頭に浮かんだ。


「うん……なんかこう、すっごく違和感ないな」

「ものすごく納得です。というか、よく考えれば今更ですね」


 千雨と夕映はそのあまりの違和感のなさに、思わず納得し。同時に当時の権力者とその家臣団の気苦労、そして確実に植えつけられたであろうトラウマに涙する。


「なんというか、ただ単に横島の強さというか、雄々しさの理由付けができただけって感じだな」


 千雨はカシオペヤを握りしめ、自身の力を使って動かそうと四苦八苦しているタマモを見つめながらポツリともらす。
 この時点で彼女達の脳裏に浮かぶ九尾の狐のイメージは、妖艶な魅力と策謀、そして強大な力を背景に時の権力者を陥れ、国を滅ぼした大妖怪ではなく、当時の権力者とドツキ漫才をかましてハンマーを振り回すごく普通の、どこにでもいる少女の姿しか思い浮かべなくなってしまったようだ。
 ただし、100tハンマーを遠慮なく振り回し、ドツキ漫才をするような少女を普通の少女と呼んでいいのかという点には疑問が残るが、彼女達にしてみればもはやその程度のことは普通のことでしかない。
 もはやいい意味でも、悪い意味でも横島とタマモによって毒された麻帆良メンバー達であった。
 そんな中、ようやく落ち着きを見せだした皆をまとめるために、バカレンジャーのリーダーたるバカブラックこと夕映がポンと手を叩き、皆の視線を集める。

 
「とにかく、ちょっとビックリしましたけど。タマモさんが九尾の狐だとかそんな些細なことは置いておくとして……」

「えらっくあっさりと流したわね」

「正直これだけの事実を聞いてなお深刻に驚けなくなっている自分が怖いですが……とにかく、今は状況を整理しましょう。タマモさんはあの通りですからほっとくとして……刹那さん、よろしいですか?」

「ええ、私も少し落ち着きましたし。とにかく状況を一度整理しましょう」


 皆の視線を集めた夕映は驚愕の事実をいともあっさりと流し、そのあまりにも潔い流し方に先ほどまで慌てて誤魔化そうとしていたアスナは思わず不平をもらす。
 アスナと夕映は人間は状況に慣れる生き物である事を実感しつつ、その頬に汗を浮かべて自分達が非常識に慣れてしまった事を嘆くべきか、それとも喜ぶべきか苦悩していたが、すぐに復活すると状況をまとめるべく、手に入れた情報を皆に行き渡るように聞かせるのだった。


「とにかく、これまでの状況から私達が学園祭三日目から一週間後の未来に送られた事は確実になりました」

「その原因は、超さんがネギ先生のカシオペヤに時限爆弾をしかけたからですね」

「超さんの手紙によるとそのようです。そして、そもそも私達を未来に送ったのは私達が、さらに正確に言うならネギ先生、もしくはタマモさんが超さんの計画にとって重大な障害になると認識されたからです」

「そして超さんの目的は魔法を全世界にばらす事……」

「より正確に言うなら全世界に魔法をばらす事によって、超さんにとっての過去の歴史を改変すること……ですね」

「なんてこった、別荘で言ってたヨタ話が結局大当たりってことじゃねえか」

「その通りです。ただ、今のところどうやって魔法を全世界にばらしたのか、その方法まではわかりませんでしたが……」


 夕映と刹那がそれぞれ手に入れた情報を出し合い、現在の状況を整理すると、それを聞いていた千雨は思わず手を頭に当てて天をあおぐ。すると、夕映はそれに頷きながらも肩を落とした。
 現在、千雨を筆頭にしていくつかの情報を手に入れているようであったが、超がどのようにして魔法を広めたかはわかっていない。
 本来はアスナとネギが真っ先に学園長のもとにかけこんで裏の情報を得るのが効率的なのだが、どういうわけか学園長は不在で、それ以外の魔法先生も所在がつかめていないのが現状だ。
 それ故、どうしても彼女達が集める情報は表の世界に出回っている物でしかなかった。
 そんな中、これまで黙って聞いていた楓が夕映に話しかけてきた。
 

「で、結局拙者たちはどうすればよいでござるか? このままだとネギ坊主のオコジョ化が確実でござろう?」

「そうですね、現在のところ私達が取れる行動の選択肢はたった二つです。まず一つ目はネギ先生のオコジョ化を防ぐためにも学園祭三日目に帰り、超さんの計画を阻止する事。そして二つ目はこのまま事実を受け入れることです」

「となると、選択の余地は無いでござるな」

「そうです。後者を選んだ場合、カモさんの話ですとほぼ間違いなくネギ先生は監督責任を問われてオコジョにされ、本国へ送還。最悪二度と会えなくなる可能性があります。それを阻止するためにも私達は過去に戻らなくてはいけないのですが……」

「その戻る方法が無いと……」

「残念ながら……」


 夕映達は一様に沈黙し、突きつけられた厳しい現実をいやおう無しにかみ締める事となる。
 すると、アスナが何かを思いついたのか、手をポンと叩くと希望に満ちた目で刹那のほうを振り向いた。


「そうだ、横島さん! 横島さんの文珠を使えばいいのよ!」


 アスナの提案を聞いた瞬間、刹那はピクリと肩を動かし、その顔から表情が消える。そんな刹那の変化に気づいたのは側にいた木乃香だけであったため、アスナは刹那にかまわず話を続けていく。その瞳に希望を込めながら。


「そうよ、なんでもっと早く思いつかなかったのかしら。横島さんの文珠で『時間移動』とで込めれば、ひょっとしたら学園祭三日目に戻れるかもしれないじゃないの!」

「ねえねえアスナ、その文珠って何?」


 刹那が顔をうつむかせて沈黙している中、アスナは嬉々として自らの考えを披露する。すると、当然ながらハルナを初めとした文珠の事を知らないメンバーは小首をかしげながらアスナに期待を込めた視線を送った。


「本当は秘密なんだけど、もうそんなことも言っていられないから説明するわね。文珠って言うのは横島さんの能力で生み出した不思議な玉で、それに込めた文字でいろんなことが起こせるのよ。しかも、話に聞く限りほぼなんでもありの」

「なんだかよくわかりませんけど、それを使えばあの時間に帰れるのですね?」

「たぶん。文珠に込める文字は一文字だけど、複数を使って文字を組み合わせることも可能らしいわよ。現にエヴァちゃんの呪の『登校地獄』だっけ? あれを『下校地獄』に変えて呪を解こうとしたらしいし……失敗したけど」

「ど、どういう失敗の仕方をしたのか気になりますが、とにかくこれで光明は見えましたわね。で、肝心の横島さんはドコに?」


 アスナが文珠の事を皆に説明すると、それまで沈みこんでいた全員の顔に希望の文字が見え始める。
 そして高音から横島の所在を問われると、皆の視線は一斉に刹那へと集中する。
 すると、刹那は顔をうつむかせたまま小さく、本当に消え入りそうな声で答えたのだった。
 

「横島さんは……もう、いません……」 
 
「……え?」


 刹那は拳を握り締め、顔をうつむかせたまま静かに答える。
 この時、刹那の様子のおかしさに気づいた木乃香が刹那の手に自らの手を添えていたが、その手にポトリと一滴の水滴が落ちた。


「せっちゃん……」

「刹那さん、それっていったいどういうこと? もしかして横島さんも学園長と同じようにどこかに出かけてるの?」

「違います……横島さんは……」


 刹那は唖然とする皆を他所に、フラリと立ち上がるとここでようやく顔を上げる。
 その瞬間、刹那に注目していた全員は例外なく絶句した。


 ――ポトリ


 テーブルの上に一滴の水滴が流れ落ちる。
 それと同時に、刹那の後ろでカシオペヤに霊力を込め続けていたタマモが床にへたり込み、いくら霊力を込めようと全く反応しないカシオペヤを見つめながら悔しそうに呟いた。
 

「なんで……なんで動かないのよ……このままじゃ、このままじゃ横島とあやかを助けられないじゃない……」


 ――ポトリ


 タマモの悲痛な声と共に、再びテーブルに一滴の水滴が流れ落ちる。テーブルに流れ落ちる水滴、それは刹那の涙であった。
 刹那の瞳から零れ落ちる涙、その意味に気づいた皆は水を打ったかのように静まり返る。そんな重苦しい空気の中、真っ先に動きを見せたのはやはり木乃香だった。


「なあせっちゃん、嘘やろ。さっき帰ったときに横島さんがちゃんとおって、いいんちょも見つけたんやろ?」
 
「家には誰もいませんでした……ただ、霊体と化したあやかさんだけが私達をずっと待っていて……」

「霊体って……まさか幽霊ってことやの?」

「はい……」


 木乃香の問いに対し、刹那は消え入りそうな声で途切れがちになりながらもあやかから聞いた事件のあらましを皆に伝えた。
 刹那の涙が落ちる音と共に、タマモのすすり泣きが静まり返った部屋に響き渡る。
 ことここに至るまで、ネギを初めとした全員はどこかまだ余裕があった。なにしろ彼女達は幾度も命の危険をくぐり抜け、協力し合いながら戦い、皆で勝利を手にしてきた。
 だから今回もきっと最後に皆で笑う事が出来る、ネギや横島、その回りにいる全員が最後に必ず笑顔を見せ、バカをやりながらも万事解決すると思っていた。
 だが、それがどうだろう。
 つい一時間前まで皆で騒ぎ、バカをやりながら笑いあっていたはずなのに、気がつけば日常の中の大切な存在が突然いなくなっていた。
 納得できない。納得など出来るはずが無かった。
 だからこそ、犠牲となった二人に縁の深いアスナ、小太郎、ネギはテーブルに拳を叩き付けながら叫んだ。
 

「な、なんでよ! なんで横島さんと一般人のいいんちょが死ななきゃならないのよ!」

「せや、なんで兄ちゃんとあやか姉ちゃんがそないな目にあわなあかんねん!」

「こんなこと……こんなことってないよ! こうなったら何が何でも過去に帰って超さんを止めなきゃ……」


 アスナ達は目に涙を浮かべながら、タマモが投げだしたカシオペヤを拾うと、どうにかして動かそうと魔力をこめる。
 しかし、どんなに魔力をこめようと、タマモの時と同じようにカシオペヤは動く事は無かった。


「もはや……打つ手無しでござるか……」

「まだだ、まだなにか手があるはずだ……諦めたらそこで終わっちまう。だから絶対に帰る方法を探すんだ!」


 皆の中で、比較的冷静だった楓が現在の状況を考えてポツリと呟く。それは敗北宣言に等しい物であった故に、その顔は苦渋に歪んでいる。
 しかし、ネギの使い魔であり、色々と裏事情にも詳しいカモは何か抜け道が無いか必死で考えるが、それでもなおいい考えが浮かぶことは無かった。
 必死に過去に戻る方法を考えるカモを他所に、もはや誰もが事実を受け入れ、諦めかける。しかし、神はまだ彼女達を見捨ててはいなかった。


「そうだ、君達はまだ諦める必要は無い!」


 突然部屋に響き渡った声と共に、誰も訪れるはずの無い玄関の扉が勢いよく開かれ、そこから三人の男が呆然とする皆の前に姿を現した。


「ガ、ガンドルフィーニ先生……」

「それに瀬流彦先生に明石教授も!?」


 突如乱入してきた男達。それは麻帆良学園の魔法教師であるガンドルフィーニと瀬流彦、そして明石であった。
 彼らは呆然とするアスナ達を見渡し、床にへたり込むタマモと、悲しそうにうつむく刹那の姿を見つけると彼女達のもとへと歩いていく。そしてすっかり生気を失い、全ての感情が無くなったかのように表情を失っている二人の前に立つと、実に痛ましそうに声をかけるのだった。


「タマモ君、刹那君。君たちの事情は把握している。そして君達に伝えなければならない事があるんだ」

「伝える事?……」


 二人は無言のまま顔を上げると、話しかけてきたガンドルフィーニを感情のこもっていない瞳で見上げる。


「私達は君達が過去に……いや、君達にとっての現在の時間に戻るための方法を伝える為に来たのだよ」


 ガンドルフィーニが言い放った一言、それはタマモ達が最も欲していた情報であった。


「ほ、本当ですか?」

「ああ、私達は横島君から君達が必ず一週間後にエヴァンジェリンの家に現われると聞いていてね……正直半信半疑だったが、彼の言う事を信じて待った。そして大正解だったわけだ」

「この一週間、僕達は本国からの事情聴取を学園長と高畑先生に任せてきた」

「おかげで十分に調べる事が出来たよ、そのタイムマシンの動力源である世界樹の魔力について……」


 刹那の縋りつくかのような問いに、ガンドルフィーニは手にしていた鞄から書類を取り出し、それを刹那に手渡す。


「それに載っているグラフを見てもらえればわかると思うが、世界樹の魔力はなにも学園祭終了と共にすっぱりと消えるわけではない。あくまでも徐々に減少しながら消えていくだけだ。つまり……」


 刹那とタマモは手渡された書類を食い入るように見つめ、特に説明のあったここ数年の魔力推移グラフに注目した。
 すると、確かに世界樹の魔力は学園祭を境に急激に減少しているが、ほぼ例外なく大発光の年は学園祭が終わった後でも一週間程度はかろうじて魔力が残っているようである。
 そのグラフの意味するところに気づいたタマモ達は顔を上げ、先ほどまでとはうってかわって生気の宿った目を目の前の魔法教師達に向けた。


「今なら……今ならまだ間に合うという事なのね」

「そうだ。だが、決して余裕があるわけではない。さあ、すぐに移動しよう」

「移動って……どこにです?」


 希望に満ちた視線がガンドルフィーニ集まる中、彼は場所を移動しようとしたところをネギに呼び止められる。
 するとガンドルフィーニは振り返り、期待の眼差しを一身に受けてなお怯まずに笑みを見せると床を指差し、朗々とした声で目的地を告げたのだった。


「決まっている、世界樹の真下だよ」












「い、いったいどれだけ階段を降りればいいんですか」

「ちょっと長すぎやー」


 あれから30分後、ネギ達はガンドルフィーニに連れられ、学園の地下施設へ向かい、現在世界樹の地下中心部へと向けて階段を爆走中であった。
 しかし、地下へと通じるその階段の長さはかつて図書館島で遭遇した螺旋階段をはるかに超える規模であるために、何人かは疲れを見せ始めている。


「もう少しだ、この調子ならあと10分も行けば階段は終わる。後はそのまま通路を伝って中心部に行けばいい」

「みんな、あと少しだから頑張って」


 明石と瀬流彦は背後に続く少女達を気にしながらも、それでも足を止めることなく階段を降り続けていく。
 本来ならここらで小休止でもとりたい所なのだが、あいにくと今回は時間が切迫しているのだ。それゆえ、彼らは心を鬼にして少女達をせかし、階段を降りて行くのである。
 そんな中、ガンドルフィーニは息切れ一つ見せずに彼に続くネギに声をかけた。


「それにしても……結構余裕そうだね、ネギ先生。とても10歳の子供の体力とは思えないよ」

「……正直、この程度で音を上げていたら生き残れないもんでして」

「く……エヴァンジェリンめ、なんという過酷な修行をネギ君に……まだ彼は子供なんだぞ、やはりエヴァンジェリンの弟子にしたのを見過ごしたのは失敗だったか」

「いえ、修行じゃなくて日常……って聞いてませんね……」


 ガンドルフィーニはいまだにネギがエヴァの弟子である事が不満なのか、それとも10歳にして大人に匹敵する体力を持つに至った過酷な修行を気の毒に思ったのか、目に涙を浮かべながらネギの師匠であるエヴァを呪う。
 もっとも、ネギがこの体力を持つに至ったのは別にエヴァの修行が全てではない。
 たしかにエヴァの過酷な修行によってネギの体力は飛躍的に上昇したが、それはせいぜい全体の20%程度の要因に過ぎない。残り80%についてはもはや言わずもがなだが、あえて言うなら下手をすればエヴァの修行より過酷な日常生活において培われた物であるとだけ言っておこう。
 ともあれ、そんな話をしながらも彼らは走り続け、いつまでも続くかに見えた階段は終点をむかえる。
 だが、彼らはそれでも止まることなく走り続けるのだ。
 彼らの思いは一つ、過去に帰る事、そして超の暴挙を阻止し、横島とあやかを救う事だ。その思いはタマモと刹那を筆頭に、普段あわよくば横島を亡き者にしようと画策するネギですら強く願う思い。
 たしかに横島の訃報を聞いたネギは、このまま横島がいないほうが平和に暮らせるのではないかという邪悪な考えを思い浮かべた事は事実だ。それは一見酷く外道な思いではあるが、普段の生活と横島からこうむった被害を考えればそれは無理もないこととも言える。
 だが、その考えは涙を見せるタマモと刹那を見た瞬間、いっきに霧散する事となった。
 ネギはそんな邪悪な思いに囚われかけた自分を恥じ、今は誰よりも真剣に横島を救うために回廊を駆け抜けていく。そう、彼は誰もが笑い、悲しむ者がいない未来を手にするため走っているのだ。そして、コレを機会にタマモ達に恩を売り、幸せな未来を手にするために。


「む!?」

「どうしました?」

「どうやら間に合ったようだな……みんな見たまえ」


 若干1名が打算的なことを考えながら走り続ける中、先頭を走っていたガンドルフィーニが何かに気づき、足を止める。
 そこでガンドルフィーニに続いて足を止めたタマモ達が見たものは壁面に張り付く光り輝く地下茎、世界樹の根であった。


「これは……もしかして世界樹の発光現象……ということは!」

「動いてます! カシオペヤが動いてます!」

「や、やったー!」

「これで帰れるのですね!?」


 タマモ達の周りで光り輝く世界樹の根。その幻想的な光に魅せられ、呆然としていた一行であったが、真っ先に我に帰ったタマモがネギを促してカシオペヤを確認させる。
 すると、今まで何の反応も無かったカシオペヤが世界樹の魔力に反応し、時を刻みだしていたのだった。
 アスナを初めとした皆は、誰もが安堵した表情を浮かべて一息つく。そんな彼女達の顔にはエヴァの家で見せた絶望に染まった顔など微塵も無かった。
 だが、そんな安心した表情は、ネギの叫び声と共に崩れ去る事となる。


「あれ? そんな、また反応が無くなった!」

「ちょ、それってどういうことよ!」

「いえ、突然カシオペヤがまた止まって……ってあれは!」


 ネギは詰め寄るタマモに止まってしまったカシオペヤを見せると、首をかしげる。そして首をかしげた拍子に彼は何故カシオペヤが止まってしまったのかを理解した。


「光が……世界樹の魔力が消えていく」

「ヤバイ、今もどんどん魔力が消えて言ってる最中なんだ、はやく追いつかねえと戻れなくなるぜ」

「となると、やはり中心部に行くしかないようだね……って君達、急がないと間に合わなくな…・…る……ぞ」


 ネギの視線の先ではみるみるうちに光を失っていく根の姿が映っていた。
 それを見たガンドルフィーニは慌てて光を追うために駆け出そうと、背後で息を整えていたのどか達に声をかけようとして急に動きを止めて沈黙する。
 何故ガンドルフィーニが動きを止めたのか、その理由はちょうど三叉路になっていたわき道から現われた巨大な生物を見たからであった。


「ド……ドラゴン?」

「な、なんでこんなのがここに?」

「そんな細かい事を考えるのは後だ、みんな走れー!」


 彼らの前に現われた巨大生物、それはかつて図書館島でタマモによって恐怖という屈辱を味あわされた、あのドラゴンであった。
 ドラゴンは巨体を通路に現すと、赤く光る眼光でタマモを睨みつけると同時に、生まれて初めて感じた恐怖という感情を思い出す。だが、すぐにそれを打ち払うとその恐怖という名の根源を打ち払うために、そして過去において最強の幻獣の名をほしいままにした種族のプライドを守るために、そして何よりも過去の汚点をこの世から消し去るためにタマモに向かって一歩踏み出すのであった。
 瀬流彦が呆然とし、明石が首をかしげる中、ガンドルフィーニは硬直するのどかと夕映を抱えるといっきに回廊の奥へと向かって走り出す。
 すると、我に返ったタマモ達もそれに続くが、同時にドラゴンは魂も凍りつくような凄まじい咆哮をあげ、タマモ達に追いすがろうとする。


「ちょ、なんであのトカゲがここにいるのよ! アイツは図書館島が巣じゃなかったの?」

「一応ここは図書館島の地下とも繋がっているんだよ。だとしてら出てきても不思議ではない」

「く、こうなったらいっそのこと倒すか……刹那、いける?」

「無理です、アレを倒すには専用の装備を整えた上でないと。あと、それ以前に時間がありません、今はほんの少しの時間もおしい」

「となると、逃げるしかないか……というわけで、急ぐしかないか……みんな、殿は私と刹那が受け持つから急いで!」


 タマモと刹那はそう言うと最後尾に回り、それぞれ得物を手にしてドラゴンを牽制しつつ走る。
 それと同時に、ドラゴンはタマモ達を追いかけながら大きく息を吸い込んだ。その行動は紛れも無くドラゴンの象徴ともいえる強烈無比な必殺技、ブレス攻撃の前動作であった。


「く、ブレスが来るわ!」

「大丈夫です、任せてください!」


 刹那はドラゴンの動きを見ても特に焦ることなく、胸元のネックレスを引きちぎるとタマモの前にでる。そしてドラゴンが灼熱の炎を吐き出した瞬間、彼女は手にしたネックレスに念を込めた。
 刹那が今まで首に下げていたネックレス、それは横島の文珠を加工して作ったものだ。そして今、彼女の手の中にある文珠は刹那の念と連動し、その文珠に予め込められた『護』の効果を余すことなく発動させるのであった。
 文珠による結界と灼熱の炎が閉鎖された空間で激突する。本来ならこんな狭い空間でブレスを吐こうものなら、その熱波の余波だけでも十分に殺傷力があるのだが、刹那の手にした文珠はそれを完璧に打ち消した。
 そして炎がおさまり、高熱で陽炎が生じる向こうにドラゴンの姿を認めた瞬間、それまで動きのなかったドラゴンへ向けてハンマーを掲げながら疾風のごとく駆け出していき、ドラゴンと交差した瞬間、タマモはその足の小指に向けて満身の力を込めて100tハンマーを振り下ろしたのだった。
 

 ――GYOEEEEE!


 狭い空間にドラゴンの悲痛な声が響き渡る。
 この声に驚いたネギが背後を振り返ると、先ほどまでドラゴンを足止めしていたタマモ達が早くも自分達に追いついていたところであった。そしてそんな彼女達の背後にはなにやら悶絶しているドラゴンの姿が見える。


「……タマモさん、いったい何をやったんですか?」

「ん? 足の小指のところを思いっきりハンマーで叩き潰しただけよ」

「そ、そうなんですか……でも、それって火に油注いでいませんか?」


 ネギは想像を絶する痛みを受けたであろうドラゴンにむけて、気の毒そうな視線を向けようとする。しかしその瞬間、先ほどまで悶絶していたドラゴンが凄まじい殺気を込めて顔を上げたのを見てしまった。
 ネギの質問に小首をかしげていたタマモも背後を振り返ってそれを目撃し、ドラゴンと目を合わせた瞬間に彼女は自分の失敗を悟った。


「く……中途半端な攻撃で怒らせただけか……」

「ってなんか今までよりも追いかける速度が速くなったような気が……」

「怒りで完全に我を忘れてますね。もう、壁もお構い無しって感じです」


 ネギ達の背後で怒り狂うドラゴン一匹。その最強の幻獣は数多の屈辱に完全に怒り狂い、もはやタマモしか見えていない。それゆえ本来ならドラゴンの動きを制限するはずの壁もその効果を出すどころか、ドラゴン自身が壁を粉砕しながら先ほど以上の速度でタマモ達に追いすがろうとしていた。
 このままでは確実に追いつかれる。
 そう確信したタマモが再びドラゴンを迎え撃つ決意を固めた時、先頭から歓喜の声が上がった。


「やった、中心部についたぞ!」

「タマモ君、急ぐんだ! 今はそんなのにかまうよりも一刻も早く中央部へ!」


 どうやら先頭集団は中心部に到達したようだ。
 それを確認すると、タマモは止めようとした足を再び動かし、ドラゴンにかまうことなく中心部へと駆け出していくのであった。


「こ、これが世界樹の中央最深部……」

「すごい……」


 タマモと刹那が通路をようやく抜けると、そこには世界樹の魔力であろうか、光に包まれた巨大な空間が広がっていた。
 その空間は四方向から橋が中央部に向かって伸び、空間の中心には魔力を集約するための装置なのか、巨大なクリスタルのようなものが浮かんでいる。
 あまりにも想像を超えた幻想的な空間に、タマモ達は思わず足を止めてその光景に見とれてしまう。すると、その出入り口に陣取っていたガンドルフィーニがタマモ達を中央部へ急ぐようにと促した。

 
「さあタマモ君、刹那君。見とれている暇は無い、早く中央へ!」

「はい……あ、でもドラゴンが……」

「何、ここまで来たらあれの足止めは私達の仕事だ」

「そんな! こんな広い場所で戦ったら確実に負けます、向こうは空を飛べるんですよ!」


 刹那は背後に迫るドラゴンの地響きを感じながら、自分達に代わって足止めをしようと言う明石を見つめた。
 すると、その脇にいた瀬流彦は笑みを見せながら刹那に答える。


「君達はこれから過去に……いや、君達の未来を取り戻すために帰るんだろう? なら、これから先は僕達の役目だ」

「そんな重要な役目を生徒である君達に託すんだ、コレぐらいやらなければ教師としての示しもつかないしね……」


 明石と瀬流彦は互いに笑みを浮かべながら、世間話でもするかのように刹那とタマモを諭していく。
 しかしこの場に残り、ドラゴンと戦うということはあまりにも危険だ。いかに魔法先生とは言え、ドラゴンが自由自在に動けるこの空間では下手をしなくても命がけの行動といえよう。
 それがわかるだけに刹那は躊躇するのだが、かといってここで誰かがドラゴンを足止めしなければ確実に追いつかれることは明白だった。


「……刹那、行きましょう」

「……ガンドルフィーニ先生、明石先生、瀬流彦先生、どうかご無事で」


 タマモはガンドルフィーニ達の決意が固いことを見て取ると、傍らの刹那を促してネギのいる中央部へと向けて歩き出す。
 だが、ガンドルフィーニの隣を通り過ぎようとした時、彼女はふと足を止めてはるか頭上にある彼の目を見つめた。


「最後に聞かせて、エヴァの家に来た時、貴方は横島から私達が一週間後にエヴァの家に現われると聞いたのよね、あれはどういうこと?」

「それは……私達が三人が横島君の最後を看取ったからだよ。そしてその時に彼に聞いたんだ……もっとも、何故彼がそのことを知っていたのかまでは聞けなかったがね」

「横島の……アイツの最後はどんなだったの?」

「彼は勇敢だった……私達の対応が後手後手にまわり、生徒や一般来園者達を非難させるのに手一杯の中、彼はたった一人で最後まで戦っていたよ。そして私達が駆けつけた時にはもう……」


 ガンドルフィーニは横島の最後を思い出しているのか、目を閉じると悔しそうに手を握り締める。
 タマモはそんな彼をただ静かに見つめていく。
 

「そうだ、送り出すときに言おうと思ってたんだが、タマモ君と刹那君に横島君から伝言があったよ」

「伝言……ですか?」

「今となっては遺言かもしれないがね……彼の伝言は『早く帰ってきてこっちを手伝いやがれ、これ以上のシリアスは俺には似合わん』だ。彼は最後まで君達が戻ってくるのを信じていた……そう、最後までだ」

「あのバカ……」

「横島さん……」


 刹那とタマモはもはや遺言となった横島の伝言を聞くと、その目に涙を浮かべる。しかし、そんな悠長な時間はもはやない。
 今や彼女達のすぐ近くにドラゴンが姿を現そうとしているのだ。
 ガンドルフィーニはそれを確認すると、涙を見せる二人の肩をそっと押しやると、もはや振り向くことなくただドラゴンのみを見据えた。


「さあ二人とも、早くネギ先生のところへ行くんだ。ここは私達が食い止める」

「向こうに帰ったら横島君に伝えてくれ、今度また一緒に飲みにいこうと」

「あ、それと横島君に保健室での事のお礼もね。本当に助けてくれてありがとうと」


 三人の魔法教師はただそれだけを告げると、もはやドラゴンしか目に入っていないのかそれぞれの武器を手にしながら出入り口へと向けて歩いていく。
 そしてタマモ達ももはや振り返ることはなく、駆け足でネギ達の待つ中央部へと向かうのだった。





「お待たせしましたネギ先生。帰りましょう、私達の時間に」

「ええ、帰りましょう……そして過去を変えるんです!」

「違うわよネギ先生、私達は過去を変えるんじゃない、未来を変えるために帰るのよ!」


 タマモはネギのもとへと行くと、動き始めたカシオペヤを確認してうなづく。そしてタマモの号令のもと、皆は互いに手をつなぎ、時間移動に備えた。


「みなさん、準備はいいですか!?」


 ネギは最後の確認とばかりに手をつないだ皆を見渡す。すると皆は笑みを浮かべるとネギに答えた。


「いつでもいいわよ、ネギ。早く帰ってあのバカ鈴音をとっちめてやる」

「せっちゃんを泣かすわけにはいかへんからなー、絶対に横島さんといいんちょを助けにいかなあかん」

「兄ちゃん、あやか姉ちゃん、待っとってや。必ず俺が助けに行くからな」

「超どのがどんな策を弄しようと、拙者たちは必ずそれを食い破って見せるでござる」

「ネギ坊主をオコジョにさせるわけにはいかないネ」

「ネギ先生がオコジジョになるなんて絶対に嫌です……だから私も戦います」

「いいんちょが死んじゃったなんて絶対におかしい。だからこんな死亡フラグ満載な未来、全部ひっくり返すよ

「もうタマモさんや刹那さんが泣くところなんか見たくありません。みんな、絶対に横島さん達を助けるですよ」

「どうやら茶々丸も超の側らしいからな……ふふふ、見てやがれ、ここで必ず決着をつけてやる」

「平和だった麻帆良学園をこのような悲しみと嘆きの世界に変えるなどと……私は絶対に超さんを許しません、この高音・D・グッドマンの名にかけてこのような悲劇を阻止して見せますわ」

「お姉さま、私もお手伝いします!」


 アスナ、木乃香、小太郎。楓、クー、のどか、ハルナ、夕映、千雨、高音、メイ。
 ネギを中心に輪を作る皆は期せずしてそれぞれの決意を語る。
 そして最後に皆の視線はタマモと刹那に集まった。
 

「超、受け取りなさい! これが私たちの……」

「ネギ先生と皆さんの宣戦布告です!」


 タマモ達は皆の視線を受けると静かに微笑んだが、すぐに顔を引き締め、ネギがカシオペヤのスイッチを押した瞬間、過去にいるはずの超に届けとばかりに声を張り上げる。
 それはまぎれもなく、超鈴音へ向けたこの場にいる14人全員の宣戦布告であった。









「彼女達は行ったようだね……」

「そのようだね」

「で、どうします?」

 ネギ達が転移したホールのすぐそば、その出入り口付近の回廊ではガンドルフィーニ達がドラゴンを相手にすさまじい戦いを繰り広げていた。
 彼らはすでに幾度もドラゴンの灼熱の炎を浴び、強力な爪をその身で受けている。しかし、それでも彼らは一歩も引くことなくタマモ達を送り出すために文字通り身を捨てて闘っていたのだ。
 その甲斐あってか、ドラゴンもまた深く傷つき、その片方の翼はすでに折れている。しかし、それでもなおドラゴンの無限とも思える生命力は健在だった。

 もはやタマモ達はここにはいない。ならば後は逃げればいいのだが、あいにくと目の前の強敵はそれを許してくれそうにない。
 彼らに残された選択肢はここで全滅するか、ドラゴンを倒すかの二者択一。そして現在、ガンドルフィーニ達は圧倒的に不利な状態にであった。


「逃げたいところだけどそうもいかないようだね」

「だったら、コイツを倒すしかないようですね……正直勝てる気がしませんけど」

「まったく、つくづく僕たちは負け癖がついてしまったようだね。エヴァンジェリンの時といい、今回といい」

「いや、私たちの勝ちだよ。瀬流彦先生、明石教授……」

「え?」

「見たまえ、タマモ君達は無事過去に向かった。ならばそれは私達の勝利だ! タマモ君達があの時間に向かえば、絶対に横島君を助け、超鈴音の野望を打ち砕くだろう。それが勝利でなくなんだと言うんだ! そう、私達はすでに勝利している!」

「そう……そうですね」

「となれば、こんなでっかいトカゲなんかさっくりと倒して、歴史が変わる記念すべき瞬間を堪能するとしますか」

「ああ……では、行こうか、瀬流彦先生、明石教授……」


 三人の男たちは傷だらけになりながらも、その顔に一切の悲痛な色などない。
 あるのはただ一つ、未来へ向けた希望のみ。
 彼らはその思いを背に、最後に手にした至上の勝利をつかみ取ったその手に武器を持ち直すと、今まさに灼熱の炎を吐きださんとするドラゴンへ向けて駆け出すのであった。

 そして彼らは本懐を遂げることになる。最後までその顔に笑みを絶やさぬまま――


第52話 END



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