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「前方から田中さんの第一波! 10、20……まだ増えるです!」


 決戦の場となる湖の入り口、そこでは今まさに超の操るロボット軍団が大挙して上陸しようとしていた。
 それを物陰から見ていた夕映は、そのあまりの数の多さに思わず怯む。
 未来からの事前情報により、夕映は敵の数が約2000に及ぶということを知っていた。しかし、やはり見ると聞くとは大違いである。
 湖から押し寄せる鉄の大軍。
 その数は未だに2000どころか100にも満たないにも関わらず、のしかかるプレッシャーは万にも届く相手を前にしたような気分だ。
 しかし、どんなに気おされようと、夕映は引かない。それは自分の隣にいるのどかとハルナも同じだ。
 彼女たち三人はネギから譲り受けた道具を握り締め、震えながらも決して後ろを振り返る事は無い。いや、より正確に言うなら後ろを振り返ることができないのだった。
 何故なら――


「うふふふ……嵐が、嵐が来るえー……」


 ――夕映たちの背後ででっかくて真っ赤な鎌を構えて不気味に笑う木乃香が何よりも怖からである。どうやら彼女は刹那を泣かした超に対して、いたくご立腹のようだ。それはもう、周り中に瘴気をまき散らすほど。
 ついでに言えば、実は今まで夕映達が感じていたプレッシャーの発生源は目の前を埋め尽くしつつある田中さん達ではない。
 そして本当の発生源はと言えば、もはや説明するまでも無いだろう。
 
 
「超さんなんか怖くない、超さんなんか怖くない、超さんなんか怖くない、だからロボットなんか怖くない……」

「あううううううう」


 夕映の隣ではもはや精神の限界に来たのか、ハルナはなにやらブツブツと呟き、のどかは泣きそうどころか既に目の巾の涙が駄々もれている。
 夕映は心ひそかに、自分達を一塊でこの場所に配置したネギを呪う。
 正直な話、今すぐにでも絶賛増加中の田中さん達に突撃したほうが楽なのだが、あいにくとリーダーたるネギはまだ動く気配を見せないし、その上アスナを初めとした他のメンバーは夕映たちから距離とりつつこちらを見ないようにしている。
 

「あの、ネギ先生……そろそろ攻撃しないとまずいのでは? というか、こっちがそろそろ限界です」

「そう……ですね。正直タマモさん達と合流してからはじめたかったんですけど、そうも言ってられません」

「では……」

「ええ、それでは……いきます!」


 もはや我慢の限界に達していたネギ達は主力であるタマモと刹那を欠いたまま、続々と上陸してくる田中さん達への攻撃を決意する。
 ただし、なんの我慢の限界に達したがゆえに、攻撃を決意したのかについては察してもらうと実にありがたい。
 ともあれ、こうして事態は動き出した。
 タマモと刹那がいないとはいえ、実戦力としてアスナ、楓、クー、小太郎といった肉体派に加え、高音、メイ、ネギといった魔法使い組がいる以上、ちょっとやそっとでは負けることはないだろう。
 それに何より――


「あはは、今ウチが楽にしたげるからなー」

「超さんなんか怖くない、超さんなんか怖くない、超さんなんか怖くない、っていうか木乃香が怖すぎるよー!」

「あううう、イドの絵日記で木乃香さんを見たら、なんかベタで真っ黒になってるぅぅー!」

「のどか、今見たのは忘れるです! あれは人類が見てはいけないいけないものなんですよ!」


 ――やたらと気合の入った木乃香と、彼女におびえまくって若干キレぎみのハルナ達の予想外の活躍で圧倒的な数をほこる田中さん達と互角の勝負を繰り広げていく。
 しかし、いくら現在は互角の戦いができるとはいえ、あちらは無尽蔵のスタミナを持つ2000体に及ぶロッボトである。長期戦になればこちらの不利は免れないであろう。
 だが、そんな中についに真打が舞台の上に登場したのであった。


「でぇやぁぁー!」

「神鳴流奥義、雷鳴剣!」


 タマモと刹那の登場である。
 二人はガンドルフィーニ達を引き連れ、そのまま視界を埋め尽くす田中さん達の中に突撃すると獅子奮迅の活躍で敵を撃破していく。
 これにより、戦場の趨勢は完全にネギ達魔法使い側に傾く事になるのであった。







 はるか眼下では蟻の如く黒い色が大地を埋め尽くしている。しかし、その中にたったひとつの金色が加わっただけで、戦場の様相はがらりと変わってしまっていた。
 そんな戦場を見渡せる建物の屋根の上では、フードを目深にかぶった小柄な人物がただ静かに戦場の様子を見守っている。
 そして、戦場の中心で戦女神の如く戦う金色の少女を認めた瞬間、フードからわずかに覗いたその口元を妖しく歪めると静かにつぶやくのだった。


「見つけた……」








第54話 「Doomsday」








「通常装備の田中さん部隊の被害ですが、すでに200……いえ、たった今300を突破しました」

「……」


 地上で戦がたけなわとなっているころ、地下の秘密基地では超が呆然と巨大スクリーンを見つめ、茶々丸のスペアボディーたちが淡々と損害を報告している。
 開戦より既に30分、その損害は全軍の15%に達している。
 超はそのあまりの損耗の激しさに思わずエクトプラズムを吐き出しそうになっており、その脇で超を補佐しているハカセにいたっては呆然とスクリーンを見上げているだけだ。


「えっと……やっぱり帰ってきてましたね……タマモさん達」

「……」

「おまけに、魔法先生達の動きを制限するために利用するはずだった一般生徒がなぜか人っ子一人見当たりませんし……」

「……」


 ハカセの力ない問いに超は答えることなく、ただひたすらに沈黙している。
 普段ならこの沈黙は超の天才的な脳みそがフル稼働し、新たなる策略を練っている最中なのだろうと取るのだが、あいにくと現在進行形で超の額に浮かぶ大量の脂汗と口からはみ出ているエクトプラズムがそれを真っ向から否定していた。
 ともあれ、司令塔である超がいつまでもこのままでは組織は立ち行かないため、ハカセはとりあえずタマモにあやかったのか、片手間に作った夏休みの工作レベルの作品、『突っ込用軽量型100kgハンマー』(実質5kg)を取り出して振りかぶるのであった。


 そして5分後。


「今、一瞬本当にお花畑が見えたネ」


 超はしばしの気絶の後、頭に出来たタンコブをさすりながら正気を取り戻していた。
 軽量型――実質5kg――とは言え、突っ込みハンマーを喰らってこの程度とは、彼女も大概丈夫である。


「その程度で済めばマシなほうですよ。で、これからどうします? 当初の予定通り、横島さんを生贄にして逃亡しますか? 一応国外に脱出して優雅に過ごせる程度の資金はありますけど」

「ま、まだ戦いは始まったばかりネ、ここで負けを認めるのはバカのすることヨ」

「ですが、タマモさん達の参戦のおかげで、上陸どころか橋頭堡すら作れていないのが現状なんですけど」

「多脚戦車の状況は?」

「先ほど投入して一時は戦線を押し込みましたが、魔法先生たちの増援とタマモさんと刹那さんの文字通り獅子奮迅の働きで逆に押し込まれました」

「ちょっと聞くのが怖いガ、今現在の損害合計は?」

「つい先ほど400体を突破しましたよ。損耗率20%、通常の戦争なら敗走確実の数字ですね。ちなみに、その損害の約6割がタマモさんと刹那さんのスコアです」

「あ、あの二人はいったいどこの白い悪魔と赤い彗星ヨ!」

「最近ので言うと白い魔王と金色の死神ですか……もう完璧に戦術核並みの脅威ですよね」

「そ、それはともかく……向こうの損害は?」

「ゼロです……龍宮さんがいればタマモさんとか魔法先生とかをピンポイントで狙撃してどうにかできたんでしょうが、いない以上もうどうしようもないですしね。というか、一般人に怪我人を出さないように武装を脱げビームのみにしたのが完全に裏目に出てます」


 超はあまりの損害の大きさと、あまりにも理不尽なタマモと刹那のチートキャラぶりに頭を抱える。
 そんな時、取り付けた監視カメラの至近距離でタマモがハンマーを一閃させると、すさまじい破壊音とともに多脚戦車が破壊される映像が超の目に飛び込んできた。
 超はその大音量に思わずビクリと肩を震わすが、それはただの音声でしかないことに気がつくとすぐに平静を取り戻す。
 そんな超をあざ笑うかのようにタマモは設置された監視カメラを見つけ、カメラに近寄っていくと血の気が引くほど冷酷な表情で何かをしゃべっている。
 監視カメラは音声装置が壊れたのであろうか、タマモの声を拾うことはない。
 しかし、超はその天才ゆえか読唇術もマスターしていたため、タマモが言わんとしたことをはっきりとその口の動きから読み取ったのであった。


<ツ・ギ・ハ・オ・マ・エ・ダ>


 タマモはカメラの向こうで超にそう告げ、首をかっきるポーズをすると地獄へ落ちろとばかりに親指を下に向け、ハンマーでカメラを粉砕する。
 そしてスクリーンの一つが完全にブラックアウトしてより30秒後、超の横でそれを見ていたハカセはまるで機械人形のようにギギギと音を出しながら超のほうを向いた。


「……超さん、あなたいったい未来でタマモさんに何をしたんですかー!?」

「し、知らないネ! というか、なんで私がここまでタマモさんに恨まれなきゃならないノ?」

「でも、あの怒り方は尋常じゃありませんよ! 捕まったら確実に殺られますー!」


 二人はしばしの沈黙の後、スクリーンの前でわたわたと手を振りながら慌てる。
 なにしろ、スクリーンごしとは言え文字通り身も凍るほどの殺気をたたきつけられたのだ。ましてや、身に覚えの無いことで怒りを買っているのだから、超が感じる理不尽さと恐怖はまさに尋常ではない。
 故に超は予定より早いが残存予備兵力の投入を決意するのであった。


「こ、こうなったら……待機中の全部隊を投入ネ! ただし、装備は例の特殊弾頭をつかうヨ!」

「りょ、了解です」


 超が使用を命じた特殊弾頭。それは世界樹の魔力を利用した時空転移弾である。
 その弾頭は着弾すると周囲数mを完全に覆い、その中にいる人物を問答無用で3時間後の学園郊外に強制転移させる凶悪な兵器だ。
 この弾頭を使えば、たとえ相手が強力な結界を敷いていようと結界ごと周囲を包み込み、対象者を強制転移させることが可能だ。故に対タマモ対策としても非常に有効な装備となる――はずであった。


「あの、お取り込み中のところ申し訳ないのですが……」

「ん、どうしたネ?」

「ストックしていた転移弾頭が見当たらないのですが、いかがいたしましょう……」


 その報告を茶々丸@スペアから聴いた瞬間、超とハカセは一斉に沈黙する。


「な、何故にー!?」

「どういうことなんですか!? あの弾頭はA−6倉庫に配置してあったはずですよ!」


 そして次の瞬間、二人はいっきに爆発した。
 なにしろ切り札ともいえる重要な兵器が行方不明なのだ、このままではまともな反攻作戦すらおぼつかない。
 二人はオペレーター役の茶々丸@スペアに掴みかからんばかりに詰め寄るが、彼女の答えはかんばしくないものばかりであった。


「とは言いましても、実際にそのA−6倉庫には影も形も有りませんでした。確かに記録の上ではA−6倉庫に搬入されたようですが……」

「そんな!?」

「捜索はしていますが、はたして見つかるかどうか」


 ハカセと超はその報告を聞くと、ヘナヘナと崩れ落ちる。だが、それも無理も無いことだろう。
 なにせ、現在の通常装備は脱げビームのみであり、これでは一時の足止めが出来るだけだ。かといって、他の装備では殺傷力がありすぎて洒落にならない。
 相手を無力化し、なおかつ無傷で済ませる究極の兵器である転移弾頭。これが無い以上、もはやどうしようもない。そんな空気が周囲に充満する。
 しかし、超はそんなことでへこたれるほどヤワではなかった。


「だ、大丈夫ネ……私達はまだ負けていない。こっちにはまだ鬼神という切り札もある! こうなったら少々の被害には目をつぶってタマモさん達を蹴散らすのみヨ!」


 超は立ち上がると邪悪な笑みを浮かべ、茶々丸に鬼神を封じていた学園結界へのハッキングを命じる。
 室内であるに関わらず、風にマントをたなびかせる姿はまさに悪の帝王と呼ぶにふさわしい姿であった。


「あ、たった今被害総数が目出度く600体を突破しました」

「もう本気で歩く戦略兵器ですね、あの二人……WWUドイツのルーデルや、どこぞのリボン付きも真っ青です」

「あうううううー!」


 ただし、茶々丸@スペアの被害報告に頭を抱える姿は異様なまでに小物臭かったことを追記しておこう。
 昔の偉い人はこう言った『まだ負けていないはもう負けている』、これを現代風に意訳すれば『お前はもう死んでいる』とも表現できるであろうか、超はまさにそんな状態であった。


 時は少し戻り、超があまりの損害に茫然自失している頃、横島忠夫は同じ秘密基地内にある未使用の管制室で秘蔵のDVDの編集にいそしんでいた。


「おお、そこだやれ! ぬう、おしいなこんちくしょう、いい動きしてやがる」


 彼が編集しているDVDの内容はと言えば説明するまでも無いが、あえて説明すれば魔法使い側の戦闘記録映像である。


「キター、お姉様の黒下着! しかも顔が微妙に魔鈴さんにそっくり! お宝じゃー、お宝じゃー!」


 ただし、その編集内容には些か偏りがあったが、所詮彼のすることである。おそらく誰もがそんなことであろうと思ったことであろう。
 横島は脱げビームを喰らう魔法先生にむけて的確にカメラを操作し、お宝映像を保存していく。
 ちなみに、男の魔法先生もしくは魔法生徒が脱がされた時には神速の速さでフレームから外されているため、男の裸などという有害物は記録される事はなかった。


「ぐふ、ぐふふふ。いやー、やっぱりこの脱げビームはええなー。魔法先生や魔法生徒も女性比率高いし、言う事なしだ。しかし……」


 横島は不気味に笑いつつ映像の編集を続けていたが、ここでふと後ろを振り返った。
 横島の背後、そこには壁のように積み上げられた転移弾頭が視界を埋め尽くしている。そう、超の切り札である転移弾頭を倉庫から持ち出した犯人は横島だったのである。


「超ちゃんはやっぱりダメやな、男のロマンを理解していない。こんな物を使うなんて……せっかく脱げビームという夢の武器があるというのに、その対象を未来に送り込んでいったいどうしようっつーのかねー」


 ただし、その動機は別にタマモのためでもなんでもなく、あくまでも己の欲望に対して忠実に従ったゆえの行動である事はいうまでも無い。
 まあ、無自覚にタマモへの援護射撃を行っている点においては評価できるのかもしれないが、横島を助けるために必死なタマモ達から見ればまさに噴飯物であろう。
 まして、横島の煩悩のために切り札の一つが崩壊してしまった超に至っては、もう目も当てられないほど気の毒なことである。


<あううううううー!>

「ん? なんか超ちゃんの心の底から響き渡る理不尽さへの悲鳴が聞こえたような……ま、いっか。続きを録画っと」


 ここで横島はなんとなく脳内で超の悲痛な悲鳴が響き渡ったような気がしてその手を止めるが、すぐに気を取り直すと録画を続けるのであった。
 ちなみに、多少なりとも脱げビームがかすってギリギリな服装となっているタマモと刹那については、別途で持ち込んだブルーレイディスク対応機器でもって録画中だ。
 あくまでも煩悩に忠実な男、その名は横島忠夫。彼のやる事に抜かりは無い、抜かりは無いのだが――


「タマモさーん、新しい映像データの吸い上げ完了ですー」

「ん、それじゃそっちの破棄しといて。それと、ダミーとしてハルナが書いてたネギ×コタ映像と差し替えといてね」

「りょうかいでーす。さ、消去しますよー」


 ――タマモと刹那以外を録画した映像データをちび達がかたっぱしから消去どころか、劇物とすり替えている事に気づいていない当たり、やはり彼は大マヌケであった。







「……命令受信、これより学園結界へのハッキングを開始します」


 超が悲痛な叫び声を上げ、横島が高笑いをしつつ自身を地獄へ誘う映像を記録している頃、同じ秘密基地内にあるやたらとサイバーちっくな部屋の中で静かに椅子に座っていた茶々丸が目を開けると静かに呟いた。
 茶々丸が目を開けると、それに呼応したかのように目の前にいくつもの文字が浮かび上がり、次いで学園結界への電子的な接続経路が表示されていく。
 これから彼女が行う事は学園結界を制御するサーバーへハッキングを行い、その制御権を奪取して学園結界を落とす事である。
 彼女はその目的のために、自分のAIに直結させたデーターはもとより、キーボードも駆使してハッキングを行っていく。そのハッキングスピードは凄まじく、本来なら堅牢なはずの防御壁は数秒と持たずに陥落していく。
 しかし、順調かと思われた作業は最後の防壁を前に頓挫する事になるのであった。


「よう、茶々丸……やっぱりあんたが来たか」

「千雨さん……」


 文字通り学園結界を守る最後の防壁として茶々丸の前に立ちはだかった者、それはアーティファクトによって7匹の電子精霊を従えた少女、長谷川千雨であった。


「なぜ……千雨さんがここに?」

「なに、超のおかげでちょっと未来に行ってきたからな。そのおかげであんたらの行動が手に取るようにわかるってわけだ」

「では千雨さんは私と戦うためにここに?」

「ああ、いいかげん今までの決着もつけたいしな……それになにより、あの未来はいただけねえよ」


 これまでエヴァを介していたとは言え、幾度となく対峙してきた二人。
 最初の戦いはエヴァのHPにおける掲示板操作だった。
 あの時の戦いは深夜に始まり、早朝になってようやく茶々丸の勝利という形で終わる。しかし、その茶々丸の勝利は決して余裕のあるものではなかった。対応を一つ間違えば、屍を晒していたのは茶々丸であったろう。それほど二人のファーストコンタクトは壮絶であった。
 二度目の戦いは学園祭のコスプレコンテストだった。
 あの時、茶々丸は千雨が優勝を決めたと思われたその瞬間にマジカルキティとなったエヴァを乱入させ、観客の視線をいっきに奪う。しかし、エヴァが圧倒的勝利を収めるかに見えたその時、千雨はハプニングを利用して下着姿を晒すという捨て身の奥義をもってそれを挽回するのに成功し、僅差でエヴァを下したのだった。
 その後、意図していなかったとは言え、武道会でエヴァは下着姿どころか全裸を披露する事になったりもしたのだが、公式な直接対決ではあくまでも1勝1負。
 まったく互角の宿命のライバル同士の直接対決が、電脳空間において今始まろうとしている。
 茶々丸は映像として浮かび上がる千雨の姿を見据えると、無表情だった顔にほんの少しだけ笑みのようなものを浮かべた。


「この私の後ろにある最後の防壁が破られたら私の負け、私が防ぎきったら私の勝ちだ! いくぞ茶々丸!」

「いいでしょう、お相手いたします」


 電脳空間においての戦いで先手をとったのは茶々丸であった。
 彼女は千雨が敵であると認識すると、即座に新たなキーボードを取り出して凄まじい速さでキーを打ち込んでいく。


「く……DOSアタックか」


 千雨は迫り来る無駄データに対して防壁を展開し、瞬時にデータの発信源を特定するとその経路を閉鎖していく。
 しかし、その程度で茶々丸の攻撃を防ぐ事は出来ない。
 茶々丸は侵入経路を塞がれたと見るや即座に経路を変え、再び攻勢をかけていった。その攻勢は凄まじく、開始早々にして千雨は防御で手一杯の状態となる。


「このやろう、対応が速すぎるぞ! てめえ本当に一人でやってるんだろうな?」

「ハイ、一部情報精霊の助力は得てますが、一連の作業は全て私一人で行ってます」

「にしたって、なんだこれは? 潰すそばから四方八方からDOSアタックをかけやがって、てめえのキーボードのキー全部F5ででも出来てるのか!?」

「その通りですがなにか?」


 茶々丸が首をかしげると、スクリーンの向こうでは見事なまでに千雨の表情は凍り付いていた。それはもう、まるでギャグ漫画のごとくである。
 

「冗談ですよ」

「ふざけるなー!」


 数秒後、茶々丸はあくまでも無表情のままで小首をかしげた。
 千雨はその瞬間、自分がからかわれていたという事に気づき、顔を真っ赤にして怒りを露にするが、茶々丸はそれに動じることなくただひたすらコマンドを打ち込んでいく。もはや戦況どころか、ペースすらも完全に握られつつある状況であった。
 しかし、千雨とて伊達にここで茶々丸を待ち伏せしていたわけではない。開始早々に主導権を取られたのは痛いが、それも予想のうちだ。
 故に彼女はただひたすら防御に徹し、反撃の時を待つ。そしてついに彼女が待ちに待った反撃の時を告げる鐘が鳴ったのであった。


「ちう様ー! お待たせしました、完成しましたぞー!」


 千雨が待ち望んだ反撃の鐘、それは彼女の支配下にある電子精霊の声であった。
 彼女はその声を聞くと顔を綻ばせ、彼らを褒めてやろうと振り返ったその瞬間、彼女は女性にあるまじき大口をあけて電子の空を見上げる。
 当然その間の防御はおろそかになり、茶々丸の攻撃がかなり進行しているのだが、今の彼女にそんなものを気にする余裕などない。それはもう、欠片もそんな余裕などなかった。


「な、ななななんじゃそりゃー!」


 千雨はしばしの茫然自失の後、絶叫とともに誇らしげに自分の周りを飛び交うネズミモドキな電子精霊を一匹捕まえた。


「ち、ちう様、いったい何を!?」

「何を? じゃねえ! いったいアレはなんの悪ふざけだー!」


 千雨はひっ捕らえた哀れな電子精霊を顔の前に持ってくると、鬼門、いやネギですら裸足で逃げ出しそうな形相で電子精霊に問い詰め、空間の一点を指差す。
 一方、その電子精霊はといえば千雨の怒りの意味がわかっていないのか、キョトンとした表情で首をかしげ、次いで千雨の指差す問題のブツを見上げた。


「……お気に召しませんでしたか?」

「お気に召すもなにもあるか! 私はお前達に渡したアレを問答無用なまでに強力に改造しろと言ったはずだぞ!」

「ええ、ですから私達の総力をあげてコレを……」

「で、出来上がったのがコレか?」

「はい」


 千雨と情報精霊は同時にブツを見上げる。
 それはとてつもなく巨大で、見上げるほどに大きい2隻の軍艦、それもどこかで見覚えのある物であった。
 いや、見覚えがあるどころか千雨はその正体をよく知っていた。
 目の前に広がる電子の海に浮かぶ伝説となった2隻の軍艦。千雨はその勇姿に思わず見惚れてしまうが、同時にこんなもののために必死に時間を稼いでいたのかと脱力してしまう。


「なあ、これってもしかして宇宙戦艦ヤ○トとホ○イトベースか?」

「よくご存知で。ネットのデータベースからとりあえず古典の有名どころを選んでみました」

「たしかに古典の名作だよ……けどお前達、たしか情報は軽さが大切とか言ってなかったか? 必要なデータだけあればいいのに、なんでこんな無駄に重い3Dデータが必要なんだ?」

「ちう様、様式美という物は大切ですよ……」


 情報精霊は微妙に千雨から視線を逸らしながら答える。その仕草から見るに、やりすぎたという自覚はあるのだろう。
 なにしろ本来彼らが千雨から要求された仕事は、茶々丸の攻撃経路に対して的確にカウンターを放ち、中枢サーバーをダウンさせるというスクリプトプログラム作る事にすぎない。
 ちなみに、その手本として渡されたデータは某巨大掲示板で作成され、一時猛威を振るった自動連続投票スクリプトである。
 そのデータの何をどういじればこんなゲテモノになるのだろうか、正直それを想像しただけで頭が痛い。
 千雨は頭を抱え、全てを投げ出して布団に潜り込みたくなる衝動をなんとか抑える。


「ところでちう様、そろそろ敵をなんとかしないとまずいのでは?」

「あ……」


 千雨はここでようやく自分をとりまく状況を思い出し、周囲を見渡す。
 見れば千雨と情報精霊が無駄な論争を繰り広げている間に、最終防壁の前に展開した防壁は茶々丸によって侵食され、今にも破れようとしている。
 そして、かろうじて持ちこたえていた防壁は千雨の前であっさりと霧散した。これによって最後の盾が無くなり、残すところは最終防壁のみとなる。これが破られれば、超が切り札と称する鬼神が起動することになるだろう。
 千雨は自分のうかつさを呪ながら空を見上げる。そこには防壁を突破した視覚化された無駄データが、美味しそうなマグロの姿をして殺到してくる。
 ちなみにこの時、千雨の脳内にて『わさびと醤油があれば』と、考えてしまうのは日本人としての性であろうか。
 千雨は現実逃避を脳内で行いつつ、せまりくるマグロをただ呆然と見つめる。そんな時、今まですっかりその存在を忘れていた存在が動き出した。


 ――ズガァン!


 周囲を埋め尽くすマグロの群れが殺到し、恐怖のあまり千雨が目を閉じたその瞬間、巨大な影がマグロの群れの前に立ちはだかり、その身を挺して千雨を守る。
 マグロの着弾と同時に走る閃光、吹き上がる煙、海の底の設定なのに燃え上がる炎、そしてやはり溶け落ちる第3艦橋。その姿はまさに満身創痍。しかし、いくら傷つこうとその船はただのひとたびも揺らぐことなく、伝説と同じく巨大な鉄の城となって千雨を守る。
 身を挺して千雨を守った巨大な影、それは情報精霊が操る宇宙戦艦ヤ○トであった。
 そして、その隣には最終防壁に向かったマグロを濃密な弾幕で撃ち落すホワイ○ベースの姿も見える。
 黒と白の巨艦、双方ともに圧倒的不利な状況から多数の敵を葬り、人々の記憶の中で伝説となったその艦の戦う姿は、再放送かDVD版しか見ていないというのにどこかしら郷愁と感動すら覚える。
 ただ、千雨の目はしっかりと捉えていた。
 黒と赤のコントラストが眩しい船はさっきまで満身創痍であったのにも関わらず、何故か全て修復され、溶け落ちたはずの第3艦橋まで元通りにつながっているのを。そして白い方に至っては呪でもかけられているのだろうか、やはり左舷の弾幕が薄かった。


「……ずいぶんと忠実に再現したんだな」

「苦労しましたから」

「お前等、絶対に情熱と気合の入れる場所を間違ってるぞ」


 千雨は傷つくたびに元に戻る宇宙戦艦と、左舷の弾幕が薄いにもかかわらず何故かピンポイントで敵を落としていく強襲揚陸艦を呆然と見つめる。
 すると、ようやく間合いを広く取る事が出来たのか、ホワ○トベースからは大量のボ○ルが吐き出されていった。


「……なあ、なんでガン○ムじゃなくてボ○ルなんだ?」

「データが軽かったですから。あと、数は力ですよ」

「まあ、確かにそれはそうだが……いや、そうでもないか」

 
 千雨は情報精霊の言う事に一瞬納得しかけたが、ここでふと電脳空間の外で行われている戦いに思いをはせ、その考えを改める。
 事実、現実世界では猛り狂うタマモと刹那が、ランチェスターの全滅公式を真っ向から無視した戦果をたたき出しているのだ。それゆえに、単純に数の多いほうが有利とは言えないだろう。
 案外ガン○ムシリーズ、それもGP01やGP02、はてはフリーダムやジャスティスあたりがあれば、この大量のボ○ル以上の戦果をたたき出してくれるかもしれない。
 しかしそれはあくまでも仮定の話、とりあえず現状は危機を脱した。ならば後は反撃をするだけだ。
 千雨は今まで防御一辺倒だった鬱憤を晴らすかのように、その目に炎を映しこむとまるで大軍を指揮する女将軍のごとく凛々しく立ち上がった。


「とにかく、これからが反撃の時間だ。波動砲発射準備!」


 千雨の号令が下ると防御を担当するホワイト○ース隊は迫り来るマグロ群を的確に撃ち落し、ついでに弱点である左舷を守る。
 その隙にヤ○トは波動砲の発射準備を進めていく。
 ちなみに、この波動砲の能力はただ敵を殲滅するだけではない。この情報精霊謹製のヤ○トが放つ波動砲は、放たれたと同時に敵のDOSアタック経路を解析し、一瞬のうちにその経路から逆侵攻を図る優れものである。
 そして、それを受けた中枢サーバは圧倒的なDOSアタックを受け、停止する事になるはずであった。


「エネルギー充填120%、フライホイール接続完了、セーフティーロックボルト解除!」


 千雨の耳には情報精霊たちが取りまとめる発射過程の報告が次々と入ってくる。
 そして、全ての発射準備を終えると、これまた律儀に再現されたターゲットスコープが目の前に浮かび上がってきた。


「総員、対ショック、対閃光防御!」


 千雨が号令をかけると、すぐさま情報精霊たちはどこからともなくサングラスを取り出してそれをかける。まったくもって、本当に無駄にクオリティの高い再現である。
 ともあれ、全ての工程が終了し、後はただ引き金を引くだけだ。千雨はここで顔を上げると、スクリーンに映る茶々丸に向かって笑みを浮かべた。


「さあ、茶々丸……この攻撃を防げるもんなら防いでみやがれー!」
 

 千雨が吠えると同時に、凄まじい閃光が周囲を埋め尽くす。それはまさに千雨たちの反撃の狼煙であった。




「……く、さすが千雨さんですね、戦況をいっきに引き戻されましたか」

「ケケケ、甘ク見スギテイタナ」


 千雨の反撃により防御に専念せざるを得ない茶々丸が悔しそうに呟くと、それまでじっと黙って見ていたチャチャゼロが楽しそうに笑う。
 しかし、茶々丸とてこの程度で引くわけには行かない。
 ここをなんとしても凌ぎきり、再び攻勢をかけるために茶々丸は先ほどまでの千雨以上に素早く防壁を展開していく。
 そんな時、楽しそうに色々とデータをいじくっていたチャチャゼロが何かに気づき、その手を止めた。



「トコロデ妹ヨ、コノ無駄データハナンカ画像ファイルミタイダゾ」

「え?」


 チャチャゼロに釣られて茶々丸が向こうから送られてきたデータをエンコードして開くと、そこには推定年齢8歳程度のちびちうがロリータファッションをして笑顔を向けている画像が映し出されている。
 実はこれは情報精霊たちが適当に選んだデータをただ送りつけただけなのだが、これによって茶々丸の中でなにかのスイッチが入った。


「……そう……そうですか千雨さん。やはり私達はこちらのほうで決着をつけねばなりませんか」

「オ、オイ……」


 茶々丸は今まで以上に無表情で呟くと、新たなコードを自らの頭につなげ、別のスクリーンを起動した。
 そして、戸惑うチャチャゼロを他所に、千雨の攻勢を完璧に無視して凄まじい勢いでキーボードを叩いていく。
 すると、画面上に次々と謎の数値が浮かび上がり、それが終わると同時に別の場所に設置したホログラムスクリーンに本物と見まごうほど精巧なエヴァの3DCGが浮かび上がるのだった。


「マスターの現在の身体データ、運動データを再現。DNA及び食事事情、運動量から過去、現在、未来に渡っての成長を仮定。これにより、マスターの大人バージョンからちびじゃりバージョンまでの全ての年齢における映像を再現可能」

「オイ、チビジャリッテオマエ……」

「続いて、古今東西のアニメ、ゲーム、ドラマ、各種ファッション雑誌、民族衣装各種データを取得」


 スイッチが完全に入りってしまった茶々丸はもう止まらない。
 茶々丸は神速の速さでありとあらゆるデータを処理し、エヴァの各年齢層における最適なコスプレを選択し、それを画像データとして加工するとお返しとばかりに千雨へ送りつける。
 すると、今度は千雨のほうから大量のコスプレ画像がこれでもかとばかりに送られてきた。
 どうやら千雨のほうも茶々丸から送られてきた画像によってスイッチが入ってしまったようだ。彼女は現在進行形でアーティファクトの機能を利用し、レイヤーとしてありとあらゆるコスプレを撮影、もっか増産中のようである。


「ああ、さすがは千雨さん。これほどクオリティの高いコスをこんなに大量に……」

「イヤ、ダカラナ……」


 茶々丸と千雨、このライバル同士の戦いは、本来の学園結界を巡る攻防を他所に、まったく別の方向に加速し、益々白熱していく。
 そして、双方の攻撃の余波によってほころびた茶々丸側のネットワークは、エヴァの肖像権を完璧に無視した数々のお宝映像をネットの海へとばら撒いていく事になるのだった。

 
「……完璧ニ熱中シテヤガルナ。マ、トリアエズ仕事ハハタシテオクカ」


 白熱する画像のやり取りと、双方のスクリーンから聞こえる怒号を他所に、チャチャゼロはぎこちない動作で予め準備していたファイルを起動する。
 それは学園結界を崩壊させる自壊連鎖プログラムなのだが、本来ならそれは最後の最後に使う予定であった。
 しかし、今は何故か攻撃する側も防御する側もその本来の目的を完全に見失い、互いの矜持をかけて戦っている。
 そのため、完全に放置された学園側の最終防壁は送り込んだ自動侵攻プログラムによって役に立たなくなっており、後はこのプログラムを起動するだけで学園結界を落とす事が可能なのだ。


「私は負けません、マスターをプロデュースする者としての矜持にかけて!」

「こっちこそ新参の幼女ごときに負けてたまるか! レイヤーとして、ネットアイドルNO1の矜持にかけて貴様を打ち倒してやるー!」


 隣から聞こえてくる茶々丸と千雨の興奮した声、それを聞き流しながらチャチャゼロは静かにエンターキーを叩く。これにより、数分以内に学園結界は落ちることになるだろう。
 超からの依頼はこれによって果たした、後はもう趣味の時間だ。
 チャチャゼロは内心でそう呟くと改めて立ち上がり、いつもの定位置である茶々丸の頭によじ登る。そして、心ゆくまでエヴァのお宝画像を堪能するのであった。
 互いの矜持をかけて心ゆくまで戦う茶々丸と千雨、傍観者をきどりつつちゃっかりと一番いい席でお宝画像を眺めるチャチャゼロ。
 それはだれもが傷つく事の無い平和な戦いのように見えたが、後日流出した映像を目撃したエヴァはショックのあまり再び別荘へと引きこもる事になる。しかし、それはまだ見ぬ未来の事であった。





「どう、刹那……まだいける?」

「私は大丈夫です、タマモさんのほうこそ大丈夫ですか?」

「当たり前よ、横島の命がかかってるのに、この程度でへばってたまるもんですか」


 寒風吹きすさぶ戦場の中、タマモと刹那は背中合わせの状態で互いに武器を手にして戦場を見渡していた。
 戦闘が始まってよりすでに一時間、文字通り獅子奮迅の働きをしていたタマモ達にも少々の疲れが見える。しかし、視界を埋め尽くす敵の数はいくら倒してもいっこうに減ることはなく、数の暴力をまざまざと見せ付けていた。
 もっとも、タマモ達のあずかり知らぬ事ではあるが、横島の功績によって敵の武装は脱げビームのみとなっているために、ケガをした者はいない。
 ただし、幾人かの魔法先生および魔法生徒達はビームの直撃を喰らって下着姿を晒す事になってしまったが、脱ぐ事の恐ろしさを最もよく知る高音が即座に影魔法でもって服を形成して混乱を防ぎ、文字通りの影の功労者となっていたりする。


「それにしても、本当に雨後の筍みたいにまあゾロゾロと」

「私には蟻の大群に見えますね」


 タマモと刹那はお互いに疲労を押し隠し、口元に微笑を浮かべる。それは紛れも無い強がりではあったが、背中ごしに感じる覇気はまだまだ衰えを見せる気配は無い。
 自分達はまだ戦える、こんな所で折れるわけにはいかない。その思いをもって、二人は再び激戦のさなかへとその身を躍らせるのであった。


「……アスナさん」

「なによ」

「なんかこう……つくづく二人が敵でなくて良かったです」

「ほんまに凄まじいな。今のあの二人ならスクナでも瞬殺できそうや」

「私としては武道会のオマケラウンドで、アレにの片方に戦いを挑んだネギと小太郎君の方が別の意味で恐ろしいわよ」


 一方、敵へと突貫して行くタマモ達の近くでは、ネギとアスナ、そして小太郎が互いにフォローしあいながら田中さんたちと戦っていたが、その表情はどこか硬い。
 しかし、それも無理も無いことであろう。なにせタマモ達が今まで立っていた場所は、田中さんと多脚戦車の屍が山と積まれたその頂上にいたのだから。
 田中さんと多脚戦車の屍の山、その高さは軽く20mを越し、その裾野は戦場一帯に広がっている。屍の数を数えればおそらく、いや確実に1000体以上、下手をすれば1500体くらい行ってるかもしれない。
 但し、この屍全てがタマモ達のスコアではない。
 ネギもアスナも、いや彼らだけでなく魔法先生たちをはじめ、戦闘力が無いはずのハルナやのどか、夕映達も死力をつくして戦い抜き、かなりの敵を撃破してきた。
 しかし、タマモ達は明らかに桁が違っていた。なにしろ未来においては、このロボット達の暴走が引き金となって横島とあやかが命を落としたのだ。それを排除するための戦いなら、その気合は天にも届こうかというものである。
 そして、その気合によって水増しされた戦闘能力は戦場を完璧に支配し、問答無用の暴力という名の暴風を戦場に吹き荒れさせる。
 その結果、タマモ達二人の撃墜スコアは1000に届こうかというくらいであった。


「……本気で俺達よー生きとったな」

「あははは、なんでだろう。咸掛法をマスターしたはずなのに、勝てる気が全然しないや」

「そういえばネギ、あんた未来でかなりタマモちゃんを追い込んでいたわね……今の内に遺言でもしたためとく?」

「あ、それならもう既に肌身離さず持ってますよ」

「デフォルトで装備済みかい!」

「だってこの麻帆良学園で生活する以上、当然の事じゃないか。それに紛失した場合も考慮して、ちゃんと予備として2枚ほど机の中と銀行に預けてるし」

「それが無駄な準備である事を心から祈っとくで」

「……だといいけど。事が終わった後、もしタマモちゃんが未来での事を思い出したら確実に火達磨か圧殺ね」

「だ、大丈夫です。もしそうなったら記憶消去の魔法で……」

「それを失敗してタマモ姉ちゃんを脱がそうもんなら、今度こそ月面旅行かもしれへんなー」

「あううううう!」


 アスナと小太郎は、何故かこの戦い以外でネギの顔に死相が浮かんでいることを感じ取り、静かに両手を合わせる。
 どうやらこの二人、ネギを弁護する気はゼロのようだ。まあ、下手に弁護して巻き込まれてはたまったものでは無いので、薄情なようだが正しい判断ともいえるだろう。
 ともあれ、何気に余裕のあるこの3人の会話だったが、それには理由がある。
 なにしろ、眼の前に広がる鋼鉄の屍は確実に1000を超しているのだ。ならば敵の残すところは後半分以下、しかもその数は現在進行形の凄まじい勢いでもって減少中である。
 となればもはや勝利は見えた、そう考えるのも無理は無いことであろう。
 しかし、そんな彼女達の甘い思惑は裏切られるのである。


「ん? 田中さん達が出てこなくなってない?」


 その異変に最初に気付いたのアスナであった。


「あ、そういえば新手がでてこんようになっとるな」

「という事は、もう少しで殲滅完了?」

「せやな、まあ気合入っとった割にはあっけない……ってなんやアレは!?」


 今までと違い、なにやら緊迫した表情浮かべて小太郎は湖のほうを指差す。そしてネギもまた、小太郎とほぼ同時に湖におこった異変を察知していた。


「なに、この力は……何かが来る。とてつもなく大きな力をもった何かが」


 ネギと小太郎が見つめる先、今まで大量に田中さんたちを吐き出し続けていた湖はつかの間の静寂を取り戻していた。
 しかし次の瞬間、水面が目もくらむ光に覆われていく。


「な、なんなのよこれは……いったい何が起こるって言うのよ」

「わかりません、とにかくここに居ては危険です。すぐに皆にも連絡して下がりましょう!」


 ネギ達は事態がただ事では無いと把握すると、すぐにその場から下がり始める。
 それはまた、タマモ達も同様だった。


「何かが……来る!?」

「タマモさん、ネギ先生達も異変を察知して後退しているようです。私達も下がりましょう」

「そうね、私達は突出してるし。事態を見極めるためにもそうしたほうがよさそうね」
 

 タマモと刹那は互いに頷くと、ハンマーと夕凪を振り回して退路を確保する。そして、ネギ達のもとへ下がるのとほぼ同時に、この異変の正体が姿を現すのだった。


「くう、千雨は失敗したのね」

「どうやらそのようですね、それにしても大きい……」


 突如起こった異変の正体、それは湖から姿を現そうとする機械に覆われた巨大な鬼神であった。
 湖から巨体を起こそうとする鬼神、その大きさはスクナには及ばないとは言え、10mを軽く越えている。ともすればそのあまりの大きさに驚いたハルナなどは、すわ『巨○兵』かと叫ぶほどだ。
 実はこの巨大な鬼神は結界によって封じられたものであり、これこそが超の切り札であったのだ。
 超は茶々丸の助力のもと結界をダウンさせ、機械処理をすることで復活した鬼神を操って学園に点在する魔力溜りを占拠することを画策していたのである。そして今、超の思惑のもと姿を現した鬼神は魔法先生たちの攻撃を意にも介さず上陸しようとしている。
 しかも、最初に姿を現した鬼神の後ろにはさらなる鬼神がその姿を水面に現そうとしていた。
 一体でも圧倒的力を持っていることが予測される鬼神が複数もいる。その事実がこの場を守る全ての魔法使い達の背に冷水を浴びせるのであった。

 一方、タマモはその鬼神を見た瞬間に理解した。
 未来において横島を害したのは、この巨大な鬼神であると。
 タマモはこれまで戦いながらも、どこかがおかしいと感じていた。その理由の主な部分としては、数が多いとは言え田中さんや多脚戦車があまりにも弱すぎると感じていたからである。
 通常、どう考えてもこの程度の相手に横島が負けて命を落すとは思えない。いや、負けることはあるかもしれないが命を落とすという事はありえないだろう。
 しかし、未来では実際に横島は命を落としている。その理由について決定的な情報を得ていないタマモ達は最後まで悩んでいたが、この鬼神たちを見た瞬間にそれを理解したのだ。
 この鬼神は何らかの作用で力を抑えられているが、その内包する力はスクナほどではないとは言え凄まじいと言える。しかもそれが複数もいるのだ。
 こんなものと正面切っ、おまけに一般人という足手まといを抱えながら戦うのは自殺行為でしかない。そうタマモは結論付け、未来の横島の無念を思い、ギシリと歯軋りを鳴らす。


「そうか……こいつが……こいつらが横島を……」


 タマモは自らの相棒たるハンマーを握り締め、憎しみを込めた目で鬼神たちを見渡す。
 湖から姿を現す鬼神は既に五体を数える。そしてさらにその向こうでは、6体目の鬼神が姿を現そうとしていた。


「あれが横島さんの仇……」

「一応、ここではまだ横島は無事……無事なはずなんだけどね。けど、許すわけにはいかないわ」


 二人の少女はそれぞれハンマーと野太刀を握り締め、今までの疲れを忘れたかのように気勢を上げる。
 それは未来の横島の無念を晴らすため、そして現在の横島を助けるための少女達の悲壮な決意。
 ネギ達が見つめる中、タマモと刹那は自らがもっとも信頼する得物を手にし、鬼神の下へと歩を進める。その後姿からは、どんなに強大な敵であろうと退く事無いという悲壮な決意が窺える。
 そして次の瞬間、全てを覆す声が戦場に響き渡るのであった。


「進め巨○兵! なぎ払え、全ての男の夢をかなえるために!  あの丘を越えれば、そこには新たなる脱衣の女神達が俺を待っているー!!」


 戦場にどこかで聞いた事のある、慣れ親しんだ声が響き渡った。
 その音声の発生源は、湖のほうから今まさに出現しようとしている鬼神の頭上。よく見れば、その頭上にはこれまたどこかで見たことのある男によく似た男の姿があった。
 完全に静まり返った戦場の中、その場にいる全ての人間の視線が鬼神の頭の上で踊る男に集中する。


「ねえ、アスナさん。あれってもしかして……」

「き、気のせいかしら。なんか知り合いに凄くよく似てるわね……」

「いや、姐さん。あれは確実に……」


 鬼神の上で踊る男を見てネギは呆然とし、アスナは微妙に現実逃避をしていたところをカモにその退路を塞がれる。ガンドルフィーニにいたっては、その現実についていけないのかネギ以上に呆然としながら天を仰いでいるほどだ。
 殺伐とした戦場の空気をいっきに変え、皆の視線を一身に集める男。
 その男が誰かについては、もはやあえて説明するまでもなく誰もが察しているであろう。しかし、ここではあえてその男の名を宣言しておく。
 鬼神の頭上で興奮し、謳い踊る男。その男の名は横島忠夫と言った。






「進め巨○兵! なぎ払え、全ての男の夢をかなえるために!  あの丘を越えれば、そこには新たなる脱衣の女神達が俺を待っているー!!」


 横島は鬼神の頭に乗り、呆然とするタマモ達を見下ろしながら鬼神に号令をかける。
 この時、彼の頭の中はただ一つ、タマモ達を乗り越えた先にある桃源郷、一般生徒達による裸の泉であった。
 ちなみに、ことここにいたってなお、横島は自分がタマモと敵対している陣営についているとか、世界の危機、あるいは魔法使い存亡の危機だという認識はもっていない。
 なにしろ、元々オカルトが蔓延していた世界にいたのだから、今更世界に魔法が広がろうが何しようがそんなに世界が変わるものではない、とえらく楽観的な認識をもっていた――
 ――というわけではない。
 横島は超からあくまでもこれは学園祭におけるゲリライベントの一環でり、無許可のおかげで魔法先生たちが妨害してくるという説明しか受けていない。
 しかし、なんでタマモを未来に送るのかとか、たかだかゲリライベント程度でなんで魔法先生が妨害してくるのかとか、はては未来に送ったはずのタマモがなんでいるのかといった、普通なら疑問に思うところや、突っ込みどころ満載の説明で横島は納得してしまっていた。
 いや、正確には納得はしていない。ただ、そういった細かいことが気にならなくなっているだけであった。
 ちなみに、なんでそういったことが気にならないかと言うと、ただ゙単に女子大生との合コンというエサと、目の前にぶら下げられた裸の美女というご馳走の前に、そういった細かい事を考えるお味噌がどこかへ行ってしまっただけなのである。
 早い話がどこぞの王蟲ではないが、怒りならぬ煩悩で我を忘れてるといえば、今の横島がどんな状態なのか把握しやすいだろう。

 極上の美女の裸を拝むため、先ほどから鳴り響く緊急警報を完璧に無視し、己の生存本能すらねじまげて煩悩に染まる横島。
 その一方で、ネギ達はいまだにその驚愕から覚めてはいなかった。
 そして、この中で真っ先に動いたのは、意外にもガンドルフィーニ、明石、瀬流彦の三人であった。


「あれは……横島君? なんで彼があんな所に!?」

「ガンドルフィーニ先生、もしや横島君は超鈴音に洗脳されているのでは?」

「おそらくそうだろうね、あの目は普通じゃない。あれは明らかに精神操作系の魔法を受けている目だ」

「なんと! おのれ超鈴音、我等の恩人をよくも……」


 横島の本性をいまだに正確に把握していない、いや、盛大に勘違いしている三人は皆が凍り付いている中を真っ先に鬼神へと向かっていく。
 その行動は勇気に溢れ、称賛に値する行動であった。
 彼ら三人はつい昨日まで男としての尊厳を完膚なきまでに潰され、精神的にも肉体的にも重傷を負っていた。しかし、そんな彼らを横島は助けた。なんの見返りも受取ることなく、ただあまりにも気の毒だったからという理由で。
 回復した彼等は横島の男気に深く感謝し、いざ横島に事があれば何を捨ててでも彼を助けることを誓約し、『桃園の誓い』ならぬ『医務室の誓い』を三人で交わしたのだ。
 その横島に受けた恩を返すため、ガンドルフィーニらは己を捨てて横島を取り囲む鬼神へと走る。その姿は未来においてタマモ達にすべてを託して送り出すために、ドラゴンと戦った姿と何ら変わるものはなかった。

  走り去るガンドルフィーニを他所に、横島と会う事を最も熱望していたタマモ達はただひたすら沈黙していた。
 彼女達はあまりにも予想外で、あまりにも突然の横島の登場に呆けているのであろうか。
 答えは否である。
 彼女達はすでに横島登場の衝撃からは覚めている。なにしろ高音とメイを除いた全員が数ヶ月とは言え、あの横島と身近に過ごしてきたのだ。多少はその生態に慣れようとも言えるだろう。
 では、彼女達は本来なら死すべき運命にある横島と、こうして無事に再開した喜びに打ち震えているのだろうか。
 これまた答えは否である。
 たしかに彼女達の心どころか体まで震えているが、それはけっして喜びという感情から来た物ではない。
 では、何故彼女達の心が震えているのか。ここであえて彼女達の心の内を漢字一文字で表すなら、それは『怒』。二文字で表せば『憤怒』である。
 そう、彼女達は今、怒りにその身を震わせていたのだった。
 彼女達、特にタマモと刹那は未来においてあやかの魂の消滅を目撃し、横島の壮絶な死を知った。その悲しい未来を変えるため、ガンドルフィーニ、明石、瀬流彦といった犠牲を乗り越え、悲壮な決意を固めて元の時間に帰ってきたのだ。そして今の今まで、横島の死亡原因であろうロボット軍団の殲滅に粉骨砕身してきた。
 だのに当の本人は、あろうことか明らかに超側の切り札として現われた鬼神の頭に乗り、なにやら血走った目で踊り狂っている。
 悲壮な決意を固め、絶対に救うと決めたというのに、その相手がよりにもよって敵側として登場し、あまつさえそのエサはおそらく、いや間違いなくエロ関係。これで怒らなくて何を怒れと言うのだろうか。
 顔を伏せ、沈黙したままひたすら怒りに震えるタマモ達。その怒りの程は、彼女達を中心に同心円状に枯れていく草木と、その怒りの瘴気にあてられて落ちていく鳥達を見ればいかほどであるか察してもらえるだろう。
 誰もが沈黙し、怒りのあまり動きが取れない中、真っ先に動き出したのはネギだった。
 彼はもっとも濃い瘴気を撒き散らすタマモに近寄ると、まるで軍事演習のさなかであるかのように背筋をきっちりと伸ばして敬礼する。


「タマモさん、意見具申の許可を願います!」

「……なに?」


 タマモはしばしの沈黙の後、ネギの発言を許可する。
 しかし、彼女の目は「ここでふざけた事を言えばコロス」と言わんばかりに妖しい輝きを放っていた。
 ここでもしネギがタマモ達と出会わず、順調に多少歪みながらも清く正しく成長していたなら、きっとタマモと目を合わせた瞬間に気絶していたことだろう。
 しかし、今タマモの前に立つネギはあらゆる死線を乗り越え、日常に潜む危険と日夜戦い続けた結果、どこぞのネギ君とは別の意味で捻じ曲がりまくった成長をとげた猛者である。まして、これはネギにとって千載一遇のチャンスなのだ。この程度で怯むわけにはいかない。
 ネギは今にも逃げ出しそうになる両足を叱咤し、鋼の精神力でそれを抑えると改めてタマモと目を合わせる。そしてネギは自らの念願の、幾たびも望んで尚適わなかったその夢のため、そして薔薇色の未来を掴み取るために自らの考えを述べたのであった。


「殺っちゃっていいですか?」

「了承!」


 ネギの意見具申より、その返答までの時間は0.1秒を切った。
 ネギは今、感涙にむせび泣いている。彼はたった今、わずか10歳にしてこれからの人生の中でも二度と無いであろう、生涯最高の命令を得たのだ。その喜びはいかほどであろうか。
 かくして大義名分とこの上なき後ろ盾を得たネギは、自らの本懐を果たすためにその最後の力の一滴まで搾り出すのであった。


「1番、ネギ・スプリングフィールド! 『雷の暴風』&マスターの蔵書からパクった『永遠の氷河』(劣化Ver)行きます!」


 ネギの放った魔法は、横島を助けるために奮闘していたガンドルフィーニ達を巻き込んで炸裂し、湖上を氷の世界で覆いつくし、雷の嵐が横島を鬼神の頭から叩き落す。
 すると、それが合図であるかのように、横島に向かって次々と少女達が駆け寄っていった。ただし、横島に駆け寄る少女達の顔は例外なく神鳴流剣士がぶち切れた時の表情をしていた事を追記しておく。


「2番、神楽坂アスナ! 『ドラゴン殺し百烈斬』行くわよー!」


 まずアスナのハマノツルギが横島の脳天に炸裂し、鬼神の頭上から落下中にこれでもかと斬撃を叩き込む。


「3番、犬神小太郎! 『狼牙』100連弾行くでー!」


 次いで小太郎がまるでマシンガンのように『狼牙』を連打し、氷結した水面に落下した横島をぼてくりまわす。


「4番、高音・D・グッドマン! 操影術奥義行きます!」

「5番、佐倉メイ! 『紅き焔』手加減抜きでやらせてもらいます!」 


 そこですかさず高音とメイが絶妙の連携を組み、操影術による影人形によって横島を拘束したところをメイの魔法が影人形ごと最大威力で炸裂する。


「6番、綾瀬夕映! 『百科事典乱れ打ち』行きますです!」

「7番、宮崎のどか! 横島さんの恥ずかしい過去を全部暴露します!」


 メイの魔法により完全に消炭と化した横島であったが、あいにくと横島はこの手の火傷には慣れている。それゆえすぐに回復して逃走を図ろうとした瞬間、横島の後頭部にどこから取り出したのか、夕映がこれでもかとばかりに聖書やら百科事典やら哲学書やらをぶつけ、本の海に横島を沈めた。
 そして、身動きできぬ横島にのどかはつつっと近寄ると、手にした『イドの絵日記』を開き、妙に黒い微笑を浮かべながら横島の恥かしい過去を暴露していく。


「8番、古菲! 八極拳絶招『猛虎硬爬山』 喰らうといいアル!」

「9番、長瀬楓! 『四つ身分身朧十字』とくと味わうでござる!」


 自身の初恋、何歳までオネショをしていたか等、背中が痒くなるような甘酸っぱい思い出から永遠に封じておきたい大恥までを満遍なく晒され、精神的な大ダメージをうけた横島にクーフェイと楓は笑顔のまま近付くとそれぞれの必殺技を全力でぶち込む。
 クーフェイの必殺技は気によって横島の内蔵に深刻なダメージを与え、楓の必殺技は横島の外面をさらに徹底的に破壊していった。

 
「10番、早乙女ハルナ! 今度の新作は『横島さん×高畑先生』で決まりね!」


 最後にハルナが横島の前に立つと、彼女はどこからともなく取り出したスケッチブックにさらさらと手早く絵を描いていく。そしてそれを横島に突きつけた瞬間、彼は見事なまでに石化し、次いで砂埃のようにサラサラと風化して行くのであった。
 これぞまさしく因果応報、学園祭が始まってよりこのかた、ネギへと集中していた感のある痛みを伴う不幸が、たまりにたまったツケの精算を迫るかのように団体で横島へと訪れているかのようだ。
 かくして、ネギパーティー全員参加による『第1回横島ぼてくりまわし大会』は、トリを努めたハルナの一言を持って横島にトドメがさされることとなるのであった。
 なお、余談ではあるが横島へのトドメと同時に、とある少女がハルナに泣き叫びながらしがみついていたことを追記しておく。
 そしてさらに余談ではあるが、超の切り札であった鬼神は壮絶な死闘を繰り広げていたガンドルフィーニ達ごと最初にネギが放った『永遠の氷河』によって氷の彫像と化してしまっていた。


「ふう、これで少しは落ち着いたわね」

「くぅぅぅ、これでもまだ殺しきれないなんて! タマモさん、力不足な僕を許してください!」

「自分も参加しておいてなんですけど、これだけの攻撃を受けてまだ生きている横島さんっていったい……」

「お姉様、きっと気にするだけ無駄だと思いますよ」


 『第1回横島ぼてくりまわし大会』が盛況のうちに終了し、アスナ達は一様にいい汗をかいたと言わんばかりに清々しい笑みを浮かべている。
 もっとも、ネギは横島にトドメがさせなかったことがよほど悔しいのか、まるで横島のように見事な土下座をタマモに披露していたが、そんなものを今更気にする人間などここにはいない。
 そんな中、唯一大会に参加していなかった木乃香が小走りに横島に駆け寄ると、アーティファクトを召喚して横島の傷を治していく。怒っていたとは言え、さすがに見るに見かねたのであろうか、実に心優しき木乃香らしい行動である。
 横島は木乃香のアーティファクトによって全快すると、彼女の手を取りながら感涙にむせび泣きながら礼を言う。


「あ、ありがとう木乃香ちゃん……さすがの俺も今回ばかりはかなりやばかったよ、特に一番最後が」

「ああ、礼なんてええんよ。だって……」

「だって?」


 横島は一瞬、なにやら嫌な予感を感じて一歩後ずさりながら木乃香を見つめ直す。
 この時、木乃香はいつもどおりの笑顔だった。だが、その笑顔に何故かプレッシャーを感じてしまう。具体的に言えば木乃香の背後に『ドドドド!』とか、『ゴゴゴゴゴ!』とかやたらとジョジョチックな擬音が浮かび上がっているように見える。
 そして当の木乃香は笑顔をまったく変えぬまま、後ろに下がった横島に近付くとその手を取り、くいっと彼を引き寄せるとその耳元で小さく囁くのであった。
 

「せっちゃんとタマモちゃんの分を残しとかんといけんもんなー……」


 木乃香の囁きを聴いた瞬間、横島の背筋に嫌な汗が浮かぶ。どうやら彼女は、タマモ達が存分に折檻できるようにするために横島を回復させただけのようだ。
 ある意味今回の木乃香の行動は、横島が受けたオシオキの中で一番たちが悪いかもしれない。
 横島はこのままここにいては危ないと本能で察知し、なんとかこの場を離脱しようとするが、非力なはずの木乃香は決して横島を離す事は無く、当然横島もか弱き木乃香を乱暴に払いのける事など出来るはずがない。故に、横島は逃れられる最後のチャンスを失してしまうのであった。


「ありがとう、木乃香……これで最初から遠慮なく存分に痛めつけられるわ」


 なんとか木乃香を振り切ろうと横島が無駄な努力をしている中、ついに金色の夜叉がその姿を現す。
 麻帆良学園に君臨する金色の夜叉、その名は横島タマモ。
 横島はもはや自分が完全に詰んでいる事を悟り、その場にへなへなと力なく崩れ落ちる。しかし、それでも横島は最後の足掻きとばかりに振り返って言い訳を言おうとしたが、あまりのタマモの迫力にそれすら出来ないでいた。


「あ、あの……タマモさん、何をそんなに怒っていらっしゃるのでしょうか? それに刹那ちゃん、なんで思いつめたかのような顔をして匕首を持っているのですか?」
 

 横島は炎を纏うタマモと、無言で佇む刹那のあまりの迫力に久しぶりに丁稚根性が触発されたのか、異様なまでに低姿勢でタマモ達に話しかけた。
 何しろタマモは凄まじい殺気を撒き散らし、手にしたハンマーはその怒りを反映しているのかギガを通り越してテラの単位に達している。そして刹那にいたっては初公開のアーティファクト、シーカシシクロを手にしてじっと横島を見つめているのだ、うかつなことを言えば真剣に命が危ない。
 ゆえに横島は卑屈な表情と完璧なまでの低姿勢を駆使し、タマモの怒りの原因を探ろうとしたのだが、タマモは横島の質問を聞くと今まで以上に殺気を吹き上がらせ、横島を睨みつけた。


「何を……何を怒っているかですって? そんなこともわからないのかしら?」

「わからないもなにも、正直ちょびっと興奮しすぎて我を忘れていたけど、そこまで怒りを買うほどの事をしでかした記憶は無いのですが……」

「ええ、確かに横島にとってはそうよ。けどね、私達は今とてもじゃないけどそんな正論で抑えられる状態じゃないのよ」

「おい、それっていったいどういう……」

「だいたい、未来であれだけ私達を心配させて……絶対に助けると誓って……ガンドルフィーニ先生達の犠牲を乗り越えて帰ってみれば、あんたはどういうわけかどこにもいなくて。それでも必死に探して……横島を助けるために必死に戦って……やっと会えたと思ったら、よりにもよって超の味方として出てくるし……ゴメンけど、今回ばかりは手加減できそうに無いわ。もし死んだら私も後を追うから許して」

「いや、ちょっと待て! お前はいったい何を……っていうかお前今まで手加減してたのか?」

「私はいつだって全力全開よ!」

「手加減してねえじゃねえか、ごるぁー!」


 横島は感情を今にも爆発させようとしているタマモを前に、今回ばかりは本気で命がヤバイと感じたのかいつになく真剣にタマモを止めようとする。
 しかし、あらゆる意味でがけっぷちにあったタマモの感情はもはや止まる事は無く、もはや横島に残された運命は究極の生か死の二者択一しか残っていない。
 ここで横島はふと死線を上に向けると、そこではいつの間にか現われた死神が顔の前で十字を切り、最後に仏を拝むかのように手を合わせている。
 かくして横島の末路は定まった。後はタマモによる断罪のハンマーが振るわれるのを待つだけ。
 横島がそう悟りを開き、せめて命がありますようにと神に祈りを捧げた時、タマモを制するかのように刹那が横島の前に立った。


「せ、刹那ちゃん?」

「……」


 横島の前に立った刹那はただ無言で横島を見つめている。そして無言のまま横島に近寄ると小さな白い右手を手を振り上げ、その手を横島の頬へと打ち据えたのだった。


 ――パシーン!


 静まり返った世界の中、刹那が放った鋭いビンタの音が響く。
 横島としては、刹那からの突っ込みは夕凪かアーティファクトによるものだと予想していたところに、ただ鋭いだけのビンタが来たのでいささか拍子抜けといった感じだろう。いや、むしろこの程度で済んでラッキーと思っているくらいだ。
 だが、横島のそんなお気楽な考えは刹那の顔を改めて見た瞬間、無残にも打ち砕かれる事となる。
 横島の頬を打ち、その体勢のまま固まったかのように横島を睨み続けていた刹那は泣いていた。彼女は必死に泣くのをこらえるかのように唇をかみ締めているが、その試みはうまくいかず、どうしても唇のはしから嗚咽が漏れる。
 そんな刹那の状態に思わず横島は彼女の肩に手をかけようとする。しかしその瞬間、今まで固まっていた刹那の手が再び動き、もう一度横島の反対側の頬を打ち抜いた。


 ――ピシッ!


 皆が静かに見守る中、もう一度横島の頬を打つ音が響く。しかし、その音は一度目の音と比べてかなり小さい。ゆえに、横島にはなんら痛撃となってはいない事は明白だった。
 だが、当の横島は何故か一度目よりも今回のビンタの方が痛く感じていた。
 たしかに単純な痛みならば、文句なく一度目のほうが痛い。しかし、二度目のそれは痛みの質がまったく違っていたのだ。
 一度目の頬への衝撃は一瞬の激痛と、驚愕を横島に与えた。そして二度目は横島の心に痛みが走った。
 この時の横島の心をより具体的に表現するなら、美神の着替えを覗くつもりでいたのに、間違えておキヌの着替えを覗いてしまったような感覚、所謂罪悪感というものが横島の心の中で生まれた。
 もちろん、今までの横島もまったく罪悪感がなかったというわけではない。だが、何か失敗なりセクハラをやってしまった場合、ほぼ例外なく強烈な折檻を喰らい、その後うやむやとなって元通りになるという事を繰り返していたために、あまり罪悪感というものを表に感じる事などなかったのだ。
 その結果、今回の刹那のように目の前で泣かれるとどうしていいかわからなくなってしまい、心の内を罪悪感が暴れまくっている状態となってしまっていた。 
 横島が普段あまり表に出ない罪悪感に打ちのめされ、なにか自分は大変な事をしでかしてしまったのかと、今更ながら思い至る。そして未だに涙を流して自分を睨みつける刹那に許しを請おうとしたその時、刹那の手がもう一度動き、横島に三度目の衝撃を与えた。 
 横島を襲った三度目の衝撃、それは今までの硬質な手の感触と違って非常に柔らかく、かつ重い衝撃で思わず横島は尻餅を憑いてしまう。


「え?」


 横島は突然の事に戸惑いつつも、ゆっくりと視線を下に向ける。すると、そこには自分の胸にすがりつき、もはや我慢もなにもなくなった状態で子供のように泣く刹那の姿があった。
  

「横島さん、横島さん……横島さん……」


 刹那は横島の背中に手を回し、胸に顔を擦り付けるように泣きながら横島の名前を連呼する。
 この時、刹那の心はもうぐちゃぐちゃだった。
 刹那はタマモと共に未来において横島の死と、あやかの消滅を目にし、その悲しみを乗り越えて過去に帰り、横島を助けるために必死に戦ってきた。
 だのに救出すべき本人はあろうことか超の味方となり、あまつさえ魔法が全世界に広まるという危機だという自覚もなく、あまりにもいつもどおりにセクハラをかます横島に心底呆れると同時に怒りで頭が真っ白になっていた。
 しかし、それでもようやく出会えたことの喜びは隠せない。
 未来において死ぬ運命にあり、その最後を看取ることすら出来なかった横島がいつもどおりの姿ですぐ側にいる。それが刹那にとってどれほど嬉しいことか、とても推し量ることなどできない。
 喜怒哀楽、全ての感情が刹那の中でぐるぐると渦巻き、刹那をよりいっそう混乱させ、自分が今怒っているのか、それとも泣いているのかもわからない状態だ。
 だが、そんな乱れた感情は時と共にある一つの思い、安心感という思いへと終息していく。それはおそらく横島にすがりつく事によって、そのぬくもりを直接感じたが故に表に出てきた思いであろう。
 刹那は横島にしがみつき、未だに止めることの出来ぬ涙を流したまま、生きて再び出会えた事を心の底から感謝するのだった。
 一方、刹那の感情の発露を一身に受ける横島もまた刹那以上にうろたえていた。
 なにしろ、横島としては女子大生との合コンというエサに釣られて超を手伝っていたら、突如としてネギパーティーによって美神ですら戦慄するほどの折檻を受け、その上トドメとばかりに刹那に頬を叩かれたのだ。そして今、刹那は尻餅を憑く横島にすがりつくように泣いている。
 その慟哭は今まで以上に横島を動揺させ、原因のわからない罪の意識が心をさいみ、刹那に声をかけることも出来ずにただ戸惑うのみだ。
 そしてどれほど時間がたったであろうか、ようやく刹那が泣き止む兆候を見せ始めると、横島はようやく刹那に声をかける。


「あー、その……なんかよーわからんけど、ゴメン」

「いえ、私のほうこそ取り乱してしまって……」


 刹那はここでようやく顔を上げた。彼女の顔にははっきりと涙の跡が浮かび、その目は充血して真っ赤になっている。
 そして顔を上げた刹那は、自分と横島の顔が異様に近い事に気がつき、今自分が横島に抱きついている事を今更ながらに自覚したのか、一瞬で顔を真っ赤にするといっきに横島からとびすさる。
 すると、ちょうどそのタイミングを見計らっていたのか、今までただ沈黙して横島達を見ていたタマモが二人の間に入った。


「さて、次は私の番かな? どうやら刹那との話し合いは終わったみたいだし」

「ん、タマモ? って待て、なんか知らんが俺がとんでもない事をしでかしたのはよーわかったから、どうかハンマーだけはご勘弁をー!」


 当然、横島は突如として割り込んだタマモに首を傾げるが、ふとさっきまでの怒れるタマモの姿を思い出し、まるで小動物のようにガタガタと震えながら許しをこう。
 するとタマモは今までの怒りが嘘のように微笑むと、刹那と横島に微笑みかけた。


「そんなに脅えなくてもいいわよ、さっきの刹那を見ていたら今更横島を折檻しようなんて気はなくなったわ。まあ、それなりに収穫もあったことだし」

「収穫?」

「ん、あんたの場合、下手に肉体的に痛めつけるより女の武器を駆使して精神面から攻めたほうがより効果的だってことがわかったしね」

「ぐむ……」


 タマモはここで悪戯っぽく視線を横島に向ける。その仕草から見るに、確かにタマモの言うとおりその怒りはもはや霧散しているようだ。事実、最終的に地球の重さに匹敵するほどの数値をたたき出していたタマモのハンマーは元の100tに戻っている。
 これは怒りに任せて暴発する直前、刹那によって毒気を完全に抜かれてしまったからというのが大きい。
 なにしろ、いざ横島に対して史上最高の折檻を行おうとした直前、刹那が横島にすがり付いて泣き出したのだ。この行動のおかげで折檻するタイミングを完璧に逸したのだが、その結果として横島が肉体的に責められる以上に自らの良心によってのた打ち回る様を見たのだから、とりあえず良しとしたようである。
 もっとも、それはそれとしてもやはり多少は何かをしておかないと心が落ち着かない。
 だからタマモはニヤリと笑うと刹那と同じように、未だにへたり込んでいる横島の胸に飛び込んだ。
 ただし、刹那と違って横島の胸で泣いたりはしない。


「いでぇぇー!」


 タマモが横島の胸に飛び込むと同時に、横島は苦痛の叫びを上げる。
 見れば、タマモは横島にすがりつくと同時にまるで吸血鬼のように横島の首筋に噛み付いていた。
 横島はタマモの行動にビックリして飛び起きると、そのまま強引にタマモを引き剥がす。
 すると、今までタマモが噛み付いてた首筋にはくっきりとタマモの小さな歯型がこれでもかというぐらい見事に自己主張していた。


「てっめタマモ! おまえいったい何しやがる!」

「私を泣かせたんだから、それぐらいの事あまんじて受け入れなさい。まあ、マーキングも兼ねてるけどね」

「マーキング?」

「そ、だからあんたはもう私から離れちゃダメ。私のいないところで、私が知らないところで絶対に消えたらダメよ」


 タマモは突然の痛みと、不可解な行動に首をかしげる横島に舌をペロリと出すと悪戯っぽく笑っていたが、ふと表情を改めると今度こそ横島の首に細い両手を回し、横島の胸にもたれかかった。
 横島はそんなタマモの行動と真意を量りかね、タマモを抱きしめるでもなくただ立ちすくむだけだったのだが、ふと右腕に鋭い痛みが走り、そこに目を向けると、そこには先ほどのタマモと同じように横島の腕に噛み付いている刹那の姿があった。


「えっと……刹那ちゃん、いったい何を? というか、かなり痛いんですけど……」

「ほほ、いひほうははひもはーひんふほ」

「いや、何を言ってるのかわからないから」

「ぷはっ……いえ、その……私もその、タマモさんと同じようにマーキングをと思いまして」

「刹那ちゃんまで……いや、まあいいんだけどね」


 横島は最近すっかりタマモに染まってきた感じがする刹那にがっくりとうな垂れ、対照的に刹那とタマモは互いに微笑むと再び横島の腕や首筋へと噛み付くのだった。
 

「ちょ、いだだだ! って二人とも甘噛はやめてくれー、なんか新たな世界への扉が開いちまうー!」


 横島の悲鳴と二人の楽しげな声が、凍りついた湖の上で響き渡る。 
 その一方で、その一部始終を見ていたアスナ達は思わず砂糖を吐きそうになりつつ、呆れたような視線で三人を見つめていた。


「……まったく、結局タマモちゃん達はこうなるわけね」

「とにかくこれでいつもどおりっちゅーわけか。それにしても兄ちゃんは本当に人騒がせっちゅーかなんちゅーか」

「んー、でも二人とも嬉しそうやん? 泣いとるよりよっぽどええよー」

「登場の仕方については思うところがそれこそ1ダースぐらいありまが、何はともあれこれで無事全員がそろったわけですからね。どうせならもう少しこのチャンスに痛めつけときたかったですけど」

「ネギ君、だからなんか最近黒いって……まあ、ある意味運命の再開だからねー、今度の新作にネタとして使えるかな?」

「あ、横島さんが今新たな扉に自分から手をかけてますー!」

「の、のどか! なんであなた普通に横島さんの心をアーティファクトで見てるですか!」

「といいつつ、夕映どのもしっかりと見ているでござるな」

「あの、みなさんそれよりもガンドルフィーニ先生達が氷付けに……」

「ガ、ガンドルフィーニ先生!? それに明石教授に瀬流彦先生まで! いったい誰がこのようなことを、もしかして超鈴音が?」

「いや、それやったのはネギ坊主アルね」


 一部例外はあるが、アスナ達はこれで全て終わったとばかりに肩の力を抜き、互いに談笑しながら肩の力を抜く。
 しかし、この時高音がふと口にした超の名前にタマモが反応したのか、横島の腕から口を離すとゆらりと立ち上がる。
 突如として立ち上がったタマモ。その背後には消えたはずの憤怒の炎が再び燃え盛り、そのあまりの迫力に脅えた横島は思わず刹那に抱きつきながらガタガタと震えだした。


「そういえば……まだ因果を含めておかないといけないのが残ってたわね……」

「ア、アノ……タマモサン?」

「ねえ、横島……」

「ナ、ナンデゴイマショウ」

「超はどこ? もちろん、居場所はしっているんでしょう?」


 タマモは傾国に恥じない妖艶な笑みを浮かべ、横島の顎にそっと手を当てる。しかし、その背後に背負う怒りの炎が年齢不相応にまとう色気の全てを焼き尽くし、まるで毘沙門天のごとく雄々しさを感じさせる。
 横島はそんなタマモの仕草に完全に腰が引けてしまい、抵抗する気力すら浮かんでこない。まあ、元々抵抗する気など皆無であったのかもしれないが、なにはともあれ横島は躊躇することなく今回の騒動の元凶である依頼主をタマモに売り払ったのだった。


「えっと……あの、あそこに……」


 横島が震える手で指差す先は既に暗くなった空。星明りがあるとは言え、こうも暗くては普通なら何も見えない。
 しかし、タマモは別格だった。タマモは元々超感覚を持つ妖狐である上に、その最上位である九尾の狐なのだ。彼女にとって、この程度の暗闇などなんら障害になるはずが無い。
 故に彼女の目は横島の指差す先に浮かぶ巨大な飛行船の姿をその目ではっきりと捉えたのだった。
 

「そう、あそこに超がいるのね……」

「イ、イエスマム!」


 タマモは確認するように横島に視線を向けると、横島は直立不動の姿勢をとり、見事な敬礼でそれに答える。
 するとタマモは妖艶に微笑むと再びハンマーを手にし、そのハンマーで空に浮かぶ飛行船をビシリと指し示すと、背後の炎をいっそう燃え盛らせながら声を張り上げた。


「超、ちょっと紆余曲折はあったけど横島は返してもらったわ。後に残るのはあんただけ、今そこに話つけにいくからせいぜい首を洗って待ってなさいよー!」


 アスナ達が見守る中、タマモは空を見上げて超にむかって声を張り上げる。そんな彼女の背後では魔法先生達がガンドルフィーニ達を助けようと悪戦苦闘しているが、ネギの魔力が無駄に高いせいか未だに救出できないでいた。
 なにはともあれ、こうして最小限の被害でタマモ達は念願の横島と再会し、これによって役者は全てそろう事となる。
 後に残すは今回の事件の首謀者たる超との最終決戦のみ。
 学園祭の最後を飾る史上最大のイベントはいよいよフィナーレを迎えようとしていたのだった。


 第54話 end    



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