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「超、ちょっと紆余曲折はあったけど横島は返してもらったわ。後に残るのはあんただけ、今そこに話つけにいくからせいぜい首を洗って待ってなさいよー!」


 ――ゾクゥ!


 タマモが空に浮かぶ飛行船に向かって強烈な視線を向けたころ、強制認識魔法の最終工程に必要な巨大な魔法陣がほどこされた飛行船の上で、超は言い知れぬ寒気を味わっていた。


「き、気のせいかな? 今、自分がまるで蛇に睨まれた時の蛙になったような感じがしたネ」

「たぶんそれ、気のせいじゃありませんよ」

「えっと……それはなぜかナ?」

「たった今、タマモさんに捕捉されました」

「……」

「どうします? 撤退の準備はすでに完了していますが」


 超と同じく飛行船の上にいるハカセは手にしたPCに映る映像を超に示し、タマモに完全に捕捉されたことを知らせると、超に撤退か作戦続行かの決断を迫る。
 ちなみに、そんな彼女の背中にはすでに個人用飛行ユニットが装着され、逃げだす気満々のようだ。
 一方、決断を迫られた超はと言えば、完全に氷柱と化した鬼神達に絶句しつつ、それでもまだあきらめていないようだ。


「だ、大丈夫。まだ大丈夫ネ。まだこちらに利が……」

「具体的にどんな?」

「一応、あの鬼神の出現に気を取られた隙に、魔力溜りに向けて拠点制圧用の田中さんを差し向けたから、あとは詠唱の時間を稼げばなんとか……」

「けど、鬼神がああなった以上、時間稼ぎなんて……ってもしかして超さん、貴方は……」

「こうなったらもう是非もなし、私自身を囮にして降りて行くしか無いネ。ハカセ、その間の魔方陣の発動はまかせたヨ」

「超さん……」

「大丈夫、未来を変えようという大それた事をしているのだから、犠牲はつき物ネ。そしてそれは私自身も例外じゃないヨ。なに、いくら怒っていようとクラスメイトだ。命の危険は無い……と思う……たぶん……きっと……そうですよね、神様!」


 超は自らをエサにタマモ達を引きつけ、その間に魔力溜りの占拠と強制認識魔法の発動を行うことを決意する。彼女の取ろうとするその行動は怒れるタマモ達には効果覿面であり、確実な成功が見込めるだろう。
 だが、今まで数々の死亡&敗亡フラグを打ち立ててきた超が、はたしてこの作戦を完遂させるであろうか、はなはだ疑問が残る。
 ゆえにハカセは超の悲壮な決意を前に彼女の説得を諦めつつ、ここでふと何かを思い出したかのように懐から一枚の紙片を取り出した。


「……まあ、それはともかく。超さん、この書類にちょっとサインおねがいしますね」

「ん? 外泊証明書かなにかカ?」

「そんなものです」


 超はこれから自分を待ち受ける過酷な未来を想像し、目を虚ろにさせながらその書類らしき物を手に取ると、いつぞやの横島のようなセリフをのたまいながら碌に内容も確かめずにサインするとそれをハカセに返す。
 ハカセはその紙を受取るとわずかに口元を綻ばせ、そのまま懐に大事そうにしまった。


「さて、これで人事はつくしました、あとは天命を待つのみといったところですかね」


 ハカセは隣で自らの身の安全を神に祈る超を尻目に、どこか悟りをひらいたかのよ表情で空を見上げる。
 すると、天はまるでこれからの彼女達の運命を暗示するかのように、暗雲が広がろうとしているのだった。



 ちなみに、先ほどハカセが超にサインを求めた書類には『今回の計画の立案、実行、指揮、統括は全て超鈴音によるものであり、葉加瀬聡美はその命令に従っただけである』と書かれていたりする。
 なにげに己の保身にしたたかな彼女であった。






第55話 「Armageddon」







「で、盛り上がってるところ悪いんだが、そもそも状況がさっぱりわからんのだが……というか、本当になんでタマモと刹那ちゃんはあんなに怒ってたというか、切羽詰ってたんだ?」


 タマモがいざ天空に浮かぶ飛行船へ向けて、オリンピックの金メダリストも真っ青な必殺のハンマー投げを披露しようとしたその時、いまだに事態を飲み込めていない横島が声をかけた。
 すると、即座にタマモ達どころか、アスナやネギまでひっくるめた全員の冷たく鋭い視線が横島の体に突き刺さる。


「ああ、なんか視線がチクチクと! 美少女の蔑みを込めた冷たい視線が痛い! 痛いけど……なんだかそれが快感にブォゲ!」

「やかましい! 今説明してあげるから大人しくしなさい!」


 全員の冷たい視線に晒され、なにやら新しき扉を全力で開こうとしていた横島に、もはや定番となったタマモのハンマーが突き刺ささる。
 結局のところ、せっかく刹那のおかげでタマモからの折檻から免れたのにも関わらず、最終的にハンマーの一撃を喰らってしまう当たり、もはや業と呼んでも差し支えないのではないだろうか。
 しかし、今回のタマモと横島のボケと突っ込み合戦によって、タマモを含めた全員が普段の呼吸を取り戻す一助となったことも忘れてはならない。
 先ほどタマモと横島の間で行われたやりとり、それは双方の意図したものではないにしろ、かつての美神と横島の関係と同じようにいい感じで場の空気を和ませ、最終決戦に向けて気負っていたせいで入っていた余計な力を取り除いていた。
 これにより、タマモ達はまさに完全な状態で超と戦うこととなるのだが、そのおかげで超の勝算はますます少なくなり、もはやどこかの汎用人型決戦兵器の起動確率すら下回っている可能性すらありそうだ。
 ともあれ、横島のおかげで一息ついたタマモ達は改めて横島に未来での出来事を説明する。

  
「あー……未来で魔法がバレてたとかはともかくとして、要するに一週間後の未来では俺とあやかちゃんが死んでいたと?」

「ええ、だから私達はそれを阻止するために色々と動いていたんだけどね」

「正直、まさか横島さんが超さんの味方についていたとは想像も出来ませんでした」

「人生もうちょっとで15年、よもやこんなに若くして殺意の波動に目覚めるとは思っても見なかったわよ」

「僕の場合、10年にも満たないんですけど……」

「あの……さっき死神さんが皆さんの背中に『天』という文字を……」


 横島がようやく事態を把握すると、皆は一斉にため息をつき、口々に横島に文句を言う。だが、すでに怒りを完全に発散させたせいか、その声には怒りの成分は含まれていない。
 まあ、のどかとハルナなどはいつの間にか背中に浮かんでいた『天』の文字を気にしているが、その辺は些細な事だ。
 ちなみに、かつて『裸』の一字を背負った高音とメイは『裸』の文字から逃れられたおかげで感涙にむせび泣き、そのきっかけを作った横島に心底感謝いていたりしているが、その辺についても些細な事なので詳しい描写は差し控える物とする。


「で、タマモ達はこれから俺とあやかちゃんの仇を討つために超ちゃんの所に行くと……」

「そうよ、未来であれだけの事をしでかしたんだもの、その落とし前はきっちりつけてもらわないとね」

「けど、俺はこうして生きているんだが……いいのか、それで? 未来ではともかく、今の時間だと超ちゃんは何もやってないんじゃないか?」

「それはそれ、これはこれよ。たしかに二人とも無事確保したけど、一応こんな事態を引き起こした超には因果を含めておかないとね」

「それに、魔法を全世界にバラすというのも阻止しなければいけませんし、どちらにしても超さんとの戦いは避けられないかと」

「そ、そうか……」


 横島は一応この時空では横島&あやかの殺害と言う、タマモ達にとっての重罪を犯していない超をフォローしようとするが、刹那の正論を前に何も言えなくなってしまう。
 ただし、やはり二人とも腹に据えかねているせいか、その背後には炎を纏っている。
 とはいえ、その炎の勢いは初期と比べると格段と下がっているため、おそらく超の命をとるまではいかないであろう。
 横島は二人の気迫に若干引きながらも、超の冥福を祈りつつ緊張を緩める。
 しかし、それは戦場において決してやってはいけない行動であった。何故なら、横島が気を抜いたその瞬間、なんの前触れもなく突如としてタマモが横島の前から姿を消したのだから。


「タ、タマモさん!?」

「タマモ!」


 タマモが姿を消したのとほぼ同時に、凄まじい激突音が響き渡る。
 横島と刹那は思わず反射的に振り返ると、そこには先ほどまで健在であったタマモが地面にうずくまり、その隣には大地に伏したタマモを冷然と見下ろす超の姿があった。


「ち、超鈴音!」

「まて、タマモが奇襲だと!? そんなばかな!」


 横島と刹那は思わずタマモに向かって駆け出そうとするが、超はそれを遮るようにタマモの前に立ちはだかり、横島と刹那を牽制する。
 横島と刹那以外の皆は突然の事態にまったく対応できず、現実を認識した今をもってしても動けないでいた。
 なにしろ、麻帆良学園において最恐の座に君臨し、ネギを筆頭にした数々の猛者にトラウマを植え付けた恐怖の女帝が今彼女達の目の前で大地に伏しているのだ、その驚愕は想像を絶している。
 その中でも横島はタマモの超感覚を知るがゆえに、奇襲を食らった事実に驚愕している。


「貴様、タマモさんに何をした!」

「なに、ちょっと電撃を浴びて動けなくなっているだけネ。だから――」


 なんの前触れもなく突如として現れ、いとも簡単にタマモを打ち破った超は夕凪を抜き放って警戒する刹那に向けて不敵に笑う。


「――命に別状は無いから安心するといいネ」


 そして次の瞬間、超の姿が消え、再び現れた時には彼女の足元に新たなる犠牲者が力なく横たわっていた。
 超の足元に力なく横たわる新たなる犠牲者、それはなんの反撃も、いや反応すらできずに昏倒させられた刹那であった。
 先ほどのタマモへの攻撃は完璧な奇襲だった。しかし、今度の刹那への攻撃は、誰もが超の姿を確認していたのにも関わらず、誰も攻撃の瞬間を見たものはいない。
 それは瞬動術すら目で追える楓やクーフェイ、小太郎、そして人類を凌駕する動体視力と反応速度を持つ横島であっても例外ではなかった。


「せ、刹那さん!」

「待つでござるネギ坊主、闇雲に突っ込んでも犠牲が増えるだけでござるよ」


 大地に横たわる変わり果てた刹那を前に、ネギは思わず駆け出そうとするが、それを楓がネギの襟首を掴んで押し留める。
 ネギはそんな楓を不満そうに見上げるが、冷静に考えれば楓の言っていることは正しく、超が何をしたのか把握できなければ返り討ちにされて終わる事は間違いないだろう。
 かといって、今こうして超と睨み合っているだけで彼女の攻撃の秘密が探れるかといえば、答えは間違いなくNOである。
 となれば、楓が取る行動はただ一つ、自らを犠牲にして超の秘密を暴き、後事をネギ達に託すだけだ。
 そう決意した楓はネギをアスナに向けて放り投げ、懐から2本のクナイを取り出すと、刹那を足元に組み敷いたままこちらに目を向けて笑う超に構える。
 しかし、そんな彼女押し留めたのは横島の何気ない一言であった。


「もしかして今のは……超加速か?」 
 
「超殿が使った技をご存知でござるか?」

「一応心当たりはある……超ちゃん、ひとつ聞いていいか?」

「何かナ? 答えられる範囲でなら答えてあげてもいいヨ」


 超は最も恐れていたタマモの無力化が成功した事により、今までの切羽詰った状態と完全に決別し、なおかついくつも打ちたてた敗亡フラグを叩き折った事を確信してか、その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
 その一方で、横島はなんとも難しそうな、いや、むしろ気の毒そうな表情をしながら超に語りかけるのだった。


「最近大怪我をしたはずなのにいつの間にか直ってたり、心身ともに覚えの無い疲労感を感じたり、はてはタンスの中にいつの間にか八の字がプリントされたランニングシャツが入ってたりしてないか?」

「ちょ、なんなのよそのふざけた質問は!」

「いや、別にふざけてなんか無いぞ。一応俺の知り合いにそういう特殊能力を持ってたやつがいてな、そいつに関わると何故か顔をマフラーで隠して八の字がプリントされたランニングを身にまとい、トランクス一丁で悪をなぎ倒す正義の暴走特急が街に出現するんだが……超ちゃん、本当に身に覚えないか?」

  
 横島のあまりにふざけた質問に、外野であったはずのアスナは思わずタマモに代わって突っ込みを入れる。
 しかし、当の横島はいたって真面目らしく、なにやら嫌な記憶を振り払うかのようにどこか薄ら寒そうに体を震わせながら説明を続けていく。
 そんな中、なにやらインスピレーションを感じたのだろうか、ハルナがどこからともなくスケッチブックを取り出すと一心不乱に書き始め、しばらくするとそれが完成したのか横島に確認を求めるかのように差し出した。


「あの、横島さん。その正義の暴走特急ってこんな感じかな?」

「ん、どれどれ……ああ、おおむねこんな感じだな。だけど……」

「どこか変だった?」


 横島はハルナが差し出したスケッチブックを見つめながら、なんとも言えない複雑な表情をして顔をしかめた。
 そんな彼の視線の先では、とても短時間で描いたと思えないような見事な絵が色まで着いた状態で描かれている。
 その内容は横島の言うとおり顔をマフラーで隠し、トランクス一丁で上半身は八の字がプリントされたランニングシャツを着ている人物が描かれていた。
 ただし、その人物とは――


「いや、なんでモデルがエヴァちゃんなんだ?」


光の福音見参!



 ――我らが闇の福音、現在茶々丸に極秘映像をネット上にばらまかれ、後日別荘で飲んだくれることが確定しているエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人であった。


「あれ、そういえば……なんでだろう? 何か凄く書きやすくて、どこからともなく具体的なイメージが……」

「異世界の電波でも受信したか?」

「なんでかな、私そのエヴァンジェリンさんを見た事があるような……そう、いつか見た夢の中で……」

「まあ、電波はともかく。あの能力が使える以上、俺のの予想が当たってれば超ちゃんはこんな格好をして麻帆良の平和を守ってるはずなんだが……」

「ええ、超さんがこんな変態、いえ、面白い、じゃなくて……ええっと、変わった格好を!?」


 横島達は敵であるはずの超をそっちのけで、スケッチブックを睨みながらなにやら騒いでいる。特に、夢の中でそれを目撃したことのあるのどかに至ってはなにやら真剣に語りだしている始末だ。
 その一方、超はなにやら自分がとんでもない誤解を受けかけていると感じたのか、額にでっかい汗を浮かべながらそれを否定するのであった。


「あー、言っとくけど私はそんな恰好はしたことないヨ」

「そっか、じゃあ韋駄天が絡んでるわけじゃなさそうだな……ま、どっちにしてもそれに近い能力ってことか」

「ほう、どうやら横島さんは私の秘密に気づいたようネ」

「ああ、超ちゃんが時間を操作してるってのはわかった。そうでなけりゃタマモが奇襲を喰らうはずが無いからな。たぶん、ネギが持ってるタイムマシンもどきと同じのを使ってなんかやってるんじゃないか?」

「おおむねあっているネ。けど、いくら私の秘密がわかったところで防げなければ意味の無いことヨ」


 超はこの見えない攻撃の秘密をあっけなく見破られたのにも関わらず、余裕の仕草を崩す事は無い。
 事実、超が行っているのは未来において開発された軍用強化スーツに仕込んだカシオペヤを使用し、学園祭期間限定ながら短時間の時間移動と空間転移を併用して、擬似的に時を止めたのと同じ状態を作り出していたのだ。
 これを使った場合、相手は完全に知覚外からの攻撃をもろに受ける事になり、防御においてはたとえタマモの強力無比な打撃を喰らう事になろうと、その直前でこれを発動させればいとも簡単に避けることが可能なのだ。
 これは事実上超への対抗手段がなくなった事を意味している。現に横島の発言をヒントにネギは超が何をやったのかを正確に把握したが、有効な対抗手段が見つけられずに悔しそうな顔をしている。
 超はネギ達の驚愕と悔しさに歪む顔を見渡しながら、無言で一歩前に出る。


「さて、次は誰かナ?」

「ぐ……」

「ネギ、あんたのカシオペヤでなんとかできないの?」

「ダメです。超さんがやっているのと同じ事をするには膨大な計算が必要なんです。時間があれば魔法の術式をいじってなんとか出来ますけど、今からではとても……」

「そんな! それじゃあ、私達はもう手も足も出ないって言う事!?」


 ネギ達はいとも簡単にタマモ達を無力化した超を前に、ただ武器を構えるだけで何も出来ない。
 しかし、いつまでもこうしてにらみ合っているわけにも行かない事もまた事実だ。
 超はまがりなりにも天才である。その超がいくら切り札っぽい鬼神が敗れたとは言え、こうしてネギ達の前に出た以上、そこには何らかの意図があるはずだ。
 それを打ち破るためにも、超を必ず拘束しなくてはならない。しかし、それを行う事は限りなく難しい事は明白であった。
 そんな中、無言で超を見つめていた横島が一歩前に出た。


「おや、次は横島さんかナ? けど、いくら横島さんと言えども今の私に勝つのは無理ネ」

「さて……それはどうかな? たしかに今の超ちゃんは無敵かもしれない。けど……同じような術を使える人間がいたらどうなるかな?」

「な、まさか!」

「そう、そのまさかだ! いくぞ、今こそ俺は魔法使いの危機を救ったヒーローとなり、魔法使いのお姉様とウハウハドキドキのハーレムを作り上げるのだー!」


 超の驚愕とネギ達のずっこける音、そして煩悩満載の叫び声を合図に、横島はこっそりと用意した文珠を三つ取り出し、それに『超加速』と込めると躊躇することなく発動させる。
 そして次の瞬間、ネギ達の前から横島の姿が消え、超のすぐ側で凄まじい破壊音と衝撃波が響き渡るのであった。









「あー……これはいったい?」

「よ、横島さん! 超さん、あなた横島さんにいったい何をしたのですか!?」

「いや、私何もしてないヨ!」


 超のすぐ側で凄まじい破壊音が響き渡った直後、その破壊音と衝撃波に思わず目をつぶっていたネギ達が目を開けると、そこには焼け焦げた肉塊としか表現しようの無いものが超の足元に横たわっていた。
 当然、ネギ達はそれをやったのは超であると確信し、思わず超に目を向けるがどうやら超では無さそうである。
 では、いったい誰が横島をこのような変わり果てた姿にしたのだろうか。ネギ達はしばしの思案の後、第二容疑者であるタマモ達に視線を向ける。
 ネギ達は横島が何かをする直前、ハレームがどうのとたわごとをほざいていたため、突っ込みのために復活したタマモ達が横島に制裁を加えたのかと思ったのだ。
 しかし、彼らの考えは否定されることになる。
 ネギ達の視線の先では未だにタマモ達は気を失ったままだ。これではいかにタマモといえども、横島の暴挙を止める事は不可能だろう。
 では、横島を襲った謎の惨劇の下手人は一体誰なのだろうか。

 時は横島が文珠を発動した瞬間に遡る。
 横島は文珠が発動したのを確認すると、まず落ち着いて周囲を確認しようとした。すると、超の動きは完全に止まっており、間違いなく『超加速』が発動した事にまず安堵のため息をつく。
 そして、超を無力化するために横島が改めて彼女に向けて歩を進めたその瞬間、ある異変が横島を襲うのだった。


 ―― 一歩目


「む、むお! なんだこれ、空気の壁が! 重い、なんか空気が重い!」


 横島が超にむけてまず一歩踏み出したその瞬間、凄まじい空気の圧力が横島を襲う。
 これは明らかに以前横島が体験した超加速とは異なっている。しかし、それでも横島は深く考えるでもなく次の一歩を踏み出した。


 ―― 二歩目


「あれ? なんか体が熱いような……って熱! なんか体が熱!」


 横島が二歩目を踏み出した瞬間、横島は先ほどの空気の重さに加えてなにやら体内に熱を感じる。
 この熱を具体的に言えば、美神の妹であるひのめの炎を浴びた時の感覚に近い。もっとも、それほどの熱を感じながらも、悲しいかなタマモに燃やされ慣れて下手に耐性がついたせいか、特に気にすることもなく次の一歩を踏み出した。


 ―― 三歩目


「え? ちょ、なんだこれって……ぎゃあああ!」

 
 ボキ! グシャ! ベキ!

 三歩目を踏み出した瞬間、横島は突如として悲鳴を上げる。そして次の瞬間、横島の体内から人体の構成上聞こえてきてはいけない音が響き渡った。
 横島は事ここに至ってようやく異変に気付き、その足を止めようとする。しかし、何故か足は止まる事はなく、自らの意思に反して次なる一歩を踏み出すのであった。


 ―― 四歩目


「ふぃぃぃぃーばぁぁぁー!」




 4という死目とも言われる数字の歩数を記した瞬間、横島は意味不明な叫び声と共に、近年撤去された大阪の道頓堀に有る某お菓子の看板のような格好をしながら燃えていた。それはもう、かつて散々受けたタマモの炎や地球へ向けての大気圏突入などぬるま湯に等しいほど盛大に、豪快に、明るく、太陽のごとくこれでもかというくらいに激しく燃えている。
 しかし、そんな状態になっても横島の足は止まらない。いや、もうその足は地面から離れ、完全に滑空するような形で目標に向かうのみであった。


 ここで横島の身に何が起きたのか説明しよう。
 横島は文珠を三つ起動し『超加速』と文字を加えることによって加速状態へと入っていた。ただし、ここで注意しておかないといけないのは横島の文珠制御の限界である。
 現在、横島が行える複数使用の文珠は確実性を考えると二つまで、それ以上の数を使えば一つ増えるごとに指数関数のごとく難易度が増していく事となる。
 もっとも、それでも数々の実戦経験と共に必要に迫られて鍛え上げられた結果、現在はなんとか3文字までは使えることが出来るのだが、あいにくとその成功率はかろうじて50%に届く程度だ。ちなみに、制御に失敗すれば当然のごとく大爆発である。
 それゆえ、本来ならよほどのことでも無い限り3文字もの文珠同時使用を使うことは無いのだが、横島はここで超を取り押さえるために無理をしてでも超加速を使うべきと判断したのだ。
 ただし、当然ながら失敗の可能性もあるので、自らの霊力の源である煩悩を刺激することによってその成功率を上げるなど、涙ぐましい努力も欠かさない。先ほどの横島のハーレム発言はそういった経緯から発せられた物なのである。
 さて、色々と前置きは長くなったが、横島の身に起きた現象は果たして文珠の制御失敗に起因する物なのかといえば、答えはNOとも言えるしYESとも言えるだろう。
 結果を見れば横島は確かに加速状態に入っている。
 これのみをもって考えれば、横島の賭けは成功したとも言えるのだが、加速状態に入った後の事を考えるととても成功とは言えない。
 では、いったい横島を襲うこの現状の正体はなんなのだろうか。
 その答えは言ってしまえば身も蓋もないことだが、ようは中途半端に成功したのである。
 文珠3文字使用の成功率は50%、横島は煩悩を高めることでこの成功率を引き上げようとしたのだが、今回はそれが完全に仇となった。
 通常なら失敗すると爆発して終了となるのだが、煩悩によって引き上げられた霊能が失敗しかけた文珠を無理矢理制御し、なんとか発動にこぎつけたのである。
 ただし、こうして無理矢理発動した文珠『超加速』には致命的な欠陥があった。
 本来、韋駄天やメドーサ、小竜姫が使用した『超加速』は時の流れを遅らせる術である。この場合、加速状態に突入した者は緩やかに流れる時の中を普通に動くだけなのだが、加速状態に入っていない者にとっては認識不可能のスピードで動くために防御も回避も不可能となるのだ。
 翻って、現在横島が突入した加速状態はどうなのかと言えば、たしかに横島は加速する前に停止した状態の超達を確認していたのだが、これはあくまでも横島の感覚が加速し、時の流れを遅く感じただけである。
 そして、その加速した感覚に見合うように走り出した横島は文珠の助力のもと、本来の『超加速』を使用した場合に引き起こされる結果と同じ速度で超のもとに向かうことになったのだ。ただし、流れる時間は通常のまま、あくまでも感覚のみが加速した状態で。
 考えて見てほしい、高速で走る車の外に手を出せば、普段感じない空気の抵抗を直に感じ、大気圏突入程の速度となればその抵抗は摩擦を呼び、発火するほどだ。
 これがもし、わずか10mに満たない距離とはいえ、音速どころか時の流れ、下手をすれば光速すら凌駕するスピードを生身の人間が出したらどうなるだろうか。
 そして、当然それほどのスピードが出れば慣性の法則によって、もはや止まる事など不可能だ。
 こうして横島は中途半端に成功した文珠の効力によって加速状態に突入し、その結果タマモの炎すらぬるく感じるほど燃え上がり、空気の抵抗に骨や内臓が耐えきれずにひしゃげ、人体としてありえない形状となった状態でようやく文珠の効力が解け、通常の空間に帰って来たのである。
 我らが英雄、横島忠夫。ある意味期待を裏切らない彼は壮絶な自爆をもって超との決戦に敗れたのであった。




「……えっと、なんだかよくわかないけど。とりあえず横島さんは死んだみたいネ……というか、いったい何があったカ?」


 突如として変わり果てた横島が足元に出現し、しばし呆然としてた超だったが、とりあえず自分に影響がないと判断したのか、こんがりと焼けて真っ黒になり、体積も本来の1/3に減少していると思われる物体から目を逸らした。
 その一方で、ネギ達はといえば変わり果てた横島の姿に絶句し、唯一残されていたであろう超への対抗手段を失った事を嘆いていた――


「さ、それじゃあ次は誰がいくでござるか?」

「それなら次は僕が行きますね。なんだか今の超さん相手なら負ける気がしませんし」


 ――わけではなかった。
 凄惨な姿に変わり果て、明らかに生命の危機どころか死亡確定の人物を前にして、ネギ達はえらく冷静である。しかも、それだけではなく強敵として立ちはだかったはずの超に対してもえらく余裕たっぷりにも見える。
 確かに普通なら自分達の知り合いが死に瀕していたらネギ達は慌て、何を置いてもその人物を助けるために尽力したであろう。
 しかし、ネギ達はこの数ヶ月の付き合いで学習していたのだ。横島がこの程度ことで、ましてや完全にギャグの空間に溶け込んだ状態で死ぬはずが無いということを。
 そして、横島によってギャグの空間に引きずり込まれた者は、どんなにシリアスな人間であろうと例外なくギャグの海に溺れ、ただ笑いを持って敗北していく事を確信していたのだった。
 ちなみに高音とメイといった新参者も、今までの横島の生態からそのことを察しているのか、ネギと同じように特に慌てるでもなく静観していたりする。
 なにかが間違っている方向で信頼される横島、これも一応彼の人徳と呼んでよいのだろうか、はなはだ迷うところである。


「あの、みんな横島さんのことほっといていいのかナ?」

「あ、大丈夫ですよ。どうせあと5分もすれば元通り復活しますから」

「京都の時といい、いいかげん慣れちゃったわよ」


 ネギとアスナはあまりにもあまりな反応をしている自分達を呆然と見つめる超に、さも当たり前であるかのように答える。
 なにしろ、ネギ達にとって情報の少ない未来での出来事はともかく、こうして横島を前にした以上この程度のことで彼が死ぬとは考えられないため、当然の対応ともいえよう。
 そのため、ネギは超の足元に横たわる横島だったものに対して特に気にする事なく超の前に立った。


「さて、それでは超さん。次は僕が相手です!」

「なんかさっきまでと違ってえらく自信たっぷりネ」

「横島さんの尊い犠牲のおかげでフラグが立ちましたしね、それにたとえ時間を操作されようとも一応僕にも切り札がありますし」


 ネギは自信満々に超に答えると、懐から『怨』と書かれた白いハチマキを取り出すとそれを頭に締め、これまたどこからともなく取り出した2本のロウソクに火をともすとそれを頭のハチマキに刺した。


「えっと、いったい何を……」


 超はネギの不可解な行動に小首をかしげ、カシオペヤによる瞬間移動を行う事も忘れてネギを見つめる。
 そんな中、ネギは再び懐に手を入れるとそこから藁で作成された1体の人形のようなものを取り出した。


「超さん、確かにタマモさんと刹那さんを無力化され、対抗手段を持っていた横島さんが失われた以上、僕達にあなたに対抗する術はありません。ですが、僕が作ったこれを使えば話は別です」


 ネギが取り出した人形は、所謂呪の藁人形と呼ばれるものであった。
 超はあまりに予想外なものを突きつけられてしばしの間呆然とするが、その人形からは何の魔力も感じられないので特に気にすることなくただネギを見つめている。
 超としては自らの髪の毛や、なんの念も込められていない人形に釘を刺したところでなんの影響も無いという確信があったのだろう。しかし、今回ばかりはその自信が仇となった。
 ネギは自分を見つめたまま動こうとしない超を見据えると、、取り出した金槌と釘を構えて人形にあてがう。


「さて、それでは超さん。覚悟はよろしいですか?」

「いや、覚悟も何も私の髪の毛入れたとかでもなく、魔力も無いただの人形に釘を刺していったい何を……ハウッ!」


 超がいまいち状況を理解できず、いたずらにネギの行動を許している中、ついにネギは藁人形に向けて釘を打ち据える。
 するとどうだろうか、藁人形という道具を使用しているとは言え、超とはなんの繋がりも無いのに関わらず、釘を打ち据えるたびに超の胸に信じられない激痛が走り出したのだ。


「ちょ! これは……ネギ坊主、や、やめ……」


 この時、超はネギが人形を取り出した時点でそれを取り押さえなかった事を心底後悔する。
 しかし、そんな後悔をする間にもネギの容赦ない呪は超の体をさいなみ、その激痛のおかげでカシオペヤを起動するために必要な集中すらできないありさまだ。
 そして、超が痛みでのた打ち回っている隙に楓とクー、そして小太郎といった前衛組は超を組み伏せると背中に装備した制御機械のような物を破壊したのだった。
 これにより、もはや超は完全に無力化され、まるで蓑虫のように荒縄でぐるぐる巻きにされるとネギ達の前にポイっと放り出されることとなる。
 当然、超はなんとか抵抗し脱出しようと試みるのだが、もはやどうにもならない。
 今の彼女にできることは、ただネギの前でピチピチと取れたての魚のように跳ねまわる事だけだ。しかし、そもそもこんな負け方はとても納得できるものではない。
 それ故、超は常識はずれの呪いの秘密を聞き出そうとするのだった。


「の、呪の前準備も無しにいったいどうやって?」

「超さん、門前の小僧習わぬ経を読むという言葉をご存知ですか?」

「いや、もちろん知っているガ……それがいったい……ってまさか!?」


 ネギは地面に横たわる超に向かって静かに答える。
 超はネギのその答えに一瞬ハテナマークを浮かべたが、すぐにネギの言わんとする事を察し、驚愕の表情を浮かべた。


「ええ、僕ってこう不思議と呪いに縁があるんですよね。もう、それこそ横島さんに何度となく。今の僕なら呪いに囚われたエヴァンジェリンさんの気持ちがよくわかります」

「し、しかし! たったそれだけで触媒もないのに、いったいどうやってこんな無茶苦茶な呪いが!」

「僕だって伊達に幾度も横島さんの呪を受けたわけじゃありません。僕はこの麻帆良学園に来てからというもの、日々タマモさんに圧殺される恐怖に脅え、何かイベントがあるたびに横島さんに宇宙へと打ち上げられてきました。そんな僕の日々たまりにたまりまくったストレスと怨念、この思いの強さだけは誰にも負けない自信があるんですよ」


 ネギはものごっつ悲しい内容にもかかわらず、どこか誇らしげに胸をそらす。しかし、超は天に向かってそらしたネギの目に浮かぶ涙をはっきりと見てしまった。
 それだけでもネギの生きる環境の厳しさ、おして知るべしというやつである。


「あー、死ぬかと思った」

「あ、横島さんおはようございます」

「超殿なら横島殿が気絶しているうちに捕まえといておいたでござるよ」

「これから尋問するんよー」


 そんな中、横島がもはや定番ともいえるセリフをのたまいながらネギ達の予測通り復活する。
 本来ならそれを目にするものは例外なく驚き、横島の人外ぶりを恐れおののくのだが、あいにくとネギ達はすでにそんな地点などとうの昔に通り過ぎていたためにあっさりとスルーしている。


「あの、お姉さま、なんで服まで元通りになっているんでしょうか?」

「メイ、もう気にするのはやめましょう。早くネギ先生の域に達しないと心労が増すだけですわ」

「いや、その考えは人としてなにかが間違ってると思うネ! というか、今の横島さんを見てまず気にするのが服だなんてぜったいおかしいヨ!」


 あっさりと復活した横島を受け入れるネギ達と違い、まだ経験の浅い高音、メイ、超は横島を見て呆然としている。
 しかし、その発言内容を考えれば高音とメイはもう少しでネギ達の領域へと到達することになるであろう。本人達もその気があるようだし。
 そんな二人と比べれば、超はまだその域に達するにはまだまだ青いと言わざるをえない。しかし、人としてどちらが正しいのかと問われると迷うところである。

 ともあれ、こうして横島が復活するとそれに引き続くかのようにタマモと刹那も目を覚ます。しかし、さすがに電撃の直撃を食らったおかげで体の自由が利かないようだ。
 そのため、横島はすかさず文珠に『癒』と込めると二人にそれを使用する。
 こうしてようやく完全に復調したタマモと刹那は横島に礼を言いつつゆっくりと立ち上がると、改めてみの虫と化した超を見下ろす。
 静かに超を見下ろす二人、その二人の背中からは怨敵超鈴音を前にしてどこかの世紀末覇王のごとく闘気のようなものがたちこみ始めた。
 当然、それを見たネギ達は横島を残して一斉にタマモ達から距離をとり、展開についてこれない一般魔法使いたちも含めて全力で防御結界を展開しだす。


「さて、ちょっと気を抜いたすきによくもやってくれたわね」

「超さん、未来では本当にお世話になりました。お礼にぜひとも一太刀馳走いたしましょう」

「あー……程々にな。未来ではともかく、俺はこうして生きてるんだから」


 時は既に夜、いざこれから始まるは二人の魔女による3−A恒例のハンマー祭り。ただし、その生贄は横島やネギではなく超鈴音である。
 そんな二人による超の末路にもののあはれでも感じたのか、横島は頭をかきながら二人の怒りを収めようとする。しかし、その声はあまりにも無力であった。


「いや、そこは是非とも体をはって止めてほしいネ! というか、未来でお世話になったって私いったい何したヨ!」

「止めろといわれてもな、無理っぽいし。それにどうやら俺とあやかちゃんは未来で超ちゃんに殺されたらしいからな、それを考えるとあまり強く出られん」

「ちょ、ちょっと待つネ! 私が未来でいいんちょと横島さんを殺した? それはいったいなんの冗談ヨ!」

「正確には、俺もあやかちゃんも例のロボット軍団の暴走事故に巻き込まれて死んだらしいんだが……とりあえず現在のところは未遂に終わってるみたいだから命の心配は無いと思うぞ……たぶん」

「そ、そんな……でも、そんなのありえないネ!」


 超は横島から未来で引き起こされた事件を聞き、その顔に信じられないという思いと共に戦慄を浮かべる。
 しかし、いくら否定しようともタマモ達はその目で見てきたのだ。故に超の涙ながらの訴えも彼女達の耳には入らなかった。


「超、問答無用って言葉……知ってるかしら?」

「いくらこっちでは未遂とは言え、私達がこうして抵抗していなかったら現実に未来で犠牲者が出ていたんです。それをまさかなんのお咎めも無しですむと思ってましたか?」
 
「い、いや……でも私やってない……というか、たかだかロボット軍団の暴走程度で、いったいどうやったら宇宙空間に生息するバクテリア以上の生命力を持つ横島さんを殺す事ができるネ!」

 
 超は得物を手にゆっくりと近付く二人に涙ながら自らの無実を主張していく。
 そもそも、いくらネギ達に捕まったとは言え、魔力溜りの占拠に向かった田中さん及び現在上空で呪文詠唱中のハカセは健在なのだ。だから時間を稼ぐ事が出来れば、この戦いは超の勝利となるはずであった。
 しかし、このままタマモ達の折檻、いや拷問を受けた場合は勝利うんぬん以前に命が真剣に危ない。それだけに超はなんとかタマモ達を諌めようと必死だった。
 そして、そんな超の努力を天の神は見捨てていなかった。


「う……ま、まあ冷静に考えれば確かにそうかも。京都でも結局生き残ってたし……」

「しかも、タマモさんの初めてがどうのとか言うので魂が戻ったぐらいですもんね」

「そうネ、ついさっきまで完全に死亡確定な状態だったのにあっさり復活するこの生命力。正直横島さんを殺すのと今回の計画とでは難易度が段違いヨ!」

「あ、でもあの鬼神が暴走すればいくら横島さんでも……」

「それこそありえないネ! 田中さん達に関してはハカセも一枚かんでるから趣味として暴走機能をつけててもおかしくは無いガ、あの鬼神が暴走したら横島さんはともかく他への被害が洒落にならないネ! だからあの鬼神の制御機構は、一体当たり億単位もの資金を投入して何重もプロテクトをかけて作り上げた至高の一品ヨ。それこそ外的要因で破壊されない限り、暴走なんてありえない話ネ!」


 超は横島の生態を知るが故に間一髪で踏みとどまったタマモ達に対し、千載一遇のチャンスとばかりに己の無実を訴える。
 そして、その思いが通じたのか暴走気味であったタマモ達の目に理性の光が生まれる。
 タマモ達にしても、未来で横島とあやかの死亡という現実を突きつけられ、その怒りのあまりこうして超を追い詰める事になったのだが、考えてみれば常々公言してはばからないように、横島を殺す事は尋常では不可能だ。
 たとえそれがロボット軍団の暴走であれ、今現在湖の上でガンドルフィーニ以下3人と共に氷の彫像と化している鬼神の暴走であれ、横島を粉砕し血まみれにする事は可能であろうが、目の前に下着の一枚でもちらつかせればたとえ黄泉路に旅立っていようと魂ごと即座に復活する事は疑いない。
 そして、超の話を聞く限り事故にしても鬼神やロボット軍団の暴走には不可解な点が多い。
 タマモ達が経験した未来において、たしかにロボット軍団は暴走した。しかし、超は別に麻帆良学園を壊滅させる事が目的ではないので、ロボット軍団の制御は完璧にし、なおかつ武装は当然脱げビームのみ。そして鬼神にいたっては何重ものプロテクトを設けている。
 そこまで対策を施した軍団が暴走したきっかけ、そのトリガーとなる物がはっきりしないのである。
 少なくとも、超の話を聞く限り未来において引き起こされた暴走は超の意図したものではない。では単純な事故なのかといえば、その可能性も極端に低いといわざるをえない。超ほどの天才ならば、当然そういった事故が起こった場合も考慮してなんらかの対策を立てているのが普通なのだ。
 しかし、それでも未来では暴走が起こった。
 タマモはことここに至り、未来での暴走事件が超ではないなにかしら別の意思によって引き起こされたものではないかという可能性に思い至ったのだった。

 一方、タマモが無言で空を見上げながら自らの考えをまとめているころ、超への拷問を思いとどまったらしいタマモに安心したのか、ネギ達が防御結界を解き、いまだにみの虫と化している超の周りに集まっていた。


「ねえ超さん、なんで魔法を世界にバラすだなんて事をしようとしたのよ。しかもわざわざ未来を変えるだなんてお題目までつけて」

「そうですよ! もし魔法が全世界にバレてたら僕はオコジョ確定なんですよ!」


 アスナとネギは超の枕元にかけよると、超に向かってジト目を向ける。
 アスナにしてみれば超がこんな大それた事をしなければ、学園祭最終日のイベントを心置きなく楽しめたのだろうし、ネギにいたっては最悪数年単位でオコジョになるところだったのだ。
 いかに今現在肩でカモがオコジョ人生も悪くないと言ったところで、そんなものなんの慰めにもなっていない。
 そしてそれはこの二人以外のメンバーの大部分もまた同様だった。
 しかし、そんな中でも冷静さを失わないバカブラックこと綾瀬夕映はネギを押しのけるように超の前に立つと、まるで彼女を気づかうかのような視線を向ける。


「超さん、もしかして貴方の知る未来ではなにか地球規模の大事件でも起こったのですか? それこそ、歴史の改変でもしない限りどうにもならないような悲劇が……」


 夕映は超が歴史の改変を行おうとしていると知った時から思っていた疑問を超にぶつける。
 すると超は静かに夕映を見上げ、どこか悲しい笑みを顔に浮かべながら彼女に答えた。


「それを聞いてどうするネ? まさか今からでも私に協力するとでも?」

「いいえ、ぶっちゃければただの知的好奇心です」

「くくく、そこまではっきりと言われるといっそ清々しいネ。いいよ、私の育った未来を教えてあげるヨ」


 超はどこか諦めたかのように力なく笑うと、改めて自らの経験した未来を語り始める。しかし、いかにも降伏していますといったこの超のしぐさはあくまでも演技だ。
 なにせ、このままあと数分もタマモ達を引きつけておけば強制認識魔法が発動する。そうなれば、どんなに拘束されていようと超の勝利だ。それにいざとなればスペアのカシオペヤで逃げるという手段もある。
 タマモの脅威が去った今、超はまさに最後の戦闘を前に内情を暴露する悪のボスのごとく、その内情を語りだすのだった。






「私がいた時代、そのころには科学技術も発達し、人類は宇宙へとその生存圏を広げていたネ。だが、当然生存圏が広がればそこに利権が生れ、人々は新たな争いの火種を生み出した」

「なにか、大きな戦争がおこったというのですか?」


 超は夕映の質問にただ無言で頷き、話を続ける。


「元々、地球から離れて行った人類はなんらかの理由で大地を追われた人間が多かったネ、そして地球はそんな宇宙に住まう人類をしばりつけようとした。だからこそ地球からの支配から脱却するための思想が蔓延したヨ」


 超の語る未来、それは誰もが子供のころに夢見る宇宙への羽ばたき、新たなるフロンティアへと駆ける冒険の世界かと思われた。
 しかし、人の世はいくら年月を重ねようと変わる物ではない。いや、戦いの規模を考えればそれこそ現代の戦争とは比べ物にならない犠牲者がでたことだろう。
 それを知った夕映やネギは未来でも人は争い、傷つけあうのかと表情を曇らせる。そして、その時代を生きていた超をの辛さを思い悩む。おそらく、彼女はその戦争でとても大切な物、もしくは人物を失ったのではないだろうか。
 ネギ達は無言のまま、ただじっと超の話を聞き続ける。
 そして超もまた、ネギ達の気遣いに感謝するかのように笑みを浮かべるが、それでも隠し切れない思いを込めて未来の話を語るのであった。
 

「そして幾たびもの暴動と騒乱の末、地球からもっとも離れたコロニー、サイド3が地球に対して独立宣言を行い、スペースノイドとアースノイドの壮絶な……」

「いや、それ絶対違います! というか、それってガンダ……」


 ただし、隠していた思いはどちらかといえば悪戯心ではあったが。


「まあ、今のは冗談として」

「えー本当に冗談なんですか? むしろ僕としては未来にガンダムが生まれたことで夢が広が……イエ、ナンデモアリマセン」

「ネギ先生、男の子としてモビルスーツの実現に夢を見るのは仕方が無いかと思いますが、今は自重してください」


 夕映は男の子としての性なのだろうか、巨大ロボット兵器という男のロマンに一瞬心を奪われかけたネギに絶対零度の視線を向ける。
 そして、すっかりシリアスな空気が吹き飛んでしまった中、改めて超に目を向けた。
 その彼女の視線には、今度ふざけたらただじゃ置かないという決意がはっきりと浮かんでいる。


「では、超さん。改めて続きを……真面目に、真実のみを答えてください。でないと……わかってますね?」

「わ、わかったネ。といっても、大筋ではそんなに間違ってないヨ。地球を追われた人々は月面都市を経て火星に、そして最終的に木星にたどり着いてそこで『火星の後継者』と……」

「……で、火星にいた時に見つけた超古代遺跡を巡って地球と戦争をしたと」

「よ、よく知ってるネ」

「伊達にパルと同室じゃありませんから……」


 超と夕映、二人の間に広がる微妙な沈黙。
 夕映の額には小さく、ほんの小さくだが井桁が浮かんでいるが、その口元は常に笑みを絶やさない。しかし、それだけに真正面から夕映の顔を見る事になる超は異様なプレッシャーを感じてしまう。
 そして超が微妙に引きつる中、夕映は目が笑っていないのにも関わらず無理矢理笑みの表情を作ったまま、静かに天へ向けて右手の親指をかかげ、静かにそれを真下へと向けるのであった。


「ネギ先生、藁人形GOです」

「ちょ! 重たい空気を少しでも和らげようとしたジョークなのに……ハウッ!」
 

 夕映の命令の元、ネギは躊躇なく先ほどの藁人形に釘を打ち込む。
 当然、その呪はあますことなく超に降りかかり、超はしばしの間のたうちまわる事になのであった。
 そしてネギの儀式が終了して10秒後、再び夕映は超の前に立つと、笑顔のまま三度超を見下ろした。ただし、その目はちっとも笑っていない。


「さて、お次はなんですか? 文化を失った巨人達との戦争ですか? それとも専制政治の圧制を逃れて長征一万光年とでもしゃれ込みましたか? いえ、もしかしたらナチュラルとコーディネイターの戦いとか……うふふふふふ」

「あー……うん、つ、次こそはちゃんと真面目に話すネ。だからその不気味な笑いはやめて欲しいカナ?」

「それは超さん次第ですよ。ちなみに、今度ふざけたらタマモさんから借り受けた10tハンマーが火を吹きます」

「せ、誠心誠意喋らせてイタダキマス」


 夕映はあくまでもニッコリと笑いながら、超の目の前に10tと書かれた巨大なハンマーをドスンと落す。それはタマモが通常扱う100tハンマーの1/10とはいえ、その威圧感は凄まじい。
 故に超は顔を真っ青にするとみの虫状態であるにも関わらず、器用に正座をすると背筋を伸ばし、次いで横島のごとく見事なまでの土下座を敢行する。
 それは麻帆良にその名を轟かす完璧超人超鈴音、その全面降伏の瞬間であった。


「で、先ほどまでの話のどこまでが本当なんですか?」

「一応私達の一族や同志達が月を追われて火星に移住したというのは本当ネ、だけど火星はまだ人類が居住するにはあまりにも過酷だったヨ。そしてそんな環境で育った私は地球の豊かさを知り、今の境遇を打破するために死に物狂いで勉強したネ。けど、それだけではどうにもならなかったヨ」

「一つ、いいですか?」

「何カナ?」

「基本的な話なのですが、超さんの一族や同志達は何故地球を追われたんです?」

「なに、単純なことネ。私達は人類の多数派になれなかった……だから迫害を避けるために宇宙へと逃れただけだヨ」

「もしかして……その迫害で超さんは大事な人を……それで歴史の改変を決意したというのですか?」

「今回私の計画した歴史の改変、それは私のエゴにすぎないネ……けど、迫害の根底となる歴史を改変する事が可能なら、未来は変わる。そうすれば私達の一族や同志達は迫害を受ける事もなく、あの暗く寒い不毛の大地の火星ではなくこの緑豊かな地球で過ごす事ができたはずヨ」


 超が歴史を改変してまでも手にしたかった物、それは世界の恒久平和でもなんでもない、ただ自分の家族と、そして中間達とただ普通に暮らしたかったという、極普通の小さな願い。
 しかし、未来にいたころの超はそんな小さな願いすらかなえられない過酷な環境であったのだろう。
 夕映はそれを語る超の瞳に今度こそ真実の光を見つけ、ぐっと押し黙る。
 だが、ここで夕映はもう一つの疑問に思い至ったのだ。
 先ほどの話で超の歴史改変の理由は理解できた。しかし、そのことと魔法を全世界にばらす事とどう関係しているのだろうか、それが依然として不明のままであった。
 たしかに全世界に魔法をばらせば、それは世界規模での混乱を生み、歴史はそれこそがらりとその姿を変えることになるであろう。
 しかし、それと超の受けた迫害といったいどう繋がるのだろうか。それがいっこうに見えてこなかった。
 

「超さん、もう一ついいですか?」

「別にかまわないが……」

「今までの話で超さんが歴史を改変を決意した理由はわかりました……けど、改変する手段として何故魔法を全世界にバラそうとしたのですか? それになぜ今なんです?」

「なに、これも単純な話ネ。私が理想とする未来を実現させるために、魔法の秘匿という事が多大な足かせとなっていることと、ネギ坊主との接点が持てる時間ということでこの年代を選んだだけネ」

「ネギ先生……ですか?」

「僕が? あの、まさか未来で僕はなにかとんでもないことをしでかしてしまったんですか?」


 ネギは突如出てきた自分の名前に目を白黒させ、なにか未来で自分は重大な失敗をしてしまったのかと戦々恐々とする。
 しかし、超はそんなネギに微笑むとただ横に首を振った。


「ネギ坊主は何もして無い……いや、何も出来なかったから私の経験した未来が出来上がったヨ? だから私はネギ坊主が存分に力を発揮できる世界を作り上げるために、魔法を全世界に晒そうとしたネ」

「え? それっていったい……というか、魔法がバレたら僕オコジョ……」

「オコジョになると言っても、ネギ坊主の場合長くてもせいぜい1年か2年、いや、英雄の息子という事を考えれば半年以内という公算の方が高いネ。まだ10歳のネギ坊主にはほとんど影響は無いヨ」

「そう……なんですか?」

「当然ネ。だいたい私のご先祖様にして、始祖たるネギ坊主に対して不利になるようなことをするはずが無いネ!」

「いや、オコジョになる時点でかなり不利なんですけど……特に『立派な魔法使い』になるためには」


 超はさも心外であると言わんばかりに、口を尖らせて言い張るが、あいにくとネギにしてみればオコジョになるということは魔法使いとして汚点以外何物でも無い。
 まあ、本人の現在の資質やあり方がすでに『立派な魔法使い』から逆方向へ向け、全力疾走している件については目をつぶるのが幸いだろうか。
 というか、先ほどの呪といい、既に魔法使いという存在そのものからも逸脱してる気がする。
 一方、ネギとは別に今までずっと静観していたアスナは、超の発言の中に不穏当な部分を発見し、恐る恐る超に声をかけた。


「ねえ、超……いま一瞬ものすごーく嫌な響きの言葉が聞こえたんだけど……」

「ん、なにか変だったカ?」

「いや、そのね……気のせいだとは思うんだけど……というか、むしろ気のせいであってほしいんだけどね……」

「ああ、ご先祖様っていう部分カナ? それについては昨日あの宴会の席で言ってたはずだガ」

「そっちじゃなくて、その……さっきネギを始祖って言わなかった?」

「言ったけどそれがナニカ?」


 アスナの質問に対して返ってきたのは、いっそ清々しいまでの笑顔の肯定。そしてその発言の意味を十分に考慮した結果、アスナが導き出した答えはある意味暗黒の未来像であった。


「……アスナ?」

「ねえ、ちょっと確認するけど超さんの一族って、もしかしてやたらと黒い服が好きだったり、家訓かなにかで『欲望に忠実であれ』とかそんな教えを持ってない?」

「それは当然持ってるヨ、というか家訓どころか経典ネ。そしてその言葉があるからこそ、私はこうやって過去に来たわけネ」

「そ、そうなんだ……ということは、さっき言ってた多数派になれなかったとか、迫害を受けたってもしかして……」

「ほう、バカレッドにしては察しがいいネ。そう、私達の一族や同志達はネギ坊主を始祖とする新しき神の教えを広めるために日夜戦ってきたネ。しかし、我等は旧来の神を信奉する者達に破れ、地球を追われたしまったヨ」

「……それで、その現状をひっくり返すために過去へ来たと……あくまでも欲望に忠実に」

「その通り! 魔法を全世界に広め、魔法の秘匿という足かせを無くせば、ネギ坊主は神の奇跡を遠慮なく実行でき、ただのお題目に成り下がった旧教徒を駆逐することが出来る。そして、ネギ坊主の起こす神の奇跡を目の当たりにした人類はファラリス様の偉大さを理解するに至るはずネ!」


 超は演説にすっかり没頭しているせいか、周囲の気温が既に氷点下に下がっていることにも気づかずに超にとって理想の未来を語っていく。
 そして、そんな超に感銘を受けたのだろうか、ネギは彼女に駆け寄ると捕らえていた縄を解き、彼女の手を取って涙にぬらした顔を向けた。


「超さん、僕がふがいないばっかりに未来で大変な苦労をかけてしまって……本当にもうしわけありませんでした!」

「もう、もういいんだネギ坊主、私の夢はもはや潰えたネ」

「いいえ、たとえ魔法を知らしめる事が出来なくとも、今から精一杯頑張ればきっと神の教えを理解してくれる人はいるはずです! 今でも既に茶々丸さんとチャチャゼロさんの説得の元、エヴァンジェリンさんを教化しようとしています。そして僕はまず手始めにアスナさんを……そうすればきっと未来は変わるはずです!」


 ――あは、あははははは!


 ネギと超の会話を聞きながら、アスナの脳裏で響き渡る何かが切れる音と、我慢の限界を超えたときに発せられる誰かの笑い声が響き渡る。
 しかし、アスナは気づいていないがそれはアスナ自身の笑い声だ。その不気味さはタマモですら思わず3歩後ずさるほどで、他の者にいたっては完全に脅えて10m近く距離を取っている。
 そんな中、アスナはゆっくりとネギ達に近寄りながら、仮契約カードを取り出してアーティファクトを召喚した。
 アスナの召喚したアーティファクト、その銘はハマノツルギ。それは剣というにはあまりにも大きすぎ、大きく、ぶ厚く、重く、それはまさに鉄塊だった。
 アスナはそんな鉄の塊と呼ぶにふさわしい身の丈を上回る大剣を軽々と振りかぶり、ネギ達とは対極の光溢れるオーラを撒き散らしながら構えを取る。 
 さあ今こそ降臨せよ、正義の重戦車、ファリスの猛女、人類を超越せしめた鉄塊娘。夕映達はこの時、アスナの背後にプレートアーマーと巨大な剣で武装した小柄の少女の幻影を見る。
 そして次の瞬間、アスナは一切の躊躇もなく手にした剣を涙を流しながら抱き合うネギと超に振り下ろしたのだった。 


「汝等は邪悪なりー!」


 アスナの渾身の力と共に放たれた一撃は、余すことなくその衝撃をネギ達に伝え、彼らはこの麻帆良学園において横島とタマモ以外の力において初めての空中遊泳を敢行する。
 そして彼等はそのまま凄まじい勢いで天に舞い上がり、強制認識魔法を完遂させようとしていたハカセの飛行船をミサイルのごとく正確に撃墜するのであった。
 超の理想とする未来、その最大の障壁とは実はタマモや横島ではなく、アスナであったのかもしれない。






 第55話 end





「うふ、うふふふふ。暗黒神の奇跡? 信者の獲得? そんな物のために私達はこんな苦労をしたっていうの?」

「さて……覚悟はよろしいですか?」

「それじゃあネギに姉ちゃん達、なんぞ弁明はあるんかい?」

「あの……なんで僕まで」

「やかましい、ある意味あんたが諸悪の根源じゃないのよ!」


 アスナ渾身の一撃の後から数分後、湖に落下したネギ達は氷の上で正座し、怒れるアスナ、夕映、小太郎の3人の前で頭をたれていた。
 ちなみに、ネギは本来なら超を阻止した功労者に分類されるはずなのだが、想定とは別の方向で未来を変える気満々なので、超達と同罪扱いをされている。


「それじゃあ三人とも、思い残す事は無いわね?」

「あの、私はその……超さんの命令を受けただけでして。ほら、ここにちゃんとその証拠も……ってあれ? タマモさん、なんで私の首根っこを引っ張って物陰に向かうんですか?」


 アスナのハマノツルギ、夕映のタマモ直伝による10tハンマー、そして小太郎のくすぐり狼達が待ち構える中、ハカセは懐から一枚の紙を取り出す。
 しかし、その紙は誰にも読まれることなく、一瞬でタマモによって燃やされると彼女は襟首をつかまれて物陰へと運ばれようとしていた。


「ハカセ、あなたそういえば田中さんにデフォルトで暴走機能を組み込んでいたとか言ってたわよね、武道会の時に……」

「え、ええ……」

「といことは、未来での横島の死因はともかく、アヤカに関しては思いっきり責任があるってわけよね?」

「えっと……確かにそういう見方も無きにしもあらずと思いますが、ここではまだ暴走は……」

「うん、だからその点を考慮して8割殺しを半殺し程度に抑えてあげる」

「ちょ、いやですー! 超さん、ネギ先生助けてくださーい!」

「あー……うん、無理ネ。というか、さっき一人だけ逃げようとした罰ネ」

「すみません、迷わず成仏してください。さよさんの話では死んでも生きられるそうですし」

「いやー!」


 ハカセは最後の希望とばかりに超とネギに助けを求めるが、二人はあっさりと彼女を見捨てる。同様に、横島以下事の成り行きを見ている連中もまたハカセのすがるような視線から目を逸らす。
 それはある意味一人だけ保身に走った罰、因果応報ともいえるものかもしれない。
 ハカセは誰も味方がいない中、思わずドナドナを口ずさみながらタマモに引きずられていく。
 しかし、それからすぐに彼女の襟首を引っ張る力が急に無くなり、ハカセは不思議そうにタマモを見上げた。するとタマモはいぶかしげな表情を浮かべながら、前方のある一点を見つめているのに気づく。
 ハカセがタマモの向ける視線を追ってみると、そこにはフードを目深にかぶった魔法使いのような格好をした小柄な人物、いや明らかに子供が静かにたたずんでいた。


「ねえ、もう茶番はおわったのかな? なら、次は僕に付き合ってくれないかな」


 フードをかぶった人物は警戒するタマモを見ると小さく、それも蔑むように笑う。
 そして彼女にゆっくりと近付きながら目深にかぶったフードを取った。 
 フードを取った後に露となったその顔でまずタマモの目に映ったのは、顔の右半分を覆う重度の火傷の跡であった。
 それゆえ、その顔は元の形を完全に失って醜く歪んでいる。しかし、左半分は何の傷跡も無い綺麗な顔である。そしてタマモはその無事である顔を見た瞬間、目の前の人物が誰であるかを理解したのであった。


「お、お前は!?」

「改めて名乗ろう、僕の名はフェイト・アーウェルンクス、九尾の狐である君の力、貰い受けに来たよ。さあ、京都の続きといこうか」


 タマモの前に立ちはだかった人物、それはかつて修学旅行でネギ達の前に立ち塞がり、横島をあわや死の淵へと追いやりかけたあの白髪の少年であった。

 超の歴史改変を問答無用で叩き潰し、ようやく日常へと帰れるかと思われたタマモ達。
 しかし、京都において力を解放したタマモが人形ごと燃やし尽くしたはずの少年が、今再び彼女の前に立ちふさがった。
 騒乱によって始まった学園祭最終日、その終焉はまだ見えない。いや、これからが真の幕開けであった。




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