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「ねえ横島、朝から何やってるの」

 
 気持ちいい朝の日差しをうける台所、タマモはそのテーブルの上で腕を組みながらうろんげな瞳で横島を見つめていた。
 なにやらゴテゴテとした機械を整備している。
 

「んー、今日の夜は8時から12時まで停電らしいからな、それの準備だ」

「ふーん、懐中電灯とかにしてはずいぶんとゴツイわね」



 横島はタマモを振り返ることなく整備に集中し、その機械の整備が終わるとさらに別の機械を手に取る。
 こんどの機械は、なにやらやたらとゴツイゴーグルのような形をしている。


「ああ、米軍の払い下げや、ロシア特殊部隊ご用達やらいろいろあるからな」

「ずいぶんとものものしい単語が出てくるわね。で、今はそれの整備ってわけ?」

「そうだ、この手の機械は日々の手入れが命綱だからな、肝心な時に使えなかったでは悔やんでも悔やみきれん」


 タマモは一心不乱に機械を整備している横島を眺めながらチラリと時計を見る。
 その時計はもうすぐ登校時間である事をタマモに伝えていたが、タマモは席を立とうとはせずに横島に話しかけた。
 

「ふーん、あんたも事前の準備の大切さってものがわかってきたようね」

「ああ、今日は何でも年に二回の大停電。今日のチャンスを逃したら半年後まで待たなくちゃいけないからな。準備に怠りは無いよ」

「チャンス?」


 タマモは横島の口からでたおかしな言葉に不穏なものを感じた。


「ちょっと具体的に聞くけど。その妙な筒はなに?」

「ああ、これはスターライトスコープだ、わずかな星明りでも昼間のようによく見えるぞ」

「じゃあ、これは?」


 タマモは別のゴーグルみたいなものを指差す。横島はそれをカメラに連動させようとしていた。


「これは暗視ゴーグルと高感度赤外線カメラだ」


 この段階でタマモは横島が何のためにこの機械を集め、整備しているのかを正確に把握した。
 だが、それでもほんのわずかの望みに賭けて横島に問いただす。


「……ちなみに今日8時からの予定は?」

「まず、8時に聖ウルスラ女子高の寮に行って、その後大学女子寮三つを制覇。さらに麻帆良大橋付近の独身女子寮に行く予定だが……ハッ!」


 横島はここに至ってようやく自分が誰としゃべっているかを思い出し、硬直する。


「横島……」

「はい! なんでございませう!」

「没収ー!」


「ま、まて、それ結構高かったんだ……ぞ」


 横島の反論にタマモは無言で100tハンマーを手にし、横島のアゴに突きつける。
 ハンマーを突きつけるタマモは微笑を浮かべていたが、その目は全く笑っておらず、その底冷えのするする視線は全てを凍らせるかのようである。


「横島、それ以上なにか言えば……分かるわよね?」

「い、いや、けど……」

「返事は<はい>か<イエス>で言いなさい、それ以外は認めないわ」

「イ、イエスですマム!」

「結構、では学校へ行って来るけど、くれぐれも……ね」


 タマモは米軍の新人担当教官すら恐怖させる微笑を浮かべて横島を睨みつけると、そのまま鞄を掴み、学校に向かうべく家を後にするのだった。



「くくくくくくく」


 残された横島は、タマモのあまりの迫力に凍り付いていたが、やがて気でも触れたのだろうか、小さく笑い出す。


「ふふふ、くはははは! 甘いわタマモ。こんな事もあろうかと、ここにちゃんともう一つのスペアが……」


 どうやら無駄に用意周到に横島は準備していたようである。
 ともかく、横島は笑いながら別の戸棚から覗きセットを取り出し、改めてその稼動をチェックしていると、その横島の肩をポンポンと叩く存在がいた。

 振り向いた横島の視界には、巨大なハンマーがうなりを上げて今まさに顔面に突き刺さらんとしていた。
 



 その日、青年の1回目絶叫が朝の空にひびきわたった。


 ×横島忠夫 VS 横島タマモ ○
   時間無制限一本勝負
 決まり手:1分25秒 100tハンマー リングアウト


 本日も麻帆良は平和である。




第8話 みっしょんいんぽっしぶる




「みなさーん、授業を始めますよー!」


 ネギは前回の修行から、何かを吹っ切ったかの様に自分を取り戻していた。
 ただ、胸に光る禍々しい聖印が少々、いや、かなり怪しかったが、それの由来を知るのは、昨夜ネギから神の教えを聞かされたアスナのみである。
 そのため、クラスの大多数は元気を取り戻したネギを見ながら嬉しそうな顔をしている。

 肝心の授業は、少々ネギのテンションが高めだったが、滞りなく終了し、只今の時刻は昼休み。
 その教室の一角でアスナとタマモが昼食をとりつつ談笑していた。


「ネギ先生、最近生彩がなかったけど。どうやら復活したようね、よかったわ」

「タマモちゃん……原因のアナタがそれ言うのはどうかと思うなー。それにアイツ、なんか聞いちゃいけない声を聞いたみたいだし、さらに精神力抵抗ボーナス+4がどうとか分けわかんないことも言ってるし……なんか見えないところで傷口が広がってるような気がするわよ」

「……い、意外と重症ね。ところで、例のお子様吸血鬼とはその後どうなったの?」

「へ、エヴァちゃん?」


 明日菜はきょとんとした表情でタマモを見る。


「この前、茶々丸に奇襲かけて失敗したんでしょ。エヴァの報復に何か対策してるの?」

「茶々丸さん? 奇襲?……あー!」


 アスナは本気で心当たりが無いのか、しばしの間首をかしげていたが、やがて頭を抱えて立ち上がった。


「ど、どうしたのよ。突然」

「わ、忘れてたわ……綺麗さっぱりと」

「忘れてたって、アスナ。若ボケには速すぎるわよ」

「だって、ただでさえでもタマモちゃんに追い詰められて所だったのに、トドメで5時間も横島さんに追いかけられ、ようやく開放されたらネギは泣き叫んで行方不明。帰ってきたと思ったら変なのに魅入られてるし……おとといのネギじゃないけど私だってお腹いっぱいよー!」


 アスナは冷静に突っ込みをいれるタマモを恨めしそうに見ながら叫ぶ。
 だが、当のタマモはアスナの非難も気にせず、黙々と弁当を片付けていく。
 そしてアスナが未だに現世に帰ってきていないことを確認すると、チャンスとばかりに絶叫してぜいぜいと息を吐いているアスナの弁当の中身に箸をむけた。


「だいたいなんで私が昨日ほとんど徹夜でどこぞの暗黒神の教えを聞かなくちゃならないのよ、だいたいそういうイケニエ役はエロガモなのに……ってあれ?」


 アスナがようやく現世に帰り、食事の続きをしようと弁当を見ると、さっきまで有ったはずの玉子焼きとから揚げが見事になくなっていた。
 そしてタマモは幸せそうな顔でもきゅもきゅと何かを咀嚼している。


「……タマモちゃん」

「モグモグ……コクン……ん、どうしたのアスナ?」


 タマモは口の中で咀嚼していた何かを飲み込み、凍りついたような表情をしているアスナを見る。


「ひょっとしてお弁当のから揚げと玉子焼き食べた?」

「ええ、美味しかったわよ。これはアスナが作ったの?」

「いや、これは木乃香が……ってなんで食べるのよ!」

「だってお腹いっぱいって言ってたじゃない」

「お腹いっぱいの意味が違うわよー!」


 アスナはよほど楽しみにしていたのか、涙を流さんばかりに机の上に突っ伏する。


「あはは、ゴメンね。代わりと言っちゃなんだけど私のオカズ食べる?」


 タマモはアスナの反応にさすがに罪悪感を感じたのか、自分の弁当箱をアスナに差し出した。
 ちなみにこの日の中身は例に漏れずお揚げづくしである。

 アスナはすこし恨めしげにタマモを見ていたが、諦めたようにため息をつくと、タマモの差し出したオカズに箸を向ける。
 そしてその中から厚切りお揚げの煮つけを取り、それを口の中に運んだ。


「あ……おいしい」

「でしょ、これは私の自信作よ」


 アスナは予想外に美味しいお揚げに驚愕の表情を浮かべ、それを咀嚼していく。
 
 タマモの作るお揚げ料理は、その本人のお揚げ好きもあいまって、ことその系統に関しては匠の領域に達していた。

 その後、二人は互いの料理に舌鼓を打ちながら仲良く昼食を終えるのだが、この時、少なくともアスナの思考からはネギとエヴァの問題は綺麗さっぱり消え去っていたという。
 まさにバカレッドの面目躍如とも言えよう。





 タマモが昼食を取っているころ、横島は今朝タマモによって完膚なきまでに破壊され、部屋中に散らばった覗きセットの部品をようやく回収し終えていた。
 横島の目の前にはまさにゴミとしか表現できないようなブツが鎮座しているが、横島はそれを前に哄笑を浮かべながら精神を集中している。


「タマモめ……まだまだ甘いわ! 俺には文珠という霊能を凌駕したびっくりアイテムがある、これの前には22世紀の青狸のもつ科学を無視した不思議道具すら生ぬるいわ!」


 横島は通報間違いなしといった感じの笑みを浮かべながら手に文珠を呼び出し、"復""元"と文字を入れて発動させようとした。


 カチッ!


 今まさに横島が文珠を発動させようとすると、横島の耳に何かのスイッチが入ったような音が聞こえてきた。


「へ……って霊力感知式トラップだとぉー!」


 横島が音に反応し、顔を上げると、そこには天井から吊り下げられたとげ付きハンマーが横島の顔面に向かってくるところだった。




 本日二度目の絶叫は、穏やかな昼の空に吸い込まれていった。


 ×横島忠夫 VS 横島タマモ ○
   時間無制限一本勝負
 決まり手:12秒 自動発動型こんぺいとう2号 失神10カウントKO








<まもなく午後8時です。生徒の皆さんは停電中の外出はできません、すみやかに部屋へ戻ってください。なお、最近女子寮近辺で不審な生物の目撃情報が相次いでいます、目撃者は速やかに情報を麻帆良報道部までよろしくお願いします>


 学園都市全域に響く放送の後、いよいよ停電が始まった。
 ネギの目に映る明かりはみるみるうちに消え、唯一の明かりは雲の間からさすわずかな月明かりのみとなった。


「ふう、もう停電が始まっちゃった。まいったなーエヴァンジェリンさんに渡さないといけないプリントが大量にあるのに」

「まあ、しょうがないですぜ。明日しやしょう」

「そうだね、カモ君」


 薄暗い町の中をネギはカモを引き連れ、帰宅の途につく途中であったが、その時、ネギの目の前に全裸の佐々木まき絵が現れた。


「ネギ・スプリングフィールド。エヴァンジェリン様がお呼びだ、大浴場まで来い」

「まき絵さん! 裸で出歩いちゃいけませんよー!」

「むほほほ」


 ネギは目を即座に閉じ、後ろを向くが、カモはしっかりとガン見していた。


「そう言うわけで伝言伝えたからねー、ネギ先生♪ それじゃまたあそぼーねー」


 まき絵はネギに伝言を伝えると、新体操のリボンを使って蜘蛛男のような動きで消えていく。
 残されたネギとカモは消えていったまき絵を呆然と見つめていたが、やがて二人は自然に顔を見合わせた。


「エヴァンジェリンさんが僕になんの用なんだろう?」

「さあ、ともかく行ってみようぜ、兄貴」

「うん……ただ、なんか大切なことを忘れてるような気がするんだけど……」

「兄貴もかい? おれっちもだ。なんかこう喉元まで出掛かってるんだけどなー」


 ネギたちは、いまだに自分がとてつもなく大切なことを忘れていることに気づいていなかった。





 同時刻、聖ウルスラ女子高 学生寮前にて。


「フハハハハハ! 甘い、甘いぞタマモ! 確かに機材を壊され、もはや復元不可能となった今、記録媒体に残すことは不可能だがこの俺の脳内フィルムまで消去はできまい!」


 横島は寮の前で喜悦に満ちた表情で笑っていた。
 目撃者がいたら間違いなく変質者として通報されるだろうが、停電のせいか、出歩くものが誰もいないためにそれを通報する勇者はいなかった。


「この大停電でセキュリティが作動しない今、まさに天があたえたもうた絶好の機会! このチャンスで覗きをやらなくて何が漢か! さあ、今こそ桃源郷へ!」


 横島は演説がひと段落したのか、女子寮の壁を這い回りだしたが、その手にはなんの装備もつけずにいる。
 それはまさにかつて新宿に出現した「壁ちょろ男」の再臨だった。


「クククク……それではいよいよお宝はいけ「そう簡単にことが運ぶと思ったの?」……ん?」


 横島が今まさに寮内に侵入しようとした時、横島の背後から聞き尾覚えのある声がした。
 横島は恐る恐る振り向くと、そこには刺のついた鐘つき棒のようなものをかまえたタマモが笑顔で横島を見つめていた。


「ヨ・コ・シ・マ……good night♪」



 本日三度目の絶叫は、静かな夜の空に吸い込まれていった。


 ×横島忠夫 VS 横島タマモ ○
   時間無制限一本勝負
 決まり手:5分58秒  こんぺいとう1号 出血多量につきレフェリーストップ TKO







 ネギはエヴァに呼び出された大浴場前に来ていた。
 だが、大浴場は停電のせいで暗闇につつまれ、星明りでかろうじて周囲が見渡せる程度だ。


「エヴァンジェリンさーんどこですかー?」

「ふふふ、ここだよ坊や」


 ネギがエヴァ探して声を張り上げた時、背後のほうからエヴァの声が聞こえてきた。
 声のした方向を見ると、見たことのない美女と茶々丸、大河内、明石、佐々木、和泉の6人が東屋の上に座っていた。


「パートナーはどうした? 一人で来るとは見上げた勇気だな」


 美女がネギに向かって声をかける。
 その声は妖艶で並みの男なら間違いなく虜にさせられていたろう。しかし、ネギはまだ10歳のお子様であるため、美女の色気には無反応だった。


「あ、あなたは……誰ですか!?」

「私だ私ー! 最強の悪の魔法使い……」

「最悪の魔法使い?」

「微妙な方向に略すんじゃない! 私は最強にして悪の魔法使い、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ!」」


 美女はネギの言葉にコケた後、自らの正体をネギにさらした。
 どうやら幻術で姿を大人にしていたようだ。

 一方、ネギはいきなり目の前の美女がエヴァに変身したせいで驚いていたが、やがて気を取り直したようにエヴァに話しかけた。


「ああ、エヴァンジェリンさんでしたか。あ、そうだ! エヴァンジェリンさんに渡すものあるんですよ」


 ネギはそう言うと持っていた鞄を漁り、その中から紙の束を取り出してエヴァの前に駆け寄った。


「……ぼーや、これはいいったいなんのまねだい?」

「エヴァンジェリンさんが休んでた間のプリントです。授業の要点をまとめておきましたからよく読んでくださいね」


 エヴァは手渡されたプリントをじっと見つめていたが、やがてそれをペシッと地面に叩きつける。


「ああ、何をするんですか! せっかく苦労して作ったのに」


 ネギは地面に投げ出されたプリントを手に取り、悲しそうな目でエヴァを見上げる。
 エヴァはネギの小動物のような視線に一瞬取り込まれそうになったが、すぐに気を取り直してネギに話しかけた。


「ちょっと聞くが、ぼーやは何をするためにここに来たんだ?」

「え? 何って、元々このプリントをエヴァンジェリンさんに届けようと思ってたら、エヴァンジェリンさんがここに呼び出したんじゃないですか。だからちょうどいいと思って今渡したんです。あ、そういえばエヴァンジェリンさんはなんの用なんです?」

「……ということは、そもそも呼び出される心当たりが何も無いと言うことか?」

「ええ、ありませんけど」


 ネギはエヴァの質問にそれはもうきっぱりと言い放った。
 エヴァはそれを聞くとしばらく呆然としていたが、やがてその金色の髪をうねらせながら、地獄の鬼も逃げ出すような声でネギを問い詰める。


「ぼーや……まさかとは思うが、先週の出来事を忘れたなどと言わんよな?」

「先週ってなにかありましたっけ?」


 エヴァとネギの周囲に、冬でもないのに寒風がヒューっと吹いた。
 それはまさにエヴァの心情が現実に出てきたのかもしれない。


「き、貴様……よもや先週私に襲われて死にかけたことを忘れたのかー!」

「へ、先週ですか? 先週はたしか……」


 ネギはエヴァに促されて先週の出来事を思い出そうとする。
 すると、ネギは見る見るうちに体が小刻みに震えだし、顔も生気を失っていく。


「そうだ、その表情が見たかったよ、ぼーや。さて……ようやく思い出したところであの時の続きといこうか、まだまだ夜は長い、せいぜい抵抗してこの私を楽しませるがいい……っていつまでそこで脅えている、いいかげん顔をあげろ」


 エヴァは震えながら何かをつぶやいているネギに近づいていき、耳を澄ませてみた。









「ハンマーはイヤ、ハンマーはイヤ……ああ、横島さんゴメンナサイもうしません、だから追いかけないで、切らないで……タマモさんゴメンナサイ、後でカモ君を差し出しますからどうか、どうかお怒りをお鎮めください……偉大なるファ○リスよ、我に精神力抵抗ボーナス+4をを与えたまえ、できればついでに横島兄妹から逃げ切れる敏捷度を……」


 ネギはエヴァと戦う前から壊れていた。


「……な、なにがあったんだ?」

「わかりません。ですが、この前神楽坂さんと一緒にタマモさんのお兄さんに追いかけられていましたからその関係かと……」


 エヴァは訳がわからず立ち尽し、事情を茶々丸に聞く。
 どうやらネギのセリフと茶々丸の説明で、横島兄妹になにか関わりがあるのだと当たりをつけると、大きなため息をついてネギの頬をペシペシと張って気づかせる。


「おい、坊や。しっかりしろ、目を覚ませ」

「あ、エヴァンジェリンさん……」


 ようやくネギが現世に復帰したのか、目に生気が宿ってくる。


「まったく手間をかけさせおって。ともかく、お前は先週私と戦って敗れ、もう少しで血を私に吸い尽くされかけたんだぞ」

「え、先週ですか?」


 ネギはエヴァに言われて先週の出来事を近い順に思い出す。
 そして最初に浮かんできた記憶は、横島に追いかけられ、カモの策略にはまりタマモをあやうく従者しかけ、挙句の果てにはトラウマの根源となった、あの血に染まっていく横島と、その実行者のタマモの姿であった。
 そしてネギの記憶は再びここでプツリと切れる。


「そうだ……ってまた順を追って思い出すな! ピンポイントで思い出せ! ほら、始業式の日だ!」


 エヴァは再び生気が無くなっていくネギを見て、あわてて声をかけて現世に戻す。
 何気に面倒見のいい吸血鬼である。


「始業式の日ですか、あの日はたしかタマモさんが転校してきて……ああ! エヴァンジェリンさんがのどかさんを襲っていたんだった!」


 ネギは始業式から記憶をトレースすることで、ようやくトラウマに触れることなくエヴァとのいさかいの原点を思い出した。


「よ、ようやく思い出したか」

「はい、すみませんでした」

「ええい、謝るな! そして捨てられた子犬のような目をして私を見るんじゃない! 調子が狂う!! ともかく、さっきも言ったが今日こそ坊やの血を存分に吸わせてもらうぞ」


 エヴァはようやく話が本筋に戻ったのにひそかに安堵しつつ、それを表に出さずに改めてネギに宣言する。


「そうはさせません! タマモさんの恐怖を体験した今、僕に怖いものなんかありません! というかあれ以上の恐怖はイヤー!……ともかく、今日は僕が勝って悪いことをやめてもらいます」


 まだ微妙に壊れているネギだったが、すぐに正気を取り戻して手にした杖を構える。


「そうか、怖いものがないか。では貴様に本当の恐怖というものを教育してやろう……やれ、我が下僕たちよ」


 エヴァの言葉に操られ、まき絵たちがネギに迫る。


「カモ君、アスナさんに応援を!」

「了解だぜ! 兄貴」


 カモはネギの言葉に従い、ネギの勝利を祈りながら即座に戦場から離脱する。

 エヴァはネギの肩から逃げ出していくカモを見ながら特にその妨害もせず、放置した。


「ほう、正直意外だな。ぼーやは誰にも頼ることなく自分で解決することを望む傾向にあると睨んだのだが」

「はい、本来ならアスナさんを危険なことに巻き込みたくは無いんです。けど、僕だって馬鹿じゃありません、まともにやってアナタに勝てるとは思いませんよ、だから勝つためには勝てる戦力をそろえなきゃいけないんです」

「くははは、確かにその通りだが……それはあの小動物の入れ知恵か?」

「ええ、そうです。けど、本来ならこの方法はむしろエヴァンジェリンさんと協力してタマモさんを抑えるために……」

「……わかった、どういう経緯でお前がその考えに至ったのかよーくわかったからそれ以上言うな」


 エヴァとネギ、両者は同時にとある人物のことを頭に浮かべ、大きくため息をついた後、気を取り直したように間合いを取り、対峙した。


「さあ、行きますよ! エヴァンジェリンさん!」

「いい度胸だ坊や、かかって来い!!」


 今、真祖の吸血鬼と偉大なる魔法使いを目指す少年の戦いが始まった。




 同時刻  聖ウルスラ女子高 学生寮前


 静かな夜空に携帯の音が鳴り響く。


「ほら横島、いつまで死んでるのよ。とっとと生き返って電話にでなさい」

「あだだだだ……最近ほんとうに突っ込みに容赦がなくなったなー」

「あのね、横島は私の兄ってことになってるのよ! ということはアンタが痴漢を働いて捕まれば、この私は痴漢の妹ってことになるのよ、そんなの絶対にイヤ! だからこれはアンタを痴漢にさせないための涙ぐましい努力と言って頂戴」

「まったく……だからと言って美神さん並みのつっこみ技術を取得せんでもいいだろうに」

「さっさと出る!」


 横島はようやく復活すると、ポケットから携帯を取り出し、それに出る。
 すると、どこかで聞いたことのある特徴的な笑い声が聞こえてきた。


<フォフォフォ、横島君、いまいいかの?>

「あ、学園長でしたか、なんでございませう」


 電話の向こうはバルタン星人ではなく、学園長だった。


「ええ……なんですと! あのお子様吸血鬼が動き出した! まだ満月じゃないのに?」

<そうじゃ、こちらも完全に虚をつかれたわい。しかもどうやら魔力封印の結界に気づいたらしく、今はかつての力を取り戻しておる>

「ということは、ネギは……」

<うむ、この状況を考えるともうすでに……>


 学園長は沈痛な声で横島に答える。


「学園長、香典は千円でいいですか?」

<安! 普通は三千円が相場じゃが……ってネギ先生はまだ生きておるわ!>

「チッ……」

<今、舌打ちが聞こえたような気がしたがのー>

「気のせいじゃないっすか? 別に将来ネギがイケメンになりそうで嫉妬しているわけじゃないっすよ」

<……まあ、深くは追求せんが、ともかく現在ネギ先生はエヴァと交戦中じゃ、よくやってるようじゃが、いかんせん基本能力が違いすぎる>


 学園長は横島の考えを正確に把握していたが、深く追求すると長くなるのでそれ以上は諦めたようだ。


<というわけで、横島君はネギ先生の救援に向かってくれ。ほかの者は結界の修繕で手が離せない>

「了解しましたっと、報酬は二割増しでお願いしますよ」

<むむむ……わかった。ともかく急いでくれ>


 横島は学園長との会話を終え、タマモを見る。


「さて、仕事の時間だ。ちょっと予定が狂ったがいくぞタマモ」

「おっけー♪」


 横島とタマモ、二人はお互いに目を合わせると、血なまぐさい戦場に向かうべく歩き出す。
 ただし、その方向は何故かネギ達のいる主戦場とはまったく逆方向であった。




 ネギは善戦していた。
 だが、真っ向勝負でまき絵たち4人を沈黙させるとこまではいったのだが、いかんせん茶々丸とエヴァの連携攻撃の前には手も足も出ず、ひたすら逃げに徹していた。


「ハハハ! 坊や、威勢のよかったのは最初だけかい!」


 エヴァは笑いながら魔法を発動させ、ネギを少しずつ追い詰めていく。


(すごい力だ、今の僕ではとてもかなわない。でも、あと少し、あと少しであの場所が、そしてそこで時間がかせげれば……)

「どうした、逃げるだけか。もっとも呪文を唱える隙など与えるつもりはないがな。くらえ『凍る大地』」


 ネギは大橋に到達したところで、ついにエヴァの魔法をまともにくらい、撃墜される。


「く、思ったよりもダメージは少ない。手加減されてるの?」


 ネギは橋の上で片膝をつき、エヴァを警戒する。


「ほう、今のは直撃したはずだが、レジストするとは思ったより耐魔能力が高いようだな」


 エヴァはネギが思ったほどダメージを受けていないのを見て、意外そうな顔をする。
 実際先ほどの魔法は足止めとはいえ、十分な力を込めたものだった。
 まともに喰らえば手足の一本は確実に凍るのだが、目の前で自分を睨みつけているネギにその気配は無い。
 それは、ネギの魔法抵抗力の高さが極めて高いことを意味していた。



「まだまだ終わりじゃありませんよ……」

「ふん、私の呪いを利用して、いざとなったら外に逃げる心算か、意外にせこい作戦じゃないか」


 エヴァはネギにトドメをさすべくゆっくりと近づく。


(あと少し……あと一歩)


 エヴァがネギに近づき、あと一歩でネギに手が届く距離まで来た時、突如その周囲に魔法陣が現れ、エヴァと茶々丸を拘束していく。


「な……これは捕縛結界!」

「やったー! タマモさんと横島さん対策で仕掛けていた罠が役に立ったー!」


 どうやら前回の逃走劇がよほど怖かったのだろうか、ネギは学園のそこかしこに同じような捕縛結界を仕掛けていた。


「これで僕の勝ちです。もうこれからは悪いことはやめてくださいね」

「やるなー坊や、感心したよ……だが、茶々丸!」


 茶々丸はエヴァの命令に従い、結界解除プログラムを作動させた。
 すると、見る間に結界が破壊され、エヴァたちを束縛するものはなくなった。


「な!!」

「さて、万策尽きたようだな。私の想像を超える善戦、見事だったぞ。まあ、神楽坂アスナが間に合わなかったようだが、これも一人で来た報いだ」


 エヴァはゆっくりとネギに顔を近づけ、血を吸おうとした。
 だが、神はまだネギを見放してはいなかった。


「こらー! 待ちなさーい!」


 エヴァがその声に反応して振り向くと、そこにはアスナが自分たちめがけて全力疾走していた。


「ふん、ようやく坊やのパートナーが来たか」


 エヴァはアスナの姿を確認し、狙いが自分にあると読んで注意をネギからそらす。
 だが、それはエヴァにとって痛恨のミスだった。


 ネギはエヴァに捕らえられながらも、未だに反撃の機会をうかがっていた。
 そして今、待ちに待った反撃の機会が来たのだ。


(チャンスだ、今こそアレを!)


 ネギはようやく見出した勝機にすべてをかけ、呪文を唱えた。










「万能なるファ○リス、我に力を。毒をもちて、この女の身体を麻痺させ……」





 ネギはいつの間にか暗黒魔法まで身につけたようだった。


「その魔法使っちゃダメー!」

「あぷろぱあー!!!!!」


 アスナはネギの魔法を察知すると、目標を急変更してネギに飛び蹴りをくらわせ、魔法の発動をギリギリで阻止した。
 そしてそのままネギを引っつかみ橋の影に隠れる。


「あ、あぶなかった。今のは本気でいろいろと危なかった……」

「ハッ、アスナさん。僕はいったい?」

「ようやく正気にもどったようね。ネギ、あの魔法は二度と使っちゃだめよ」

「え? 何故です?」

「いいから使うな! イロイロと世界の決まりがあるの!」


 アスナはネギを無理やり黙らせ、仮契約をするために話を進めるのだった。

 夜の戦場交響曲はまだまだフィナーレには遠い。








「さーてと、どうやら間に合ったみたいだな」


 ネギとアスナが仮契約を終えたころ、横島とタマモはようやく戦場に到達していた。
 そして今、アスナVS茶々丸、ネギVSエヴァのタッグマッチが開催されている。


「どんな感じだ?」

「んー……アスナは結構がんばってるわねー。ネギ先生のほうは、ちょっと苦しいかしら」

「そうか、とりあえずいつでも出られるよう準備しといてくれ。それとその袋貸してくれ」


 タマモは先ほどから持っていた袋を横島に手渡す。


「はい、けど横島。それが重要なものってよくわかったわねー」

「まあな、その辺は報告書で調べたしな……お、決着がついたかな?」




 橋の上での戦闘はネギとエヴァが強力な魔法の打ち合いとなっていたが、ネギの魔法がエヴァに打ち勝ち、エヴァが魔法の直撃を喰らう。
 だが、それでもエヴァは健在だった。
 ネギはすべての力を使い果たし、崩れ落ちる。


「さすがは奴の息子……期待以上だ、私をここまで追い詰めるとはな。だが、もう終わりのようだな」


 エヴァはゆっくりとネギに向かい歩き出す。
 明日菜はネギを助けようとするが、茶々丸に妨害されネギのところに向かうことすらできない。


「く、僕はここまでなの」

「さあ、今度こそ助けは来ない。あらためて血を吸わせてもらうぞ」


 エヴァはネギの首筋にゆっくりと顔を近づけ、その血を吸うべく口を開いた。
 だが、その時エヴァの首筋にいやな予感が走った。

 エヴァがその予感に従い、ネギから顔を離したその瞬間、突然ネギの頭に何か気の塊のようなものが突き刺さり、次いでそれが爆発する。


「何! これはいったい?」


 エヴァはすぐにその場から飛び退き、気の塊が飛んできた方を見ると、やがてその爆炎の向こうから二人の人影が姿を現した。


「ちょっと、アンタなんでネギ先生に攻撃しているのよ!」

「んなこと言ったって美少女に攻撃するわけにはいかんだろうが、それにちゃんと手加減しているし、結果としてネギからエヴァちゃんを引き剥がせたやないか」

「アンタね……」


 爆炎が晴れると、そこでは横島とタマモが口論をしていた。

 ちなみにそのころ、ネギは横島の足元で目を回しており、その脇で死神がネギの魂を手に取ってそれを天に送るべきか真剣に迷っていた。


「迷うなー!」


 アスナはネギに慌てて駆け寄ると、そのまま死神に飛び蹴りをくらわせてそれを撃退する。
 するとそれに連動したかのようにネギが目を覚ました。


「あ、アスナさん……今なんか黒い神様が僕に手を……」


 どうやら本当にギリギリだったらしい。
 


 一方、エヴァはあまりの展開にしばし呆然としていたが、ネギが目を覚ますと改めて横島達と対峙する。


「横島タマモ……貴様私の邪魔をするつもりか? この前言ったはずだぞ、私の邪魔をするつもりなら命はないと」

「あら、それなら私も言ったわよね、そう簡単にやられるつもりは無いって。それに相棒がかかわる以上、私はあなたと全力で敵対するわよ」

「どうやら本気で命がいらないようだな」

「甘く見ないでほしいわね、私はお子様吸血鬼にやられるほど落ちぶれちゃいないわよ」

「「フフフフフフフ……」」


 タマモとエヴァの不気味な笑い声があたりを震わす。
 この時、横島にはタマモとエヴァの背後に炎をまとった九本の尾を持つ巨大な狐と、タキシードを着たピートの姿を見た。







「なんで白面とブラドーを背負ってるんだ? つーかブラドーを背負ってるエヴァちゃんって、その時点で負けが確定のような……」


 横島の意味不明な言葉が空に吸い込まれるが、それに突っ込みをいれる豪の者はここにはいない。

 一方、タマモとエヴァの前哨戦はようやく終わりを迎えたようである。
 

「フフフフ、いい度胸だ、貴様ら二人まとめてミンチにしてくれる」


 エヴァはタマモとの不毛な会話を打ち切り、呪文を詠唱すべく二人から距離をとる。
 だが、タマモはそれを見ても余裕の表情を崩さず、背後にいる横島に声をかけた。


「あら、アナタなんか一人で十分よ。さあ、横島行きなさい、悪の魔法使いを倒すのよ!」

「コラまてタマモ! 人を召還獣みたいに使役するんじゃねー!」

「いいじゃない、時間は稼いだでしょ……後3分よ」


 どうやら今までの会話もなにかの時間稼ぎだったらしい。


「まあ、な……しかしタマモ、お前も美神さんに負けないくらい姑息な作戦を考え付くなー」

「姑息な作戦なのはアンタのほうでしょ、正直聞いた時は呆れたわよ、まあ有効なのは確かだけどさ」


 横島はタマモとボソボソと話すと、手に先ほどの袋を持ち、エヴァと対峙する。


「と、いうわけで。ウチのお姫さんと戦うには、まず俺を倒してからだそうだ」

「貴様一人でか? いい度胸だが、別れはすませたのか?」

「んー、別れはいらないだろう。つーか負ける気ねーし」

「本当にいい度胸だ、死んでいく貴様への手向けとして、せめて名前を覚えておいてやろう。名乗るがいい」

「横島よろず調査事務所 所長 横島忠夫! まあ、気楽にいこうぜ」

「横島忠夫か……では死ね!」


 死刑宣告の後、エヴァは呪文を唱え始め、同時に茶々丸も横島に突入する。


「そういうのは、俺の切り札を見てから言え!」


 横島はそう言うと、片手に持った袋におもむろに手を入れ、その中身をエヴァ達に良く見えるように引っ張り出した。



















「助ケロー、ゴ主人ー!」






 横島が袋から取り出したもの、それはエヴァンジェリンのもう一人の従者、殺人人形のチャチャゼロだった。


「「「「「「だー!!」」」」」」


 横島とタマモを除くすべてがコケた。
 これにより、今までのシリアスな雰囲気が一瞬で崩壊する。

 もはやこの瞬間、戦場の空気は悲劇から完全な喜劇へと移り変わっていた。


 ちなみに何故横島がチャチャゼロのことを知っていたのかというと、それは学園長にもらった報告書に書いてあったからでえある。
 横島はその報告書の内容を読んだ時、これは使えると考え、タマモを促してエヴァの家に行き、そのままチャチャゼロを文珠で封じ込め、今に至る。

 まさにステキに過激で極悪な悪党である。少なくとも決して正義の味方が行う手段ではない。




「ふははははははは! さあ、この不思議人形を返してほしければ大人しくするんだ。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル! 別名キテ○ちゃん!」

「その名前で呼ぶなー! それにそもそも人質をとるとはそれでも偉大な魔法使いに連なる者かー!」

「あーん? 聞こえんなー! それに俺はそもそも魔法使いじゃねーし」


 エヴァは横島と不毛な会話を続ける。だが、エヴァはこの会話こそが横島たちの思惑とは気づかずにいた。


「タ、タマモさん……これじゃあどっちかというと横島さんのほうが悪に見えるんですが」

「いくらなんでも卑怯なんじゃない? タマモちゃん」

「あら、戦いに卑怯なんて言葉はないわ、あるとしたらそれは負け犬の戯言よ。そして負けたほうは、卑怯という言葉も言えないただの骸になるだけよ」

「で、でも……」

「ネギ先生、戦うならその相手の強さ、そして自分の弱さ。相手に何ができなくて、自分に何ができるか見極めなさい。そして勝つための方法を考えるの、まして自分より遥かに強い相手には手段なんか選んでる余裕なんて有りはしない」


 タマモの言葉はネギとアスナの胸をえぐった。
 それはネギたちでは到底及ぶことのできないタマモの、そして横島の実戦経験から来る言葉だった。




 そのころ、横島たちはというと。


「はーっはっはっは! 鬼さんこちら、手のなるほうへ!」

「くっそー、茶々丸。さっさとその男を取り押さえろ!」

「動きが予測不可能で追撃できません」

「無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァー!!」

「ゴ主人、早ク助ケロー!!!」


 いまだに不毛な鬼ごっこをしていた。
 エヴァも完全に頭に血が上っているせいか、さらに横島の術中にはまっていく。


「ねえ、気のせいかな……横島さん、地面に両足ついたまま移動してない?」

「アスナさんもそう見えますか? おかしいな目の錯覚かな」

「アレは横島の対警察用逃走術の奥義で『ゴキブリ歩法』っていうやつよ。垂直の壁も自由自在だそうよ」

「どういう奥義なのよ……って対警察っていったい」

「奥義開眼の過程は聞かないでね、私も情けないから」


 横島の動きはまったくの予想不可能であり、まるで氷の上をすべるように自由自在に逃走していた。


「ドムだ、あの動きはドムですぜ兄貴!」

 くしくもその動きは、カモの言うとおりドムにそっくりだった。
 横島をしてかつてシロと雪乃丞に奥義を伝授し、黒い三連星ネタをやろうとして失敗したのはタマモの記憶に新しい。


 そして横島たちの不毛な戦いといえない戦いは続いていく。



「はーっはっはっは! あばよーとっつぁーん!」

「誰がとっつぁんだー! くらえ『氷爆』!!」


 戦場を舞台にしたコメディーに終わる気配は無かった。



「さて、そろそろね」

「そろそろ?」


 タマモのつぶやきにネギが質問する。


「そう、もうすぐ舞台は終わり、幕を閉じるわ。まあどう考えても喜劇の幕だけどね」

「どういうことなの?」

「エヴァは力を封印されている。けど今は全力状態。そして現在停電中……これで導き出される答えは?」

「ひょっとして停電したからエヴァンジェリンさんの封印が一時的に解けた……ということですか?」

「そう、正解。ということは停電が終われば」

「そうか! エヴァちゃんは元に戻るのね」

「そういうこと。さ、時間よ」


 タマモの言葉とともに、まるでタイミングを見計らったかのように学園の全電力が復活した。





「マスター! 時間が、電力が復活します!」

「なに! キャン!」


 学園の全電力が復活したことにより、エヴァの魔力は再び結界にとらわれ。
 空中にいたエヴァはその衝撃で湖へ落下する。


「ちょっとどうしたのよ!!」

「封印が復活した今、マスターはただの子供です。このままでは湖へ、そしてマスターはカナヅチです」


 アスナと茶々丸の会話を聞き、ネギは反射的にエヴァを追って橋から飛び降りた。
 だが、その距離は絶望的なまでに開いており、もはや間に合わないと思ったその時、ネギは急速に加速した。


「ネギー!」


 アスナの叫び声を背に、ネギはエヴァに向かって手を伸ばす。
 そしてあと少しで水面というところでネギはエヴァを抱きとめ、急上昇する。

 空中で静止したネギとエヴァは、復活した麻帆良学園の夜景を背景に互いに顔を見合わせる。
 

「なぜ助けた」


 エヴァは憮然としながらネギを問いただす。
 だが、その顔はほんの少し赤みを帯びていた。
 

「だってエヴァンジェリンさんは僕の生徒じゃないですか」

「バカが……」


 エヴァとネギは空に浮かんだ月に照らされゆっくりと舞い降りる。
 それはまるで姫を守る騎士のような光景であった。



「使う必要なかったかな?」


 横島は空に浮かぶ二人を見ながら、傍らにいるタマモだけに聞こえるように話しかける。


「まあ、いいんじゃない。助けにはなったみたいだし」


 タマモは横島と同じく空を見上げながら、隣にいる男の腕をそっと組むのだった。

 空に浮かぶネギのポケットには、いつの間にか入れたのか"加""速"と文字の入れられた文珠が発動していた。




 エヴァとネギの空中遊泳がひとしきり終わると、ネギは喜色満面の表情でエヴァに迫った。


「さーて、これでエヴァンジェリンさんに貸しひとつですよ。もう悪いことをやめて授業にも出てもらいますよー」

「わかったよ。確かに今日のこれはひとつ借りだな」


 エヴァもネギに助けられたのは事実なため、苦笑しながらもネギの言葉に従う。

 そして横島もまた嬉しそうにしているネギに声をかける。


「よかったな、ネギ。これで問題解決じゃないか」

「はい、これも横島さんとタマモさんが助けて……助けて……助けてくれたのかな?」


 ネギは横島にされた仕打ちを思い出しながら微妙な顔をするが、やがて何かを割り切ったのか、素直に礼を言う。

 ここで終われば舞台はまさに大団円なのだが、まだ喜劇の幕は下りてはいなかった。
 


「さてと、それじゃあネギ。今日は、いや昨日は大変だったからよく寝とけよ」

「はい、横島さんもお休みなさい」

「ああ、俺にはまだ後片付けがあるからまだ寝れないけどな」


 横島はそう言うと、ネギに背を向け、大橋を後にしようとする。
 だが、その横島の背中にタマモが声をかけた。


「へえー、後片付けって何をしにいくの?」

「いや、そこの独身女子寮にしかけた暗視カメラを回収に……ハッ!!!」


 横島は今朝、いや昨日の朝と同じように誰と話しているか思い出した。


 横島が恐る恐る振り返ると、そこには再び朝と同じように巨大なハンマーと数々のこんぺいとうがうなりを上げて顔面にせまるところだった。







「もはや問答無用、くらいなさい! 100tハンマー&こんぺいとうシリーズ乱れうちー!」

「ちょ、まった。それはさすがに死ねるー!」







 今回、最後の絶叫は、厳かな深夜の空に吸い込まれていった。
 そして横島のそばにいたため、完全に巻き込まれた死神は流れ弾をくらい、遥か彼方へと飛ばされていくのだった。



 △横島忠夫 VS 横島タマモ △
   時間無制限一本勝負
 決まり手:3分14秒  セコンド(アスナ達)の乱入により無効試合




第8話  end




 横島が血祭りに上げられているころ、それを見ないようにしていたエヴァにネギが話しかける。


「あ、安心してくださいエヴァンジェリンさん。呪いは僕がうんと修行して解いてあげますから」

「そんなもん貴様が解けるという保障があるかー!」

「大丈夫ですよ」


 ネギはさも自信ありげに胸を叩くと、神に祈るように両手を組み、詠うようにエヴァに語りかけた。


「ファラ○ス様にも『リムーブドカース』がありますから」




「「「「だからその神の魔法はダメー!!」」」」」

「えー、36分の1でどんな呪いでも確実に解除すんですよー」

「なんだその妙に具体的な確率はー!」


 エヴァの突込みが夜空に響くころ、その背後では横島が物言わぬ骸と化していた。









オマケ


 その日の夜、刹那は停電に際して寮の周りを重点的に警戒していたが、やがて停電が終わり、ほっと息をつく。
 大橋のほうで強大な魔力を感じたが、それも今ではおさまっているため、誰かが解決したのだろう。


 刹那はそう結論付けると、寮に戻ろうと踵を返すと、背後に人外の気配を感じた。
 その気配は濃密な死の気配を纏っており、それはものすごいスピードで自分に迫ってくる。

 刹那は額に汗を浮かべながら夕凪を握りなおし、背後を振り返った。
 すると、その気配のする方角に浮かんでいる月の真ん中に、小さな空に黒い点が浮かび上がり、やがてそれはだんだんと大きくなっていく。

 刹那はそれが自分に向かって落ちてくる何かだと気付くと、夕凪を抜き放ち、迎撃の態勢をとる。
 そしてその影はその間にもどんどん大きくなり、やがてそれは最近見知った者の姿をとるのだった。


「へ?」


 刹那の間の抜けた声が夜空に響き渡る。
 そしてそれから5秒とたたず、その影は刹那の脇を通り越し、地面に激突するのだった。


 刹那は夕凪を鞘に収めると、あわててその落下地点に駆け寄っていく。
 そしてそこで見たものは、目を完全に回している死神だった。


「あ、あの……死神さん?」


 死神はしばらく気絶していたが、刹那が声をかけるとむくりとその身を起こし、刹那と目を合わせる。
 そして死神は刹那と目を合わせると、目の幅の涙を流しながら刹那に抱きつき、刹那を見上げるのだった。

 抱きつかれた刹那は、何がなんだかわからないでいたが、とにかく死神を落ちつくのを待つ。
 そしてしばらくの後、ようやく死神が落ち着くと何があったのかを問いただすのだった。


「あの、死神さん。いったい何があったのですか? もしかして横島さんやタマモさんの身に何かあったのですか?」


 刹那が死神に質問すると、死神は首を横に振る。
 そして死神はどこからとも無くプラカードを取り出し、刹那に何があったのかをとうとうと説明していくのだった。

 ちなみにそのプラカードの脇には何故か『久保田 千寿』と書かれた一升瓶が置かれている。


 その夜、刹那は一晩中死神の愚痴につき合わされ、翌日二日酔いの頭痛を友にして登校するのだった。
 さすがの刹那も一升瓶3本はきつかったのだろう。






 解説

 ここでは一部わかりにくいネタの解説を行っています。

 ファラ○ス神

 某剣の世界において光の5大神と神々の大戦争を繰り広げた暗黒神。
 教義としては「決断は自身によってのみなされ、その責任や結果は自身に還る。ゆえに法や道徳等の慣習に盲従してはならない。何よりも精神の自由こそが尊い」と説き、信者達に「汝の為したい様為すべし」との神託を与える。また「闇の中でこそ完全な自由が得られる」とも説き、それゆえ暗黒神と呼ばれるようになった。更に「自由であるからこそ理性も必要だ」とも説く。
 それらの教義から必ずしも邪悪な神・破壊神の類ではないが、低レベルの信者には「法や道徳に従ってはならない」と短絡的に捉え悪に走る者が後を絶たない。また教義を人間が都合良く歪曲する事も多く、「それは人間そのものが邪悪であるからだ」とはファ○リスの最高司祭の言である。
 フォーセリアウィキペディアより。


 「万能なるファ○リス、我に力を。毒をもちて、この女の身体を麻痺させ……」

 これは相手をマヒさせるパラライズの魔法を唱えようとしている。
 ファ○リスを始めとする暗黒神官と呼ばれる者は、3LVになるとこの魔法を使えるようになる。
 これにより、ネギは少なくと3LVに到達している。


「我に精神力抵抗ボーナス+4をを与えたまえ」

 某剣の世界には、エルフと対極にあるダークエルフと呼ばれる種族が存在している。
 その種族は古の昔、神々の大戦の折、ファラリス神に協力することの代償とそして極めて強力な魔法レジスト能力を持つに至っている。
 それを数値に表した場合、精神力抵抗ボーナス+4という謎の数値になるのだが、ネギはこれが授かるように日々祈っているらしい。それだけ命の危機に瀕しているとえるだけに涙を誘う話である。



「リムーブドカース」

 これは対象にかけられた呪いを解く呪文である。
 極めて高LVの呪文であり、作中のようにネギはまだ使えない。
 はたして彼がそれを使えるようになる日は来るのだろうか。



「36分の1でどんな呪いでも確実に解除すんですよー」

 これも某剣の世界特有の世界法則である。
 原因は不明だが、その世界ではどんなに未熟なものでも、36回に1回の確率でその魔法抵抗を抜くことが出来るらしい。
 また、同時に36分の1の確率でどんな達人でも素人相手に失敗することもあるらしい。
 まさに確率に支配された謎の世界である。


 
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